10/9  修正追加

 

【はじめに】

本項では、「まえがき」の第四章「 文法用語 (Grammatical Terms)」の第七節「G. 数詞語と基場所語基、あるいは数詞と処格詞」から第四章最後迄を、辞書の編集者である ミルナー博士( G. B. Milner ) が語るスタイルで、ご紹介いたします。

以下の議論において、本文への補足説明としての「脚注」と「注意」は著者によるもの、「注釈」は素人カメラマンが参考のために書き加えたものです。

 

第十一節「K. 語幹末子音を伴う接尾辞」において接尾辞の分類が行われていますが、接尾辞のクラス自体は特定できても、その意味については、それを考える人の主観が強く反映されます。本書においても、 1966年当時のミルナー博士の考えで分類が行われており、その後のサモア語研究の進展と共に、別の考え方が取られるようになることもあります。そこで、サモア語文法書 [2] での議論を節「注釈:   接尾辞について」に簡単にまとめます。

 

 

 

 

【 IV. 文法用語(grammatical terms)】

 

    注釈:   一つの発話は「区分(segment)」に分解され, それらの区分に対して, 一

       つ以上の語基を含むもの, アルファ類もしくは デルタ類の小辞であるも

       の, そして, 句 (phrase) を加えて「語(word)」という一つの区分の集合

       を定めて来ました. そして, この中の部分集合, 指示代名詞や人称代名詞

       等の様な幾つかについて述べました. 部分集合には更に, 数詞語基 (nu-

       meral base) と場所語基(位置語基, 処格語基: locative base), あるいは

       数詞と場所名詞と呼ばれるものがあります.
 


G. 数詞語基と場所語基、あるいは数詞と処格詞


数詞語基、以下、数詞、は特徴的な構文的なパターンに従います。その一つの構文として、数詞は類別小辞 (classifying particles)、 あるいは計数小辞 (counting particle) と呼ばれる「afī, ‘au, fua, lau, mata」などの小辞の (あるものは) 前に現れたり、(別のものは) 後に置かれます。別の構文としては、以下の様に、それは数詞小辞 (numeral particle)「e」に続き、数える対象を表す語基の前や後に置かれます。

  e lua tama,      two boys
  ‘o tama e lua,     the two boys
 


場所名詞は「i」や「‘i」といった特定の名詞的小辞の後に現れ、その前に冠詞が置かれることは決してありません。結合形名詞的代名詞が場所名詞の前に置かれる場合、それらの代名詞は冠詞が省略された形、つまり、他の文脈では複数形にのみ見られるような形で現れます。例えば、以下のようにです。(下線が場所名詞.)

  i ona luma,      before him,   in front of him
  i lona ulu,      on his head 

場所名詞は、以下のように、全体の一部を表したり、

  i tua,         behind

  i luga,       on, over, up

以下のように、一般的な方位を表します。

  i sasa‘e,       in the east
  i sisifo,      in the west
  i tai,       on the sea side
  i uta,         on the mountain side



H. 完了相、「受動態」、および反復相
 

前世紀半ばから、ガンマ類に属するある種の接尾辞には能動態(active voice)を受動態(passive voice)へと変える働きがあると一般に見なされて来ました。
 

このような考え方は、しかし、解釈上の数々の困難を生じました。特に、「能動態」の様に結合形動詞的代名詞が語基の前にあって、そして、いわゆる「受動態」の接尾辞が付加されているような場合にです。例えば、

 ‘Ua mana‘o le tinā ‘i lana tama,    (mana‘o - want, tinā - mother) 

この文は「能動態」と見なされ、「the mother wants her child, 母親は子供を欲してる」と訳されて来ました。対して、 接尾辞「-ia」が動詞に付加された文

 Na mana‘omia le tama e lona tinā.

この文は「受動態」と見なされ、「the child was wanted by its mother, 子供はその母親に求められた」と訳されて来ました。

 

    注釈:   「la(o)na」はクラス A (O) の三人称単数の結合形名詞的代名詞.

 

    注釈:   タヒチ語であれば, 「te  (動詞 A)-hia   (名詞 B)  e  (名詞 C)」で

       「 B が C に A された」という受動態の文になります. しかし, サモア語

       には受動態という明確な形式が無いようなのです.

 

これらの二つの文で、「主語」が三人称単数の結合形動詞的代名詞「ia」に置き換えられたとしましょう。そうすると、一つ目の文では「le tinā」が「ia」に置き換えられて


 ‘Ua ia mana‘o ‘i lana tama


となります。これは典型的な「能動態」の文であり、訳は「she wants her child」となります。対して、二つ目の文では「lona tinā」が「ia」に置き換えられて


 Na ia mana‘omia le tama


となります。しかし、こちらは「受動態」であるとは容易には示せません。

 

    注釈:   この文を強引に訳せば「彼女が、子供が求められるようにした」

       という文になるのでしょうか. 

 

プラット(G. Pratt)は彼の文法解釈において、こうした場合における「動詞」は形式受動態動詞、 つまり、形式は受動態だが意味は能動態であるとして、この困難を克服しようと試みました。


    注釈:   ラテン語では受動態の形だが能動態である動詞を形式受動態動詞

       (deponent)とよびます.

チャーチウォード(S. Churchward)は、他方、彼の「サモア語文法」(初版1926年、第2版1951年) の中でその見解を退け、それらの形式は「受動態 (passive)」形ではなく「他動態 (transitive)」であるとしました。

 

    注釈:   「サモア語文法」(初版では「新サモア語文法」) において チャーチ

       ウォード は サモア語が 能格言語 (ergative  language) であることを指

       摘し, 「e lona tinā」の「e」は他動詞(transitive verb)における主語の

       標識, つまり, 能格標識 (ergative marker) であるとしました. これが現

       在は一般に受け入れられているようです. 前項において引用した歌

       「Mo‘omo‘oga o lo‘u agaga」では主体を表す名詞的小辞「‘o」が代わ

       りに使われていました。語感の問題でしょう。

 

    注釈:   「ロウ セイ オリアナ」の歌に以下の一節があります.

 

          taufao  e  teine ma tama

 

       ここで,  (taufao ~ fight for), (teine ma tama ~ girls and boys)です. 意

 

<Taufao   e   teine ma tama 取り合う男と女>

2025年 6月 23日 サンライトカーニバル 「ロウ セイ オリアナ」より

 

       味は「女の子達と男の子達が取り合う」ですが、「e」が無くなると

       「女の子達と男の子達を捉える」とも, どちらの意味でも取れます. な

       お, 「teine ma tama」に冠詞がありませんから複数形です. 

 

    注釈:   以下, 著者の関心は態 (voice) から離れ, 語基と相 (aspect) の関係に向い

       ていきます. 

 

筆者は、この文脈、つまり、ガンマ類の接尾辞の存在による能動と受動の区別は、大体において無意味だと考えます。何故ならサモア語の構造とは相容れないものであるからです。次のように、この ガンマ類の接尾辞「-ia」が示すものは、態(voice)ではなく、相(aspect)における違いであると思われます。

   (i)   一般に、それらの接尾辞のいずれかが付加された語基は、現在・過去・未来の

   いずれであれ、全体として見た物事の過程や動作を表します。つまり、全てが

   揃っているもの、 あるいは完了したものが想定されるのです。

  (ii)   これらの接尾辞の機能は関係的(relative)なものであり、より具体的には、前方

   照応的(anaphoric)です。


完了相(perfective) という用語で、語基にこの働きをする接尾辞が付加された時の機能を指します。

 

    注釈:   完了相は「Na mana‘omia le tama e lona tinā」の様に能格標識「e」

       と組み合わせて用いられるのが サモア語の特徴であるとされます. 

       この文では「母親は子供を欲しがっていた」となるでしょうか.
 

その他に、二つほど用語を導入します。


反復相(frequentative) という用語は、語基に畳語を施した時に生ずる機能の一つで、ある動作が何度も繰り返されること、動作が継続していること、或いは動作が少しずつ行われることを表します。

 

    注釈:   「‘emo (光る)」に対し「‘emo‘emo (点滅する)」, 「nofo (座る)」に対

       し「nofonofo (じっと待つ)」等です. 

相互的(reciprocal)という用語は、同じく語基の相の一つを指し、互いに動作を行い合うという状況を指します。その標識は接頭辞「fe-」および接尾辞「-a‘i」です。異形態としては、接尾辞の代わりに「a‘i」が小辞として語基に続く形もあります。

 

    注釈:   「tautala (話す)」に対して,「fetautala a‘i (話し合う)」のようになり

       ます. 




I. 間投詞 (interjection)

間投詞は常にピークと一致するため、小辞が前に置かれることはなく、後に置かれることも稀であることで特徴づけられる語基として分類されます。

 


J. 句 (phrase)

 

句 (phrase) という用語は、節の特性の一部を持つ、区分の並びのために残されてきました。それは、ピークを含み、文法的な位置に独立して現れ得る形態の組み合わせから構成されています。
 

    注釈:   原文ではもう少し細かい記述ですが, 理解しにくいので意訳しました. 

 

    注釈:   句とは, 文を構成する文法上のまとまりを指します. サモア語では, 文の

       構成要素は動詞を中心としたまとまり,  動詞句 (verbal phrase) と名詞

       を中心としたまとまり, 名詞句 (nominal phrase) に大きく分かれます. 

       英語の例で言えば, 「I presently have three books」は二つの名詞句

       「I」と「three books」, そして一つの動詞句「presently have」から

       成ると言えます.  次に日本語文「彼等は例によって大騒ぎしています」

       を英語にすると, 「they are making a huge fuss, as usual」となります

       が, これは名詞句「they」と「a huge fuss」, 動詞句「are making」, 

       副詞句「as usual」に分かれます. この「as usual」が「例によって」

       或いは「何時ものように」に対応する英語の決まり文句, 或いは定型句

       になります.  サモア語の場合, この様な定型句は一つの単語のように扱

       われます. この節で議論している「句」とは, この定型句を指している

       と考えると良いと思います. 

 

句は、節とは以下の二点で異なります。

 

   (i)   決められた内部構造を持つ。つまり、それを構成する形態は通常は拘束的で入

   れ替えが出来ない。

 

  (ii)   小辞の様に、語彙的な働きよりはむしろ文法的な働きを持つ。

例えば、「‘āfai (if)」は「‘ā」と「fai」という二つの要素から成っており、これらは別々に現れ得ます。しかし、この動詞的小辞「‘ā」を他の動詞的小辞、例えば「na」や「sā」などと置き換えては意味をなしません。

 

    注釈:   「‘ā」は 未来を見つめた「when」を表す「‘a」の強調形で, 「fai」は

       行動「do」を表します. [1] 例えば次のような文を考えてみましょう.

 

         ‘A  fai e te sau taeao,  (e ~ you), (sau ~ come), (taeao ~ tomorrow)

 

       「e」は前語基タイプの二人称単数の結合形動詞的代名詞「‘e」と同じ

       です. 「te」以下を不定詞と考えるなら,「貴方が明日来るということを

       する時」つまり「貴方が明日来るなら」と解釈できます. この「‘a fai

        (する時)」が定型句となり「‘āfai 」とかかれるようになれば

 

         ‘Āfai e te sau taeao, 「貴方が明日来るなら」

 

       という使い方 [1] になります. ここで考える句はこのようにして成立し

       てきた定型句ですから, 性質 (i), (ii) は当然です. 



句には次のようなものがあります。

 

  前語基句 (prebasic phrase): 語基の前に置かれ前語基小辞に似た機能を持つ

 

   ‘āfai   if                             [gph]

   fa‘apea   apparently, thus, like this(that), likewise            [gph]

   fa‘ita     I  tought                         [gph]


  後語基句(post basic phrase): 語基の後に置かれ形容詞的, 副詞的な機能を持つ

 

   anafea    when ? (referring to the past)                  [gph]

   ‘ātaeano tomorrow morning, in the morning (with ref. to the future)  [gph]

 

  語基の様に小辞を伴わずに独立して用いられる句


   ‘ānei      it is likely, it is about , may, probabily           [vph]

   ta‘ilo     I donot know, who knows?                  [gph] 

   ‘ailoga     I donot know, who knows?                  [gph]


  名詞的小辞を伴って語基の様に用いられる句 (但し,「‘o」以降が句)


   ‘o neionapō  these(those) times                    [        ]

   ‘o āfea      when ? (refers to the future)               [gph]

   ‘o fa‘apēfea   how ?                         [gph]

 

    注釈:   nph(nominal phrase), vph(verbal phrase), gph(general phrase) の分

       類は辞書に従いました. 最後の例示では, 「‘o」に続く句の類別です.

 

    注釈:   「neionapō」は本辞書 [1] の項目にはなく, 「‘o nei onapō」の形で

       名詞「onapō」の文例に挙げられています. 

 


本書では、句を暫定的に以下のように分類します。


  名詞的句 (nph, nominal phrase)        名詞的小辞を伴う

  動詞的句 (vph, verbal phrase)         動詞的小辞を伴う

  一般的句 (gph, general phrase)     名詞小辞と動詞小辞の双方を伴う



K. 語幹末子音 (thematic consonants) を伴う接尾辞

 

接尾辞が動詞の語幹 (stem) に付く時に語幹と接尾辞の間に現れる特定の子音を語幹末子音(thematic consonant) と言います。四つの接尾形態素(suffixial morpheme) が、語基の語幹末子音に応じて規則的な異形態(allomorph) の変異を示すという特徴を共有しています。

 

  クラス I      完了相接尾辞 (perfective suffix)「-ia」の異形態


   { -ia, -fia, -gia, -lia, -mia} 

  クラス II     相互相接尾辞 (reciprocal suffix)「-a‘i」の異形態

   { -a‘i, -fa‘i, -ga‘i, -la‘i, -ma‘i }

  クラスIII        名詞化接尾辞 (nominal suffix)「-aga」の異形態


   { -aga, -faga, -laga, -maga }

  クラスIV     複数化の接尾辞 (suffix for plurality)「-i」の異形態

 

   { -i,  -fi,  -gi,  -li,  -mi }

 

    注釈:   複数化とは, 複数形の主語に合わせた動詞にすることです.

 

    注釈:   グーグル AI と議論したところでは, 本来, 「-i」には動作を個別のもの

       から社会的なもの (複数) に広げる役割があったが, 現在の サモア語の

       中ではほぼ埋没してしまっているらしいです. 残った例としては

 

          「nofo と nōfoi」, 「tapu と tapui」, 「solo と sōloi」

 

       などが上げられます. 従って、現代の サモア語文法では クラス IV が

       複数化の形態素の接尾辞とは考えられて居ない様です. 複数化として

       は接頭辞「fe-」があり, それと接尾辞「-i」が組み合わされる例があ

       ります. [2]  なお, 接尾辞が付くと最初の母音が長母音化することがあ

       ります. 

例を幾つか挙げましょう。


            I      II       III                   IV
  tū    (stand)  tūlia,    tūla‘i,    tūlaga,  

  inu  (drink)  inumia,        inumaga, 

  oso (jump)     osofia,     osofa‘i,         feosofi,

 

この様な特性については歴史言語学によって説明が可能です


    注釈:   上の例について調べてみると以下のようになります. 

 

       「tū (stand, 立つ)」
         tūlia,      guarded  [完了: 人が既に立っている]
         tūla‘i,     stand up  [相互: 足の上に立つ]
         tūlaga,     position    [名詞: 立っている所 ]

       「inu (drink, 飲む)」 
         inumia,    be drunk     [完了: 飲まれている]
         inumaga,    draught   [名詞: 飲むこと(に関係するもの)]

       「oso (jump, 飛び上がる)」
         osofia,      break into  [完了: 入り込む]
         osofa‘i,     attack   [相互: 攻撃する]
         feosofi,     jump     [複数: 飛び上がる]

 

 

 

 

 

【注釈:   接尾辞について [2] 】

 

本辞書 [1] が出版されてから、接尾辞についての見方も変わってきています。特に、サモア語の能格言語 (ergative language)としての構造については文法書 [2] で多くが議論されており、Milner が本辞書 [1] の「まえがき」において完了相接尾辞であるとしたものは、能格化接尾辞 (ergativising verbal suffix) として議論されています。そのようなことを踏まえ、ミルナー博士があげた接尾辞に関して文法書 [2] で議論されていることを簡単にまとめてみます。

 

 

「名詞化接尾辞 (nominalising suffix)」

 

動詞の名詞化の接尾辞には「-aga」と「-ga」があります。

 

 接尾辞「-aga」

 

    この接尾辞は本書で述べられていて、語基の語幹末子音に応じてクラス III の

    異形態を生じます。文法書 [2] より幾つかの例を出します。

 

    alo,  fish for bonito (カツオ)  ⇒ alofaga,  bonito fishing trip

    alofa,  love        ⇒ alofa‘aga,  compassion (憐れみ)

    fusu,  box (殴る)        ⇒ fusu‘aga,  boxing match

    tau,  anchor (停泊する)     ⇒ taulaga,  harbour

    māfua,   originate from    ⇒ māfua‘aga,  origin

 

 接尾辞「-ga」

 

    この接尾辞によって語基の最初の母音の長母音化が起きるものと起きないも

    のとがあります。また、借入語に使われた例はありません。

 

    a‘e, climb          ⇒ a‘ega, rise

                 ⇒ ā‘ega, people returning at the same time

    amo, carry        ⇒ amoga, carrying

                 ⇒ āmoga, person(s) carrying loads on yokes

    a‘o, learn           ⇒ a‘oga, education

                 ⇒ ā‘oga, school

    pena, cut up        ⇒ penaga, cutting up

                 ⇒ pēnaga, cutting up

    savali, walk          ⇒ savaliga, walk

                 ⇒ sāvaliga, people on march

    sapo, catch           ⇒ sapoga, catch

    eva, stroll           ⇒ ēvaga, walking or sitting about for fun

 

 

「能格化接尾辞 (ergativising verbal suffix)」

 

ミルナー博士が完了相接尾辞とした接尾辞「-ia」は、その能格化の面が重視されて能格化接尾辞と呼ばれます。現在は、この接尾辞には、更に、「-a」, 「-ina」, 「-na」等が含まれます。サモア語の動詞は、能格性を意識して使わなければならない能格性の動詞ばかりではありません。能格性の無い動詞が、能格性のある動詞に変換されて使用される以下の例は文法書 [2] からです。

 

  Sā alofa    Malac  iā  Vili,   Malac loved Vili

  Sā alofagia  Vili  e  Malac,   Malac cared for Vili

 

逆に、初めから能格性を持つ動詞もあります。能格性のある動詞には能格化接尾辞は不要ですが、敢えて付加した場合には、特別なニュアンス、どちらかと言えば否定的なニュアンスが生じます。このようにしてできた動詞を長形 (long form)動詞 と言います。その場合、元となった、能格性のある動詞を短形 (short form) 動詞と言います。肯定的な文では、可能なら、必ず短形動詞を用います。以下は文法書 [2] からの例です。

 

  Sā  fasi  le tama e le teine,     the girl hit the boy,      (short form)

  Sā lē fasia   le tama e le teine,     the girl did not hit the boy,    (long form)

 

 

 接尾辞「-ia」

 

    この接尾辞はミルナー博士の辞書 [1] で述べられているもので、以下の異形態

    を持ちます。

 

      { -ia, -fia, -gia, -lia, -mia, -sia, -tia, -‘ia}

 

    幾つかの例をあげます。

 

    au,  flow on, reach       ⇒ aulia,  reach

    fuli,  turn over, roll over   ⇒ fulisia,  turn over

    masalo,  suspect, think    ⇒ masalomia,  suspect

    ulu,  go into, enter       ⇒ ulufia,  enter

 

    この接尾辞で能格性のある動詞になっているものは、更に、「-ina」を付加

    することで長形動詞になります。

 

    ‘Ou  otegiaina  loa  le  tama,   I then scolded the boy

 

    ここで、(‘ou ~ I ), (ote ~ scold), (loa ~ immediately), (tama ~ boy) です。

    「‘Ou」は結合型動詞的代名詞ですから、能格性の影響は受けません。それな

    らば、能格化はしなくても良さそうですが、長形動詞の否定的なニュアンス

    が必要だったのでしょう。

 

    なお、「-ia」接尾辞は「nofo (sit) → nonofo (複数)」や「saofa‘i (sit up) → 

    saofafa‘i (複数)」の様な部分的畳語(partial reduplication)には用いません。

 

 

 接尾辞「-a」及び「-ina」

 

    この二つの接尾辞はよく用いられてきていて、大体において同じ意味を表し

    ます。以下の例はサモア語聖書からです。但し (‘aua ~ do not), (tau ~ tell),

     (se isi ~ anyone else), (nei ~ now)

 

    ‘Aua le tauina i se isi,       Should not tell anyone else.

    ‘Ou te taua nei ‘outou ia Sope, Now I am going to  tell Sope about you.

 

    少し説明しますと、「le tauina」は「tauina すること」という名詞節で、

    「‘aua」が「してはいけない」と否定しています。二番目の文では、「‘ou」

    が結合型動詞的代名詞の「私」で、「‘outou」は分離型動詞的代名詞「あな

    た達」であると考えられます。

 

    幾つかの例をあげます。

 

    asa, make one's way across ⇒ asaina,  make one's way across

                 ⇒ asā,  make one's way across

    ‘ave,  take, carry       ⇒ ‘aveina, take carry

                 ⇒ ‘avea,  take carry

    fafagu,  arouse       ⇒ fafaguina,  arouse

                 ⇒ fāgua, arouse

 

    ただし、二つの接尾辞が常に同じ意味の動詞を作るとは限らず、意味合いに

    違いが出る場合もあります。

 

 

 接尾辞「-na」

 

    この接尾辞はあまり多くは見られません。「-ina」から派生したようにも見

    え、その現れ方はかなり不規則だそうです。用例等は省略します。

 

 

 

「その他の接尾辞」

 

 接尾辞「-a」 装飾/供給動詞(ornative verb)を作る

 

    装飾動詞、或いは供給動詞とは「与える、備えつける、供給する」という意

    味を持つ動詞のことで、この英語名は飾り付けるというラテン語から派生し

    ていると言われています。英語の例で言えば、名詞「salt (塩) 」から派生し

    て、「salt」そのままで塩をかけるという装飾動詞になります。サモア語で

    は接尾辞を用います。

 

    aso,  stop work for the day    ⇒  āsoa, lengthy

    ‘ele‘ele,  dirt, soil       ⇒ ‘ele‘elea,  dirty, unclean

    fale,  house          ⇒ falea,  provided with ahouse

    ilo,  maggot         ⇒ iloa,  maggoty

    loi,  ant           ⇒ lōia,  overrun with ants

    namu,  mosquitos      ⇒ namua,  full of mosquitos

    pefu,  covered with dust    ⇒ pefua,  dusty

    ti‘āpolo,  devil (Grk. or Fr) ⇒ ti‘āpoloa,  full of the devil

    tio,  name of snail, mollusc  ⇒ tioa,  full of tio shell-fish

    tupe,  money          ⇒ tupea,  provided with money

    vai,  water         ⇒ vaia,  watery

    vao,  bush, forest, weeds    ⇒ vaoa,  overgrown with weeds

 

 

 接尾辞「-i」

 

    ミルナー博士が複数化の接尾辞としてあげたものです。歴史的にはその様な

    役割があったのかも知れませんが、現在では、元の動詞の意味を特殊化して

    限定的にする接尾辞と考えられています。文法書 [2] では以下のような例が

    あげられています。

 

    vao,  bush, forest, weeds    ⇒ vaoa,  overgrown with 

    ‘o‘ono,  strain, bear down  ⇒ ‘onosi,  strain (as a woman in labour)

    sua,  lever up, uproot    ⇒ suati,  dig-up (violently or suddenly)

    sulu,  wrap around     ⇒ sului,  cheroot, dry banana-leaf

 

    その他、様々な例です。

 

    aga,  face, head for     ⇒ agai,  in attendance on

    ‘ave,  give, hand, send     ⇒ be a bearer of news

    gau,  break           ⇒ gaui,  break (能格性の動詞)

 

    接頭辞「fe-」と組み合わされて、複数形の動詞や相互的な動詞を作ります。

 

    aga,  face, head for     ⇒ feagai,  be opposite, be faced with

 

 

 接尾辞「-a‘i」

 

    この接尾辞は元の動詞の一つの面を協調したり、繰返しの要素を加えたりし

    ます。

 

    a‘o,  learn, teach      ⇒ a‘oa‘i,  reprove, admonish

    lafo,  throw, cast       ⇒ lāfoa‘i,  throw away

    usi,  lend someone  an ear    ⇒ usita‘i,  obey

 

    この接尾辞は接頭辞「fe-」と組み合わせた例がよく見られます。

 

    alu,  go           ⇒ fealua‘i,  hurry

    ilo,  be aware of        ⇒ feiloa‘i,  meet

    ō,  go (複数形)         ⇒ feōa‘i,  go around

 

この文法書 [2] には、著者らが調査した発話例から抜き出した、接尾辞に対する語幹末子音のかなり徹底的な一覧があります。

 

 

 

 

【「Lo‘u sei Oriana」の歌詞を見てみましょう】

 

サモア語の歌では、前回、「Mo'omo'oga o lo'u Agaga」の一番の歌詞を見てみました。素人カメラマンが歌詞を考えるようになってからのサモアの歌と言えば、他に、「Nonu Paoa」と「Lo‘u sei Oriana」です。もう一つ、サモアの部で「Haoloto (free)」が歌われたことがありますが、サモア語なら 「saoloto」です。その歌詞を見るに、どうも トケラウ語らしくて手こずりそうです。そこで、以前、部分的に歌詞を引用したのですが、再び「Lo‘u sei Oriana」を見てみましょう。歌詞の一番です。

 

   Lo‘u Sei Oriana

       by  Jerome Grey

 

  Lo‘u sei Oriana
  Se‘i e tautala maia
  E te nofo mai mauga
  Ma e fa‘amāliuliu ai

  Taufao e teine ma tama
  E tau ai o lātou sei
  Sāvalivali i le māsina
  Ma pepese i le Oriana

 

まず、スローテンポ バージョンです。

 

PETA SI'ULEPA (right) and Fa'anānā JEROME GREY (left)

 

Live performance at the Sāmoa Independence Celebrations in Auckland in 2000

 

Jerome Grey はこの曲の作者ですが、音源の サムネイルの主役となっているのは アオテアロア (ニュージーランド) と サモアを中心に活躍してきた、経済開発アドバイザーであり、イベント プロデューサ兼歌手の Peta Si‘ulepa です。米領を含むサモアの音楽とアートの祭典である「Samoana Jazz & Arts Festival」の創設者でもあります。彼女が歌っている シーンは ネット上でも少なく、 Jerome Grey と一緒のこの サムネイル自体が大変に貴重なもののようです。この音源の (ここでは再生しない) 一番目の「Sa ou mata'iina oe」が彼女の曲、もしくは彼女の歌唱で知られるようになった曲で、二番目と三番目は Jerome Grey の曲です。サモア独立を祝う式典での演奏ですので、サモアの古典とも言える歌が歌われています。ちなみに、戦後、大きな経済的なチャンスを求めて サモアから多くの人々が移ってきたために、アオテアロアの首都である オークランドには サモア社会が出来ています。アオテアロアの第一言語は英語ですが、政府が積極的に ポリネシア語の保護と継承を行っているために、マオリ語、サモア語、トケラウ語等の語学の学校も整備されていると聞きます。

 

本題に戻ります。「Lo‘u Sei Oriana」の一番の歌詞を通常の文章として書いてみると次のようになるでしょうか。

 

 Lo‘u sei Oriana, se‘i e tautala maia, e te nofo mai mauga, ma e fa‘amāliuliu ai.
 Taufao e teine ma tama e tau ai o lātou sei. 
 Sāvalivali i le māsina ma pepese i le Oriana.

 

一行目から見ましょう。四つの節から成ります。

 

 Lo‘u sei Oriana, se‘i e tautala maia, e te nofo mai mauga, ma e fa‘amāliuliu ai. 

 

先ず決めなければならないのは、「e」が何か、或いは「‘e,  ē,  ‘ē」のいずれかなのかです。辞書を見る限りには、「 ‘ē」ではなさそうですが、「‘e」が「e」と書かれるのは良くあることです。ここで、三番目の節「e te nofo 」に注目すれば、動詞「nofo (居る)」の前では、「te」が時制(tense)・相(aspect)・法(mood) の動詞的小辞であり、「e」は結合形動詞的代名詞「‘e (あなた)」でしょう。最後の節は「ma (そして)」で始まっていますから、三番目と同じ構造をしていて、「te」が省略されていると考えられます。

 

 Lo‘u sei Oriana, se‘i ‘e tautala maia, ‘e te nofo mai mauga, ma ‘e te fa‘amāliuliu ai.

 

そうすると、始めの節は オリアナへの呼びかけで、その後の「‘e (あなた)」は全て「オリアナ」を指していると考えられます。「Se‘i」はお願いを表す動詞的小辞です。既にお願いする相手には最初に呼びかけていますから、「se‘i」だけでも良いのですが、文法書 [2] によれば、「se‘i」の後に相手を書くと丁寧なお願いになるとされています。続く「te」は現在・未来の時制の内で未来を表すとすれば最初の「se‘i」と合わせて、お願いのニュアンスがあると思われます。そして、後述の様に「fa‘amāliuliu」は「変えて行く」だとすれば、意味は次のようになると考えられます。

 

 私の飾り花 オリアナ、

 是非 (maia)、お話し (tautala) しましょう、

 この地 (mauga) にお住み (nofo) 下さい、

 そして、ここ (ai) を変えて行って下さい。

 

「Mauga」は通常は山ですが、教会を「mauga o le Atua」と言うように、ここから始まる特別な場所を意識した「この地」だと思われます。さて、「 fa‘amāliuliu 」ですが、これは以下の様に、全畳語(full reduplication)の施された語基に、二重に接頭辞が付加されたものと考えることが出来ます。

 

   fa‘amāliuliu  =  fa‘a(他動詞化)-   mā-   liuliu(全畳語) 

 

全畳語 (full reduplication) [2] とは「liuliu」=「liu-liu」の様な全繰り返しのことです。この語について考える際に参考になりそうな、よく似た構成として、「fa‘amāepaepa」があります。この語に関連した、次の二つの事実があります。

 

  fa‘amāepa  (厳かに座る)    =   fa‘a-   mā-   epa(座る),    文法書 [2] より

  fa‘amāepaepa      =   fa‘amāep  の畳語で反復相,  辞書 [1] より

 

これ以上の詳しい説明はないのですが、「epaepa」をもって「epa」の全畳語と考えるなら、文法書 [2] に述べる全畳語の機能の一つとしての反復相(frequentative) が適用できます。それが辞書 [1] に書かれていることでしょう。語の意味を考えれば、反復相の中から、「fa‘amāepaepa  」の意味は「厳かに座り続ける」と考えられます。同じ様に考えれば、「fa‘amāliuliu 」は「変え続けていく」というような意味になると思われます。ちなみに、「fa‘amāepa」が他動詞ではないのに「fa‘a-」が付いているのは、ただ座る(epa)だけではなく、厳かに座るように自分の肉体に強いるからでしょう。

 

二行目は、以下のような構造を持ちます。「Ai (それによって)」と「o lātou sei (彼等の飾り花)」を前提として、

 

 (動詞) Taufao (主語) e teine ma tama (不定詞) e tau ai  (目的) o lātou sei

 taufao する  teine と tama が    得るため  それで  彼等の花を

 

ここで、「o lātou sei 」は名詞的小辞「o」に対して次の構造を作っています。

 

   o 「二人以上の分離形代名詞 (lātou)」 「O型の語基 (sei)」

 

辞書 [1] によれば、この時、小辞「o」は「彼等(lātou)の花飾り(sei)」(O型の所有)を導きます。これより、以下のような意味になります。

 

  女の子と男の子が取り合う、

  それから彼等の飾り花を得るために

 

最後の行は難しく無いように思われます。

 

 Sāvalivali  i le māsina  ma  pepese   i le Oriana

 そぞろ歩く 月光の下 そして 歌う(複数) オリアナに

 

「I le Oriana」として、飾り花を付けてという状況もありえるうかと思いますが「i le māsina 」に合わせれば、「オリアナに向かい」或いは「オリアナの下で」が妥当かと思います。以上より、以下のような日本語歌詞になると考えました。

 

  Lo‘u  sei  Oriana         私の  花  オリアナ
  Se‘i  e  tautala  maia       どうぞ お話  しましょう
  E  te  nofo  mai  mauga     ここに  来て  住みましょう
  Ma  e  fa‘amāliuliu  ai     そして  花園に しましょう ここを
  Taufao  e  teine  ma  tama       取り合う 男と女

  E  tau  ai  o  lātou  sei      目指す  皆の花飾り
  Sāvalivali  i  le  māsina      そぞろ歩く 月  明かりを
  Ma  pepese  i  le  Oriana    そして  歌う オリアナに

 

 

次は、アップテンポ バージョンです。この様な バージョンがあるということが、この歌が サモアで広く歌われていることの証でもあります。

Lo‘u sei Oriana

サンライト カーニバル, 2025.6.23, より

 

歌詞の行ごとにご覧ください。

 

「Lo‘u Sei Oriana」 by  Jerome Grey

 

<Lo‘u sei Oriana 私の花オリアナ>

 

<Se‘i e tautala maia どうぞ お話しましょう>

 

<E te nofo mai mauga ここに来て 住みましょう>

 

<Ma e fa‘amāliuliu ai そして 花園にしましょう ここを>

 

<Taufao e teine ma tama 取り合う 男と女>

 

<E tau ai o lātou sei 目指す 皆の花飾り>

 

<Sāvalivali i le māsina そぞろ歩く 月明かりを>

 

<Ma pepese i le Oriana そして歌う オリアナに>

 

<Lo‘u sei Oriana 私の花オリアナ>

 

如何でしたか、ウアケアさんの サモアの踊りは軽妙で粋です。それと、この方は日本人形の頭(かしら)のようなお顔をお持ちなので、下を向かれた時、上を向かれた時とで表情がお変わりになります。

 

この アップテンポ バージョン二行目、アカペラで歌った時 は「se‘i  e  sasala  mai」としていました。耳で聞く限りでは「s」音と「t」音の区別が難しかったのです。しかし、ハワイアンズでの歌唱を聞く内に最後の語が「maia」らしく思えてきましたし、ハンドモーションも「香り」らしくないので、「se‘i  e  tautala  maia」に戻しました。

 

 

 

 

【おわりに】

 

本項では、G.B. ミルナー博士の辞書 [1] の「まえがき」の第四章「 文法用語 (Grammatical Terms)」の最後までをご紹介し、やや古くなっている接尾辞の部分に文法書 [2] からの補足を行いました。この後の 5章と 6章は辞書の体裁についての説明ですので省略し、サモア語の特徴について触れている 7章をご紹介する予定です。

 

 

 

 

 

[1] G.B. Milner,  Samoan Dictionary, Samoan-English, Eglish-Samon. Government
  of Samoa, 1966.

[2] Ulrike Mosel and Even Hovdhaugen, Samoan Reference Grammar. 

  Scanndinavian University Press, 1992.

[3] S. Churchward, A Samoan Grammar (2nd ed.). Melbourne, 1951.