親父はまだ元気でしたがその当時「酒有連」という全国の酒屋が参加して贈答品の全国配送システムや、のちには共同卸しや共同発送も行うようになったいわば販売促進のための連盟を立ち上げ、その仕事に手をとられはじめたこともあって私に「みの源」を任せる気になったのでしょう。
「わかりました、お父さんから受け継いだ商売の道、しっかり守って頑張ってみます」
生粋の船場商人の父から跡継ぎとして信頼されたうれしさで胸がいっぱいでした。
「みの源五代目」が誕生したわけです。
若さもあったんでしょう「よっしゃ、せっかく五代目継いだからには親父の敷いたレール伸ばして広げたろやないか」と闘志が湧きました。
まず目標を立てました。それはそれまでの年商五千万円の年商を二倍の一億円に引き上げることでした。それにはどうするか。既存のお得意さんを守ることは勿論ですが新規の顧客の獲得です。
それまでは親父があまり好まなかったこともあって付き合いの少なかった飲食店、居酒屋、ミナミやキタのクラブ、バー、スナックなどへも積極的に売り込みを始めました。
この業界が一番お酒を必要とするお客やというのは誰が考えても分かることです。
その代り「水商売」といわれるくらいですから浮き沈みも激しく、移り気で、顧客として長い取引の出来る保証も薄く、おまけにいわゆる「掛けだおれ」の危険性も少なくありません。
今までの固いお得意様とは違う接し方をせんといかんわけです。
「価格割引などのサービスならどこでもやることや。価格以外の徹底的なサービスと信用を酒と一緒に買うて貰おう。親父に教えられてきた「心を買うて貰う」というやつや」と考えました。
ただ、サービスというてもいろんな形があります。
具体的にはどうするか。例えば、
一、年中無休の営業で、注文の多少を問わず夜間でも配達をする。
一、取引以外でのお手伝い。
特に飲食店では「お店の買い物」「店の引越し、時には自宅の引越しの手伝い」「開店移転
の挨拶文やチラシの作成」「厨房やカウンター内の冷蔵庫内の整理清掃、水の交換」「お客
さんの紹介」「同業界の色んな情報の提供」などです。
一、お得意様への営業はきちんとした服装で、正しい挨拶と言葉使いで接する
といったことです。
例えばクラブやスナックなどでは、店の鍵を預かって夕刻の開店までに足りない分を補充し冷蔵庫を整理、おつまみやつきだしなどを揃えておくんです。これはどこの店からもよろこばれました。
昼間に泥棒に店内を荒らされているのをいち早く発見して警察に届けた、なんてこともありました。
ずいぶん後のことになりますがあの阪神大震災の日なども、朝自分の店の安全を確認したあとはすぐに従業員を手分けして得意先各店の点検に走らせ、すぐに「今お店の様子みさせてもらいました。これこれの被害で済んでましたんで整理と補充させてもらいました」という連絡をオーナー宅に入れたりしてあとでずいぶん感謝のご挨拶を頂いたもんでした。
新装開店のお店には、酒類を取り揃えるのは勿論のこと、案内状の作成からお客さんの送り込みまでお手伝いをするんです。
そのために費やす労力や手間賃人件費などを考えたら酒の値段を割引したほうが得かもしれませんが「みの源さんとこから買うていれば楽やし便利やわ」と思ってもらえたほうが長い目で見れば店の利益につながると信じていました。