・ロシア、マリウポリでの一時停戦提案 「武器捨てた兵士の命は保証」(朝日新聞DIGITAL 2022年4月17日)

※ウクライナに侵攻するロシアの国防省は16日、南東部マリウポリで抵抗を続けるウクライナ軍の兵士らに対し、17日午前6時(日本時間同日正午)からの一時的な停戦を提案すると発表した。武器を捨てた兵士の命は保証するとして、投降を求めている。

ロシア国防省が発表した緊急声明によると、マリウポリの港湾部にある金属コンビナート「アゾフスターリ」で抵抗を続けるウクライナ兵に対し、モスクワ時間の17日午前6時~午後1時の間に停戦することを提案。ウクライナ政府に対しても「無意味な抵抗をやめて武器を置くよう指示を出すべきだ」と求めた。

声明は、アゾフスターリに閉じ込められたウクライナ兵は食料や水もない状況に追い込まれていると主張。すでに降伏した兵士らは、ロシア側から暴力や心理的な圧迫は受けておらず、親族との連絡が許可され、負傷した兵士も治療を受けているとしている。

マリウポリはすでに、大部分がロシア軍の支配下に入っているとみられる。ロシア国防省は16日に「ウクライナ軍を市街地から完全に排除した」と発表していた。


・ゼレンスキー氏「全滅すれば交渉はおしまい」ロシア軍攻勢のマリウポリ(毎日新聞 2022年4月17日)

ウクライナのゼレンスキー大統領は16日、ロシア軍が包囲する南東部の要衝マリウポリに関して、「我々の軍部隊が全滅させられた場合、(ロシアとの)全ての交渉は終わる」と主張した。また、「自国の領土や国民を取引の対象にはしない」とも語り、あくまでも徹底抗戦を続ける構えをみせた。ウクライナメディアのインタビューで語った。

ゼレンスキー氏は「マリウポリの状況は非常に厳しい。我が軍は包囲され、人道危機が起きている」と指摘。「負傷者や女性、子供の避難を求めて交渉しているがロシアは拒絶している」と語り、ロシア側の姿勢を批判した。

一方、インタファクス通信によると、露国防省のコナシェンコフ報道官は16日、マリウポリの情勢について「都市部全域からウクライナ側の戦闘員を一掃した。残存部隊を(市内の)アゾフスタリ製鉄所敷地内に閉じ込めている」と説明。その上で「武器を捨てて降伏するのが自らの命を守る唯一のチャンスだ」とウクライナの戦闘員に投降するよう呼びかけた。


・ロシア、マリウポリほぼ制圧か ウクライナ残存兵に最後通告(AFPBB 2022年4月17日)

※ウクライナ南部の港湾都市マリウポリ(Mariupol)について、ウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は「非人道的」な状況にあると述べ、西側諸国に重火器を直ちに提供するよう求めた。ロシアはマリウポリをほぼ制圧したと主張し、最後の抵抗を続けるウクライナ兵に投降を呼び掛けている。

マリウポリはロシアの侵攻開始以来、ウクライナ側の激しい抵抗の象徴となってきた。しかし、ロシア政府は16日、完全に掌握したと発表。製鉄所に立てこもって最後の抵抗を続けているウクライナ兵に対し、モスクワ時間17日午前6時(日本時間同日正午)までに武器を捨て、同午後1時(同午後7時)までに製鉄所を立ち退くよう最後通告した。

ゼレンスキー氏は動画メッセージで、「ロシアはそこにいる全員を意図的に破壊(殺害)しようとしている」と非難。マリウポリの兵士が全滅すれば「いかなる交渉にも終止符が打たれるだろう」「われわれは領土と国民については取引しない」と言明した。

ミハイロ・フョードロフ(Mykhailo Fedorov)副首相兼デジタル転換相は、マリウポリは「人道的大惨事の瀬戸際」 にあると述べ、ロシア側の残虐行為の証拠を収集していると警告。オランダ・ハーグ(Hague)の国際刑事裁判所(ICC)に「全てを引き渡す。免責されることはないだろう」と述べた。


・マリウポリ「まだ陥落していない」 ウクライナ首相、米テレビで言及(毎日新聞 2022年4月18日)

※ロシア軍に包囲されたウクライナ南東部の要衝マリウポリの攻防を巡り、ウクライナのシュミハリ首相は17日、米ABCテレビで「(マリウポリは)まだ陥落していない」と強調した。露軍は「抵抗すれば全滅させる」と降伏を迫るが、ウクライナ側は必死の抵抗を続けている。

シュミハリ氏はマリウポリの戦況について「我々の軍隊はまだ残ってる。彼らは最後まで戦う」と語った。ロシア国防省は市内のアゾフスタリ製鉄所に立てこもるウクライナ戦闘員に対し17日午後1時(日本時間午後7時)までの投降を要求。しかし、ウクライナ側がこれを拒否したため、部隊を壊滅させると警告した。

ウクラインスカ・プラウダ紙によると、露軍は17日もマリウポリに空爆やミサイル攻撃を続けた。さらなる攻勢に向け、戦略爆撃機「ツポレフ22M3」も投入したという。これに対し、ウクライナ側は民族主義者が創設した準軍事組織「アゾフ大隊」が主力となり抵抗。英BBCは軍事専門家の話として、製鉄所にはアゾフ大隊の戦闘員が約800人おり、地下トンネルなどを利用したゲリラ戦術で、長期間抵抗を続ける可能性があるとの分析を伝えている。

一方、ウクライナのクレバ外相は17日、米CBSでマリウポリの軍部隊が全滅した場合、「(停戦交渉が破綻する)レッドラインになるかもしれない」と語った。ゼレンスキー大統領も16日、ウクライナメディアに、「我々の部隊が全滅させられた場合、(ロシアとの)全ての交渉は終わる」と発言していた。

露軍は17日もウクライナ各地で空爆などの攻撃を続けた。ウクライナ当局によると、北東部ハリコフ中心部では露軍の砲撃により5人が死亡、10人以上が負傷。東部ゾロテでは砲撃で2人が死亡、4人が負傷した。ロイター通信によると、首都キーウ(キエフ)近郊でもミサイル攻撃などが相次いだ。


・マリウポリの製鉄所の下、ソ連時代に建設の「地下要塞」…診療所や武器庫にカフェも(読売新聞 2022年4月19日)

※ロシア軍が掌握を目指すウクライナ南東部マリウポリで、ウクライナ軍と武装組織「アゾフ大隊」が拠点とするアゾフスタリ製鉄所の下には、ソ連時代に建設された「地下要塞(ようさい)」がある。ウクライナ側の約1000人の兵士らは地下施設で、製鉄所を包囲するロシア軍や親露派の武装集団への抗戦を続けている。

マリウポリのアンドリューシチェンコ市長顧問は18日、SNSに製鉄所の地下の施設の見取り図を投稿した。見取り図には検査・診療所や園芸場、カフェ、居住空間などが描かれていた。

アンドリューシチェンコ氏は、堅固な地下施設を巡って「戦闘は難しく」なり、ロシア軍は地下施設を破壊するため「大きな威力の爆弾」を使うことになるだろうと書き込んだ。

一方、親露派の幹部は16日、ロシア通信に地下施設の詳細を語った。それによると、地下には大きな空間が広がっており、通路やトンネルが掘られている。市内には他にも同じような地下施設があり、製鉄所の施設と地下通路でつながっているという。

地下施設は爆撃や封鎖、さらには核兵器による攻撃の可能性さえも考慮して頑丈に建設されており、攻略は容易でないと親露派の幹部は指摘した。

地下空間にはウクライナ軍が豊富な武器や弾薬を保管しているため、親露派の幹部は人命を危険にさらさないよう「軍事作戦は時間をかけて進めている」と説明した。

ロシア軍は17日までに投降するようウクライナ側に迫ったが、ウクライナ軍も「アゾフ大隊」も拒否し、徹底抗戦する構えを崩していない。

英国防省は18日、ウクライナ側の抗戦により、ロシア軍のマリウポリ掌握に時間がかかっているとの分析を発表した。


・マリウポリ“最後の砦”製鉄所で徹底抗戦アゾフ大隊にロシア苦戦(FNNプライムオンライン 2022年4月19日)

※ウクライナを侵攻するロシア軍は、南東部のマリウポリへの攻勢をさらに強めています。

ロシア側は、マリウポリの製鉄所に立てこもるウクライナ軍などに対し、日本時間17日の午後7時までの降伏を迫り、「抵抗を続ければ全滅させる」と警告していました。

これに対し、ウクライナ側は“徹底抗戦”の構えを見せています。

製鉄所で徹底抗戦…アゾフ大隊とは?

シュミハリ首相:

(マリウポリ市は)陥落していない。我が軍と兵隊はまだ残っていて、最後まで戦う。

ロシア国防省によると、市内のアゾフスタル製鉄所を拠点におよそ2500人のウクライナ部隊が抵抗を続けているといいます。

そのほとんどが、「アゾフ大隊」というマリウポリを拠点とする精鋭部隊。

2014年にウクライナ政府の直轄部隊となり、ロシアよるクリミアを併合の際などに

激しい抵抗を繰り広げてきました。

アゾフ大隊の司令官は19日、FNNのインタビューに応じ、降伏の期限とされた17日夜以降、ミサイルによる攻撃が激しくなったと証言しました。

激しい攻撃を受けても「最後まで戦う」と語った司令官。

その「アゾフ大隊」が最後の戦いを繰り広げている「アゾフスタル製鉄所」とは、どのような場所なのでしょうか。

マリウポリ“最後の砦”アゾフスタル製鉄所 地下には市民も避難

「ドネツク人民共和国」と名乗る親ロシア派武装勢力の副司令官は―

親ロシア派武装勢力「ドネツク人民共和国」 バスーリン副司令官:

ウクライナ軍がいる製鉄所は要塞のようで、攻めるのが非常に難しい。

これは軍事侵攻前に撮影したとみられるアゾフスタル製鉄所内部の映像です。

溶鉱炉や無数の鉄柱が並び巨大な設備やコンテナのようなものも至る所に見られます。

迷路のように複雑に入り組んでいて死角が多いため、ロシア軍としては攻略が難しいといいます。

これは製鉄所内に攻め込んでいるとみられるロシア側の部隊の映像。

停電しているのか、真っ暗な空間を手探りで進むしかありません。

ウクライナ側に待ち伏せされるリスクも高く、攻めあぐねてきたのだといいます。

(めざまし8 4月19日放送)


・ロシア軍、マリウポリ製鉄所に特殊部隊投入か…東部ドンバスに兵力5万人(読売新聞 2022年4月19日)



※ロシア軍は19日、東部ドンバス地方の全域制圧に向けた攻勢をさらに強めた。東部の戦線は拡大しており、ロシアのウクライナ侵攻作戦は新局面に入った。一方、陥落を目指す南東部マリウポリでは爆撃を継続し、製鉄所を拠点に抵抗するウクライナ軍に改めて投降を迫った。製鉄所に特殊部隊を投入したとの情報もある。

露国防省は19日、露軍のミサイル・砲兵部隊が、東部や南部の各地で1260の標的を攻撃したと発表した。前日の発表(315か所)の4倍に増えた。東部には高精度ミサイル13発を撃ち込んだとしている。

タス通信によると、セルゲイ・ラブロフ露外相は19日のインタビューで「軍事作戦が新局面に入った」とし、ドンバス地方「解放」まで作戦を続けると述べた。

ドンバス地方を構成するドネツク、ルハンスク(ルガンスク)両州では2014年以降、親露派武装集団が一部を実効支配し、ウクライナ軍と交戦。プーチン露政権は侵攻直前の2月21日に親露派支配地域を一方的に国家承認し、ドンバス地方全域の「解放」を侵攻目的に掲げた経緯がある。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は18日夜のビデオ演説で、「ロシア軍は長期間準備してきたドンバスの戦いを開始した」との認識を示し、徹底抗戦を呼びかけた。

また、オレクシー・ダニロフ国家安全保障国防会議書記も18日、露軍がドンバス地方の制圧地域拡大のため、「ほぼ全域でウクライナ軍の防衛線を突破しようとしている」と語った。

米国防総省高官は18日、露軍がドンバス地方攻撃のため兵力投入を続け、ここ数日で最大1万人程度を追加配置したとの分析を明らかにした。戦闘用装備を伴う700~1000人の兵士で構成される大隊戦術グループ(BTG)は76に上り、ドンバス地方を中心として5万人規模に達しているとの見方も示した。

プーチン政権は5月9日の旧ソ連の対独戦勝記念日までの東部制圧を目標にしているとされ、攻撃を急いでいるとの指摘がある。

東部ではルハンスク州ポパスナ付近やハルキウ(ハリコフ)州イジューム周辺でも戦闘が起きているとみられるが、ウクライナ軍の激しい抵抗で制圧には時間がかかるとの見方もある。

一方、露国防省は19日の声明で、マリウポリのウクライナ軍や武装組織「アゾフ大隊」に対し、19日午後4時(日本時間午後10時)までに拠点のアゾフスタリ製鉄所を明け渡し、投降しなければ、排除すると警告した。最後通告は17日に次ぎ2度目だ。「アゾフ大隊」の司令官は18日夜、SNSを通じ、製鉄所で避難生活を送る子どもや女性の様子を収めたとする動画を公開した。徹底抗戦の決意も表明しており、投降の警告には応じないとみられる。


・製鉄所のウクライナ軍幹部「我々は持ちこたえても数日」「敵の人数は我々の10倍」(読売新聞 2022年4月20日)

※ロシアの侵攻を受けるウクライナ当局者らは19日、ロシア軍が南東部マリウポリで、ウクライナ軍が拠点とする製鉄所に集中爆撃を加えていると明らかにした。プーチン露政権はウクライナ兵に繰り返し投降を求め、事態は切迫している。東部ドンバス地方全域の制圧を目指す露軍とウクライナ軍の戦闘が激しさを増している。

ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府顧問は19日、ウクライナ軍と武装組織「アゾフ大隊」の兵士ら約2500人が拠点とするアゾフスタリ製鉄所を狙い、露軍が地中貫通型爆弾を使用したと指摘した。

同爆弾は「バンカーバスター」と呼ばれ、地下に貫通後に爆発し、地下施設の破壊が可能とされる。製鉄所の地下施設には、兵士のほか子供を含む多くの一般住民も避難しており、人的被害の拡大が懸念される。

アゾフ大隊の副司令官も19日、米政府系メディアの取材に、「製鉄所は超重量級の爆弾を落とされ、ほぼ完全に破壊された。大勢ががれきの下敷きになっている」と訴えた。

ウクライナ軍幹部とされる男性は20日、SNSで、「我々は持ちこたえても数日だ。敵の人数は我々の10倍いる。ここには民間人が数百人いる。安全な第三国に出してほしい」と国際社会に救助支援を訴えた。

露軍は製鉄所を掌握し、マリウポリを陥落させる狙いだ。露国防省は19日夜、ウクライナ兵に改めて投降を求め、20日午後2時(日本時間午後8時)という日時を提示した。

一方、ロシアとウクライナは20日、マリウポリの住民を南部ザポリージャに退避させる「人道回廊」の設置で合意した。約10万人の残された住民の退避が進むかどうかが焦点となる。

米国防総省の高官は19日、露軍がドンバス地方全域の制圧に向け、ドネツク周辺などで限定的な攻撃を始めたとの見方を示した。高官は「ロシアが計画している大規模な攻勢作戦の前触れだ」とも語った。

タス通信によると、プーチン大統領は20日の会合で、「ドンバス地方の人々の暮らしは少しずつ正常化し、良くなるだろう」と述べ、露軍が全域制圧を図る意義を強調した。

露国防省は20日、露軍が1000か所以上をミサイルなどで攻撃したと発表した。ウクライナ軍参謀本部は20日、ルハンスク(ルガンスク)州セベロドネツクなどで激しい戦闘が起きていることを明らかにした。

米CNNなどは19日、米国のバイデン政権がウクライナへの新たな軍事支援を近く発表する見通しだと伝えた。13日に8億ドル(約1000億円)相当の追加軍事支援を表明したばかりだが、新たな支援額も同規模となる見込みだという。


・プーチン氏、マリウポリの製鉄所の総攻撃中止と徹底封鎖を命じる(BBC 2022年4月21日)

※ウクライナの軍事侵攻を続けるロシアのウラジーミル・プーチン大統領は21日、制圧を目指す南東部の要衝マリウポリについて、ウクライナ兵がたてこもり徹底抗戦を続けるアゾフスタリ製鉄所への総攻撃を中止し、「ハエ1匹逃げられないよう」封鎖するよう命じた。ロシア政府は同日、ロシア軍がマリウポリを完全に掌握したと発表した。

ロシア政府は、プーチン大統領とセルゲイ・ショイグ国防相が会談する様子をテレビで放送。その中でショイグ国防相がロシア軍がマリウポリを掌握したと報告すると、プーチン氏はマリウポリの「解放」を祝い、ロシア軍をたたえた。

その上でプーチン氏は国防相に、アゾフスタリ製鉄所への総攻撃を中止し、徹底的に封鎖するよう命じた。大統領は、「この墓所の中によじ上って入り、工業設備の間を縫って地下まで潜る必要はない」と指示。ロシア軍には代わりに「ハエ1匹たりとも逃げ出せないよう、この工業地区を封鎖」するよう命令した。

プーチン氏はさらに、広大な工業施設を一気に襲撃するのは「合理的ではない」と述べ、総攻撃を中止するのはロシア兵の命を守るためだと話した。

ショイグ氏はこれに先立ち、約2000人のウクライナ兵が製鉄所内にたてこもっていると報告していた。

広大な地下シェルターのある同製鉄所内にとどまっているのは、ウクライナ海兵隊と、極右組織とつながりのあるアゾフ大隊。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアの攻勢を受けながら、マリウポリ防衛を続ける兵士たちを称賛している。



市民と負傷兵の脱出求める=ウクライナ副首相

アゾフスタリ製鉄所の封鎖をプーチン氏が命じた後、ウクライナのイリナ・ウェレシチュク副首相はソーシャルメディアで、製鉄所には「民間人約1000人と負傷兵約500人がいる。全員を今日中にアゾフスタリから脱出させなくてはならない」と要求し、避難用の人道回廊設置をただちに認めるようロシア側に呼び掛けた。

20日には製鉄所内にたてこもるウクライナ海兵隊の司令官がBBCに対して、閉じ込められた負傷兵は医薬品などがない状態で「腐りつつある」と訴え、部下たちを他国に出国させる必要があると伝えていた。

ウクライナで取材するBBCのジョー・インウッド記者は、ロシア政府はマリウポリを自力で完全制圧するのではなく、残るウクライナ守備隊と市民を飢餓状態に追い込み、降伏させることにしたようだと指摘する。

製鉄所総攻撃はロシアにとって軍事的に不要=元英総司令官

英軍統合司令部の元司令官、サー・リチャード・バロンズはロシア政府の発表について、製鉄所に籠城するウクライナ兵士を全滅させる作戦は「双方にとって大損害が出るのは必須」で、それをなくして実現するのはロシアにとって「本当に難しい」ことだったはずだとの見方を示した。

港湾都市マリウポリには、ロシアとクリミア半島を結ぶ道路が通るため、ロシア軍にとって制圧が重要な要衝とされてきた。

しかしバロンズ元司令官は、マリウポリ攻防戦の勝敗はもはや「それほど重要ではなくなった」と指摘。ロシア政府が現時点で「制圧した」と宣言したのは、ロシア正教のイースター(復活祭)を目前に「一定の成果」を国民に発表することが目的だったのだろうと、元司令官は解説した。

「さらに、軍事的に重要ではない製鉄所をめぐる戦いに、軍はこれ以上の兵や装備を費やさずに済む。そして、今となっては本当に重要な、ドンバス戦に傾注できるようになる」とも、元司令官は述べた。

ロシアとウクライナの戦争で現状ではどちら有利なのかという質問には、バロンズ元司令官は「非常に微妙なバランスだ」と答えた。

<解説> ロシア政府の広報マシーンがフル回転――ジェニー・ヒル(モスクワ)

クレムリン(ロシア政府)の広報マシーンがフル回転している。プーチン大統領がショイグ国防相と共にテレビに登場し、ロシアがマリウポリを掌握したと発表したのだ。

しかし実際には、この数日でとりわけ実質的に変化したことはない。ウクライナの兵士たちはまだアゾフスタリ製鉄所の中にいる。これは、すべてが計画通りに順当に進んでいるとロシア国民に伝えるための、ロシア政府の戦略の一環だ。

国営テレビは連日、ロシア軍がいかに前進しているか、いかにウクライナの軍事目標を攻撃し、いかに各地の町や地域を「解放」しているか、快活な調子で伝えている。

一方で、ショイグ国防相はあまり姿を見せていなかったので、ウクライナ侵略がうまくいっていないことについて、プーチン大統領の不興を買ったのではないかという憶測も出ていた。しかしそのショイグ氏もこの日は、テレビに登場し、ボスに良い知らせを報告していた。

<解説> プーチン氏がマリウポリで計画を変更か? その理由は――ポール・アダムズ外交担当編集委員

ロシア軍がアゾフスタリ製鉄所爆撃を中止し、徹底封鎖に作戦を変更するのか、プーチン大統領の発言通りになるのかは、今後の展開を見てから信じることにしたい。

しかし、もしその通りになるとしたら、なぜ作戦を変更したのか。

プーチン大統領は、ウクライナ東部ドンバス地域での大攻勢を早く進めたがっている。

マリウポリ攻防戦によってロシアは貴重な資源を失ったほか、多くのロシア軍部隊がここにくぎづけになり、ほかの作戦目標遂行のために回すことができなかった。

カルミウス川によってマリウポリ中心部から隔てられている製鉄所は、比較的簡単に孤立させられるはずだが、本当にプーチン氏の言うように「ハエ1匹たりとも逃さない」よう封鎖するには、かなりの軍勢を残す必要がある。

加えてゼレンスキー大統領は、マリウポリ守備隊が全滅させられたら和平交渉はあり得ないと誓っている。ということは、プーチン氏は外交プロセスを、少なくとも外交プロセスの外見だけは、残しておきたいのかもしれない。

経済的な要因さえ、関係しているかもしれない。

アゾフスタリは欧州最大級の製鉄所だ。何週間も続いた悲惨な破壊の後でも、まだ何か価値のあるものが残っているのではないかと、ロシア政府は期待しているのかもしれない。


・ロシアが停戦文書案を提示か「ボールはウクライナ側にある」(毎日新聞 2022年4月21日)
 
※ロシアのペスコフ大統領報道官は20日、ウクライナとの停戦協議に向け、ロシア側の立場を記した文書をウクライナ側に渡したと述べた。AP通信などが報じた。

ペスコフ氏は、文書の内容について詳細な言及を避けたが、「ボールは彼ら(ウクライナ)の方にある。我々は返答を待っている」と語った。

これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は20日夜の時点で、その文書を見ても聞いてもいないと述べた。

双方の停戦協議は断続的に行われてきたが、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで多数の民間人の遺体が見つかった4月上旬以降、目立った進展はない。プーチン露大統領は12日に「行き詰まっている」との認識を示していた。

こうした中、ラブロフ露外相は20日、これまで双方を仲介してきたトルコのチャブシオール外相と電話で協議した。ラブロフ氏は停戦交渉の行方について、ウクライナ側が「ロシアの要求を考慮に入れる」用意があるかどうかにかかっていると指摘。「ボールはウクライナ側にある」というペスコフ氏の発言とほぼ同様の主張を繰り返した。

停戦に向けた協議では、ウクライナ側が3月下旬にロシアが求める「中立化」をいったんは条件付きで受け入れる方針を示唆。ロシアもこれに合わせ、軍事活動を縮小する方針を示していた。だがその後、4月に入りロシア軍がブチャで大量虐殺に関与した疑いが浮上。ウクライナ南部や東部での戦闘も激化し、協議は暗礁に乗り上げていた。