・「プーチン=極悪非道、ゼレンスキー=正義の味方」そんな安直な思考が見落とす重要事実(PRESIDENT online 2022年4月6日)
和田秀樹 精神科医
※ロシアがウクライナに侵攻して1カ月余り。欧米や日本の報道スタンスは「ロシア=悪、プーチン=極悪非道」だ。精神科医の和田秀樹さんは「プーチンは悪者で、ウクライナ=可哀想な犠牲者、ゼレンスキー=正義の味方という単純な思考では見落としてしまうこともある。欧米のウクライナ報道の根底に“アジア人差別”があるとの指摘をする専門家もいる」という――。
■「プーチン=極悪、ゼレンスキー=正義」でいいのか
私が前頭葉の老化予防のために心がけていることは、なるべく人の言わない意見を言うようにすることだ。
そういう思考習慣をつけている人間にとって今のウクライナ情勢はかなり違和感があるのは事実だ。
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ロシア=悪、ウクライナ=かわいそうな犠牲者
プーチン=極悪非道、ゼレンスキー=正義の味方
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というような図式が出来上がり、それ以外の意見が言いにくい状況となっている。大量の市民の死傷者が出ているこのタイミングでわざわざロシアの弁護をする必要はない。ロシアの侵略行為は決して許されるべきではない。
■かなりひどいアジア人差別がベースのウクライナ報道
ただ、少し異なる見方・考え方を探ることにも意味があるはずだ。そうした意図もあり、先日、私のユーチューブ番組「和田秀樹チャンネル」にイスラム学者の中田考氏(同志社大学元教授=イスラム法学・神学)をゲストに招いたのだが、こちらの気づかない視点が与えられて有意義だった。
ひとつは、今回のウクライナ報道が、実は、かなりひどいアジア人差別がベースになっている可能性があるという指摘だ。
ロシアはチェチェン紛争(ロシアからの分離独立を目指すチェチェン共和国と1994年から2度にわたって戦われた民族紛争)のときは、今のウクライナ攻撃の比でない市民無差別攻撃を行い、20万人の民間人が殺害されたとされる。人口100万人前後の国だから5人に1人が殺されたことになる。
それに対して、当時の欧米各国の制裁は現在のウクライナ戦争に対する制裁と比べたら小さいものだったし、残虐な映像も今日ほど流されなかったのは確かだ。チェチェン人がかわいそうだとか義捐金を送ろうなどという声は日本でもほとんど聞こえなかった。
実際、欧米のメディアがウクライナの現地から中継をするときに、リポーターは「ここは、シリアやパレスチナでないのです。ヨーロッパの中でこのような惨事が起こっているのです」などと平気で言うらしい。
彼らの発想では、シリアやパレスチナで一般市民が爆撃されても問題ないが、ヨーロッパではダメだということなのだろうか。単純にこれまで戦争や紛争が起こらなかった地域で人々が死んでいるという驚きを伝えたかったのかもしれないが、シリアやパレスチナといったアジア系を蔑んでいると受け取られてもしかたない。
■ロシアをイスラエルが支え経済制裁は実質的に無効に
さて、それ以上に、今回、私が気づかなかったのはイスラエルの存在だ。
この国は、世界の中で唯一何をやっても制裁されない不思議な国だ。1981年に武力で一方的にゴラン高原を併合すると宣言し、その後、実質支配を続けている。これに対して、国連はほぼ全会一致で撤退を要求する決議を出したが、制裁は実質的に受けていない。
核開発も公然の事実となっている。もちろん、制裁を受けたことはない。世界で一番暴虐無人に振る舞えるのは、この国だ。そんな意見も一部にはある。
ウクライナのゼレンスキー大統領は本人が認めているようにユダヤ系であり、イスラエルに逃げれば身の安全が保証されるとの説もある。
いっぽうで、ロシア系のユダヤ人が多数いるイスラエルは、ソ連時代からロシアとは仲がいい。確かに国連決議ではロシア非難に賛成票を投じたが、国連決議が無意味なのを一番よく知っているのはイスラエルだ。表向きに欧米の味方の顔をしているだけかもしれない。
中田氏の読みでは、ロシアが今後さらに本格的に経済制裁を受けた時に支えるのはイスラエルではないかという。
国際決済や石油や天然ガスの購買について、中国が助けるという説を唱える人が多い。中国だって、そういうものはのどから手が出るほど欲しいだろうが、現時点では、ロシアと比べ物にならないくらい国際社会に食い込んでいる中国が、自国株の暴落を食らってまで、ロシアの支援をするかは不透明である。
しかし、イスラエルは、仮にロシアの国際決済や原油や天然ガスの輸出入をイスラエルが裏で支えたとしても、まず国際的な制裁を受けるとは思えない。つまり、場合によっては莫大な利益をあげることができる。
中田氏の読みが正しければ、ロシアの経済制裁は実質的に無効になり、それだけこの戦争が長引くことになる。アメリカとの関係もあるイスラエルが本当にロシアを裏で支えるかはわからないが、複雑な各国の関係や思惑を読み解く上で一考の余地はある。
■ウクライナ危機でいちばん割を食うのはアジア系か
もう一つ衝撃的だったのは、今回の一件でいちばん割を食う恐れがあるのは、アジア系民族に含まれるパレスチナ人やゴラン高原の人たちだという主張だ。
イスラエルは、ウクライナのユダヤ人難民を全面的に受け入れると表明している。最大100万人規模の難民がイスラエルの移民となることも想定される。このとき、彼らには土地が用意され、農業で十分食べていけるように遇されるという。
中田氏によれば、その土地の候補の筆頭に挙げられているのは、ゴラン高原やパレスチナだ。平和に農業をやって暮らしているパレスチナの丸腰の民に銃をつきつけ、その土地が取り上げられ、そこにウクライナの人たちが入植する……という構図だ。
ウクライナの人たちはかわいそうだが、パレスチナの人の悲劇が報じられないのなら、それは私には人種差別にしか見えない。
ロシア制裁の最先端にいるアメリカにしても、必ずしも、ロシア=悪、ウクライナ=正義という図式にはなっていないようだ。
ジョンズ・ホプキンスの大学院を出て、アメリカのCDC(疾病予防管理センター)のスタッフだった医師の木村盛世氏(元厚生労働省医系技官)はコロナ問題でも自粛一辺倒の政策に疑問を呈しているが、ウクライナ問題でも重要な論文を私に紹介してくださった。
シカゴ大学のJohn Mearsheimer教授のものだが、以下のような主張をしている。
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・クリミア併合後、ウクライナの残りもロシアが吸収し、プーチンが旧ソ連帝国復活を目指しているような議論があるが、それは完全な誤り。
・アメリカを中心とする西側諸国がNATOやEUや民主主義を東方に拡大しようとしたことがロシアとの対立関係の原因。特に2008年にグルジアとウクライナのNATOへの加盟を認める方向が示されたことが問題。
・アメリカならびにどの同盟国は、グルジアとウクライナを中立的な緩衝国として位置づけ、これらの地域にNATOを拡大しないようにすべき。西側諸国はウクライナを経済的に救済する計画案を示すべき。この案はロシアが歓迎するようなものである必要がある。
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これら西側諸国にも責任の一端があるといった意見に完全に賛同するわけではない。しかし、少しでも早い停戦はウクライナの人たちの命を救う上、世界経済へのダメージを少しでも小さくできるのだから、さまざまな角度からの自由な討議は必要だろう。
私自身は、今、テレビで論じられる情勢の判断や情報もかなり偏っていることを疑っている。コメンテーターをみても、もともとプーチンに批判的でプーチン批判の著書のある人たちのオンパレードだ。こういう人たちにロシア政府サイドの情報が届くとは思えない。
かつて、北朝鮮通を称する北朝鮮批判ばかりしていた評論家たちが誰一人として、金正恩が後継になることを予想できなかった(候補の1人として名を挙げる人さえいなかった)ことでもわかることだ。
作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏はプレジデントオンラインで「プーチン大統領の目的は『ウクライナに傀儡政権を樹立すること』ではない」と題した記事を発表した(3月3日配信)。ロシア=悪との偏向思考をするコメンテーターや書き手が多い中で、この佐藤氏の論考はとても説得力のあるものに感じられた。きっと今なおロシアから有力な情報が入るからこそ書けたのではないか。
社会心理学の立場から考えると、自分が正義の味方で、許せない敵がいると考えているときは、集団的浅慮という判断に陥りやすいとされる。
人間というのは、自分が正義と思うと残酷なことにも痛みを感じられなくなる。あのナチスですら、自分たちが正義と思っていたのだ。
北朝鮮の飢えた子どもの映像をみても、悪い国の人間だから当然だと感じたり、ウクライナ兵にロシアの若い兵士が殺されても同情の心が起こらなかったりしたら、それはちょっと危険な状態だと私は思う。
一般大衆が偏った判断をしても、外交に影響はないように思うかもしれないが、民主主義国では民意は無視できない。少なくとも、ふだんの人間関係では、自分が「正義の味方症候群」に陥っていないかという自省をウクライナ情勢を機に身に付けたいものだ。
・TVに映るウクライナ避難民はなぜ白人だけか――戦争の陰にある人種差別(Yahoo! news 2022年4月16日)
六辻彰二 国際政治学者
※ウクライナから逃れているのは白人ばかりでなく、アフリカや中東からの留学生や移民労働者も多く含まれる。
白人の避難民はほぼノーチェックで隣国に逃れているが、有色人種はウクライナ側でもEU側でも差別的待遇に直面している。
シリア難民危機をきっかけに欧米でエスカレートした外国人嫌悪は、ウクライナ戦争で浮き彫りになっている。
ウクライナで人道危機に直面しているのは白人ばかりではなく、むしろ有色人種ほど危険にさらされやすい。
「黒人だから国際列車に乗れない」
民間人殺害や化学兵器使用疑惑など、日々報じられるウクライナをめぐる人道危機はエスカレートする兆候をみせている。
しかし、そのなかで危機にさらされているのは「白人のウクライナ人」ばかりではない。むしろ、ウクライナ在住の有色人種や外国人、とりわけアフリカ系やムスリムは、場合によっては白人より高いリスクにさらされている。
例えば、彼らはウクライナを離れることさえ難しい。
ロシア軍による侵攻が始まった直後の2月末から、ウクライナからの脱出を目指す人々が隣国ポーランドなどとの国境に押し寄せたが、白人のウクライナ人(軍務を課された成人男性を除く)が問題なく逃れられた一方、アフリカ系や中東系の多くは引き戻された。
その多くは留学生や移民労働者だが、なかにはウクライナ市民権をもつ者も含まれるとみられる。ともあれ、SNSにはウクライナ兵が白人を優先して国際列車に乗せ、アフリカ系をはじめとする有色人種は力づくで押し戻されるシーンが溢れた。
西アフリカ、ギニアからの留学生はフランス24の取材に対して、ウクライナ西部リビウの駅でウクライナ兵に押し戻されたと証言し、「白人は問題なく通過しているのに、黒人はダメだと兵士は言うんだ」と不満を口にした。こうした証言は無数にある。
「ここはサルのくる場所じゃない」
ウクライナ政府は差別を否定しるが、アフリカ諸国からは批判が噴出している。アフリカ各国が加盟するアフリカ連合(AU)は2月28日、「アフリカ人に対する異なる対応は受け入れられず、国際法にも違反する」という声明を出した。
以前にも取り上げたように、ウクライナ軍の主体ともいえるアゾフ連隊には、白人至上主義的な極右団体としての顔がある。その意味でウクライナ軍兵士の対応は首尾一貫したものとさえいえる。
とはいえ、「ロシアの非人道性」を強調するウクライナ政府にとって、自らが人道問題で批判されるのは避けたいところだろう。そのため、アフリカ系をはじめ有色人種が少しずつウクライナを脱出できるようになったこともまた不思議ではない。
しかし、それでもやはり差別的な対応はなくなっていない。4月初旬、ポーランドに逃れたコートジボワール人男性はリビウの駅で国際列車に乗るための行列にいたところ、兵士から「ここはサルのくる場所じゃない」と罵られたという。
ウクライナ人ファーストの闇
ウクライナからの避難民の多くは、隣接するポーランドなどのEU加盟国に逃れている。一般市民の間では、ウクライナから逃れてきた避難民を人種に関係なく支援する動きも少なくない。また、EUはウクライナ避難民をその国籍にかかわらず自動的に保護することに合意している。
しかし、実際にはEU加盟国の公的機関が差別的な対応をとることも珍しくない。
例えばポーランドでは、白人のウクライナ人はほぼ無条件に受け入れられる一方、それ以外の人々に関してはウクライナに合法的に滞在していたことや、安全上の理由などで自国に帰還できないことを証明しなければならず、手続きに時間がかかる。その結果、国境付近に数多くの有色人種の避難民が滞留する事態となっている。
ポーランドになんとか入国できたコンゴ人女性は仏ル・モンドに、国境での検査で警官が黒人に対してだけ銃を突きつけて検問をしたと証言した。また、宿泊施設なども白人に優先的に割り当てられており、ウクライナで医学を学んでいたケニア人留学生は「彼らはウクライナ人ファーストだ」と米Voxに語っている。
ポーランドの国連大使はこうした報道が不正確だと反論しているが、批判は各所からあがっている。ケニアの国連大使が「人種差別を強く非難する。それはこうした非常時における連帯を損なうものだ」と力説した他、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「差別、暴力、人種主義」を強く非難している。
ポーランド以外にも、ハンガリーやブルガリアなど東欧のEU加盟国では多かれ少なかれ似たような報告があがっている。
「ウクライナ人はあいつらとは違う」
非常時には平時以上にマイノリティへの排他的感情が剥き出しになりやすい。コロナ禍をきっかけに欧米でアジア系ヘイトが広がり、同じく中国でアフリカ系への差別が噴出したことは記憶に新しい。
ヨーロッパの場合、2015年からのシリア難民危機が反移民感情をそれまでになく高め、なかでもポーランドやハンガリーなどでは白人至上主義者が議会や政府の中核を占めている。ウクライナ避難民に対する差別的な対応は、これを背景としている。
ブルガリアのペトコフ首相はウクライナ避難民を指して「彼らはこれまでの連中とは違う。彼らはヨーロッパ人で、知的で、教育がある。これまでのような、出自も過去もはっきりせず、テロリストでさえあるかもしれない者たちとは違う」と述べている。この露骨なまでの差別的発言は、これら各国の風潮を象徴する。
もちろん、ウクライナから多くの人が避難せざるを得なくなった直接的な原因はロシアによる侵攻であり、さらに自国民を救出する航空機などを派遣できない(あるいはしない)中東やアフリカの各国にも原因はある。
しかし、少なくとも先進国が人権や人道の先導者を自認するなら、避難民への差別的な待遇を許すべきではないだろう。
そうでなければ、人権や人道をめぐるダブルスタンダードが際立ち、「ロシアの非人道性」を強調しても説得力が損なわれる。相手を選ばず殺傷することと、相手を選んで助けたり助けなかったりすることを比べれば、程度の差はあれ人道に反する点では同じだからだ。
グローバル化した現代の「新冷戦」は、かつての冷戦時代より情報やイメージの力が大きく、軍事力や経済力だけでその勝者になることは難しい。しばしば「冷戦型」ともいわれるウクライナ戦争だが、その意味では現代的な戦争でもあるのだ。
※ブログ主は白人至上主義それ自体が悪いものであるとは考えていません。なぜなら自分達と同一人種で国をまとめたいと思うのは生物として当然のことだからです。ただしそれは自国内限定でのみ許します。そして私も日本国内限定の日本人(人種含む)至上主義者です。
和田秀樹 精神科医
※ロシアがウクライナに侵攻して1カ月余り。欧米や日本の報道スタンスは「ロシア=悪、プーチン=極悪非道」だ。精神科医の和田秀樹さんは「プーチンは悪者で、ウクライナ=可哀想な犠牲者、ゼレンスキー=正義の味方という単純な思考では見落としてしまうこともある。欧米のウクライナ報道の根底に“アジア人差別”があるとの指摘をする専門家もいる」という――。
■「プーチン=極悪、ゼレンスキー=正義」でいいのか
私が前頭葉の老化予防のために心がけていることは、なるべく人の言わない意見を言うようにすることだ。
そういう思考習慣をつけている人間にとって今のウクライナ情勢はかなり違和感があるのは事実だ。
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ロシア=悪、ウクライナ=かわいそうな犠牲者
プーチン=極悪非道、ゼレンスキー=正義の味方
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というような図式が出来上がり、それ以外の意見が言いにくい状況となっている。大量の市民の死傷者が出ているこのタイミングでわざわざロシアの弁護をする必要はない。ロシアの侵略行為は決して許されるべきではない。
■かなりひどいアジア人差別がベースのウクライナ報道
ただ、少し異なる見方・考え方を探ることにも意味があるはずだ。そうした意図もあり、先日、私のユーチューブ番組「和田秀樹チャンネル」にイスラム学者の中田考氏(同志社大学元教授=イスラム法学・神学)をゲストに招いたのだが、こちらの気づかない視点が与えられて有意義だった。
ひとつは、今回のウクライナ報道が、実は、かなりひどいアジア人差別がベースになっている可能性があるという指摘だ。
ロシアはチェチェン紛争(ロシアからの分離独立を目指すチェチェン共和国と1994年から2度にわたって戦われた民族紛争)のときは、今のウクライナ攻撃の比でない市民無差別攻撃を行い、20万人の民間人が殺害されたとされる。人口100万人前後の国だから5人に1人が殺されたことになる。
それに対して、当時の欧米各国の制裁は現在のウクライナ戦争に対する制裁と比べたら小さいものだったし、残虐な映像も今日ほど流されなかったのは確かだ。チェチェン人がかわいそうだとか義捐金を送ろうなどという声は日本でもほとんど聞こえなかった。
実際、欧米のメディアがウクライナの現地から中継をするときに、リポーターは「ここは、シリアやパレスチナでないのです。ヨーロッパの中でこのような惨事が起こっているのです」などと平気で言うらしい。
彼らの発想では、シリアやパレスチナで一般市民が爆撃されても問題ないが、ヨーロッパではダメだということなのだろうか。単純にこれまで戦争や紛争が起こらなかった地域で人々が死んでいるという驚きを伝えたかったのかもしれないが、シリアやパレスチナといったアジア系を蔑んでいると受け取られてもしかたない。
■ロシアをイスラエルが支え経済制裁は実質的に無効に
さて、それ以上に、今回、私が気づかなかったのはイスラエルの存在だ。
この国は、世界の中で唯一何をやっても制裁されない不思議な国だ。1981年に武力で一方的にゴラン高原を併合すると宣言し、その後、実質支配を続けている。これに対して、国連はほぼ全会一致で撤退を要求する決議を出したが、制裁は実質的に受けていない。
核開発も公然の事実となっている。もちろん、制裁を受けたことはない。世界で一番暴虐無人に振る舞えるのは、この国だ。そんな意見も一部にはある。
ウクライナのゼレンスキー大統領は本人が認めているようにユダヤ系であり、イスラエルに逃げれば身の安全が保証されるとの説もある。
いっぽうで、ロシア系のユダヤ人が多数いるイスラエルは、ソ連時代からロシアとは仲がいい。確かに国連決議ではロシア非難に賛成票を投じたが、国連決議が無意味なのを一番よく知っているのはイスラエルだ。表向きに欧米の味方の顔をしているだけかもしれない。
中田氏の読みでは、ロシアが今後さらに本格的に経済制裁を受けた時に支えるのはイスラエルではないかという。
国際決済や石油や天然ガスの購買について、中国が助けるという説を唱える人が多い。中国だって、そういうものはのどから手が出るほど欲しいだろうが、現時点では、ロシアと比べ物にならないくらい国際社会に食い込んでいる中国が、自国株の暴落を食らってまで、ロシアの支援をするかは不透明である。
しかし、イスラエルは、仮にロシアの国際決済や原油や天然ガスの輸出入をイスラエルが裏で支えたとしても、まず国際的な制裁を受けるとは思えない。つまり、場合によっては莫大な利益をあげることができる。
中田氏の読みが正しければ、ロシアの経済制裁は実質的に無効になり、それだけこの戦争が長引くことになる。アメリカとの関係もあるイスラエルが本当にロシアを裏で支えるかはわからないが、複雑な各国の関係や思惑を読み解く上で一考の余地はある。
■ウクライナ危機でいちばん割を食うのはアジア系か
もう一つ衝撃的だったのは、今回の一件でいちばん割を食う恐れがあるのは、アジア系民族に含まれるパレスチナ人やゴラン高原の人たちだという主張だ。
イスラエルは、ウクライナのユダヤ人難民を全面的に受け入れると表明している。最大100万人規模の難民がイスラエルの移民となることも想定される。このとき、彼らには土地が用意され、農業で十分食べていけるように遇されるという。
中田氏によれば、その土地の候補の筆頭に挙げられているのは、ゴラン高原やパレスチナだ。平和に農業をやって暮らしているパレスチナの丸腰の民に銃をつきつけ、その土地が取り上げられ、そこにウクライナの人たちが入植する……という構図だ。
ウクライナの人たちはかわいそうだが、パレスチナの人の悲劇が報じられないのなら、それは私には人種差別にしか見えない。
ロシア制裁の最先端にいるアメリカにしても、必ずしも、ロシア=悪、ウクライナ=正義という図式にはなっていないようだ。
ジョンズ・ホプキンスの大学院を出て、アメリカのCDC(疾病予防管理センター)のスタッフだった医師の木村盛世氏(元厚生労働省医系技官)はコロナ問題でも自粛一辺倒の政策に疑問を呈しているが、ウクライナ問題でも重要な論文を私に紹介してくださった。
シカゴ大学のJohn Mearsheimer教授のものだが、以下のような主張をしている。
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・クリミア併合後、ウクライナの残りもロシアが吸収し、プーチンが旧ソ連帝国復活を目指しているような議論があるが、それは完全な誤り。
・アメリカを中心とする西側諸国がNATOやEUや民主主義を東方に拡大しようとしたことがロシアとの対立関係の原因。特に2008年にグルジアとウクライナのNATOへの加盟を認める方向が示されたことが問題。
・アメリカならびにどの同盟国は、グルジアとウクライナを中立的な緩衝国として位置づけ、これらの地域にNATOを拡大しないようにすべき。西側諸国はウクライナを経済的に救済する計画案を示すべき。この案はロシアが歓迎するようなものである必要がある。
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これら西側諸国にも責任の一端があるといった意見に完全に賛同するわけではない。しかし、少しでも早い停戦はウクライナの人たちの命を救う上、世界経済へのダメージを少しでも小さくできるのだから、さまざまな角度からの自由な討議は必要だろう。
私自身は、今、テレビで論じられる情勢の判断や情報もかなり偏っていることを疑っている。コメンテーターをみても、もともとプーチンに批判的でプーチン批判の著書のある人たちのオンパレードだ。こういう人たちにロシア政府サイドの情報が届くとは思えない。
かつて、北朝鮮通を称する北朝鮮批判ばかりしていた評論家たちが誰一人として、金正恩が後継になることを予想できなかった(候補の1人として名を挙げる人さえいなかった)ことでもわかることだ。
作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏はプレジデントオンラインで「プーチン大統領の目的は『ウクライナに傀儡政権を樹立すること』ではない」と題した記事を発表した(3月3日配信)。ロシア=悪との偏向思考をするコメンテーターや書き手が多い中で、この佐藤氏の論考はとても説得力のあるものに感じられた。きっと今なおロシアから有力な情報が入るからこそ書けたのではないか。
社会心理学の立場から考えると、自分が正義の味方で、許せない敵がいると考えているときは、集団的浅慮という判断に陥りやすいとされる。
人間というのは、自分が正義と思うと残酷なことにも痛みを感じられなくなる。あのナチスですら、自分たちが正義と思っていたのだ。
北朝鮮の飢えた子どもの映像をみても、悪い国の人間だから当然だと感じたり、ウクライナ兵にロシアの若い兵士が殺されても同情の心が起こらなかったりしたら、それはちょっと危険な状態だと私は思う。
一般大衆が偏った判断をしても、外交に影響はないように思うかもしれないが、民主主義国では民意は無視できない。少なくとも、ふだんの人間関係では、自分が「正義の味方症候群」に陥っていないかという自省をウクライナ情勢を機に身に付けたいものだ。
・TVに映るウクライナ避難民はなぜ白人だけか――戦争の陰にある人種差別(Yahoo! news 2022年4月16日)
六辻彰二 国際政治学者
※ウクライナから逃れているのは白人ばかりでなく、アフリカや中東からの留学生や移民労働者も多く含まれる。
白人の避難民はほぼノーチェックで隣国に逃れているが、有色人種はウクライナ側でもEU側でも差別的待遇に直面している。
シリア難民危機をきっかけに欧米でエスカレートした外国人嫌悪は、ウクライナ戦争で浮き彫りになっている。
ウクライナで人道危機に直面しているのは白人ばかりではなく、むしろ有色人種ほど危険にさらされやすい。
「黒人だから国際列車に乗れない」
民間人殺害や化学兵器使用疑惑など、日々報じられるウクライナをめぐる人道危機はエスカレートする兆候をみせている。
しかし、そのなかで危機にさらされているのは「白人のウクライナ人」ばかりではない。むしろ、ウクライナ在住の有色人種や外国人、とりわけアフリカ系やムスリムは、場合によっては白人より高いリスクにさらされている。
例えば、彼らはウクライナを離れることさえ難しい。
ロシア軍による侵攻が始まった直後の2月末から、ウクライナからの脱出を目指す人々が隣国ポーランドなどとの国境に押し寄せたが、白人のウクライナ人(軍務を課された成人男性を除く)が問題なく逃れられた一方、アフリカ系や中東系の多くは引き戻された。
その多くは留学生や移民労働者だが、なかにはウクライナ市民権をもつ者も含まれるとみられる。ともあれ、SNSにはウクライナ兵が白人を優先して国際列車に乗せ、アフリカ系をはじめとする有色人種は力づくで押し戻されるシーンが溢れた。
西アフリカ、ギニアからの留学生はフランス24の取材に対して、ウクライナ西部リビウの駅でウクライナ兵に押し戻されたと証言し、「白人は問題なく通過しているのに、黒人はダメだと兵士は言うんだ」と不満を口にした。こうした証言は無数にある。
「ここはサルのくる場所じゃない」
ウクライナ政府は差別を否定しるが、アフリカ諸国からは批判が噴出している。アフリカ各国が加盟するアフリカ連合(AU)は2月28日、「アフリカ人に対する異なる対応は受け入れられず、国際法にも違反する」という声明を出した。
以前にも取り上げたように、ウクライナ軍の主体ともいえるアゾフ連隊には、白人至上主義的な極右団体としての顔がある。その意味でウクライナ軍兵士の対応は首尾一貫したものとさえいえる。
とはいえ、「ロシアの非人道性」を強調するウクライナ政府にとって、自らが人道問題で批判されるのは避けたいところだろう。そのため、アフリカ系をはじめ有色人種が少しずつウクライナを脱出できるようになったこともまた不思議ではない。
しかし、それでもやはり差別的な対応はなくなっていない。4月初旬、ポーランドに逃れたコートジボワール人男性はリビウの駅で国際列車に乗るための行列にいたところ、兵士から「ここはサルのくる場所じゃない」と罵られたという。
ウクライナ人ファーストの闇
ウクライナからの避難民の多くは、隣接するポーランドなどのEU加盟国に逃れている。一般市民の間では、ウクライナから逃れてきた避難民を人種に関係なく支援する動きも少なくない。また、EUはウクライナ避難民をその国籍にかかわらず自動的に保護することに合意している。
しかし、実際にはEU加盟国の公的機関が差別的な対応をとることも珍しくない。
例えばポーランドでは、白人のウクライナ人はほぼ無条件に受け入れられる一方、それ以外の人々に関してはウクライナに合法的に滞在していたことや、安全上の理由などで自国に帰還できないことを証明しなければならず、手続きに時間がかかる。その結果、国境付近に数多くの有色人種の避難民が滞留する事態となっている。
ポーランドになんとか入国できたコンゴ人女性は仏ル・モンドに、国境での検査で警官が黒人に対してだけ銃を突きつけて検問をしたと証言した。また、宿泊施設なども白人に優先的に割り当てられており、ウクライナで医学を学んでいたケニア人留学生は「彼らはウクライナ人ファーストだ」と米Voxに語っている。
ポーランドの国連大使はこうした報道が不正確だと反論しているが、批判は各所からあがっている。ケニアの国連大使が「人種差別を強く非難する。それはこうした非常時における連帯を損なうものだ」と力説した他、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「差別、暴力、人種主義」を強く非難している。
ポーランド以外にも、ハンガリーやブルガリアなど東欧のEU加盟国では多かれ少なかれ似たような報告があがっている。
「ウクライナ人はあいつらとは違う」
非常時には平時以上にマイノリティへの排他的感情が剥き出しになりやすい。コロナ禍をきっかけに欧米でアジア系ヘイトが広がり、同じく中国でアフリカ系への差別が噴出したことは記憶に新しい。
ヨーロッパの場合、2015年からのシリア難民危機が反移民感情をそれまでになく高め、なかでもポーランドやハンガリーなどでは白人至上主義者が議会や政府の中核を占めている。ウクライナ避難民に対する差別的な対応は、これを背景としている。
ブルガリアのペトコフ首相はウクライナ避難民を指して「彼らはこれまでの連中とは違う。彼らはヨーロッパ人で、知的で、教育がある。これまでのような、出自も過去もはっきりせず、テロリストでさえあるかもしれない者たちとは違う」と述べている。この露骨なまでの差別的発言は、これら各国の風潮を象徴する。
もちろん、ウクライナから多くの人が避難せざるを得なくなった直接的な原因はロシアによる侵攻であり、さらに自国民を救出する航空機などを派遣できない(あるいはしない)中東やアフリカの各国にも原因はある。
しかし、少なくとも先進国が人権や人道の先導者を自認するなら、避難民への差別的な待遇を許すべきではないだろう。
そうでなければ、人権や人道をめぐるダブルスタンダードが際立ち、「ロシアの非人道性」を強調しても説得力が損なわれる。相手を選ばず殺傷することと、相手を選んで助けたり助けなかったりすることを比べれば、程度の差はあれ人道に反する点では同じだからだ。
グローバル化した現代の「新冷戦」は、かつての冷戦時代より情報やイメージの力が大きく、軍事力や経済力だけでその勝者になることは難しい。しばしば「冷戦型」ともいわれるウクライナ戦争だが、その意味では現代的な戦争でもあるのだ。
※ブログ主は白人至上主義それ自体が悪いものであるとは考えていません。なぜなら自分達と同一人種で国をまとめたいと思うのは生物として当然のことだからです。ただしそれは自国内限定でのみ許します。そして私も日本国内限定の日本人(人種含む)至上主義者です。