東京 ・渋谷の公衆トイレの清掃員の日々を描いた映画「パーフェクト デイズ」は作り話なのにまるで実話のようであった。テレビもスマホもない、風呂もない狭いアパートで質素な一人暮らしをする初老の男。寡黙だが真っ正直に働き、読書で眠りつく。唯一の趣味は木漏れ日の写真という静かな日々。後半は彼の周りの人々とのかかわりが加わって物語が少しづつ揺れて動きだすのだが、ラストシーンが圧巻だった。朝日を浴びて仕事に向かう男の柔和な表情、晴れやかな笑顔の広がりが胸を打つ。
仕事や研究を真摯に継続して自分を育てる力は、その人自身の幸福力が育つ。映画の主人公の平山さんは、自分から進んでトイレ清掃員になったのではないかと私は思う。自分に合う仕事を選ぶ価値観をしっかり持っている。だから仕事をおろそかにしない。同僚の若い男が「平山さん、やりすぎじゃあないですか。どうせまた、汚れるんだから」と声を掛けるシーンがある。その時これは人生と同じだなと思った。面倒、キツイ、嫌だからと仕事をなおざりにし、後まわしすると後々がもっと面倒になる。自分の心と体の借金が増えていく。今度や後でなく自分がやれる事をやる。他人が見ていようといまいとやる。自分を信じてやる。祈りの道のような「行」がある。
映画の帰り道、私にとっての「行」は歩く事ではないかと思った。平山さんが電光石火で入り込んでしまった。同じ労働者気質の性根が目覚め、立ち上がった。私の場合は体操指導が仕事なので「それ行け、歩こう」である。年の瀬に映画を見て、正月は毎日20キロを歩く日々。歩く祈りはお金がかからない。
地元の低山の金御岳も手招きしているし、平山さんの「今度は今度、今は今」のお囃子も聞こえてきた。
歩く事で幸運があった。我が家の立地条件が優れているのを再発見した。急行の停まる駅から歩いて30分。図書館や仕事で使う公民館に40分。前回で高齢者は1日40分の歩行運動がお勧めという「健康づくりのための身体活動の目安」を紹介したが、これにピッタリだ。毎日1、2時間歩けて、頭もハッキリしていれば自立老人がかなり可能である。今日も朝日を拝み、性根を据えて、大地を歩いてみる。車や自転車や歩いて行き交う人のなかには平山さんのような心根のいい人もきっといると思う。