
『西寧出発』
久しぶりに旅で出会った友達なんかと酒を飲み交わすとふと旅心がちらほらと春のツクシの様にポツポツと芽吹いてしまうもんである。
ここは京都西陣にあるDamsideのカウンター。
チベットに行ってみたくってね、しかも電車で行けるっていうじゃない?そう1年前の話
西寧駅でゴルムド行きのチケット売り場はどこにあるのかとウロウロキョロキョロしていた時、一人の男が声をかけてきた。埃で薄汚れた背広。ヤニで黄色くなった歯。決して表向きには光らないするどい眼光。どこからどう見ても怪しい男だ。
男:チベットに行くんだろ?
おれ:・・・
男:お前、郵政賓館の310号室にいる日本人だろ?
おれ:・・・(なぜそんなことを知ってる???)
男:ラサに行くんだろ?
確信を持った声でもう一度言い、その薄汚れた背広の内ポケットからシワクチャになった時刻表を取り出した。
おれ:・・・
男:とりあえずお前のホテルで話だけでもしよう。
そう言って男は振り返りもせずに歩き出した。今の情況を頭の中で整理しようにも分かるわけでもない。言われるがままに男について行き、ホテルのロビーの席に着いた。
男:それでいつ行きたいんだ?
おれ:明日
男:そいつは厳しいな
おれ:明日
男:やれやれ・・・やれるだけのことはやってみよう。今日の19時にもう一度ここに来な。
そこで男と別れおれは部屋に戻った。時計を見るとまだ13時だ。とりあえずシャワーを浴び、それまでの間何をするあてもないし、ホテルの隣の露店で買ってきたビールを飲みつつさてどうするものかとない頭をひねりつつ2本目のビールを空けた。
突然ドアがノックされた。ノックは突然されるもんだとわかってはいても知り合いがいるわけでもない異国の地では訝しいものである。
ドアを開けると男が立っていた。
男:希望通り明日だ。
(・・・なぜ本当におれの部屋を???しかもまだ15時にもなってないし・・・)冷静を装いながら
おれ:いくらかきいてなかったが?
男:切符代が硬臥の下段で523元。友達の公安局長に500元。それに200元でいい。
おれ:わかった。1123元にしよう。
男はしょうがなさそうに肩をすぼめた。
そして旅行健康証なるものを出し説明するのだが3000m以上の高地でも私は問題なく旅行できます。などという内容がつらつらと書かれているのだが・・・どう考えても大丈夫なわけがない。
男:これでお前は明後日にはラサだ。何も心配いらない。明日の19:30に下のロビーで待っててくれ。
どう考えても心配しか残らない。

『西寧発ラサ行きの切符』
翌日になり、時間通りロビーに降りると男は待っていた。駅までおれのバックパックを担ぎ電車が来ると男は片手をあげて去っていった。
電車に乗り込むと車掌と公安がチケットと旅行健康証を提示せよ。と。
おれは黙ってそれを提示したのだが、それでもなにやらひつこく聞いてくる。たぶんツアーの他の人間はどこだ?とかそんなことなんだろうが中国語なんてさっぱり分からないし、分かったところでいるはずもない。出来ることはといえば何も分からないという態度を取るだけだった。
その時車掌の後ろにいた公安が一言「問題ない」
おれ:・・・
結局その公安が男の友人だったのかどうかはわからない。
20:07正確にラサに向けてゴトン・・・ゴトン・・・出発した。
いやーほんと乗れるもんなんですねー正直不安でしたよ。
つづく

