・「少子化×外国人受け入れ拡大」で日本の人口構成に起きる“人種の置き換わり”とは あらゆる職種で外国人が競争相手に(現代ビジネス 2022年8月1日)
本多 慎一
※遠い未来の話ではない
「日本は今後、時間をかけて外国出身者主体の国になっていく」――。
こう言われても、ほとんどの人はまだピンとこないだろう。しかし、これは単純な理屈で、一方が減り続け、他方が増え続けるという現象の帰結だ。少子化により今後の人口減少が加速するなか、政府自民党が押し進めているのが外国人受け入れ政策だ。この結果どうなるのか。
人口問題にSOMPOインスティテュート・プラスの岡田豊・上席研究員
が指摘する。
「今後も今のように出生率が1.4すら下回る水準で低迷する限り、日本の人口はひたすら右肩下がりで減少が続くことになります。
一方で、人口減による労働者不足を補うため、外国人を増やしていく今の政策が続くと、社会基盤や経済規模の縮小はある程度抑えられても、日本列島に住む人種的な構成が変化し、従来の日本人から外国出身者へと『人種の置き換わり』が、進んでいくことになります。労働力不足を補ってくれる外国出身者が、今は国内人口のごく一部の存在ですが、今後、急激に景色が変わっていくのは間違いありません」
これは遠い未来の話ではない。
もちろん外国人労働者や外国出身者の助けなしではもはや日本社会は成り立たなくなりつつあり、不可欠な存在なのは言うまでもないが、今の働く世代が生きている間にこうした「置き換わり」の現象は過渡期を迎える可能性が高い。
例えば日本より早い段階で少子化傾向となったドイツでは、本格的に移民政策に舵を切った1990年頃から現在までのたった30年程度で、国内人口に占める外国由来の人口の割合がおよそ10人に1人から4人に1人になっており、今後もその割合はさらに高まっていくだろう。
日本でもこのまま外国人受け入れ政策の拡大が続くとドイツと似たような道を辿る可能性は高い。
今後、より加速する人口減少に直面する日本に選択肢があるとすれば、
(1)社会基盤の維持や労働力確保のために総人口に占める日本人の割合が低下していっても、外国人の受け入れを拡大していく
(2)日本人の将来的な出生率回復に期待して、当面は人口減少社会を受け入れて、合理化や技術革新などで乗り切ろうとする
この、2つが考えられるが、現在の政府の政策は(1)になる。
人口動態は、政策が大きな影響を及ぼすと考えれば、現在の政策が将来の日本の運命に大きな影響を及ぼすのである。
5年間で在留外国人が84万人増加
ここで日本が置かれている人口問題の状況をおさらいしてみたい。
21年11月に発表された国勢調査によると、「国内人口」は5年前の前回調査より94万人も減少した。その間には在留外国人が84万人増加しているため、日本人に限っては5年間で178万人の減少となっている。
また、今年6月に発表された合計特殊出生率(2021年度)は1.30で6年連続減の危機的水準だ。
近年続く出生率1.4を割るような水準は年間出生数がおよそ40年で半減するスピードになる。過去を振り返ってみても、今から40年前の1981年は出生率1.74で153万人の出生数だったが、2021年の出生数は人口動態統計によると81万1600人(この40年間の出生率の平均値は1.47)と、容赦なく半減に近い数字となってしまった。
つまり今の出生率の低迷が今後も続くと40年後(2061年)の日本人の出生数はたった40万人程度という計算になり、さらにその40年後となる2101年には20万人となってしまう。1975年に出生率が2.0を割って以降、たった130年程度で年間の出生数が1/10程度(1972年比)になるという戦時中はおろか、歴史的にも経験したことのない状況になってしまうのだ。
一方で、近年は在留資格の段階的な条件緩和などで、外国人は増えている。前述のようにこの5年で外国人は84万人の純増となっており、18年は17万人増、コロナ禍の直前である19年は年間で20万人の純増となった。
外国人労働者がいないと産業が回らない
さらに政府は21年11月に飲食店店員などを含む14業種の幅広い分野の外国人労働者と帯同する家族の在留期限を事実上、撤廃し、実質的に永住できる法改正の方針を固めている。今後も外国人受け入れ政策の拡大などで、より一層、在留外国人は増えていきそうだ。
前出、岡田上席研究員が言う。
「諸外国との外国人材獲得競争や景気、
為替などの状況で、日本が選ばれ続けるのかという問題はありますが、当面、年間25万人ほどは必要です。さらにもう5年もすると、働く世代の生産年齢(15〜64歳)人口が約30年に渡り毎年90万人ずつ減っていく”急減期”を迎えます。その人手不足を補おうとすると、年50万人くらいの増加がないと、産業の現場は回らなくなるでしょう。
外国人労働者への需要は今後さらに増すと言うことです。今は職場が工場など、一部に偏っているため外国人労働者の存在は見えにくいのですが、働く人に限っては現時点ですでに30人に1人が外国籍です。近いうちにホワイトカラーも含め、10人に1人、5人に1人と外国人の割合は上がっていくはずです」
外国人との「置き換わり」の現象はすでに国内各地で進行中だ。
例えば留学生が多い東京都では、住民登録されている新成人の8人に1人、新宿区では新成人の2人に1人が外国籍だ。世田谷区でも2015年の外国人住民の増加は1万5000人だったのが、2019年には2万1000人で、たった4年で35%強の増加となっている。
地方でもその動きは同様だ。例えば島根県出雲市では、2013年の1800人から2018年には工場ができたことで外国人従業員とその家族の増加により、4000人と、2倍以上に増加した。
同市では人口減の対策として2016年に外国人住民のうち、5年以上の定住者を30%以上にするという数値目標を掲げ、定住を促している。昨年、東京都武蔵野市では外国人住民投票条例の是非が物議を醸したが、既に40を超える自治体で同様の条例が導入済みなのは、外国人住人の増加を受けてのものだ。
こうした状況は今後も加速度的に進んでいくだろう。何も政府があらためて「移民による多民族国家」を目指す宣言をするまでもなく、気がつけば時間の問題でそうなっていると言っていいかもしれない。
人種の「置き換わり」現象は遠い未来の世代の話ではなく、今の現役世代も十分、関係してくるのだ。外国人労働者数の動向を見ても、08年の48万人が、2021年には173万人と、3倍以上の増加となっている。
ホワイトカラー職種でも、該当する「専門的・技術的分野の在留資格」では08年の8万4000人から、20年には35万9000人と、4倍以上の伸び率となっている。
外国人との賃金争い
今後はあらゆる職種でも外国人が競争相手となるのは必至の情勢だ。
しかも、人口の少ない若い世代ほど外国人の割合は高まる。これは、日本人の年齢階層が少子化により、逆ピラミッド型であることに対し、留学や労働目的で若い世代からの流入が多い在留外国人はピラミッド型の年齢階層であるためだ。
例えば、2040年時点では、生産労働人口は5790万人程度と予測され、この数字に外国人が毎年25万人ずつ増えると18年間で450万人の増加となり、およそ6240万人のうち、すでにいる外国人と合計した700万人程度が外国人及び外国出身者となる。
今後想定される人口動態をみてみたいが、人口問題研究所(厚労省)が2018年に作成した長期推計である「日本の将来推計人口」が描くシミュレーションは衝撃的だ。
同推計では外国人の流入を考慮しなければ2040年時点では、生産年齢人口は5800万人程度と予測している。これが、毎年25万人ずつ外国人が増える推計では2040年時点の生産年齢人口が6400万人となり、すでにいる外国人と合計した7800万人程度が外国人及び外国出身者となる。
この年25万人増加の想定でも、今後の生産年齢人口の減少幅には到底足りないが、それでも今からたった18年後には働く世代の9人に1人が外国出身者となる計算だ。
「すでに、農業や工業が盛んな地域では外国人の割合が10%を超える自治体が出てきています。働く業種には偏りがあるので、そう遠くない将来に外国人の方が多い職場も珍しくなくなるっていくでしょう。今後の世代は外国人との賃金争いにも覚悟しなくてはなりません」(岡田上席研究員)
さらに先を「将来推計人口」で見てみよう。
若い世代で外国人の割合が過半数を超えてくる
2060年時点では生産年齢人口は外国人の流入がない場合は4500万人程度とされ、外国人の増加が25万人の想定では同6000万人を維持する。そしてその場合には生産年齢人口の、4人に1人は外国人、40才以下に限れば3人に1人が外国人となっている可能性がある。
そして2060年を過ぎると、若い世代から順次、外国人の割合が半数を超えてくることになる。
2100年の中位予測によると、外国人が流入しない想定で国内総人口は5300万人。生産年齢人口は2700万人程度しかいなくなる予測だが、25万人増加の想定では同4300万人で2.6人に1人が外国人だ。
とりわけ、年50万人増加の推計だと、2080年には同6600万人となり、流入がない場合の想定である3400万人のうち既存の外国人の存在を考慮に入れると、この時、生産年齢人口における日本人の割合は過半数を割り込み、外国人、及び外国出身者と逆転することになる。これは今からたった60年後の予測である。

なお、「将来推計人口」は、コロナ禍による外国人の新規流入減は反映されていない。直近の値を反映し、2024年から外国人が増加する想定で調整したのが掲載したグラフになる。推計より変化は後ろ倒しになるが、出生率が推計(1.40で計算)より悪化した現在の状況が続けば推計値とそう変わらなくなる可能性もある。
そして外国人の受け入れ過渡期では様々な問題も起こるだろう。
後編記事『「外国人労働者の紹介料で40億円」人材関連企業の“利権”で加速する日本の“人種の置き換わり”』では外国人の受け入れ政策に付随する問題、外国人材の業務を拡大させている人材会社についてもレポートする。
・「外国人労働者の紹介料で40億円」人材関連企業の“利権”で加速する日本の“人種の置き換わり”(現代ビジネス 2022年8月1日)
本多 慎一
※外国人の受け入れ過渡期で起きること
日本の人口構成は急速に変化し、この先、日本人より外国人のほうが多くなる「人種の置き換わり」が起きるーー。
前編記事『「少子化×外国人受け入れ拡大」で日本の人口構成に起きる“人種の置き換わり”とは』では詳細なデータとともに、日本の人口構成の未来を論じてきた。後編記事では、外国人の受け入れ政策に付随する問題、外国人材の紹介料で儲ける人材会社の実態についてレポートしていく。
外国人の受け入れ過渡期では様々な問題も起こるだろう。
「日本人は外国人アレルギーがあったり、外国人を低賃金労働者としかみていない経営者が多かったり、受け入れ態勢が整っているとは思えません。こうした状況だと外国人は日本社会に溶け込めず、分断が起こって出身国別に地域内で固まってしまいます。
自分の意思で来日し、ある程度の不公平感への覚悟がある1世と違い、2、3世は生まれながらにあらぬ差別を体験したりします。移民国家の欧米ではこうした、移民2、3世の不満が社会問題化しています。日本社会はこうならないように、共生社会に向けた努力が求められるのです」 (SOMPOインスティテュート・プラスの岡田豊・上席研究員)
人種の「置き換わり」現象は移民国家でもある欧米では、もうすでに後戻りできない段階にまできている。
米・国勢調査局の統計によれば2020年6月には米国の16歳未満で白人人口が初めて半分を割ったという。同国では1990年に75%だった白人の人口割合がたった30年後の2020年には58%にまで急減。
人口最多のカリフォルニア州ではすでに白人人口は35%を割り込み、ヒスパニックの39%と逆転して少数派に転じている。全米でも2045年までに白人人口が半分を割るというのが推計だ。
民族的な自死の過程にある
イギリスでも現在すでに、元々の白人人口が80%を割り、ロンドンの人口では既に白人系が半数を割っている。子供の名前の人気では「ムハンマド」が毎年上位に食い込んでいるというほどだ。つまり、たった30年程度、外国人の受け入れ政策を続けているだけでも、ガラリと人種の構成が変わるのを欧米では実証済みなのだ。
政治学者で九州大学大学院の施光恒教授が言う。
「現在、欧州内における民族的な分断から起こる社会問題はあくまで移民の受け入れ政策に付随する問題ですが、本質的な問題はそこではありません。一部の知識人の間ではすでに、少子化と移民受け入れ政策により、欧州は現在進行形で『民族的な自死の過程にある』と言う認識があります。
英国のジャーナリスト、ダグラス・マレー氏が著した『西洋の自死――移民・アイデンティティ・イスラム』では、英国をはじめとする欧州諸国がどのようにして外国人労働者の受け入れ依存体質から抜け出せなくなったのか、その結果、欧州の社会や文化がいかに変容しつつあるかを書いていて、欧州各国で発売され、ベストセラーとなっています」
年単位でジワジワと訪れる緩やかな人口動態の変化には逼迫した危機を自覚しにくく、数年単位で変わる政権政治では、どうしても後回しになりがちなテーマで、対処されにくいところにある。
政治家が「これからは外国人主体の国に変わっていきます」と方針を示せば、大多数の国民は反対するだろうが、「労働者不足を毎年、少しだけ外国人に補ってもらいます」と説明すれば、結局、前者と同じ結果が待ち構えていても、選挙の争点にすらならず、いつの間にか状況を受け入れてしまう。
実際、少子化現象は問題視されてきた1980年代前半から40年以上経つが、毎年数万人程度の出生数の減少幅であれば、慣れてしまうものだ。
政府の少子化対策関連予算の優先順位も常に低く、少なくとも予算額ベースでは、政府の本気度が高いとは言い難い。
目先のコストを抑えたい企業
ウクライナ危機などで、安全保障の補正予算が過去最大の7700億円も計上される扱いとは比べるべくもない。そして対症療法的に外国人を増やし続ける政策の結果として、気が付けば「日本人はもう少数派」--。そんな未来になる可能性は非常に高そうだ。
とはいえ、いくら緩慢に出生数が減少するとしても、少子化問題の深刻さは周知の事実である。分かりきった重要課題である少子化対策へ十分な予算を割くことをせず、安易な外国人労働者の受け入れ政策に傾倒しているのは、別の理由もあるかもしれない。
前出・施教授が言う。
「人口減による人手不足が根底にはあるにせよ、外国人労働者受け入れにより、目先の労働コストの抑制を期待できる企業経営者の意向は大きいでしょう。また政府も少子化対策にお金を使うより、外国人を受け入れた方が、手っ取り早く税収や社会保険料を徴収できていいと考えているようです」
しかも企業は外国人を雇用した場合、比較的安い賃金で雇えることに加え、言語支援や職場環境の整備に関わる経費などには、助成金や補助金も手厚く拠出される。例えば厚労省の「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」では外国人の雇用に必要な関連経費のうち、上限72万円まで助成される。
くわえて、外国人材の業務を拡大させている人材会社の存在も政府の外国人政策に影響を与えているとみる向きもある。
「例えば2019年には、当時の厚生労働政務官が外国人労働者の在留資格認定の口利きを巡り、ある人材会社に対して認定1人あたり2万円の金銭要求疑惑が報じられるなど(報道後、政務官を辞任)、規制産業なだけに、政治と業界の距離は近そうです。
ちなみにこの人材会社のHPによれば、外国人の高度人材だと、新卒や中途1人につき120万円の紹介料を得ているそうで、これまでに3500人以上を紹介してきたとのこと。それだけでも40億円以上の売上です」(全国紙社会部記者)
つまり、外国人の受入れ政策は人手不足という要素だけでなく、人材関連企業の利権という側面もあるのだ。
なお、この会社を含む50社以上の人材紹介会社が加盟する「外国人雇用協議会」は顧問に政界や行政にも太いパイプを持ち、自らも人材会社の会長((退任予定)を務める竹中平蔵氏らを据えている。
この団体の公式HPなどによると、利害関係にあたる出入国管理庁や自民党本部などで頻繁に意見交換会の開催や後援をしたり、シンポジウムに自民党有力議員を招いたりするなど、活発なロビー活動も窺える。
国民の同意や理解なしに進む「置き換わり」
業界団体として、政治や行政に働きかけること自体は他業界でも珍しくはないが、問題は特定分野の企業の営利活動が、結果として「将来的な人口構成の変化」という日本社会の垣根に多大な影響を与えてしまうことだ。
「一方で、国民は外国人と賃金争いで、せっかくの人手不足による賃上げのチャンスを失い、産業分野では機械化やDX化など、設備投資も遅れてしまい、技術革新も遅れてしまいます。また、外国人の家族も帯同すればその社会保障の支出など、受け入れコストの負担も考えられるのです」(前出の施教授)
しかもこうした大きな変化を引き起こす政策が、十分な国民の同意や理解なしに進められてしまっている点も問題だろう。総人口における日本人の割合の下がり方が年単位の緩やかさであれば、国民にとっても、その時々が平時の状態として、特段問題視されることもないかもしれないが、それで果たしていいのか。
施教授が続ける。
「政府の外国人政策は、労働力不足への対応という観点しかなく、日本人が減り続ける中で、外国人受け入れ政策を続けた場合の人種構成の変化という視点がほとんどないことには大きな問題を感じます」
つまり、政府の外国人政策には“出口戦略”がないのだ。
”令和の大開国”がいよいよ控える
いつかの時点で少子化対策が実を結ぶことを期待して、当面は減り続ける人口減社会を合理化や技術革新などで乗り切るか。それともある程度の経済規模の維持とを引き換えに、現在の日本人から外国人と外国出身者に長い時間をかけて徐々にバトンタッチしていくのか。
今のコロナ禍が落ち着き、入国制限が段階的に緩和されれば、いよいよ控えるのが”令和の大開国”だ。少子化問題だけではなく、外国人政策についても、そろそろ国民的な議論の時なのかもしれない。
本多 慎一
※遠い未来の話ではない
「日本は今後、時間をかけて外国出身者主体の国になっていく」――。
こう言われても、ほとんどの人はまだピンとこないだろう。しかし、これは単純な理屈で、一方が減り続け、他方が増え続けるという現象の帰結だ。少子化により今後の人口減少が加速するなか、政府自民党が押し進めているのが外国人受け入れ政策だ。この結果どうなるのか。
人口問題にSOMPOインスティテュート・プラスの岡田豊・上席研究員
が指摘する。
「今後も今のように出生率が1.4すら下回る水準で低迷する限り、日本の人口はひたすら右肩下がりで減少が続くことになります。
一方で、人口減による労働者不足を補うため、外国人を増やしていく今の政策が続くと、社会基盤や経済規模の縮小はある程度抑えられても、日本列島に住む人種的な構成が変化し、従来の日本人から外国出身者へと『人種の置き換わり』が、進んでいくことになります。労働力不足を補ってくれる外国出身者が、今は国内人口のごく一部の存在ですが、今後、急激に景色が変わっていくのは間違いありません」
これは遠い未来の話ではない。
もちろん外国人労働者や外国出身者の助けなしではもはや日本社会は成り立たなくなりつつあり、不可欠な存在なのは言うまでもないが、今の働く世代が生きている間にこうした「置き換わり」の現象は過渡期を迎える可能性が高い。
例えば日本より早い段階で少子化傾向となったドイツでは、本格的に移民政策に舵を切った1990年頃から現在までのたった30年程度で、国内人口に占める外国由来の人口の割合がおよそ10人に1人から4人に1人になっており、今後もその割合はさらに高まっていくだろう。
日本でもこのまま外国人受け入れ政策の拡大が続くとドイツと似たような道を辿る可能性は高い。
今後、より加速する人口減少に直面する日本に選択肢があるとすれば、
(1)社会基盤の維持や労働力確保のために総人口に占める日本人の割合が低下していっても、外国人の受け入れを拡大していく
(2)日本人の将来的な出生率回復に期待して、当面は人口減少社会を受け入れて、合理化や技術革新などで乗り切ろうとする
この、2つが考えられるが、現在の政府の政策は(1)になる。
人口動態は、政策が大きな影響を及ぼすと考えれば、現在の政策が将来の日本の運命に大きな影響を及ぼすのである。
5年間で在留外国人が84万人増加
ここで日本が置かれている人口問題の状況をおさらいしてみたい。
21年11月に発表された国勢調査によると、「国内人口」は5年前の前回調査より94万人も減少した。その間には在留外国人が84万人増加しているため、日本人に限っては5年間で178万人の減少となっている。
また、今年6月に発表された合計特殊出生率(2021年度)は1.30で6年連続減の危機的水準だ。
近年続く出生率1.4を割るような水準は年間出生数がおよそ40年で半減するスピードになる。過去を振り返ってみても、今から40年前の1981年は出生率1.74で153万人の出生数だったが、2021年の出生数は人口動態統計によると81万1600人(この40年間の出生率の平均値は1.47)と、容赦なく半減に近い数字となってしまった。
つまり今の出生率の低迷が今後も続くと40年後(2061年)の日本人の出生数はたった40万人程度という計算になり、さらにその40年後となる2101年には20万人となってしまう。1975年に出生率が2.0を割って以降、たった130年程度で年間の出生数が1/10程度(1972年比)になるという戦時中はおろか、歴史的にも経験したことのない状況になってしまうのだ。
一方で、近年は在留資格の段階的な条件緩和などで、外国人は増えている。前述のようにこの5年で外国人は84万人の純増となっており、18年は17万人増、コロナ禍の直前である19年は年間で20万人の純増となった。
外国人労働者がいないと産業が回らない
さらに政府は21年11月に飲食店店員などを含む14業種の幅広い分野の外国人労働者と帯同する家族の在留期限を事実上、撤廃し、実質的に永住できる法改正の方針を固めている。今後も外国人受け入れ政策の拡大などで、より一層、在留外国人は増えていきそうだ。
前出、岡田上席研究員が言う。
「諸外国との外国人材獲得競争や景気、
為替などの状況で、日本が選ばれ続けるのかという問題はありますが、当面、年間25万人ほどは必要です。さらにもう5年もすると、働く世代の生産年齢(15〜64歳)人口が約30年に渡り毎年90万人ずつ減っていく”急減期”を迎えます。その人手不足を補おうとすると、年50万人くらいの増加がないと、産業の現場は回らなくなるでしょう。
外国人労働者への需要は今後さらに増すと言うことです。今は職場が工場など、一部に偏っているため外国人労働者の存在は見えにくいのですが、働く人に限っては現時点ですでに30人に1人が外国籍です。近いうちにホワイトカラーも含め、10人に1人、5人に1人と外国人の割合は上がっていくはずです」
外国人との「置き換わり」の現象はすでに国内各地で進行中だ。
例えば留学生が多い東京都では、住民登録されている新成人の8人に1人、新宿区では新成人の2人に1人が外国籍だ。世田谷区でも2015年の外国人住民の増加は1万5000人だったのが、2019年には2万1000人で、たった4年で35%強の増加となっている。
地方でもその動きは同様だ。例えば島根県出雲市では、2013年の1800人から2018年には工場ができたことで外国人従業員とその家族の増加により、4000人と、2倍以上に増加した。
同市では人口減の対策として2016年に外国人住民のうち、5年以上の定住者を30%以上にするという数値目標を掲げ、定住を促している。昨年、東京都武蔵野市では外国人住民投票条例の是非が物議を醸したが、既に40を超える自治体で同様の条例が導入済みなのは、外国人住人の増加を受けてのものだ。
こうした状況は今後も加速度的に進んでいくだろう。何も政府があらためて「移民による多民族国家」を目指す宣言をするまでもなく、気がつけば時間の問題でそうなっていると言っていいかもしれない。
人種の「置き換わり」現象は遠い未来の世代の話ではなく、今の現役世代も十分、関係してくるのだ。外国人労働者数の動向を見ても、08年の48万人が、2021年には173万人と、3倍以上の増加となっている。
ホワイトカラー職種でも、該当する「専門的・技術的分野の在留資格」では08年の8万4000人から、20年には35万9000人と、4倍以上の伸び率となっている。
外国人との賃金争い
今後はあらゆる職種でも外国人が競争相手となるのは必至の情勢だ。
しかも、人口の少ない若い世代ほど外国人の割合は高まる。これは、日本人の年齢階層が少子化により、逆ピラミッド型であることに対し、留学や労働目的で若い世代からの流入が多い在留外国人はピラミッド型の年齢階層であるためだ。
例えば、2040年時点では、生産労働人口は5790万人程度と予測され、この数字に外国人が毎年25万人ずつ増えると18年間で450万人の増加となり、およそ6240万人のうち、すでにいる外国人と合計した700万人程度が外国人及び外国出身者となる。
今後想定される人口動態をみてみたいが、人口問題研究所(厚労省)が2018年に作成した長期推計である「日本の将来推計人口」が描くシミュレーションは衝撃的だ。
同推計では外国人の流入を考慮しなければ2040年時点では、生産年齢人口は5800万人程度と予測している。これが、毎年25万人ずつ外国人が増える推計では2040年時点の生産年齢人口が6400万人となり、すでにいる外国人と合計した7800万人程度が外国人及び外国出身者となる。
この年25万人増加の想定でも、今後の生産年齢人口の減少幅には到底足りないが、それでも今からたった18年後には働く世代の9人に1人が外国出身者となる計算だ。
「すでに、農業や工業が盛んな地域では外国人の割合が10%を超える自治体が出てきています。働く業種には偏りがあるので、そう遠くない将来に外国人の方が多い職場も珍しくなくなるっていくでしょう。今後の世代は外国人との賃金争いにも覚悟しなくてはなりません」(岡田上席研究員)
さらに先を「将来推計人口」で見てみよう。
若い世代で外国人の割合が過半数を超えてくる
2060年時点では生産年齢人口は外国人の流入がない場合は4500万人程度とされ、外国人の増加が25万人の想定では同6000万人を維持する。そしてその場合には生産年齢人口の、4人に1人は外国人、40才以下に限れば3人に1人が外国人となっている可能性がある。
そして2060年を過ぎると、若い世代から順次、外国人の割合が半数を超えてくることになる。
2100年の中位予測によると、外国人が流入しない想定で国内総人口は5300万人。生産年齢人口は2700万人程度しかいなくなる予測だが、25万人増加の想定では同4300万人で2.6人に1人が外国人だ。
とりわけ、年50万人増加の推計だと、2080年には同6600万人となり、流入がない場合の想定である3400万人のうち既存の外国人の存在を考慮に入れると、この時、生産年齢人口における日本人の割合は過半数を割り込み、外国人、及び外国出身者と逆転することになる。これは今からたった60年後の予測である。

なお、「将来推計人口」は、コロナ禍による外国人の新規流入減は反映されていない。直近の値を反映し、2024年から外国人が増加する想定で調整したのが掲載したグラフになる。推計より変化は後ろ倒しになるが、出生率が推計(1.40で計算)より悪化した現在の状況が続けば推計値とそう変わらなくなる可能性もある。
そして外国人の受け入れ過渡期では様々な問題も起こるだろう。
後編記事『「外国人労働者の紹介料で40億円」人材関連企業の“利権”で加速する日本の“人種の置き換わり”』では外国人の受け入れ政策に付随する問題、外国人材の業務を拡大させている人材会社についてもレポートする。
・「外国人労働者の紹介料で40億円」人材関連企業の“利権”で加速する日本の“人種の置き換わり”(現代ビジネス 2022年8月1日)
本多 慎一
※外国人の受け入れ過渡期で起きること
日本の人口構成は急速に変化し、この先、日本人より外国人のほうが多くなる「人種の置き換わり」が起きるーー。
前編記事『「少子化×外国人受け入れ拡大」で日本の人口構成に起きる“人種の置き換わり”とは』では詳細なデータとともに、日本の人口構成の未来を論じてきた。後編記事では、外国人の受け入れ政策に付随する問題、外国人材の紹介料で儲ける人材会社の実態についてレポートしていく。
外国人の受け入れ過渡期では様々な問題も起こるだろう。
「日本人は外国人アレルギーがあったり、外国人を低賃金労働者としかみていない経営者が多かったり、受け入れ態勢が整っているとは思えません。こうした状況だと外国人は日本社会に溶け込めず、分断が起こって出身国別に地域内で固まってしまいます。
自分の意思で来日し、ある程度の不公平感への覚悟がある1世と違い、2、3世は生まれながらにあらぬ差別を体験したりします。移民国家の欧米ではこうした、移民2、3世の不満が社会問題化しています。日本社会はこうならないように、共生社会に向けた努力が求められるのです」 (SOMPOインスティテュート・プラスの岡田豊・上席研究員)
人種の「置き換わり」現象は移民国家でもある欧米では、もうすでに後戻りできない段階にまできている。
米・国勢調査局の統計によれば2020年6月には米国の16歳未満で白人人口が初めて半分を割ったという。同国では1990年に75%だった白人の人口割合がたった30年後の2020年には58%にまで急減。
人口最多のカリフォルニア州ではすでに白人人口は35%を割り込み、ヒスパニックの39%と逆転して少数派に転じている。全米でも2045年までに白人人口が半分を割るというのが推計だ。
民族的な自死の過程にある
イギリスでも現在すでに、元々の白人人口が80%を割り、ロンドンの人口では既に白人系が半数を割っている。子供の名前の人気では「ムハンマド」が毎年上位に食い込んでいるというほどだ。つまり、たった30年程度、外国人の受け入れ政策を続けているだけでも、ガラリと人種の構成が変わるのを欧米では実証済みなのだ。
政治学者で九州大学大学院の施光恒教授が言う。
「現在、欧州内における民族的な分断から起こる社会問題はあくまで移民の受け入れ政策に付随する問題ですが、本質的な問題はそこではありません。一部の知識人の間ではすでに、少子化と移民受け入れ政策により、欧州は現在進行形で『民族的な自死の過程にある』と言う認識があります。
英国のジャーナリスト、ダグラス・マレー氏が著した『西洋の自死――移民・アイデンティティ・イスラム』では、英国をはじめとする欧州諸国がどのようにして外国人労働者の受け入れ依存体質から抜け出せなくなったのか、その結果、欧州の社会や文化がいかに変容しつつあるかを書いていて、欧州各国で発売され、ベストセラーとなっています」
年単位でジワジワと訪れる緩やかな人口動態の変化には逼迫した危機を自覚しにくく、数年単位で変わる政権政治では、どうしても後回しになりがちなテーマで、対処されにくいところにある。
政治家が「これからは外国人主体の国に変わっていきます」と方針を示せば、大多数の国民は反対するだろうが、「労働者不足を毎年、少しだけ外国人に補ってもらいます」と説明すれば、結局、前者と同じ結果が待ち構えていても、選挙の争点にすらならず、いつの間にか状況を受け入れてしまう。
実際、少子化現象は問題視されてきた1980年代前半から40年以上経つが、毎年数万人程度の出生数の減少幅であれば、慣れてしまうものだ。
政府の少子化対策関連予算の優先順位も常に低く、少なくとも予算額ベースでは、政府の本気度が高いとは言い難い。
目先のコストを抑えたい企業
ウクライナ危機などで、安全保障の補正予算が過去最大の7700億円も計上される扱いとは比べるべくもない。そして対症療法的に外国人を増やし続ける政策の結果として、気が付けば「日本人はもう少数派」--。そんな未来になる可能性は非常に高そうだ。
とはいえ、いくら緩慢に出生数が減少するとしても、少子化問題の深刻さは周知の事実である。分かりきった重要課題である少子化対策へ十分な予算を割くことをせず、安易な外国人労働者の受け入れ政策に傾倒しているのは、別の理由もあるかもしれない。
前出・施教授が言う。
「人口減による人手不足が根底にはあるにせよ、外国人労働者受け入れにより、目先の労働コストの抑制を期待できる企業経営者の意向は大きいでしょう。また政府も少子化対策にお金を使うより、外国人を受け入れた方が、手っ取り早く税収や社会保険料を徴収できていいと考えているようです」
しかも企業は外国人を雇用した場合、比較的安い賃金で雇えることに加え、言語支援や職場環境の整備に関わる経費などには、助成金や補助金も手厚く拠出される。例えば厚労省の「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」では外国人の雇用に必要な関連経費のうち、上限72万円まで助成される。
くわえて、外国人材の業務を拡大させている人材会社の存在も政府の外国人政策に影響を与えているとみる向きもある。
「例えば2019年には、当時の厚生労働政務官が外国人労働者の在留資格認定の口利きを巡り、ある人材会社に対して認定1人あたり2万円の金銭要求疑惑が報じられるなど(報道後、政務官を辞任)、規制産業なだけに、政治と業界の距離は近そうです。
ちなみにこの人材会社のHPによれば、外国人の高度人材だと、新卒や中途1人につき120万円の紹介料を得ているそうで、これまでに3500人以上を紹介してきたとのこと。それだけでも40億円以上の売上です」(全国紙社会部記者)
つまり、外国人の受入れ政策は人手不足という要素だけでなく、人材関連企業の利権という側面もあるのだ。
なお、この会社を含む50社以上の人材紹介会社が加盟する「外国人雇用協議会」は顧問に政界や行政にも太いパイプを持ち、自らも人材会社の会長((退任予定)を務める竹中平蔵氏らを据えている。
この団体の公式HPなどによると、利害関係にあたる出入国管理庁や自民党本部などで頻繁に意見交換会の開催や後援をしたり、シンポジウムに自民党有力議員を招いたりするなど、活発なロビー活動も窺える。
国民の同意や理解なしに進む「置き換わり」
業界団体として、政治や行政に働きかけること自体は他業界でも珍しくはないが、問題は特定分野の企業の営利活動が、結果として「将来的な人口構成の変化」という日本社会の垣根に多大な影響を与えてしまうことだ。
「一方で、国民は外国人と賃金争いで、せっかくの人手不足による賃上げのチャンスを失い、産業分野では機械化やDX化など、設備投資も遅れてしまい、技術革新も遅れてしまいます。また、外国人の家族も帯同すればその社会保障の支出など、受け入れコストの負担も考えられるのです」(前出の施教授)
しかもこうした大きな変化を引き起こす政策が、十分な国民の同意や理解なしに進められてしまっている点も問題だろう。総人口における日本人の割合の下がり方が年単位の緩やかさであれば、国民にとっても、その時々が平時の状態として、特段問題視されることもないかもしれないが、それで果たしていいのか。
施教授が続ける。
「政府の外国人政策は、労働力不足への対応という観点しかなく、日本人が減り続ける中で、外国人受け入れ政策を続けた場合の人種構成の変化という視点がほとんどないことには大きな問題を感じます」
つまり、政府の外国人政策には“出口戦略”がないのだ。
”令和の大開国”がいよいよ控える
いつかの時点で少子化対策が実を結ぶことを期待して、当面は減り続ける人口減社会を合理化や技術革新などで乗り切るか。それともある程度の経済規模の維持とを引き換えに、現在の日本人から外国人と外国出身者に長い時間をかけて徐々にバトンタッチしていくのか。
今のコロナ禍が落ち着き、入国制限が段階的に緩和されれば、いよいよ控えるのが”令和の大開国”だ。少子化問題だけではなく、外国人政策についても、そろそろ国民的な議論の時なのかもしれない。