めくるめく、ひと時が過ぎる。
まだ幼くも見える彼女の体を男は丁寧に洗い流す。
それほどの穢れがあるとは思えない、彼女の体を洗い清める。
それは神前に向かう聖女の禊ぎにも似ている。
まるで神聖な儀式を連想させる。
そして彼女をバスタブに誘い、後ろから包み込むように抱きしめる。
心から彼女を慈しむかのように、あたたかな感情を膨らませる。
「本当に…、ありがとう」
「………」
男の掛ける感謝の言葉は、囁くように伝えられた。
それに対して女は何も答えず、ただ静かに頷いた。
男は浴槽の横につく、ひとつ目のスイッチを押した。
それは明かりを暗くして、浴室に静かな曲を流し始めた。
もう一つのスイッチを押すと、湯船に泡が溢れ出した。
彼女は照れながら体をあずける。
寄り添う二人の肉体は、いつしか一つであるかのように密着している。
これまでにないような感覚が、二人の中で蕩けるような甘い記憶として刻み込まれる。
「キミと出会えたおかげで、彼女に告白する勇気をもらえた。もし良ければ、名前を教えてくれないか?」
この時点まで名前を知らずに、男は女に慈しみを覚えた。
その思いは形を変えて、彼が結婚の決意をした彼女のもとへ届くのかもしれない。
「…マナミです。愛するに美しいで、愛美と言います」
少し声は小さいが、今までにないほど透き通る声で彼女は答えた。
名は体を表わす。もしかすると彼女は愛されることで、美しさに磨きを掛ける素質があるのかもしれない。
そして美しいものを愛することで、この世界を取り巻く混沌を、ある一面で綺麗にまとめ上げると考えたい。
もちろんそのような秘められた力は、多くの者が持つものではない。
それでも同じ志を持つ者が、静かに寄り添えるなら、良い縁を引き寄せることになるだろう。
そのつながりが、いつしか素晴らしい結末を導くのだと信じたい。