【 調べ物って本当に有効な手段なの? 】

 

 

翻訳関係の雑誌を眺めていると、

『 翻訳者にとって調べ物こそ大切な作業です! 』という記事を見かけることがあります。

その意見を否定したりはしませんが、実は辞書とか調べ物とかで得られる情報を有効に活用するって、結構スキルが必要なことだったりします。

 

 

【 マンガで分かる 翻訳ってどんな仕事? 】の記事で解説してきたように、原文の内容を理解( 要約 )できる人であれば、下記のイラストの社長の言葉( 原文 )が、マンガの1コマ目のように認識できていますが、原文の内容を理解( 要約 )できない人であれば、社長の言葉が、マンガの2コマ目のようにしか認識できていません。

 

 

 

【 マンガで分かる翻訳 1コマ目 】

 

 

 

【 マンガで分かる翻訳 1コマ目 】

 

 

 

 

 

【 マンガで分かる翻訳 2コマ目 】

 

 

【 マンガで分かる翻訳 2コマ目 】

 

 

これを端的にまとめると

原文の内容をある程度理解できる人なら、辞書とか調べ物を有効に活用できますが、原文の内容を全然理解できない人なら、辞書とか調べ物で見つけてきた言葉に翻弄されるだけの結果に終わります。

 

『 翻訳者にとって調べ物こそ大切な作業です! 』という考え方は、見つけてきた言葉が原文の内容と一致する情報と一致しない情報にしっかりと分別できる人だけが共感できる言葉で、原文の内容を全然理解できない人にとっては、まだ早い翻訳スキルだと思います。

 

 

 

西洋の言語の特徴としましては、それぞれの文章に含まれている単語の適切なニュアンスとは、その単語と密接に関係している文章との関連性から、もっとも適したニュアンスが決まります。

 

原文の内容を理解して、ニュアンスを捉えきれなかった単語と、その単語と関連性の深い表現の両者がしっかりと認識できていれば、辞書とか調べ物を有効に活用できるようになるわけです。

 

 

 

これを分かりやすく日本語に例えると、下記のように感じになります。

 

【 その単語と関連性の深い表現 】【 ニュアンスを捉えきれなかった単語 】

【 その単語と関連性の深い表現 】【 もっとも適したニュアンス 】

 

【 例題 1 】

原文の内容を理解できる人なら、

【 その単語と関連性の深い表現 】【 ニュアンスを捉えきれなかった単語 】との関連性から辞書や調べ物を活用して、【 もっとも適したニュアンス 】に変換できます。

 

【 例 1 】

【 条件を 】【 つける 】【 条件を 】【 付ける 】

 

【 例 2 】

【 漬物を 】【 つける 】【 漬物を 】【 漬ける 】

 

【 例 3 】

【 電気を 】【 つける 】【 電気を 】【 点ける 】

 

【 例 4 】

【 液体に 】【 つける 】【 液体に 】【 浸ける 】

 

【 例 5 】

【 任務に 】【 ついた 】【 任務に 】【 就いた 】

 

 

【 例題 2 】

原文の内容を全然理解できない人なら、

【 その単語と関連性の深い表現 】が認識できていないため、【 ニュアンスを捉えきれなかった単語 】を辞書や調べ物を活用しても、【 もっとも適したニュアンス 】に変換できません。

 

【 例 1 】

【 条件を 】【 つける 】【 条件を 】【 つける 】

 

【 例 2 】

【 条件を 】【 つける 】【 条件を 】【 つける 】

 

【 例 3 】

【 条件を 】【 つける 】【 条件を 】【 つける 】

 

【 例 4 】

【 条件を 】【 つける 】【 条件を 】【 つける 】

 

【 例 5 】

【 条件を 】【 ついた 】【 条件を 】【 つける 】

 

辞書に記載されている言葉の意味というのは、一つの単語に複数の意味が紹介されていて、どんな言葉と組み合わさると、こういう意味になりますよ!ということが記載されていますが、そもそも、原文の対象となる言葉( ひらがな )と密接に関係している文章が認識できなければ、どういう言葉( 漢字 )に変換するべきなのか判断できなくなります。

 

 

 

 

例えば原文の内容を90%以上理解できている翻訳者の訳文が下記の状態で認識できていると仮定すれば、【 ニュアンスを捉えきれなかった単語 】が、下記のように【 ひらがな 】で認識できています。

 

 

【 例題 3 ① 】

【 原文の内容 】【 90%以上認識できている翻訳者 】の訳文

 

私はいにしえの時代の海賊王だ!私の人生の全てを懸けて、

多くの仲間達と共に一繋ぎの秘宝を求めて人生を謳歌した。

この日誌は、そんな私の最期のメッセージである。

私は海軍にその身を拘束され、今から【 こうかい 】処刑される。

 

しかし人生の野望を果たした私に【 こうかい 】はない。

冒険をしていた頃、多くの海を【 こうかい 】してきたが、

今、私はその海を再び【 こうかい 】している。

中国と朝鮮半島の間の【 こうかい 】を越えて、

アフリカ大陸とアラビア半島の間の【 こうかい 】を越えて、

世界各国の【 こうかい 】を越えて、海軍本部へと連行されている。

これが海軍のやり方だ!

奴等は、私を見世物にして海軍の力を示そうとしているのだ!

 

この場合なら、【 こうかいという平仮名 】【 漢字( もっとも適したニュアンス ) 】に変換するときの選択肢を辞書やインターネットで調べれば、下記のような情報が得られます。

 

【 公開 】…公衆に広く開放、提示すること

【 後悔 】…してしまったことに悔いて悩むこと

【 更改 】…あらためかえること

【 後会 】…将来会うこと

【 講会 】…掛け金の取り立て、世話人の選任などの事項を決定する会合

【 航海 】…海上を船で渡っていくこと

【 黄海 】…中国と朝鮮半島の間の海

【 紅海 】アフリカ大陸とアラビア半島の間の

【 公海 】…特定の国家に属さない、各国が平等に使用できる海

【 降海 】…魚が淡水域から海へ移動すること

 

 

この状態で原文の内容が認識できていれば、【 こうかいという平仮名 】【 密接に関係している文章 】との関連性から、【 こうかいという平仮名 】【 もっとも適したニュアンス( 漢字 ) 】に変換することができます。

 

 

【 例題 3 ② 】 【 翻訳品質 意訳 】

【 原文の内容 】【 90%以上認識できている翻訳者 】の最終的な訳文

 

私はいにしえの時代の海賊王だ!私の人生の全てを懸けて、

多くの仲間達と共に一繋ぎの秘宝を求めて人生を謳歌した。

この日誌は、そんな私の【 最期のメッセージである。 】

【 私は海軍にその身を拘束され、】今から【 公開 】【 処刑される。 】

 

しかし【 人生の野望を果たした私に 】【 後悔 】はない。

【 冒険をしていた頃、多くの海を 】【 航海 】してきたが、

【 今、私はその海を再び 】【 航海 】している。

【 中国と朝鮮半島の間の 】【 黄海 】を越えて、

【 アフリカ大陸とアラビア半島の間の 】【 紅海 】を越えて、

【 世界各国の 】【 公海 】を越えて、海軍本部へと連行されている。

これが海軍のやり方だ!

奴等は、私を見世物にして海軍の力を示そうとしているのだ!

 

 

これが辞書とか調べ物で得られた情報を有効に活用できているという状態です!

 

 

【 こうかいという平仮名 】【 適切な漢字( もっとも適したニュアンス ) 】に変換するときの正しい選択肢を全て自分で答えられるのであれば、辞書とか調べ物に費やす時間はゼロになります!

 

【 こうかいという平仮名 】【 適切な漢字( もっとも適したニュアンス ) 】に変換するときの正しい選択肢を辞書を引いて確認しておきたいという方の場合でも、辞書とか調べ物に費やす時間は5分くらいで済むでしょう!

 

 

と、このように原文の内容を自分の頭で理解できてしまう人ほど、

辞書や調べ物に費やす時間が激減します!

 

 

 

 

 

 

 

それに対して、原文の内容を60%未満しか理解できていない翻訳者の訳文とは下記のような状態で認識されています。

 

 

【 例題 4 ① 】

【 原文の内容 】【 60%未満しか理解できていない翻訳者 】の訳文

 

私はいにしえの時代の海賊王だ!私の人生の全てを懸けて、

多くの仲間達と共に一繋ぎの秘宝を求めて人生を謳歌した。

この日誌は、そんな私の最期のメッセージである。

私は海軍にその身を拘束され、今から【 こうかい 】処刑される。

 

しかし人生の野望を果たした私に【 こうかい 】はない。

冒険をしていた頃、多くの海を【 こうかい 】してきたが、

今、私はその海を再び【 こうかい 】している。

中国と朝鮮半島の間の【 こうかい 】を越えて、

アフリカ大陸とアラビア半島の間の【 こうかい 】を越えて、

世界各国の【 こうかい 】を越えて、海軍本部へと連行されている。

これが海軍のやり方だ!

奴等は、私を見世物にして海軍の力を示そうとしているのだ!

 

 

 

 

この状態で、【 こうかいという平仮名 】【 漢字( もっとも適したニュアンス ) 】に変換するときの選択肢を辞書やインターネットで調べれば、下記のような情報が得られますが、【 こうかいという平仮名 】【 密接に関係している文章 】が認識できていないため、どの選択肢を選ぶべきなのか判断できなくなります。

 

【 公開 】…公衆に広く開放、提示すること

【 後悔 】…してしまったことに悔いて悩むこと

【 更改 】…あらためかえること

【 後会 】…将来会うこと

【 講会 】…掛け金の取り立て、世話人の選任などの事項を決定する会合

【 航海 】…海上を船で渡っていくこと

【 黄海 】…中国と朝鮮半島の間の海

【 紅海 】アフリカ大陸とアラビア半島の間の

【 公海 】…特定の国家に属さない、各国が平等に使用できる海

【 降海 】…魚が淡水域から海へ移動すること

 

 

 

【 こうかいという平仮名 】【 漢字( もっとも適したニュアンス ) 】に変換するときの選択肢が上記の10パターンだと仮定した場合、原文の内容を60%未満しか理解できていない翻訳者が対象となる原文において、【  ニュアンスを捉えきれなかった単語( 対象となる平仮名 ) 】を、その文章に【 もっとも適したニュアンス( 漢字 ) 】に変換できる確率は、【 一つの単語 ( 平仮名 ) 】につき10%になります。

 

 

この場合、原文の内容と一致する訳文を作成できる確率を数式で表すと、

1/( 0.1 )×【 乗数X ( ニュアンスを捉えきれなかった単語の総数 】になります。

 

上記の【 例題 4 ① 】の場合ですと、

【 乗数X ( ニュアンスを捉えきれなかった単語の総数 】が全部で6コですので、

1/( 0.1 )×乗数6の確率で原文の内容と一致する訳文を作成できることになります。

 

ザックリと計算致しますと、原文の内容を60%未満しか理解できていない翻訳者が原文の内容と一致する訳文を作成できる確率は、【 1/天文学的数字 】になるため、それを補おうとして辞書とか調べ物にさらにのめり込むようになりますが、調べ物に費やす時間が1時間でも、3日でも、その確率は【 1/天文学的数字 】のままです。

 

 

 

この人たちの理由とは、原文で何が表現されているのかが分からなかったから、一生懸命、辞書や参考書、インターネットなど翻訳に利用できそうなツールをフル活用して調べまくるというものらしいですが、原文の内容を60%未満しか理解できていない状態で、どんなに調べ物に夢中になっていたとしても、ニュアンスを捉えきれなかった言葉と密接に関係している文章が認識できるようにならなければ、この人たちの問題は何も解決しません。

 

 

徹底的に調べた情報が原文の内容と一致する情報なら、有意義な時間を過ごせますが、

徹底的に調べた情報が原文の内容と全然関係ない情報であった場合、

その調べ物に費やしてきた時間の全てが無駄な努力に終わってしまいます。

 

 

その結果、『 インターネットで、たまたま発見してきた言葉こそ、私の探し求めていた答えだ! 』と勘違いして、原文の内容とは全然関係ない選択肢( 情報 )を訳文の中に反映させてしまいます。

 

 

【 例題 4 ② 】 【 翻訳品質 誤訳・珍訳 】

【 原文の内容 】【 60%未満しか理解できていない翻訳者 】の訳文

【 緑色のマーカーの部分 】【 この翻訳者 】に認識できていなかった表現

 

私はいにしえの時代の海賊王だ!私の人生の全てを懸けて、

多くの仲間達と共に一繋ぎの秘宝を求めて人生を謳歌した。

この日誌は、そんな私の最期のメッセージである。

私は海軍にその身を拘束され、今から【 後悔 】処刑される。

 

しかし、人生の野望を果たした私に【 後悔 】はない。

冒険をしていた頃、多くの海を【 公開 】してきたが、

今、私はその海を再び【 後悔 】している。

中国と朝鮮半島の間の【 公海 】を越えて、

アフリカ大陸とアラビア半島の間の【 公海 】を越えて、

世界各国の【 公海 】を越えて、海軍本部へと連行されている。

これが海軍のやり方だ! ←【 冠詞の表現 】

奴等は、私を見世物にして海軍の力を示そうとしているのだ! ←【 人称代名詞と代名詞の表現 】

 

 

これが辞書とか調べ物で得られた情報に振り回されているという状態です!

( 辞書とか調べ物に費やす時間が必要以上に多いわりには、最終的に完成させられる訳文の翻訳品質は、誤訳か珍訳のどちらかにしかならないという状況 )

 

 

 

【 例題 5 A 】 【 原文 】

【 緑色のマーカーの部分 】【 この翻訳者 】に認識・理解できていなかった表現

【 赤色のマーカーの部分 】【 この翻訳者 】【 誤訳した部分 】

 

 

I am the pirate king of an old age ! I put my whole life on the line,

Together with many friends, I enjoyed my life in pursuit of the hidden treasure.

This note is the last message.

I was taken by the Navy and I will be executed by them in the square, Now.

 

But I have fulfilled my life's ambition and have no regrets.

Though I have sailed many seas in those days,

Now I am sailing those seas again.

Across the sea between China and the Korean peninsula,

Across the sea between the African continent and the Arabian Peninsula,

I am being taken across the seas of the world to naval headquarters.

This is the way ! ←【 冠詞の表現 】

They want to make a spectacle of me to show it ! ←【 人称代名詞と代名詞の表現 】

 

 

原文の内容を60%未満しか理解できていない翻訳者が自覚している問題とは、

『 私は、まだまだ外国の多くの言葉やニュアンスを捉えきれていない! 』という勘違いであり、この人たちが抱える【 もっとも深刻な問題・文章読解力( 人称代名詞と冠詞と代名詞の理解 ) 】に気付いていないため、どんどん辞書とか参考書を買い漁るようになり、どんどんインターネットの怪しげな情報にのめり込んでいくことに繋がるわけです。

 

 

そんなことに夢中になっていたとしても、アナタの翻訳者としての能力は一向に改善されませんので、まずはアナタの【 文章読解力 】が、どの程度のものであるのか自覚して、【 文章読解力 】の向上を図り、【 原文の内容 】を少しでも多く認識できるようにしなくてはなりません。( 人称代名詞、冠詞、代名詞の表現も認識できるようにならなくてはなりません。 ) ( 人称代名詞、冠詞、代名詞の表現が見えていないのであれば、それだけで原文の30%くらいの表現が認識できていないことになります。 )

 

 

プロの翻訳者に求められている資質とは、

どれほど原文と真剣に向き合えるのかであり、

どれほど原文とは全然関係ない情報に向き合えるのかではありません!

 

 

それに原文に対しての理解が不十分な状態で、英文法や英語構文の理解から訳文を考えたり、インターネットの情報から、原文に近しい表現を選択して日本語らしい訳文を完成させることは【 機械翻訳 】の得意としている土俵でもあります。

 

 

 

そこで私が日本の翻訳者の皆様に考えてもらいたいこととは、

 

【 機械翻訳の土俵( 語学力・情報収集能力 ) 】

機械翻訳に戦いを挑み、機械翻訳に淘汰される道を選ぶのか?

 

【 人間の翻訳者の土俵( 文化の理解・文章読解力 ) 】

機械翻訳に戦いを挑み、機械翻訳を圧倒する道を選ぶのか?

 

このどちらの選択を選ぶのかを、真剣に考えてもらいたいってことです!