二人はバスローブをまとうと、ドリンクを取り出して喉の渇きを潤した。

お互いを見つめ合いながら、ぬくもりを感じるように体を寄せ合う。

もう掛ける言葉はない。

瞼を閉じる先には未来が浮かぶ。

雪が舞う外の寒さを感じることもなく、絡み合う口づけが体を熱くさせる。

彼は彼女を思いながら、やさしく愛美を抱きしめる。

この先は結ばれないと知りながら、愛美が幸せをつかむように願いを込める。

これまで、彼は人のために祈りを捧げることなど決してなかった。

自分が幸せをつかむために、願いを掛けることもなかった。


二人の体に熱いものが、ほとばしる。

浴室で体を重ね合わせながら、熱い口づけを続けた。

そして男は淡い蕾を開くように、ゆっくりと愛撫を繰り返した。

しかし口づけの先に、けっして進むことはなかった。


浴室を出た後も、ほのかに赤みがかった彼女の体を丁寧に拭くだけだった。

きっと彼は、彼女の体に願いを込めていたはずである。

この先も彼女の穏やかな心が、多くの魂を救うのだと信じているのかもしれない。

彼の中で彼女を慕う深い思いが、ひたすら膨らみ続ける。

その心地よい支配に身を任せようとしている。

だからこそ彼女の美しい肉体を前にして、それ以上の欲望が目覚めなかった。

つまり強い絆が、知らずに二人を強く結びつけていた。


めくるめく、ひと時が過ぎる。

まだ幼くも見える彼女の体を男は丁寧に洗い流す。

それほどの穢れがあるとは思えない、彼女の体を洗い清める。

それは神前に向かう聖女の禊ぎにも似ている。

まるで神聖な儀式を連想させる。

そして彼女をバスタブに誘い、後ろから包み込むように抱きしめる。

心から彼女を慈しむかのように、あたたかな感情を膨らませる。

「本当に…、ありがとう」

「………」

男の掛ける感謝の言葉は、囁くように伝えられた。

それに対して女は何も答えず、ただ静かに頷いた。

男は浴槽の横につく、ひとつ目のスイッチを押した。

それは明かりを暗くして、浴室に静かな曲を流し始めた。

もう一つのスイッチを押すと、湯船に泡が溢れ出した。

彼女は照れながら体をあずける。

寄り添う二人の肉体は、いつしか一つであるかのように密着している。

これまでにないような感覚が、二人の中で蕩けるような甘い記憶として刻み込まれる。

「キミと出会えたおかげで、彼女に告白する勇気をもらえた。もし良ければ、名前を教えてくれないか?」

この時点まで名前を知らずに、男は女に慈しみを覚えた。

その思いは形を変えて、彼が結婚の決意をした彼女のもとへ届くのかもしれない。

「…マナミです。愛するに美しいで、愛美と言います」

少し声は小さいが、今までにないほど透き通る声で彼女は答えた。

名は体を表わす。もしかすると彼女は愛されることで、美しさに磨きを掛ける素質があるのかもしれない。

そして美しいものを愛することで、この世界を取り巻く混沌を、ある一面で綺麗にまとめ上げると考えたい。

もちろんそのような秘められた力は、多くの者が持つものではない。

それでも同じ志を持つ者が、静かに寄り添えるなら、良い縁を引き寄せることになるだろう。

そのつながりが、いつしか素晴らしい結末を導くのだと信じたい。