先日 6月 11日の朝、お一人の無名な演奏家がマリア様のもとに旅立たれました。この

方は今から 7年ほど前に倒れられてから、闘病、そして リハビリ の生活を送られ、

最終的に、短期間の闘病の末に行かれました。この話をここに書く理由は、この方の

話を残しておきたかったことと、この方の姿が私の現在の活動の原動力であったから

です。

 

この方は、ある音楽大学で作曲とピアノ演奏を学び、各種の小さな演奏会の伴奏ピア

ニストをやって居られました。師事した先生の影響であったのか、素直でオーソドッ

クスな演奏ぶりで有ったように思います。記憶にある伴奏者としての特徴は、独奏

(独唱)者が優れているほどに、その音楽性を受け入れ、すぐれた演奏をするという

点です。ただ、最初の頃はそれもあまり気に留めることはありませんでした。

 

ある時、ドイツ歌曲を得意とする独唱者が教会の懇願を受け入れて シューベルト の

「冬の旅」を歌うことになり、当時、伴奏ピアニストとして活動をともにすることの

多かったこの方を伴奏者として選びました。理由は、今までそのような大きな演奏は

やってこなかったにもかかわらず、「貴方ならできる」ということだったそうです。

「冬の旅」は大曲です。この方は独唱者と何度も打ち合わせを繰り返して切磋琢磨を

されたのですが、大きな失敗をしなければ許せるでしょうというのが、私を含めた、

周りの雰囲気だったと思います。当日、親しい周囲のものも会場の教会堂に参集し、

演奏会の開始を待ちました。開始時間とともに、教会堂の入口から神経を集中させた

独奏者と伴奏者であるこの方が入ってこられ、余計なことは何も言わずに、そのまま

「冬の旅」が始まりました。

 

ドイツ リート の世界です。厳しい北ドイツの冬に旅する情景が目前に浮かぶ、すぐれ

た演奏でした。独唱者は日本人で初めて バッハ音楽コンクールに優勝した方ですから

優れた歌を披露されるであろうことは疑いないことでした。そして、伴奏者を務めた

この方は、魂も裂けよとばかりの張り詰めた独唱を見事に支えてみせたのです。全曲

を歌い終えた後は、ニコリともせず、一言も発せずに独唱者は伴奏者を伴って教会堂

を出ました。事前の案内では アンコールは無しと決まっていたのですが、いつまでも

鳴り止まぬ満場の拍手に主催者側が懇願したためか、二人は演奏会開始のときと同じ

ように再登場し、組曲の中の一つを歌い、同じように去っていきました。「冬の旅」

は フィッシャー ディースカウ の CD がよく知られていますが、私は今でも、それより

すぐれた演奏であったと思っています。

 

一つ逸話があります。この演奏会で一瞬だけ伴奏が音を外した様に思われた瞬間が在

りました。後で、ミスしたのではないかと問うと、独唱者が歌詞のある箇所を飛ばし

てしまったからだと言うことでした。後で知った話ですが、独奏者というのは案外に

楽譜を飛ばしてしまうことが多く、そのため、どの様な アクシデント にも対応できる

伴奏専門の ピアニスト は引く手あまたであるとのことです。独奏家として定評のある

 ピアニスト が伴奏ピアニスト としては役立たずなのは結構あります。

 

【Pipe organ of the Basilica of St. John Lateran (Rome).( Wikipedia「オルガン」より)This file is licensed under the Creative Commons Attribution 2.5 Generic license.】

 

この方の音楽生活に転機が訪れたのは、小さな宗教音楽学校に入学してからです。そ

こには小規模ながら良い パイプ オルガン がありました。欧州では オルガン は パイプ 

オルガン です。フルートなどの管楽器では、発音部で生じた音をパイプ内で共鳴させ

て美しい音として出します。楽器には指で抑える穴が空いていて、抑える箇所によっ

て楽器内で共鳴する音の音程や音質が変わり、楽譜に合わせて指を動かして音楽を奏

でます。パイプ オルガン とは、この様なパイプを基本とし、穴を指で塞いだりする代

わりに、長さを調整したパイプ を音程ごとに並べておくものです。音程や音質に応じ

て多くの パイプ が並べられるため、多様な音程や音質の音を出せる パイプ オルガン 

は数百或いは千近くの パイプ を持ちます。どのパイプ群に空気を送り込むかは鍵盤の

横の バルブ で決定し、選ばれた一つの組み合わせの パイプ 群ごとに鍵盤が割り当て

られるため、パイプ オルガン は通常は二段以上の鍵盤を持ち、特に重低音の パイプ 

群は「足鍵盤」とよばれる、足元にある鍵盤で演奏されます。つまり、パイプ オルガ

ン とは、右手と左手、そして両足とで独立した パイプ 群を演奏するものなのです。

ピアノ の鍵盤のキーが振動弦を叩くものなのに対して、オルガン の鍵盤のキーは特定

のパイプに送り込む空気の オン/オフ を決めるものになっていますから、タッチも全

く違います。ですから、優れたピアニストが オルガニスト になれるわけではなく、全

ての オルガニストが足鍵盤を自在に演奏できる優れた オルガニスト になれるわけでも

ありません。なお、歴史的なバロック以降の教会堂には必ずと言ってよい程に パイプ 

オルガン があります。容易に想像できるように、パイプ オルガン は高価ですから、

バロック以降の経済的に発展したオランダ や ドイツ に優れた歴史的なオルガンが残さ

れています。

 

もうお分かりのように、優れた オルガニスト であるためには、右手と左手、そして両

足を独立して自由に動かせなければなりません。これは、ただ練習だけでできるよう

になるものではなく、持って生まれた才能のようなものが必要なのです。この方には

在りました。この宗教音楽学校の仲間がどれほどに苦労しても引けない曲をこの方は

弾けてしまうのです。弾けてしまうとしか言いようがありません。オルガン曲と言え

ば、バッハ です。彼の オルガン曲のなかに「トリオ ソナタ」があります。通常の ト

リオ で引くような曲を一台の オルガン で演奏します。オルガンを始められた方は、

将来は「トリオ ソナタ の演奏」が目標とはいいますが、ほとんどの方は「演奏」には

到達できません。この方は、「トリオ ソナタ」を トリオ の様に演奏しました。それは

私も聴かせて頂きました。逸話があります。欧州の著名な オルガニスト を講師に招い

た オルガン講習会で受講生が曲を選んで オルガンを弾く自由課題があった折、多分

「トリオ ソナタ」だったと記憶していますが、この方が演奏された時、講師がびっく

りして演奏している足元を覗きにいったということです。

 

これ程に素質溢れる方でしたが、その上り坂は案外に早く終わってしまったのです。

この方の唯一の欠点は、音楽が走り気味になることです。夢中になるほどにその傾向

が出易くなります。北ドイツの重低音が響く オルガン曲の演奏ではその傾向があり、

聴く方によっては音が汚いと言われます。その宗教音楽学校の オルガン講師も、もっ

と頑張れという方と、そんな音は聞きたくないという方に分かれたようです。音楽が

走るということは、それこそ、練習を重ねればいくらでも矯正できることですから、

私を含め、周囲の者は大層期待していたのですが、その方はいつしか オルガンを弾く

ことを止め、悶々とした生活を送られるようになりました。そうなると、些細なこと

で口論が起き、多く居た友人も去っていくようになりました。倒れられたのは、その

様な中でした。私も、当時は、この方とは喧嘩状態にあり、倒れた原因の如何程かに

責任があります。

 

この方が再起不能であることが明らかになるにつれ、失われたものが大きかった事、

そして、それは救えたのでは無いかという思いも大きくなりました。そんなおりに、

ハワイアンズ を訪問して、お一人の踊りに魅了されたのです。その方、ウアケアさん

の踊りはすっと心に入る懐かしさを感じるものでしたが、同時に、ウアケアさんは持

てる才能を十分に引き出して幸福で居られるようには見えませんでした。持てる才能

は十分に開花させるべきであるし、途中で終わってしまうようなことがあれば、その

不幸はいつまでも続きます。当時はそれ程のまとまった考えを持っていたわけではあ

りませんが、段々とその気持ちが強くなったのは間違いありません。かの音楽家が 

マリア様の下に行かれた現在、優れた才能が十分に開花するのを助けていくのが私に

求められていることだと思うようになりました。できることは多くはありません。

素人カメラマン としての基本技術を向上させることと、ピエロとして全うすべきこと

は間違いありません。どれ程の時間が有るのか、或いは、その後にどれ程の発展段階

が有るのか、等はわかりません。ただ、先のことは考えずにこの一瞬に幸いを感じな

がら努めていくのみです。かの人もそう言われているように思います。

 

 

 

【余計なこと】

 

最後に、現状を述べさせていただきます。私が運営している チャンネル は シャドー

バン 状態にあります。シャドー バン とは チャンネルの動画を露出させない処置を受

けているということです。別に、このチャンネルで失敗をしたわけではありません。

チャンネルは大本の アカウント の サブ アカウント(子アカウント)で運営している

のですが、親アカウント で YT では嫌われること(つまり、本当のこと)を散々に、

アチラコチラ の チャンネルで コメント してきたのですが、ある時から制限が厳しく

なって、親と子のアカウントが シャドー バン 状態になりました。ですから、私の 

チャンネル の動画は、基本的には、登録者のみが視聴します。X でも宣伝しているの

で、ご覧に来られる方がチラホラとおられ、登録者数は動画を アップ する毎に少しず

つ増えるという塩梅です。ですから、チャンネル としては落第ですが、ウアケアさん

が活躍される場はあくまで ハワイアンズ の舞台です。いくら YT で視聴回数が伸びて

も、舞台上で評価されなければなりません。ですから、演技を フィードバック すると

いう意味では役に立っているかと思います。ウアケアさん達が独立して活動される場

合には、グループで チャンネルを立ち上げるでしょうから、私の チャンネルはどうで

もよろしいのであって、大事なことは私が信頼の置ける(素人)カメラマンになれる

かということです。未だ駄目ですね。もっと頑張りましょう。