ハイヌウェレ(ハイヌヴェレとも)型神話とは、世界各地に見られる食物起源神話の型式の一つで、殺された神の死体から作物が生まれたとするものである。

その名前は、ドイツの民俗学者であるアードルフ・イェンゼンが、その典型例としたインドネシア・セラム島のウェマーレ族(ヴェマーレ族)の神話に登場する女神の名前から命名したものである。

ウェマーレ族のハイヌウェレの神話は次のようなものである。ココヤシの花から生まれたハイヌウェレ(「ココヤシの枝」の意)という少女は、様々な宝物を大便として排出することができた。あるとき、踊りを舞いながらその宝物を村人に配ったところ、村人たちは気味悪がって彼女を生き埋めにして殺してしまった。ハイヌウェレの父親は、掘り出した死体を切り刻んであちこちに埋めた。すると、彼女の死体からは様々な種類の芋が発生し、人々の主食となった。


ハイヌウェレ神話

インドネシア東部のセラム島西部のウェマーレ族(ヴェマーレ族)に次のような農耕起源神話(殺された女神の神話)が伝わる。

バナナから生まれた最初の人類である九家族は、山を下りて、森の中の神聖な踊りの広場に来た。そのなかにアメタ(「黒、夜」の意)という独身の男がいた。狩猟でしとめたイノシシの牙からココヤシの実が見つかり、蛇模様の布で覆って実を持ち帰ったが、夢のお告げに従い、その実を植えると、3日で木に成長し、さらに3日後に開花した。アメタは花を切ろうとして指を傷つけ、血が花にほとばしった。すると花と血が人間のかたちとなり、9日後には少女に育ったので、ハイヌウェレ(「ココヤシの枝」の意)と名づけて、蛇柄の布に包んで持ち帰った。彼女には、いろいろな高価な品物を大便として排泄するという、不思議な力があったので、アメタは富豪となった。

神聖なる広場で、9夜連続の踊りが開かれた。中央には女たちがいて、ビンロウジとキンマの葉を配るが、ハイヌウェレは、第二夜にサンゴ、第三夜に中国製磁器、第四夜により豪華な磁器、第五夜に大きな山刀、第六夜に銅製のシリー入れ、第七夜に銅鑼と、だんだんと高価な品を配った。しかし人々はこれを気味悪がり、第九夜に彼女を生き埋めにして殺してしまった。

アメタは娘が帰らないことをいぶかり、占いを行って彼女が殺されたと知り、彼女が埋められる場所を突き止めた。そして彼女の両腕をのこし、それ以外の部分を細切れに刻んで広場のまわりの土地に埋めたが、それらの場所からヤム芋やタロイモが生じ、その後の人類の主食となった。

アメタは娘の両腕を抱えて、劫初より人類を支配してきた、(未熟な青くて石のように固いバナナより生まれた、)ムルア・サテネという女神を訪ねて訴えた。彼女は憤慨して人間界にいることをやめると宣言し、九重の螺旋の門を築き、すべての人間にそこを通るように命じて選別を始めた。命に従わないものは人間以外の者にされると忠告され、動物や精霊になってしまった。門をくぐる者たちも、大木に座るサテネの両脇を抜けようとするが、すれ違いざまにハイヌウェレの片腕で殴られた。大木の左側に抜けようとしたものは五本の木の幹を飛び越さなくてはならず「五つの人たち」となり、右側に抜けようとしたものは九本を飛び越して「九つの人たち」となった。

それまで世界は死の無い楽園だったのに、ハイヌウェレ殺害後は、人類は定まった寿命を授かり、死後に門を通り、死の女神サテネに謁見しなくてはならなくなった。


この形の神話は、東南アジア、オセアニア、南北アメリカ大陸に広く分布している。それらはみな、芋類を栽培して主食としていた民族である。イェンゼンは、このような民族は原始的な作物栽培文化を持つ「古栽培民」と分類した。

彼らの儀礼には、生贄の人間や家畜など動物を屠った後で肉の一部を皆で食べ、残りを畑に撒く習慣があり、これは神話と儀礼とを密接に結びつける例とされた。