多摩地域のPFAS血液検査、85%の人が「健康被害の恐れ」米国の指標値超える 市民団体が中間報告(東京新聞web 2023年1月31日)

※<PFASを追う>

東京・多摩地域で水道水に利用していた井戸水から発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)が検出された問題で、住民の血液検査に取り組んでいる市民団体が30日、国分寺市を中心とした87人分の分析結果を発表した。血中濃度が米国で定める指標値を超えた住民は約85%に上り、分析した専門家は「水道水が主な要因ではないか」と指摘した。(松島京太)


◆専門家「水を飲んで体内に蓄積している」
 
調査は、市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」と京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)が行った。PFASは米軍の泡消火剤に含まれ、全国の米軍基地内や周辺などで高濃度で検出され、問題化している。汚染源は、米軍横田基地(福生市など)との関連も疑われている。
 
今回は、昨年11月から調べている約600人のうち、中間報告として21〜91歳の87人分の結果を明らかにした。血中に含まれる13種類のPFASを分析し、うちPFOS(ピーフォス)、PFOA(ピーフォア)、PFHxS(ピーエフヘクスエス)、PFNA(ピーエフエヌエー)の4種類の結果をまとめた。国内ではPFASの血中濃度に関する基準がないため、海外の指標値を参考に評価した。
 
4種類の合計値で米国の指標値を超過した人は、全体の約85%の74人。特に、国内で製造や輸入が禁止されていないPFHxSの平均値が血液1ミリリットル当たり14.8ナノグラムで、環境省が2021年に全国の約120人を対象に実施した調査と比べ、約15倍の高さだった。指標値を超える人が多くなった大きな要因になった。
 
また、PFOSとPFOAをそれぞれ対象としたドイツの指標値では、PFOSでは約24%の21人、PFOAでは約7%の6人が超えた。

検査した国分寺市の65人には自宅の浄水器の有無について聞いた。付けていない42人の血中濃度の平均値は4種類のうち3種類で、付けている23人よりも高かった。水道水に含まれたPFASが体内に蓄積されている可能性があるとした。原田准教授によると、浄水器の活性炭がPFASの約9割を除去するとの世界保健機関(WHO)の研究があるという。
 
多摩地域の浄水施設では高濃度で検出されたため、34カ所の水源井戸での取水が停止された。それでも高いことに原田准教授は「過去の汚染状況はより高かった可能性があり、水を飲んで体内に蓄積している」と分析。取水停止により多摩地域の水道水は暫定目標値を下回っているが、「都の検査の数値に注意する必要がある」と話す。
 
健康影響については、急性に影響が出る数値ではないが、将来的に腎臓がんや、妊娠中の場合、子どもが低体重児になる恐れがあるとした。
 
会は、今回の結果を検査を受けた人に伝えた。今後も、羽村や立川、昭島、府中、清瀬市など多摩地域の広範囲で検査し、5月以降に約600人分を取りまとめた最終報告を公表したいとしている。

米国とドイツのPFAS血中濃度の指標値 米国では学術機関の「全米アカデミーズ」、ドイツでは政府諮問機関「ヒトバイオモニタリング委員会」が設定。米国の指標では、7種類のPFASの合計値が1ミリリットル当たり20ナノグラムを超えると健康影響の恐れがある。多摩地域の血液検査では4種類だけで指標値を超えた。ドイツの指標では血中のPFOSが同20ナノグラム、PFOAが同10ナノグラムを超えると、健康に悪影響が出る可能性があるとしている。


◆「烙印を体に押された」報告会でショックの声
 
東京・多摩地域で、有害物質PFASの住民の血中濃度を調べている市民団体が30日、立川市内で報告会を開いた。「高濃度と予想はしていたが、現実になってしまった」。血液検査に協力した国分寺市の中村紘子さん(80)は会場でマイクを握り、驚きをそう表現した。
 
中村さんは国分寺市に住んで45年。検査結果は、環境省の全国調査の平均値と比べて、PFOS(ピーフォス)が6.6倍、PFOA(ピーフォア)が4.5倍。4種の合計値は、健康被害の恐れがあるとされる米国の指標値の3.5倍を上回っていた。
 
「健康診断では、腎臓の数値が悪かった。関連性はどうなのか。身に覚えのない有害物質によって、烙印らくいんを体に押されたような感じだ。いつから、どれくらいの量が流れ込んだのか、汚染物質、量、経路を調べてほしい」と訴えた。
 
市内在住の高木比佐子さん(75)の検査結果も米国の指標値の3倍に迫る水準だった。「国分寺の水を使って、お茶を飲んだり、コーヒーを飲んだりしてきた。水は命を守る物。(行政には)しっかり解明、対応してもらいたい」と求めた。
 
調査結果を報告した京都大の原田浩二准教授は「今回の数値は高く、沖縄の結果に近い。まだまだ見えていない汚染をしっかり捉えていかないといけない」と指摘。市民団体共同代表の高橋美枝子さん(81)は「(国分寺では)都の調査によると、2011年から浄水場の水で高い数値が出ていた。(国や都は)横田基地の周辺の土壌をもっと熱心に調べるべきだ」と述べた。
  
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「PFASを追う」では、在日米軍基地由来のPFAS汚染問題を巡る国や自治体、住民の動きを随時紹介します。




・「女性労働者7人の2人の子供に奇形」「6つの大きな疾患に関連」…東京・多摩地区で検出された《有機フッ素化合物・PFAS》の「ヤバすぎる実態」と「汚染の真相」(現代ビジネス 2023年8月3日)

※「日本の水は安全」、そんな神話が崩れ去ろうとしている。世界で規制が進む汚染物質が、全国の地下水や河川から検出されているのだ。その水は水道水にも使われてきたという。何が起きているのか?


※知らずに飲みつづけてきた

分解されにくく蓄積されやすい。そして、なかなか消えない。「永遠の化学物質」と呼ばれる有機フッ素化合物(PFAS)が全国各地で検出され、さながら汚染列島の様相を呈している。

もっとも深刻なのは東京・多摩地区だ。水道水の水源として使われる地下水が汚染され、汚れた水を知らずに飲みつづけてきた住民たちの体の中に高濃度でたまっていることがわかってきた。発がん性や脂質異常などをもたらすだけに、健康への影響も懸念される。

日本一のホットスポット(汚染地帯)を生んだ汚染源は、多摩地区中部にある米軍・横田基地とみられる。消火訓練に使われる泡消火剤にこの化学物質が大量に含まれていたからだ。

6月30日の昼前、防衛省北関東防衛局から東京都都市整備局の担当者あてにメールが届いた。

〈横田飛行場内においては、2010年から2012年までの間に3件の泡消火剤の漏出があった〉

この日の「しんぶん赤旗」朝刊に書かれた内容をなぞるものだった。


米軍基地が汚染源であるとの疑い

じつは、この事実は4年半前に報じられていた。

〈横田でも有害物質漏出/米軍基地 井戸から検出〉

沖縄タイムスの'18年12月10日付朝刊一面に、こんな見出しが躍った。特約通信員のジョン・ミッチェル氏が入手した米軍報告書によると、泡消火剤の漏出事故が横田基地内で3件起きており、'12年11月に発覚したケースでは、推定800ガロン(約3000L)の泡消火剤が貯蔵タンクの床の隙間などから1年以上にわたって漏れていた可能性がある、とされた。

東京都は当時、防衛省に問い合わせたものの「米軍に照会中」とされ、確認できないままになっていた。それがようやく裏づけられ、米軍基地が汚染源であるとの疑いはいよいよ色濃くなった。

ところが、前述のメールには次のような一文が添えられていた。

〈飛行場の外へ流出したとは認識していない、との説明を米側から受けています〉

4年半にもわたってほっかむりを続けてきた米軍はようやく漏出の事実を認めた一方で、根拠も示さず影響は基地の中にとどまっている、というのだ。

有機フッ素化合物の用途は泡消火剤に限らず、多岐にわたる。水をはじき油もはじく特性から、焦げつき防止のフライパンや炊飯器、ハンバーガーの包装紙にはじまり、レインコートや防水スプレー、カーペットやキャンプ用品といった生活雑貨のほか、自動車部品や半導体の製造工程でも使われている。


こどもに奇形が見つかった

その危険性が明らかになったのは、米ウエストバージニア州にある大手化学メーカー・デュポン(現ケマーズ)の工場による環境汚染だった。約5000種類とも言われるPFASのなかで代表的なPFOAが使われた工場では、女性労働者7人のうち、生まれたこども2人に奇形が見つかるなどした。また、廃棄されたPFOAが水道水の取水源だった川を汚し、流域の住民たちに不調が相次いだ。

'99年にデュポンの責任を問う裁判が起こされ、約7万人を調査した結果、六つの疾患との関連が浮かび上がった。腎臓がん、精巣がん、高コレステロール(脂質異常)、潰瘍性大腸炎、甲状腺疾患、妊娠高血圧症である。

20年前から研究を続ける原田浩二・京都大学准教授(環境衛生学)はこう説明する。

「PFOAは体内で脂質の代謝を狂わせ、その結果、肝臓や甲状腺の異常などにつながっていく。すぐに何かの病気を引き起こすのではなく、将来の循環器疾患や一部のがんなどにかかるリスクを上げる。PFASを体の中に多く取り込むほどリスクが高まるのです」

さらに、こどもへの影響についても懸念する。

「PFASは母親から臍の緒を通じて胎児に移行することが確認されています。その結果、低体重で生まれたり、免疫やホルモンに影響を与えたりすることがわかったほか、精神の発達への影響についての研究も続けられています」

このため、原田准教授は米軍基地による汚染が疑われる沖縄や東京で、住民の体内汚染の実態解明に取り組んできた。東京では昨年秋から今年春にかけて、多摩地区の住民650人の血液中にPFASがどれくらい蓄積されているかを調べた。

ただし、日本は血中濃度についての基準がないため、アメリカの学術機関「全米アカデミーズ」の指針を参考にした。7種類のPFASの合計で血漿1ミリリットルあたり20ナノグラムを超えると、「健康への影響が懸念され、経過観察が必要」とされる。

原田准教授は、このうち日本で多く使われている4種類(PFOS、PFOA、PFHxS、PFNA)について調べたところ、合計値の平均は全体で23・4ナノグラムだった。個人別では、過半数にあたる335人が、米指針で「健康被害の恐れあり」とされるレベルを超えていた。


「米軍基地や工場から漏出」…健康への害がヤバすぎる《有機フッ素化合物・PFAS》日本全国「汚染水マップ」【全実名114ヵ所】

脂質異常と診断され……

米軍横田基地のある東京多摩地区。

下図のように自治体別にみると、血中濃度がもっとも高いのは国分寺市(東恋ヶ窪配水所・国分寺北町給水所)だった。89人の平均で43・8ナノグラム。93%が20ナノグラムを上回っていた。東恋ヶ窪配水所では長く、水道水を100%地下水でまかなってきた。'19年に取水を止めて川からの水に切り替えるまで、現在の水質管理の目標値の2〜3倍の濃度が続いていた。



(上)丸囲みの番号は次の図の番号に対応



京都大学・原田准教授は、高濃度で汚染された水道水(地下水)を飲むことで体内に取り込んだ影響とみる。

国分寺市在住45年の高木比佐子さん(75歳)は、血液検査(単位・ナノグラム)の結果を手にして驚いた。

 PFOS   16・0

 PFOA   7・4

 PFHxS   32・1

 PFNA   3・4

 合計    58・9

「国分寺のきれいな水を誇りに思ってきただけに、ショックでした。いったい、何が起きているのかと。あの水で溶いたミルクを幼い孫に飲ませてしまったことを思い出して、ゾッとしました」

それ以降、孫が遊びに来るときにはペットボトルの水を買っている。


さらに原因不明の「脂質異常」や脳梗塞も…

さらに、高木さんはPFASによる健康への影響についての説明を聞いてハッとした。

「私は10年ほど前から『脂質異常』と診断され、薬を飲んでいるのですが、太ってもいないし、体も動かしている。こども4人を育てる間もほとんど外食したことがない。それなのになんでだろうと、ずっと疑問に思ってました。でも、『脂質異常』がPFASによる影響の一つだと知って、ああだからか、と思ったのです」

昨年5月には、軽い脳梗塞に襲われた。日常生活に支障はないが、頭が回らなかったり、足がふらついたりするだけで、PFASのせいではないかと考えてしまう。

飲み水については、厚労省が'20年、1LあたりPFOSとPFOAの合計で50ナノグラム以下とする暫定の目標値を定めた。日本には摂取量と健康影響との関連をみきわめることのできるデータがないため、アメリカの環境保護庁(EPA)が設けた健康勧告値70ナノグラムから、体格などを考慮して導きだした。

ところが、EPAは今年中に健康勧告値を見直すとしている。現在、検討されているのはPFOS、PFOAそれぞれ4ナノグラムというものだ。大幅に引き下げるだけでなく、強制力のある規制値にするという。こうした動きを受けて、厚労省傘下の「水質基準逐次改正検討会」は暫定目標値の見直しを検討している。

汚染大国のアメリカは規制だけでなく、汚染対策にも取り組んでいる。米国内でPFAS汚染が確認されるか、疑いがあるとされる米軍施設は701ヵ所にのぼり、国防総省は専門部署を設けて水質浄化や土壌除染を進めている。バイデン政権は総額約100億ドル(約1兆1400億円=当時)をPFAS汚染対策にあてるという。

ところが、日本の米軍基地では対策はおろか調査もされず、汚染源と認めていない。あからさまなダブルスタンダードだ。

在日米軍は6月、「日本国内の主な米軍基地でPFOS、PFOAを含まない泡消火剤への交換を完了した」と発表したものの、基地周辺で深刻な汚染が見つかっている横田基地や嘉手納基地(沖縄県)などではまだ完了していない。


東京都は15年前から「見て見ぬフリ」を…⁉

PFOSを含む泡消火剤は'60年代後半に開発され、日本では'80年ごろから使われてきた、とみられるものの、いつから、どれくらい、どのように使ってきたのかについて米軍は一切明らかにしていない。ただ、「来年9月末までに有機フッ素化合物を含む泡消火剤の使用をやめる」というだけだ。

横田基地では、'93年にジェット燃料が大量に漏出する事故が起きた。その後、基地からの汚染を監視するため、東京都は周辺にモニタリング井戸を設けている。

モニタリング井戸での測定データを情報開示請求で手に入れたところ、立川市の井戸で'08年にPFOSとPFOAの合計で1265ナノグラム、'10年に1130ナノグラム、さらに'19年には1340ナノグラムが検出されていたことがわかった。いまの目標値の約27倍にあたる、きわめて深刻な汚染が起きていたのだ。

つまり、東京都は少なくとも15年前から横田基地によるPFAS汚染を認識していたことになる。にもかかわらず、基地内への立ち入り検査や地下水汚染の調査などを防衛省に求めることなく、'18年に3件の漏出事故が報道された後も、ただ報告を待ちつづけていたのだ。

この漏出事故を米軍が認めたことを受けて、小池百合子・東京都知事は7月6日、こう発言した。

「基地内の情報というのは、環境調査というのはなかなか難しいものがあります」

防衛省が米軍と交渉する前からあきらめを滲ませる言葉は、まるで「米軍ファースト」と言っているようにも聞こえる。環境相と防衛相を歴任し、いまは都民の健康を預かる政治家としての責任を感じ取るのは難しい。


血税で「米軍の尻拭い」

汚染源の解明を阻むのは、基地の運用を決める日米地位協定の壁があるから、と言われる。その実態とはどのようなものなのか。

11回、「在日米軍施設・区域環境調査」を行い、基地内の水質や土壌などを調べてきた。ところが'14年、基地内での測定が突然、認められなくなった。理由は明かされていないが、沖縄の嘉手納基地内にある井戸群などで高濃度のPFOSが検出された翌年のことだ。

その代わりとでもいうように'15年、日米間で環境補足協定が結ばれた。'60年に日米地位協定が結ばれて以来、法的拘束力のある約束は初めてで、汚染が起きた場合に日本側が基地内に立ち入り調査できる仕組みを盛り込んだ、とされた。

「従来の運用改善とは異なり、歴史的な意義がある」

そう胸を張ったのは、当時の岸田文雄外相だ。

ところが、協定には二つの抜け道が用意されていた。

立ち入り検査を求めることができるのは「事故が現に発生した場合」、つまり現在進行形で起きている場合に限られ、過去の汚染は対象にならない。さらに、「米軍からの情報提供(通報)」があった場合とされ、最終的に検査を認めるかどうかの決定権は米軍に委ねられたままだったのだ。

それどころか、米軍がもたらした汚染への対策には私たちの税金が使われている。

沖縄の嘉手納基地による汚染の影響を受ける北谷浄水場で、有機フッ素化合物を除去する活性炭を交換するための費用は1億7000万円。PFASを含む汚染水を一方的に下水に放流した普天間基地では、残りの汚染水処分にかかる9200万円を防衛省が支出した。これらは、米軍による汚染の尻拭いに血税が使われた事例の一部にすぎない。


全国「汚染水」地区マップ

ところで、環境省と沖縄県の最新の調査では、全国の河川や地下水など114地点が指針値(50ナノグラム)を超えていた。ただし、汚染源は米軍基地だけとは限らない。PFASそのものを製造していた工場のほか、製造過程でPFASを使っていた半導体や自動車部品などの工場、さらに泡消火剤を使っていた空港や自衛隊基地などの可能性もある。



国としてどのように取り組むべきか。「PFASに対する総合戦略検討専門家会議」が1月から議論を重ねているものの、行政による汚染地域での血液検査や汚染源の特定、さらに土壌汚染の基準づくりなどはほとんど議論されず、内実は「戦略」というにはほど遠い。

このままPFAS汚染列島はどこへ向かうのか。


諸永・裕司(もろなが・ゆうじ)/'93年、朝日新聞社入社。週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属し、2023年3月に退社。著書に『消された水汚染』(平凡社新書)、『葬られた夏 追跡 下山事件』(朝日文庫)、『ふたつの嘘 沖縄密約[1972-2010]』(講談社)がある