先日、広島県尾道市にあるNPO法人シネマ尾道の代表をされている河本清順さんをおたずねし、コミュニティシネマについてお話を聞かせていただいた。


井の中の蛙、大海を知りたい!-シネマ尾道遠景
シネマ尾道(遠景)JR尾道駅前という抜群の立地条件


井の中の蛙、大海を知りたい!-シネマ尾道近景

シネマ尾道近景


映画館を取り巻く状況として、地方都市では郊外のショッピングセンターに併設されるシネコン(複数のスクリーンがある映画館)に押され、だんだんと映画館単独では運営できず、中心部から映画館が消えていく傾向があるようで、映画業界そのものにおいてもDVDやインターネット動画におされ、来場者数の伸び悩みがあるというのが現状のようだ。

さて、尾道市は大林宣彦監督の映画三部作に代表されるように、「映画の町」といわれていたにもかかわらず、他の地方都市と同様に来場者の伸び悩みから2000年からは唯一あった映画館が閉鎖され、このシネマ尾道が開設されるまで市内に映画館がないという状況だったそうである。


そんな中、2004年9月から河本さんたちの若い人たちのグループが「これじゃいけない」と考え、映画館を再開するために市民活動を開始し、再開のための資金を市民から募り、運営をNPO法人が行うという「市民型映画館(コミュニティシネマ)」ともいうべき、珍しい形態の映画館がいよいよ2008年10月18日に開館することとなった。

その映画館開設に至るプロセスがたいへん勉強になったので、簡単ではあるがNPO法人シネマ尾道のこれまでの活動のあゆみについて紹介したい。


①最初は3人からスタート
最初は同じおもいをもつ3名の仲間からスタートしたが、3人とも具体的にどうやったら映画館が再興できるかわからなかった上に、単なる映画好きでしかなかった(河本さん談)そうで、映画業界に関することや、映画館を運営する知識やノウハウは全くなかったという状況からのスタートとなった。


②まずは勉強から
そこで、まずは映画業界のこと、全国の映画館の状況を知ろうということで、大阪シネヌーヴォー、京都シネマ、シネマティーク高崎、深谷シネマ、シネウィンドウなど、全国各地の市民型映画館(コミュニティシネマ)を訪問し、映画館の運営方法を勉強することにした。


③勉強した中で自分たちができる道を探す
そして勉強する中で、「市民映画館」を目指したいということから、「市民から募金を募ること」と「映画と地域の関わり」について考えるイベント(野外上映会やシンポジウムなど)を継続的に行うことにより、地域への広がりを意識するとともに、映画を上映するには映写技師が必要なこともあり、自分たちでその技術を学んだりして、映画館再開のための努力も行ったそうである。


④目標額は2700万円
幸いにも最後に閉館した映画館がそのまま残されており、軽微な改装だけでよいということであったが、それでも運営を開始するためには2700万円という多額の資金が必要であることもあわせて判明し、次第に地道な活動がマスコミでもとりあげられるようになり、多くの方の支援を受け、市民700人と企業からの募金により2500万円を集め、ついに映画館の開館を2008年10月18日にオープンすることができたそうである。
座席数は112席、コミュニティシネマにしては座席数は多い部類に入るそうだが(たいていは50席から60席程度)、それでも現時点では採算はとれているとのこと。

井の中の蛙、大海を知りたい!-館内
ゆったり広々の112席


井の中の蛙、大海を知りたい!-座席
座席は茨城県の閉館した映画館より譲り受けたもの


⑤NPO法人化と補助金に頼らない仕組み
当初は任意団体「尾道に映画館をつくる会」であったのが、活動を本格化させてゆくゆくは映画館を運営していくためには法人格をとる必要があり、ボランティアの力を利用しやすいNPO法人格を2006年10月に取得し、これまで行政からの補助金は一切受けていないというところは「市民のための映画館」というコンセプトどおりであり、流石というべきであろう。


⑥大学との連携
NPO法人の理事に大学の先生に参画してもらい、学生ボランティアスタッフが中心となり交代で映画館の運営を行っていることもあって、大学の力、学生の力をうまく利用して活動を行っているのが特徴のひとつである。


⑦上映作品は2番館
上映する映画も最新作を提供するのではなく、少し封切り期間が経過した2番館方式による映画を上映している。来館者アンケートの結果も踏まえて上映する映画を決めており、これは多くのコミュニティシネマで共通するところで、経費面が安いというのもひとつの理由とのこと。


⑧映画館を地域交流の場(サロン)に
毎週火曜日が休館日で、休館日は地域貢献日ということでさまざまな交流の場として提供している。文化講座であったり、講演会会場であったり、地域交流活動の場としての映画館を目指しており、たとえば映画館では韓国映画特集を組み、火曜日には上映映画の名シーンを学習できるハングル講座を他の団体と連携して行うなど、単なる映画を上映する枠にとどまらない取組みをしようとしている。
また、市民映画祭「尾道映画祭」の開催や、商店街の連携、市内の他団体との連携によるイベントの開催、他のコミュニティシネマとの連携など、さまざまな仕掛けをこれからも行っていくということであった。

井の中の蛙、大海を知りたい!-尾道の町並み
尾道の町並み

井の中の蛙、大海を知りたい!-尾道の商店街
尾道の商店街にあるレトロな建物


⑨課題は持続的な運営
現在は支配人である河本さんも自らボランティアでやっていることから黒字になっているが、今後は持続的に活動を行うための「常勤スタッフ」を雇う場合、その資金づくりなどの課題があり、このあたりはどこのNPO法人でもかかえる課題と言える。


以上、簡単ながらシネマ尾道のこれまでの取り組みをご紹介した。映画館による地域づくり、なかなか奥が深いようで、たとえば深谷市にある深谷シネマでは、商店街の空き店舗を利用して映画館を開設したが、映画館の周辺のお店の売り上げが伸びたなどの成果もあったそうである。
かつてはだいたいどこの地方の小都市の市内中心部には映画があったものだが、深谷の事例を見ていると、映画館がなくなったことにより商店街にも人が少なくなってしまった要因が少なからずあったのかもしれないと思うと、「たかが映画館、されど映画館だ」と言えるのではないだろうか。