「はー。食べたわ。ごちそうさま。」
ひとしきり笑ったのちに先に食事を終えた保田さんは、コーヒーを飲んで息をついた。
私達は本当にお腹が空いていたから、保田さんよりも多く食べ、その分時間も長くかかった。
「なんだかアンタたちよく食べるわね。微笑ましいわよ!」
しばらくの間、ニッと笑いながら私達を眺めていた保田さんだったが、やがて大きく息を吸い込み、両手を上げて身体を伸ばす。
「あー、売れた売れた!」
ミルクに手を伸ばしながら私は保田さんを見た。ほおばったパンのせいで、口は開くことができない。
「初めて売れたの。言ったわよね?あー。気分イーいなー。」


頷いたりしている私の横で、梨華が微笑んだ。
「保田さんにはいろいろして頂いて‥。本当に、ありがとうございました。」
「何言ってるのよ!アンタ達のおかげよ!さしずめ、今日は記念日ってトコねッ!
ありがとう!感謝しているわよッ!」
保田さんの言葉に、左右に首を揃って振った私達。そんな様子を見た保田さんは目をカっと見開いて笑った。その後、ひと呼吸置いたのち、妙に真摯な瞳になる。
「いいモノ‥、見せてあげようか。アンタ達いいコだから。」
その頃になってようやく食べ終えた私は聞いた。
「え?いいモノって?‥なんですか?」
食後、肺から持ち上がる空気をなんとか抑えつつ保田さんに注目する。
「それは、おたのしみ。でも、なかなかスゴいわよコレ。2人には特別にやってあげる!」
「なに?」
不思議そうに呟いた梨華。私達は思わず互いに顔を見合った。


構わずに立ち上がった保田さんはテーブルを回って、私達の正面に立った。そんな彼女をただ見守るばかりの私達。背中をかがめた保田さんは意味ありげな顔をして、私達を覗き込んだ。突然の挙動。とまどう私と梨華。


保田さんは言った。
「深く腰掛けて。‥そう、楽に。」
やけに静かな口調によって私達は逆に気圧され、言葉をついのみ込んで、保田さんに従った。そんな様子を確認した保田さんは、続いて、私達の手をとる。右に梨華の手、左には私の手をそれぞれ握った。事態がつかめないうちに急変した、その厳かですらある空気に、私達は息を詰めた。


「コレを見て。」
顔の下に右の手を持っていくと、保田さんは人さし指を立て、アゴのホクロを指差した。梨華の手は、握られたままだ。
「え‥、ホクロ‥?」
「そうよ。」
吐息にも似た私の言葉に答え、上げていた右手を保田さんは戻す。
一体ナニ‥?からかってるんだろうか。
「集中して。良く見なさい。」
私の動揺を見透かしたように保田さんが言った。静謐さを増す口調。抗いがたい雰囲気をひしひしと感じ、言われた通りにホクロを見つめる。動悸が速まって行くのがはっきりとわかった。突然、保田さんが叫ぶ。
「深呼吸して!逝くわよ!」
「あっ!」
梨華が小さく息をのんだ。


ホクロが‥!動いた‥、今!?


瞬間、波にさらわれる感覚と共に、周囲の景色が暗闇へ変わった。


Part18へ