・なぜ信じるのか。脱会信者が赤裸々に明かす「統一教会」の手口 人間を追い詰めるカルトの実態(ゲンダイismedia 2022年7月21日)

※事件発生当初は教団名さえ報じられることがなかった「統一教会」(世界平和統一家庭連合)。「合同結婚式」や「霊感商法」で世間から長く問題視されてきた。その被害は今も続いていると元信者や専門家は指摘する。


「サタンへの恐怖心」から献金してしまう

「私自身も、統一教会の『信仰二世』です。母親(70代)が'90年代に入信しました。私も子供の頃から教団施設に連れて行かれ、統一教会の教えが絶対だと思って生きてきた。年代も近く、母親が信者という共通点もあって、山上(徹也)容疑者のことが他人事のように思えないんです。

たしかに山上容疑者は許されないことをしました。しかし、彼の母親は自己破産するほどのおカネを統一教会に搾り取られた『被害者』であり、そんな母親がいる家庭で育てられた山上容疑者もまた『被害者』です。山上容疑者が統一教会によって追い詰められていった背景も調べてほしいと思います」

こう話すのは、世界基督教統一神霊協会('15年に「世界平和統一家庭連合」に改称。本稿では統一教会と記す)元信者のAさん(40代女性)だ。統一教会は、'54年に文鮮明('12年に死去)によって韓国で創設され、「合同結婚式」や「霊感商法」などでたびたび社会問題になってきた。

山上容疑者は、

〈母の入信から億を超える金銭の浪費、家庭崩壊、破産…この経過と共に私の10代は過ぎ去りました。その間の経験は私の一生を歪ませ続けたと言って過言ではありません〉

と綴った手紙を送っていたと報じられた。

事件を受けてフランスの経済紙レゼコーは、「統一教会は欧米ではカルト宗教と認識されている」と報じた。

Aさんは、自身が経験した統一教会の実態を生々しく証言する。

「私の家族の場合、毎月36万円が『献金ノルマ』でした。献金額が営業の成績表のように貼り出されていて、クリアできなかったら翌月に繰り越され、借金のように膨れ上がっていくんです。払えないと親戚や友人に借金をしたり、カードローンを組んだりして払う人もいます。


なぜ教団から離れられないのか

教団は信者の収入や所有不動産など財産を詳細に把握していて、そのすべてを献金させようとする。だから信者は常に金策に追われているような状況でした。

信者は統一教会の外にあるものを、統一教会の中に取り込むことが救いになると信じ込んでいます。それで信者は神様への献身の気持ちと、サタン(悪魔)への恐怖心から献金をしてしまう。『身も心もすべて捧げないと地獄に堕ちる』と信じ込まされているのです」

山上容疑者の母親は、1億円以上も統一教会に献金し(教団は「5000万円を返金」と主張)、'02年に自己破産している。教団側によれば、'09年にいったん統一教会の活動から離れたという。

「統一教会では、献金をしないと在籍を続けることができません。なので、'02年以降も母親が献金を続けていたと見られます。自己破産したにもかかわらず献金を続ける母親の姿を見て、山上容疑者は相当苦しい思いをしたでしょう。

おそらく、'09年に献金を続けられなくなり、教団を離れたのだと思います。それで教団から解放されるかというと、そうではありません。信者は『献金をしないと地獄に堕ちる』とマインドコントロールされているため、教団から離れた後も、『地獄に堕ちる』と思いながら生きている。信仰のせいで家族はバラバラになり、おカネも教団にすべて持っていかれ、おカネがなくなれば教団の人は離れていく。そして『自分は地獄に堕ちる』と思いながら生きていくのです」(Aさん)

山上容疑者の母親もそんな状況に耐えられなかったのか、3年ほど前から再び統一教会と連絡を取るようになり、月に一度の礼拝に参加するようになっていたという。


韓国に行って先祖を供養

統一教会はかつて、先祖の供養になるからと高額の印鑑や壺を売りつける「霊感商法」で社会問題となった。'07年から'10年にかけて全国で相次いで摘発され、当時の会長が「道義的責任」を取って辞任している。

このときが統一教会の被害を根絶させるチャンスだったと、リンク総合法律事務所の紀藤正樹弁護士は言う。紀藤氏は長年、統一教会の被害者救済に取り組んできた。

「各地の教団施設に警察の強制捜査が入り、霊感商法の実行犯が有罪判決を受けました。しかし、警察は統一教会の組織そのものにはメスを入れませんでした。

霊感商法の実態は広く知られるようになりましたが、そこに統一教会がどこまで組織的に関与しているかまでは解明されなかった。カルト教団に自浄作用は期待できません。世間の関心が薄れたら、また元に戻ってしまうのです」


法外な集金は続いている

統一教会の田中富広会長は会見で「'09年以降、信者と献金でトラブルは起こっていない」と述べた。しかし、それは手口がより巧妙になったことを意味すると指摘するのは、統一教会の元教会責任者、Bさんである。

「たしかに強引な霊感商法はできなくなりましたが、法外な献金はまだ行われています。でなければ統一教会は成り立ちません。コロナ前は、韓国の清平にある修錬苑に信者を何度も連れて行き、先祖の供養をするための感謝献金を捧げさせていました」

冒頭のAさんも母親に韓国で行われた「先祖解怨式」に連れて行かれたという。

「統一教会には、病気は先祖の怨みが原因という考え方があります。先祖が地獄で怨念を抱えて苦しんでいるため、あなたが家庭の『氏族メシヤ』(救世主)になって、その怨みを解き、家族を幸せにするよう説かれる。そのための儀式が『先祖解怨式』です。両親の先祖210代まで遡って解怨しないといけません。韓国・清平に行き、一度に7代ずつ解怨する。これは1回あたり70万円と母親から聞きました」


合同結婚式で韓国に嫁いだ統一教会・日本人妻の「知られざる苦悩」 日本にも帰る場所がない

なぜ信じるのか。脱会信者が赤裸々に明かす「統一教会」の手口に続いて、韓国に住む統一教会信者の苦悩を紹介する。


「日本人の悪い血を出す」

韓国に行ったAさんは脱会を決意する。

「『先祖解怨式』には『役事』と言われる儀式があるのですが、これは身体から悪霊を出すためと称して、自分の身体をひたすら叩き続けるものだったのです。自分の手が届かないところは、周囲の人に叩いてもらう。日本人の悪い血や霊を外に出すために必要だとして、1日に70分間を何セットもやります。私はこんなことをする教団はおかしいと思って、帰国後、統一教会の正体を調べ始めました」

統一教会は献金について本誌の取材に、

「献金とは、信徒が神に対する信仰と感謝に基づいて自主的に捧げるものであり、『献金の強要』や『献金ノルマ』などは一切ありません」(広報部)

と回答する。

これに反論するのは、全国霊感商法対策弁護士連絡会代表世話人の山口広弁護士だ。

「韓国の本部から、今年の日本の献金目標は何億円だという指令が出されます。日本の統一教会にしてみれば、神様が言っていることと同じ重みがあるのですから、絶対に実現しないといけない。表向きは任意ですが、実態は強制的に献金を要求するわけです。

最近は認知症を疑われるような高齢者が被害に遭うケースが増えています。とくに一人暮らしで一軒家に住んでいる女性が狙われやすい。息子が結婚できないとか、娘の家庭がうまくいっていないなどの悩みにつけ込んで、先祖の怨みを解く必要があると説得し、おカネを巻き上げる。

直近では、統一教会の信者が子供のいない高齢者の『養子』になり、財産を相続しようとするケースもありました。被害者の死後に判明する場合もあり、正式な遺言として認められると、無効にするのは難しい」


居場所を失った日本人妻

統一教会が信者から徴収した多額の献金は、その多くが海外へ送られるという。前出の元教会責任者のBさんが言う。

「韓国において、日本の統一教会は、おカネで貢献する団体という位置づけです。日本の信者から捧げられた献金は、韓国や米国にある関連企業の資金になったり、ブラジルなど各地の土地の購入資金になったりします。そして、文鮮明一族や取り巻きが豪奢な生活をするためにも使われます」

一方的に結婚相手を決められる「合同結婚式」による被害も報告されている。脱会者のCさんがこう話す。

「私の友人は'80年代後半の合同結婚式で韓国人の信者と結婚し、韓国の農村での生活を強いられました。当時の統一教会は、農村の結婚相談所のような存在だったのです。統一教会に入信すれば、日本人の働き者の妻がもらえるとされ、実際に私の友人は嫁いでいきました。親の反対を押し切って結婚をしたため、家族からは縁を切られて、父親の葬式にも呼ばれなかったそうです」

さらに、今回の事件で、統一教会の日本人妻は韓国での居場所も失いつつあるという。

Cさんが続ける。

「韓国でも、安倍(晋三)さんを銃撃した犯人の親は統一教会と報じられていて、韓国にいる日本人信者は孤立しています。韓国の農村に好んで嫁いでくる日本人女性はほとんどいませんから、地域のコミュニティにおいて日本人妻が統一教会の信者ということは周知の事実なのです。そもそも統一教会は韓国でも人権を軽視する危険な宗教団体として白い目で見られており、その傾向に拍車がかかりました。

友人からは、『韓国では周りに理解してくれる人がおらず、日本には帰る場所がない。いったいどうしたらいいのかわからない』と、泣きながら電話がかかってきました」


「宗教法人格の剥奪」が怖い

今回、改めて浮き彫りになった統一教会の実態。今後、教団が反省し、それが改善されるのか。前出のBさんは「ありえない」と話す。

「統一教会はこういう事件がおきたら、より結束していきます。前に霊感商法が問題になったときもそうでした。これは神が教団に与えた試練だから、もっと頑張らないといけないといって、内にこもっていくのです。統一教会が最も恐れているのは、宗教法人格が剥奪されること。そうならないために、あの手この手で保身を図るはずです」

すでに、そのような動きはある。前出のAさんがこう言う。

「私の母はまだ信者ですが、教えを信じているかというとそうではないと言います。ただ、長年一緒に活動をしてきた仲間がいるので、教団から離れられないだけだそうです。ですが、そんな母でさえ、今回の安倍さんの事件のことでひどく憔悴しています。事件後、信者たちはたびたび集会を開き、自分たちの組織が悪いわけではないと、情報を遮断してマインドコントロールを強化している状況だと思います。

韓国の清平でも幹部集会が開かれたようです。今後、どうするかの対策が講じられ、信者に対して事件は信仰と無関係だとする教育が植え付けられていくでしょう」

全国霊感商法対策弁護士連絡会によれば、統一教会による被害総額は34年間で1237億円に上り、「これだけ長期間かつ大規模に問題となったカルト教団は他にない」という。

はたして、統一教会に司直のメスが入る日は来るのだろうか。

「週刊現代」2022年7月23・30日号より


・「統一教会をやめる=地獄に落ちること」救済活動35年の弁護士が語る「脱会」の難しさ(弁護士ドットコムニュース 2022年7月22日)

※世界平和統一家庭連合(旧統一教会)が7月17日、ホームページで公開した声明文には、全国霊感商法対策弁護士連絡会(以下、連絡会)への批判が含まれていた。35年間、この活動を中心で担当し、現在代表世話人の山口広弁護士が19日、取材に応じ、教会側の主張に改めて反論するとともに、「脱会」の難しさを語った。

●「『被害』じゃないというのは彼らの常套句」
ーー教会側は声明で、「連絡会所属弁護士が中心となってまとめた日弁連の『実態調査集計結果』等は、弁護士や消費生活センターに相談のあった当法人にまつわる案件全てを『被害』と断定しており、その集計内容は不正確であり、水増しされています」と指摘しています。

まず、実態調査集計結果は連絡会で集計したもので、日弁連ではありません。先祖供養のためになどと不安をあおられ、給料の何倍ものお金を仕方なく出してしまった。涙を流して訴えてくる。そのような相談を「被害」として集計しました。少なくとも、困っている人が、今考えても納得できないという被害です。

一度は納得したのに気が変わって返還を求めるのは「被害」じゃないというのは、彼らが必ず使う常套句です。

私たちは本人や家族から「数百万、数千万出してしまった。何とかなりませんか」と相談を受ける。時間がたっていたり、証拠がそろわなかったり、事情によって訴訟にできないものも含まれます。

●「コンプライアンスとは言えない」
ーー教会側は7月11日の会見で、2009年のコンプライアンス宣言以降、トラブルがないと発言したことについて、今回の声明で「それまでのようなトラブルがゼロになったという意味で言ったものではありません」と釈明しつつも、「当法人を相手取った民事訴訟の数は着実に減少してきています」と主張しています。

確かに、時間の経過による証拠の散逸や信者の高齢化等で、訴訟にするのは一時より複雑で難しくなっています。提訴の件数は年10件を超えないこともあります。しかし、彼らの言うことは、コンプライアンスとは程遠い。

コンプライアンスの前提は、これまでの活動を見直して是正することだが、教会側は全く過去のことに開き直って誤解されたなどと繰り返している。

警察からの摘発が相次ぎ30人以上の信者が逮捕、勾留された。2009年には印鑑を売りつけた「新世」という会社による違法な勧誘で、2人の幹部信者に懲役刑判決も出た。その事件摘発の時に発表したのが、いわゆるコンプライアンス宣言です。

「誤解を招くような行為があったので、責任が認められてしまった。今後そういうことがないように気をつけてやりましょう」というもので、コンプライアンスでも何でもない。

●「やめる=地獄に落ちること、脱会は本当に難しい」
ーー教会側は、信者が牧師や改宗業者らによる拉致監禁・脱会強要の人権侵害に遭ってきたと主張し、「12年5ヶ月間監禁された当法人信者が加害者側を提訴した事件で同信者は、東京地裁、高裁、最高裁と全面勝訴し、数千万円もの損害賠償を命ずる判決は連絡会弁護士らの主張を退けました」と説明しています。

確かに2014年に地裁判決が出て、その後最高裁で確定しています。

マインドコントロールされた信者を、家族が家庭に取り戻すのは本当に難しい。よかれと思ってやる家族と、冷静に話し合って、本人も納得して、というプロセスは大変だけど、強制はだめ。入会して活動している本人の気持ちをよく聞いて、対応することが必要です。

信者にとっては、死んだ後の霊界のことが最大の関心事なんです。教えに従って活動し、献金もしてきた。途中でやめるってことは、つまり地獄に落ちるということ。恐怖がある。理屈ではわかっても、やめた後に病気やけがをすると、やめたせいだと考えてしまう。

脱会できたとしても、その後、対人関係を取り戻すまで苦労します。ある看護師さんは人が話しているだけで「私のことをうわさしている」と考えてしまうと言っていました。2世の問題も含めて、大きな課題です。

【取材協力弁護士】 山口広(やまぐち・ひろし)弁護士

1986年秋に霊感商法の被害者から相談を受けて以来、宗教トラブル、カルト問題、消費者被害対策に取り組んできた。全国霊感商法対策弁護士連絡会事務局長、日弁連消費者問題対策委員長の他、日航機墜落事故(御巣鷹山)と中華航空機墜落事故(名古屋)の被害弁護団代理人などを担当。著書に「検証・統一協会=家庭連合」(緑風出版刊)など。近年は高齢者問題や遺産相続問題にも関心を寄せている。

事務所名 :東京共同法律事務所

事務所URL:http://www.tokyokyodo-law.com/


・旧統一教会は「日本にだけ献金要求が大きかった」元信者の大学教授が理由を解説(NEWSポストセブン 2022年7月22日)

※安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件で、逮捕された山上徹也容疑者の母親が入信していた旧統一教会(世界基督教統一神霊協会、現・宗教法人「世界平和統一家庭連合」)に再び注目が集まっている。母親は1億円にも上る献金を行ない、一家は困窮したとされるが、なぜそれほど多額の献金をする必要があったのか。

元信者の金沢大学法学類教授・仲正昌樹氏によれば、「統一教会の教義を理解する必要がある」という。東京大学に入学した1981年に駒場正門前で勧誘されたのをきっかけに入信し、1992年までの11年半、信者として活動していた。

「前提として、統一教会は聖書を独自に解釈する宗教なんですが、アダムとエバがサタンに堕落させられるという『失楽園』の話が根幹になっている。基本的にこの世はサタンによって支配されていて、堕落した人間はモノ以下になっていると解釈する。人間はモノをサタンの世界から奪い返し神に捧げることによって、モノを仲介として神の世界に近づくという『万物復帰』の考えがあり、現代では貨幣が全てのモノを代表するということから、信者はお金を納めることで神に近づこうとするということですね。統一教会はこういう形で信者からの献金を正当化している。

また、『万物復帰』と称して物を売ることも、教義上ではサタンに奪われた万物を神に復帰するという形で、信者のあいだでは正当化されています。 物を売って、貨幣を復帰すればするほど、この世界に対するサタンの支配力が弱くなる。そして、集めた貨幣を神と父母のもとに届ければ届けるほど、強い信仰の証しとなるということです」(仲正氏)

仲正氏は、旧・統一教会にとって日本が特別な国と位置づけられていることも理解する必要があると言う。

「統一教会が布教を進めていた国単位で見ると、日本に対して献金要求は大きかったです。私の知る限り、他の国でも万物復帰(献金)はやっていたけど、そこまでの要求はなくて、各国での活動を自前で支えられる程度のものがあれば十分でした。

なぜ日本だけ献金の要求が多いのか。その理由は『原理講論』(教祖の高弟が書いた統一原理の解説書)にも書かれています。なぜ日本に要求が多いかというと、日本が教義上、韓国をはじめ他国と比べて『罪深い国』だったからです。

第二次世界大戦後の世界情勢は、サタン側と神側に分けられ、サタン側は北朝鮮、中国、ソ連、神側は韓国、日本、アメリカというふうに位置づけされた。なぜ神側にいる日本に重荷を課せられるかというと、神側のなかでも韓国はアダム国家、日本はエバ国家という位置づけになる。エバは幼いころのアダムを育てる義務があるということで、つまり国と国の関係にすれば日本が韓国を助ける立場にあるということなんです。

加えて、日本には過去の韓国の植民地支配という負債があった。『こんなに罪深い日本が、それでも神によって神側のエバ国家として選ばれた』ということの意味を、日本は背負わなければいけない。その負債を返すには、重い責任を背負わなければならず、他国と比べて多額の献金を要求されると。このことによってエバ国家としての責任を果たせるという説明をしています」(同前)

なぜ多くの日本人信者が、それに応じたのだろうか。

「私がいた当時は、韓国の統一教会幹部のなかにも流暢に日本語を話せる人が多かったんです。そのことも『本来罪深い日本人が、神側のアダム国家に認められている』ことの印となって、日本人の会員に『負債の返還をしよう』という気持ちを起こさせたのではないかと思う。『おまえたちに期待している』というメッセージも、日本語で伝えられるとやる気が出るんです」(同前)


・警察はなぜ旧統一教会を放置し続けた? 1995年の摘発を退けた「政治圧力」(日刊ゲンダイDIGITAL 2022年7月22日)

【安倍元首相銃撃で見えた 統一教会の実態】#5

※「統一教会の被害者にとっては、政治家とのつながりがあるから警察がきちんと捜査してくれないという思いがずっとあると思います。私どもにもあります」

12日に開かれた「全国霊感商法対策弁護士連絡会」の会見で、渡辺博弁護士はこう断言した。

2009年、霊感商法の会社「新世」が通行人に声を掛け、印鑑などを売りつけたとして、社長と従業員らに懲役刑が下された。霊感商法が初めて犯罪認定され、世間の耳目を集めた。

これでようやく捜査の手が統一教会そのものに及ぶかと思われたが、それ以降も警察がメスを入れることはなかった。

渡辺弁護士はその背景をこう明かした。

「後に統一教会の機関誌で、新世事件の責任者が<政治家との絆が弱かったから、警察の摘発を受けた。今後は政治家と一生懸命つながっていかないといけない>と語ったことが、彼らの反省点でした。我々が国会議員に『統一教会の応援をするのはやめてください』と呼び掛けている理由もそこにある」

昨年までの35年間で消費生活センターなどが受けた統一教会に関する相談は3万4537件、被害総額は約1237億円に上る。弁護団によるとそれも「氷山の一角」だという。これほど被害が膨らんでいるのに、なぜ警察は一向に捜査に動かないのか。

■「信教の自由」を御旗に放置

そこで興味深いのが、統一教会問題を30年以上、追い掛け続けている参院議員の有田芳生氏の証言だ。

安倍元首相を銃撃した山上徹也容疑者(41)の母親が統一教会に入信したのは、1991年ごろ。有田氏は95年、警視庁公安部の幹部から「統一教会の摘発を視野に入れている。相当な情報源ができた。金の関係から入る」と打ち明けられている。しかし、摘発はなかった。

有田氏がこう続ける。

「10年後、元幹部に『今だから言えることを教えて欲しい。なんでダメだったのか』と聞いたら、答えは『政治の力だった』の一言でした。警察は個人名を含めた全国の捜査リスト『統一教会重点対象名簿』を作り、実際に動いていたのですが」

「全国連絡会」の紀藤正樹弁護士も、会見でこう指摘していた。

「統一教会のような伝道、経済活動、合同結婚式の3点セットがすべて違法となる集団は世界中どこにもありません。我々はすべて民事事件で解決してきました。普通はどこの国でも、これだけ問題を起こせば途中で刑事事件になります。日本だけが放置され、信教の自由の御旗の下に許されてきたから現実に今、統一教会がある」

山上容疑者は犯行動機について、「新型コロナウイルスで(教祖の)韓鶴子が来日しないので安倍元首相に狙いを変えた。自分が安倍を襲えば、統一教会に非難が集まると思った」と供述している。

90年代、そして2000年代以降も摘発のチャンスはあった。警察が統一教会を徹底的に洗い出していれば、悲劇も、これほど多くの被害者も生まれなかったかもしれない。


・前川喜平・元文科次官が明かす「統一教会」名称変更の裏側【前編】「文化庁では教団の解散が議論されていた」(日刊ゲンダイDIGITAL 2022年7月22日)

※〈1997年に僕が文化庁宗務課長だったとき、統一教会が名称変更を求めて来た。実体が変わらないのに、名称を変えることはできない、と言って断った〉

文部科学省の事務次官だった前川喜平氏が2020年12月にツイートした冒頭の書き込みが、にわかに注目を集めている。霊感商法や合同結婚式などによる被害が明るみとなり、80~90年代に大きな社会問題となった旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)は、名称変更で実態をゴマカし、組織維持を画策。所轄庁の文化庁は突っぱね続けていたが、第2次安倍政権下の15年8月に認証した。一連の動きの背景で何が起きていたのか。97年7月から1年間、文化庁文化部宗務課長も務めた前川氏に改めて聞く。

◇ ◇ ◇

宗教法人と文化庁の関係は「監督庁」ではなく、「所轄庁」。憲法が保障する「信教の自由」に関わる業務なので、権力的な関与は行わないという建前があるためです。「認証」は事実を認定する行為を指し、「許可」や「認可」とは性質が異なります。宗教法人法は原則、要件を満たした宗教団体にはすべて法人格を与えるとの考え方に立っている。ですから、宗教団体であるという事実を確認する作業が認証なのです。

僕が文部省の外局である文化庁の宗務課長に異動した97年、旧統一教会が「世界基督教統一神霊協会」から「世界平和統一家庭連合」に名称を変更したいと認証を求めてきた。「事前相談」があったのです。

■「組織の実態が変わっていなければ、規則変更は認証できない」

手続き上の説明をすると、認証の対象は宗教法人の規則です。社団法人などで言えば、定款にあたるもの。宗教法人の規則の中に必ず名称を記さなければならず、名称変更にあたっては規則を改めて認証する必要があるのです。宗務課がどう対応したかは、ツイートした通り。組織の実態が変わっていなければ、規則変更は認証できない。そう判断し、申請を受理しなかったのです。申請を受けて却下したわけではありません。水際で対処したのです。

教団側が名称変更を求めた理由は、「世界基督教統一神霊協会」とは名乗っておらず、「世界平和統一家庭連合」として活動しているから、ということでした。

ーー旧統一教会は教祖の故・文鮮明が54年に韓国ソウルで創設。間もなく日本でも布教が始まり、64年に東京都知事が宗教法人として認証した。97年以降、世界各地で家庭連合を正式名称としている。

ですが、霊感商法で多くの被害者を出し、損害賠償請求を認める判決も出ていた。青春を返せ裁判などもあった。「世界基督教統一神霊協会」として係争中の裁判もあり、社会的にもその名前で認知され、その名前で活動してきた実態があるのに、手前勝手に名称を変えるわけにはいかない。問題のある宗教法人の名称変更を認めれば、社会的な批判を浴びかねないという意識はありました。


オウム事件後の宗教法人法改正で慎重対処に転換した矢先だった

1997年7月から1年間、文部省の外局である文化庁で文化部宗務課長を務めたのはある事情がありました。96年9月に施行された改正宗教法人法の初期運用にあたるためです。

法改正はオウム真理教による一連の事件を受けた動きで、当時の与謝野馨文部大臣の政治主導だった。「宗教法人が前代未聞のテロを起こしたのは、宗教法人法が甘すぎるからではないのか」との問題意識から、「宗教界をすべて敵に回す」と尻込みする役人を抑えて決断したのです。実際、宗教界はこぞって大反対でした。

法改正のポイントは大きく2点。全国的に活動する宗教法人の所轄庁を文部大臣とし、文化庁が実務を担う。それまでは宗教法人が本部を置く所在地の都道府県知事が所轄庁でした。オウム真理教は登記上、東京都江東区に本部を置いていたため、当時の所轄庁は東京都知事だったのです。広大な教団施設があった山梨県の上九一色村(現・南都留郡富士河口湖町)を調べることは現実的に困難で、その権限もなかった。これによって、文部大臣の所轄する宗教法人がドッと増えました。

もうひとつのポイントは、年1回の書類提出。役員名簿、財産目録、収支計算書などを出してもらいます。宗教法人として活動している事実を確認するためです。

宗教法人の認証は従来、性善説で行われてきた。教義、礼拝施設、30人程度の信者が確認できれば法人格を与えてきました。法改正以前は、宗教法人となった後の教団は糸が切れたタコ状態。どこで何をしているのかサッパリ分からなかった。

もっとも、文化庁が特別な監視機能を持つようになったわけでもなく、テロ組織など危険分子を見分けるのは容易ではない。ですが、宗教法人をより注意深くチェックして慎重に対処し、怪しい教団を認証しない考え方へ大きく変化しました。そうした中、名称変更の認証を求めてきたのが統一教会(現・世界平和統一家庭連合)だったのです。


「公共の福祉の侵害」や「宗教法人の目的逸脱」などの規定を適用できないか

オウム真理教による一連の事件を受け、1996年9月に改正宗教法人法が施行されました。僕が98年7月まで在任していた文化庁文化部宗務課でも、所轄する統一教会(現・世界平和統一家庭連合)について議論になりました。公序良俗に反する宗教法人を解散させることはできないものかと。

オウムに対しては、当時の所轄庁だった東京都知事らが東京地裁に解散命令を請求。地裁の決定により、96年1月に解散命令が出されました。

宗教法人法第81条に基づく請求でした。

宗教法人法は第81条で解散の事由をこう規定している。

▼法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。

▼第二条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと又は一年以上にわたつてその目的のための行為をしないこと。

ーーオウムは法令違反、公共の福祉の侵害、宗教団体の目的逸脱が認定された。

統一教会の霊感商法や合同結婚式はかつて大きな社会問題になりました。法外な寄付、法外な価格の物品購入、法外な労働奉仕は過度の自己犠牲ですし、見ず知らずの人との結婚は理性や自由意思があれば選択するはずのない行動です。統一教会にも公共の福祉の侵害や宗教法人の目的逸脱などの規定を適用できないものか。信者が引き起こした刑事事件はいくつもあり、教団側が敗訴した民事裁判もたくさんある。内部で検討はしたものの、当時は厳しいとの結論に至りました。

こうした経緯からも、統一教会が求める名称変更を文化庁が認証したのは、方針の大転換だったのです。20年近く押し返してきたわけですから。第2次安倍政権下の2015年8月のことで、僕は事務次官に次ぐ文科審議官のポストに就いていました。(後編につづく)

(前川喜平/元文部科学事務次官)


・前川喜平氏が明かす「統一教会」名称変更の裏側【後編】「語るに落ちる」下村博文氏 反論は肝心な部分の説明を避けている(日刊ゲンダイDIGITAL 2022年7月28日)

※役人限りではあり得ない 何らかの政治的圧力は間違いなくあった



(上)文化庁が統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の名称変更を認証したのは2015年8月

文化庁が統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の名称変更を認証した2015年8月。第2次安倍政権下で、僕は文科次官に次ぐ文科審議官のポストに就いていました。

事前に担当課長の文化部宗務課長が説明に来たことは覚えています。「今まで申請を受理しない方針でやってきたのに、なぜ認証するのか」と聞いたはずなのですが、肝心の理由はよく覚えていない。やらざるを得ない事情があったはずです。

役所というものは町役場であっても中央省庁であっても、前例踏襲が基本的な考え方。よほど差し迫った理由がない限り、いったん決めた方針は容易に変更しない。統一教会の名称変更の認証は僕が宗務課長だった97年に断っている。それ以降、その方針を維持してきたはずなんです。役人限りだったら、そういう慣性の法則が働く。ですから、名称変更は何らかの政治的圧力がなければ絶対に起きないことです。政府あるいは自民党でしょう。公明党のはずはありませんし。自民党の政治家から出てきた話であることは間違いありません。

ーー当時、文科行政のトップだったのは自民党の下村博文文科相。清和会(安倍派)の重鎮で、文教族のボス格だ。下村氏は13日、《統一教会の名称変更について、SNSやネット上で私が文科大臣時代に関与し行ったとの書き込みが多くあり、また先日週刊誌からも同様の質問状を受け取りましたので、正確に回答申し上げます》とツイート。公開した回答(11日付)にはこう書かれている。

《文化庁によれば、「通常、名称変更については、書類が揃い、内容の確認が出来れば、事務的に承認を出す仕組みであり、大臣に伺いを立てることはしていない。今回の事例も最終決裁は、当時の文化部長であり、これは通常通りの手続きをしていた」とのことです》

少なくとも言えることは、下村さんが知らないはずがない。宗教法人の規則変更に関する認証の専決者は文化部長ですが、仮にボトムアップの決裁だとしても、これほど大きな方針転換について事前説明をしないのは考えられない。大臣まで必ず上げますよ。文化部長限りで判断できるような案件ではありませんから。

下村元文科相は徹底否定 大臣から圧力がかかった可能性は十分にある

文科官僚は逆鱗に触れるのを恐れ、ピリピリしていた

何でもトップダウンで決める下村さんが統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の名称変更の認証について、知らなかったはずはない。細かく具体的に指示する大臣でしたからね。

意思決定にあたっては、起案文書にあたる原議書を作成する必要があります。たいていは課長補佐か係長が起案し、担当する室長、課長、部長の順で押印し、最終的な決裁権者である専決者がハンコをついて終了。ただし、軽微な案件でない限り、それとは別に実務上の了解を得る事前プロセスがある。ましてや、統一教会に関しては長年維持してきた方針を大きく転換するわけですから、間違いなく大臣まで上げますよ。まず担当課長である宗務課長が上司の文化部長に相談。文化部長にしても自分限りで判断できる内容ではありませんから、次長に上げ、さらに長官に上がり、最終的に大臣にお伺いを立てる。下村さんは了解を与えたと思います。

もっとも、これはボトムアップだった場合の話。何らかの政治的圧力がなければ名称変更の認証には踏み込まないはずですが、その圧力が大臣からかかっていた可能性は十分にあります。

ーー日刊ゲンダイは下村氏が公開した回答に関する質問状を国会事務所などに送付した。主な内容は次の通り。

▼文科相時代、申請の受理から認証に至るまで事務方から全く報告を受けなかったのか。

▼申請受理から認証に至る過程で事務方から報告を受けていたとしたら、いつ、どこで、誰から報告を受けたのか。

▼事務方から全く報告を受けていなかったとしたら、認証された事実を知ったのはいつか。

回答期限を2時間過ぎても音沙汰なし。事務所に連絡を入れると、1時間半後に回答があった。


「文化庁が」「文化庁が…」下村元文科相の「回答」は語るに落ちる

文化庁からの伝聞では済まされない

統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の名称変更を文化庁が2015(平成27)年に認証した経緯について、当時の下村文科相は肝心な部分の説明を避けています。そうした姿勢は事前に指示、あるいは了解を与えた事実を物語っている。語るに落ちるとはこのことです。

ーー日刊ゲンダイは下村氏の国会事務所などに宛て、「申請の受理から認証に至るまで事務方から全く報告を受けなかったのか」「認証された事実を知ったのはいつか」などを問う質問状を送付。回答はこうだった。

〈文化庁に以下を確認しました。
名義変更については、申請者が担当課長へ個別に何度か相談をしていたが、実際に申請書を提出されたのは平成27年である、初めて申請書が提出されたタイミングで、書類等が整ってるなど内容の確認ができたので、担当部長の最終決裁がなされた。
また申請を受理したという報告と、担当部長により認証したという報告はそれぞれ事後に大臣へ行われた〉

 ーー下村氏はマスコミ各社の取材に対しても、認証は事務的に進められた結果だと説明し、「全く関わっていない」と反論している。

事務方は統一教会の求めを認証するにあたり、大きく3つのプロセスを経る必要があった。①決裁前に大臣の指示あるいは了解を得る②決裁ルールに基づいて「専決者」が決裁③決裁終了を大臣に報告──。それぞれ段階が異なる別々のプロセスです。

組織の実態が変わっていなければ、認証はできない。そうした判断の下、文化庁は申請そのものを受理しない水際対処を18年にわたって続けてきた。その方針を大きく転換したわけですから、肝心なのは①プロセスです。しかし、下村氏はこの点には触れようとしない。①と②を混同させて事前の指示や了解はなかったと誤解させたり、③を強調することで①がなかったかのように思わせる書きぶりです。そして、またしても文化庁からの伝聞という形を取っている。

ーージャーナリストの鈴木エイト氏の調査によると、下村氏は統一教会の関連団体が主催するイベントで講演したほか、関連媒体にインタビュー記事が複数掲載。下村氏が代表を務める政党支部には関連団体が献金していた。教団関係者が政治資金パーティー券を購入したとも報じられている。

なぜ、ご自身を主語にして端的に「私は事前に指示していない」「私は事前に了解していない」とか、「私は事前に何も聞いていない」とハッキリ言わないのでしょうか。おそらく、嘘になるからでしょう。のちのち、下村氏の関与を裏付ける証拠が見つかったとしても、認証の責任を文化庁に負わせられる言い回しをしているのです。


人間を追い詰めるカルト対策を取らないのは政治の怠慢

この国はキチンとしたカルト対策を取ってこなかった。それが安倍元首相銃撃事件の根本的な要因だと思います。人をあやめるなんて絶対にしてはいけないことですが、容疑者の動機を知れば知るほど、その心情は理解できる。カルトはそこまで人間を追い詰めてしまう。 

ーー安倍元首相を銃撃した山上徹也容疑者(41)は、犯行動機に旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)と安倍に対する強い恨みをあげている。父親の自殺などを契機に母親が教団にのめり込み、1億円以上を献金。家庭は崩壊した。3人きょうだいは食事にも不自由する生活で、山上は進学を断念。海上自衛隊時代には困窮するきょうだいに死亡保険金を受け取らせるため、自殺を図った。旧統一教会のフロント団体に寄せたビデオメッセージで、安倍元首相が教祖の妻に「敬意を表す」姿を目にし、「つながりがあると思った。絶対に殺さなければいけないと確信した」などと供述している。

政治課題として向き合わなければならない大きな問題なのに、政治が目を背けていたのは、カルトとつながっている政治家がいるから。しかも、自民党の中に多くいる。その影響が大きいと思います。

フランスの「反セクト法」を研究するべきでしょう。宗教の教義内容を問うのではなく、外形的基準で問題集団の危険性を判断するというものです。

ーーカルト対策先進国のフランスは2001年に反セクト法を制定。「ライシテ」と呼ばれる政教分離制度が徹底しているため、宗教の法的定義はなされていないが、問題集団の危険性を見分ける10項目の判断基準を設けている。

①精神の不安定化
②法外な金銭的要求
③生まれ育った環境からの誘導的断絶
④健康な肉体への危害
⑤こどもの強制的入信
⑥大小にかかわらず、社会に敵対する説教
⑦公共の秩序を乱す行為
⑧多くの訴訟問題
⑨通常の経済流通からの逸脱
⑩国家権力への浸透の企て

1つでも該当すればセクトと認定。反セクト法が定める法令違反で有罪判決が複数回確定した場合、裁判所が解散宣告できると規定している。

カルト対策が進まないのは、政治家と宗教団体が持ちつ持たれつの関係だからです。政治家は集票や選挙中の勤労奉仕を期待し、教団側は所轄庁や税務署との緩衝材の役割をあてにする。

図らずも、銃撃事件によって政治家とカルトの関係が明るみに出て、カルト問題を顕在化させた。対策を取らないのは政治の怠慢だと思います。(おわり)

(前川喜平/元文部科学事務次官)


・反社会的宗教団体を法規制”10個の基準”とは?フランス「反カルト法」は日本でも可能?(FNNプライムオンライン 2022年8月1日)2022/08/01 15:47



※「我が子を取り戻したい」フランスでも起きた旧統一教会問題

日本だけでなく、世界各国で活動を続ける「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)。

なかでも、フランスでは...

UNADFI(カルト被害者と家族を守る協会)元副会長ジュグラ氏:

1980年から85年にかけて、入信した子供と連絡を取りたくても、どうしても取れない両親が出始めました。このような経験をした両親らによって意識が高まり、フランスでは政治レベルまで問題意識が高まったのです

こう語るのは、元弁護士でありフランスで「反セクト法」なる法律を作るきっかけとなった団体「カルト被害者と家族を守る協会」の元副会長ジュグラ氏。

「反セクト法」の「セクト」とは社会的に警戒を要するカルト団体のこと。

つまり「反セクト法」とは、「反カルト団体法」という意味になるのだが、立法のきっかけとなった、この協会が生まれた理由は…

UNADFI元副会長ジュグラ氏:

子供が統一教会に入り、連絡が取れなくなった両親たちから始まりました。しかも、政府が興味を持ったのは、極右政党の幹部の1人がフランスの統一教会の代理人だったのです

実はフランスでも、きっかけは旧統一教会であり、これまた日本と同じく政界とのつながりがあったからだという。


旧統一教会と政界の関わり

日本では、安倍元首相の銃撃事件以来、様々な政治家が旧統一教会との関係について、言い訳とも、開き直りとも取れる発言を繰り広げてきた。

自民党 福田達夫総務会長:

統一教会さんと関係があるのではなくて、統一教会で信教の自分の自由を行使している方が応援してくれているんだけど、「これは統一教会さんから応援を受けてくれるということになるのかねぇ…」とかいう話もありまして

自民党 木原誠二官房副長官:

政府として“反社会的勢力”という言葉をあらかじめ限定的かつ統一的に定義することは困難であると考えておりまして…

政治家のこれらの言い分に、国民は納得できるのか?


フランスの「反カルト法」できるまで

そこで今回、Mr.サンデーでは法案成立のきっかけとなった団体の関係者と専門家たちを緊急取材。果たして、日本でも同じような法律は作れるのか?

そもそも、旧統一教会がフランスに広がったきっかけは何だったのか?

教えてくれたのは大阪大学大学院法学研究科の島岡教授。

大阪大学大学院法学研究科 島岡まな教授:

いわゆる1968年のパリ革命ってご存知でしょうか?パリ大学の学生が校舎に石を投げた、それが始まりなんですよ。それまで権威とされてきた教授とかが権威が落ちて、学生が中心になってきた。やっぱり不安を感じるじゃないですか、それぐらいの大きな出来事があると。鬱になったり、そういう人が増えた時にスッと入り込んできたのが統一教会だと言われています

時は、1960年代… 日本で学生運動の嵐真っ只中だった頃、フランスでもまた学生運動が広がり、不安を抱える人々が増えていたという。

大阪大学大学院法学研究科 島岡まな教授: その人たちを集めて、慰めるような感じで広まって、70年代にかなりフランス社会に浸透してきたらしいんですよね、統一教会が

しかも、その時のフランスは…

同志社大学神学部 小原克博教授:

当時できた言葉ですけど、“マインドコントロール”みたいなことをして、進路を大きく変えてしまったりとか。学業放棄であるとか、職場に来なくなって宗教活動にのめり込んでいったりとかですね、人生が大きく変わっていくような人たちが出てきました

こう語るのは、同志社大学で神学を教える小原教授。

では、日本の政治家たちがあれほど難しいと言っていた問題に、フランスはどう立ち向かったのか?

大阪大学大学院法学研究科 島岡まな教授:

「問題を“信教の自由”とは全く切り離して、それは全く侵せないっていうことが大前提で、それとは別に、このような指標があれば、これは信教ではなくて。実はもう反社会団体なんですよっていう、そういう切り込みで浸透させていった」

“教え”ではなく“反社会的”かどうかで判断
1995年、フランス政府が行ったのは「いい宗教」か「悪い宗教」か、教えの内容を判断するのではなく、その団体が反社会的な行動をしているかどうかでジャッジをする方法だった。

判断基準となるのは、以下の10項目。

①精神的不安定化

②法外な金銭要求(献金など)

③元の生活からの意図的な引き離し

④身体に対する危害

⑤子供の強制的な入信

⑥反社会的な説教

⑦公共の秩序を乱す行い

⑧重大な訴訟違反

⑨通常の経済流通経路からの逸脱(高額な物品販売など)

⑩公権力への浸透の企て

日本でカルトと言われる団体にも当てはまる活動ばかりだが、フランスではこの1つにでも該当すれば「セクト」、つまり「カルト団体」のリストに載ることとなり、1995年当時その数は172にも上ったという。

確かに、こうした団体のリストがあれば政治家が、信教の自由などとは関係なく、付き合ってよいかどうかを判断出来る。こうした準備を元に「反セクト法」がフランスで施行されたのが2001年。それ以来…

同志社大学神学部 小原克博教授:

きちんと国家が監視の目を光らせているぞというようなものが非常に強く伝わった結果だと思うんですけれども、少なくとも表に出てこなくなったという点では、一定の効果があったというふうに言っていいと思いますね

そして、表に出なくなった理由については…

UNADFI元副会長ジュグラ氏:

統一教会は、フランスで得られるものはたいしたことはない。なのでここに投資しても意味がないとなったのでしょう

大阪大学大学院法学研究科 島岡まな教授:

日本みたいに、やりやすいからこそどんどん増えたわけであって、やりにくかったら普通やめますよね。無駄なことやってもしょうがないから

こうしたことからフランスでは旧統一教会の規模が縮小していったという。

良いことばかりにも思えるが、専門家の主張には異なる点もある。小原教授は、こうした法律の日本への導入については、慎重さも必要だという。

同志社大学神学部 小原克博教授:

フランスの場合は日本とは違う形で、非常に厳格な政教分離をしてきたっていう歴史があるので、こういったもの(法律)も成立できるわけです。日本の場合、そもそも政教分離をどう考えるかっていうところの議論をしないと、こういった強烈な法案、法律って作れないと思うんですよ

確かにフランスでは、1世紀以上前から政教分離が徹底され、例えば大統領の就任式でも、アメリカの様に聖書に手を置くなどといった宗教的な式典は一切ない。さらに難しいというのが…

同志社大学神学部 小原克博教授:

それが過剰に適用された場合に、いわゆる信教の自由が侵害されるのではないか。それから、実際にはセクトかどうかっていうのは、どうしても曖昧な部分がありますので、それが無制限に広がっていった場合に、結果的に魔女狩り的なものへと道を開くのではないかというですね

逆にカルトと見抜けなかったのが、後に教祖が死刑にまでなったオウム真理教だという。

同志社大学神学部 小原克博教授:

(当時は)専門家もですね、オウムは非常にユニークな宗教なんだからいいんじゃないかみたいな、非常に肯定的な意見を言った人も結構いますし。問題があるかっていうことをきちんと見分けるっていうことが非常に難しいと。それがオウムが教えてくれた教訓の1つなんですね

どんな専門家を集めてもある団体をカルト認定することの難しさ。しかし、だからといってこうした問題を見過ごしていていいのだろうか?

大阪大学大学院法学研究科 島岡まな教授:

だから(宗教本体ではなく)違法行為を中心に考えればいい。フランスと全く同じような切り口でやっていけばいいと思いますし。本当に困っている人を助けましょうっていう精神なので。ぜひそのカルト法は必要だと思っています

もともと、「我が子を取り戻したい」と願う親の訴えで始まったフランスの「反セクト法」。

その成立に尽力した協会の元副会長は取材の最後に、こう言い切った。

UNADFI元副会長ジュグラ氏:

各国政府は、宗教という仮面の裏に“権力を握りたい”という思惑があることを認識しないといけません。カルトは自立した個人の人格を全否定し、自由意思を侵害しているのです

(「Mr.サンデー」7月31日放送分より)