・政府 「健康保険証の原則廃止」 骨太の方針に明記する方向(毎日新聞 2022年5月23日)
 
※政府は6月にまとめる経済財政運営の指針「骨太の方針」に、マイナンバーカードと健康保険証の機能を併せ持つ「マイナ保険証」の利用を促すことにより、将来的には現行の健康保険証について「原則廃止を目指す」と明記する方向で検討に入った。

マイナ保険証の推進は、デジタル技術で医療や介護分野を改革するDX(デジタルトランスフォーメーション)政策の一環。2023年度から、医療機関や薬局にマイナ保険証が利用できるシステムの導入を義務づけるとともに、24年度中には健保組合などの「保険者」が、引き続き現行の健康保険証を発行するかを選べる制度の導入を目指すことも骨太方針に盛り込む方針だ。

健康保険証は現在、健保組合などにより紙やプラスチックカードで発行されている。昨年10月からは健康保険証としても使えるマイナ保険証の導入が始まった。医療機関で、専用の機械に読み取らせれば本人確認ができ、専用のサイトやアプリで、処方された薬や支払った医療費通知の履歴などを閲覧できる。

しかし、マイナ保険証を利用できる医療機関はまだ少ない。厚生労働省によると、今月15日現在で全体の約58%にあたる約13万施設が利用に必要なカードリーダーを申し込んでいるが、新型コロナウイルスへの対応や、半導体不足で必要な機器が準備できていないため、実際に患者が利用できる施設は約4万施設(19%)にとどまっており、マイナ保険証の普及のためにはハード面の整備が課題になっている。

このほか骨太の方針には、現在は統一されていない電子カルテ情報の標準化を実現し、処方箋や予防接種の履歴など医療全般に関わる情報を共有・交換できる「全国医療情報プラットフォーム」の創設も盛り込まれる見通し。政府は、レセプト(診療報酬明細書)請求など医療機関の業務に関わるDX政策も骨太方針に明記し、医療のコスト削減を目指す方針だ。


・普及に「強硬策」なぜ?マイナンバーカード取得を事実上義務化 24年秋に廃止する健康保険証の機能と一体に(東京新聞web 2022年10月14日)

※河野太郎デジタル相は13日、現在は紙などで発行されている健康保険証を2024年秋で廃止し、マイナンバーカードと一体化させる方針を発表した。カード普及に向けた政策はマイナポイント付与など従来の「アメ」から、事実上の取得義務化による「ムチ」へ転換した。


◆運転免許証との一体化も前倒しへ
 
カードを保険証として利用する「マイナ保険証」は昨年10月に導入された。デジタル庁はカード取得について今後も「任意」とする。保険証廃止後のカード未取得者の診療に関して、デジタル庁幹部は「保険証ではなく、何らかの方法で対応する」として、厚生労働省と検討を進める考えだ。
 
河野氏はカードと運転免許証の一体化について、目標としてきた24年度末を前倒しする方向で警察庁と検討を進める考えも表明した。だが、保険証のように、免許証の廃止は検討していないという。



このほか、スマートフォンへのカード機能の搭載について、米グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」の端末を対象に来年5月11日からサービスを提供する。ただ、米アップルのOS「iOS」を搭載するiPhone(アイフォーン)への対応は「決まり次第お知らせする」と、時期を明言しなかった。
 
総務省によると、11日現在のマイナンバーカード交付率は49.6%。今年6月からは取得者に最大2万円分の電子ポイント「マイナポイント」を付与するキャンペーンを展開し、9月中には新規申請が1日当たり約20万件を超えるなど急増していた。ただ、個人情報漏えいへの懸念や取得の手間などから、国民の半数が取得していない状況となっている。


◆政府目標「来年3月に全国民取得」に躍起
 
「最後に追い込む上で硬軟を使い分けている」。来年3月にほぼ全国民がカードを取得するという政府目標の期限が迫る中、デジタル庁幹部は、健康保険証廃止がカード取得を促すための強硬策であることを認める。カードと保険証が一体化した「マイナ保険証」の未取得者への具体的な対応策については説明できず、普及に前のめりな政府の姿勢が鮮明となった。
 
国はこれまで、カードを持つことで得られるメリットを増やし、国民に自発的に取得を促す方式だった。マイナンバーの制度設計に携わった官僚は「取得には一定の手間が必要。制度に批判的な人もおり、強制的に交付することはできなかった」と述べる。



2016年の制度開始からカードの普及率は低迷。「情報漏えいなどマイナンバー制度への不信に加え、政府に個人情報を握られるのでは、という拒否感が大きい」とみられていた。そこで政府が普及の「アメ」として打ち出したのが、カードを申請すると電子マネーなどに交換できるポイントがもらえるマイナポイント事業だ。
 
最大5000円を還元するマイナポイント第1弾を20年9月に、最大2万円に増額した第2弾は今年6月にスタート。普及は一気に進み、交付者数は国民の半数近くとなった。ただし事業の期限は12月末で、普及のさらなる上積みは難しい情勢だった。
 
デジタル庁幹部は、国民の半数近くが取得したことが、強硬策に転じた「判断材料の一つになった」と認める。その上で、別の幹部は「どこまで普及を進めても取得しない人は残る。どこかの段階で判断は必要」と述べた。
 
「マイナ保険証」を取得しなくても、保険料を支払っている人が保険診療を受けられる仕組みを政府は維持する方針だ。関係者によると、被保険者であることを示す証明書の発行などを検討しているという。
 
だが、具体策作りはこれからで、公表の時期も決まっていない。河野太郎デジタル相も13日午前の会見でカード未取得者への対応を複数回問われたが、「理解いただけるようしっかり広報する」と繰り返すだけだった。


・【Q&A】マイナ保険証 事実上の義務化目指す政府 なぜ健康保険証を廃止?カード取得は任意なのに…(東京新聞web 2023年3月7日)

※今持っている健康保険証が2024年秋に廃止され、マイナンバーカードとひも付けた「マイナ保険証」に全面的に切り替わるー。こんな内容が盛り込まれた法律案が7日、閣議決定されました。近く国会で審議されます。政府はなぜ健康保険証を廃止するのか、患者や医療機関にはどんな影響があるのか…。マイナ保険証をめぐる課題や問題点をまとめました。


◆医療DXの基盤に

Q 政府はなぜ健康保険証からマイナ保険証への切り替えを急ぐのですか。
A 政府はマイナ保険証を、世界に遅れを取っているとされる医療DX(デジタルトランスフォーメーション)を進展させる基盤に据えようとしているからです。

Q 医療DXとは?政府は具体的にどんな取り組みを目指しているのですか。
A 現在、マイナ保険証の利用者は、医療機関・薬局での診療情報や薬剤情報、40歳以上のメタボリックシンドロームに着目した健診結果の情報、医療機関などに支払った医療費の情報などを専用サイト「マイナポータル」で確認でき、医療機関や薬局も患者の同意があれば閲覧できます。政府が「オンライン資格確認」と呼ぶシステムです。政府はこれらの情報に加え、医療機関のカルテ情報や自治体の予防接種、介護認定情報などをデジタル化して利用者や医療機関などが互いに閲覧、共有できる全国的なプラットフォームをつくろうとしています。

Q マイナ保険証を利用すると、どんなメリットがあるのですか。
A 政府は、患者が医療関係者と診療情報や薬剤情報を共有することで、正確でより良い医療を受けられ、投薬の重複を避けることができる、などと説明しています。また、患者には、窓口での支払いが高額になる場合に、自己負担額を所得に応じた限度額にするために医療機関に提出する「限度額適用認定証」がなくても限度額を超える支払いが免除される、転職後も健康保険証としてずっと使うことができる(医療保険者等への加入の届け出は引き続き必要)という利点を挙げています。


◆資格確認書とは

Q マイナ保険証は今、どれぐらいの人たちが取得していますか。
A デジタル庁の政策データダッシュボード(ベータ版)によると、マイナンバーカードの交付枚数は約7960万件で、そのうちマイナ保険証の利用登録は5048万件。登録率は63%です。(2月26日現在)

Q マイナ保険証を取得しないまま現行の健康保険証が24年秋に廃止されたら、保険診療を受けられなくなるのですか。
A 発行済みの保険証は1年間(先に有効期限が来る場合は有効期限まで)有効とみなす経過措置が取られます。
さらに、マイナンバーカードを持たなかったり、持っていても保険証とひも付けていない人、または紛失したりした人が保険診療を受けられるように、健保組合などの保険者が申請に基づき、保険証の代わりとなる「資格確認書」を無料で発行します。

Q 資格確認書とは?
A 氏名、生年月日、被保険者等記号番号、保険者情報などが記載され、書面、または電子データで提供されます。

Q マイナ保険証と資格確認書では、患者が窓口で負担する受診料が変わるのですか。
A 資格確認書を利用した場合は、現行の保険証を利用した場合と同様、マイナ保険証を利用した場合よりも、政府は受診料を高く設定する方針です。

Q 資格確認書に有効期限はありますか。
A 最長1年間で、期限が切れたら更新できますが、国民健康保険証のように自動更新はできない見通しです。

Q マイナ保険証と資格確認書、現行の健康保険証の三つが混在すると混乱しませんか。健康保険証を残す選択肢はないのですか。
A 政府はあくまでも現行の保険証を廃止する方針です。一方、マイナ保険証を持っていない人でも保険料を支払っている以上、保険診療を受ける権利があるため、三つが混在することになりました。政府は「資格確認書では、医療機関による患者の本人確認が不十分となり、事務負担も増える」としてマイナ保険証への切り替えを呼びかけています。

Q マイナンバーカードの取得は任意なのに、一連の政策は事実上、取得を強いるものではないですか。
A 政府は今でも「任意」の立場を変えていませんが、マイナ保険証の利便性を高めるほど、取得していない人の不利益は増します。国民皆保険を掲げる以上、一連の政策はマイナ保険証を事実上義務化するものだと言えるでしょう。


◆「義務化は違法」と提訴

Q 医療機関にはどんなメリットがあるのですか。
A 政府は、患者の資格情報を病院システムに入力する手間が軽減され、誤記リスクが減少すること、災害時は、特別措置として、マイナンバーカードによる本人確認ができなくても、薬剤情報・特定健診等情報の閲覧ができることなどを利点として挙げています。

Q 医療機関の受け入れ態勢は進んでいるのですか。
A 医療機関には4月から、オンライン資格確認のためのカードリーダー(読み込み機)の導入が原則として義務づけられています。厚生労働省によると、全国で約9割の施設で申し込みを済ませていますが、実際に運用を始めているのは全体の約5割にとどまっています。

Q オンライン資格確認の義務化には医療機関側に反発も根強いと聞きます。
A 全国保険医団体連合会が昨年秋に実施した調査では、導入した医療機関の約4割でオンライン資格確認のシステムで不具合やトラブルが発生していることが分かりました。先月には、東京保険医協会の医師ら約270人がオンライン資格確認の義務化は「費用がかさみ、医療サービスの低下につながる」として撤回を求めた訴訟を起こしています。