・「戦争が止まらない原因」はアメリカにあった...メディアが決して明かさない「ウクライナ支援が“投資”である本当の理由」と「ヤバすぎる欺瞞」(現代ビジネス 2023年12月24日)

塩原 俊彦

※ポール・ポースト著『The Economics of War』の日本語訳は2007年に刊行された。この『戦争の経済学』を一読して痛感したのは、「戦争で失われた人命の価値」を、(戦争による死者数)×(戦争時点での1人当たりの人命価値)として求める経済学の「冷たさ」であった。

それでも、戦争に経済コストはつきものであり、経済負担の重さが戦争抑止手段の一つなのはたしかだろう。その意味で、戦争の経済的影響を冷静に評価する試みを否定すべきではない。


巨大な軍需産業の意図にかなった「下準備」とは

ポーストは、戦争の経済的影響を評価するためのポイントとして、

1.戦争前のその国の経済状態

2.戦争の場所

3.物理・労働リソースをどれだけ動員するか

4.戦争の期間と費用、そしてその資金調達法

の4つをあげている。これらは、戦争が与える心理的影響と、戦争にかかる実際の資金という現実的影響を考えるうえで役に立つ。

このポーストの分析手法で重要なのは、現実的影響だけでなく、心理的影響に注目している点だ。たとえば、ウクライナ戦争の勃発が人々におよぼした心理的影響は、人々を「怖がらせる」とか、「怯えさせる」という「効果」をもち、安全保障関連の支出増大を促す。世界中で武器や軍備への歳出が増え、それによる軍需産業の利益は莫大になる。逆にいえば、戦争を起こせば、大いに得になると皮算用する連中が世界の片隅にたしかに存在する。そうした連中が多いのは巨大な軍需産業を抱えるアメリカだ。そして、彼らの目論見は成功しつつある。

ウクライナでいえば、2014年2月21日から22日に起きた、当時のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領を武力で国外に逃亡させた事件(米国の支援する反政府勢力によるクーデターだが、欧米や日本のメディアは「マイダン革命」とほめそやしている)以後、クリミア半島がロシアに併合され、東部ドンバス地域で紛争状態に陥ると、むしろ米国の政治家や諜報機関などの中には、ウクライナとロシアの紛争の火種を大きくし、戦争を巻き起こそうとする連中がたしかにいた。

たとえば、「2015年以来、CIA(中央情報局)はウクライナのソヴィエト組織をモスクワに対抗する強力な同盟国に変貌させるために数千万ドルを費やしてきたと当局者は語った」と「ワシントン・ポスト(WP)」は報道している。このCIAの関与はロシアとの戦争のためであり、ウクライナ戦争をアメリカが準備してきた証でもある。ロシアがウクライナ戦争を領土侵略のために起こしたとみなすのは、あまりにも短絡的な思考なのだ。


ウクライナ支援」は「米国内への投資」?

ここでは、このポーストの分析手法をヒントにして、アメリカの行う「ウクライナ支援」の経済的側面に注目したい。理由は簡単だ。このところ、ジョー・バイデン大統領や国防総省は、「ウクライナ支援」が「米国内への投資」とさかんに言い始めているからだ。「投資」であるならば、どう儲かるかについて分析する必要があるだろう。

その前に、バイデン大統領の発言を確認しておきたい。EU米首脳会議の前夜に当たる2023年10月20日、バイデン大統領はアメリカ国民に向けた演説『Remarks by President Biden on the United States’ Response to Hamas’s Terrorist Attacks Against Israel and Russia’s Ongoing Brutal War Against Ukraine』で、「明日(10月21日)にイスラエルやウクライナを含む重要なパートナーを支援するための緊急予算要求を議会に提出する」とのべた直後に、「これは、何世代にもわたってアメリカの安全保障に配当金をもたらす賢明な投資であり、アメリカ軍を危険から遠ざけ、我々の子供や孫たちのために、より安全で平和で豊かな世界を築く助けとなる」と語った。

さらに、11月18日付の「ワシントン・ポスト」において、彼は、「今日のウクライナへのコミットメントは、われわれ自身の安全保障への投資(investment)なのだ」と明確にのべている。

ほかにも、国防総省はそのサイトに11月3日に公表した「バイデン政権、ウクライナへの新たな安全保障支援を発表」の中で、「ウクライナへの安全保障支援は、わが国の安全保障に対する賢明な投資(smart investment)である」とはっきりと書いている。

どうして「ウクライナ支援」が「賢明な投資」なのかというと、実は、「ウクライナ支援」といっても、実際にウクライナ政府に渡される資金は米国の場合、ごくわずかだからだ。米戦略国際問題研究センターのマーク・カンシアン上級顧問は、2023年10月3日、「「ウクライナへの援助」のほとんどは米国内で使われている」という記事を公表した。

それによると、これまで議会が承認した1130億ドルの配分のうち、「約680億ドル(60%)が米国内で使われ、軍と米国産業に利益をもたらしている」と指摘されている。

12月20日の記者会見で、アンソニー・ブリンケン国務長官は、米国のウクライナ支援の90%は国内で使用され、地元企業や労働者の利益となり、米国の防衛産業基盤の強化にもつながっていると説明した。


アメリカがウクライナ戦争の継続を望む真の理由

米軍のもつ古い軍備をウクライナに供与し、国内で新しい軍備を装備すると同時に、欧州諸国のもつ旧式軍備をウクライナに拠出させ、新しい米国製武器の輸出契約を結ぶ。こうして、たしかに米国内の軍需産業は大いに潤う。

それだけではない。戦争への防衛の必要性という心理的影響から、諸外国の軍事費は増強され、各国の軍需産業も儲かるし、アメリカの武器輸出も増える。

他方で、「ウクライナ支援」に注目すると、欧州諸国や日本はウクライナへの資金供与の多くを任されている。どうやら、これらの国は「ウクライナ支援」が本当の意味での「援助」になっているようにみえる。この「支援」が「投資」か「援助」かの違いこそ、米国が「ウクライナ支援」に積極的な理由であり、ウクライナ戦争の継続を望む「本当の理由」と考えることができるのだ。

「ウクライナ支援」の美名のもとで、本当の「援助」は欧州や日本にやらせ、米国だけは「国内投資」に専念するという虫のいいやり口が隠されている。それにもかかわらず、欧米や日本のマスメディアはこの「真実」をまったく報道しようとしない。

では、アメリカは具体的にどのように「戦争の長期化」に寄与するように働きかけたのか。そこには巧妙な「ナラティブ」が存在した。


「ウクライナ戦争の長期化」を望んだのはアメリカだった…バイデン政権が2度潰した「和平のチャンス」

和平を拒んだのはアメリカ

こう考えると、なぜウクライナ戦争の和平が実現されず、長期戦になっているかが理解できるはずだ。現に、バイデン政権は過去に二度、ウクライナ和平の契機を潰した(これも、米国に気兼ねしてメディアが報道しないため、あまりに無知な人が多い)。米国内への投資のためにウクライナを援助する以上、ウクライナ戦争を停止するわけにはゆかないのだ。なぜなら軍需産業の雇用が増え、バイデン再選へのプラス効果が出ているからである。再選のためなら、バイデン大統領は手段を選ばない。

第一の和平の契機は、2022年3月から4月であった。ウクライナとロシアとの第1回協議は2022年2月28日にベラルーシで行われ、第2回協議は3月29日にイスタンブールで行われた。ここで課題となったのは、

1.ウクライナの非同盟化、将来的に中立をどう保つのか

2.ウクライナの非軍事化、軍隊の縮小化

3.右派政治グループの排除という政治構造改革

4.ウクライナの国境問題とドンバスの取り扱い

である。

第2回会合の後、双方が交渉の進展について話し、特にウクライナは外部からの保証を条件に非同盟・非核の地位を確認することに合意した。たしかに和平に向けた話し合いが一歩進んだのである(なお、プーチン大統領は2023年6月17日、アフリカ7カ国の代表に18条からなる「ウクライナの永世中立と安全保障に関する条約」と呼ばれる文書を見せた。TASSによれば、文書のタイトルページには、2022年4月15日時点の草案であることが記されていた。保証国のリストは条約の前文に記載されており、そのなかには英国、中国、ロシア、米国、フランスが含まれていた。つまり、相当進展した条約が準備されていたことになる)。

しかし、2022年4月9日、ボリス・ジョンソン英首相(当時)がキーウを訪れ、ゼレンスキー大統領と会談、英首相はウクライナに対し、120台の装甲車と対艦システムという形での軍事援助と、世界銀行からの5億ドルの追加融資保証を約束し、「ともかく戦おう」と戦争継続を促した。

この情報は、ウクライナ側の代表を務めたウクライナ議会の「人民の奉仕者」派のダヴィド・アラハミヤ党首が、2023年11月になって「1+1TVチャンネル」のインタビューで明らかにしたものだ。もちろん、ジョンソンの背後にはバイデン大統領が控えており、米英はウクライナ戦争継続で利害が一致していた。

それは、ゼレンスキー大統領も同じである。戦争がつづくかぎり、大統領という権力は安泰であり、2024年3月に予定されていた選挙も延期できる。だが、戦争継続は多くの市民の流血を意味する。そこで、和平協定を結ばないようにするには、理由が必要であった。


「ブチャ虐殺」が与えた影響

こうした時系列と文脈の中でブチャ虐殺を考えると、興味深いことがわかる。ここでは、ロシアの有力紙「コメルサント」(2022年4月6日付)の情報に基づいて、ブチャをめぐる「物語」(ナラティブ)を紹介してみよう。

ロシア軍がブチャから完全に撤退したのは3月30日のことだった。その翌日に撮影されたビデオをみてほしい。アナトリー・フェドリュク市長は、同市の奪還を喜びながら宣言している。だが、なぜか集団残虐行為、死体、殺害などには一切触れていない。むしろ、明るい表情でいっぱいであることがわかるだろう。

ところが、ロイター電によると、ブチャ市長は、4月3日、ロシア軍が1ヵ月に及ぶ占領の間、意図的に市民を殺害したと非難したと報じた。これらの時系列が真実だったとして、なぜ、撤退直後ではなく数日後に急に虐殺を非難しはじめたのか。ロシアとの戦争継続のための理由づけとして、ブチャ虐殺が利用されたと一面的には考えることもできる。和平交渉を停止して、戦争を継続する理由としてブチャ虐殺は格好の題材となる。少なくともこんな「物語」(ナラティブ)を想定することができるのだ。

これに対して、2022年4月4日付の「ニューヨーク・タイムズ」は、キーウ近郊のブチャで民間人が殺害されたのは、ロシアの兵士が町を離れた後であったというロシアの主張に反駁するための衛星画像を報じた。これが正しい見方であったとして、しかし同時にこれらの資料が市民殺害の実行犯までを特定することもできないのも事実だ。そしてロシア軍によるブチャ虐殺という物語が伝播するにつれて、ロシア代表が何を言っても、国連安全保障理事会で彼の主張に耳を傾ける者はほとんどいなくなった。


信憑性が疑われているイスラエル政府の主張

その後は実際にわれわれが目撃した通り、バイデンおよびゼレンスキーの訴えた物語は欧米の人々の心を強く打ち、和平交渉の話どころではなくなってしまった。

ここで注意喚起しなければならないのは、イスラエルがガザ最大の病院、アル・シファ病院に軍隊を送り込んだ理由としてあげた、

1.五つの病院の建物がハマスの活動に直接関与していた

2.その建物は地下トンネルの上にあり、過激派がロケット攻撃の指示や戦闘員の指揮に使っていた

3.そのトンネルは病棟の中からアクセスできる

といった情報の信憑性が疑われている点だ。これらに関する「ワシントン・ポスト(WP)」の報道によると、

1.国防軍が発見したトンネル網に接続された部屋には、ハマスが軍事利用した形跡はなかった

2.五つの病院の建物は、いずれもトンネル・ネットワークとつながっているようにはみえなかった

3.病棟内部からトンネルにアクセスできたという証拠もない

という。

つまり、イスラエル政府が提示した証拠は「不十分であった」のだ。つまり、イスラエル政府は「嘘」をでっち上げたと考えることができるのであり、同じことはウクライナ政府においても、どの政府にとっても可能である。少なくとも国際社会でまことしやかに報道される「物語」が、完全なる真実だと信じることはできないのだ。


統合参謀本部議長の和平提案を無視したバイデン

第二の和平の契機は、2022年11月、停戦交渉の必要性を示唆したマーク・ミリー統合参謀本部議長(当時)の和平提案をバイデン大統領が無視した出来事に示されている。

ウクライナ軍が南部の都市へルソンからロシア軍を追放し終えた直後の11月6日に、ミリーはニューヨークのエコノミック・クラブで講演し、「軍事的にはもう勝ち目のない戦争だ」と語った。

さらに、翌週、ミリーは再び交渉の機が熟したことを示唆した。記者会見で彼は、ウクライナがハリコフとヘルソンからロシア軍を追い出すという英雄的な成功を収めたにもかかわらず、ロシアの軍隊を力ずくで全土から追い出すことは「非常に難しい」とまで率直にのべた。それでも、政治的解決の糸口はあるかもしれない。「強者の立場から交渉したい」とミリーは言い、「ロシアは今、背中を向けている」とした。

だが、バイデン大統領はこのミリーの提案をまったく無視したのである。ウクライナの「反攻」に期待した「ウクライナ支援」が継続されたのだ。その結果、2022年のロシア侵攻以来、ウクライナでは1万人以上の市民が殺害され、その約半数が過去3カ月間に前線のはるか後方で発生していると国連が2023年11月に発表するに至る。

もう一度、はっきりと指摘したい。バイデン大統領は「米国内への投資」のために「ウクライナ支援」を継続し、ウクライナ戦争をつづけ、同国市民の犠牲をいとわない姿勢をいまでも堅持している。彼にとっての最重要課題は、彼自身の大統領選での勝利であり、そのためには、米国の軍需産業を儲けさせ、雇用を拡大することが優先事項なのである。

その後のアメリカのさらに不可解な選択は、現在のウクライナ戦争やガザでの状況につながっている。


「確実に失敗するウクライナの反転攻勢にこだわった」「イスラエルに武器支援」…“バイデン政権はあきらかに人命を軽視している”といえる理由

反攻作戦の失敗は自明だった

こうなるとゼレンスキー大統領もバイデン大統領も和平を望んでいないように思えてくる。まず、ゼレンスキー大統領はあえて自ら和平への道を断った。2022年9月30日、ウクライナ国家安全保障・国防評議会の決定「プーチン大統領との交渉が不可能であることを表明すること」を含む決定を同日、ゼレンスキー大統領は大統領令で承認したのである。この段階で、彼は自ら和平交渉への道筋を断ち切ったのである。

他方、バイデン大統領は負ける公算の大きかった反攻作戦にこだわった。だからこそ、2022年11月段階でのミリーの提案を無視したのである。反攻作戦がだめでも、とにかく戦争を長引かせれば、米国内への「投資」を継続し、米国内の労働者の雇用を増やすことができるからである。大統領再選につながるのだ。

2023年9月3日付で、ジョン・ミアシャイマーは、「負けるべくして負ける ウクライナの2023年反攻」という長文の論考を公開した。なお、彼は私と同じく、2014年2月にクーデターがあったことを認め、そこに米国政府が関与していたことをはっきりと指摘している優れた政治学者だ。

この日の出来事をクーデターであったと早くから的確に指摘しているのは、日本では私くらいだろう。この尊敬すべきミアシャイマーがなぜ反攻が「負けるべくして負ける」と主張しているのかというと、過去の電撃戦と呼ばれる戦い方法の比較分析から導かれる結論だからである。

ここで強調したいのは、「ウクライナ軍で電撃戦を成功させる任務を負った主要部隊は、訓練が不十分で、特に機甲戦に関する戦闘経験が不足していた」点である。とくに、開戦以来イギリスが訓練してきた2万人のウクライナ兵のうち、わずか11パーセントしか軍事経験がなかった点に注目してほしい。「新兵を4~6週間の訓練で非常に有能な兵士に変身させることなど単純に不可能」であり、最初から負けはみえていたと考えられるのだ。

だからこそ、2023年7月23日付の「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、「ウクライナの武器と訓練不足がロシアとの戦いで膠着状態に陥るリスク 米国とキーウは不足を知っていたが、それでもキーウは攻撃を開始した」という記事を公表したのである。


人命を顧みないバイデン政権

バイデン政権が人命を顧みないことは、2023年12月8日、ガザでの即時人道的停戦を求める国連安全保障理事会の決議案に拒否権を発動したことによく現れている。2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃に対して、イスラエル軍が過剰な自衛権を行使する事態に陥っているにもかかわらず、あくまで「イスラエル支援」をつづけるバイデン政権はパレスチナの市民の人命を軽視している。

表面上、救援物資の輸送などで人道支援への努力をしているようにみせかけながら、他方で、国務省は12月8日の午後11時、議会の委員会に対し、1億600万ドル以上に相当する戦車弾薬1万3000発のイスラエルへの政府売却を推進すると通告した。この武器輸出は迅速化され、議会にはそれを止める権限はない。

国務省が中東への武器輸送のために緊急事態条項を発動したのは、2019年5月にマイク・ポンペオ国務長官がサウジアラビアとアラブ首長国連邦への武器売却を承認して以来はじめてのことであり、この動きは議員や国務省内部の一部のキャリア官僚から批判を浴びた。

『戦争の経済学』という視角からみると、パレスチナやウクライナの人命価値はアメリカ人のそれよりもずっと低いのだろうか。少なくとも、バイデン大統領はそう考えているようにみえる。そんな身勝手な判断ができるのも、アメリカが覇権国として傍若無人な態度をとりつづけているからだ。世界の警官である覇権国アメリカには、逆らえないのである。


覇権国アメリカの「悪」

『戦争の経済学』のいう心理的影響は、もちろん、日本にも波及している。2022年に国家安全保障戦略、 国家防衛戦略、防衛力整備計画の3文書を策定した岸田文雄政権は、反撃能力の保有、南西地域の防衛体制の強化といった威勢のいい方針を打ち出している。

2023年度~2027年度の防衛力の抜本的強化のために必要な5年間の支出額は、約43兆円程度とされる(円安を考慮すれば、大阪万博よろしく60兆円にも70兆円にもなりかねない)。たとえば、日本政府はアメリカから巡航ミサイル「トマホーク」なども購入する予定だ。気になるのは、1980年代前半に運用されているトマホークにはさまざまな種類があり、在庫のトマホークを大量に買わされるリスクが大いにある点だ。

オーストラリア政府は、海軍のホバート級駆逐艦のために、米国から約13億ドルで200発以上のトマホーク巡航ミサイルを購入することを決定した。そのトマホークについて、2023年12月に公表された米海軍研究所の論文は、「速度が遅く、射程距離も比較的限られているため、戦時中は一斉射撃の回数が増え、艦の弾倉をすぐに使い果たしてしまう可能性がある」とはっきりと指摘している。豪州も日本も、米国の軍需産業の絶好の「餌食」になっているのである。

それだけではない。日本政府は、12月22日にも改正する防衛装備移転3原則と運用指針に基づき、国内で製造する地対空誘導弾パトリオットミサイルを米国に輸出する。レイセオン社からライセンスを受けて、米軍のパトリオット用のミサイルを製造している日本側は、数十基のパトリオットミサイルを米国に輸出し、その分を米国からウクライナに輸出する。これは、軍需産業が政府と一体化して儲けを優先している(ウクライナ戦争で武器需要を高め、ウクライナへの直接輸出をいやがる日本のような国の意向を米国政府が調整し、事実上、ウクライナへの武器輸出を増やす。つまり、日米政府は武器製造の増加で協力し、国内の軍需産業を儲けさせている)証拠といえるだろう。

世界には、「悪い奴ら」がたくさんいる。どうか、そうした「悪」に気づいてほしい。そのために、これから随時、このサイトにおいて、覇権国アメリカの「悪」という視角から論考を掲載したい。ロシアの「悪」についても分析するが、日本のマスメディアが報道しようとしない米国の「悪」について、とくに明らかにしてゆきたい。カネ儲けのために何でもする連中をのさばらせてはならない。



・【ウクライナ戦争丸2年】もうホンネの話をしようよ~アメリカの「10の諸悪」
欧米や日本で広がった風潮(現代ビジネス 2024年2月21日)

塩原 俊彦

※ウクライナ戦争を利用して儲ける人々

2月24日、ウクライナ戦争勃発から丸2年が経過する。この間、私が強く感じてきたのは、欧米や日本のマスメディアの「偏向報道」のひどさである。アメリカのジョー・バイデン政権べったりの『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』などに従うばかりで、「中立性」なるものへの配慮がまったく足りないのだ。その結果、ウクライナが「善」で、ロシアが「悪」であり、ウクライナを支援するのは「正義」であるといった風潮が欧米や日本で広がってしまった。

たしかに、戦争がはじまった当初の爆撃の様子や、親を亡くしてさまよう子どもの映像を見るたびに、多くの人々は戦争を引き起こしたロシアのウラジーミル・プーチン大統領に憎悪や嫌悪の感情をいだいたはずだ。たとえそうであっても、2年もの間、戦争を止めようとしないウクライナ、そして、それを支援しつづけるアメリカやその同盟国は、いまでも「善」でありつづけ、「正義」を貫いているといえるのだろうか。

片腹痛いのは、2月19日からはじまった日・ウクライナ経済復興推進会議だ。停戦せずして復興はない。戦争継続によって、死傷者数はますます膨れ上がり、インフラは破壊されてしまうのである。どうして「即時停戦しろ!」と叫べないのか。アメリカが戦争をつづけたがっているからだ。

大切なことは、日本のマスメディアによる情報操作の実態を知り、国民を無知蒙昧(もうまい)の状態にとどめることで利益を得ようとする連中がいることに気づくことだ。


性加害者ジャニー喜多川=新帝国主義の国アメリカ

ここで、日本のマスメディアがジャニー喜多川について、彼が性加害者であり、その性加害の隠れ蓑がジャニーズ事務所であった事実をまったく報道してこなかったことを思い出してほしい。マスメディアは、この裁判所に認定された事実を報道しないことによって、ジャニーズ事務所やその所属タレントとの「持ちつ持たれつ」の関係をつづけた。

テレビ局関係者などは、入手困難なジャニーズタレントのコンサートチケットをこっそり手に入れて、ほくそ笑んでいたのである。ジャニーズタレントをCMに起用した大企業もまた、この関係を利用した。その結果、何も知らない無知蒙昧な親が自分の息子をジャニーズ事務所に「差し出す」構図が数十年間も継続してきたわけである。

日本のマスメディアは、BBCや『週刊文春』に促されるかたちで、しぶしぶ喜多川の本性やジャニーズ事務所の「悪」を報道するようになった。テレビ局はこの問題を検証し、反省したらしい。しかし、これは真っ赤な嘘である。なぜなら、マスメディアはこの「ジャニーズ事件」と同じ構図で、アメリカの「悪」を隠蔽しつづけているからである。「新自由主義」という言葉で、諸外国との貿易や資本取引を自由化させて、アメリカ資本の利益につながる法律やテクノロジーを世界中に広げて、利益を収奪する方式こそ、アメリカの帝国主義であることに気づかなければならない。

帝国主義国アメリカは、その世界支配のためにたくさんの「悪」を世界中に撒き散らしてきた。その典型が「民主主義の輸出」である。美しいスローガンに響くかもしれない。しかし実際には、その試みのほとんどすべては失敗し、数千万人もの死傷者を世界中に生み出してきた。アメリカは自由・民主主義を輸出して、当該国へ米系資本を投下し、そこから利潤を得ようとしているだけなのだ。もちろん、民主主義が根づくためには、中間層の広がりといった条件が必要になる。だが、アメリカはそんな条件を無視して、外国に介入しつづけている。ウクライナ戦争でいえば、アメリカが戦争の停止を許さないのだ。

それにもかかわらず、アメリカの帝国主義を真正面から非難する言説がマスメディアから流されることはほとんどない。「性加害者ジャニー喜多川=新帝国主義の国アメリカ」という構図が成り立っているのである。「長い物には巻かれろ」なのだ。


アメリカの介入主義とウクライナ戦争

ウクライナ戦争も、アメリカの介入主義が招いた悲劇であるという側面を知る必要がある。たとえば、2013年末から巻き起こった反政府運動に対して、当時の米国務省次官補だったヴィクトリア・ヌーランドや、当時の現役上院議員のジョン・マケインは、キーウのマイダン(独立)広場まで出向いて露骨な支援を行った。

その延長線上で、アメリカ政府は2014年2月21日から22日に起きたクーデター首謀者らを支援していた。その後、親米政権が樹立され、アメリカはウクライナで金儲けにとりかかる。それゆえに、当時ウクライナを担当していたジョー・バイデン副大統領の息子ハンターは2014年5月に、ウクライナの石油・ガス生産に携わる民間企業ブリスマ・ホールディングの取締役に就任し、毎月5万ドルの報酬を受け取るようになったのだ。

2013年12月11日、当時米国務省次官補だったヴィクトリア・ヌーランドはキーウのマイダン広場を訪問し、反政府勢力を支援

(出所)https://www.npr.org/sections/thetwo-way/2013/12/11/250215712/world-is-watching-u-s-diplomat-tells-ukraine

2013年12月15日、当時米上院議員だったジョン・マケインはキーウのマイダン広場を訪問し、反政府勢力を支援

(出所)https://www.theguardian.com/world/2013/dec/15/john-mccain-ukraine-protests-support-just-cause

欧米の報道ではあまり見かけないが、ブリスマの創設者ミコラ・ズロチェフスキーは、ブリスマの取締役会のメンバーに支払うためにヘルソンの石油積み替え施設を売却し、340万4712.82ドルが、ハンター・バイデンの利益を代表するローズモント・セネカ社の口座に送金されたことが知られている。アメリカはウクライナのオリガルヒ(政治家と結託した寡頭資本家)に「屋根」を提供して、カネ儲けに専心したのである。


和平を拒んでいるのはウクライナとアメリカ

他方で、ジョー・バイデンは2016年3月22日、「ウクライナの指導者が(ヴィクトル・ショーキン検事総長を)解任しなければ、米国の融資保証10億ドルを差し控えると脅した」とされている。「ハンター・バイデン、ブリスマ、汚職:米国政府の政策への影響と懸念事項」と題された米上院の二つの委員会による合同報告書の9頁に、この情報の出所が示されている。同年4月、ウクライナ議会はショーキンを解職した。その結果、ブリスマは安泰となった。

こうした構図は、親米政権に近い人脈を優勢にした。クーデターを契機にしてロシアに併合されてしまったクリミア半島や、紛争のつづく東部ドンバス地域について、ウクライナに取り戻すために軍備増強を主張する勢力が戦争を準備するようになる。ドンバスの和平を実現するためのミンスク合意が結ばれたにもかかわらず、合意実現を公約して大統領に当選したウォロディミル・ゼレンスキーがこれを遂行するのを阻んだのは、こうした勢力であり、それを支援するアメリカだった。

だからこそ、2022年12月7日、ドイツの『ツァイト』誌に掲載されたインタビューのなかで、アンゲラ・メルケル前首相は、「2014年のミンスク合意は、ウクライナに時間を与えるための試みだった。また、ウクライナはより強くなるためにその時間を利用した」と発言したのである。

加えて、ウクライナ戦争が起きれば、安全保障へのニーズが高まり、武器需要が増加し、ここでもアメリカの軍産複合体が得をする。つまり、アメリカの「悪」を隠密裏に推し進めることで、利益をあげる人や組織がたくさん存在する。だからこそ、この事実に蓋(ふた)をしつづけようとするわけだ。これって、ジャニーズ事務所の問題とそっくりではないか。


数々のアメリカの「悪」

ここで、日本のマスメディアが報道しない、帝国主義の国アメリカのウクライナ戦争に関連する「諸悪」を箇条書きにしてみよう。

1.2004年から2005年にかけて、全米民主主義基金(National Endowment for Democracy, NED)などによるウクライナへの露骨な「民主主義の輸出」工作の実施。プーチンはこのオレンジ革命の段階で、アメリカによるクーデターがすでにあったと語っている。

2.2010年代前半のウクライナ西部でのナショナリズムをアメリカ政府が煽動。

3.2014年2月21から22日にかけて、当時のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領を武力で追い出すクーデターをアメリカ政府が全面的に支援した。暫定政権の人事に干渉したのはヴィクトリア・ヌーランド(当時、国務省次官補、現国務省次官)だ。

4.「2015年以来、CIAはウクライナのソビエト組織をモスクワに対抗する強力な同盟国に変貌させるために数千万ドルを費やしてきたと当局者は語った」とWP(ワシントンポスト)が報道。

5.アメリカ政府は国連平和維持軍のドンバス駐留を妨害した。

6.アメリカ政府はドンバス紛争の解決(ミンスク合意の履行)を妨害し、時間稼ぎを行い、ウクライナの軍事化を支援。アメリカのウクライナへの軍事支援総額(2014~2021年)は28億ドルにのぼった。

7.2014年のクーデターに深く関与していたヌーランドを2021年5月に国務省次官としたことで、バイデン政権はクリミアとドンバスの奪還に舵を切った(逆にいえば、2021年1月にトランプが大統領に再任されていれば、ウクライナ戦争は100%起きなかっただろう)。

8.2022年2月末のウクライナ戦争緒戦のウクライナ側の勝利にもかかわらず、イギリスのボリス・ジョンソン首相(当時)はゼレンスキー大統領に戦争継続を促した。ジョンソンの背後には、もちろん、バイデン大統領が控えていた。

9.ドイツをロシアから切り離す目的で、ノルドストリームと呼ばれるガスパイプライン4本のうち3本を、バイデン大統領の命令で米軍がノルウェー軍の協力のもとに爆破。

10. 2022年秋、ハリキウやヘルソンの奪還に成功したウクライナ軍は和平交渉に向かう好機を迎え、当時統合参謀本部議長だったマーク・A・ミリー元帥の和平に向かうべきとの提案をバイデン大統領は無視した。


日本のメディアに騙されるな

読者はここで紹介したアメリカの「諸悪」を知っていただろうか。もし知らなければ、それは、大切な事実を報道しない偏向した日本の報道の結果であろう。もちろん、紹介した「諸悪」をすべて事実と断言するのは難しい。

それでも、きわめて重要な情報が含まれている以上、マスメディアはこうした情報を紹介しつつ検証する責任があると思う。しかし、日本のマスメディアはこうしたアメリカの「諸悪」を無視することで、その責任を放棄し、結果として、日本国民をだましつづけている。丸2年もの間だ。

誠実に生きたいと思う読者は、どうかいま日本国民の置かれている絶望的な状況に気づいてほしい。そして、事実を無視することで日本国民をだましつづけるマスメディアにだまされないようになるはずだ。

このままだまされつづけていると、アメリカ帝国主義と中国帝国主義による戦争に日本も巻き込まれてしまうだろう。




・【ウクライナ戦争2年】ここがヘンだよ! 西側諸国の支援(現代ビジネス 2024年3月1日)
塩原 俊彦

※2月24日に、ロシアのウクライナ侵攻から丸2年を経たが、戦争は終結の兆しが見えない。そんな中、ロシア問題評論家の塩原俊彦氏が、西側諸国が行っているウクライナ支援の実態について斬り込んだ。


和平への遠い道のり

2024年1月12日、イギリスのリシ・スナク首相はキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領との間で、「イギリス・北アイルランド連合王国とウクライナの安全保障協力に関する協定」に署名した。2023年7月、リトアニアの首都ヴィリニュスで開催された、NATOサミットで合意したコミュニケおよび、同サミットに合わせて開かれた主要七カ国(G7)の「ウクライナ支援共同宣言」をもとに、イギリスがウクライナのNATO加盟実現までの間、同国のウクライナの安全保障を約束する内容が合意されたのである。有効期間は10年だが、延長可能とされている。

イギリスは具体的に、(1)領海および自由経済水域を含む、ウクライナの国際的に承認された国境内における領土保全の保護と回復、国民経済の再建、および国民の保護のためのウクライナへの包括的支援の提供、(2)ロシアによる軍事的エスカレーションや新たな侵略の防止・抑止、および、それに対する対抗措置、(3)ウクライナの将来的な欧州大西洋機関への統合への支援――を約束している。

その後、ドイツおよびフランスも2024年2月16日、ウクライナとの間で安全保障協力に関する二国間協定に署名した。いずれも有効期間は10年である。同年2月23日には、デンマークも「安全保障協力と長期支援に関する合意」を締結した。24日には、カナダとイタリアも同種の合意を結んだ。ノルウェーも協議をすでにはじめている。

2024年1月26日付のWP(ワシントンポスト)によれば、米国は、ウクライナにおける2023年の反攻作戦の失敗の反省を生かし、領土の奪還に重点を置かず、その代わりにウクライナがロシアの新たな進攻を食い止めるのを支援することに重点を置きつつ、長期的な目標である戦闘力と経済の強化に向かう新戦略計画をまとめようとしている。


G7首脳の声明

短期的な軍事作戦への支援を保証するだけでなく、ロシアの侵略を抑止できるウクライナの軍事力を将来的に構築する戦略を練っているのだ。ウクライナの産業と輸出基盤の保護、再建、拡大を支援し、西側諸制度への完全統合に必要な政治改革を支援するための具体的な約束とプログラムも含まれている。これに符合する安全保障協力協定が米国とウクライナとの間でも早晩、結ばれることになるだろう。

こうした一連の動きは、2024年2月24日に公表されたG7首脳の声明に対応している。そこで、この声明に着目してみると、まず、「我々は、ウクライナの自衛権を引き続き支持し、昨年7月にヴィリニュスで承認したウクライナ支援の共同宣言に基づき、二国間の安全保障に関するコミットメントと取り決めを締結・実施することを含め、ウクライナの長期的な安全保障に対する我々のコミットメントを改めて表明する」としている。

この表明が英、独、仏などがウクライナと結んだ協定に対応していることになる。

注目されるのは、3項目にある「我々は、ロシアが兵器や兵器のための重要な投入物を入手するのを手助けする第三国の企業や個人に対して、さらなる制裁を科す。また、ロシアの兵器生産や軍需産業の発展を助ける道具やその他の設備をロシアが入手するのを手助けする者にも制裁を科す」という記述である。


二次制裁の採用

これは、米国主導で各国が科している対ロ制裁について、対象国のロシア以外の第三国に対しても制裁を科すという、いわゆる「二次制裁」をG7加盟国がそろった科すことを表明したものだ。これまで、二次制裁については疑義が呈されてきた。

問題は、二次制裁が域外管轄権の主張が主権平等の国際的な大原則に反している点にある。制裁国は自国の領域内で行われない行為について、第三国の個人や企業に対して二次制裁を科すのは内政への不法な介入と言えまいか。

パトリック・テリーはその論文「一方的な二次制裁を科すことによって、米国の外交政策を強制する:国際公法における「力」は正しいか?」のなかで、「米国は第三国の国民や企業を標的にすることで、第三国の外交・貿易政策を弱体化させようとしている。米国の制裁政策は、このように他国の外交政策を支配しようとする試みである」と批判している。

欧州議会報告書でも、米国が第三国とその企業に影響を与える「域外」または「二次」制裁と呼ばれる措置を導入したことについて、「主権的権限の適切な行使に関する国際法の規則のもとでは、たしかにほとんど正当化することができない」と指摘している。

ゆえに、「国連総会は28年連続で、「ヘルムズ・バートン法」として知られる1996年3月に公布された法律や規制など、「他国の主権、その管轄下にある団体や個人の正当な利益、貿易と航行の自由に影響を与える域外効果」の撤廃を求めてきた」と紹介している。


なぜ「禁じ手」に手を染めたのか

2019年には、187カ国の圧倒的多数がそれぞれの決議を支持し、米国、ブラジル、イスラエルだけが反対票を投じた事実はきわめて重大だ。米国の二次制裁を利用した覇権主義は非難されるべきであり、ドルを使った金融制裁の背後にユダヤ系の人々の金融支配への野望があることも肝に銘じておくべきだろう。だが、現実には、米国がヘゲモニー国家としての支配力をいまでもある程度維持しているため、米国に従属するG7加盟国も二次制裁を科すという脅迫をふりかざすまでになっている点に留意しなければならない。

もう一つ重要なのは、世界中で実際に対ロ制裁を科している国が科していない国よりもずっと少ないという現実である(下図参照)。

ロシアと同盟国に対する制裁(件数)https://www.globaltradealert.org/
(備考)濃い赤ほど制裁件数が多い。2024年2月27日閲覧。

だからこそ、第三国という、対ロ制裁に消極的な国々を巻き込まなければ、制裁の実効性があがらないのだ。そのために、二次制裁という「禁じ手」まで繰り出さなければならなくなっているというわけだ。つまり、ウクライナ戦争でのウクライナの苦戦は、何の根拠もなく支援をつづけるG7を追い込んでいるともいえる。


凍結されたロシア中央銀行資産に触手

G7の声明の3項目目には、「ロシアがウクライナに与えた損害の賠償を支払うまで、我々の管轄区域にあるロシアの主権資産は固定化されたままであることを再確認する」としたうえで、2月12日に欧州理事会が決めた措置の採択を歓迎した。これは、欧州理事会がEUの制限的措置(制裁)の結果として固定化されたロシア中央銀行(CBR)資産および準備金を保有する中央証券預託機関(CSD)の義務を明確化する決定および規則を採択したという発表に関連している。

簡単にいえば、同理事会は、ユーロクリアなどのCSDに預けられ凍結されていたCBRの準備金からの収益の処分を禁止し、CSDがこれらの純利益の一部をウクライナ支援に放出する権限を監督当局に要請可能とすることにしたのだ。

2023年12月20日付の「フィナンシャル・タイムズ」(FT)によると、CBR資産のうち約2600億ユーロが2022年、G7諸国、EU、豪で凍結された。その大部分(約2100億ユーロ)はEUで保有されており、ユーロやドルなどの通貨建ての現金や国債が含まれている。米国が凍結したロシアの国家資産はわずか50億ドル(46億ユーロ)にすぎないという。ヨーロッパでは、資産の大部分(約1910億ユーロ)はベルギーに本部を置くユーロクリアに保管されている。

本当は、米政府はこの凍結資産を押収・没収したがっている。ウクライナの復興支援などに活用しようとしているのだ。だが、独、仏、伊は主権国家の資産には国際法上の免責特権があるとして反対している。それでも、G7の声明には、「それぞれの法制度および国際法に則り、ウクライナを支援するためにロシアの固定化されたソブリン資産を利用することができるあらゆる可能性について、作業を継続し、アプーリア・サミット(イタリアで6月開催)に先駆けて最新情報を提供するよう要請する」と書かれている。

どうやら、米国は何としても、ロシアの公的資金を没収したいらしい。


ヨーロッパの焦り

バイデン政権は、ウクライナへの追加支援予算がなかなか議会を通過できないことに焦りを感じている。その結果、当初、没収できないと表明していたロシアの凍結資産を「横取り」してウクライナ支援に利用できないかと真剣に模索しているのだ。

ヨーロッパ諸国にも、焦りが生じている。それは、ウクライナ戦争において短期的にロシアを破り、ウクライナの領土を回復させることが困難であるとの共通認識が広まっているためだ。だからこそ、長期の安全保障協定を結んで、戦争の長期化に備えようとしている。

それだけではない。ウクライナの兵員不足を補うため、2月26日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ウクライナへの支援を強化するためにパリで開催された欧州首脳会議(下の写真)の後、ウクライナの対ロシア戦争を支援するために西側諸国が軍隊を派遣する可能性について質問され、「何も排除すべきではない」とのべた。

2月26日にパリで開催されたウクライナ支援会議で演説するフランスのエマニュエル・マクロン大統領(Credit...Pool photo by Gonzalo Fuentes)

マクロン大統領は、「ロシアがこの戦争に勝てないようにするという我々の目標に到達するために有益であれば、どんなことでも可能だ」とした。この発言は、西側諸国首脳が繰り返し、「紛争をエスカレートさせることは避けたい」としてきた見解と大きく異なっている。どうやら、ウクライナの苦戦から、個別国が派兵する可能性があるとの見方を示したことになる。それだけ、焦りを感じているのだろう。

この焦りは、各国国民に問うこともなく、欧州連合(EU)加盟国などが約束した援助額1500億ドル(米国の2倍以上)への責任という問題に関係している。要するに、停戦の時期を見誤ったのである。残された選択肢は戦争長期化と派兵による自らの責任回避ということか。2022年4月あるいは2022年12月ころに停戦していれば、多数の死傷者を出すこともなく、別の展開が可能であったはずだが、その機を逸した責任はジョー・バイデン大統領だけでなく、ほかの多くのヨーロッパの政治指導者にある。そのツケを戦争の長期化と各国兵士の命で帳消しにしようとするマクロン大統領はあまりにもひどすぎる。



・真実を教えよう! 米国がウクライナ追加支援を決めた「3つの隠蔽された目的」(現代ビジネス 2024年5月31日)

塩原 俊彦

※2024年4月20日、米下院は総額953億ドルの大規模な支援策を可決した。そのなかには、ウクライナへの608億ドル、イスラエルとガザを含む紛争地域の民間人への人道支援に264億ドル、台湾とインド太平洋地域への81億ドルが含まれている。ウクライナへの援助は311対112で賛成多数となり、共和党の112人が反対票を投じた。24日に上院でも可決され、バイデン大統領の署名を経て成立した。

驚くのは、20日、ロイド・オースティン国防長官が声明を発表し、そのなかで、「本法案はまた、米国の将来に対する重要な投資でもある」と明言している点だ。「防衛産業基盤に直接流入する約500億ドルを提供することで、この法案は、米国の長期的な安全保障を強化すると同時に、30以上の州で良質な米国人の雇用を創出する」というのである。


ウクライナ支援で票を買うバイデン大統領

ジョー・バイデン再選につながる国内雇用のため、ウクライナ戦争支援にカネを出すというのは、「カネで票を買い、ウクライナで命を奪うということ」を意味していることになる。具体的にどの州が潤うかについては、4月18日付の「ワシントンポスト」が「議会が承認したウクライナへの軍事援助の大半が使われている地区の地図を掲載している。

議会が承認したウクライナへの軍事援助の大半は、上記の地区で使われている

(出所)https://www.washingtonpost.com/opinions/2024/04/18/ukraine-map-districts-weapons/


『ウクライナへの援助』の使い道

米戦略国際問題研究センターのマーク・カンシアン上級顧問は、2023年10月3日、「『ウクライナへの援助』のほとんどは米国内で使われている」という記事を公表した。それによると、これまで議会が承認した1130億ドルの配分のうち、「約680億ドル(60%)が米国内で使われ、軍と米国産業に利益をもたらしている」と指摘されている。これは、下図の青、オレンジ、斜線の三つの部分を合わせたものということになる。バイデン政権は、自らの政府機関への資金提供、米軍への資金提供の大部分、軍備の補填とウクライナの装備購入の大部分、人道支援の一部について、ウクライナへの「支援」や「援助」という名目で行っており、その資金は米国内にとどまる。このため、カンシアンは、「ウクライナ援助」(Aid to Ukraine)という言葉は「誤用(misnomer)である」と指摘している。

図 アメリカ議会承認済みのウクライナ支援の配分(単位:10億ドル)

(出所)https://breakingdefense.com/2023/10/most-aid-to-ukraine-is-spent-in-the-us-a-total-shutdown-would-be-irresponsible/

(備考)青とオレンジはウクライナへの軍事援助で、青は対外援助法に基づいて大統領が軍事援助を提供するために大統領権限を行使してなされる物品などのウクライナへの移転(ドローダウン)を指し、オレンジは大規模訓練や役務の提供を指す。青色斜線(「軍事-アメリカ」)は、国防総省が受け取る東欧での軍事活動の強化や軍需品生産の加速のための資金で、大半は米陸軍に支払われ、米海軍と米空軍に支払われる金額は少ない。黄色は人道援助、水色はウクライナ政府が通常の政府活動を継続するための資金、緑色(「米政府と国内」)は核不拡散活動など、戦争関連活動向けに米政府の他の部署が受け取る資金を示している。


バイデン大統領の大きな過ち

本当は、バイデン大統領は大きな過ちを犯している。それは、2022年2月24日にはじまったロシアによるウクライナへの全面侵攻を停止し、和平合意を締結させる絶好のチャンスを逸したとことだ。もっとはっきり書けば、せっかく緒戦でウクライナが勝利し、和平協定の締結目前にまで至ったにもかかわらず、米国と英国が軍事支援を約束して、ウクライナに和平を見送らせたのである。その結果、数十万人の死傷者が増加しただけでなく、戦渦の終結はまったく見通せない状況がつづいている。

2022年春の段階で、バイデン大統領がウクライナ支援を名目に「投資」し、その資金を国内にとどめたり、還流したりして、大統領選に利用しようとしていたわけではない(彼にとっては中間選挙で大きく負けないことが念頭にあった)。ただ、「ロシアの弱体化」という目的のために、ウクライナ戦争の継続を望んだのである。


和平目前だった

すでに、『フォーリン・アフェアーズ』の報道によって、ウクライナとロシアが2022年に和平協定締結の直前にまで至っていたことが米側の情報としてはじめて明らかになっている(ほぼ同じ内容をドイツの「ヴェルト」も報道)。

2022年2月28日からスタートした2国による和平協議は断続的に行われ、3月29日になって、トルコのイスタンブールで直接会談し、双方は共同コミュニケに合意したと発表する。「ウクライナの安全保障に関する条約の主要条項」と題されたコミュニケ草案の全文を入手した『フォーリン・アフェアーズ』には、「ウクライナ側がこのコミュニケを大筋で起草し、ロシア側はこれを条約の骨子とすることを暫定的に受け入れたという」と書かれている。

コミュニケで想定されている条約は、ウクライナが永世中立、非核国家であることを宣言するものであった。「ウクライナは、軍事同盟に参加したり、外国の軍事基地や軍隊の駐留を認めたりする意図を放棄する」として、コミュニケには、条約を保証する国の候補として、国連安全保障理事会の常任理事国(ロシアを含む)、カナダ、ドイツ、イスラエル、イタリア、ポーランド、トルコが挙げられていた。

ウクライナが攻撃を受け、支援を要請した場合、すべての保証国は、ウクライナとの協議や保証国同士の協議の後、ウクライナの安全回復のために支援を提供する義務を負うとのべているという。「驚くべきことに、これらの義務は、NATOの第5条(飛行禁止区域の設定、武器の提供、保証国の軍事力による直接介入)よりもはるかに正確に明記されていた」と『フォーリン・アフェアーズ』は指摘している。
さらに、提案された枠組みではウクライナは永世中立国となるが、ウクライナのEU加盟への道は開かれており、保証国(ロシアを含む)は明確に「ウクライナのEU加盟を促進する意思を確認する」と記されていたという。

この内容には、『フォーリン・アフェアーズ』の記事が指摘するように、プーチンの譲歩があったと思われる。3月初旬には、プーチンの電撃作戦が失敗したことは、明らかだったから、「おそらくプーチンは、長年の懸案であった『ウクライナがNATOへの加盟を断念し、自国領土にNATO軍を決して駐留させない』という要求をのむことができれば、損切りするつもりだったのだろう」、と記事はのべている。        

「コミュニケにはもうひとつ、振り返ってみれば驚くべき条項が含まれている」ともかかれている。それは、今後10年から15年の間に、クリミアをめぐる紛争を平和的に解決することを求めるというものだ。2014年にロシアがクリミアを併合して以来、ロシアはクリミアの地位について議論することに同意してこなかったことを考えると、ここでもロシア側の譲歩が現れている。


刮目すべき事実

刮目すべきは、和平協議がキーウ郊外のブチャとイルピンでの虐殺が明らかになった4月上旬以降もつづけられたことである。『フォーリン・アフェアーズ』の記事は、4月12日と15日の協定(交渉官間で交わされた最後の草案)のバージョンを比較し、その時点では重要な安全保障問題についての合意が得られていなかったことを明らかにしている。原案では、「ウクライナが攻撃された場合、保証国(ロシアを含む)はウクライナに軍事支援を行うかどうかを独自に決定する」とされていたが、4月15日の原案では、「合意された決定に基づいて」行われるという要件が追加された。

戦争の終結と平和条約の調印後にウクライナが保有できる軍隊の規模や軍備の数についても意見が対立した。4月15日の時点で、ウクライナ側は25万人の平時の軍隊を望んでいたが、ロシア側は最大でも8万5000人で、2022年の侵攻前のウクライナの常備軍よりかなり少ないと主張した。ウクライナ側は800台の戦車を望んでいたが、ロシア側は342台しか認めなかった。ミサイルの射程距離の差はさらに顕著で、ウクライナ側は280キロ、ロシア側はわずか40キロだった。

こうした実質的な意見の相違にもかかわらず、4月15日の草案では、条約は2週間以内に調印されることになっていた。「確かに、その日付はずれたかもしれないが、両チームが迅速に動くことを計画していたことを示している」というのが『フォーリン・アフェアーズ』の見立てだ。


和平を潰した米英

米国の利害を代表する『フォーリン・アフェアーズ』の記事では、和平交渉決裂の理由を、ウォロディミル・ゼレンスキーに帰しているようにみえる。(1)ブチャとイルピンでのロシアの残虐行為に憤慨していた、(2)自分たちは戦争に勝てるというウクライナ人の新たな自信――といったものがゼレンスキーの和平拒否へと傾かせたというのだ。

だが、3月30日、当時のボリス・ジョンソン英首相が「(プーチンの)軍隊が一人残らずウクライナから撤退するまで、制裁を強化し続けるべきだ」と述べ、4月9日、キーウを訪問した出来事は重大だった。そこで、ジョンソンは戦争継続を求めたのである。この事実は、和平会談でウクライナ側の代表を務めたダヴィド・アラハミヤが

「私たちがイスタンブールから戻ったとき、ボリス・ジョンソンがキエフにやってきて、『我々は(ロシア側とは)何もサインしない。戦い続けよう』とのべた」という発言によって裏づけられている。もちろん、ジョンソンの裏にはバイデン大統領が控えていた。

こう考えると、バイデン大統領の思惑が気になる。おそらく戦争を長期戦にもち込んで、ロシアの弱体化をはかるというのが狙いであったのだろう。


ウクライナ支援の本当の理由

しかし、それだけではない。米国がウクライナ支援を継続し、戦争を長引かせている背後には、今後の戦争に備えて最新兵器を開発するための実験を行うという狙いがあるのだ。

日本のマスメディアは報道しないが、ウクライナ戦争は自律型兵器の実験場となっている。米国は2017年から人工知能(AI)を戦争に持ち込むプロジェクト、「プロジェクト・メイヴン」(Project Maven)に着手している。たとえば、戦争に革命をもたらす可能性のある新世代の自律型無人機の開発が行われており、そのための実験場として、ウクライナ戦争は格好の場となっている。だからこそ、NYT(ニューヨークタイムズ)によれば、プロジェクト・メイヴンは、「現在では、ウクライナの最前線でテストされている野心的な実験に成長し、ロシアの侵略者と戦う兵士たちにタイムリーな情報を提供する米軍の取り組みの重要な要素を形成している」という。

おまけに、遠隔操作で動く軍事用ロボットは、非クルー式地上車両(Uncrewed Ground Vehicles, UGVs)もウクライナに投入され、実験場と化している。「最近のビデオでは、ウクライナのUGVがロシア領内の橋や陣地を攻撃し、爆発物を設置して撤退したり、神風攻撃をしたりしている」という。

つまり、最新のテクノロジーを実験するうえでも、ウクライナ戦争の継続が望ましいと考える人々が米国にたくさんいる。ウクライナ戦争で自律型無人機などの最新兵器の性能が高まれば、今後予想されるロシアや中国との直接的な戦争に大いに役立つかもしれない。そんな「悪だくみ」もあって、米国はウクライナ戦争を支援しつづけているのだ。

そう考えると、日本がウクライナに対して武器供与するなど「もってのほか」ということになるだろう。AIを使った自律型兵器開発に間接的に手を貸すことになるからだ。日本国民はバイデン政権の「悪だくみ」に加担すべきではない。



・誰も書かないから私が書いた~帝国主義アメリカの野望(現代ビジネス 2024年6月5日)

塩原 俊彦

※帝国主義、アメリカ

2024年5月14日付の「ワシントン・ポスト」の記事のなかに、「いまや中国のメディアやコメンテーターは、アメリカを 「美国」ではなく「美帝」と揶揄している」という、興味深い記述があった。「美国」の発音は、「メイグォ」(Meiguo)だが、「美帝」は「メイディー」(Meidi)と発音する。もはやアメリカは「美しい国」でも何でもなく、「アメリカ帝国主義」(美帝國主義)の国として批判の的となっているのだ、少なくとも中国では。

帝国主義というと、征服や略奪といった暴力による他国への侵略による植民地支配のことだと思うかもしれない。だが、リベラルデモクラシー(自由・民主主義)を他国に奨励し、他国に介入するというやり方によって利益を収奪するという帝国主義もある。アメリカが得意とするやり口だ。思想家、柄谷行人が指摘するように、帝国主義とは、国家と資本が強く結びつきながら、その国家および同国に属する企業の影響力を海外に拡大して利益を追求する方式と定義することもできる。アメリカも中国も欧州連合(EU)も帝国主義と言えるし、日本もまた帝国主義的な面をもっている。


アメリカがコソボでやったこと

そう考えると、アメリカ帝国主義の具体的な手口が気になるだろう。その実態を知れば、アメリカという国がいかなる国であるかがわかる。ここでは、2024年2月に「ポリティコ」で公表された記事や「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)の記事を参考にしながら、コソボでのアメリカの帝国主義的ふるまいを明らかにしてみよう。

コソボはベルギーの3分の1ほどの小さな国で、人口は約180万人にすぎない。国内総生産(GDP)は約100億ドルで、アメリカ最小のバーモント州の4分の1以下だ。1999年にアメリカと北大西洋条約機構(NATO)の同盟国がセルビアから引き離したのがコソボであり、2008年2月17日、コソボ共和国として独立が宣言される。それを支援したのがビル・クリントン米大統領であった。だからこそ、首都プリシュティナには、彼の銅像がそびえている(下の写真)。

プリシュティナのビル・クリントン大通りにあるビル・クリントン像は、コソボのアメリカに対する好意とその影響力を反映している。

(出所)https://www.nytimes.com/2012/12/12/world/europe/americans-who-helped-free-kosovo-return-as-entrepreneurs.html

2008年以降も、アメリカはコソボ支援を継続した。しかし、「ポリティコ」は、「アメリカはコソボに多額の資金を投じたが、よくみると、ワシントンの優先順位は、コソボが発展するために本当に必要なものを提供することよりも、アメリカの短期的なビジネスの利益によって決定されたことがわかる」と厳しい指摘をしている。

たとえば、建設会社ベクテルは高速道路建設を手掛けた。アメリカはまず、当時貧困率が約60%だったコソボが本当に道路を必要としていることを納得させなければならなかった。クリントン政権下で国家安全保障会議委員を務め、その後ロビイストに転身したマーク・タブラリデスは、当時のクリストファー・デル米大使の助けを借りて、ベクテルのためにプリシュティナの旧友に建設を働きかけた。世界銀行と国際通貨基金(IMF)の双方から、このプロジェクトの経済性に関して重大な懸念が示されたにもかかわらず、コソボ政府は推進を決定し、2010年にベクテル・エンカ(トルコ企業のエンカとの合弁)と約7億ユーロを見込んで契約を結んだ。結果として、ベクテル・エンカは、全長102 km、総工費4億ユーロの高速道路建設プロジェクトを77kmに縮小し、2012年に総工費約10億ユーロで完成させた。

しかし、2024年1月、プロジェクトが承認されたときに在任していたパル・レカジ前インフラ大臣は、ベクテル・コンソーシアムに5300万ユーロを過大に支払ったとして、職権乱用の罪で有罪判決を受け、禁固3年の判決を言い渡された。この事件では、彼の同僚3人も有罪判決を受けた。ベクテルはあくどい商売を展開していたのだ。


アメリカの国務長官とコソボ

未遂事件も紹介しよう。クリントン政権の国務長官だったマデレーン・オルブライトは自分の投資会社オルブライト・キャピタル・マネジメントを保有していた。同社は2013年に予定されていた、国営通信事業者PTKの民営化に注目した。同社の株式の75%売却に関心を示したのである。彼女はすぐに、数億ユーロの値がつくと予想される入札の最有力候補に浮上する。何しろ、彼女はアメリカの国務長官であったから、その政治力は大きく「カネになる」というわけだ。

オルブライトの関与を批判する人々は、彼女が当時コソボで唯一の民間携帯電話会社の株式をすでに所有しており、PTK事業の買収は重要な部門に対する影響力を彼女の手に集中させすぎると訴えた。オルブライトは当初反抗的だったが、NYT(ニューヨークタイムズ)紙の一面を飾った記事によって、彼女のコソボへの関与をめぐる潜在的な利益相反が注目されたため、結局入札を取り下げた。その後、プロセスは崩壊した。

だが、娘のアリスとコソボの関係はつづいている。彼女はコソボを含む貧しい国々に開発助成金を発行するアメリカの資金提供団体ミレニアム・チャレンジ・コーポレーションの最高責任者である。オルブライトが国務長官だったときに上級顧問を務め、のちに彼女のコンサルティング会社の副会長を務めたバルカン半島の古参、「ジェームズ・オブライエンは、最近、欧州・ユーラシア問題担当次官補としてこの地域に戻ってきた」、と「ポリティコ」は紹介している。

先に紹介したNYTによれば、ビジネスのためにコソボに戻ってきた人物のなかには、元陸軍大将で、セルビアの強権者スロボダン・ミロシェビッチに対する空爆作戦を指揮した元NATO軍欧州連合最高司令官ウェスリー・K・クラークがいた。クラークは長年にわたり、コソボのエネルギー部門に投資するさまざまな試みにかかわってきたが、カナダに本社を置くエンビディティ・エナジー社が進めた、コソボの膨大な褐炭を液化して合成燃料をつくる計画を推進しようとした。2013年、コソボ政府は外国人投資家がコソボの利益にならない方法で国の鉱物資源を開発するのを防ぐように設計された鉱業法を静かに修正し、公募なしで石炭を探すライセンスを発行できるようにした。その後間もなく、エンビディティはコソボの領土の3分の1にわたって褐炭を探す調査ライセンスを与えられる。しかし、ベクテル汚職が問題化したこともあって、クラークの計画は国連開発計画(UNDP)を憂慮させ、結局、頓挫した。これがアメリカの帝国主義の実態なのだ。


過去にウクライナで起きたこと、そして、今後起きること

2014年2月、ウクライナでアメリカ政府が支援したクーデターが成功すると、アメリカ側はコソボとよく似たスキームを企んだに違いない。その一人がハンター・バイデン(ジョー・バイデン大統領の次男)であったことは有名だ。当時、副大統領としてウクライナを担当していたバイデンを「屋根」にして利益をもくろんでいた、ウクライナのオリガルヒ(政治家と結託した寡頭資本家)ミコラ・ズロチェフスキーが、ハンターに多額のカネを支払っていたのは事実である。

2022年11月、世界最大級の投資・運用会社であるブラックロックは、ウクライナ経済省との間で覚書を交わし、ウクライナ再建のための公共投資および民間投資の促進で協力することに合意した。同年末には、ブラックロックのラリー・フィンクCEOはウォロディミル・ゼレンスキー大統領との間で、ウクライナ復興への投資を調整することで合意した。2023年2月になると、米投資銀行、J・P・モルガンは、ゼレンスキー大統領と、破壊されたインフラを再建するための新たな投資ファンドに民間資本を呼び込むことを視野に入れた覚書を交わすまでになる。同年6月には、「ブラックロックとJ・P・モルガン・チェース(J・P・モルガンの親会社で銀行持ち株会社)、ウクライナと復興銀行設立で提携」と報道されるに至っている。虎視眈々と、カネ儲けの話が進んでいるのだ。

つまり、アメリカの一部の投資家や富豪は、戦争をつづけることで儲けているし、戦争を停止しても儲けるための算段をつけている。そうした彼らの目論見に沿うかたちでバイデン政権がある。だからこそ、アメリカはウクライナ戦争を継続させたがっているのだ。これこそ、アメリカ帝国主義そのものなのである。


不可思議なのは、こんなアメリカが自由や民主主義を尊重すると称して、リベラルデモクラシーを世界中に普及させようとしてきた一方で、その帝国主義的な側面について批判的に解説する書物が極端に少ないことである。

とくに、日本では、アメリカ批判が忌避されている。つまり、アメリカの事実上の「属国」と化した日本では、「宗主国」たるアメリカ政府を批判できないムードが漂っているように思われてならない。アメリカ政府を怒らせると、さまざまな制裁が現実に執行されて大変な目に遭いかねないという雰囲気が横溢(おういつ)しているのだ。

日本には、琴線に触れる重大な内容であるがゆえに、主要マスメディアが決して紹介しない情報が存在する。そんな情報であっても、的確な識見としっかりした事実に裏づけられていれば、少しずつ人口に膾炙(かいしゃ)できると信じている。それは、ジャニー喜多川の性加害を無視してきた、悪しき日本のマスメディアに一矢報いたBBCが証明してくれたことでもある。

率直にいうと、私は国家というものが好きではない。だが、アメリカの「属国」であるよりは、「独立国ニッポン」であってほしいと心から願っている。