「ヘイアラヴァの日本語歌詞の再考: アカペラのための準備」
                「ヘイ アラヴァ 未完の歌詞確定作業:前編」
                「ヘイ アラヴァ 未完の歌詞確定作業:中編」
                「ヘイ アラヴァ 未完の歌詞確定作業:後編」

                             「ポリネシアの歌

【はじめに】

 

これまで、気になっていた歌の幾つかを日本語のアカペラで歌ってきました。これらの歌は、全て、この素人カメラマンにとって忘れ難いものばかりです。特に、「フェヌア モア」は、歌の内容よりは、最後に拝見した踊りであったことと、その時の状況が彼に忘れがたい思いを残しました。彼の試みを決定したと言っても良いです。忘れ難いといえば、別な意味で忘れ難いのが「ヘイ アラヴァ」です。ある時に拝見した「ヘイ アラヴァ」が彼のその後の三年間を決めたのでした。ですから、かなり初期から、この詩の日本語化は試みていたのですが、幾つか難しい問題があり、納得の出来る日本語歌詞は出来ていませんでした。しかし、避けてはおられません。最後を歌ったのであれば、最初も歌わなければなりません。

 

 



【「Heiarava」について】

グランドステージ「未来〜Hau'Oli (幸福) 」の 12曲目です。折りに触れて書いてきましたように、この曲には思い出があります。ですから、かなり初期の頃から、歌詞を確定しようと努力し、併せて日本語歌詞の案出も努力してまいりました。しかし、必ずしも十分には果たされていません。特に、歌詞の最後の二行をどの様に考えるかについては、現時点でも不確かです。そこで、今までの議論と重複することは覚悟の上で、タヒチ語歌詞、その日本語訳について再検討し、残る問題点を明らかにしておきたいと思います。そうすることにより、残る問題点を解消するための議論の方向性も明らかになって来ると思います。




【タヒチ語歌詞】

当初、歌詞を考える材料は ハワイアンズでの演奏しかありませんでした。その後、ネット検索を徹底して行うことにより CD [1] を入手することが出来、不確かなところもありますが、タヒチ語の歌詞を以下の様に聴き取りました。

   Heiarava
        by  E. Teto and D. Naehu

1
 E marama to tino to tino nehenehe roa
 To tino haviti mai te purotu

2
 'Ua vehihia 'oe
 Mai te roimata o Hina rave'a
 Na te tiare Tahiti e vehi e vehi to tino

3
 E 'ua hiti te marama
 Hei ia ravarava e
 To mata hamirimiri poiherehia e matou


行の並べ方については、CD の演奏で拍をカウントして、8拍で一つの行とすることにしました。CD における演奏は 1 1 2 2 1 1 3 の順に行われています。これより、変則的ではありますが、1節目が繰り返し部、2節目が曲の主部で、3節目が結びの部となるように考えました。内容的にも、1節目が一般的なテーマを歌い、2節目が曲の中での話の展開を行い、3節目が、お月様が登ったらという話のオチとなっているようです。




【原曲の解析】

上にあげた「中編」においてタヒチ語の解析を行いました。しかし、その後に理解が進んだ部分もありますので、ここでも再び解析を行うことにします。解析では以下の様な、それぞれに特徴のある辞書や教科書を用いました。

 辞書[2] H. J. Davies, A Tahitian and English Dictionary  With Introductory 

    Remarks on the Polynesian Language, and a Short Grammar of the 

    Tahitian Dialect, 1851.


    古いが、信頼が出来、多くの語を載せている。語の歴史が伺えます

 辞書[3] Sven Wahlroos, English-Tahitian Tahitian-English Dictionary, 2002.


    持っている辞書の中では新しく、発音の記述も詳しくついている。参照

    の際には付記 (SW) をつけます。

 辞書[4] J. Frnak Stimson et. al., A Dictionary of Some Tuamotuan Dialects of 

    the Polynesian Language, 1964.


    辺境で比較的少数によって話されているタヒチ語方言の辞書ですが、言葉

    は中心から周辺に流れるのが常ですので、本来の用法についての理解が得

    られます。項目の編成も徹底しています。参照では (JFS) と付記します。

 辞書[5] Edward Tregear, The Maori-Polynesian Comparative Dictionary, 1891.


    他のポリネシア諸語との関連が記されていて、考える手がかりが得られる

    場合があります。参照では (ET) と付記します。

 辞書[6] D. T. Tryon, Conversational Tahitian: An Introduction to the Tahitian 

    Language of French Polynesia, 1970.


    基本的には タヒチ語会話のための教科書で、タヒチ語文法が詳細に説明さ

    れていますが、タヒチ語の検索リストもあるので、辞書としても使います。

    参照では(DTT) と付記します。
 



「タイトルについて」

タイトルは「heiarava」=「hei」+「arava」と分解できます。「Hei」についてはほぼ明らかです。

  hei      a wreath or garland of flowers (花輪, 花冠)

もっと広く、花飾りとしても良いかもしれません。「Arava」については、辞書 [2] のみに記述がありました。

  arava     fair, beautiful, white (色白、美しい、白い)

これから、タイトルは白く美しい花飾りを意味していると考えると、それは必ずしも正しくありません。「Arava」=「a」+「rava」であって、主部は「rava」です。

  rava                       dark, or brownish
  ravarave              tall, slender, and handsome (背が高くて、細くて、ハンサム)
  rava(SW)             brown (color of skin)
  ravarava(SW)    brown, brunette; brown color; become brown
  rava(JFS)            Clear, light olive-brown in color. Grayish, of a glossy gun-metal 

         color; said only of pearl-shell and 'black' pearls
  ravarava(JFS)   Olive-brown; said of the human skin only; it is used only in a 

         complimentary sense and denotes a tint lighter than the usual 

         brown color of Polynesians; the color of the ariki, or those 

         habitually sheltered from the sun or wind. (オリーブ ブラウン. 

         人間の皮膚についてのみ言われている. 褒め言葉としてのみ使用

         され, ポリネシア人の通常の茶色よりも明るい色合いを示す. 貴族, 

         つまり太陽や風から習慣的に保護されている人々の色. )
  ka.rava(JFS)      Coppery-red; copper-colored (銅色の赤; 銅色)

重畳「ravarave」は「rava」の持つ意味合いを特定の対象に向けていると考えれば、ここに書かれていることは、基本的に、「rava」の意味について述べていることになります。そうすると、「rava」が表す色は白ではなく、我々から見れば褐色であり、ただ、上品な、あるいは素敵な(主に)人を記述する色であることがわかります。アリイ タイマイの回想録 [7] の第二章には、 色の (相対的な) 白さが美人としての評価される要素であることが述べられています。そのことから、「色が白い」ことと「高貴である、素敵である」ことが結び付けられているのですが、「白い」のも上記の「ravarava(JFS)」にあるように、一般人の「茶色」対する「明るい オリーブ ブラウン」の色であるので、日本人から見れば、どちらも茶色です。

ですから、「heiarava」を「白い花飾り」と言ってしまっては問題があります。「Ka.rava」と言う言葉が上にあります。タヒチ語方言で「k, ng, g, ŋ」は正調タヒチ語の声道閉鎖音「 ' 」の訛りですから、これは 正調タヒチ語であれば「'arava」に相当します。これが「arava」の正しい書き方だとすると、「heiarava」は「hei'arava (赤銅色の花飾り) 」であって、白い花飾りではありません。というのも、タヒチにおける「白い花」は我々から見ても「白い花」だからです。混乱の大元は、花に対する「白さ」と人に対する「白さ」とは違っていると言うことで、「rava」は人に対して使う言葉であるからです。「Hei」はしばしば「冠」とされます。そして、「rava」は冠に対して使う言葉ではありません。とすれば、それは「冠をかぶる人」に対して言う言葉なのでしょうから、「heiarava」は「素敵な(人の)冠」あるいは「素敵な冠の人」とするのが良さそうです。[論点 A]

  Heiarava
  素敵な(花)冠の人

冠ではなく、花飾りで良いようにも思えますが、高貴な人といえば冠を連想しますから、「(花)冠」としました。

 

ちなみに、「白い」ということを表す言葉は次のようになります。

 

  tea(JFS)          White, cloud-white, Clear, transparent

           (白, 雲のような白, 澄んだ, 透明な)
  tea.tea(JFS)      Very clear, very transparent. Clear white

           (とてもクリア, とても透明感がる, クリアな白)
  uo                 white (白)

  'uo'uo(SW)      white, whiteness, become white
           (白, 白さ, 白くなる)

  kuo(JFS)           To be white, to be whitish
           (白くなる, 白っぽくなる) 

  kuo.kuo(JFS)     White; very-, pure- white;
           (白; 大変に白, 純白)

          Clean; as white clothes after washing

           (清潔;洗濯後の白い衣類のように)

 

一般に、「白い花」というのであれば「tiare 'uo'uo」です。辞書 (JFS) によれば、「tea」は空について使う言葉だそうです。ちなみに、東西に長いソサイエティ諸島は ライアテア島を含む側がリーワード諸島、タヒチ島を含む側がウィンドワード諸島ですが、昔は西の リーワード側が「te  ao  tea」、東の ウィンドワード側が「te  ao  uri」と呼ばれていました。「Te」は定冠詞、「ao」は世界、「tea」と「uri」は「白い空」と「黒い空」ですから、「白い空の世界」と「黒い空の世界」ということになります。ニュージーランドは「te-ao-tea」側にある大きな島ですから、「te ao-tea-roa」つまり「テ  アオテアロア」となったものと思われます。

 

ソサイエティ諸島

 


 



「第1節について」

この節は一般的なことを述べているので、解析はそれほど難しくありませんが、拍の上で見ると、一行の 8拍「E marama to tino to tino nehenehe roa」が更に 4拍ずつの前半「E marama to tino」と後半「to tino nehenehe roa」とに別れます。一行目の前半は次のようになります。

 E marama to tino
  e(SW)      indicates future tense and sometimes a temporally 

          nonspecific present (未来形, 時には時間的に特定されない現在

          形を示す.)
  mā.rama(JFS)   To gleam, flash, flicker as light (光のようにきらめく 閃く, 

          ちらつく.)
               [denotes just "light", not sunlight, which fills visible space;
              one does not know from whence it comes, but it is "light"
              as contrasted with "darkness" (昼間の空間を満たす太陽光で

          はなく, 単に「光」を表す. どこから来るのかは特定しないが,

          「闇」とは対照的なものとしての「光」である. ) ]
  to(DTT)     「tō 'oe」 and 「tā 'oe」 become 「to」 when the idea of 

          possession is not stressed (所有の程度を離れた「貴方の」)
  tino          the body (体)
 E mārama to tino
 あなたの体が輝いている

ここで、「to」について長い説明がありますが、ポリネシアでは所有の概念を、その人に不可分の所有「tō」と、いつでも変更できる所有「tā」とに分けて記述するのが普通です。「To」は我々の所有の考え方と同じ意味での、つまり所有の程度を考えない、「貴方の」であるということです。


一行目の後半は次のようになります。

 to tino nehenehe roa
  nehenehe roa(SW)   very beautiful, adorable (とても美しく, 愛らしい)
 あなたの体はとても麗しい


二行目「To tino haviti mai te purotu」は次のように分けられます。まず前半部です。

 To tino haviti

  hāviti(SW)               fancy, smart, elegant (派手な, スマートな, エレガントな)
 To tino hāviti
 貴方の体は素敵
 

続いて後半部です。


 mai te purotu
  mai(DTT)          like, as, with, since, from (〜のように, 〜のように, 〜で, 〜以

          来, 〜から)

  putotu        a comely, fair person (美しく, 色白の人)
 まるでビーナスのよう

素敵である、美しいと言っておいて、「まるで purotu の様」と言うのですから、「purotu」は美の表象なのでしょう。ポリネシアであれば、「purotu」といえば思い浮かぶ「美しい人」があるのでしょう。それは、我々の理解するところとしては、「ビーナス」でしょう。日本の戦前であれば、「弁財天」などであったかもしれません。

以上より、以下のようになりました。

 1
 E mārama to tino    to tino nehenehe roa
 あなたの体が輝いている  あなたの体はとても麗しい

 To tino hāviti  mai te purotu
 貴方の体は素敵  まるでビーナスのよう



「第2節について」

この節から具体的な情景描写に入ります。一行目「'Ua vehihia 'oe」と二行目「mai te roimata o Hina rave'a」とを合わせて一つの完結した文となります。

 'Ua vehihia 'oe mai te roimata o Hina rave'a

  'ua            動詞完了形標識
  vehi                            to case, or cover a thing (物を覆う)

  -hia                            attached after a verb indicates a passive mode (受動形)
  roimata         涙

  Hina        ヒナ(月の女神)
  rave          take (取る)

  -a           attached after a verb indicates a passive mode (受動形)
 貴方は包まれている 囚われのヒナの涙で

受動形を取る接尾辞として「-hia」と「-a」は発声するときの感じで使い分けられるのだと思われます。ポリネシアにおける完了形「'ua」については注意が必要です。この意味は、動作が完了した状態になっているということです。ですから、「覆われる」という動作が完了しているので、「覆われている」のです。それで、この状況について考えてみましょうか。まず涙ですが、最後の行で種明かしされているように、タヒチの花、特に、白いティアレ タヒチのことです。「包まれている」のですから、単に飾り花を「付けて」いる段階を通り越して、この女性がよく見えないほどに、家族たちによって、飾り付けられているものと思われます。この事は、女性がこの様な場面に出てくるのが初めてであることを表しています。経験があるならば、飾り付けは適度な範囲に留めるからです。それが次の行の表現に結びつきます。


三行目です。

 Na te tiare Tahiti e vehi e vehi to tino
  na          by, for, by way of (〜によって, 〜のために, 〜として)

  tiare Tahiti          gardenia taitensis (ティアレ  タヒチ)
 ティアレ タヒチが  覆う 覆う貴方の体を

ここで、主語と目的語が曖昧になっています。通常の タヒチ語の動詞文ですと、「to tino」が「vehi」の主語になるのですが、状況から鑑みて、ヒナの涙が覆うように、花が「to tino」を覆っているのですから、「目的語」をあらわす「i」が「to tino」の前で省略されているものと考えられます。[論点 B ]  「E vehi i to tino」は語感的に良くなさそうな感じはします。そうすると、主語が書かれていないのですが、飾り付けたのは誰かと考えると、母親や姉たちだと考えられます。当の女性はどう思っているかと想像すると、新しい社交の場への気後れもあり、家族たちが精一杯に飾り付けた沢山の花飾りに困っていることも在るのではないかと思います。それで、困惑している状況が囚われのヒナが涙を流しているのに重ね合わされて、飾り付けられたティアレタヒチの花がヒナの涙のようだと言ったのかも知れません。

以上より次のようになりました。

 2
 'Ua vehihia 'oe
 貴方は包まれている

 mai te roimata o Hina rave'a
 囚われのヒナの涙で

 Na te tiare Tahiti e vehi e vehi to tino

 ティアレ タヒチが  覆う 覆う貴方の体を

これらの情景を見ているもの(達)がいるはずですが、まだ、彼らについては何も述べられていません。

 

ちなみに、「vehi」を単に「覆う」と考えるだけでよいのかという当然の疑問があります。ハワイ語の対応する語「wehi」には「飾り付ける」という意味もあります。それでは、「vehi」にも飾るという意味があったのに、見逃したのではないかと思われるかも知れませんが、事はそう単純ではありません。「Vehi」は大切に保管するという意味を表すものと思われます。大切に保管しておく時には、ポリネシアでは、見た目が良くなるように飾り付ける習慣があるようです。この点についてはここではこれ以上議論しません。それで、ハワイ語では「飾り付ける」という意味合いが入っています。ところが、タヒチ語では、上にあげたどの辞書を見ても、「vehi」は覆いを掛けるという意味しか持ちません。その理由は簡単です。タヒチ語では接頭辞「fa'a-」による「他動詞化」が徹底して行われるため、「飾り付ける」には、例えば、 fa'a 動詞の「fa'a'una'una」などの多くの動詞が用意されているためです。しかし、ハワイ語には基本的に fa'a 動詞はありません。このため、本来は保管するという意味の「wehi」に飾り付けるという意味も含まれるようになったと思われます。しかも、問題をもっと複雑にしているのは、飾る対象が女性のように本来が美しい対象を更に飾るのか、机のように特に美しくもない実用品を飾るのかで、使う言葉が違うことです。実は、これは英語の「adorn」と「decorate」の違いにも現れる、男女の区別がある限り、世界共通の問題なのです。これらの点については、いずれ、項を改めて議論してみたいと思います。



「第3節について」

ここで情景が変わり、月が登って、明るく良く見えるようになります。まず、一行目です。

 E 'ua hiti te marama
  ē            and (そして)

  hiti                             to rise, applied to the sun, moon, and stars (昇る, ただし太陽, 

          月, 星に適用される)
  marama    moon
 Ē 'ua hiti te marama
 そして、月が昇った


二行目ですが、ここから、解釈が難しくなっていきます。文は「Hei ia ravarava e」です。後半の「ravarava」は、既に議論した様に、花飾りではなく、人について記述するものです。ですから、考えるべきは「hei ia」の解釈です。「Ravarava」は形容詞ですから、この文は動詞のない文であると考えられます。そうすると、「hei」は名詞であり、「ia」は名詞の後に来ていますから、意味としては限られてきます。

 Hei ia ravarava e
  ia               that, or it, as eaha ia? what is that? (あれ, それ, あるいは

          「eaha ia ?」の形で「それは何ですか ?」)

          例: e mea ia, it is such a thing.
  ia(SW)                       after nouns or verbs; specifies the predicate; especially if the 

          subject is before the predicate, ia refers to what preceeds and 

          may sometimes be translated by "then," "while," "of which it 

          was a question" (名詞または動詞の後に置かれ, 述語を指定.

          特に主語が述語の前にある場合, ia は先行するものを指し, 

          「それから」,「しながら」,「それが疑問だった」などと翻訳

          されることもある。)
  e        感嘆詞
 冠の貴方 素敵ですよ

一般に「 hei 」は花飾りを意味しますが、聖書、特に旧約聖書においては「冠」を表す場合が沢山あります。タヒチはキリスト教文化圏でから、聖書の事実はよく知られています。それで、行の冒頭の「 hei ia 」は「その冠」と考えました。その「冠」を被っているのは件の女性です。述語に相当する「ravarava」は人に適用する形容詞ですから、「hei ia」は「冠の貴方」と解釈すべきだと思います。[論点 C ]  この様に解釈することにより、タイトルが意味を持ってきます。

 

この行については、最初の「hei」は強く発声した「 e 」の聞き違いで、「E  ia  ravarava  e」であるとする案もありました。これですと、すんなりと、「貴方は素敵ですよ」と言えそうです。しかし、「hei」が歌詞のどこにも出て来なくなります。タイトルにあった言葉が歌詞のどこにもないのは、やはり、おかしいと思います。「Hei」と「(rava)rava」が同時に現れる可能性のあるのはここだけです。



三行目「To mata hamirimiri poiherehia e matou」ですが、少し前振りがあります。

 

この文「To mata hamirimiri poiherehia e matou」には「hamirimiri」という、理解の難しい語があります。フランス領ポリネシアの言語図 [8] によれば、トゥアモトゥ諸島の東端の付近で、動詞「mirimiri (撫でる) 」の代わりに「hāmirimiri」が使われています。これは「ha'amirimiri」が訛ったものでしょうが、動詞の「poiherehia」と連続するので具合が悪いのです。それで、クック諸島の Rarotonga の言葉「hāmurimuri」の訛りではないかと指摘されているのです。クック諸島マオリ語のオンライン辞書 [9] では「murimuri (背中) 」がありますが、「hāmurimuri」はありませんでした。更に調べてみますと、Halia (ハリア) 語のオンライン辞書 [10] に「mata (前方) 」と「hamurimuri (後方) 」がありました。ハリア語は ブーゲンビル島の一部で話されている ポリネシア系の言語で、この語を話す人たちは民族的には ソロモン諸島 の人たちと繋がりがあります。順番としては、ここから フィジー諸島、サモア諸島、そしてクック諸島と ポリネシア人の祖先が渡ってきていますので、クック諸島で「hamurimuri」が使われていたとしてもおかしくはありません。この様に考えて、次のように進めます。

 To mata hamirimiri poiherehia e matou
  to       あなたの

  mata[10]    前方
  hamirimiri   「hamurimuri」の訛り

  hamurimuri[10]   後方. 

          「 mata hamurimuri」で「前から後ろ(まで) 」[論点 D ]

  poiherehia   大切にされる

  rave          take (取る)
  e          ~によって

  matou         私たち
 貴方全ては私たちによって大切にされます
 (貴方全てを私たちは大切にします)

「 Hamirimiri 」が本来は「 hamurimuri 」であるとすればこの通りです。しかし、それならなぜ単に「hamurimuri」と歌わなかったのでしょう。あるいは、聞いている人に「 mirimiri 」への連想を持って欲しかったのかも知れません。

以上より、次のようになります。

 3
 Ē 'ua hiti te marama
 そして、月が昇った

 Hei ia ravarava e
 冠の貴方 素敵ですよ

 To mata hamirimiri poiherehia e matou
 貴方全てを私たちは大切にします

これで、この女性を見ている者たちは、この女性が加わろうとしている集団であることが明らかになりました。青年になったので、お祭りのときなどを契機として、この女性はこの青年団に加わったと言うことなのでしょう。歌詞の上からは、とても初々しい状況が浮かびます。




【日本語歌詞のまとめ】

得られた日本語歌詞をまとめると以下のようになります。

  Heiarava (素敵な冠の貴方)
        by  E. Teto and D. Naehu

 1
 E mārama to tino to tino nehenehe roa  貴方の体が輝いている  とても麗しい
 To tino hāviti mai te purotu        貴方の体は素敵  まるでビーナスのよう

 2
 'Ua vehihia 'oe                 貴方は包まれている

 mai te roimata o Hina rave'a          囚われのヒナの涙で
 Na te tiare Tahiti e vehi e vehi to tino    ティアレ タヒチが覆う 覆う 貴方の体

 3
 Ē 'ua hiti te marama             そして、月が昇った

 Hei ia ravarava e             冠の貴方 素敵ですよ

 To mata hamirimiri poiherehia e matou    貴方全てを私たちは大切にします


歌詞の解析から考えた状況では、ここに現れた女性はとても初々しく思われます。それに対して、「冠の貴方」と言うのは少し面白がって言っているようなところがあります。歌のタイトルも、その様な面白みで付けたのでしょうか。タイトルだけからすると、何か堂々として素晴らしい方がいらしたような感じがします。そうすると、「hamurimuri」を「hamirimiri」と歌っているのも、少し面白がっているように思えます。

 

 

 

少しお休みです。面白がっているという点で、頭に浮かぶのがこの方です。

 

2022/10/6より、2026/1/1作成


この方、ウアケア佳奈子さんは、通常は、とても奥ゆかしい踊り方をされるのですが、この曲だけはかなり大胆な踊り方をされます。具体的には、2節目で踊り手の方々が舞台前方に出てこられる時に、ビデオを撮っている人に挑むような、或いは、からかうような表情とモーションをお向けになるのです。この演目があった当時、2022年後半から2023年始め、には理由が分かりませんでした。この素人カメラマンも二度ほど経験しています。今回の解析を行った結果、「hei ia」と言い、「hamirimiri」と言い、どうもこの歌には諧謔が感じられます。この方は、それを踊りの中で表現されたのかも知れません。しかし、このスナップ ショット。この方の姿勢には緊張もないし、緩みもありませんね。左手の親指が長く見えるのは、掌がそのまま表に出ないように、親指を根本から手のひら側に折りたたんでいるからです。そして、この方の背中は満ちていて、美しいのです。

 

 

 

 

【残る課題】

 

ここまで、出来る範囲内で歌詞を確定し、そのタヒチ語歌詞の日本語への翻訳を試みて、日本語歌詞の原案を作りました。今後は、この日本語歌詞原案を基にして、実際に歌える日本語歌詞を案出することになります。しかし、日本語歌詞原案には4つの不安点があります。
 

 論点 A  タイトル「Heiarava」の解釈

 論点 B  「e vehi to tino」で「to tino」を目的語として良いか

 論点 C  「hei ia」を「冠の貴方」として良いか

 論点 D  「 mata hamurimuri」で「前から後ろ(まで) 」として良いか

 

論点 B はあり得るかと思います。論点の A と C は基本的に同じで、この様な言葉のトリックが許されるのかということです。言語の面から考えてみなければならないでしょう。論点 D については、踊りの中のモーションがこの様な解釈に従っているのかを調べてみれば分かるかも知れません。

 

 

 

 

【おわりに】

 

今まで手をこまねいていた疑問点を解消すべく、再度「ヘイ アラヴァ」を検討してみました。いろんな詩の解析を行ってきたためか、当初よりは深い解析が出来たかと思います。目標は「日本語で踊るポリネシアン」ですから、踊りと整合するという観点からすると、先は見えてきた思いはします。このために ウアケアさんの踊る「ヘイ アラヴァ」を限りなく繰り返して拝見しました。そして、色々と書きたいことがあります。それは、アカペラのご報告の際に書かせていただきましょう。






[1] New Generation Singers: TuTu'i Te Ramepa Ora,

[2] H. J. Davies, A Tahitian and English Dictionary: With Introductory Remarks on
  the Polynesian Language, and a Short Grammar of the Tahitian Dialect,
  London Missionary Society's Press, 1851.  (Classic Reprint).

[3] Sven Wahlroos, English-Tahitian Tahitian-English Dictionary. Sven Wahlroos,
  2002.

[4] J. Frnak Stimson and Donald Stanley Marshall, A Dictionary of Some
  Tuamotuan Dialects of the Polynesian Language.  The Peabody Museum
  of Salem, Massachusetts, 1964.

[5] Edward Tregear, The Maori-Polynesian Comparative Dictionary. Lyon and
  Blair, Wellington, 1891,

[6] D. T. Tryon, Conversational Tahitian: An Introduction to the Tahitian
  Language of French Polynesia. Univ. California Press, 1970.

[7] Marau Taaroa and Henry Adams, TAHITI: Memoirs of Arii Taimai E. Paris, 1901.

 

[8] Jean-Michel Charpentier and Alexandre François, Linguistic Atlas of French

   Polynesia . Walter de Gruyter GmbH and Université de la Polynésie française, 

  2015.

 

[9] Dictionary of Cook Islands languages , on-line dictionary.

 

[10] HALIA DICTIONARY , on-line dictionary.