金星神信仰とはだいたい次のような思想である。


遙か昔、古代人は、「太陽(神)」が支配する「昼の世界」と、「月(神)」が支配する「夜の世界」があると考えた。
そして、昼が夜に、夜が昼に、移り変わる、2つの世界の境(さかい)に、「宵の明星」と「明けの明星」である、「金星(神)」がいると考えた。

故に、「金星(神)」は、「昼の世界」を破壊して「夜の世界」を創造し、「夜の世界」を破壊して「昼の世界」を創造する、「破壊神」にして「創造神」であると、考えた。

古代人は、宇宙の歴史、世界の歴史、人類の歴史、人の一生を、一日や一年の、「昼と夜」や「季節」の移り変わりと同じ、「循環の法則」が貫徹すると、考えた。

古代人は考えた。

「私達の世界は「円環」であり、始まりと終わりはつながっており、「昼の世界」と「夜の世界」を交互に繰り返し、その境(さかい)には「金星(神)」がいる。

世界の終わりに、「金星(神)」は復活し、「金星(神)」は古き世界を滅ぼして、全てを無に還し、新しき世界を創造し、世界は始まりに戻り、「金星(神)」は眠りにつく。そして、それは永遠に繰り返されるのだ・・・」と。

・・・「昼の世界」→金星神による破壊と創造→「夜の世界」→金星神による破壊と創造→「昼の世界」→金星神による破壊と創造→「夜の世界」→・・・繰り返し

古代人は、私達が今住んでいるこの世界も、いつか、金星神によって滅ぼされてしまうと考え、金星神を非常に恐れた。

古代人は考えた。

「この神(金星神)は、この世(現世)とあの世(来世)の境にいる、「境界の神」である。この神は、全てを滅ぼす恐るべき神だが、この神を崇め信仰すれば、死後に、私達の生命(霊魂)を、境界を越えて、来世に甦らせてくれるに違いない。

そして、世界の終わりに、全てが滅びても、この神を信じる者、この神に選ばれた者、だけは、新しき世界へ渡らせてくれるに違いない・・・」と。






(上)太陽と月が重なった日蝕(光り輝く環、オーリオール、コロナ)は、金星神のシンボルである。




・W.B.ウェイツ『ヴィジョン』 「古代人の大周年」より

2023年10月28日

https://nofia.net/?p=15212

※W.B.ウェイツ『ヴィジョン』- 古代人の大周年 – 四

ソクラテス前の哲学者アナクシマンドロスは、無限には二種類あるとし、一つはすべてが老いを知らず共存する無限、いま一つは継承と死滅とによる無限、これは世が世についで現れ、つねに同年数の世を繰り返す無限である。

エンペドクレスとヘラクレイトスは、宇宙ははじめ一つの形をもっていたが、やがて、それに対抗する形ができ、両者の交替がたえまなく繰り返されるのだとし、それは、たぶん、つぎのことを意味するであろうと考えた。

すなわち、全惑星が巨蟹宮の位置に並び、それら惑星の各中心と地球の中心とを結んで一本の線が引けるようになったとき、万物は火によって焼き払われ、全惑星が磨羯宮の位置に並ぶときは、水によって滅ぼされる。

この火は、われわれのいわゆる火ではなく、「天の火」、「全宇宙がはじめの根源に戻るための火」である。水もいわゆる水ではなく、自然を表す「月の水」である。

かくして「愛」と「離反」、「火」と「水」が交互に支配する。

「愛」は万象を「一」にし、「離反」は万象を分裂させる。しかし「愛」は、「離反」もそうだが、不変の永遠ではない。

…しかし、「火」の時代、「水」の時代に戻るとき、昔の同一人が復帰するのだろうか。それとも、その人に似た新しい人が到来するのだろうか。それに対する見解は人さまざまであった。

この世は極限に達したときに完全に滅びたのか、それとも新しい形態を得ただけなのか。ピロラオスは、火と水は古い形態を滅ぼして新しい形態を養ったにすぎないと考えた。

一つの世界と次の世界はとぎれなく続いたのだろうか。エンペドクレスは途中に休息の状態があると考えた。