かーちゃんにこの症状がひどいとき、とーちゃんは、娘達を連れて、近くのとーちゃんの実家に滞在した。
家にはかーちゃん一人が残る。
「何も見えたくな~い!」
「何も聞こえたくな~い!」
と全てを拒否している人間は、無音・不可視の「無」の状態に置いてあげるよりない。
家族だって、こんな患者と一緒にいるのは苦痛だ。
互いのためにも、時々こんなお互いの「避難生活」をした。
もちろんこれは、かーちゃんの状態次第だ。
前にも述べたが、
「何も見たくない、聞きたくないけど、一人はイヤ‼」
と強く思っているときもあるので、そこは状態を見て判断する。
「オレ、子供達連れて実家に行こうか?」
こうとーちゃんに聞かれて、
「うん」
と答えられれば調子は上々♪
「……………」
と黙り込んでしまうと、本人も判断する力がない証拠。
挙げ句の果てには、
「どーしてもらったらいいか、自分でもわからないんだよぅ!!」



と泣き出す始末なので、とーちゃんも判断どころが難しかった。
そんなときは、様子を見て、
「実家に帰っとくよ」
「やっぱ家におるよ」
のどちらか、とーちゃんが結論を出してやらねばならない。
間違っても、
「じゃあどーすんだよ?!どっちなのか決めろよ‼」
とブチ切れて、本人に判断を迫ってはいけない。
そうされると本人は追い詰められて、ますますどうしていいかわからずに苦しむ。
どうせ二人ともどうしていいかわからずに悩むことになるのなら、健常者の方が最終的に悩む役を引き受けよう。
とーちゃんも、心の中では、
「じゃあどうしろっつーんだよ!‼」
とブチ切れていたが、
「この人はこういう状態。
仕方ないもの。
ここでオレが切れても仕方ない……」
と、とにかく「仕方ない」で通して、必死で耐えた


そして、家をあけることにしても、2日ぐらいで必ず帰宅した。
それだけかーちゃんは、一人にしておけない状態だった。