・本気とは思えない岸田首相の「異次元の少子化対策」の怪しさ(日刊ゲンダイDIGITAL 2023年1月19日)

前川喜平(元文部科学事務次官)

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1月4日の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と大言壮語した岸田首相。しかし、その具体的な内容は不明だ。

(1)児童手当を中心とした経済支援(2)学童や病児保育を含む幼児・保育サービスの充実(3)キャリアと育児の両立支援に向けた働き方改革や育児休業──などの制度拡充が3本柱だというが、これらは子育て支援の政策分野を並べたに過ぎない。問われるべきは、具体的にどの政策を、どの程度まで、どの財源で、いつまでに実現するのかだ。

岸田首相は小倉こども政策担当相に対し、関係省庁の局長級の検討会議を設け、3月末をめどにたたき台を取りまとめるよう指示し、「将来的な子ども予算の倍増」に向け6月に策定する「骨太方針」までに大枠を示すと言明したが、肝心の財源については何も語らない。

これではどこまで本気なのか、かなり怪しい。わざわざ「ようやく本気になったと思ってもらえるようにする」などと言ったが、それこそが怪しい。額も期間も財源も示した「防衛費の倍増」と比べて明らかに本気度が違う。

だいたい「将来的」とは何年先なのかもわからない。4月にはこども家庭庁が発足するが、「やってる感」を演出する以上の意味はない。必要なのは具体的な政策であって、新しい役所ではない。


防衛費倍増で国の財布は空っぽ

岸田政権は、考え得る限りの財源を防衛費につぎ込むことにしたのだから、国の財布はもう空っぽだ。いったいどこから少子化対策の財源を生み出すつもりなのか。社会保険料に上乗せして徴収する案や企業に拠出金を出させる案が取り沙汰されているが、企業が嫌がることはしないだろう。

やはり狙われるのは消費税だ。消費税法には消費税を充てる経費として、「少子化に対処するための施策」が明示されている。すでに甘利明氏は本音を漏らした。

しかし、若者が結婚も出産もあきらめるのは経済的理由が大きい。低賃金と非正規労働の拡大が少子化の根本原因だ。物価高騰により実質賃金は減っている。そんな中で消費税を引き上げて少子化対策ができるなどと考える人間は頭がどうかしている。

財源ならある。まず所得税の「1億円の壁」を解消し、実効税率の累進性を高めて富裕層から税金をとればいい。相続税の累進性も強化したらいい。子や孫への教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与を非課税にする税制などは、明らかな金持ち優遇税制だから即刻廃止すべきだ。内部留保を貯め込む大企業からは法人税をもっと取ったらいい。しかし、岸田政権はそんなことはしないだろう。

少子化対策で大言壮語したのは岸田首相が初めてではない。思い起こせば2015年9月、当時の安倍首相は「新3本の矢」の一つとして「夢をつむぐ子育て支援」を挙げ、2020年代半ばまでに「希望出生率1.8」を実現すると公言した。ところが2015年に1.45だった合計特殊出生率はその後低下し続け2021年は1.30。安倍首相は本気ではなかったのだ。

岸田首相も本気ではないが、少なくとも統一地方選までは本気のふりをするのだろう。