【はじめに】
《 6/8 労働契約について、よく知っている友人と話をしたところ、大きな思い違いが三点有ると指摘されました。
1芸能プロダクション(芸プロ)が関与する場合は、タレントが芸プロの社員となり、海外のショウへ派遣される形態が普通。(6/9 付録参照。)
2上記の形で海外のショウへ派遣される場合には、タレントが海外のショウと契約をし直すのは不可能。(6/9 付録参照。)
3海外のショウの契約が満了した時点で、芸プロから離れることには、全く問題はない。
以下、加筆修正させて頂きます。》
考え始めると止まらないという生来のやまいが出たので、一つのお話を書きました。
【はじまり】
隠居のHTですが、ある相談を知り合いから受けました。彼は、普段から、職業カメラマンと言っているのですが、下手くそなので、素人と呼びます。
素人:ある ショウの タレントさんが素材として素敵なので今までかよって来たのですが、最近、その ショウを主催している会社を辞めることになり、その後、どうも海外の ショウに行く様なのです。それは、カメラマンとしても嬉しいのですが、以前は、ショウの後の記念撮影の時に少し言葉を交わせたのに、最近は、奥にしまい込まれたみたいで、お目にかかる機会もあまりないのです。何か、微妙なことでもあるのでしょうか。
HT:それは、単に、あなたが危ないから、 ・・・ 色々と有ること無いこと書いて、怒られたのでしょう?・・・ 避けられているのでしょうけど、契約というのは、どうやら、面倒なものらしいですね。
素人:どんな風にですか?
HT:海外の ショウとの契約だと、契約書の枚数は多いし、契約の条項も多く、その条項も大体が法律用語で書かれているとあって、英会話ができるといったレベルでは、とても対応できません。そうね、私が旧職で書いていた学術論文みたいのものです。大体、あなた、日本の法律の文書が読めないと言っていたでしょう?
素人:そうなんですよ。一度、仕事で関係ある部分の法律を調べようと思って、読んでみたら、あれは何であんなに難しいんですか?
HT:法律の条項というものは、幾つかの物事の間の関係を、どんな条件のもとではどうなるかを定めるものですから、私らが論文で使う関係式を言葉にしたようなものなのです。言い換えれば、「論理」に基づいて複数の物事の間の「関係」を述べた「論理式」なのですよ。
素人:「論理」ですか。「A なら B です」位なら分かりますが、もっと複雑なものが入ると、普段の会話の流れと違うから、慣れなくて、頭が停まっちゃいます。
HT:だから、海外のショウと タレントが契約する場合には、色んなパターンがある様なのです。基本的なところを、挙げてみますね。
1 直接の契約
『海外のショウ』 ⇒(交渉)⇐ 『タレント』
2 弁護士もしくは法務部をエージェント(代理人)とする
『海外のショウ』 ⇒(交渉)⇐ 『弁護士』 ⇐(委任)⇐ 『タレント』
『海外のショウ』 ⇒(交渉)⇐ 『法務部』 ⇐(委任)⇐ 『タレント』
3 芸能プロダクション(芸プロ)をエージェントとする
『海外のショウ』 ⇒(交渉)⇐ 『芸プロ』 ⇒(契約)⇐ 『タレント』
《6/8 エージェント、代理人、としましたが、芸プロが関わる場合には、タレントが芸プロと契約を行って、芸プロの社員となり、海外のショウへ派遣される形態になるのが普通なので、タレントには『派遣労働法』が適用されるのだそうです。》
まず、1 の直接の契約が、最も単純で、後々の問題も起きにくい方法です。しかし、契約経験の少ない タレントには大きな負担がかかります。もっとも、慣れてくれば問題はないと思いますがね。次の、2 の弁護士を代理人とする方法が、欧米ではよくあるやり方だと思います。とくに、タレントの権利を守ってもらうために継続的に契約している弁護士であれば、問題は少ないでしょうね。タレントさんは、現在は、会社に所属しているという話だから、会社の法務部に助けてもらうということも考えられます。最後の、3 の芸プロを代理人とする方法が、弁護士とは馴染みの少ない日本で最も一般的だと思います。ただ、色々と考えなければならないこともあります。
素人:弁護士や法務部に依頼して契約するのと、芸プロを使って契約するのとで、何が違うのですか?
HT:法務部に依頼できるなら、会社の業務としてやってもらえるので、安く済みますが、法務部は会社のために存在しているので、タレントの利益を優先してくれるかという点はケースバイケースでしょう、そして、会社を辞めた後までサポートしてくれるかという点では期待できないでしょうね。それに対して、弁護士の役割は、依頼者の利益を守ることなのですから、海外のショウとの交渉において、弁護士は契約金や待遇は勿論ですが、将来に渡って タレントの利益が損なわれないように考えるでしょう。そのために タレントは弁護士に支払いをするので、割高感はあります。ただ、将来に渡る利益が守られるという点では、保険のようなもので、一概に高いとは言えないかな思いますね。
素人:社会保険料高いですよ。
HT:あれはね、税金なのです。実際、この前、区役所に行ったら、壁に「社会保険料は税金です」と貼ってありましたしね。ご存じない? オット、横道に逸れました。それでですね、芸プロを使う場合、まず、芸プロと契約しなければならないのですが、ここが結構問題なのですよ。
素人:どうしてです? 契約の代行をしてくれるのだから同じでしょう?
HT:違うのですよ。芸プロは タレントさんたちの芸能活動をサポートし、その芸能活動から得られる報酬の一定割合を取って会社の利益としたり、芸能関連のプロジェクトを受け、それを成功させることによる報酬を利益としたり、社会の社交的な部分での業務に携わることにより利益を得たりするのですから、一般には、契約代行の手数料のみではなく、そのタレントさんの将来の芸能活動を芸プロに取り込むことにより、芸プロとして利益をあげることを考えているのです。そのため、その海外のショウの契約が終了した後の活動に対しても取り決めをして、タレントを契約によって拘束するのです。
《6/8 上記の点ですが、『派遣労働法』によれば、タレントは何時でも芸プロとの契約を止めることができるので、海外ショウの契約が終了した時点で、芸プロから離脱すれば良いようです。『拘束』という面については、後で触れます。》
素人:でも、将来の儲けも考えているとすると、芸プロに海外のショウとの契約をやってもらうと、芸プロとの契約のお金は少なくて良いんじゃないですか?
HT:そうでしょうね。場合によっては、海外のショウでのタレントの報酬からの幾分かの利益を得て、そして、タレントの将来の芸能活動からの利益に対する将来投資を考えて契約するので、金額的には大変に魅力的な契約になるでしょうね。
素人:それなら、芸プロを使えば良いですね?
HT:ところが、海外のショウのために芸プロと契約すると、海外のショウの契約が満了した後は、芸プロとの契約に縛られます。
《6/8 『派遣労働法』によれば、派遣の形で海外のショウと契約した場合、海外のショウとの契約が満了した時点で、ペナルティなしに芸プロから離れることができます。その場合、違約金等が発生するのは、芸プロ側がタレントに『投資』を行ってきた場合に限られ、投資によって期待された利益に見合う額だけ損害として請求されます。従って、芸プロがタレントを育ててきた場合には、この損害請求の可能性によって『拘束』されることになります。今議論しているケースでは、タレントの現在の能力は、タレントの自己投資によって得られているものなので、芸プロ側が将来の利益を元に賠償を請求することはできません。ただし、タレントの了承のもとで、すでに芸プロがプロモーションを実施していた場合には、その経費の請求はあるかも知れません。また、タレントが海外のショウとの契約満了前に離脱する場合には、ショウ側の損害がタレントに請求される可能性はあります。》
素人:そうすると、芸プロとの契約期間というのはどうなりますか?
HT:それは、海外のショウの後で、その芸プロにどのくらいお世話になるつもりなのかで変わりますよ。
素人:長いほうが、長く面倒を見てくれるから、良いのでしょうか?
HT:それは タレントによりますが、契約期間が長いということは、まず、芸プロが指示する仕事をこなさなければならない期間も長くなるということです。タレントに指示される仕事には、芸プロのための接待業務もあるでしょうね。
素人:接待ですか? そんなの断ればよいでしょう。
HT:そうは簡単ではないですね。タレントのプロモーションは芸プロの仕事の一環だから、芸プロから プロモーションのための仕事だと言われれば、断れませんよ。契約書には、タレントのプロモーションに協力する条項が入っているに決まっているから、断れば、契約違反になります。それに、契約期間が長いと、タレントが芸能活動で上げた収益が中々自分のものにならないし、やってみたい新しい取り組みも中々できないでしょう。更に、契約期間が長いと、ご自分の活動スタイルが芸プロのやり方になってしまうので、芸プロとの契約満期の時に契約を打ち切りにくくなるのです。
《6/8 このケースは、タレントのプロモーションのために芸プロが『投資』を行ってきた場合には、プロモーションに関連する仕事の指示は断れないというものです。断る、つまり、契約破棄を行う場合には、投資額と期待利益に見合った損害請求がされる可能性があります。つまり、プロモーションで芸プロにお世話になるほどに、その指示には従わざるを得なくなるということです。》
素人:何で? 後は自分でやればよいでしょう。
HT:芸プロの勢力圏で活動すると、色々と差し障りがあるし、芸プロの力の及ばない所で活動をしようとすれば、また一からやり直さなければなりませんから、簡単には芸プロから離れられません。
素人:そうすると、芸プロは契約期間を長くしたいのですか。
HT:そうですよ。タレントが芸能活動で利益を上げればそれだけ儲かるし、それほどに利益が出なくとも、芸プロが請け負う様々なプロジェクトでの要員として安く使えるし、タレントによっては接待要員として役立つかも知れない。だから、成功すれば成功したなりに、成功しなくともそれなりに使いまわして、芸プロとしての利益にできる。ですから、海外のショウとの契約をしてあげる代わりに、少なくともある期間は所属する様に求めるでしょう。
素人:なら、最初から最短の契約期間にすれば良いんですね?
HT:そこが芸プロの契約担当の腕の見せ所です。海外のショウと初めて契約するタレントの不安感を煽ることはあるでしょうね。「今の会社を辞め、海外のショウも終われば、そのあとどうするのですか?そのための時間をかけたプロモーションは必要ですよ。」などと言われれば、はじめての経験の タレントは結構長い期間の契約をしてしまうでしょうね。
素人:でも、そのとおりでしょう?
HT:それはね、税金を安くすれば、国の収入が減って、破綻するので、安くできないという、今の状態を基本にした誤った将来予測をするようなものですよ。
素人:えっ、だってそうでしょう?
HT:違いますよ。税金というのは「罰金」なのですよ。だから、所得税は「所得を得ることへの罰金」なのです、つまり、所得を抑えるためのものなのです。実際、所得税が減れば、使えるお金は増えるでしょう。使えるお金が増えれば、何か買いたくなるし、皆がそうなら、世の中の景気が良くなって、つまり、国の経済が活性化して、国が豊かになるのです。
人だっておんなじです。
海外のショウで活躍すれば、自分のスキルは上がるし、自分の実績だって増えるのだから、今現在の不安を抱えた タレント本人より、遥かに自信に溢れたタレントになるに決まっているでしょう。自信に溢れたタレントには、自然と、仕事が舞い込むのです。それに、海外のショウで活躍している内に、海外の友達も増え、一緒にやらないかという声もかかります。彼らは積極的ですからね。そういう、海外のショウが終わった後の、良い感じに気分の乗ったところでの活動が注目され、更に仕事の誘いが増え、中々、帰国できないということだってあります。どうです、あなたの タレントさんの才能は?
(6/7 ビザについては別途検討しなければなりません。)
素人:えっ、勿論、凄い! 凄く素敵な才能をお持ちですよ。
HT:それなら、中々、お帰りにならない心配をしたほうが良いのではないですか。
素人:えっ、それじゃ、海外に追いかけて行かないといかんのですかね?
HT:随分と熱心ですね。
素人:いや、それほどでも。 いや、あるかな?
・正社員
法律上の雇用保護があるため、派遣するためにはリスクが高く、リスクヘッジ
・派遣社員
・契約社員
派遣先に紹介し、派遣先と直接契約をする。この場合、芸プロが代理人(エー
芸プロが海外のショウにタレントを派遣する場合には、BtoB (B2B, business-to-business) パートナー契約を通して行うのが一般的です。この場合、派遣したタレントが海外のショウと直接に契約するのは厳しく禁止されます。何故なら、これを許すと、ビジネスモデルが崩れるからです。従って、芸プロが海外のショウに派遣するタレントは、基本的に、派遣社員になります。勿論、芸プロが代理人となり、タレントが契約社員として、海外のショウと直接契約することも、可能性としては考えられますが、芸プロが自らのビジネスモデルを崩してしまうので、特殊な場合以外には、ないと考えられます。