・ウクライナ支援で自衛隊輸送機を周辺国に派遣で調整 政府(NHK NEWS WEB 2022年4月13日)
※ロシアによる軍事侵攻が続く中、政府は、国際機関からの要請を受けて、自衛隊の輸送機をウクライナの周辺国に派遣し、支援物資などを運ぶ方向で調整に入りました。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、政府は、ウクライナやその周辺国に対し、緊急人道支援や借款による合わせて3億ドルの資金協力を実施するほか、保健・医療分野での人的貢献も行っていくことにしています。
こうした中、政府が、UNHCR=国連難民高等弁務官事務所からの要請を受けて、自衛隊の輸送機をウクライナの周辺国に派遣し、支援物資などを運ぶ方向で調整に入ったことが分かりました。
政府関係者によりますと、自衛隊機の派遣は、国際平和協力法、いわゆるPKO協力法に基づく対応になるということで、近く閣議で輸送機の派遣を決定したいとしています。
・米、ウクライナに追加軍事支援 ヘリや火砲も(AFPBB 2022年4月14日)
※米国は13日、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、8億ドル(約1000億円)相当の追加軍事支援を行うと発表した。ウクライナ東部での戦闘に備え、これまで核保有国ロシアとの戦いを激化させかねないとして供与しなかったヘリコプターや火砲、装甲兵員輸送車などの大型兵器も含まれる。
ジョー・バイデン(Joe Biden)米大統領は同日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領と約1時間にわたって電話会談。「ウクライナ軍はわれわれが供与した兵器を使い、素晴らしい戦果を挙げてきた」として、「ロシアが(ウクライナ東部)ドンバス(Donbas)地方で攻勢を強める構えを見せていることから、米国は引き続きウクライナに自衛のための戦力を提供し続ける」と述べた。
米国防総省のジョン・カービー(John Kirby)報道官が公開したリストには、支援には155ミリりゅう弾砲18門、砲弾4万発、装甲兵員輸送車「M113」200台、ヘリコプター「Mi17」11機、多目的装甲車100台が含まれている。
さらに、対砲兵レーダー「AN/TPQ-3G」10基、防空レーダー「AN/MPQ-64センチネル(AN/MPQ-64 Sentinel)」2基、自爆型無人機「スイッチブレード(Switchblade)」300機、対戦車ミサイル「ジャベリン(Javelin)」500基も供与される。
沿岸防衛用の無人艦艇や、生物化学兵器や核兵器に対応した防護具、防弾チョッキとヘルメット3万組、C4爆薬、対人地雷「M18A1クレイモア(M18A1 Claymore)」なども提供する。
・ネプチューン地対艦ミサイルによる巡洋艦モスクワ撃沈の衝撃
JSF軍事/生き物ライター
2022年4月15日
ウクライナ防衛企業ウクロボロンプロムよりネプチューン地対艦ミサイル
※現地時間4月14日(日本時間4月15日)、ロシア国防省の発表によるとロシア海軍の黒海艦隊旗艦である巡洋艦「モスクワ」が曳航中に沈没しました。前日に爆発炎上し総員退艦、その後まだ浮いていたのでセヴァストポリ港に戻ろうと曳航している最中でした。
ウクライナ側は前日に地対艦ミサイル「ネプチューン」2発を巡洋艦モスクワに命中させて撃破したと主張しています。ロシア側はこれを認めていませんが、どちらにせよ艦は失われました。
ロシア海軍黒海艦隊旗艦スラヴァ級ロケット巡洋艦モスクワ撃沈。その衝撃は戦史に永久に刻まれることになるでしょう。ウクライナ海軍地対艦ミサイル部隊の大戦果であり、ロシア海軍の大失態となります。
巡洋艦「モスクワ」を喪失した意味
ロシア国防省よりスラヴァ級ロケット巡洋艦「モスクワ」
巡洋艦モスクワはロシア海軍黒海艦隊旗艦であり、黒海艦隊の中では最大最強の艦でした。ただし主兵装の超音速巡航ミサイル「P-1000ヴルカン」には対地攻撃能力は無く、ウクライナとの戦争でこの艦は広域防空艦として価値を発揮していました。
長距離艦対空ミサイル「S-300F」を搭載した巡洋艦モスクワはウクライナ南部の黒海沿岸の沖合いに進出し、防空網の一画を担っていました。長射程の対空ミサイルでウクライナ空軍機の活動を妨害していたのです。
これが消えました。ロシア海軍黒海艦隊には他に広域防空艦は居ません。ウクライナ空軍は南部での行動の制約が大きく解かれたのです。
また、これでもうロシア軍は揚陸艦隊を用いてオデーサに上陸作戦を行うことが困難になりました。ロシア艦隊は地対艦ミサイルを恐れて、容易には沿岸に近付けなくなった筈です。
そして首都モスクワの名前を関する軍艦の喪失はロシア全軍どころかロシア全国民の士気を下げ、ウクライナの士気を大きく向上させることになります。
地対艦ミサイル「ネプチューン」
ウクライナ国防省の広報АрміяInformよりネプチューン地対艦ミサイル
ウクライナ語”Нептун”の発音は「ネプトゥーン」の方が近く、英語のNeptune(ネプチューン)と語源は同じでローマ神話の海神の名前です。
ネプチューンは亜音速の対艦ミサイルで、アメリカ軍のハープーン対艦ミサイルやロシア軍のKh-35対艦ミサイルとよく似た性能です。ネプチューンはウクライナ国産の新兵器で生産に入ったばかりであり、開戦前のスケジュールでは最初の1個大隊の編成完了が4月予定だったので、ぎりぎりでロシアとの戦争に間に合いました。
ネプチューン地対艦ミサイル1個大隊は4連装発射機が6両で1斉射24発、予備弾含め3斉射分72発が定数となっています。
ウクライナ海軍の想定ではトルコ製「バイラクタルTB2」無人偵察攻撃機で洋上索敵を行い目標艦を発見したらネプチューン地対艦ミサイルで攻撃するという手順を予定していましたが、実際の巡洋艦モスクワ攻撃ではどのような攻撃方法だったのかはまだ発表がありません。
なおロシア海軍は巡洋艦モスクワが被弾する2日前に、黒海艦隊のフリゲート「アドミラル・エッセン」がウクライナ軍のバイラクタルTB2無人機を撃墜したことを誇る動画をUPしていました。これはウクライナ軍がドローン(無人機)による洋上索敵を積極的に行っていた可能性を示しています。
あるいは無人機のバイラクタルTB2はロシア海軍を油断させるための囮で、本命の対艦索敵はアメリカ軍の偵察手段だった可能性もあります。一部のウクライナ報道ではバイラクタルTB2を囮に使ってその隙にネプチューンで攻撃した戦法が示唆されています。
黒海にはアメリカ軍の大型無人偵察機「グローバルホーク」が開戦後も頻繁に飛んで来ていたので、巡洋艦モスクワの位置情報の提供を行っていた可能性があります。ただしこれが仮に事実だとしても公表したらロシアを怒らせるので、黙っている筈です。
まだ不明な点は多いのですが、今回のネプチューンによる歴史的な大戦果の詳細はいずれ明らかにされていくことでしょう。
・旗艦モスクワ轟沈に慌てふためくロシアと中国(JB press 2022年4月18日)
西村 金一
※対艦ミサイル1発が中国の台湾侵攻阻止
4月13日、ロシア海軍ミサイル巡洋艦「モスクワ」がウクライナの対艦ミサイル「ネプチューン」に攻撃され、沈没した。
ウクライナはミサイル攻撃を認め、米国国防省も対艦ミサイルが命中したことを確認したという。
だが、ロシア軍は、モスクワにミサイル攻撃されたことを認めず、火災が発生したからだと言った。
過去、旧ソ連海軍時代から今まで、大型戦闘艦艇(潜水艦を除く)が、火災を起こして沈没したことを聞いたことがない。
しかし、ロシア軍も内心は認めている。なぜなら、そのことに怒り、報復のために、キーウをミサイル攻撃したからだ。
一方で、中国は、露ウ(ウクライナ)戦争を、これまでは高みの見物だった。
だが、ロシア巡洋艦がミサイル1~2発に攻撃されて、それを破壊できずに命中弾を受け、沈没したのを見た。中国は、大変肝を冷やしたことだろう。
その理由について説明する。
1.モスクワ沈没に肝冷やした中国海軍
中国はロシア海軍艦艇を模倣し、いくらかの改良を加えて自国の軍艦を建造してきた。自分たちが建造してきた軍艦に大きな欠陥が見え始めた。
そうなると、台湾侵攻の際に使用する大型揚陸艦、これらを守る駆逐艦が、たった1発の台湾の対艦ミサイルに撃沈されることが予想される。
中国軍による台湾上陸侵攻は、予期せぬ形で危ぶまれることになった。
2.機能しなかったロシア海軍防空システム
黒海艦隊の旗艦である「モスクワ」が沈められた。黒海艦隊の主力艦は6隻であり、巡洋艦1隻のほか、駆逐艦1隻、フリゲート艦4隻である。
艦隊は、基本的に合同で防空システムを構成している。
艦によって、防空能力、対艦攻撃能力、対地攻撃能力、対潜作戦、それぞれ別個に能力が高いのである。日本の場合、さらに、ミサイル防衛能力を保有している。
艦隊は、それぞれを組み合わせて作戦を行う。旗艦は艦隊作戦を指示命令するし、今回の作戦の場合は、地上攻撃の役割も担っていたと思われる。
さらに、各艦は、CIWS(シウス:Close In Weapon System)を装備していて、対艦ミサイルや戦闘機を至近距離で撃墜する兵器を装備している。
巡洋艦モスクワも ガトリング砲(30mm口径6砲身)3基を備えている。
現実に、メディアが、ロシアミサイル巡洋艦を紹介する時に、主砲とCIWSを射撃している映像を流している。
本来は、このCIWSが飛翔してくるミサイルに弾幕射撃を行い、撃破することになっているはずだ。
だが、モスクワは、ウクライナのネプチューンミサイルを撃破することなく、命中させてしまった。
ウクライナ軍が2発発射したために、1発は打ち落としたのかもしれないが、1発は命中したのだろう。
巡洋艦モスクワは、各種機能を有する軍艦だったのに、防空レーダー、防空ミサイル、CIWSシステムなどを合わせた防空システムに、致命的な弱点を露呈してしまったのだ。
これは、兵器技術の問題もあるが、ロシア軍兵士の油断もあったかもしれない。
3.中国軍艦はロシア軍艦と運命共同体
中国は、空母、駆逐艦、潜水艦など、旧ソ連が建造した艦を購入している。
空母「遼寧」はもともと旧ソ連が建造し、ソ連邦崩壊後にウクライナが中国に売却したものだ。
ロシア海軍はかつて、ソブレメンヌイ級とウダロイ級の2種類の駆逐艦を保有していた。中国の杭州級・現代級ミサイル駆逐艦は、ソブレメンヌイ級駆逐艦として使用していたものを購入したものだ。
また、ロシア海軍は各種攻撃型潜水艦を保有していたが、中国は潜行時に音が静かな「キロ級」潜水艦を購入した。
中国は、これらの空母、駆逐艦、潜水艦を購入して、それらを模造あるいは改良したものを建造しているのが、実態である。
つまり、中国海軍の軍艦は大型で、周辺各国に対して、その威容を見せつけ、威圧しているのだが、実は、ロシアの軍艦と同様に対艦ミサイルに極めて脆弱だということである。
このことを見ていた米国、日本、台湾、東南アジア諸国は、ロシアや中国軍の軍艦がミサイル対応能力に欠陥があることが分かり、米国や日本製の対艦ミサイルを装備し、その数を増加させることになるであろう。
中国は今頃、ロシア海軍艦艇の模倣、改良型を使用していることから、軍事力整備に問題があると、気付いたに違いない。
4.中国海軍の台湾上陸能力に重大な影響
中国は近年、台湾侵攻や南シナ海の人工島の防衛のために、大型揚陸艦を建造している。
中国海軍は、台湾海峡など狭い海域で大型揚陸艦が必要なのか。対艦ミサイルの射程内で、その射撃目標となりやすい大型艦を運用することに疑問が持たれていた。
中国海軍は、モスクワが撃沈させられて、改めてその誤りに気付くことになる。
中国海軍は、大型の揚陸艦(上陸のために兵員を輸送する艦)を建造している。
ドック型輸送艦(LPD)の4万トンクラス8隻と2万5000トンクラス8隻の合計16隻建造の予定で、現在8隻が就役している。
1隻で、4万トンクラスが兵員1600人または戦車35両、2万5000トンクラスが600~800人または戦車20両を輸送できる。
戦車揚陸艦LST(約4500トン)は28隻就役させている。兵員200~250人または戦車約10両を輸送できる。
ウクライナ軍に爆破されたタピール級揚陸艦「オルスク」(約4500トン)と同じクラスの揚陸艦だ。

(上)中国海軍揚陸艦艇(一部)による強襲上陸要領のイメージ
台湾海峡の幅は平均的に200キロで、ここに大型艦が行動すれば、間違いなく台湾の対艦ミサイルの格好の目標になる。
1発命中すれば、沈没するのだ。4万トンクラスであれば、陸戦隊兵1600人を失うことになる。

(上)大型揚陸艦に向けて発射される対艦ミサイル(イメージ)
ドック型揚陸艦と戦車揚陸艦合わせて44隻は、台湾軍のたったの50発以下の対艦ミサイルで撃沈させられてしまうのだ。
これらの揚陸艦で輸送できる海兵隊約3万5000人を、簡単に沈めてしまうことが可能になる。
5.中国の海洋進出阻止に対艦ミサイル有用
中国の海洋進出の脅威を受けているアジア各国、例えば台湾、南シナ海に接するフィリピン、インドネシア、ベトナム、マレーシアは、ウクライナでのロシア艦撃沈を見て、中国の海洋進出を止めるには、対艦ミサイルが大きな役割を果たすと感じ取ったことだろう。
対艦ミサイルは、日本の南西諸島や、台湾に向かう中国軍艦に対しても脅威を与えることができる。
ただ、中国海軍の脅威になる対艦ミサイルは、中国弾道ミサイルの攻撃目標にもなることから、島内に、平時からそのための射撃陣地を構築しておくことが重要だ。
中国の大型揚陸艦に対しては射程200キロ前後の対艦ミサイルを、小型揚陸艇には射程10キロ未満の対舟艇(対戦車ロケットと同じもの)を保有すれば、上陸侵攻を食い止めることができる。
たったロシア海軍軍艦1隻の撃沈が、中国を取り囲む国々の防衛戦闘に重要な示唆と自信を与えてくれた。
※ブログ主コメント:油断は禁物。楽観的過ぎる。今回は当たり所が良かっただけかもしれんし。沈没原因には搭載した弾薬類の誘爆の効果も大きい。
・弱小ウクライナ軍に勝てないロシア軍は必然だった(JB press 2022年4月16日)
樋口 譲次
※若いウクライナの国防体制作り
ウクライナとロシアの間では、大きな国力(2020年世界GDP=国内総生産ランキング:ロシア11位、ウクライナ55位)と軍事費(ロシアがウクライナの13倍)の差を背景に、軍事力の比較において、ロシア軍の強大さがウクライナ軍を圧倒している。
しかし、圧倒的に優勢なロシア軍はウクライナ軍の粘り強い抵抗に遭って苦戦し、ウクライナ軍は戦力の劣勢を跳ねのけて善戦敢闘している。
そのカギは、ウクライナ軍が、NATO(北大西洋条約機構)標準化とコンパクトで機動性に富んだ部隊作りを目指して、ソ連型軍隊からNATO(欧米)型軍隊への転換を図ってきたことにある。
ウクライナは、2021年8月24日に独立30周年記念式典を迎えた人間で言えば30歳代に入ったばかりの若い国である。
同国は、旧ソ連邦崩壊後、その構成共和国の一つ「ウクライナ・ソビエト社会主義共和国」の領域を継ぐ形で成立し、その地理的範囲を領土とする自由で、自己決定できる国としての完全な独立主権国家である。
東西冷戦下の旧ソ連邦時代、軍事上の前線と位置づけられ攻撃的な性格の強い部隊が配備されていたウクライナは、ソ連邦崩壊に伴い膨大な軍事施設と兵力、組織および装備品などをそのまま受け継ぐこととなった。
しかし、1991年に独立したことによって自国防衛、すなわち国防が主任務となったウクライナ軍にとって、旧ソ連型の攻撃的で大規模な兵力を擁する軍事組織、装備品などは不要となった。
国家防衛に特化した、また国力国情に応じた軍隊作りに政策転換した。
そして、ウクライナは独立から5年後の1996年に、旧ソ連型の軍から国防を主任務とする軍事組織への移行を完了した。
NATO型軍隊への転換を目指した軍改革
その後、 2000年2月に策定された「軍事力整備計画」では、 NATO標準化とコンパクトで機動性に富んだ部隊編成を目指すとし、それ以来、国防省は同計画に基づき機構改革、部隊改編、兵力の削減、老朽化した装備品の用途廃止などの軍改革を推進した。
1996年時点で合計約70万人いた軍人および文官は、2012年末時点で18.4万人にまで削減され、将来的には10万人まで削減する計画であった。
しかし、ウクライナ東部情勢の悪化などを受け、2015年には総定員約25万人に拡大された。
また、2002~2003年にかけてNATOの協力を得て国防計画の見直しが行われ、2004年6月には今後の軍改革の方向性と最終的な目標を明示した「戦略国防報告」が公表された。
2005年には、「2006~2011年の間のウクライナ軍発展国家プログラム」が、2013年には「2017年までのウクライナ軍改革・発展段階」が策定された。
完全職業軍人化のほか、指揮統制システム、装備、教育訓練などの分野における軍改革が段階的に推進された。
なお、完全職業軍人化については、2013年秋をもっていったん徴兵制が廃止された。
しかし、ウクライナでは、2014年のロシアのクリミア半島併合とウクライナ東部に対する軍事介入によって一挙に情勢が悪化した。
それ以降、ウクライナは困難に直面しつつ、平和的解決を目指し努力を継続してきた。
同時に、一時的動員を定期的に実施しつつ、2014年に徴兵制を復活させるなど、国防力の強化に努めてきた。
その一環として、2019年2月の憲法改正により、将来的なNATO加盟を目指す方針を確定させた。
ウクライナでは、18歳以上の男子に兵役義務が課せられている。任期は18か月(1.5年)であり、兵役経験者などの予備役が約90万人いる。
ウクライナには、正規軍とは別に、2014年のロシアによるクリミア半島併合などを受けて創設された有志の市民ボランティアで構成する「領土防衛隊」があり、ロシアの軍事侵攻に直面し、その人数は劇的に増加していると言われている。
また、今般のロシアの軍事侵攻に備えるため、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、18歳から60歳の男性の出国を原則禁止して総動員態勢の措置をとった。
NATOによる教育訓練
NATOによるウクライナ軍に対する教育訓練の取組みは、2008年、ロシアがグルジア(ジョージア)に侵攻したロシア・グルジア戦争を契機として本格的に開始された。
この取組みには、米国や英国、カナダ、ポーランド(1999年加盟)、ルーマニア(2004年加盟)などNATO加盟の8か国が参加し、従来のソ連型軍隊からNATO(欧米)型軍隊へシフトする支援を行ってきた。
ソ連式の指揮は、伝統的に厳格なトップダウン(上意下達)型のアプローチで、上官が部下へ命令を下す。
下位の兵士が考えたり、状況に合わせて変化させたりする権限をほとんど与えない硬直したスタイルである。
他方、NATO型はいわゆる委任型指揮というアプローチで、上官が作戦・戦闘の目標を設定し、それに向けた具体的方法などの意思決定を指揮系統のできるだけ下に位置する者、場合によっては個々の兵士に委ねるという柔軟なやり方をとる。
ソ連型戦術は、まず一斉砲撃を行ってから、部隊を大量投入し、敵の陣地を奪おうとするものだ。
スターリン時代からほとんど変わらない定型的な戦法をロシアが採っているの対し、NATO型は戦況に適応したより柔軟・機敏で機動性に富んだ戦術である。
また、NATOは下士官の地位を確立した。それは、経験のある兵士が権限のある階級(下士官)に昇進し、上層部と現場の部隊をつなぐ重要な橋渡し的な役割を果たすものである。
一方、ロシア軍の下士官は現在、契約勤務制度(一種の任期制職業軍人)による契約軍人で賄われているが、1990年代まで遡ればロシア軍には契約軍人という制度自体がなく、将校のほかは下士官も兵士も徴兵で賄っていたようにその地位・権限は概して高くない。
これまでの訓練期間中、ウクライナ軍の中にはNATO型訓練に反発する動きもあった。
しかし、2014年にロシアのクリミア半島併合とウクライナ東部への軍事介入を許したことが契機となり改革が進んだ。
当時のペトロ・ポロシェンコ大統領が軍事改革の推進を命じ、NATOの取り組みを活性化させたのである。
昨年(2021)、ロシアからの脅威が増すにつれ、軍事訓練のペースも加速した。
ウクライナ軍では、NATOアドバイザーの下でロシアの侵攻に対抗する防衛計画が策定され、また、例えば英国が提供した次世代軽対戦車(NLAW)ミサイルをウクライナ軍部隊が円滑に使用できるよう急いで対応した。
このようにして、ウクライナ軍はNATOのルールに沿って戦争をする方法を学び、2022年2月末に始まったロシアの軍事侵攻でそれを実践し、善戦敢闘する成果を出すまでに成長している。
G7大使ウクライナ・サポート・グループ
前述の通り、近年、ウクライナ国防省が優先的に取り組んできた課題は、東部地域における武装勢力などへの対応と、ウクライナ軍のNATO軍標準化に向けた軍改革である。
NATO加盟国およびパートナー国などの支援を受け、軍のNATO軍標準化に向け着実に取り組んできた。
同時に、国内における多国籍軍参加による総合演習の計画および海外演習への積極的な参加を通じ、パートナー国との防衛協力の進展を図っている。
これらの支援の中核となっているのが、2015年、ドイツ・エルマウで行われたG7サミットにおいて、当時の独アンゲラ・メルケル首相の提唱を受けて合意された「G7大使ウクライナ・サポート・グループ」(G7 Ambassadors' Support Group on Ukraine)という枠組みである。
これはウクライナに駐在するG7各国の大使による枠組みで、本国と連携しながらウクライナの改革を支援していこうというものである。
本枠組みは、G7サミット議長国の在ウクライナ大使が議長となり、G7大使グループが定期的に会合して改革に向けた支援のあり方を協議し、ウクライナ政府の改革を支援するとともに、様々な制度や政策のあり方につきウクライナ政府と緊密に協議を重ねてきた。
活動の対象は、司法改革支援、法執行機関改革、経済・財政政策、投資環境整備、軍産複合体改革など多岐にわたっている。
「G7大使ウクライナ・サポート・グループ」は、2022年1月に2022年の活動計画を発表した。
その冒頭、G7メンバーは、自由、民主主義、法の支配、人権についての共通理解を有するウクライナのパートナーであり、ウクライナの独立、主権、領土一体性を引き続き一貫して防衛していると述べている。
具体的な課題リストでは、「公正で強靭な機構」(裁判改革、汚職対策、効果的なガバナンスと機構)、「繁栄した経済」(経済発展、グリーン移行とエネルギー分野改革)、「安全な国」(安全保障・国防分野、治安システム)の3つの主要な改革方向性での詳細な具体的課題を提示した。
中でも、安全保障・国防力の強化は重要な課題であり、特に米国や英国を中心に、装備品の供与、教育・訓練支援、戦傷者に対する医療支援、軍改革に係る助言等の各種支援を行っている。
外国からウクライナへの武器・装備品の提供
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2022年2月24日早朝(現地時間)、ウクライナへの軍事進攻に踏み切った。
これを受け、米国のジョー・バイデン大統領は3月16日、ウクライナに対しこれまでに供与した10億ドルに加え、8億ドルの安全保障援助を発表した。合わせると、約20億ドルとなる。
8億ドルの安全保障援助の内訳は、下記の通りである。
・スティンガー対空システム(800)
・ジャベリン(対戦車ミサイル、2000)、軽対装甲火器(1000)、AT-4対装甲システム(スウェーデンSaab社製の単発使い捨て式84mm滑空式無反動砲、6000)
・戦術無人航空機システム(100)(例:小型自爆ドローン「スイッチブレード」)
・擲弾筒発射機(100)、小銃(5000)、拳銃(1000)、機関銃(400)、ショットガン(400)
・小火器弾薬・擲弾筒発射機・迫撃砲弾(2億発以上)
・防弾チョッキ(2万5000セット)
・ヘルメット(2万5000セット)
*備考:括弧内の数字は数量を示す。
なお、上記に加え、これ以前に行った安全保障援助の内訳は、下記の通りである。
・スティンガー対空システム(600以上)
・ジャベリン(対戦車ミサイル)及び対装甲システム(約2600)
・Mi-17ヘリコプター(5)
・哨戒艇(3)
・対砲兵・対無人航空機システム追随レーダー(4)
・対迫撃砲レーダー(4)
・擲弾筒発射機及び弾薬(200)
・ショットガン(200)および機関銃(200)
・小火器弾薬(4億発以上)および擲弾筒・迫撃砲弾・砲兵弾(100万発以上)
・高速機動多目的装輪車両(HMMWVs)およびその他の車両(70)
・通信・電子戦探知システム、防弾チョッキ、ヘルメットおよびその他の戦術装備品
・治療・後送のための軍事衛生資器材
・不発弾処理および地雷除去装置
・衛星画像および同分析能力
*備考:括弧内の数字は数量を示す。
<以上、出典>THE WHITE HOUSE, "Fact Sheet on U.S. Security Assistance for Ukraine", MARCH 16, 2022
NATOを中心とする欧州諸国も、陸路・空路からウクライナへ武器を提供している。
英国は、2月24日の侵攻開始前からウクライナに武器を提供しており、次世代軽対戦車(NLAW)ミサイル2000基を届けた。
ウクライナへの武器提供は主に、旧ソ連圏かソ連と近かった中欧諸国のNATO加盟国から送られている。
米国はNATO加盟国とともに、大量の対戦車兵器を送ったと説明しているが、その大半はチェコ軍から提供されたとの報道がある。
ドイツは、当初ヘルメットなどでお茶を濁そうとしたが、積極姿勢に転じて対戦車兵器1000基、スティンガー500基および旧東独軍が保有していたソ連製携帯式SAM(ストレラ)2700基を提供した。
バルト諸国はスティンガーや、射程2.5キロの世界で最も効果的な対戦車兵器の一つである対戦車ミサイル「ジャベリン」など数千基を提供した。
トルコが提供した同国製ドローン(小型無人機、TB2)が、ロシアの戦車や装甲車両の車列に襲い掛かっている模様である。
NATOに加盟していないスウェーデンやフィンランドも加わり、両国とも、数千もの対戦車兵器をウクライナに送った。
日本は、武力攻撃を受けているウクライナへ異例の防衛装備品の提供を行った。
「防衛装備移転三原則」は、「紛争当事国」への装備品の供与を禁じているが、政府はウクライナがこの対象ではないと判断して、まず、防弾チョッキとヘルメットを提供した。
自衛隊法116条の3は、自衛隊の任務に支障がない範囲で装備品を他国に渡すことを認めている。
初回、対象とした防弾チョッキとヘルメットのほか、非常用食料や防寒服、テント、発電機、カメラ、衛生用品など殺傷能力がないものを想定している。
侵攻の初期段階で、ウクライナに兵器・装備品を提供している国は、合わせて14か国に上り、ウクライナの防衛力を補備・強化している。
その後も、英国が装甲車や対艦ミサイルシステム、チェコが旧ソ連製の「T72M」戦車、スロバキアが地対空ミサイル「S300」など、NATO加盟国などから兵器・装備品等の提供が続いている。
ウクライナ存立を左右する最大の戦闘局面へ
首都キーウや北部の都市を制圧しようとするロシア軍の試みは3月下旬、機動的なウクライナ軍の「待ち受け、ヒット・アンド・アウェイ(ambush, hit and away)」戦法でロシア軍の戦車や装甲車を襲撃し、森林や村々を通るロシア軍の長い補給線に空爆を加えたことで崩壊した。
ここにきて、ロシアの主要作戦目標は、東部ウクライナへ戦力を集中し、東部ドンバス地方でまだ制圧できていない地域を掌握するとともに、ウクライナ南東部の要衝である港湾都市マリウポリを制圧し、それらをもって東部ウクライナから併合したクリミア半島までを繋ぐ戦略的戦果を挙げることにシフトした模様である。
ウクライナ北部と違い、東部ウクライナの丘陵や平地での戦いは、砲撃、航空攻撃などを伴った大戦車戦となり、ロシア軍の編成装備の優位性が発揮されやすいと見られている。
これに対し、米国は、これまでのウクライナ紛争に対するアプローチを軌道修正し、重火器や装甲兵員輸送車(APC)、ヘリコプター、無人沿岸防衛艇などの大型兵器を提供するとともに、ウクライナ軍への機密情報の提供を大幅に拡大して反撃を支えようとしている。
ウクライナは、まもなくその存立を左右する、今回の戦争で最大規模になる戦闘局面に突入する。
ソ連型軍隊からNATO(欧米)型軍隊へ転換したウクライナ軍は、旧ソ連製兵器と西側製兵器をミックスした、ロシアとの非対称な軍事力とNATO型戦術をもって戦うことになる。
・ロシア軍の弱さに青ざめる北朝鮮と中国(JB press 2022年4月18日)
伊東 乾

(上)ロシアの戦車の天敵、無人攻撃機「MQ-9」
※21世紀の今日、戦車という兵器はすでに「弱い者いじめ」の道具にしかなっていません。なぜか?
今日の「強者」、つまり高度に情報化された西側の兵器は、AIの指令誘導などで確実にターゲットを落とします。
象徴的だったケースとして2020年1月3日に米軍によって暗殺されたイランの特殊部隊を率いた智将・ガセム・ソレイマニ司令官のケースが挙げられます。
ソレイマニ暗殺に用いられたのは米空軍の軍事用ドローン「MQ-9リーパー」無人機でした。このドローン、巨大なミサイルを搭載して14時間、疲れを知らず飛び続けることができます。
米軍の対戦車ミサイル「ヘルファイア」など、20世紀後半に開発されたインテリジェントな誘導兵器は、GPSを筆頭に冷戦後に発展した情報システムで命中精度を上げました。
こうしたミサイルがMQ-9のような軍事用無人機に搭載されることで、冷戦後第2世代の爆砕精度は格段に上昇。
さらに2010年代以降の第3次AIブーム、民生では「自動運転車」と喧伝された機械学習技術を吸収して、冷戦後第3世代の「スマート兵器」は、ピンポイント攻撃力をケタ違いに強化した。
それを2020年の年頭に見せつけたのが隣国イラクのバクダード国際空港近郊を走行中の自動車をターゲットとしたソレイマニ司令官爆殺であったことは、リアルタイムで本連載にも記しました。
これに対して「戦車」にはどのようなイノベーションがあったのか?
実は、ほぼ、何もなかったんですね。後述する通り冷戦中期、1970年代で実質、軍事イノベーションがストップしていた。
今回のウクライナ戦争で、露軍のダメダメぶりが世界にはっきり露呈しました。特に戦車を中心とする陸軍力は「世界最強」というロシアのこけおどしが、完全に化けの皮を剝がされた。
でもこれ、ロシアだけが弱いということではないと考えるべきなのです。
すでに「戦車」という兵器が「軍馬」に近づいている。つまり、パレードで昔を懐かしむ退役軍人など、高齢者の目を楽しませる、郷愁の対象に変質しつつあるのです。
ナチスの模倣が大好きなプーチン
試みにプーチンが捏造した21世紀ロシア連邦の懐古趣味祝典「5月9日軍事パレード」(https://www.youtube.com/watch?v=0WTngzAyQhA)を見てみましょう。
前回稿にも記した「ナチス・ドイツに勝利した日」として祝われる「5月9日」。
これは「革命嫌い」のプーチンが11月7日の革命記念日廃止と共に、社会の実力者高齢層に受けるよう演出された、いわば「やくざの盃事」にも似た「クレムリン伝統風イベント」です。
上の動画リンクで54分近辺以降、様々な戦車や軍用車両が登場します。
しかし、多くは「ナチスと戦った時期」の軍備、つまり第2次世界大戦モデルで、いまウクライナに投入しても使いものにはならない「クラシックカー」だそうです。
ちなみに1時間25分以降に映るプーチンの戦没者慰霊、献花のシーンは、ナチスドイツのニュルンベルク党大会でのヒトラーの慰霊シーンを思わず想起させます。
ご興味の方は、党大会を記録したレニ・リーフェンシュタール監督映画「意志の勝利」(https://www.nicovideo.jp/watch/sm2579419)のリンク、12分近辺と比較されると、様々な異同が目に留まることでしょう。
プーチンはよほどナチスの手法に引っかかりがあるようです。
「ロシア映画」にはエイゼンシュタイン以下、こんなナチス「リーフェンシュタール」みたいな偽者と比較にならない真の伝統があるのに。
プーチンは大衆プロパガンダの成功先行事例を追いかけたいようです。それが同族嫌悪と独ソ戦の凄惨な記憶をないまぜにして、敵対者に「ネオナチ」のレッテルを貼る。
レッテル貼りにとどまらず、無差別殺人、民族浄化からプロパガンダまで、プーチンは徹頭徹尾ナチスの真似ばかりしています。
そんなプーチンもナチスに追随しないところがありました。「トイレ」です。
戦車とトイレの浅からぬ関係
2021年までロシアが配備を進めている戦車「T14アルマータ」は(おそらく)「世界最強」だろう、と喧伝されていました。
このT14アルマータ、2015年に発表されたものでした。ただ前年のクリミア略奪併合以降、西側の先端情報部品が入らなくなってしまい、計画が頓挫。現状では量産できていません。
いまだ実戦投入されたことのない「幻の最強モデル」という下馬評、当然ながらウクライナ戦争にも投入はされていません。
試作品しかないので、作戦配備とか言う話にならないようです。ちなみに「2015年」に発表された「T14」第4世代主力戦車という触れ込み。
そしてこの「T14」最大の売りの一つは、なんと「トイレが装備されていること」だったのです。
「大」は無理な兵器内用便事情
実は「戦車」という兵器には、他の米露最新鋭機を含め「便所」は、原則一切装備されていません。戦闘機のコックピットも同様とのこと。
戦う上で必要なものが人間工学的に配置されている。そこに「便所」の立ち入る隙間はなかった。
見た目にはかっこいいブルーインパルスにもトイレはなく、一度搭乗したら「締まりよく」我慢するしかない。便所は基地にあります。
これは西側も同じことで、米軍の主力戦車M1エイブラムズは、1980年に正式採用された戦後「第3世代」主力戦車ですが、これにもトイレはついていません。戦車乗りは多くの時間を、微妙にモジモジしながら戦闘しているわけですね。
ナチス時代、ドイツの天才的智将として敵からも称賛された「砂漠のキツネ」エルヴィン・ロンメル(1891-1944)は、戦車部隊の凄まじい高速電撃作戦でフランスを瞬時に落としましたが、彼はトイレに行きたかっただけなのかもしれません。
戦車というのは60トンほどもある鉄の塊をディーゼルエンジンで動かす、もともとは1916年に英国で発明された兵器。
何しろ重いので、速度は時速40キロほど、燃費は凄まじく悪く、リッター200メートルとか400メートル、2000リッターからの燃料を積んでいても航続距離はせいぜい400~500キロ。補給なしの航続時間は半日程度。
でも考えてみてください。長距離トラックの運転でも10時間運転しっぱなしでは参ってしまいます。高速道路で400キロ、パーキングエリアがなかったら・・・。東京から大垣までトイレに行けない状態。
皮肉な話ですが、英国で秘密開発中は暗号で「水運搬車(Water Carrige)」つまりWCで聴こえが悪いので「タンク」と呼ばれるようになったのは有名な話。
でも戦車自体の中にはトイレ用のポリ「タンク」は持っていなかった。戦隊壊滅の有効な方法として、下剤をばら撒く戦法が可能かもしれません。
前線の兵士たちは常にトイレを我慢しながら戦っており、前近代的な装備しか持たないウクライナ戦争のロシア軍は、第2次大戦さながらの非人間的な戦闘環境を強いられているわけです。
現在ウクライナ戦争にも主力投入されているロシアの「T72(ウラル)」なども、トイレは配備されていません。1台3人の乗組員は、戦車の中で飲食はできても、用便は原則、不可能。
実際には「小」の方は、ペットボトルでも何でも持ち込んで凌ぐ工夫もできるでしょう。しかし、飲食もする狭い空間に3人配備の中で「大便」の余地はない。
つまり、戦車の乗員が大便するためには、車内の配備位置を離れ、外に出、野原などで用を足すことになります。
こう考えると、まだ実践投入されたことのない「T14」へのトイレ装備は「画期的」です。「大便休憩中」に襲われたら、戦車はひとたまりもありません。
ロシア兵はこの環境、いつまでもつ?
ちなみに、私の父は関東軍に配備された学徒出陣の二等兵でソ連戦車と戦っており、タンクの上蓋を開けて出てきたソ連兵を狙って撃った、と生前話していました。
用便のために出てきて、狙撃されたソ連兵も間違いなくいたはずです。ところがそういう「意外な弱点」を放置するのが、全体主義の盲点でもあり、弱点でもあり得たわけです。
ちなみに現在のウクライナ戦争の主力戦車「T72」は、なぜ「72」と呼ばれるのか?
答えは1971年に開発されたから。つまり第2次世界大戦後、ブレジネフ書記長体制下のソ連で開発された「第2世代」戦車が今でもロシア軍備の中核としてウクライナ戦争に投入されている。
さらに戦法がクラシックなのが致命的です。
戦車軍団と歩兵中心、ほとんど1940年代ナチス。ロンメル元帥と変わらない「電撃」戦法を、2022年の今日に至ってもロシア軍は採用している。
よほどナチス~対ナチス戦が好きなのですね。
というか独ソ戦以降、ソ連~ロシアはまともな先進国同士の間で戦火を交えたことが実はなかった。
フルシチョフ体制下、キューバ危機などの米ソ冷戦が「冷戦」で止まってくれたから今の人類があるわけです。ただし全面戦争がなかった代わりに東西ベルリンの間に壁が作られもし、「冷戦後期」無数の悲劇も生まれてしまいました。
過去の戦勝体験を神格化するという「失敗の本質」に、プーチンのみならずゲラシモフ以下のプロ軍人も足元を掬われていた。それが今回、もろに露呈した。
ロシア「陸軍最強」の風説は、単なるこけおどしでしかないとばれてしまった。
「巡洋艦モスクワ」轟沈が象徴するもの
ロシア軍の連戦連敗はまた、北朝鮮にとっては悪夢と映っていることでしょう。兵器の威力という点ではおそらく中国も同じだと思われます。
建国以来一貫して兵器をソ連~ロシアに頼る北朝鮮にとって、ウクライナのロ軍敗退は、もし本当に開戦してしまったら、平壌で何が起きるかの近未来地獄絵図と見えるはずで、「火星17」ロケット花火なぞ打ち上げて見せている。
原理的にこの戦争でロシアに勝ち目はないと私は思います。また北朝鮮は仮に本当に戦端が開かれてしまえば「電撃戦」で終わる可能性が高いでしょう。これはあくまで、私の「主観」です。
しかし、合理的な根拠があります。正味で「冷戦ど真ん中」1970年代の戦車でウクライナに侵攻し、ブチャやキーウ、マリウポリの市民を蹂躙。見せしめに殺した市民の遺体を街路に放置する占領地の恐怖統治など「弱い者いじめ」しかできていません。国連も戦争犯罪摘発に動き始めました。
これに対して、ウクライナ軍が米国ほか西側から供与される武器は「冷戦崩壊後第3世代」2010年代のAI制御「ドローン搭載ミサイル」ですから、最初から歯が立つわけがありません。
片や1.7トンの対戦車ミサイルを搭載して14時間、不眠不休で飛び続ける「MQ-9リーパー無人機」。
対する側は、数時間に1回は「大便休憩」でハッチを開け、持ち場を離れ兵士が無防備にパンツを下ろし野原にしゃがみこまねばならないプレジネフ・モデルの「T72 」ソ連戦車。
両者が5~6時間も戦闘を続ければ、生身の兵隊はお腹がゴロゴロ言い始めますし、疲れを知らないAIは一瞬のスキも見逃しません。
何が起きるかは火を見るより明らか。
その結果は「キーウ近郊」に累々と放置されたままになっている、まる焼けになった無残なソ連戦車残骸を、どなたもご覧になったでしょう。あれです。
また焼け焦げた戦車の数の3倍、哀れなロシア兵の若者が命を落としている。こんな必敗状況で、命からがら現地から引き揚げてきたロシア将兵は、一部始終を見、かろうじて生還できたわけで、再出撃の命令を拒否するロシア兵続出との報も聞かれます。
旧ソ連軍のミニチュア「チビ太」状態の北朝鮮については言及の必要もないでしょう。
さて、そんな中4月14日、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」沈没という象徴的なニュースが飛び込んで来ました。
ロシア側は「火災」といい、米~ウクライナ側は対艦ミサイル「ネプチューン」2発で沈めたと主張。どちらが正しいにせよ「モスクワ」が沈んだ事実は間違いありません。
この「モスクワ」も1976年竣工、79年進水式の後「アンドロポフ体制」のソ連海軍巡洋艦として83年1月に就役、90年に退役していた典型的な「冷戦期モデル」の軍艦でした。
静かに余生を送っていた旧世代巡洋艦、プーチンが権力を掌握した2000年に「再就役」し、老骨に鞭打って黒海艦隊のこけおどし武力を象徴していたわけですが、そういう弱点を見落とす米軍ではありませんでした。で一発轟沈。
こんな具合で、プーチンが楽しみにしている(?)5月9日の戦勝記念日に向け、米~西側がバックについたウクライナ軍は、ロシア全人民が戦意を喪失するような「最大級の屈辱的敗戦」を、まだいくつも準備しているでしょう。
それが至る所で可能なのは、現ロシア軍備の大半が「ブレジネフ体制下」ソ連で開発されたクラシック・モデルで、こけおどしには使えても「第2次湾岸戦争以降」のAI兵器の前では、ガタイだけ大きな赤ん坊と大差ない場合が多いから。
5月9日をロシアの「敗戦記念日」化する米~西側とウクライナの作戦は、着々と準備が進んでいると考えるべきでしょう。推移を見守りたいと思います。
・ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」が沈没 ウクライナの国産ミサイルR-360ネプチューンが命中か…どうなるロシアの首都「モスクワ」(FNNプライムオンライン 2022年4月19日)
※2022年4月14日、ロシアの大手通信社「RIAノーボスチ」は、ロシア国防省の発表として、ロシア黒海艦隊の旗艦であるスラバ級ミサイル巡洋艦「モスクワ」が沈没したことを伝えた。
旗艦とは、艦隊全体の指揮を執る指揮官が乗る軍艦のことであり、その艦隊の中では、指揮通信能力が格段に高いはずだ。
モスクワの沈没は、ロシア黒海艦隊全体の能力にも関わることかもしれなかった。
ロシアのメディアは、ウクライナ沖を航行中だったモスクワが「弾薬の爆発で損傷し、港に曳航される途中で安定性を失い、沈んだ」と伝えたのである。
一方、ウクライナ側は、ウクライナ国産の地対艦ミサイル、R-360ネプチューン2発が命中して、モスクワに損害を与えたと主張した。
それならば、艦内の弾薬に延焼し、さらなる爆発に繋がった可能性があるのだろう。
スラバ級巡洋艦は、全長186メートル、全幅20.8メートルの大型艦で、ロシア海軍にも3隻しかない。
一方、ネプチューンは、ミサイル重量870kg、弾頭150kgで、射程は約300キロメートル。海面上3~10メートルを時速900kmで飛翔するとされるが、基準排水量9800トン、満載排水量1万1300トンの重武装の軍艦を沈めることは可能なのだろうか?
スラバ級巡洋艦は、大型の核・非核両用P-1000バルカン超音速対艦/対地巡航ミサイル16発を艦の左右両舷に並べている。
そして、対空ミサイルも強力で、後甲板に装備されたS-300F艦対空迎撃システムの48N6M迎撃ミサイルは、マッハ5.8で、射程200km。
対応出来る高度は、10~27000mとされ、低く飛んでくるネプチューン対艦ミサイルに対応するのは難しそうだ。
また、スラバ級の後部には、Osa-M短距離艦対空ミサイルシステムも存在するが、こちらで使用する9M33M3迎撃ミサイルは、対応出来る高度が5~5000m、最大射程は10kmと、射程約300kmのネプチューンに狙われたら、ぎりぎりまで引きつけた状態でしか迎撃できないのかもしれない。
さらに、これら迎撃ミサイルを誘導する火器管制レーダーも艦の後ろの方にある。
つまり、艦の前方は、対艦ミサイルを迎撃するレーダーやミサイルにとっては死角となる可能性を秘めているのではないか。
もちろん、スラバ級の場合、強力なAK-630M対空機関砲2門が、前甲板に装備されているが、このような対空火器、対空ミサイル・システムの配置であったが故に、もしも、ネプチューン地対艦ミサイルの攻撃を避けられなかったということならば、興味深い。
日本周辺で活動するロシア太平洋艦隊の旗艦、ワリヤーグもまた、スラバ級ミサイル巡洋艦であり、艦上のレーダーやミサイルの位置は、同じだからだ。
このようにウクライナだけでなく、ロシア軍の他の領域にまで、影響を与えそうな出来事はさらに続いている。
NATOとフィンランド・スウェーデン
ロシアのウクライナ侵攻開始から約1週間余りが過ぎた3月4日、バイデン米大統領は、侵攻後、初めて、ホワイトハウスに招いたのは、 中立国、フィンランドのニーニスト大統領だった。
会談で、バイデン大統領はニーニスト大統領と欧州の安全保障について話をした。そして、2人は、スウェーデンのマグダレナ・アンデション首相に電話を掛けたことをバイデン大統領がSNS上で明らかにし、フィンランドとスウェーデンは「米国とNATOにとって重要な防衛上のパートナー」と呼んでいたのである
ロシア “核?”装備機でスウェーデン牽制
この米・フィンランド首脳会談の2日前の3月2日、ロシア軍のSu-27戦闘機2機とSu-24攻撃機2機がスウェーデンを領空侵犯。
後にスウェーデンのテレビ局が、領空侵犯をしたSu-24攻撃機は、核武装していた可能性を指摘。
Su-24は、TN-1000または、TN-1200という戦術核爆弾を運用出来るとされている。
しかし、このとき、装備されていたものの形状は、1990年代に退役したRN-24またはRN-28核爆弾に似ているともいわれ、Su-24に吊り下げられていたものが何だったのか、不詳だ。
いずれにせよ、北欧にとっては、安全保障上の懸念が一気に顕在化した瞬間だったのかもしれない。
バイデン大統領と直接、会談を行ったニーニスト大統領のフィンランドは、ロシアと長い国境を接し、第2次世界大戦後、東西のはざまで中立を保ってきたが、近年、NATOとの関係を強化。
NATO諸国との共同演習を実施したり、アメリカ製のF/A-18戦闘攻撃機(と、それから発射出来る射程370kmのJASSM巡航ミサイル)を保有している。
その中立国フィンランドが、ロシアのウクライナ侵攻を契機に民意も激変。
フィンランド、NATOへ傾斜
2017年の世論調査では、NATO加盟に賛成が19%台だったが、ロシアのウクライナ侵攻後の今年3月には62%台と急増。
フィンランド議会は、ついにNATO加盟申請について審議を始めた。
もちろん、ロシアも、フィンランドとNATOの接近に警戒を強めている。
ロシア外務省のザハロワ報道官は、すでに2月の段階で「フィンランドのNATO加盟は軍事的、政治的に深刻な影響をおよぼすだろう」とツイート、牽制していた。
なぜ、ロシアは、北欧の二つの中立国、特にフィンランドの動向に神経を尖らすのだろうか?
フィンランド、F-35A Block4型機導入へ
フィンランドは、2020年に米国から、AGM-158B2 JASSM-ERステルス空対地巡航ミサイル200発とF-35Aステルス戦闘機64機の導入する約束を取り付けている。
AGM-158B JASSM-ERの本来の射程は,1000km弱とされるが,AGM-158B2は、さらに射程が延長されていると考えられている。
フィンランド領空から、ロシア・バルチック艦隊のクロンシュタット基地も物理的には届くのみならず、モスクワまでも900kmないことを考えれば、留意すべきことだろう。
また、フィンランド国防省は、フィンランドが、2026年から国内に配備するF-35Aステルス戦闘機について、「ブロック4」というバージョンであることを強調している。
F-35Aブロック4とは、どんな軍用機なのか?
F-35A Block4の能力
米議会調査報告書によれば、ブロック4というバージョンから、核爆弾運用可能となり、
2023年からは 、最新鋭の核爆弾B61-12が運用可能になるとされる。
フィンランドがNATO加盟国となり、米軍の核爆弾を運用可能な戦闘機を保有すれば、フィンランド国内に米軍の管理のもとで米軍の核爆弾が置かれ、いざという場合には、フィンランド軍機に、その核爆弾が搭載される、いわゆる核共有の可能性があるかどうか。ロシアにとっては、気がかりとなるかもしれない。
歩調を合わせるフィンランドとスウェーデン
4月13日、スウェーデンのマグダレナ・アンデション首相とストックホルムで会談したフィンランドのサンナ・マリン首相は、会談終了後の記者会見で、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請するかは「数週間以内に」決めると表明した。
フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟すれば同盟国の軍用機が展開する可能性がある。
その中には核兵器運用能力を持つものがあるかもしれない。
例えば、米空軍のF-15Eストライク・イーグル戦闘攻撃機などには最新のB61-12核爆弾の運用能力を持つものもある。
またNATO加盟国であるフランスのASMPA超音速空中発射核巡航ミサイルは、ラファール戦闘機から運用可能である。
フィンランドとスウェーデンに反応したロシアの動き
4月14日、ロシアのメドベージェフ前大統領は「フィンランドやスウェーデンがNATOに加盟すれば、スカンジナビア半島方面の国境に核兵器を配備することになる」との見解を示した。
そして、その数時間後、フィンランドとの国境方面へ向かうK-300Pバスチオン対艦・対地巡航ミサイル・システム2両の姿があった。
バスチオンで運用される超音速巡航ミサイルP-800の射程は、地上の飛行で約450km、洋上で約350kmと見られている。
ロシア国境からフィンランドの首都、ヘルシンキまでは200kmないのだ。
マリン首相をはじめとするフィンランドの決断は、いずれにせよ、安全保障上の重大な影響をもたらすのだろう。
黒海艦隊の司令官が乗る旗艦「モスクワ」は、理由はどうであれ、沈没した訳だが、万が一、フィンランド、そして、スウェーデンがNATOに加盟したら、ロシアの首都「モスクワ」は、どうなるのか。ロシアの指揮を執るプーチン大統領にとっても気がかりなことかもしれない。
・ 「多くの榴弾砲が必要だ」……ゼレンスキー大統領が求める“戦場の女神”とは 露軍の大規模攻撃を阻む「地面」と「士気」(日テレNEWS 2022年4月19日)

※激しい攻防が続く、ウクライナ南東部のマリウポリ。ロシア軍は三方向からの包囲を狙い、マリウポリを完全制圧した後も、東部で激しい地上戦が続きそうです。有利に見えながらも士気が低いロシア軍を前に、ウクライナ軍はどう戦おうとしているのでしょうか。
■続々と集結…「挟み撃ち」狙う露軍

有働由美子キャスター
「(ウクライナ)各地で凄惨な状況になっています。今、最もギリギリの攻防が行われているのが、南東部のマリウポリです」
「ウクライナ側は一貫して『最後まで戦う』としていますが、ロシア側はウクライナ側の兵士たちに投降するよう求め、制圧を急いでいるようにも見えます。ロシア軍がマリウポリを完全に制圧すると、次はどうなっていくのでしょうか?」
小野高弘・日本テレビ解説委員
「完全制圧したら、マリウポリにいた部隊が北上するとみられています。アメリカの政策研究機関の分析によると、同時に今、ロシア軍は東から、そして西のイジューム周辺にも、続々と部隊が集まってきています」
「つまり、今東部で踏ん張っているウクライナ軍を、東から南から西からも挟み撃ちし、包囲しようとしています。そしてその結果、東部で、大規模で激しい地上戦になると多くの専門家はみています」
■露軍「有利」と限らない2つの理由

有働キャスター
「ただ、広い範囲で支配を強めつつあるロシア軍が有利でしょうね」
小野委員
「必ずしもそうではない、という分析もあります。地面はとてもぬかるんでいて、ロシア軍が進軍するのは困難な状況です」
「また、集結しているロシア兵も、徴兵されてきたばかりの兵士もいて、士気も高くない。そのため数日のうちに大規模攻撃を仕掛けていく状況にはないといいます」
■ウクライナが求める「戦場の女神」

有働キャスター
「こうしたロシア軍相手に、ウクライナ軍はどう戦おうとしているのでしょうか?」
小野委員
「ゼレンスキー大統領はSNSで配信した動画で、『ウクライナは武器の供給、できるだけ多くの榴弾(りゅうだん)砲が必要だ』と訴えました。榴弾砲という大砲について、現代軍事戦略が専門の『防衛研究所』防衛政策研究室長の高橋杉雄さんに聞きました」
「戦車より射程が長い榴弾砲は、20km先の見えない敵に向けて撃てる。このため前線で戦っている戦車や歩兵部隊を、後ろから極めて強い力で支援できる。榴弾砲を持つ部隊は『戦場の女神』と言われるくらい、役割が重要だといいます」
■徹底抗戦へ…「停戦協議」期待せず?
小野委員
「最近もアメリカから、榴弾砲と砲弾4万発が送られましたが、CNNはアメリカ政府高官の話として、この程度の数だと数日で使い果たす可能性があると伝えました。今のうちに武器をかき集めておきたいウクライナ軍としては、まだまだ足りないと言えそうです」
「ゼレンスキー大統領としては、もはやロシアに停戦協議の期待は持てない、徹底的に戦うしかないという覚悟を示したものだと考えられます。そして欧米に対して、もっと軍事支援してほしいという訴えだとも思います」
有働キャスター
「戦闘が長引いて、停戦が難しくなって、間違いなく言えるのは、市民の犠牲が増え続けるということだけです」
(4月18日『news zero』より)
※ロシアによる軍事侵攻が続く中、政府は、国際機関からの要請を受けて、自衛隊の輸送機をウクライナの周辺国に派遣し、支援物資などを運ぶ方向で調整に入りました。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、政府は、ウクライナやその周辺国に対し、緊急人道支援や借款による合わせて3億ドルの資金協力を実施するほか、保健・医療分野での人的貢献も行っていくことにしています。
こうした中、政府が、UNHCR=国連難民高等弁務官事務所からの要請を受けて、自衛隊の輸送機をウクライナの周辺国に派遣し、支援物資などを運ぶ方向で調整に入ったことが分かりました。
政府関係者によりますと、自衛隊機の派遣は、国際平和協力法、いわゆるPKO協力法に基づく対応になるということで、近く閣議で輸送機の派遣を決定したいとしています。
・米、ウクライナに追加軍事支援 ヘリや火砲も(AFPBB 2022年4月14日)
※米国は13日、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、8億ドル(約1000億円)相当の追加軍事支援を行うと発表した。ウクライナ東部での戦闘に備え、これまで核保有国ロシアとの戦いを激化させかねないとして供与しなかったヘリコプターや火砲、装甲兵員輸送車などの大型兵器も含まれる。
ジョー・バイデン(Joe Biden)米大統領は同日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領と約1時間にわたって電話会談。「ウクライナ軍はわれわれが供与した兵器を使い、素晴らしい戦果を挙げてきた」として、「ロシアが(ウクライナ東部)ドンバス(Donbas)地方で攻勢を強める構えを見せていることから、米国は引き続きウクライナに自衛のための戦力を提供し続ける」と述べた。
米国防総省のジョン・カービー(John Kirby)報道官が公開したリストには、支援には155ミリりゅう弾砲18門、砲弾4万発、装甲兵員輸送車「M113」200台、ヘリコプター「Mi17」11機、多目的装甲車100台が含まれている。
さらに、対砲兵レーダー「AN/TPQ-3G」10基、防空レーダー「AN/MPQ-64センチネル(AN/MPQ-64 Sentinel)」2基、自爆型無人機「スイッチブレード(Switchblade)」300機、対戦車ミサイル「ジャベリン(Javelin)」500基も供与される。
沿岸防衛用の無人艦艇や、生物化学兵器や核兵器に対応した防護具、防弾チョッキとヘルメット3万組、C4爆薬、対人地雷「M18A1クレイモア(M18A1 Claymore)」なども提供する。
・ネプチューン地対艦ミサイルによる巡洋艦モスクワ撃沈の衝撃
JSF軍事/生き物ライター
2022年4月15日
ウクライナ防衛企業ウクロボロンプロムよりネプチューン地対艦ミサイル
※現地時間4月14日(日本時間4月15日)、ロシア国防省の発表によるとロシア海軍の黒海艦隊旗艦である巡洋艦「モスクワ」が曳航中に沈没しました。前日に爆発炎上し総員退艦、その後まだ浮いていたのでセヴァストポリ港に戻ろうと曳航している最中でした。
ウクライナ側は前日に地対艦ミサイル「ネプチューン」2発を巡洋艦モスクワに命中させて撃破したと主張しています。ロシア側はこれを認めていませんが、どちらにせよ艦は失われました。
ロシア海軍黒海艦隊旗艦スラヴァ級ロケット巡洋艦モスクワ撃沈。その衝撃は戦史に永久に刻まれることになるでしょう。ウクライナ海軍地対艦ミサイル部隊の大戦果であり、ロシア海軍の大失態となります。
巡洋艦「モスクワ」を喪失した意味
ロシア国防省よりスラヴァ級ロケット巡洋艦「モスクワ」
巡洋艦モスクワはロシア海軍黒海艦隊旗艦であり、黒海艦隊の中では最大最強の艦でした。ただし主兵装の超音速巡航ミサイル「P-1000ヴルカン」には対地攻撃能力は無く、ウクライナとの戦争でこの艦は広域防空艦として価値を発揮していました。
長距離艦対空ミサイル「S-300F」を搭載した巡洋艦モスクワはウクライナ南部の黒海沿岸の沖合いに進出し、防空網の一画を担っていました。長射程の対空ミサイルでウクライナ空軍機の活動を妨害していたのです。
これが消えました。ロシア海軍黒海艦隊には他に広域防空艦は居ません。ウクライナ空軍は南部での行動の制約が大きく解かれたのです。
また、これでもうロシア軍は揚陸艦隊を用いてオデーサに上陸作戦を行うことが困難になりました。ロシア艦隊は地対艦ミサイルを恐れて、容易には沿岸に近付けなくなった筈です。
そして首都モスクワの名前を関する軍艦の喪失はロシア全軍どころかロシア全国民の士気を下げ、ウクライナの士気を大きく向上させることになります。
地対艦ミサイル「ネプチューン」
ウクライナ国防省の広報АрміяInformよりネプチューン地対艦ミサイル
ウクライナ語”Нептун”の発音は「ネプトゥーン」の方が近く、英語のNeptune(ネプチューン)と語源は同じでローマ神話の海神の名前です。
ネプチューンは亜音速の対艦ミサイルで、アメリカ軍のハープーン対艦ミサイルやロシア軍のKh-35対艦ミサイルとよく似た性能です。ネプチューンはウクライナ国産の新兵器で生産に入ったばかりであり、開戦前のスケジュールでは最初の1個大隊の編成完了が4月予定だったので、ぎりぎりでロシアとの戦争に間に合いました。
ネプチューン地対艦ミサイル1個大隊は4連装発射機が6両で1斉射24発、予備弾含め3斉射分72発が定数となっています。
ウクライナ海軍の想定ではトルコ製「バイラクタルTB2」無人偵察攻撃機で洋上索敵を行い目標艦を発見したらネプチューン地対艦ミサイルで攻撃するという手順を予定していましたが、実際の巡洋艦モスクワ攻撃ではどのような攻撃方法だったのかはまだ発表がありません。
なおロシア海軍は巡洋艦モスクワが被弾する2日前に、黒海艦隊のフリゲート「アドミラル・エッセン」がウクライナ軍のバイラクタルTB2無人機を撃墜したことを誇る動画をUPしていました。これはウクライナ軍がドローン(無人機)による洋上索敵を積極的に行っていた可能性を示しています。
あるいは無人機のバイラクタルTB2はロシア海軍を油断させるための囮で、本命の対艦索敵はアメリカ軍の偵察手段だった可能性もあります。一部のウクライナ報道ではバイラクタルTB2を囮に使ってその隙にネプチューンで攻撃した戦法が示唆されています。
黒海にはアメリカ軍の大型無人偵察機「グローバルホーク」が開戦後も頻繁に飛んで来ていたので、巡洋艦モスクワの位置情報の提供を行っていた可能性があります。ただしこれが仮に事実だとしても公表したらロシアを怒らせるので、黙っている筈です。
まだ不明な点は多いのですが、今回のネプチューンによる歴史的な大戦果の詳細はいずれ明らかにされていくことでしょう。
・旗艦モスクワ轟沈に慌てふためくロシアと中国(JB press 2022年4月18日)
西村 金一
※対艦ミサイル1発が中国の台湾侵攻阻止
4月13日、ロシア海軍ミサイル巡洋艦「モスクワ」がウクライナの対艦ミサイル「ネプチューン」に攻撃され、沈没した。
ウクライナはミサイル攻撃を認め、米国国防省も対艦ミサイルが命中したことを確認したという。
だが、ロシア軍は、モスクワにミサイル攻撃されたことを認めず、火災が発生したからだと言った。
過去、旧ソ連海軍時代から今まで、大型戦闘艦艇(潜水艦を除く)が、火災を起こして沈没したことを聞いたことがない。
しかし、ロシア軍も内心は認めている。なぜなら、そのことに怒り、報復のために、キーウをミサイル攻撃したからだ。
一方で、中国は、露ウ(ウクライナ)戦争を、これまでは高みの見物だった。
だが、ロシア巡洋艦がミサイル1~2発に攻撃されて、それを破壊できずに命中弾を受け、沈没したのを見た。中国は、大変肝を冷やしたことだろう。
その理由について説明する。
1.モスクワ沈没に肝冷やした中国海軍
中国はロシア海軍艦艇を模倣し、いくらかの改良を加えて自国の軍艦を建造してきた。自分たちが建造してきた軍艦に大きな欠陥が見え始めた。
そうなると、台湾侵攻の際に使用する大型揚陸艦、これらを守る駆逐艦が、たった1発の台湾の対艦ミサイルに撃沈されることが予想される。
中国軍による台湾上陸侵攻は、予期せぬ形で危ぶまれることになった。
2.機能しなかったロシア海軍防空システム
黒海艦隊の旗艦である「モスクワ」が沈められた。黒海艦隊の主力艦は6隻であり、巡洋艦1隻のほか、駆逐艦1隻、フリゲート艦4隻である。
艦隊は、基本的に合同で防空システムを構成している。
艦によって、防空能力、対艦攻撃能力、対地攻撃能力、対潜作戦、それぞれ別個に能力が高いのである。日本の場合、さらに、ミサイル防衛能力を保有している。
艦隊は、それぞれを組み合わせて作戦を行う。旗艦は艦隊作戦を指示命令するし、今回の作戦の場合は、地上攻撃の役割も担っていたと思われる。
さらに、各艦は、CIWS(シウス:Close In Weapon System)を装備していて、対艦ミサイルや戦闘機を至近距離で撃墜する兵器を装備している。
巡洋艦モスクワも ガトリング砲(30mm口径6砲身)3基を備えている。
現実に、メディアが、ロシアミサイル巡洋艦を紹介する時に、主砲とCIWSを射撃している映像を流している。
本来は、このCIWSが飛翔してくるミサイルに弾幕射撃を行い、撃破することになっているはずだ。
だが、モスクワは、ウクライナのネプチューンミサイルを撃破することなく、命中させてしまった。
ウクライナ軍が2発発射したために、1発は打ち落としたのかもしれないが、1発は命中したのだろう。
巡洋艦モスクワは、各種機能を有する軍艦だったのに、防空レーダー、防空ミサイル、CIWSシステムなどを合わせた防空システムに、致命的な弱点を露呈してしまったのだ。
これは、兵器技術の問題もあるが、ロシア軍兵士の油断もあったかもしれない。
3.中国軍艦はロシア軍艦と運命共同体
中国は、空母、駆逐艦、潜水艦など、旧ソ連が建造した艦を購入している。
空母「遼寧」はもともと旧ソ連が建造し、ソ連邦崩壊後にウクライナが中国に売却したものだ。
ロシア海軍はかつて、ソブレメンヌイ級とウダロイ級の2種類の駆逐艦を保有していた。中国の杭州級・現代級ミサイル駆逐艦は、ソブレメンヌイ級駆逐艦として使用していたものを購入したものだ。
また、ロシア海軍は各種攻撃型潜水艦を保有していたが、中国は潜行時に音が静かな「キロ級」潜水艦を購入した。
中国は、これらの空母、駆逐艦、潜水艦を購入して、それらを模造あるいは改良したものを建造しているのが、実態である。
つまり、中国海軍の軍艦は大型で、周辺各国に対して、その威容を見せつけ、威圧しているのだが、実は、ロシアの軍艦と同様に対艦ミサイルに極めて脆弱だということである。
このことを見ていた米国、日本、台湾、東南アジア諸国は、ロシアや中国軍の軍艦がミサイル対応能力に欠陥があることが分かり、米国や日本製の対艦ミサイルを装備し、その数を増加させることになるであろう。
中国は今頃、ロシア海軍艦艇の模倣、改良型を使用していることから、軍事力整備に問題があると、気付いたに違いない。
4.中国海軍の台湾上陸能力に重大な影響
中国は近年、台湾侵攻や南シナ海の人工島の防衛のために、大型揚陸艦を建造している。
中国海軍は、台湾海峡など狭い海域で大型揚陸艦が必要なのか。対艦ミサイルの射程内で、その射撃目標となりやすい大型艦を運用することに疑問が持たれていた。
中国海軍は、モスクワが撃沈させられて、改めてその誤りに気付くことになる。
中国海軍は、大型の揚陸艦(上陸のために兵員を輸送する艦)を建造している。
ドック型輸送艦(LPD)の4万トンクラス8隻と2万5000トンクラス8隻の合計16隻建造の予定で、現在8隻が就役している。
1隻で、4万トンクラスが兵員1600人または戦車35両、2万5000トンクラスが600~800人または戦車20両を輸送できる。
戦車揚陸艦LST(約4500トン)は28隻就役させている。兵員200~250人または戦車約10両を輸送できる。
ウクライナ軍に爆破されたタピール級揚陸艦「オルスク」(約4500トン)と同じクラスの揚陸艦だ。

(上)中国海軍揚陸艦艇(一部)による強襲上陸要領のイメージ
台湾海峡の幅は平均的に200キロで、ここに大型艦が行動すれば、間違いなく台湾の対艦ミサイルの格好の目標になる。
1発命中すれば、沈没するのだ。4万トンクラスであれば、陸戦隊兵1600人を失うことになる。

(上)大型揚陸艦に向けて発射される対艦ミサイル(イメージ)
ドック型揚陸艦と戦車揚陸艦合わせて44隻は、台湾軍のたったの50発以下の対艦ミサイルで撃沈させられてしまうのだ。
これらの揚陸艦で輸送できる海兵隊約3万5000人を、簡単に沈めてしまうことが可能になる。
5.中国の海洋進出阻止に対艦ミサイル有用
中国の海洋進出の脅威を受けているアジア各国、例えば台湾、南シナ海に接するフィリピン、インドネシア、ベトナム、マレーシアは、ウクライナでのロシア艦撃沈を見て、中国の海洋進出を止めるには、対艦ミサイルが大きな役割を果たすと感じ取ったことだろう。
対艦ミサイルは、日本の南西諸島や、台湾に向かう中国軍艦に対しても脅威を与えることができる。
ただ、中国海軍の脅威になる対艦ミサイルは、中国弾道ミサイルの攻撃目標にもなることから、島内に、平時からそのための射撃陣地を構築しておくことが重要だ。
中国の大型揚陸艦に対しては射程200キロ前後の対艦ミサイルを、小型揚陸艇には射程10キロ未満の対舟艇(対戦車ロケットと同じもの)を保有すれば、上陸侵攻を食い止めることができる。
たったロシア海軍軍艦1隻の撃沈が、中国を取り囲む国々の防衛戦闘に重要な示唆と自信を与えてくれた。
※ブログ主コメント:油断は禁物。楽観的過ぎる。今回は当たり所が良かっただけかもしれんし。沈没原因には搭載した弾薬類の誘爆の効果も大きい。
・弱小ウクライナ軍に勝てないロシア軍は必然だった(JB press 2022年4月16日)
樋口 譲次
※若いウクライナの国防体制作り
ウクライナとロシアの間では、大きな国力(2020年世界GDP=国内総生産ランキング:ロシア11位、ウクライナ55位)と軍事費(ロシアがウクライナの13倍)の差を背景に、軍事力の比較において、ロシア軍の強大さがウクライナ軍を圧倒している。
しかし、圧倒的に優勢なロシア軍はウクライナ軍の粘り強い抵抗に遭って苦戦し、ウクライナ軍は戦力の劣勢を跳ねのけて善戦敢闘している。
そのカギは、ウクライナ軍が、NATO(北大西洋条約機構)標準化とコンパクトで機動性に富んだ部隊作りを目指して、ソ連型軍隊からNATO(欧米)型軍隊への転換を図ってきたことにある。
ウクライナは、2021年8月24日に独立30周年記念式典を迎えた人間で言えば30歳代に入ったばかりの若い国である。
同国は、旧ソ連邦崩壊後、その構成共和国の一つ「ウクライナ・ソビエト社会主義共和国」の領域を継ぐ形で成立し、その地理的範囲を領土とする自由で、自己決定できる国としての完全な独立主権国家である。
東西冷戦下の旧ソ連邦時代、軍事上の前線と位置づけられ攻撃的な性格の強い部隊が配備されていたウクライナは、ソ連邦崩壊に伴い膨大な軍事施設と兵力、組織および装備品などをそのまま受け継ぐこととなった。
しかし、1991年に独立したことによって自国防衛、すなわち国防が主任務となったウクライナ軍にとって、旧ソ連型の攻撃的で大規模な兵力を擁する軍事組織、装備品などは不要となった。
国家防衛に特化した、また国力国情に応じた軍隊作りに政策転換した。
そして、ウクライナは独立から5年後の1996年に、旧ソ連型の軍から国防を主任務とする軍事組織への移行を完了した。
NATO型軍隊への転換を目指した軍改革
その後、 2000年2月に策定された「軍事力整備計画」では、 NATO標準化とコンパクトで機動性に富んだ部隊編成を目指すとし、それ以来、国防省は同計画に基づき機構改革、部隊改編、兵力の削減、老朽化した装備品の用途廃止などの軍改革を推進した。
1996年時点で合計約70万人いた軍人および文官は、2012年末時点で18.4万人にまで削減され、将来的には10万人まで削減する計画であった。
しかし、ウクライナ東部情勢の悪化などを受け、2015年には総定員約25万人に拡大された。
また、2002~2003年にかけてNATOの協力を得て国防計画の見直しが行われ、2004年6月には今後の軍改革の方向性と最終的な目標を明示した「戦略国防報告」が公表された。
2005年には、「2006~2011年の間のウクライナ軍発展国家プログラム」が、2013年には「2017年までのウクライナ軍改革・発展段階」が策定された。
完全職業軍人化のほか、指揮統制システム、装備、教育訓練などの分野における軍改革が段階的に推進された。
なお、完全職業軍人化については、2013年秋をもっていったん徴兵制が廃止された。
しかし、ウクライナでは、2014年のロシアのクリミア半島併合とウクライナ東部に対する軍事介入によって一挙に情勢が悪化した。
それ以降、ウクライナは困難に直面しつつ、平和的解決を目指し努力を継続してきた。
同時に、一時的動員を定期的に実施しつつ、2014年に徴兵制を復活させるなど、国防力の強化に努めてきた。
その一環として、2019年2月の憲法改正により、将来的なNATO加盟を目指す方針を確定させた。
ウクライナでは、18歳以上の男子に兵役義務が課せられている。任期は18か月(1.5年)であり、兵役経験者などの予備役が約90万人いる。
ウクライナには、正規軍とは別に、2014年のロシアによるクリミア半島併合などを受けて創設された有志の市民ボランティアで構成する「領土防衛隊」があり、ロシアの軍事侵攻に直面し、その人数は劇的に増加していると言われている。
また、今般のロシアの軍事侵攻に備えるため、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、18歳から60歳の男性の出国を原則禁止して総動員態勢の措置をとった。
NATOによる教育訓練
NATOによるウクライナ軍に対する教育訓練の取組みは、2008年、ロシアがグルジア(ジョージア)に侵攻したロシア・グルジア戦争を契機として本格的に開始された。
この取組みには、米国や英国、カナダ、ポーランド(1999年加盟)、ルーマニア(2004年加盟)などNATO加盟の8か国が参加し、従来のソ連型軍隊からNATO(欧米)型軍隊へシフトする支援を行ってきた。
ソ連式の指揮は、伝統的に厳格なトップダウン(上意下達)型のアプローチで、上官が部下へ命令を下す。
下位の兵士が考えたり、状況に合わせて変化させたりする権限をほとんど与えない硬直したスタイルである。
他方、NATO型はいわゆる委任型指揮というアプローチで、上官が作戦・戦闘の目標を設定し、それに向けた具体的方法などの意思決定を指揮系統のできるだけ下に位置する者、場合によっては個々の兵士に委ねるという柔軟なやり方をとる。
ソ連型戦術は、まず一斉砲撃を行ってから、部隊を大量投入し、敵の陣地を奪おうとするものだ。
スターリン時代からほとんど変わらない定型的な戦法をロシアが採っているの対し、NATO型は戦況に適応したより柔軟・機敏で機動性に富んだ戦術である。
また、NATOは下士官の地位を確立した。それは、経験のある兵士が権限のある階級(下士官)に昇進し、上層部と現場の部隊をつなぐ重要な橋渡し的な役割を果たすものである。
一方、ロシア軍の下士官は現在、契約勤務制度(一種の任期制職業軍人)による契約軍人で賄われているが、1990年代まで遡ればロシア軍には契約軍人という制度自体がなく、将校のほかは下士官も兵士も徴兵で賄っていたようにその地位・権限は概して高くない。
これまでの訓練期間中、ウクライナ軍の中にはNATO型訓練に反発する動きもあった。
しかし、2014年にロシアのクリミア半島併合とウクライナ東部への軍事介入を許したことが契機となり改革が進んだ。
当時のペトロ・ポロシェンコ大統領が軍事改革の推進を命じ、NATOの取り組みを活性化させたのである。
昨年(2021)、ロシアからの脅威が増すにつれ、軍事訓練のペースも加速した。
ウクライナ軍では、NATOアドバイザーの下でロシアの侵攻に対抗する防衛計画が策定され、また、例えば英国が提供した次世代軽対戦車(NLAW)ミサイルをウクライナ軍部隊が円滑に使用できるよう急いで対応した。
このようにして、ウクライナ軍はNATOのルールに沿って戦争をする方法を学び、2022年2月末に始まったロシアの軍事侵攻でそれを実践し、善戦敢闘する成果を出すまでに成長している。
G7大使ウクライナ・サポート・グループ
前述の通り、近年、ウクライナ国防省が優先的に取り組んできた課題は、東部地域における武装勢力などへの対応と、ウクライナ軍のNATO軍標準化に向けた軍改革である。
NATO加盟国およびパートナー国などの支援を受け、軍のNATO軍標準化に向け着実に取り組んできた。
同時に、国内における多国籍軍参加による総合演習の計画および海外演習への積極的な参加を通じ、パートナー国との防衛協力の進展を図っている。
これらの支援の中核となっているのが、2015年、ドイツ・エルマウで行われたG7サミットにおいて、当時の独アンゲラ・メルケル首相の提唱を受けて合意された「G7大使ウクライナ・サポート・グループ」(G7 Ambassadors' Support Group on Ukraine)という枠組みである。
これはウクライナに駐在するG7各国の大使による枠組みで、本国と連携しながらウクライナの改革を支援していこうというものである。
本枠組みは、G7サミット議長国の在ウクライナ大使が議長となり、G7大使グループが定期的に会合して改革に向けた支援のあり方を協議し、ウクライナ政府の改革を支援するとともに、様々な制度や政策のあり方につきウクライナ政府と緊密に協議を重ねてきた。
活動の対象は、司法改革支援、法執行機関改革、経済・財政政策、投資環境整備、軍産複合体改革など多岐にわたっている。
「G7大使ウクライナ・サポート・グループ」は、2022年1月に2022年の活動計画を発表した。
その冒頭、G7メンバーは、自由、民主主義、法の支配、人権についての共通理解を有するウクライナのパートナーであり、ウクライナの独立、主権、領土一体性を引き続き一貫して防衛していると述べている。
具体的な課題リストでは、「公正で強靭な機構」(裁判改革、汚職対策、効果的なガバナンスと機構)、「繁栄した経済」(経済発展、グリーン移行とエネルギー分野改革)、「安全な国」(安全保障・国防分野、治安システム)の3つの主要な改革方向性での詳細な具体的課題を提示した。
中でも、安全保障・国防力の強化は重要な課題であり、特に米国や英国を中心に、装備品の供与、教育・訓練支援、戦傷者に対する医療支援、軍改革に係る助言等の各種支援を行っている。
外国からウクライナへの武器・装備品の提供
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2022年2月24日早朝(現地時間)、ウクライナへの軍事進攻に踏み切った。
これを受け、米国のジョー・バイデン大統領は3月16日、ウクライナに対しこれまでに供与した10億ドルに加え、8億ドルの安全保障援助を発表した。合わせると、約20億ドルとなる。
8億ドルの安全保障援助の内訳は、下記の通りである。
・スティンガー対空システム(800)
・ジャベリン(対戦車ミサイル、2000)、軽対装甲火器(1000)、AT-4対装甲システム(スウェーデンSaab社製の単発使い捨て式84mm滑空式無反動砲、6000)
・戦術無人航空機システム(100)(例:小型自爆ドローン「スイッチブレード」)
・擲弾筒発射機(100)、小銃(5000)、拳銃(1000)、機関銃(400)、ショットガン(400)
・小火器弾薬・擲弾筒発射機・迫撃砲弾(2億発以上)
・防弾チョッキ(2万5000セット)
・ヘルメット(2万5000セット)
*備考:括弧内の数字は数量を示す。
なお、上記に加え、これ以前に行った安全保障援助の内訳は、下記の通りである。
・スティンガー対空システム(600以上)
・ジャベリン(対戦車ミサイル)及び対装甲システム(約2600)
・Mi-17ヘリコプター(5)
・哨戒艇(3)
・対砲兵・対無人航空機システム追随レーダー(4)
・対迫撃砲レーダー(4)
・擲弾筒発射機及び弾薬(200)
・ショットガン(200)および機関銃(200)
・小火器弾薬(4億発以上)および擲弾筒・迫撃砲弾・砲兵弾(100万発以上)
・高速機動多目的装輪車両(HMMWVs)およびその他の車両(70)
・通信・電子戦探知システム、防弾チョッキ、ヘルメットおよびその他の戦術装備品
・治療・後送のための軍事衛生資器材
・不発弾処理および地雷除去装置
・衛星画像および同分析能力
*備考:括弧内の数字は数量を示す。
<以上、出典>THE WHITE HOUSE, "Fact Sheet on U.S. Security Assistance for Ukraine", MARCH 16, 2022
NATOを中心とする欧州諸国も、陸路・空路からウクライナへ武器を提供している。
英国は、2月24日の侵攻開始前からウクライナに武器を提供しており、次世代軽対戦車(NLAW)ミサイル2000基を届けた。
ウクライナへの武器提供は主に、旧ソ連圏かソ連と近かった中欧諸国のNATO加盟国から送られている。
米国はNATO加盟国とともに、大量の対戦車兵器を送ったと説明しているが、その大半はチェコ軍から提供されたとの報道がある。
ドイツは、当初ヘルメットなどでお茶を濁そうとしたが、積極姿勢に転じて対戦車兵器1000基、スティンガー500基および旧東独軍が保有していたソ連製携帯式SAM(ストレラ)2700基を提供した。
バルト諸国はスティンガーや、射程2.5キロの世界で最も効果的な対戦車兵器の一つである対戦車ミサイル「ジャベリン」など数千基を提供した。
トルコが提供した同国製ドローン(小型無人機、TB2)が、ロシアの戦車や装甲車両の車列に襲い掛かっている模様である。
NATOに加盟していないスウェーデンやフィンランドも加わり、両国とも、数千もの対戦車兵器をウクライナに送った。
日本は、武力攻撃を受けているウクライナへ異例の防衛装備品の提供を行った。
「防衛装備移転三原則」は、「紛争当事国」への装備品の供与を禁じているが、政府はウクライナがこの対象ではないと判断して、まず、防弾チョッキとヘルメットを提供した。
自衛隊法116条の3は、自衛隊の任務に支障がない範囲で装備品を他国に渡すことを認めている。
初回、対象とした防弾チョッキとヘルメットのほか、非常用食料や防寒服、テント、発電機、カメラ、衛生用品など殺傷能力がないものを想定している。
侵攻の初期段階で、ウクライナに兵器・装備品を提供している国は、合わせて14か国に上り、ウクライナの防衛力を補備・強化している。
その後も、英国が装甲車や対艦ミサイルシステム、チェコが旧ソ連製の「T72M」戦車、スロバキアが地対空ミサイル「S300」など、NATO加盟国などから兵器・装備品等の提供が続いている。
ウクライナ存立を左右する最大の戦闘局面へ
首都キーウや北部の都市を制圧しようとするロシア軍の試みは3月下旬、機動的なウクライナ軍の「待ち受け、ヒット・アンド・アウェイ(ambush, hit and away)」戦法でロシア軍の戦車や装甲車を襲撃し、森林や村々を通るロシア軍の長い補給線に空爆を加えたことで崩壊した。
ここにきて、ロシアの主要作戦目標は、東部ウクライナへ戦力を集中し、東部ドンバス地方でまだ制圧できていない地域を掌握するとともに、ウクライナ南東部の要衝である港湾都市マリウポリを制圧し、それらをもって東部ウクライナから併合したクリミア半島までを繋ぐ戦略的戦果を挙げることにシフトした模様である。
ウクライナ北部と違い、東部ウクライナの丘陵や平地での戦いは、砲撃、航空攻撃などを伴った大戦車戦となり、ロシア軍の編成装備の優位性が発揮されやすいと見られている。
これに対し、米国は、これまでのウクライナ紛争に対するアプローチを軌道修正し、重火器や装甲兵員輸送車(APC)、ヘリコプター、無人沿岸防衛艇などの大型兵器を提供するとともに、ウクライナ軍への機密情報の提供を大幅に拡大して反撃を支えようとしている。
ウクライナは、まもなくその存立を左右する、今回の戦争で最大規模になる戦闘局面に突入する。
ソ連型軍隊からNATO(欧米)型軍隊へ転換したウクライナ軍は、旧ソ連製兵器と西側製兵器をミックスした、ロシアとの非対称な軍事力とNATO型戦術をもって戦うことになる。
・ロシア軍の弱さに青ざめる北朝鮮と中国(JB press 2022年4月18日)
伊東 乾

(上)ロシアの戦車の天敵、無人攻撃機「MQ-9」
※21世紀の今日、戦車という兵器はすでに「弱い者いじめ」の道具にしかなっていません。なぜか?
今日の「強者」、つまり高度に情報化された西側の兵器は、AIの指令誘導などで確実にターゲットを落とします。
象徴的だったケースとして2020年1月3日に米軍によって暗殺されたイランの特殊部隊を率いた智将・ガセム・ソレイマニ司令官のケースが挙げられます。
ソレイマニ暗殺に用いられたのは米空軍の軍事用ドローン「MQ-9リーパー」無人機でした。このドローン、巨大なミサイルを搭載して14時間、疲れを知らず飛び続けることができます。
米軍の対戦車ミサイル「ヘルファイア」など、20世紀後半に開発されたインテリジェントな誘導兵器は、GPSを筆頭に冷戦後に発展した情報システムで命中精度を上げました。
こうしたミサイルがMQ-9のような軍事用無人機に搭載されることで、冷戦後第2世代の爆砕精度は格段に上昇。
さらに2010年代以降の第3次AIブーム、民生では「自動運転車」と喧伝された機械学習技術を吸収して、冷戦後第3世代の「スマート兵器」は、ピンポイント攻撃力をケタ違いに強化した。
それを2020年の年頭に見せつけたのが隣国イラクのバクダード国際空港近郊を走行中の自動車をターゲットとしたソレイマニ司令官爆殺であったことは、リアルタイムで本連載にも記しました。
これに対して「戦車」にはどのようなイノベーションがあったのか?
実は、ほぼ、何もなかったんですね。後述する通り冷戦中期、1970年代で実質、軍事イノベーションがストップしていた。
今回のウクライナ戦争で、露軍のダメダメぶりが世界にはっきり露呈しました。特に戦車を中心とする陸軍力は「世界最強」というロシアのこけおどしが、完全に化けの皮を剝がされた。
でもこれ、ロシアだけが弱いということではないと考えるべきなのです。
すでに「戦車」という兵器が「軍馬」に近づいている。つまり、パレードで昔を懐かしむ退役軍人など、高齢者の目を楽しませる、郷愁の対象に変質しつつあるのです。
ナチスの模倣が大好きなプーチン
試みにプーチンが捏造した21世紀ロシア連邦の懐古趣味祝典「5月9日軍事パレード」(https://www.youtube.com/watch?v=0WTngzAyQhA)を見てみましょう。
前回稿にも記した「ナチス・ドイツに勝利した日」として祝われる「5月9日」。
これは「革命嫌い」のプーチンが11月7日の革命記念日廃止と共に、社会の実力者高齢層に受けるよう演出された、いわば「やくざの盃事」にも似た「クレムリン伝統風イベント」です。
上の動画リンクで54分近辺以降、様々な戦車や軍用車両が登場します。
しかし、多くは「ナチスと戦った時期」の軍備、つまり第2次世界大戦モデルで、いまウクライナに投入しても使いものにはならない「クラシックカー」だそうです。
ちなみに1時間25分以降に映るプーチンの戦没者慰霊、献花のシーンは、ナチスドイツのニュルンベルク党大会でのヒトラーの慰霊シーンを思わず想起させます。
ご興味の方は、党大会を記録したレニ・リーフェンシュタール監督映画「意志の勝利」(https://www.nicovideo.jp/watch/sm2579419)のリンク、12分近辺と比較されると、様々な異同が目に留まることでしょう。
プーチンはよほどナチスの手法に引っかかりがあるようです。
「ロシア映画」にはエイゼンシュタイン以下、こんなナチス「リーフェンシュタール」みたいな偽者と比較にならない真の伝統があるのに。
プーチンは大衆プロパガンダの成功先行事例を追いかけたいようです。それが同族嫌悪と独ソ戦の凄惨な記憶をないまぜにして、敵対者に「ネオナチ」のレッテルを貼る。
レッテル貼りにとどまらず、無差別殺人、民族浄化からプロパガンダまで、プーチンは徹頭徹尾ナチスの真似ばかりしています。
そんなプーチンもナチスに追随しないところがありました。「トイレ」です。
戦車とトイレの浅からぬ関係
2021年までロシアが配備を進めている戦車「T14アルマータ」は(おそらく)「世界最強」だろう、と喧伝されていました。
このT14アルマータ、2015年に発表されたものでした。ただ前年のクリミア略奪併合以降、西側の先端情報部品が入らなくなってしまい、計画が頓挫。現状では量産できていません。
いまだ実戦投入されたことのない「幻の最強モデル」という下馬評、当然ながらウクライナ戦争にも投入はされていません。
試作品しかないので、作戦配備とか言う話にならないようです。ちなみに「2015年」に発表された「T14」第4世代主力戦車という触れ込み。
そしてこの「T14」最大の売りの一つは、なんと「トイレが装備されていること」だったのです。
「大」は無理な兵器内用便事情
実は「戦車」という兵器には、他の米露最新鋭機を含め「便所」は、原則一切装備されていません。戦闘機のコックピットも同様とのこと。
戦う上で必要なものが人間工学的に配置されている。そこに「便所」の立ち入る隙間はなかった。
見た目にはかっこいいブルーインパルスにもトイレはなく、一度搭乗したら「締まりよく」我慢するしかない。便所は基地にあります。
これは西側も同じことで、米軍の主力戦車M1エイブラムズは、1980年に正式採用された戦後「第3世代」主力戦車ですが、これにもトイレはついていません。戦車乗りは多くの時間を、微妙にモジモジしながら戦闘しているわけですね。
ナチス時代、ドイツの天才的智将として敵からも称賛された「砂漠のキツネ」エルヴィン・ロンメル(1891-1944)は、戦車部隊の凄まじい高速電撃作戦でフランスを瞬時に落としましたが、彼はトイレに行きたかっただけなのかもしれません。
戦車というのは60トンほどもある鉄の塊をディーゼルエンジンで動かす、もともとは1916年に英国で発明された兵器。
何しろ重いので、速度は時速40キロほど、燃費は凄まじく悪く、リッター200メートルとか400メートル、2000リッターからの燃料を積んでいても航続距離はせいぜい400~500キロ。補給なしの航続時間は半日程度。
でも考えてみてください。長距離トラックの運転でも10時間運転しっぱなしでは参ってしまいます。高速道路で400キロ、パーキングエリアがなかったら・・・。東京から大垣までトイレに行けない状態。
皮肉な話ですが、英国で秘密開発中は暗号で「水運搬車(Water Carrige)」つまりWCで聴こえが悪いので「タンク」と呼ばれるようになったのは有名な話。
でも戦車自体の中にはトイレ用のポリ「タンク」は持っていなかった。戦隊壊滅の有効な方法として、下剤をばら撒く戦法が可能かもしれません。
前線の兵士たちは常にトイレを我慢しながら戦っており、前近代的な装備しか持たないウクライナ戦争のロシア軍は、第2次大戦さながらの非人間的な戦闘環境を強いられているわけです。
現在ウクライナ戦争にも主力投入されているロシアの「T72(ウラル)」なども、トイレは配備されていません。1台3人の乗組員は、戦車の中で飲食はできても、用便は原則、不可能。
実際には「小」の方は、ペットボトルでも何でも持ち込んで凌ぐ工夫もできるでしょう。しかし、飲食もする狭い空間に3人配備の中で「大便」の余地はない。
つまり、戦車の乗員が大便するためには、車内の配備位置を離れ、外に出、野原などで用を足すことになります。
こう考えると、まだ実践投入されたことのない「T14」へのトイレ装備は「画期的」です。「大便休憩中」に襲われたら、戦車はひとたまりもありません。
ロシア兵はこの環境、いつまでもつ?
ちなみに、私の父は関東軍に配備された学徒出陣の二等兵でソ連戦車と戦っており、タンクの上蓋を開けて出てきたソ連兵を狙って撃った、と生前話していました。
用便のために出てきて、狙撃されたソ連兵も間違いなくいたはずです。ところがそういう「意外な弱点」を放置するのが、全体主義の盲点でもあり、弱点でもあり得たわけです。
ちなみに現在のウクライナ戦争の主力戦車「T72」は、なぜ「72」と呼ばれるのか?
答えは1971年に開発されたから。つまり第2次世界大戦後、ブレジネフ書記長体制下のソ連で開発された「第2世代」戦車が今でもロシア軍備の中核としてウクライナ戦争に投入されている。
さらに戦法がクラシックなのが致命的です。
戦車軍団と歩兵中心、ほとんど1940年代ナチス。ロンメル元帥と変わらない「電撃」戦法を、2022年の今日に至ってもロシア軍は採用している。
よほどナチス~対ナチス戦が好きなのですね。
というか独ソ戦以降、ソ連~ロシアはまともな先進国同士の間で戦火を交えたことが実はなかった。
フルシチョフ体制下、キューバ危機などの米ソ冷戦が「冷戦」で止まってくれたから今の人類があるわけです。ただし全面戦争がなかった代わりに東西ベルリンの間に壁が作られもし、「冷戦後期」無数の悲劇も生まれてしまいました。
過去の戦勝体験を神格化するという「失敗の本質」に、プーチンのみならずゲラシモフ以下のプロ軍人も足元を掬われていた。それが今回、もろに露呈した。
ロシア「陸軍最強」の風説は、単なるこけおどしでしかないとばれてしまった。
「巡洋艦モスクワ」轟沈が象徴するもの
ロシア軍の連戦連敗はまた、北朝鮮にとっては悪夢と映っていることでしょう。兵器の威力という点ではおそらく中国も同じだと思われます。
建国以来一貫して兵器をソ連~ロシアに頼る北朝鮮にとって、ウクライナのロ軍敗退は、もし本当に開戦してしまったら、平壌で何が起きるかの近未来地獄絵図と見えるはずで、「火星17」ロケット花火なぞ打ち上げて見せている。
原理的にこの戦争でロシアに勝ち目はないと私は思います。また北朝鮮は仮に本当に戦端が開かれてしまえば「電撃戦」で終わる可能性が高いでしょう。これはあくまで、私の「主観」です。
しかし、合理的な根拠があります。正味で「冷戦ど真ん中」1970年代の戦車でウクライナに侵攻し、ブチャやキーウ、マリウポリの市民を蹂躙。見せしめに殺した市民の遺体を街路に放置する占領地の恐怖統治など「弱い者いじめ」しかできていません。国連も戦争犯罪摘発に動き始めました。
これに対して、ウクライナ軍が米国ほか西側から供与される武器は「冷戦崩壊後第3世代」2010年代のAI制御「ドローン搭載ミサイル」ですから、最初から歯が立つわけがありません。
片や1.7トンの対戦車ミサイルを搭載して14時間、不眠不休で飛び続ける「MQ-9リーパー無人機」。
対する側は、数時間に1回は「大便休憩」でハッチを開け、持ち場を離れ兵士が無防備にパンツを下ろし野原にしゃがみこまねばならないプレジネフ・モデルの「T72 」ソ連戦車。
両者が5~6時間も戦闘を続ければ、生身の兵隊はお腹がゴロゴロ言い始めますし、疲れを知らないAIは一瞬のスキも見逃しません。
何が起きるかは火を見るより明らか。
その結果は「キーウ近郊」に累々と放置されたままになっている、まる焼けになった無残なソ連戦車残骸を、どなたもご覧になったでしょう。あれです。
また焼け焦げた戦車の数の3倍、哀れなロシア兵の若者が命を落としている。こんな必敗状況で、命からがら現地から引き揚げてきたロシア将兵は、一部始終を見、かろうじて生還できたわけで、再出撃の命令を拒否するロシア兵続出との報も聞かれます。
旧ソ連軍のミニチュア「チビ太」状態の北朝鮮については言及の必要もないでしょう。
さて、そんな中4月14日、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」沈没という象徴的なニュースが飛び込んで来ました。
ロシア側は「火災」といい、米~ウクライナ側は対艦ミサイル「ネプチューン」2発で沈めたと主張。どちらが正しいにせよ「モスクワ」が沈んだ事実は間違いありません。
この「モスクワ」も1976年竣工、79年進水式の後「アンドロポフ体制」のソ連海軍巡洋艦として83年1月に就役、90年に退役していた典型的な「冷戦期モデル」の軍艦でした。
静かに余生を送っていた旧世代巡洋艦、プーチンが権力を掌握した2000年に「再就役」し、老骨に鞭打って黒海艦隊のこけおどし武力を象徴していたわけですが、そういう弱点を見落とす米軍ではありませんでした。で一発轟沈。
こんな具合で、プーチンが楽しみにしている(?)5月9日の戦勝記念日に向け、米~西側がバックについたウクライナ軍は、ロシア全人民が戦意を喪失するような「最大級の屈辱的敗戦」を、まだいくつも準備しているでしょう。
それが至る所で可能なのは、現ロシア軍備の大半が「ブレジネフ体制下」ソ連で開発されたクラシック・モデルで、こけおどしには使えても「第2次湾岸戦争以降」のAI兵器の前では、ガタイだけ大きな赤ん坊と大差ない場合が多いから。
5月9日をロシアの「敗戦記念日」化する米~西側とウクライナの作戦は、着々と準備が進んでいると考えるべきでしょう。推移を見守りたいと思います。
・ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」が沈没 ウクライナの国産ミサイルR-360ネプチューンが命中か…どうなるロシアの首都「モスクワ」(FNNプライムオンライン 2022年4月19日)
※2022年4月14日、ロシアの大手通信社「RIAノーボスチ」は、ロシア国防省の発表として、ロシア黒海艦隊の旗艦であるスラバ級ミサイル巡洋艦「モスクワ」が沈没したことを伝えた。
旗艦とは、艦隊全体の指揮を執る指揮官が乗る軍艦のことであり、その艦隊の中では、指揮通信能力が格段に高いはずだ。
モスクワの沈没は、ロシア黒海艦隊全体の能力にも関わることかもしれなかった。
ロシアのメディアは、ウクライナ沖を航行中だったモスクワが「弾薬の爆発で損傷し、港に曳航される途中で安定性を失い、沈んだ」と伝えたのである。
一方、ウクライナ側は、ウクライナ国産の地対艦ミサイル、R-360ネプチューン2発が命中して、モスクワに損害を与えたと主張した。
それならば、艦内の弾薬に延焼し、さらなる爆発に繋がった可能性があるのだろう。
スラバ級巡洋艦は、全長186メートル、全幅20.8メートルの大型艦で、ロシア海軍にも3隻しかない。
一方、ネプチューンは、ミサイル重量870kg、弾頭150kgで、射程は約300キロメートル。海面上3~10メートルを時速900kmで飛翔するとされるが、基準排水量9800トン、満載排水量1万1300トンの重武装の軍艦を沈めることは可能なのだろうか?
スラバ級巡洋艦は、大型の核・非核両用P-1000バルカン超音速対艦/対地巡航ミサイル16発を艦の左右両舷に並べている。
そして、対空ミサイルも強力で、後甲板に装備されたS-300F艦対空迎撃システムの48N6M迎撃ミサイルは、マッハ5.8で、射程200km。
対応出来る高度は、10~27000mとされ、低く飛んでくるネプチューン対艦ミサイルに対応するのは難しそうだ。
また、スラバ級の後部には、Osa-M短距離艦対空ミサイルシステムも存在するが、こちらで使用する9M33M3迎撃ミサイルは、対応出来る高度が5~5000m、最大射程は10kmと、射程約300kmのネプチューンに狙われたら、ぎりぎりまで引きつけた状態でしか迎撃できないのかもしれない。
さらに、これら迎撃ミサイルを誘導する火器管制レーダーも艦の後ろの方にある。
つまり、艦の前方は、対艦ミサイルを迎撃するレーダーやミサイルにとっては死角となる可能性を秘めているのではないか。
もちろん、スラバ級の場合、強力なAK-630M対空機関砲2門が、前甲板に装備されているが、このような対空火器、対空ミサイル・システムの配置であったが故に、もしも、ネプチューン地対艦ミサイルの攻撃を避けられなかったということならば、興味深い。
日本周辺で活動するロシア太平洋艦隊の旗艦、ワリヤーグもまた、スラバ級ミサイル巡洋艦であり、艦上のレーダーやミサイルの位置は、同じだからだ。
このようにウクライナだけでなく、ロシア軍の他の領域にまで、影響を与えそうな出来事はさらに続いている。
NATOとフィンランド・スウェーデン
ロシアのウクライナ侵攻開始から約1週間余りが過ぎた3月4日、バイデン米大統領は、侵攻後、初めて、ホワイトハウスに招いたのは、 中立国、フィンランドのニーニスト大統領だった。
会談で、バイデン大統領はニーニスト大統領と欧州の安全保障について話をした。そして、2人は、スウェーデンのマグダレナ・アンデション首相に電話を掛けたことをバイデン大統領がSNS上で明らかにし、フィンランドとスウェーデンは「米国とNATOにとって重要な防衛上のパートナー」と呼んでいたのである
ロシア “核?”装備機でスウェーデン牽制
この米・フィンランド首脳会談の2日前の3月2日、ロシア軍のSu-27戦闘機2機とSu-24攻撃機2機がスウェーデンを領空侵犯。
後にスウェーデンのテレビ局が、領空侵犯をしたSu-24攻撃機は、核武装していた可能性を指摘。
Su-24は、TN-1000または、TN-1200という戦術核爆弾を運用出来るとされている。
しかし、このとき、装備されていたものの形状は、1990年代に退役したRN-24またはRN-28核爆弾に似ているともいわれ、Su-24に吊り下げられていたものが何だったのか、不詳だ。
いずれにせよ、北欧にとっては、安全保障上の懸念が一気に顕在化した瞬間だったのかもしれない。
バイデン大統領と直接、会談を行ったニーニスト大統領のフィンランドは、ロシアと長い国境を接し、第2次世界大戦後、東西のはざまで中立を保ってきたが、近年、NATOとの関係を強化。
NATO諸国との共同演習を実施したり、アメリカ製のF/A-18戦闘攻撃機(と、それから発射出来る射程370kmのJASSM巡航ミサイル)を保有している。
その中立国フィンランドが、ロシアのウクライナ侵攻を契機に民意も激変。
フィンランド、NATOへ傾斜
2017年の世論調査では、NATO加盟に賛成が19%台だったが、ロシアのウクライナ侵攻後の今年3月には62%台と急増。
フィンランド議会は、ついにNATO加盟申請について審議を始めた。
もちろん、ロシアも、フィンランドとNATOの接近に警戒を強めている。
ロシア外務省のザハロワ報道官は、すでに2月の段階で「フィンランドのNATO加盟は軍事的、政治的に深刻な影響をおよぼすだろう」とツイート、牽制していた。
なぜ、ロシアは、北欧の二つの中立国、特にフィンランドの動向に神経を尖らすのだろうか?
フィンランド、F-35A Block4型機導入へ
フィンランドは、2020年に米国から、AGM-158B2 JASSM-ERステルス空対地巡航ミサイル200発とF-35Aステルス戦闘機64機の導入する約束を取り付けている。
AGM-158B JASSM-ERの本来の射程は,1000km弱とされるが,AGM-158B2は、さらに射程が延長されていると考えられている。
フィンランド領空から、ロシア・バルチック艦隊のクロンシュタット基地も物理的には届くのみならず、モスクワまでも900kmないことを考えれば、留意すべきことだろう。
また、フィンランド国防省は、フィンランドが、2026年から国内に配備するF-35Aステルス戦闘機について、「ブロック4」というバージョンであることを強調している。
F-35Aブロック4とは、どんな軍用機なのか?
F-35A Block4の能力
米議会調査報告書によれば、ブロック4というバージョンから、核爆弾運用可能となり、
2023年からは 、最新鋭の核爆弾B61-12が運用可能になるとされる。
フィンランドがNATO加盟国となり、米軍の核爆弾を運用可能な戦闘機を保有すれば、フィンランド国内に米軍の管理のもとで米軍の核爆弾が置かれ、いざという場合には、フィンランド軍機に、その核爆弾が搭載される、いわゆる核共有の可能性があるかどうか。ロシアにとっては、気がかりとなるかもしれない。
歩調を合わせるフィンランドとスウェーデン
4月13日、スウェーデンのマグダレナ・アンデション首相とストックホルムで会談したフィンランドのサンナ・マリン首相は、会談終了後の記者会見で、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請するかは「数週間以内に」決めると表明した。
フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟すれば同盟国の軍用機が展開する可能性がある。
その中には核兵器運用能力を持つものがあるかもしれない。
例えば、米空軍のF-15Eストライク・イーグル戦闘攻撃機などには最新のB61-12核爆弾の運用能力を持つものもある。
またNATO加盟国であるフランスのASMPA超音速空中発射核巡航ミサイルは、ラファール戦闘機から運用可能である。
フィンランドとスウェーデンに反応したロシアの動き
4月14日、ロシアのメドベージェフ前大統領は「フィンランドやスウェーデンがNATOに加盟すれば、スカンジナビア半島方面の国境に核兵器を配備することになる」との見解を示した。
そして、その数時間後、フィンランドとの国境方面へ向かうK-300Pバスチオン対艦・対地巡航ミサイル・システム2両の姿があった。
バスチオンで運用される超音速巡航ミサイルP-800の射程は、地上の飛行で約450km、洋上で約350kmと見られている。
ロシア国境からフィンランドの首都、ヘルシンキまでは200kmないのだ。
マリン首相をはじめとするフィンランドの決断は、いずれにせよ、安全保障上の重大な影響をもたらすのだろう。
黒海艦隊の司令官が乗る旗艦「モスクワ」は、理由はどうであれ、沈没した訳だが、万が一、フィンランド、そして、スウェーデンがNATOに加盟したら、ロシアの首都「モスクワ」は、どうなるのか。ロシアの指揮を執るプーチン大統領にとっても気がかりなことかもしれない。
・ 「多くの榴弾砲が必要だ」……ゼレンスキー大統領が求める“戦場の女神”とは 露軍の大規模攻撃を阻む「地面」と「士気」(日テレNEWS 2022年4月19日)

※激しい攻防が続く、ウクライナ南東部のマリウポリ。ロシア軍は三方向からの包囲を狙い、マリウポリを完全制圧した後も、東部で激しい地上戦が続きそうです。有利に見えながらも士気が低いロシア軍を前に、ウクライナ軍はどう戦おうとしているのでしょうか。
■続々と集結…「挟み撃ち」狙う露軍

有働由美子キャスター
「(ウクライナ)各地で凄惨な状況になっています。今、最もギリギリの攻防が行われているのが、南東部のマリウポリです」
「ウクライナ側は一貫して『最後まで戦う』としていますが、ロシア側はウクライナ側の兵士たちに投降するよう求め、制圧を急いでいるようにも見えます。ロシア軍がマリウポリを完全に制圧すると、次はどうなっていくのでしょうか?」
小野高弘・日本テレビ解説委員
「完全制圧したら、マリウポリにいた部隊が北上するとみられています。アメリカの政策研究機関の分析によると、同時に今、ロシア軍は東から、そして西のイジューム周辺にも、続々と部隊が集まってきています」
「つまり、今東部で踏ん張っているウクライナ軍を、東から南から西からも挟み撃ちし、包囲しようとしています。そしてその結果、東部で、大規模で激しい地上戦になると多くの専門家はみています」
■露軍「有利」と限らない2つの理由

有働キャスター
「ただ、広い範囲で支配を強めつつあるロシア軍が有利でしょうね」
小野委員
「必ずしもそうではない、という分析もあります。地面はとてもぬかるんでいて、ロシア軍が進軍するのは困難な状況です」
「また、集結しているロシア兵も、徴兵されてきたばかりの兵士もいて、士気も高くない。そのため数日のうちに大規模攻撃を仕掛けていく状況にはないといいます」
■ウクライナが求める「戦場の女神」

有働キャスター
「こうしたロシア軍相手に、ウクライナ軍はどう戦おうとしているのでしょうか?」
小野委員
「ゼレンスキー大統領はSNSで配信した動画で、『ウクライナは武器の供給、できるだけ多くの榴弾(りゅうだん)砲が必要だ』と訴えました。榴弾砲という大砲について、現代軍事戦略が専門の『防衛研究所』防衛政策研究室長の高橋杉雄さんに聞きました」
「戦車より射程が長い榴弾砲は、20km先の見えない敵に向けて撃てる。このため前線で戦っている戦車や歩兵部隊を、後ろから極めて強い力で支援できる。榴弾砲を持つ部隊は『戦場の女神』と言われるくらい、役割が重要だといいます」
■徹底抗戦へ…「停戦協議」期待せず?
小野委員
「最近もアメリカから、榴弾砲と砲弾4万発が送られましたが、CNNはアメリカ政府高官の話として、この程度の数だと数日で使い果たす可能性があると伝えました。今のうちに武器をかき集めておきたいウクライナ軍としては、まだまだ足りないと言えそうです」
「ゼレンスキー大統領としては、もはやロシアに停戦協議の期待は持てない、徹底的に戦うしかないという覚悟を示したものだと考えられます。そして欧米に対して、もっと軍事支援してほしいという訴えだとも思います」
有働キャスター
「戦闘が長引いて、停戦が難しくなって、間違いなく言えるのは、市民の犠牲が増え続けるということだけです」
(4月18日『news zero』より)