やがて2人きりになった私達は、しばらくの間、言葉を探し続けていた。けれど、良い台詞は見つからないまま、梨華は私に背を向けてしまった。彼女のピンと伸ばした繊細な背中に、私は手を触れようとしたのだけれども、華奢な肩の張り詰めた脆さに、伸ばしかけた手が行き場を失った。


「まさか信じてるなんて事ないよね。」
仕事を終え部屋に戻るなり、私は梨華に言った。ひどく動揺する内心を彼女に悟られないために、わざと傲慢な声を出した。
梨華は仕事中、ずっと私を避けていた。他の従業員の手前、私とも一応は言葉を交わす。それなりに笑顔もつくってはいる。けれど、決定的に違う。決して視線を合わせないのだ。
「あんなの、嘘に決まってるよ。」
用心深い私はもう一度、念を押すように繰り返した。そうであって欲しい。それは同時に、ともすればくじけてしまいそうな、自分への鼓舞でもあった。


沈痛なおももちで梨華はソファに腰掛け、口を開こうとしない。苛立った私はつかつかと歩み寄り、彼女へと詰め寄ったが、横に私が座った瞬間、まるで梨華は怯えてでもいるかのように、立ち上がって、窓辺へ逃げてしまった。


何も言わずに避けるだけ。そんな梨華に腹立たしさを覚えた。私はただ、賛同の言葉が欲しいだけ。本当でも嘘でも今さら関係ないわ、とか、そんなふうな言葉が欲しいだけなのに。


「まやかしだよ!なんで逃げんのッ!?」
激昂した私は立ち上がって、梨華の後を追った。
「嘘に決まってる!証拠なんてないじゃん!あんなもの信じてるの?どうかしてるよ!」
支離滅裂なのはわかっていた。けれど、止まらなかった。部屋の隅に梨華を追い詰め、早口でまくし立てた。依然梨華は視線を反らし続ける。苛立ちが焦燥に変わり、不安のあまり私は彼女の肩をつかんだ。
「ねえ‥っ!!りかっち!!」
少し目眩がした。頭に血が昇ったからだ。力まかせに梨華を、ガクガクと揺さぶった。望む返答が得られない。涙が出そうだ。
「いいかげん見なよ!私の目!!」


なかば祈るようにして心から叫んだ私を、彼女はようやく視界に入れてくれた。


苦悩の混じった自虐的な笑みを、薄く浮かべる梨華。永遠にも感じられたほんの一瞬を私は呼吸さえ忘れて待った。


「私‥、もう。何がなんだか‥。少し、時間をちょうだい。」
絶望的。すがりつく私に、まるで同情でもするような、梨華の弱い瞳。少なくとも私にはそう見えた。曖昧に頭を振ったのち、一言ずつ梨華は呟く。
「もしかしたら、ひとみちゃんは‥、たったひとりの、妹かも知れないんだもん‥。
どうしたらいいのか‥、わかんないよ。‥私ね、一人っ子じゃない?‥兄弟ってずっと、憧れていたの。」
息が苦しくなった。姉妹だとしたら、私達の関係は、これからどうなる‥?
今までみたいに梨華は、私を見てくれるんだろうか?それとも恋人では、なくなってしまうの?


「やだよ!そんなの‥ッ!!」
脇にあったベッドに私は梨華を力ずくで抱きすくめ、そのまま押し倒した。
「ちょ‥っ、やめ‥て!」
「ねえ、エッチしよう今ならあたし出来る。しようよ」
一方的に言って、梨華の服を無理矢理たくし上げた。梨華は激しく抵抗した。
「イ‥ヤッ‥!時間が欲しい‥て、言ってるでしょ‥!‥ッ離して!」
梨華は渾身の力を込めて私を押し退けようとしたが、その突っ張った腕を、更に私が、強いちからで押さえ付けた。


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