「今日な学校でさぁ、ほらお前の担任の宮澤先生。保健室の柏木先生に告白して振られたって、クラスで噂でな。それで、みんなでイタズラしたんだ。」
本当は、そんな話は無いのだけど、兄は妹の笑顔が見たくて毎日他愛も無い話しをして聞かせた。
誰が聞いてもウソだと判る話で、しかも落ちもなにもない。妹も知っていながら調子を合わせて笑っていた。
二人の母は昔アイドルになりたくて、オーディションを受けまくったらしい。
よく母は妹に中森明菜や松田聖子など80年代アイドルのDVDを見せ、そしてCDを聞かせた。
いつの間にか喘息の身でありながら、アイドルになるのが当たり前のような気がしてきたようで、元気な時は、学校に行くより中森明菜の真似をして一日踊っていたりしたようだ。
そんな双子の兄妹を襲った悲劇は、小学3年生の夏休みに入ったばかりのことだった。
久し振りに一日中兄妹はゲームを楽しんだ後、母親が帰宅し夕食の支度をする間、いつものように夕日を見て過ごそうと妹が誘った。
「お兄ちゃん、今日も行こう」
妹は、一日中話し相手がいて気が張っている所為か、いつもより元気で明るかった。
「気を付けて行くのよ。咳が出始めたら、直ぐに帰ってきなさい。分かったの達也!」
「分かってるよ。母さん」
勢いよく玄関を飛び出した妹は、体力が無いのに小走りで公園への街道に続く道を走り始めていた。
「みなみ、ダメだよそんなに走っちゃ。咳が出たら家に直ぐに帰るんだよ。ゆっくり行こうよ」
兄も、いつにも増して元気な妹の姿に心が躍っていた。
後ろも振り返らず、母の声に手をふりながら、妹と同じように勢いよく玄関を飛び出した。
しかし、それが母が見た兄達也の最後だった。