「「マカラプア ~ プア カーネーション」日本語歌詞の訂正、そして語られない思い」
「アカペラで歌いました : マカラプア ~ プアカーネーション」
「「マカラプア 」〜 「プア カーネーション」 メドレー について」
「ポリネシアの歌」
【はじめに】
ハワイアンズ において2023年 4月まで公演された グランド ステージ 「Future ~
HAU'OLI」のシリーズの中で5番目と6番目に歌われていたのが マカラプア
(Makalapua)とプア カーネーション(Pua Carnation)です。実際には、それぞれ
が独立して歌われるのではなく、マカラプア の1番と レフレイン に続けて プア カー
ネーションが メドレー 形式で歌われます。この古い演目をここで取り上げるのは、
箕川さんや ウアケアさんの踊りを考える上で外せない曲であることに加えて、ハワイ
の人々の民族的尊厳の回復運動と密接に関係した曲でもあるからです。マカラプア に
しても、プア カーネーション にしても、美しい曲であり、昔からよく親しまれてきた
曲ですが、その背景についても知っていることは大事であるように思います。
【ハワイ王国(Aupuni Mōʻī o Hawaiʻi)の歴史の概観】
1795年 ハワイ王国建国(カメハメハ1世) 1810年 全ハワイ諸島統一(カメハメハ1世) 1820年 米プロテスタント宣教師たちが到着 1830年 クイーン・カアフマヌ(カメハメハ1世の王妃)による 「公共でのフラ禁止」条例。 1835年 カウアイ島のコロアで米国人により製糖会社が設立される。 1840年 憲法制定(カメハメハ3世) 1874年 カラカウア王即位 フラ・カヒコ の正式な解禁、フラ・アウアナ の誕生 1875年 米ハワイ互恵条約調印 ー 米国の排他的領土特権、そして砂糖産業の拡大 1887年 修正憲法(銃剣憲法)公布 ー 在ハワイ米国人に依るハワイ支配の確定 1887年 米ハワイ互恵条約改定 ー 米国海軍の真珠湾の独占的使用権。 1891年 リリウオカラニ女王即位 1893年 ハワイ臨時政府誕生 1894年 ハワイ共和国の成立 1895年 王政復古を求める武力蜂起とその鎮圧 1895年 リリウオカラニ女王の逮捕と廃位 1898年 米合衆国、ハワイの編入宣言。 1900年 米合衆国、ハワイを準州とする。 1959年 米合衆国、ハワイを50番目の州とする。
マカラプア の主題であり、プア カーネーション の成立に影響した人物として、ハワイ
王国の第8代国王にして、最後の国王であられた リリウオカラニ女王を忘れることは
できません。女王は政治家と言うよりは、詩人にして作曲家であり、著述家でもあら
れた方です。正式名称は
Lydia LiLi'u Loloku Walania Wehiwehi Kamaka'eha-a-Kapa'akea
幼少時には高貴なという意味の lani を名前の Lili'u に付けて、 Lili'ulani(リリウラニ) カラカウア国王によって次期国王に指名された時には王族の意味の kalani を付け Lili'uokalani(リリウオカラニ) とも呼ばれました。
【2つの歌の歌詞】 (a) マカラプア(Makalapua) Huapala の「Makalapua (The Opening Flower) - Traditional」から、歌詞の1番と 繰り返しの部分は以下のようになります。日本語歌詞については後の節で説明します。 全歌詞は付録に置きます。 Makalapua ʻO makalapua ulu māhiehie 美しい花が 豊かに咲き広がっています ʻO ka lei o Kamakaʻeha これは レイ です カマカエハの No Kamaka`eha ka lei na Liʻawahine カマカエハ への レイ 女神「熱望」の Nā wāhine kīhene pua 花かごを持った乙女たちが居ます Hui: E lei hoʻi, e Liliʻulani e さあ レイ をどうぞ、さあ リリウラニ E lei hoʻi, e Liliʻulani e さあ レイ をどうぞ、さあ リリウラニ 上記の Huapala によれば、マカラプアは賛美歌 "Would I Were with Thee"を改変 して曲を作り詞を付けたものですが、その年代や作曲者・作詞者に付いては複数の 説があってはっきりしていません。資料に現れたものとしては、 1894年6月26日に マウイ島の Maunaolu神学校で歌われたことが新聞に載っており、また別の新聞では 1897年7月9日の記事には翌日の Kaumakapili教会におけるコンサートのプログラム が載っており、 そこにマカラプアの合唱が記されています。両者が同じ曲を指して いるのかはわかりませんが、1897年以前にはマカラプアの曲が存在していたことが 分かります。時期的には、臨時政府の成立から米合衆国に依る編入宣言までの、 ハワイが独立維持の機運で揺れ動いていた頃です。 (b) プア カーネーション(Pua Carnation) Huapala の 「Pua Carnation」から、歌詞を引用し、日本語歌詞を付けます。日本語 歌詞のための歌詞解析は後の節で行います。Huapala にある歌詞と英語歌詞は付録に 収めます。 Pua Carnation by Charles E. King (copyright 1916) ʻAuhea wale ana ʻoe どうぞ 聞いて下さい 貴方 Pua carnation kaʻu aloha カーネーションの花は私の愛 A ke lawe ʻia ʻala ʻoe そして運びさられた貴方、香り高い貴方 E ka makani pā kolonahe 心地よく吹く風に誘われて Ke aloha kai hiki mai この愛が、 この私に生まれた Hōʻeha i ka puʻuwai 苦しめるのです 私の心を Noho ʻoe a manaʻo mai 貴方がいらして 心を向けてくださるなら Hoʻi mai kāua e pili お戻り下さい 私達共にあるために 作者 Charles E. King は、Wikipedia によれば、Kamehameha IV 皇后 Emma の地所で 生まれ、Lili’uokalani 女王の音楽上の薫陶をうけたとされています。この歌は思い 人(女性)を待つ男の思慕の情を表しています。男は作者自身と考えられますが、 作者はハワイ王国宮廷と近い関係にありましたから、思い人を恩師に当たる女王に比 定するのは不敬に当たるので、有り得ません。むしろ、ハワイ王国を思い人になぞら えたと考えるのが良いかも知れません。女王が廃位せられ、ハワイ王国がなくなって から約20年、王国を思う思慕の情を抑えがたくなり書いたとすると、歌の2番の意味 がよく分かります。そうすると、1番は茫然自失の中に王国が無くなってしまったこ とを悲しく思い返している様子を表して居るのかも知れません。では、2番の最後の 行は何を目指して居るのでしょうか。それは ハワイの民族文化の復興ではないでしょ うか。そう考えると、この歌を書いた頃から、作者が ハワイの民族音楽風の歌を盛ん に書き始めた理由が分かる気がします。 (余談 1番の二行目と、2番の一行目とを対比すると良いと思います。1番では、 貴方(カーネーションの花)は私の愛だと歌います。しかし、どうも、これは最初か らそうであったわけではないのです。2番では、私の心に訪れた愛の思いが、と歌っ ています。合わせて考えるなら、貴方への愛は、貴方が運び去られてしまってから、 私の心で大きく育ってきたものですと述べているのでしょう。[以後は付録へ」) 【まとめ】 以上のように、2つの歌の歌詞を検討してみると、この メドレーは ◯懐かしい ハワイ王国、特に、リリウオカラニ女王の思い出 ◯茫然自失の中になくなってしまった王国への思慕の情 ◯ハワイ民族文化の復興への思い を表していると考えられます。そのように考えると、「マカラプア」の絢爛豪華な 黄金色の衣装と「プア カーネーション」の熱情の真紅の衣装の対比は、歌の静かで のびやかな調子と合わさって、拝見している我々に何処か別の世界にいざなう様な 深い印象を与えます。下の動画は ハワイアンズ から去っていかれた方に捧げるつ もり作ったのですが、何度見ても見飽きることがない別世界の様な動画です。上に 書いた、歌と衣装に加えて、秀逸な踊り手によるところがあると思います。
【付録: 歌詞の解析】 以下の解析で、単語の意味が日本語で書かれているものは辞書[1] より、英語で書か れているものはオンライン辞書[2] より持ってきました。 (a) Makalapua ʻO Makalapua ulumāhiehie 'O 主語表示のマーカ makalapua 美しい; 開花する ulumāhiehie vs. Festive, attractively adorned and arrayed; to make a fine appearance, decorated, pleasing. ulu 成長する; 神に取り憑かれた; 茂み māhiehie māhie の重複形 māhie 惚れ惚れするような, 魅惑的な 美しく開花した花が魅惑的に広がっている ʻO ka lei o Kamakaʻeha これはカマカエハのレイです No Kamakaʻeha ka lei na Liʻawahine no 〜のために, 〜から由来する, 〜について no A B B は A のもの [3] na 所有詞のマーカ Li'awahine 女性の熱望; 森の女神 森の女神「乙女の熱望」のレイはカマカエハのものです Nā wāhine kīhene pua nā 複数を表す定冠詞; wāhine wahine の複数形. nā wāhine その女性たち kīhene ティー リーフ で編んだかご, Nā wāhine kīhene pua 花かごを持った乙女たち 花かごを持った乙女たちが居ます E lei hoʻi, e Liliʻulani ē ho'i 行く; 〜に入っていく; 退場するときのダンス; 強調のマーカ; 〜もまた さあ レイをどうぞ、さあ リリウラニよ E lei hoʻi, e Liliʻulani ē さあ レイをどうぞ、さあ リリウラニよ 以上より、以下のように日本語歌詞とします。 ʻO Makalapua ulumāhiehie (美しい花が 豊かに咲き広がっています) ʻO ka lei o Kamakaʻeha (これは レイ です カマカエハの ) No Kamakaʻeha ka lei na Liʻawahine (カマカエハ への レイ 女神「熱望」の) Nā wāhine kīhene pua (花かごを持った乙女たちが居ます) E lei hoʻi, e Liliʻulani ē (さあ レイ をどうぞ、さあ リリウラニ) E lei hoʻi, e Liliʻulani ē (さあ レイ をどうぞ、さあ リリウラニ) (b) Pua Carnation ʻAuhea wale ana ʻoe 'auhea idiom, listen (in commands, common in songs) ʻAuhea wale ana ʻoe, ē ka pua o ka lokelani, now pay attention, O blossom of the rose. 聞いて下さい Pua carnation kaʻu aloha pua carnation カーネーションの花 ka'u 私の, 私のもの kāu 貴方の, 貴方のもの カーネーションの花は私の愛 A ke lawe ʻia ʻala ʻoe a 所有詞として; [ā] の異形 ā 接続詞 および、〜する時に, 〜まで, それから ke ka mea e の短縮形, 〜である人(もの) lawe 運ぶ, 持って行く(来る) 'ia 動詞の後に置き、受け身を表すマーカ 'ala 香りの良い, 香気 'oe A ke lawe ʻia, ʻala ʻoe, そして運びさられた貴方、香り高い貴方、 E ka makani pā kolonahe makani 風, 微風; 風が吹く pā 敷地, 囲い地; 触れる, 手に入れる; 風が吹く kolonahe 穏やかな(気持ちの良い)風 心地よく吹く風に(のせられて) 上の三行で「’ala 'oe(香り高い貴方)」は挿入句で、それを除いて 'O Pua Carnation ka'u aloha a ke lawe 'ia e ka makani pā kolonahe. カーネーションの花は私の愛であり穏やかに吹く風に運び去られた(もの)です。 となっていると考えます。 Ke aloha kai hiki mai ka i, kai ka mea i の短縮形, 〜をした人(もの), ʻO ʻoe ka i hele i ka hale, 貴方がその家に行った人だ hiki できる; 到着する; その次の; mai 私に訪れたところの愛 Hōʻeha i ka puʻuwai hō'eha To cause pain; to give pain. pu'uwai 心臓, 心, 気持ち 私の気持ちを傷つける Noho ʻoe a manaʻo mai noho 座席; 座る; 住む; 留まる; a mana'o こころ, 考え(る), 期待する, 思う, 貴方が留まって 心を向けてくださるなら Hoʻi mai kāua e pili ho'i 行く(帰る); 〜に入っていく(から来る) kāua 一人称双数(聞き手を含む)主格、目的格 pili nvi. To cling, stick, adhere, join, adjoin, etc. E pili kāua, let's be together Ho'i mai e pili kāua 私達一緒になるために戻ってらっしゃい 以上より、以下のように日本語歌詞とします。 ʻAuhea wale ana ʻoe (どうぞ 聞いて下さい 貴方) Pua carnation kaʻu aloha (カーネーションの花は私の愛) A ke lawe ʻia, ʻala ʻoe, (そして運びさられた貴方、香り高い貴方) E ka makani pā kolonahe (心地よく吹く風に誘われて) Ke aloha kai hiki mai (この愛が、 この私に生まれた)(注 Hōʻeha i ka puʻuwai (苦しめるのです 私の心を) Noho ʻoe a manaʻo mai (貴方がいらして 心を向けてくださるなら) Hoʻi mai kāua e pili (戻って来て下さい 私達共にあるために) (注 「私に生まれたこの愛が」を「この愛が、私に生まれた」とした。
【付録:Makalapua (The Opening Flower) - Traditional】
ʻO makalapua ulu māhiehie The sweetest and most fragrant flowers of the garden ʻO ka lei o Kamakaʻeha For the lei of Kamakaʻeha No Kamaka`eha ka lei na Liʻawahine The goddesses of the forest weave a lei for Kamakaʻeha Nā wāhine kīhene pua The ladies with baskets of flowers Hui: E lei hoʻi, e Liliʻulani e Here is your lei, o Liliʻulani E lei hoʻi, e Liliʻulani e Here is your lei, o Liliʻulani
- Haʻihaʻi pua kamani pauku pua kīkī
- Kamani leaves entwined with ti flowers
- I lei hoʻowehiwehi no ka wahine
- A lei to beautify the fair Liliʻu
- E walea ai ka waokele
- One who loves the beauteous and fragrant uplands
- I ka liko i Maunahele
- Where bud the flowers at Maunahele
- Lei Kaʻala i ka ua o ka Nāulu
- Kaʻala wears a lei of Nāulu showers
- Hoʻoluʻe ihola i lalo o Haleʻauʻau
- Pouring down on Haleʻauʻau
- Ka ua lei koko ʻula i ke pili
- Rainbow mist that is a lei on pili grass
- I pilia ka mauʻu nēnē me ke kupukupu
- Where nēnē grass grows close to kupukupu ferns
- Lei akula i ka hala o Kekele
- Wearing a lei of hala fruit of Kekele
- Nā hala moe ipo o Malailua
- Hala of Malailua that lovers dream of
- Ua māewa wale i ke oho o ke kāwelu
- Swaying freely amid kāwelu grasses
- Nā lei kāmakahala o ka ua Waʻahila
- Kamakahala flower leis of Waʻahila rain
【付録: Pua Carnation 】
by Charles E. King (registered in 1916)
transl. of verse 1 - from "King's book of Hawaiian melodies"
transl. of verse 2 - by Mary Pukui
ʻAuhea wale ana ʻoe Oh, thou fairest of all flowers
Pua carnation kaʻu aloha Sweet carnation I adore thee
A ke lawe ʻia ʻala ʻoe Far from me thou art being borne, my love
E ka makani pā kolonahe By the soft and gentle zephyrs
Ke aloha kai hiki mai Love for you is here with me
Hōʻeha i ka puʻuwai Filling my heart with pain
Noho ʻoe a manaʻo mai When you remember our love
Hoʻi mai kāua e pili Come back to be with me
(余談 1番の二行目と、2番の一行目とを対比すると良いと思います。1番では、 貴方(カーネーションの花)は私の愛だと歌います。しかし、どうも、これは最初か らそうであったわけではないのです。2番では、私の心に訪れた愛の思いが、と歌っ ています。合わせて考えるなら、貴方への愛は、貴方が運び去られてしまってから、 私の心で大きく育ってきたものですと述べているのでしょう。この辺は私には疎い事 なので、しかとは申し上げられませんが、幼馴染が遠くに越してから懐かしさを感じ る事はあっても、愛を感じるようになることはなかろうと思います。しかし、ハワイ 王国という、それまでの生き方の基本であったもの、隅々までよく分かっていたもの が失われ、違った価値観の人たちに指図されるようになってくると、以前の生活文化 を慕う心が大きくなってくることはあると思います。それが抑えきれないほどに大き くなった時に、作者はそれを愛と感じたのでしょう。作者は王国について一般人より は理解があると考えられる上に、作曲家生活に入る前には、 「The Kamehameha Schools」という民族学校で教鞭をとっていました。それであっても、ハワイ王国か ら米国の中の国になることに、最初はそれ程の違和感を感じていなかったのかも知れ ません。日本においても、戦後の復興期には米国への憧れが大きかった時期が在りま した。それが、徐々に ハワイ王国での文化的生活への思慕が強くなっていったのだ と思います。人とはそういうものです。ですから、作者はそれをあえて歌いこんだの だと思います。年をふることによって、ふと我に返る。それも人の理です。勿論、 この歌を男が女を思う歌だと考えても、それも素敵です。)
[1] 西沢佑、「ハワイ語の手引」、千倉書房、2021. [2] Wehewehe Wikiwiki Hawaiian language dictionaries: University of Hawaii System, University of Hawaii, Hilo. [3] アルバータ P. ホプキンス、「ハワイ語入門」大学書林, 1997.