その日の少年は深い眠りにつく。

いつもと比べられないほど、深い眠りにつく。


少年は父と母に感謝する。

いつも少年を見守る力が、父と母の眼差しであると気がつく。


その眠りの奥深くには、少年が学校で不安に過ごしていた、辛い記憶が存在する。


その辛い時期をのり越えるために、少年は眠りにつく時には、あたたかな存在を感じていた。


なにか大きな存在に守られて、心にゆとりを与えてくれていると感じていた。


その頃には、まだ分からない、やさしくて大きな存在。


あたたかな光に包まれながら、それを理解できずにいた頃、少年は寂寞(せきばく)とした日々を過ごしていた。


その光が導いてくれたかのように、少年は傷みの伴う時間を、いつしか通り過ぎていた。


あの頃に気づくことができなかった、少年を包み込む温かな存在。


少年は眠りにつきながら感謝する。

あたたかく、そして柔らかな光。

それに包まれて、少年の不安は和らいでいく。

身近なところに存在した、優しく少年を見守る人々。


いつしか少年はクラスメイトにも感謝していた。

少年の至らないところを気づかせてくれた人。

そして少年が変わることを信じてくれた人。

彼らは少年が心を開くまで、ひたすら待ち続けていたのかもしれない。

どのような形であるにしろ、少年の足りないことを気づかせる力が、そこには存在したと言える。

そして少年は、その力に導かれて、大切なものを手にすることができた。


あまりにも曖昧で、漠然としているが、すべてのことに感謝していた。

感謝の心が体に揺らぎを与えていた。


少年は家に帰ると、いつものように机へ向かう。

そこで宿題を終えると、母が帰るまでテレビを見る。

友達との話題は、この番組から始まる。

見逃す訳にはいかない。


母が帰宅して、食事を作る。

そして父が帰る頃に、食事の支度ができあがる。

少年は以前と比べて、穏やかな気持ちで夕食を口にする。

学校で友達と語らうことも、最近ではとても楽しい。

小川で過ごす時間も、少年の心に潤いを与える。

そんな心地よさが少年の胸に収まっている。

それを詳しく知らない父と母も、温かい目で少年を見守る。

この温かな眼差しが、少年を勇気づける力の一つなのかもしれない。


少年は両親と食事をとる。

温かな時間を家族と過ごす。

時には父と風呂に入る。

そこには男同士の語らいがある。

以前には、母と風呂に入ることもあった。

少年が持ちえることのない、いたわりの思いが、そこに感じられた。


昔から変わることのない、家族の姿がここにある。

少年が一人で悩み、苦しんでいる時も、この家族で過ごす時間があればこそ、のり越えることができたのかもしれない。

あらためて少年は感謝する。

三人で寝床に入る時に、父と母の子に生まれたことを感謝して眠りにつく。


いつしか少年は、パンをわたし終える。


大切なものを失う前であるかのように、幾ばくかの不安が胸に膨らみ続けている。


その渦を巻くような不安の正体を、まだ少年は理解できずにいる。


とにかく少年は、なにか強い力に導かれていることを感じている。


まるで仕事を終えた父親のように、少年は頭に浮かぶ映像を胸にしまい込む。


そして少年は物思いに耽りながら帰宅する。


その後ろ姿を眺めることもなく、猫と鴨の親子も家路につく。


三者三様の思いが、それぞれの道を歩き出す。