かーちゃんの自宅の近くに、桜の名所がある。
毎年、街中から、よそからの観光客も、大勢の人達が桜を見に訪れる。
夜にはライトアップもされて、夜桜を幻想的に見ることができる。
かーちゃんも、日中はそこらを通りかかるるので、日中の桜見物はしなかったが、夜に夜桜を見に行くのが恒例になっていた。
うつ病の診断を受けて初めての春。
ダンスにも復活し始めた頃、ある夜、家族で夜桜を見に行くことにした。
とーちゃんが娘1号の手を引き、かーちゃんが娘2号のベビーカーを押して、みんなで歩いて出かけた。
夜桜は、たしかにキレイだった。
この夜桜を見るまではよかったのだ。
かーちゃんの様子がおかしくなりだしたのは、帰り道のこと。
だんだん黙り込んで、口数が少なくなっていく。
表情も暗く沈んでいく。
「・・・・・・・・・・・・・???」
とーちゃんも、異変を察知する。
家にたどり着いたときには、もう半泣きだ。
「もう夜桜なんて二度と見に行かない」という始末。
何がダメだったのか。
答えは実にくだらない。
「帰り道の裏道が錆びれた商店街。その雰囲気があまりに暗くて悲しくなった」
というだけのこと。
実は帰り道、とーちゃんは行きとは別の道を通ろうとして、
「こっち通って帰ろう」と、営業時間が終わって、シャッターがしまっている店が並ぶ商店街を通り抜けて帰ったのだ。
この商店街がいけなかった。
ただでさえ、活気のない商店街で、いかにも裏ぶれた感じのする通り。
夜ともなれば、その錆びれた感はもっと増す。
この雰囲気、健常者なら
「あれあれ、こんなに錆びれちゃって」ぐらに思うのだろうが、うつ病患者は、負の感情をおさめる容器の容量が極小だ。
「悲しい・寂しい」という感情が、行き場をなくしてさまよい始める。
感情のコントロールができなくなり、泣き出してしまう。
「行きとは違う道を通って帰ろう♪」と、楽しいことを提案したつもりのとーちゃんのアイデアが、裏目に出た。
かーちゃんは、「夜桜=寂しい」イメージが定着してしまい(寂しいのは商店街であり、桜じゃなかったのだが)、トラウマ化して、この年からしばらく、夜桜見物に行けなくなってしまった。
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