気がつくと私は、薄明るい無の中にいた。黄を帯びた灰色。なまぬるい空気だけがXにもYにも、永遠に、ひたすら伸びてゆく空間。否、空間という表現すら正しいのかどうか、それさえも解らない。
俄に不安が襲った。一生懸命に目を凝らしたが2人の姿はおろか、他のいかなる物体が、何も像も結ばない。
「ここ‥、なに‥?」
そもそも目を開けているのか、それ自体定かではなかった。怖い。
「りかっち!保田さーん!」
夢中で叫んだ。それが声となって果たして発せられているのか。そういう判断なども同様につかなかった。
(うっさいわね。いるわよ!!)
私の予想に反し、案外近いところから保田さんの声が聞こえた。耳の裏側、声よりはむしろ、意志というべきなのか。
「キャッ、保田さあん!」
(うるさいっつってんの!響くのよアンタの声。叫んじゃって小心ね!)
やっぱり意志が、直接届くみたいだ。気がつけば私の体も消えている。が、かすかな感覚は残っていた。外界とのボーダーは、とても曖昧だったけれど。
「あれ?りかっちは?」
保田さんの声が聞こえて急に安堵した私は、さっさと平静を取り戻し、梨華の所在を尋ねた。
(さあ。そこら辺にいるわよ)
保田さんはこともなげに答える。するといつもの声が聞こえ、手を繋ぐイメージが私の中枢を駆け巡った。
「ひとみちゃん。ここ‥。」
「あ、コレ、りかっちの手‥?」
「うん‥、たぶん。」
突然上がる保田さんの嬌声。
(ええ!アンタ達、こんなトコで手なんて繋げんの!?だって何も見えないでしょ!?)
「でも、手を伸ばしたら、ソコにありました‥。」
ぽつりと答える梨華。
(スゴイわよ!よっぽど深い繋がりがあるのね!)
そんなやりとりを聞いて、得意になる気持ちを私は抑えきれない。
やっぱり私たちって素敵ね。
愛しあっているのだから、当然と考えた。
「で?ここ、なんなんですか?」
(知らない!!)
梨華と手を繋いで、気が大きくなった私。あろうことか保田さんは、きっぱり言い放った。
このアマ‥!そう思ったけれど、やはり落ち着かなければいけない。それでも語気には隠し難い険が、強く現れてしまった。
「知らないって!困りますよ!こんなトコに連れて来てッ!」
(あー、知らないってゆうかー。ここがなんなのか、ワタシにもわかんないのよ。けど何回も来たことあるよ?)
「どういう事ですか?」
憤慨する私に変わり、今度は梨華が尋ねる。
(なんかー、私。過去に行けんの!人も連れて来れるし!だからアンタ達にも見せてやろうと思っただけよ!文句ある!!)
ハァ?過去?およそ信じられない話だった。からかうにも程があると思った。
「有り得ませんよそんな事ッ!早く元に戻して下さい!どんなトリック使ってんだッ!」
(信じる信じないはアンタ達の自由だわ。)
飄々然な態度をあくまでも崩さない保田さん。とうとう、私の怒髪は天をついた。
「このやろう!!」
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