・ロシア軍はウクライナ侵攻に動員した約19%の戦術大隊を失う(2022年3月15日)

※ポーランドのディフェンス・メディア「Defence24」は14日、ウクライナ侵攻のため動員されたロシア軍は22の戦術大隊(BTG)を失ったと結論づけた。

ロシア軍はウクライナを侵攻するため117個の戦術大隊(BTG)を動員、1個のBTGは戦車中隊/10~13輌、機械化大隊(中隊3個)/40~45輌、自走砲中隊/6輌、ロケット砲中隊/6輌で構成されており、3月10日までに確認されたロシア軍の損失(戦車×164輌、歩兵戦闘車×129輌、装甲兵員輸送車×47輌、装甲牽引車×57輌、空挺部隊用車輌×28輌、自走砲×25輌、ロケット砲×19輌)を当てはめると以下の通りになる。

戦車中隊×12~15個

BMP-2/3機械化中隊×5~6個

BTR-80/82A機械化中隊×3~4個

MTLB機械化中隊×5個

BMD-2/4およびBTR-D/MDM空挺中隊×4個

自走砲中隊×4個

ロケット砲中隊×4個

つまり5個のBTGは戦車中隊と機械化中隊の70%以上失い、10個のBTGは戦車中隊を失い戦闘能力が30%以上低下、他の損害も加味して米軍の損害判定の基準を適用すると「ウクライナ軍は22個分に相当するロシア軍のBTGを無力化(戦闘に耐えられないステータスに追い込み戦場からの離脱・再編成に追い込んだという意味)した可能性が高い」これはロシア軍がウクライナに投入した全BTGの約19%に相当する。

この結果についてDefence24は「ロシア軍全体の勢いを停止させるほどのダメージではないが侵攻作戦を大幅に遅らせるだけの効果はある。
さらに局地的な戦闘に敗れたという心理的な要素はロシア軍の潜在的な能力をさらに低下させるだろう」と述べており、物資輸送に使用されるトラックを200輌以上も失ったことはロシア軍の補給に大きな問題をもたらしている可能性が高く「これが戦場で放棄される車輌の多さの要因かもしれない」と指摘。


・「論説:ウクライナ戦争はロシアがもはや超大国ではないことを証明した」(ワシントンポスト 2022年3月16日)

※ロシアのウクライナ侵略が明らかにしたのはロシア軍の強さではなくその衰退だ

- 以下ワシントンポスト紙の記事の要約 -

ロシアによるウクライナの都市への爆撃、建物が瓦礫となり何百万人もの人々が難民となる光景は一見するとロシア軍がその強さを見せつけているように思えるかもしれない。 だがウラジーミル・プーチンの致命的な過ちから3週間たった今、本当に明らかになったのはロシア軍の「強さ」ではなくその「弱さ」だ。

ロシアが機動力を発揮して短期間に敵を圧倒する「電撃戦」に失敗したのは当初その展開を誤ったからだと思われていたが、むしろ「この時代に電撃戦をするにはロシアの軍事力は足りていなかった」可能性が濃厚になってきた。

ウクライナのゼレンスキー政権の対応がロシアにとって誤算であったのも事実だが、ロシアが現在使用している戦術は率直に言って21世紀の軍隊の戦術ではない。

開戦時にロシアが取った戦略は精密誘導ミサイルでウクライナ全土のレーダー/対空砲/滑走路を破壊し相手の目を潰すと共に敵航空戦力を地上に張り付けることで制空権を奪取(第1段階)、その後は空から地上戦力の前進を援護する(第2段階)という1991年の湾岸戦争で米国とその同盟国が取った戦略と同じだ。

ところが実際は第1段階で制空権を奪えず地上部隊の進軍は停滞、ウクライナ側に地雷設置や陣地の強化、待ち伏せを計画する時間を与えてしまった。

なぜロシアは第1段階でつまづいたのか?

1つ興味深いデータがある、それはロシア空軍の戦闘機パイロットの年間飛行時間は推定で年間100時間程度でそれが限界というものだ。1年あたり100時間は平均して1日あたり20分未満になる。 ※米空軍パイロットの年間飛行時間は228~252時間(ソース)。英軍は約200時間、日本の航空自衛隊は約180時間、韓国空軍は約80時間とされる(ソース)

専門家はロシアが大規模な航空作戦を躊躇した理由として「外部の認識するロシア空軍の脅威の化けの皮が剝がれ、実際の能力が露呈してしまう」ことを嫌った可能性があると指摘する。

つまり現代の第5世代ジェット戦闘機に莫大な予算をかけているにもかかわらず、ロシアはそれらを戦争に参加させて練度不足による無能を晒すよりも、威嚇のために駐機させたままにした方が良いと判断したということだ。

最先端兵器を誇示しておきながら実際の戦争では運用できていないものは他にもある、スマート爆弾(精密誘導ミサイル)だ、ロシアではその数が不足していると思われる。

レーザー誘導であれGPS誘導方式であれ現代の戦争においてミサイルとはスマート爆弾のことを指すといっていい。英国でさえ武器庫にあるミサイルのうち無誘導爆弾とスマート爆弾の比率は1対9だと言われている。これがロシアでは逆で無誘導爆弾が9に対しスマート爆弾が1だという。

※スマート爆弾の時代が訪れたのは冷戦後の90年代半ば以後と言われており、2001年のアフガニスタン戦争では米軍が使用したミサイルのうち8割がスマート爆弾だったという

そしてロシアはウクライナ戦争の開戦当初はスマート爆弾を使用していたがそれ以後は「軍事施設のみを目標とした精密爆撃を行っている」などと主張しているが実際に撮影された映像からほぼ無誘導爆弾を使用していることは明らかだ。

さらにこのスマート爆弾の不足は別の弱点を生んでいる。精密誘導爆弾がないことでロシア軍はウクライナの都市への攻撃を比較的低空を飛行する爆撃機と地上の大砲に頼らなければならなくなった。必然的にウクライナの抵抗を受けやすくなり、ロシア兵の犠牲も増加した。

伝えられるところによるとプーチンが中国の習近平に支援を要請したとのことだがそれも不思議ではない。

もしロシア軍が本当に十分な力を持っていたとしたら、我々はこの時点ですでにそれを見せつけられていなくてはならない、なぜなら致命的な過ちを犯したその頭でも、今彼が人生の瀬戸際に立っていることくらいは理解できるはずだからだ。

ロシアの核兵器はロシアを守ってくれるだろう、しかしウクライナでの大失敗はロシアがもはや超大国の地位にいないことを物語っている。


・不可解なるロシア空軍 なぜ誘導爆弾を使用しないのか あるいは使用できない理由とは?(乗り物ニュース 2022年3月20日)

関 賢太郎(航空軍事評論家)

※ウクライナ侵攻を続けるロシア軍には、常識や定石から外れた行動が目に付きます。空軍戦力において無誘導爆弾ばかり使用しているのもそのひとつ。たまたまか、それとも理由があるのか、あるとしたらどのような理由なのでしょうか。

誘導爆弾が見られない…ちぐはぐな印象のロシア軍
 
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻もまもなく1か月が経過、戦闘は膠着状態であり両者ともに厳しい消耗戦となっています。そのような戦況において、ロシア空軍が無誘導爆弾を使い、市街地へ無差別爆撃を行っていると報じられています。

ロシア側は「軍事施設のみを目標とした精密爆撃を行っている」と主張するものの、実際に戦場で撮影されたロシア空軍機を見るに、ほぼ無誘導爆弾を搭載していることは明らかです。なぜロシアは誘導爆弾を使用していないのでしょうか。

航空機搭載用無誘導爆弾は、鋼鉄のケースに爆薬を詰め込んだ極めて単純な構造であり、現在使用されているFAB-100/FAB-250/FAB-500/FAB-1500(数字はkg単位の重量)といったロシア製の爆弾は1960年代から使われ続けています。無誘導爆弾の強みはなんといっても、地上の砲などに比べて圧倒的に強力でありつつ、おおむね数十万円程度と安価であることです。

一方で驚くほど精度が悪い欠点もあります。爆弾の精度を表すCEP(投下した爆弾の半数が着弾する半径)はおおむね60mから100m程度。実戦ではさらに悪化し、投下した爆弾のほとんどはクレーターを作るためだけに使われます。無誘導爆弾の低い精度を補うには「ともかく大量に投下する」ことが最も重要になります。

なぜ誘導爆弾を使わないことが不可解といえるのか
 
場合によって異なるものの、CEPを60mとし30m程度の大きさの標的に直撃させた場合に撃破と判定するならば、無誘導爆弾を8発積んだ戦闘爆撃機4機(計32発)ならば計算上、4目標の撃破を期待できます。ただし戦闘爆撃機4機を飛ばすには護衛の制空戦闘機、地対空ミサイルを破壊する防空網制圧機、レーダーに妨害を行う電子戦機、さらに空中給油機などの支援が必要です。

そうした、1回の爆撃任務に必要な編成を「ストライクパッケージ」や「戦爆連合」と呼ぶことがあり、最も小さなストライクパッケージでもおおむね20機程度となりますから、実際は20機も出撃させてふたつから4つ程度の目標しか破壊できないことになります。

一方、同じ戦闘爆撃機に同じく8発の誘導爆弾を搭載した場合はどうなるでしょうか。誘導爆弾は非常に命中精度が高く、ロシア製のKAB-500Lレーザー誘導爆弾ならばCEPは約3mですから、これはほぼ必中を期待できるといえます。したがって4機で合計32発を搭載すれば、理論上は32目標を破壊できるでしょう。

また推進装置を持った誘導爆弾、いわゆる「空対地ミサイル」を使用すれば、敵の防空網の外から攻撃できるため、攻撃側の生存性も大幅に高めることができます。

誘導爆弾は無誘導爆弾に比べて高価であることが欠点であり、価格は10倍の数百万円、空対地ミサイルであれば数千万円にも及びます。しかしながら無誘導爆弾で同じだけの戦果を得るには10個ストライクパッケージを出撃させなくてはならないのですから、実際のところ誘導爆弾は高価である以上に有効であることがわかります。

ロシア空軍が誘導爆弾を使えない考えうる理由
 
以上のように誘導爆弾は使用者にとって「いいことだらけ」であり、もはや無誘導爆弾による航空作戦はかえって珍しくなっています。しかしながら、なぜかロシア空軍はほとんど誘導爆弾を使っていないようです。

ロシア空軍は2010年ごろから、所有する軍用機を一気に新型機へと入れ替え、旧ソ連時代の機体も近代化改修を済ませ、先進的な空軍に生まれ変わりました。たとえばスホーイSu-30SM多用途戦闘機やSu-34戦闘爆撃機などはその代表例です。しかし、どんな新型機であっても無誘導爆弾を使っていては、全くその真価を発揮することはできません。

誘導爆弾は作戦効率も生存性も値段以上に高めますが、やはりどうしても高価であることは事実ですから、恐らくロシア空軍は戦闘機や爆撃機など「見栄えの良い装備」の更新に重点的に予算を割り振り、本当に必要だった「見栄えの悪い誘導爆弾」の調達を軽視していたのではないでしょうか。

たとえば、ある国の空軍の戦力を測る場合、誘導爆弾の数よりも最新鋭戦闘機の保有機数が多いほうが、平時の抑止力としての戦力は高く見せることができます。実際、いざ実戦という事態になってはじめて弾数が足りない事態に直面する空軍の例は珍しくありません。だとするならばロシア空軍は必要な準備を全くしないまま国家間戦争へ突入し、身の丈に合わない作戦を強いられているといえます。

この1か月におけるロシア空軍の損害は、ウクライナ側の発表によると200機を越えました。これはかなり過大である可能性が高いものの、1機あたり数十億円のヘリコプターや戦闘機を大量に損失していることは間違いありません。もし十分な誘導爆弾、特に敵の地対空ミサイルなどを無力化できる対レーダーミサイルが十分にあれば、損害はもっと小さくて済んだに違いありません。

いまはまだ結論を出すには早すぎますが、ロシア空軍が無差別爆撃を行っているのも「精度が無用な無差別爆撃しか有効な作戦が行えない」からであるかもしれません。


・プーチンかく敗れたり(JB press 2022年3月22日)

在ロンドン国際ジャーナリスト・木村正人

※米シンクタンク「戦争研究所」(ISW)は19日、ロシア軍は首都キエフ、北東部ハリコフ、黒海沿岸のオデッサなどウクライナ主要都市を奪取してゼレンスキー政権をすげ替える所期の作戦に失敗した、と評価した。ロシア軍は精密誘導弾(PGM)が不足しているため制空権を確保できず、著しく人的資源を消耗、士気や補給の問題が深刻化している。戦線の大部分は膠着状態に陥っており、消耗戦となり被害がさらに拡大する恐れがある。

ウクライナ軍参謀本部によると、戦闘を逃れるためロシア軍では自傷行為や脱走が相次いでいる。ロシア軍は長期休戦を受け入れ、態勢と作戦を立て直す必要があるが、今のところ徴兵、士官候補生、シリア人傭兵など小規模な投入を繰り返すだけだ。ISWは「この努力は失敗する」と断言する。グルジア(現ジョージア)紛争、クリミア併合、シリア軍事介入で「ケンカ上手」と言われてきたウラジーミル・プーチン露大統領は一体、何に負けたのか。

飛ばなかったロシアの最新鋭機300機
 
筆者は「英国王立防衛安全保障研究所」(RUSI)が17日に開いた「航空戦」会議を終日取材した。英空軍をはじめ米欧の空軍関係者が一堂に会した。ホスト役のジャスティン・ブロンクRUSI研究員はロシア航空宇宙軍の最初の3週間をこう分析した。

「ウクライナ軍の中距離地対空ミサイルを全滅させることができなかった。確認された損害は短・中距離地対空ミサイル9基にとどまり、ウクライナの防空システムは機能している」

ロシア軍は作戦初日の2月24日、敵の射程外から攻撃するスタンドオフ攻撃でウクライナ軍のレーダーサイトや早期警戒システム、主要な空軍基地の滑走路を破壊、長距離地対空ミサイルシステムS300数基にも打撃を加えた。もしここで戦闘爆撃機Su34のPGMや多用途戦闘機Su30の無誘導爆弾で追撃していれば、ウクライナ軍を圧倒できていたはずだ。しかし国境近くに待機していたロシア軍の最新鋭機300機は最初の4日間、飛び立たなかった。

ロシア軍の計画をくじいたウクライナ軍の備えとは
 
ロシア軍は2010年以降、多用途戦闘機のSu35(第4.5世代)とSu30、戦闘爆撃機Su34など350機を配備した。約110機の迎撃戦闘機ミグ31と攻撃機Su25の野心的な近代化にも取り組んだ。ウクライナの射程圏内にあるロシア西部および南部軍管区に約300機の最新鋭機を配備している。今回はウクライナ侵攻に備え、ロシア国内のほかの地域から航空連隊も移動させていた。これだけの航空戦力強化に取り組んだロシア軍だったが、ウクライナ軍のある備えがその計画をくじいた。

ウクライナ軍が事前に分散しておいた短・中距離地対空ミサイルの損害が最小限に抑えられたのだ。米製携帯式防空ミサイルシステム「スティンガー」を装備した部隊もフル回転している。これでウクライナ軍の戦闘機は主要都市の上空を舞い、士気を高め、神話化した。トルコから導入した無人戦闘機バイラクタルTB2もロシア軍の車両部隊に大きな損害を与えた。

「最初の3日間でロシア軍はジェット戦闘機11機を失った。ヘリコプターの被害は甚大だ」(ブロンク氏)

ブロンク氏は筆者の取材に「この3週間でロシア軍が使用した巡航ミサイルと弾道ミサイルは850~900発に達する。一方、ロシア軍の固定翼機の損害は14機、さらにロシア軍支配地域に墜落した分を加えると4~5機増える可能性が強い。ヘリコプターの損害は33機にのぼっている」と説明した。

ロシア軍が弾道を誘導し、目標に正確に命中させるPGMをあまり使用していない理由についてはこう分析する。

「備蓄が少ないことが主な原因だ。もともと大量に保有していたわけではない。シリアで投下された爆弾の9割が無誘導爆弾。残り1割のPGMを投下する映像がたくさん公開されたが、大半は無誘導爆弾だった。シリアで投下したPGMが生産量より多かったため、備蓄がさらに少なかった。ロシア軍機は高性能の照準ポッドや熱探知機能を備えていない。ウクライナは雲が多く、レーザーによる誘導が容易ではない。しかも今は雲が多い」

ロシア空軍は複雑な航空作戦能力を欠いている
 
ブロンク氏は「ロシア航空宇宙軍は大規模で複雑な航空作戦を計画、実行する制度的能力を欠いている」と指摘する。確かに、シリアでの作戦は小規模な編隊での運用だった。「ロシアの作戦指揮官は脅威の高い空域で数十から数百の部隊が参加する複雑な航空作戦を計画、調整する方法についてほとんど実践的な経験を持っていない。操縦士の年間飛行時間も約100時間、多くの場合はそれ以下で、180~240時間の北大西洋条約機構(NATO)の約半分」という。

ロシア軍の出撃回数は1日当たり200~250回。しかしウクライナ軍の要撃を避けるため、出撃は日没時の午後8~11時と午前2~5時の間に限られている。ほとんどはウクライナ領空に入らず、ロシアやベラルーシの領空から攻撃している。燃料補給にも深刻な問題を抱えている。

ただ、ロシア航空宇宙軍が緒戦の失敗を反省し、ある程度の犠牲を覚悟の上で大規模な航空作戦を実施すれば、制空権を確保して戦争の流れを変える可能性は残されている。

それにしても、今回の侵攻まで長い準備期間があったにもかかわらず、プーチン氏はなぜこのような大失態を演じたのか。その理由をたずねた筆者に、ブロンク氏は「全くその通りだ。過去12~18カ月、彼らは侵攻を準備してきた。ロシアはこの6~7年、極めて日和見主義的に動いてきた。つまり、物事を行うための条件を整え、隙があると判断すれば非常に迅速に行動に移した。しかし今回、プーチン氏の日和見主義的なギャンブルは明らかに危険すぎたのかもしれない」と答えた。

ブロンク氏によると、プーチン氏はウクライナ東部紛争やシリア軍事介入でも12~13カ月かけて条件を整え、状況に合わせて「日和見主義的に」迅速な決断を下すサイクルを繰り返してきた。

「このサイクルでは軍に十分準備する時間が与えられない。将官レベルで作戦準備を整えるのに2~3週間以上前に監査を行う必要があるが、行われなかった。彼らの偽情報作戦プレイブックはとにかく幼稚すぎた」

「核心をついた西側の情報が次々と公開され、それを隠そうとするあまり、さらにパラノイアになり、侵攻の24時間前まで現場の指揮官に本当の情報が伝えられなかった。戦術レベルでは国境を越えてから伝えられた。大きな原因は意思決定の構造やパラノイアにある。しかし最大の問題はロシアがウクライナを見下してきた傲慢さにある。ロシアはウクライナの国家としての能力、強い組織力、アイデンティティーに直面するとは思っていなかった」

戦争の行方

「誰もプーチン氏に本当のことを言っていないのか」という筆者の質問に、ブロンク氏は「おそらくそうだと思う。プーチン氏に真実を伝えることは自分の身を危険にさらすことになるからね」と苦笑した。

「戦争による経済的、政治的、社会的コストを考えると、中期的にプーチン氏が生き残れるとはとても言えないが、仮にプーチン氏が交代したとしても2国間関係が良くなったり、友好的になったりすることはないだろう」

陸上戦に詳しいジャック・ワトリングRUSI研究員も筆者に「ロシア軍は大量の部隊によるこけおどしで主要都市を奪取する最初の作戦に失敗したあと、迅速に通常作戦に移行できるような準備をしていなかった。現在、通常作戦で戦っているが、兵站と準備不足のため作戦を実行するスピードに制約がある。持続不可能なレベルの死傷者を出しており、作戦を続けるには一度、立て直す必要がある。戦略的に非常に重大な間違いを犯した」と語る。

「彼らは最終的に主要都市を奪うことができても、甚大なコストを払わなければならない。チェチェン紛争では、チェチェンを制圧するのに9年を要した。ウクライナはチェチェンよりかなり大きい。ロシア軍には今のところキエフを奪うほどの戦闘力はない。しかし、いったん包囲すれば兵糧攻めにできる。ウクライナ軍がロシア軍による包囲を防ぐことができている間は、おそらくキエフは耐えられるだろう」(ワトリング氏)

今回の侵攻でウクライナ国内のナショナリズムと反ロシア感情は際限なく高まっている。シーパワーが専門のシダールト・カウシャルRUSI研究員は筆者に「ロシア軍がより統合された方法で戦い始めたら最終的に勝つかもしれない。しかし大きな疑問は最初の侵攻でどれだけの戦力が奪われたかだ。もし勝利できたとしても、小さな兵力で広い国土と敵対する人々をどうやって占領するのかという根本的な疑問が残る」と言う。

ロシア軍の正当な評価について、カウシャル氏は「私たちが抱いているイメージは12フィート(約3.7メートル)の巨人なのだが、今回のウクライナ侵攻を見て、下方修正して4フィート(約1.2メートル)の子供にする必要はない」と釘を刺した。敵を過小評価することは自分を過大評価することにつながり、敗因になる恐れが大きいからだ。われわれはプーチン氏と同じ過ちを繰り返してはならない。


・運用が難しいドローン「TB2」、ウクライナ軍が予想以上に活用できている理由(JB press 2022年3月23日)

数多 久遠:小説家・軍事評論家、元幹部自衛官



(上)ウクライナ軍のトルコ製UAV「バイラクタル TB2」

※ロシアの侵攻が始まってから、まもなく4週が経過しようとする中で、ウクライナ軍のUAV(無人航空機、ドローン)「バイラクタルTB2」(以下「TB2」)は予想以上の活躍を見せています。

しかし、私を含めた専門家の多くはTB2自体への評価を変えていません。その理由は、ウクライナ上空に発生した環境が、予想とはかなり異なるものだった上、その運用がうまかったからです。

私は2月10日にJBpressで「『バイラクタルTB2』無人攻撃機はロシア軍に対して有効か?」という記事を執筆し、TB2は癖の強い兵器であると指摘しました。TB2は長所と短所が極端であり、運用が難しいということです。今回の戦争では、ウクライナ軍が投入を控えたのか、初期にはあまりTB2の活躍の情報がありませんでしたが、戦闘が膠着し始めた頃から活躍情報が増えてきました。長所を活かし、短所を補う優れた運用が行われた結果です。

以下では、現時点までのTB2の活躍を整理し、ウクライナ軍が優れた運用を行うことができた原因を考察します。また、TB2とそれ以外のドローンについても評価を行いたいと思います。

TB2活躍の成果は?
 
TB2による直接の戦果や使用実績をまとめたデータは公開されていません。そのため、ニュースやツイッターなどの画像からTB2による撮影や攻撃だったことを推定しているわけですが、数多くの動画が公開されており、TB2の運用ができていることは間違いありません。

公開されている動画は、指揮所、補給集積所、地対空ミサイルといった高価値目標を直接攻撃しているものが多く、そのほか、榴弾砲やロケット砲攻撃での目標指示・着弾観測に使用されています。

TB2は、開戦前に18機がトルコからウクライナに納入されていました。その後、追加が到着しているとの情報もあるため、ウクライナは合計で30機を超えるTB2を保有していると見られていますが、開戦初日の弾道ミサイル、巡航ミサイルで多数が失われたとの情報もあります。また、ミサイルにより撃墜したというロシア側の発表も複数あります。このため、現在ウクライナが運用しているTB2の機数は不明です。

TB2の成果はウクライナにとって格好の宣伝材料であるにもかかわらず、ナゴルノ・カラバフ紛争と比べれば、公開されているデータは決して多くありません。ということは、現在運用できている機体がそれほど多くない可能性があります。ただし、撃墜されたことが確実に分かる情報もありません。ロシアは、TB2を撃墜したとの画像を公開していますが、明らかに別のものでした。

また、ロシア軍の「クラスハ-4」などの電子戦機器による妨害も、行われているのか、効果があったのか判然としません。コントロールを奪われて鹵獲(ろかく)される事態には至っていませんが、妨害を受け、事前に設定された着陸地点に帰還してしまっている可能性はあります。



(上)ロシア軍の電子戦システム「クラスハ-4」
 
以上のことから、TB2が効率的に運用できているのかの評価は難しいところです。しかし、TB2は1機あたり5億円と言われ、30機整備したのならば総額は150億円となります。これまで報告されている成果を考えると、十分にペイしていると言えるでしょう。

TB2は攻撃前に真価を発揮
 
公開されている動画が攻撃シーンばかりであるために誤解されがちですが、TB2の真価は攻撃前にあります。

下の動画はTB2ではなく、逆にロシア側のドローン、おそらくTB2と同クラスの「Orion」が撮影、攻撃したものですが、TB2が行っている高価値目標攻撃のプロセスがよく分かるものとなっています。

ロシア軍のドローンは、ウクライナ軍の弾薬積載車両を発見しますが、即座に攻撃せず、追跡します。そして、弾薬集積所として使用されていた民家を突き止め、これを破壊しました。TB2に限らず、滞空型のドローンの最大の利点は、この高価値目標を探し出すことができるという点です。そして、その上で攻撃を加えます。

反面、以前の記事で指摘したように、対空ミサイルの脅威がある環境では、容易に撃墜されてしまうため、運用が制限されます。滞空性能が高い機体形状では、ステルス性や機動性能で対空ミサイルを回避することができません。そのため、地対空ミサイルを攻撃する場合は、基本的に稼働していないタイミングを狙うなどしているようです。

下の動画は、燃料不足など何らかの理由で稼働を止め、林(冬期なので隠蔽は限定的)に隠れていたロシア軍の地対空ミサイル「Buk」を攻撃したものです。

さらにこちらの動画は、稼働中のBukをミサイルの噴煙位置から突き止め、砲兵射撃によって破壊した動画と言われています。

ただし、筆者が見る限り、破壊時の動画は別の場所です。また、Bukランチャーの位置は、手前にある大型建造物の影に入っており、TB2の位置はレーダーで発見できない位置関係にあるようです。地対空ミサイル脅威があるため、距離をとって観測に努め、他のユニットから攻撃したものと思われます。

今回の戦争において、ウクライナ軍は、長所と短所が極端であり運用が難しいTB2をうまく運用していました。その活躍の鍵は、何と言っても米軍の「ISR」(intelligence, surveillance and reconnaissance)です。日本語で言えば「情報・監視・偵察能力」となります。

TB2には、対空ミサイルが発するレーダーを検知する機能はありません。上記の地対空ミサイルへの攻撃は、ポーランドや黒海上空を飛行する米軍の偵察機やUAVからの情報をもとに、対空ミサイルで迎撃される経路を避け、攻撃を行ったものと見られています。

また、指揮所を攻撃する際も、通信の傍受や位置を探知する諜報活動「シギント」(signals intelligence)による情報に基づいて、攻撃を実施した可能性が高いと思われます。脅威情報を得ることでこれを避け、目標情報を得て攻撃したということです。

これは推測ですが、攻撃すべき目標を米軍が選定し、飛行経路の選定など攻撃計画の立案まで米軍が行っていた可能性もあります。もっともこれはTB2に限らず、極めて損害が少ないウクライナ空軍機の運用についても同じです。印象としては、実行はウクライナ軍ですが、TB2の作戦指揮は米軍が執っているようにも感じられます。

ロシア軍「Orlan-10」の脅威
 
今回の戦争には、TB2の他にも各種のUAVが投入されています。その中には、ことさら脅威が叫ばれる自爆ドローンもありますが、実際の運用を考えればミサイルと大差なく、さほどの脅威とは思えません。むしろ、最も脅威と考えるべきものは、ロシアが使用していた「Orlan-10」です。



(上)ロシア軍のUAV「Orlan-10」
 
Orlan-10は、TB2よりもはるかに軽易なシステムであり、乱暴な言い方をすれば、ラジコン飛行機に偵察・通信機能を付けただけの代物です。実際、このOrlan-10のエンジンは、日本のラジコン用エンジンメーカー、株式会社斉藤製作所が製造するラジコン用エンジンFA-62Bです。

Orlan-10は、ラジコン程度の大きさしかないため、攻撃能力は持ちません。レーザー誘導弾の誘導にも使えるとの情報もありますが、基本的に偵察能力だけです。ですが、非常に小型であるため、レーダーに捕捉されずにウクライナ防空網内に侵入しています。また、コントロールを失ったOrlan-10が、ルーマニアまで飛行し墜落しており、その滞空・巡航能力はかなりのものです。

3月21日に行われたキーウ市内のショッピングセンターへの攻撃では、Orlan-10が偵察を行っていました。Orlan-10が、ウクライナ軍のロケット砲を追跡し、このショッピングセンター内に駐車されたことを突き止めていたため、これを弾道ミサイルにより狙ったようです(真偽は不明ですが、このショッピングセンターは、ウクライナ郷土防衛隊の指揮所となっていたとの情報もあります)。攻撃能力はありませんが、レーダー網を突破できる可能性があるため、非常に脅威なのです。

このOrlan-10は、TB2のように、レーダーや地対空ミサイルを避けるような丁寧な運用はされておらず、安価なため、落とされることを厭わずに投入されているようです。そのため、多数が撃墜されていますが、ウクライナ側はUAV用のジャマー(電波妨害装置)を使用して撃墜しているようです。

撃墜されたOrlan-10の写真を見ると銃撃やミサイル攻撃された痕跡が見当たりません(下の画像)。上記のルーマニアまで飛行したものも、コントロールができなくなり、燃料が切れるまで飛行したのでしょう。

また、レーダーで捉えにくい上、赤外線の放射もほとんどないため、「MANPADS」(携帯式防空ミサイルシステム)でも迎撃できないはずです。飛行高度は低いので、高射機関砲であれば迎撃できるはずですが、今や対空機関砲自体が数少なく、UAVジャマーの方が軽易なため、こちらが使用されていると思われます。

安価で軽易なシステムですが、小型であることを利用して、TB2が運用できないレーダーや地対空ミサイルで防護されたエリアにも侵入し、重要な情報を収集しています。Orlan-10とスタンドオフ兵器の組み合わせは、極めて脅威と言えます。

残念ながら、ウクライナ側には、このOrlan-10に相当するUAVがありません。それゆえ、民生品のドローンを持つ市民に協力を要請している状況です。また、ロシアにはクラスハ-4などの電子戦機器があるため、保有していたとしても有効に運用できるかは、疑問も残ります。ですが、極めて安価で損耗を気にせず運用できるため、保有していればロシア側の運用中の地対空ミサイルを捜索し、トーチカ-U弾道ミサイルで攻撃することも可能だったはずです。程度の低いUAVと考えられがちですが、TB2であれば避けなければならない限界を突破することもできるUAVと言えます。

ウクライナにもっと強力なUAVがあれば
 
今回の戦争を見ていると、非常に歯がゆい思いをしています。それは、「もっと強力なUAVがあれば、戦況を大きく変えることができるのに」と感じるからです。

ウクライナ南部にも多数のロシア軍が侵攻していますが、北部や東部ほどには有効な補給路破壊ができていません。クリミアとロシア本土を繋ぐケルチ大橋をはじめ、クリミア半島とヘルソン州を繋ぐ複数の橋を攻撃することができれば、ロシア軍の補給を阻害し、南部ウクライナでの戦闘を相当に有利にすることができたはずです。

TB2では、これらの橋を防護している地対空ミサイル網を突破できませんし、突破できたとしても、TB2が搭載できる爆弾では威力が低すぎ、橋を落とすことはできません。

米軍が運用している無人攻撃機「MQ-9 リーパー」に誘導爆弾を組み合わせれば、これらの橋を攻撃できた可能性があります。MQ-9は、S-300やBukといった高高度に対応できる地対空ミサイルには撃墜されてしまう可能性がありますが、飛行高度や巡航性能が高いため、米軍のISRと組み合わせ、機器故障のタイミングを狙うこともできた可能性があります。さらに、まだ完成もしていませんが、TB2と同じバイカル社(トルコ)製のステルスUAV「クズルエルマ」があれば、これらの橋を地対空ミサイルが防護していても、強引に突破し破壊することができたはずです。

日本が導入を急ぐべきUAVは?
 
日本は今回の戦争を教訓として、どのようなUAVの導入を加速すべきでしょうか。

TB2は、対空火器が不十分な相手には高いコストパフォーマンスを発揮しますが、日本にとっての当面の脅威は中国軍です。もしも中国軍と戦闘になる場合、TB2では活躍の場が限られてしまいます。

現在、日本は「グローバルホーク」など複数のUAVを運用していますが、導入を急ぐべきなのは、Orlan-10のような、軽易でありながら高い性能を持つUAV、そしてクズルエルマのような強力なステルスUAVでしょう。

どちらも、日本が独自に開発することは十分に可能です。Orlan-10はほとんどの部品が市販品であり、同等のものを極めて短期間に開発することができます。

日本はOrlan-10に性能が近い製品として、米軍が使用する「スキャンイーグル」を既に導入しています。しかし、一式13億円もするため、損失を気にせず運用するには少々高級過ぎます。クズルエルマのようなUAVは、先進技術実証機である「心神」などの技術を活かすことで開発できます。輸出を行うこともできるでしょう。


・苦戦するロシア軍 ある司令官の死で露呈した通信システムのぜい弱さ プーチン大統領不満の矛先は・・・(テレ朝NEWS 2022年3月17日)

※ロシア軍が補給に苦しんでいる。
 
軍車両の燃料、兵士の食糧の補給は戦闘を続けるための必需品だが、現代の兵站(へいたん)の要は通信機能の充実だ。
 
プーチン大統領は、手元に集められた情報から、おそらく短期での勝利を確信していたのだろう。だから、戦闘が長引き戦線が広がるにつれて、兵員そのものも増強せざるをえなくなっている。
 
その肝心の部隊間の通信に、ロシア軍は問題を抱えていると指摘されていたが、ある司令官の死が、はからずもロシア軍の通信機能の問題点を浮き彫りにした。

死亡報告はやすやすと傍受された・・・

ウクライナ軍情報当局は、3月8日、ロシア第41軍第一副司令官ヴィターリー・ゲラシモフ少将がハリコフ近郊の戦いで死亡したと発表した。
 
ウクライナ侵攻が始まって以来、ロシア軍の上級司令官の死亡はゲラシモフ少将で2人目だ。最初に死亡したのもハリコフに攻め込んだ、同じ第41軍の副司令官だった。
 
職業軍人とはいえ、戦闘の現場で司令官クラスの上級将校が死亡することはまれだ。司令官は前線の情報を総合して状況を把握し、戦況に応じて部隊を指揮するのが本務で、普通は生死をわける最前線には出ない。

ゲラシモフ少将は、首都グローズヌイを瓦礫だらけの廃墟にした1999年の第二次チェチェン戦争や、2014年の電撃的なクリミア併合作戦、さらに2015年のシリアの軍事作戦にも参加した歴戦の司令官だ。シリアでの功績で勲章を授与されてもいる。
 
ロシア軍側はゲラシモフ少将の死を公には認めていない。しかしオランダに本拠地を置く調査ジャーナリズム「ベリングキャット」によると、ウクイナ当局がゲラシモフ少将の死亡の情報を入手したのは、戦闘現場のFSB(連邦保安局)連絡情報員が司令部の上官に報告した際の、電話を傍受したことによるものだという。

連絡情報員は本来は禁じられている一般の電話回線を使って、戦闘で3人の将校が死亡したと上官に報告したあと、死亡した3人の名前を読み上げた。その中にゲラシモフ少将の名前があった。
 
報告したFSB連絡情報員は上官の応答を待っていたが、あまりに沈黙が長いため、「聞こえていますか?」と尋ねた。これに対して上官は口ごもるように、「ああ、聞こえている。聞こえている」と繰り返し、最後に一言、「たいへんなことになった」と言って電話を切った。

ウクライナ東部では2014年の親ロシア勢力との武力紛争が始まって以来、ロシア軍もウクライナ軍も自軍の通信が相手の軍当局によって傍受されていることは承知している。それにもかかわらず、ロシア軍情報員からの電話はウクライナのSIMを使い、ウクライナの国番号からロシアの国番号の上官宛にかけられていた。そのため、やすやすとゲラシモフ少将の死がウクライナ軍当局に傍受されてしまったのだ。

自らの攻撃が招いた最新通信システムの機能不全

ロシア軍はクリミアに侵攻した2014年以降、通信環境の改革に取り組んできた。 

きっかけは、ウクライナ東部で親ロシア派が分離独立の戦いを始めた直後の2014年7月17日、ウクライナ東部を飛行中のマレーシア航空17便がミサイルによって撃墜され乗客乗員298人が犠牲になった事件だった。
 
明らかにロシア製の移動式地対空ミサイルが使われていたにもかかわらず、関与をかたくなに否定するロシアに対して、ウクライナ保安局は通信傍受記録を公開し、親ロシア派武装勢力がロシア軍情報員に撃墜を報告していたことを明らかにした。

ロシア側はウクライナの自作自演だと主張し続けたが、プーチン大統領はこの撃墜事件を受けて、軍に対して西側の通信機器を使用することを禁止した。さらに2015年には将兵に、勤務中個人の携帯を持つことを禁じるという措置をとった。いずれもウクライナ当局による会話の傍受を防ぐための措置だ。

そしてロシア軍は2021年にERAという第3、第4世代移動通信システムを用いたインターネットのクリプトフォン(暗号電話)を全部隊に配備していたはずだった。
 
しかしハリコフ突入時に、ロシア軍はハリコフの電波塔を、戦略施設として真っ先に破壊したため、部隊間の連絡にもERAを使用できなくなっていた。そのために禁じられていた一般回線を使うしかなかったようだ。

イーロン・マスク氏に協力訴えた副首相

一方、ロシア軍が通信用電波塔を次々に破壊したため、一時インターネットの通信が困難に陥ったウクライナのフョードロフ副首相は、2月26日、ツイッターで、アメリカの民間宇宙開発企業スペースXのCEOにこう訴えた。
 
「イーロン・マスクよ、あなたが火星を植民地にしようとしている間にも、ロシアはウクライナを占領しようとしている。あなたのロケットが宇宙から首尾よく着地する間にも、ロシアはウクライナの人々をロケット攻撃している。スターリンク端末をウクライナに提供してほしい。」

フョードロフ副首相はデジタル転換相も兼ねる31歳の元ビジネスマンで、公共サービスや教育のデジタル化を進め、ウクライナ全土で4G回線の導入を実現させたデジタル世代の申し子だ。
 
スターリンクとはスペースX社が開発を進めるインターネットアクセス衛星で、1600を超える小型衛星と地上の専用送受信機とをつなぎ、ネットが使用できる仕組みだ。

フョードロフ副首相がそう訴えた10時間後、今度はイーロン・マスク氏がツイッターで返信した。「スターリンクサービスはウクライナで利用可能になった。さらに送受信機を輸送中」。

3月13日の1日だけでも、スターリンクのアプリはウクライナ国内で2万1千回ダウンロードされていて、これまでの総数は10万回を超えるという。


・ロシア将官ら異例の5人戦死 スマホで連絡、筒抜け―英情報筋(時事ドットコム 2022年03月22日)

※ウクライナに対するロシア軍の侵攻開始から1カ月足らずで、同軍の将官ら上級将校少なくとも5人がウクライナ側に前線で殺害された。ロシア軍の使用する通信システムが極めて旧式なため容易に傍受され、将官の行動予定が筒抜けになっていることなどが背景にある。英情報筋が明らかにした。

ウクライナ当局や報道によると、戦死したのは陸軍の少将3人と大佐2人で、今月初めから18日にかけ、ハリコフやマリウポリ付近で狙撃されるなどし、死亡した。将官クラスの戦死としては異例の人数で、ロシア部隊の指揮系統の混乱につながっているもようだ。
 
英米は合同の通信傍受チームをウクライナに派遣しており、捕捉した情報はウクライナ軍・情報当局と共有されている。情報筋は「侵攻したロシア軍は初期的なアナログ通信でやりとりしている部隊が多い」と指摘。前線部隊の指揮官と後方の司令部がスマートフォンで連絡しているケースもあり、「通信内容が丸ごと傍受されているに等しい」と話した。
 
英国防関係者によると、ロシア軍は上級司令官が前線に出て部隊にハッパを掛ける伝統があるという。3年前にそれをなくすために軍の規則が変更されたが「昔ながらのやり方にこだわる司令官は今も少なくない」という。
 
情報筋によれば、前線部隊では、米欧がウクライナに提供した対戦車ミサイルへの恐怖から、前進を命じられても動かない兵士が増加。このため直接指揮を執るため将官らが現地に赴いたところ、待ち構えたウクライナ兵に標的にされたようだとしている。


・米当局「ロシア軍指揮官任命せず侵攻か」 米CNN(テレ朝news 2022年3月23日)

※ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍について、作戦を統括する指揮官を任命せずに侵攻に踏み切ったことで、統制が乱れている可能性が浮上しています。

アメリカのCNNは21日、複数の情報筋の話として「ロシアがウクライナでの戦争を率いる軍の指揮官を任命しているかどうか、アメリカが確認できていない」と報じました。

また、国防総省の関係者の話として、「地域を統括するトップがいないため、様々な地域で活動するロシア軍の部隊が資源を奪い合っているように見える」と伝えています。

CNNはこの点が、ロシア軍の統制が乱れている原因である可能性が高いと指摘しています。

また、CNNは別の当局者の話を引用し、ロシアのプーチン大統領が作戦の全容を政府の中枢にのみ知らせ、軍の指揮官には最後まで十分に伝わらなかったことで、現地に配置された部隊の連携ができなかった可能性があるとも分析しています。


・【解説】 ロシアは軍事的に何を誤ったのか ウクライナ侵攻(BBC News 2022年3月23日)

ジョナサン・ビール、BBC防衛担当編集委員

※ロシアは世界有数の強力な軍隊を保有している。しかし、その強力な軍事力はウクライナ侵攻の開始当初、ただちにあらわにならなかった。西側の軍事アナリストの多くは、ロシア軍のこれまでの戦いぶりに驚いている。「みじめなものだ」と言う専門家もいる。

ロシア軍の軍勢はほとんど前進せず、これまでの損失から立ち直れるのだろうかと疑問視する人もいる。3月半ばになって、北大西洋条約機構(NATO)の軍幹部はBBCに対して、「ロシア軍は明らかに目的を実現していないし、おそらく最終的にも実現しないだろう」と話した。だとすると、いったい何がうまくいかなかったのか? 西側諸国の複数の軍幹部や情報当局幹部に、ロシアが何をどう誤ったのか、尋ねてみた。

事実誤認が前提に

ロシアの最初の間違いは、自分たちより小規模なウクライナ軍の抵抗力と能力を過小評価したことだった。ロシアの年間国防予算は600億ドル(約7兆2600億円)以上。対するウクライナはわずか40億ドル(約4800億円)余りだ。

同時にロシアは、多くの諸外国と同じように、自らの軍事力を過大評価していたようだ。ウラジーミル・プーチン大統領は、ロシア軍を大胆に刷新し近代化してきた。それだけにその威力を自分で信じ込んでしまった可能性もある。

イギリス軍幹部によると、ロシアの軍事投資の大部分は、大量の核兵器と最新兵器の実験に費やされてきた。極超音速ミサイルの開発などが、それに含まれる。ロシアは世界最新鋭のT-14アルマータ戦車を開発したとされる。モスクワの赤の広場で行われる戦勝記念軍事パレードでT-14アルマータが登場したことはあるものの、戦場には現れていない。これまで実戦に投入されているのは、旧式のT-12戦車や、装甲兵員輸送車、大砲やロケットランチャーだ。

侵攻開始当初、ロシアは明らかに空では有利だった。国境近くまで移動させた戦闘機の数はウクライナ空軍の戦闘機の3倍だった。ほとんどの軍事アナリストは、ロシア軍が侵略開始と共に直ちに制空権を掌握するものと見ていたが、実際にはそうならなかった。

ロシア政府は、特殊部隊も、素早い決着をつけるのに重要な役割を担うはずだと考えていたかもしれない。

西側政府の情報当局幹部がBBCに話したところでは、特殊部隊スペツナズや空挺部隊VDVなどが少数精鋭の先遣隊となり、「ごく少数の防衛部隊を排除すれば、それでおしまい」だとロシアは考えていたようだ。しかし、開戦間もなく首都キーウ(ロシア語ではキエフ)近郊のホストメル空港に戦闘ヘリコプターで攻撃を仕掛けたものの、ウクライナ軍に押し返された。このためロシア軍は、兵員や装備、物資の補給に必要な空路を確保しそこねた。

代わりにロシア軍は、補給物資のほとんどを主に陸路で運ぶ羽目になっている。このため軍用車両の渋滞が発生し、渋滞すると予測できる場所も生まれ、ウクライナ軍からは急襲しやすくなっている。道路から外れて進もうとした重装甲車は、ぬかるみで身動きが取れなくなった。「泥沼にはまった」軍隊のイメージが、ますます強くなった。

この間、人工衛星がウクライナ北部上空で撮影したロシア軍の長大な装甲車の列は、いまだに首都キーウを包囲できていない。ロシア軍は主に、鉄道を使った補給ができている南部で、軍を進めている。イギリスのベン・ウォレス国防相はBBCに、ロシア軍が「勢いを失っている」と話した。

「(ロシア軍は)身動きが取れない状態で、じわじわと、しかし確実に、相当な被害をこうむっている」

かさむ被害と低い士気

ロシアは今回の侵攻作戦のために約19万人の部隊を集めた。そのほとんどはすでに戦場に投入されているが、すでに兵の約10%を失ってしまった。ロシア軍とウクライナ軍双方の戦死者数を正確に判断するための、信頼できる数字はない。ウクライナはロシア兵1万4000人を死なせたと主張するが、アメリカはおそらくその半数だろうと見ている。

ロシア兵の間で士気が下がっている証拠もあると、複数の西側当局者は言う。士気は「とてもとても低い」とさえ言う当局者もいる。別の政府関係者は、ロシア兵はそもそもベラルーシとロシアの雪の中で何週間も待機させられた挙句に、侵略を命じられたので、「凍えているし、くたびれて、腹を空かせている」のだと話した。

ロシアはすでに失った分の兵士を補充するため、国の東部やアルメニアなど遠方の予備役部隊さえウクライナに移動させている。シリアからの外国人部隊や、謎めいた傭兵組織「ワグナー・グループ」も、近くウクライナでの戦闘に参加する可能性が「きわめて高い」と、西側当局者は見ている。NATOの軍幹部はこれについて、「たるの底にあるものを必死でかき集めている」印だと述べた。

補給と後方支援

ロシア軍は基本的な部分でつまずいた。軍事には、素人は戦術を語るが、プロは兵站(へいたん、物資補給などの後方支援)を学ぶという古いことわざがある。ロシアは後方支援について、十分に検討していなかったと言える証拠がいくつもある。装甲車の縦隊は、燃料も食料も砲弾も足りなくなった。故障した車両は放置され、やがてウクライナのトラクターに撤去されていった。

複数の西側当局者は、ロシア軍は特定の砲弾も不足しつつあると考えている。巡航ミサイルを含め長距離精密誘導兵器をすでに850~900発は使用済みだが、これは無誘導型の兵器よりも補充しにくい。この不足を補うため、ロシアは中国に支援を求めていると、米政府は警告している。

対照的に、西側諸国からウクライナへの武器供与は絶えることなく続いており、ウクライナ側の士気を高めている。米政府は8億ドル(約950億円)規模の武器の追加供与を、発表したばかりだ。対戦車ミサイルや地対空ミサイルが追加されるほか、アメリカ製の小型自爆ドローン「スイッチブレード」も含まれる見通しだ。スイッチブレードはバックパックで運べるサイズで、地上の標的に小型の爆発物を届けることができる。

一方で西側当局者は、プーチン大統領が今からでも「これまで以上に残酷な形で攻撃を激化させる」こともあり得ると警告する。ウクライナ各地の都市を「かなり長期間」攻撃し続けられるだけの火力は、まだ残っていると。

様々な問題が作戦の速やかな遂行を妨げているとはいえ、プーチン大統領は「後には引かないだろうし、むしろエスカレーションを選ぶかもしれない。ロシアが軍事的にウクライナを敗れると、おそらく今でも自信を持ち続けているだろう」と言う情報当局者もいる。そしてウクライナ軍は確かにこれまで激烈な反撃を続けてきたものの、相当量の補給が続かなければウクライナも「いずれは弾と兵士が尽きてしまう」とも、この情報関係者は言う。

開戦当初に比べると、ウクライナが圧倒的に不利な状況ではなくなっているものの、それでもウクライナの劣勢は変わっていないようだ。


・「ロシア軍の命運は2週間」―旧ソ連軍に所属した軍事評論家が指摘する失敗(テレ朝NEWS 2022年3月23日)

※「ロシア軍はあと2週間しかもたない。兵器の補充は不可能」―ロシア軍を良く知る旧ソ連の元軍人は、ロシア軍の敗走は確実だと予想した。

アゼルバイジャンの軍事評論家アギーリ・ルスタムザデ氏はロシア語の独立ニュース動画サイト“Newsader”でロシア軍の侵攻は準備に欠けた非常識な戦術だったと断じた。

ルスタムザデ氏はアゼルバイジャン軍に30年勤務し、ナゴルノ・カラバフ紛争などの実戦経験もある、ロシア軍の内情を知る軍事専門家だ。3月19日のアップ以来、視聴数は3日間で110万ビューを越えている。以下、ルスタムザデ氏の分析を紹介する。

◆ウクライナでの戦闘の現状と懸念

「ウクライナ軍の“待ち伏せ戦“は結果をだしている」

現状での懸念はベラルーシ軍が参戦し新たな戦線をキエフの北西部で開くことだ。ベラルーシ軍は2万の兵力を有する。
 
ロシア軍について言えば、この20~30年、シリア以外では精密誘導などの最新鋭兵器を使ったことがない。兵力と兵器の数では世界で2番目の軍事大国だが、新しい戦略での戦闘も行っていない。歩兵と戦車隊中心の第二次大戦と同じ戦術だ。
 
現在の劣勢は、戦争計画段階での失敗の結果だ。航空機を使った通常の攻撃であれば全く別の結果になっていたはずだ。

この「特別軍事行動」は失敗するだろう。戦争計画を立てた段階では、ウクライナの民衆とウクライナ軍の抵抗を計算していなかった。これは許されない過ちだ。
 
ウクライナ側にチャンスはある。地上戦で、接近戦を避けて待ち伏せ戦を展開することだ。教科書のような防衛戦だし戦術も正しい。結果も出している。

ロシア軍は北と南から侵攻しているが、北は損害も大きく、防衛に入っている。近いうちに敗北するだろう。南のロシア軍は補給が堅実だ。クリミアや海岸部から兵器が補充されている。

◆経済制裁で弱体化するロシア

「軍費にロシア経済は耐えられない」

ロシアはもはや侵攻を始めた時のロシアではない。強力な経済制裁にさらされ、日々弱体化している。これほどの規模の経済制裁は例がなく、専門家でも1カ月後、1カ月半後を占うことはできない。しかし1カ月後のロシアは戦争前とは全く違った国になるだろう。経済状態は破局へ向かうだろう。平時と戦時では軍の費用は10倍違う。ロシア経済はそれに耐えられないだろう。
 
まずロシア軍は、精密誘導兵器の数が限られている。通常兵器はやまほどあるが、精密誘導兵器は少ない。精密誘導兵器は主に核弾頭を装填して使う想定で、通常弾を載せることは想定されていない。

◆武器の短期間での補填は不可能

「ビンニツィア空港攻撃に8発の高価なミサイルを使用」

ビンニツィア軍事空港に8発の高価なミサイルを使ったが、巡航ミサイルは最も高価な武器だ。システムが複雑で、一発がパイロットのいない一機の航空機のようなものだ。きわめて高価だ。

もし平時に軍が1万発の発射訓練を行っていると仮定すると、戦時には最低でもその100倍の弾薬を使う。経済の動員が必要なのはそのためだ。旧式の兵器弾薬はまだ1 カ月は持つだろうが問題は別の点にある。戦車のエンジンの交換、保守、大砲の交換が必要になる。たとえ巡航ミサイルがもっと必要になっても短期の補填は不可能だ。長い時間がかかる。戦術の立案段階の失敗は戦術では補えない。ロシア軍の不利な形勢を戦術の変更で立て直すことはできない。

現在、ロシア軍参謀本部では、弾薬生産などの現場の尻を叩いているが、それは侵攻前にやるべきことで、もはや手遅れだ。三交代制にしたところで、すぐに成果は出ない。1~2週間はかかる。その間にウクライナにはロシア兵がいなくなってしまうだろう。

◆予備兵まで前線に 兵員の補充を進めるロシア

ロシアが動員令を発令しない場合、海外にある基地の要員を呼び戻しても、せいぜい3~4万人だ。最終的には総動員令を出すか、停戦協議に応じるしかない。

ロシアはアルメニアの第102基地からロシア兵を転戦させる計画を立てている。南オセチヤやアブハジアではロシア兵の招集だけでなく、現地の志願兵募集を行った。アブハジアで志願した兵士もウクライナで死んだ。タジキスタンからもロシア兵を投入した。旧ソ連内の基地からの増派は部分的にすでに行っている。しかし3~4万人が限度だ。3~4万人の追加と言っても、ロシア国内の基地でも人員は必要で、全部をウクライナの前線に振り分けられるわけではない。

シリアからの傭兵についていろいろ言われているが、彼らは戦車などの正規軍に組み込まれて戦うことは不得意で、ゲリラ戦用だろう。

ロシアでは軍学校の学生もすでに前線に送り出されている。その部隊がウクライナで殲滅されたようだ。そんな予備兵まですでに前線に駆り出されているのだ。
 
軍学校の学生でも2、3年生なら十分戦える。招集兵よりましだ。他の国では招集兵は戦車やミサイルシステムなどの高度な技能、知識が必要なところには配置されないが、ロシアでは志願兵の数は実はあまり多くないのだ。いまや大部分が招集兵だ。志願兵の割合は50%を切るだろう。公表より少ないはずだ。
 
兵員数からすれば、今のロシア軍はもうアップアップだ。ウクライナ軍の出方にもよるが、遅かれ早かれロシア軍は負ける。ウクライナ軍は装備も兵器も弾薬も豊富だ。ウクライナ軍の志願兵はよく訓練されている。この8年でドンバスなど紛争地帯をローテーションで回り戦闘経験も積んでいる。戦闘経験を積んだ兵士は貴重だ。

◆あらゆる常識に反する作戦

「3週間でロシア軍は100機以上を失っている」

ロシア軍の兵士や将校は何のために自分たちが戦うのか、疑問を持っている。そんな兵士にどんなモチベーションがあるだろう。人間は何のために戦うのか、つまり何のために死ぬのかがわからなければ、士気が上がるわけがない。この戦争はあらゆる常識に反する作戦だ。

ロシア軍の死者は1万から1万2千人だと思う。人員の損失については、兵員を補充して何とかするだろうが、兵器の損害は短期では補えない。戦車が400台も破壊されたら、補充は不可能だ。兵器の破損によって、イニシアチブはウクライナ側に移りつつある。航空機の損害も影響している。航空戦力の援護がなければ、歩兵、戦車部隊の攻撃能力も防御力も大きく落ちる。航空戦力は短期では回復不可能だ。飛行士の訓練だけでも1年はかかる。
 
この3週間でロシア軍は100機以上を失っているだろう。航空戦力の喪失というのは、パイロットと飛行機が撃墜される、というようなものだけではない。ヘルソンではウクライナ軍によってロシア軍の7機のヘリコプターが攻撃されたが、損害はもっと大きい。爆発の小さな破片が機体に当たるだけでもヘリコプターは修理が必要になる。実際ロシア軍も修理するためにヘリコプターをロシア国内に運搬した。実際の損害はもっと大きいはずだ。

そういう意味ではウクライナ軍のスティンガー地対空ミサイルは、高度6千メートルまでの空域を部分的に閉鎖することに成功していると言える。ロシアの航空戦闘能力をかなり抑圧している。スティンガーはワンセット1500万から5000万円くらいするが、ウクライナ軍には1000基ほど提供されているようだ。

◆電子部品も底をつく

あと2週間もすると、ロシアはミサイルさえ打てなくなるかもしれない。ロシア軍は台湾製のGPS受信装置を使っているが、ロシアでは生産できないので、もう補充の手段がない。電子部品はほとんどが台湾製と中国製だ。ストックを使い果たしたら終わりだ。
欧米にとって経済制裁以上に効果があるのが、エネルギー関連の完全禁輸措置だろう。いまの経済制裁下では、ロシアはまだ戦えるが、本当に戦争を止めようと思ったら、エネルギー関連の完全禁輸しかない。しなければロシアは巨大な国だから、貧しくなっても10年はもつだろう。

◆限定核使用の可能性…報復なら“死の手”

「“限定核“を使う確率は五分五分」

軍人はみな、ロシアはウクライナに侵攻しないと思っていた。しかし侵攻した。わたしはロシアが小出力の限定核を使用する確率は五分五分だと思う。もしロシアが戦術核を使ったら、ウクライナにもNATOにも防御の手立てはない。限定核の場合は2キロ四方だけに被害を限定することも可能だ。

しかし、たとえロシアが限定核を使っても、NATO諸国は手を出さないと思う。エネルギー全面禁輸をかけるだろう。そうなればロシアは一年で崩壊する。米国でさえ核による報復はしないだろう。なぜならロシアが核攻撃を受けた場合、〈死の手〉というシステムで、アメリカだけではなく全世界に向けて核ミサイルが発射されるシステムになっているからだ。それはオートマティックであって、ON、OFFが可能なものではない。核攻撃を受けたと認識した瞬間、自動的に発動される仕組みだ。これが始動すれば地球の破滅を招く。

ソ連という国を思い出してみて欲しい。ほとんど外の世界から切り離されていたが、なんとか存在は可能だった。北朝鮮が生き延びているように、孤立したままロシアは生き残るだろう。世界から切り離されたロシアというのは最悪のパターンだ。

◆ウクライナ侵攻の出口は…
 
しかし、問題は、もしウクライナ軍が北部や北東部、南部でロシア軍を撃退できてもドネツク地域のあるウクライナ南東部では、ロシア軍を撃退することは難しいということだ。

北部と南部で撃退された場合、ロシアは停戦を申し出るだろうが、南東部は手放さない。その時、ウクライナは妥協するのか、最後まで戦うのか。

もしロシアが総動員令を発した場合は、長い戦争になるだろう。


・「ロシアに勝利の可能性なし」“FSB情報員の手紙”―真偽論争が続くその内容とは(テレ朝NEWS 2022年3月22日)

※“ロシアFSB情報員の手紙“とされる文面

本当のことを言おう。最近ほとんど寝ていない。ほとんどいつも現場だ。頭が少しクラクラする。霧の中にいるようだ。疲れ切ってしまっていて、ときどきすべてが現実ではないような状態だ。

パンドラの箱は開けられてしまった。夏までに世界規模で本当に恐ろしいことが起こるだろう。地球規模の飢餓は避けられない(ロシアとウクライナは世界の主な穀物供給地だ。今年は収穫も少ないし、その結果起きる問題は極限の破局を招くだろう)。
 
この軍事行動をどうやって上層部が決定したのかはわからない。でもいまわたしたち(連邦保安局)は追い立てられている。分析は罵られている――これはわたしからすれば決して正しくはない。
 
最近わたしたちは徐々に指導部の求めに合わせた報告をするよう圧力を受けていた。政治顧問やら政治家やら、その取り巻きたち、影響力のある連中がひどい混乱を作り出していた。
 
一番重要なことは、誰もこんな戦争が起きると知らなかったことだ。誰からも秘密にされていた。誰もこんな戦争が起きるとは知らなかった。だから誰もこんな制裁に備えていなかった。これは秘密主義の一面だ。誰にも知らされないのだから、考慮のしようがない。
 
電撃作戦は失敗した。与えられた課題を果たすのは、もう不可能だ。最初の1日か3日でゼレンスキーや政権幹部を捕まえ、キエフの主な施設を押さえ、降伏文書を書かせていたら、抵抗は最低限で済んだだろう。しかしその後はどうする? こうした理想的な想定でも解決できない問題があった。誰と交渉するのか、という問題だ。ゼレンスキーを排除したとしても、誰と合意を署名するのだ。ゼレンスキーと合意署名したとしても、彼を排除したら、合意書はただの紙切れだ。〈生活のための反対党〉は協力を拒否した。メドヴェドチュークは意気地なしで逃げた。ボイコというナンバーツーがいるがボイコはわれわれと協同することを拒否している。ツァレフを戻してもいいが、ツァレフには親ロシア派さえ反対している。ヤヌコヴィチを戻すか? どうやって? 
 
占領する? それだけの人員をどこから持ってくるのだ。警察司令部、憲兵隊、内通者取り締まり、警備隊――現地の最低限の抵抗を見積もっても50万人かそれ以上の要員が必要だ。補給は別にしてもだ。人数不足を質の悪い者で補おうとすると、すべてを台なしにする。これは理想的な想定である。そんな理想的な状況はない。
 
ではどうするか。動員令は二つの理由で宣言できない。

1)大規模動員はロシア国内の状況、政治的、経済的、社会的状況を悪化させる。
2)ロシア軍はロジスティックスが過剰に重荷になっている。大きな軍部隊を何度も送るとどうなるか。ウクライナは大きな国だ。われわれに対する憎悪はいまや渦を巻いている。道路は通行不能で補給部隊は立ち往生するだろう。行政もうまくいかないだろう。混沌だ。
 
損害については誰も知らない。最初の二日間はまだコントロールが効いていたが、いまはどうなっているのか誰にもわからない。大規模な部隊が通信連絡を失っている。司令官さえも、何人死んで何人捕虜になったかわからない。死者は何千人の単位だろう。1万を超えるかもしれない。司令本部では誰も正確には知らない。

もうゼレンスキーを殺しても捕虜にしても、何も変わらない。われわれに対する憎悪のレベルはチェチェンと同じだ。われわれに忠実だった人までも反抗している。計画を立てたのは上層部で、まさかわれわれが攻撃されるなどということが起きるとは言われていなかった。言われていたのは、最大限の脅威を作りだし、必要な条件で平和裏に合意することだった。なぜならば、われわれは最初は、ウクライナ国内でゼレンスキーに対する反対行動を準備していたからだ。直接侵攻することは考えていなかった。

これからは市民の損害は幾何級数的に増えるだろう。われわれに対する抵抗戦も強まる一方だろう。歩兵を市街に入れるのは失敗した。二十の降下部隊でなんとか成功したのは一隊だけだった。

包囲戦を行うか? ここ数十年の欧州の経験では(セルビア)、包囲されても何年にもわたって町は機能する。

一応のデッドラインは6月までだ。一応、というのは六月にはロシアの経済も何もかもすっからかんになるからだ。来週にはどちらかが折れて出るだろう。この極度に緊張した状況はこれ以上ありえないからだ。本能で行動し、感情で行動するーーしかしこれはポーカーではない。賭け値は上がっていくばかりだ。ひょっとして何かが当たることもある、という希望で。ただ困ったことにたった一歩ですべてを失う可能性もある。

ロシアには出口がない。勝利の可能性がないのだ。敗北は大いにありうる。弱い日本に蹴りを一発入れて、早々に勝利してしまおうとしたが、戦争を始めてみると軍は負け戦を続けた前世紀初頭とまったく同じことが繰り返されてしまった。

良いことと言えば、われわれが「牢人」たちを大量に前線に出すことを食い止めたことだ。囚人や「社会的不適合者」を前線に送ると軍の政治的道徳的な精神が堕落する。敵は恐ろしいほど戦う意欲に燃えている。戦闘もできるし、中級司令官も豊富だ。武器もある。支援もある。……

誰が「ウクライナ電撃作戦」を考えついたのは知らない。もし実行計画が提示されていたら、われわれは最低でも、当初計画には議論の余地があり、多くの点で再確認する必要がある、と指摘しただろう。たいへん多くの点を。いまではわれわれは首まで糞に埋まってしまった。そしてどうしていいのかわからない。「非ナチ化」「非武装化」というのは分析的カテゴリーではない。それが達成されたかどうかの明確な基準がないからだ。

今後、待ち受けるのは愚かな補佐官が経済制裁を弱めるよう欧州と紛争を始めるよう上層部を説き伏せることだ。経済制裁を弱めるか、あるいは戦争か。もし拒絶されたら、その時は1939年のヒトラーのように、真の国際紛争になるだろう。後世、われわれの”Z”はナチスのカギ十字と並べられるだろう。

限定核の確率はどうか? 軍事目的ではなく、脅しのためだ。そしてすべてをウクライナのせいにするだろう。現在、連邦保安局は坑道を掘っている。ウクライナが秘密裏に核兵器を作っていたと証明するためだ。
 
わたしはプーチンが、世界を破滅させるために「核ボタン」を押すとは思わない。

第一に、上層部では一人の人間が決定を下すのではない。最後には誰かが「ジャンプ」するのだが。人は多い。「一人の核ボタン」というものはないのだ。

第二に、核がうまく機能するのかについて疑念がある。管理の透明性が高いほど欠点を明らかにしやすいが、上層部では誰がどう管理しているのか不明だ。すべてがいつもなにか変なのだ。核ボタンのシステムがデータ通りに機能するという確信はない。しかもプルトニウム弾は十年ごとに交換しなければならないのだ。
 
そして第三に、議員やもっとも身近な閣僚さえ自分のそばに寄せ付けない人間に、核のボタンを押して自分を犠牲にする決意があるとは思えない。それがコロナウィルスへの恐怖なのか、襲撃されることへの恐怖なのかは問題ではない。もっとも信頼する人さえ近づけない人間がどうして自分自身と近しい人間を破滅させようと決心できるだろうか。


・英、ミサイル6000基を追加供与=ウクライナ支援倍増(時事通信 2022年3月24日)

※英政府は23日、ロシアの侵攻下にあるウクライナに対し、対戦車用を含むミサイル6000基と2500万ポンド(約40億円)の追加軍事支援を行うと発表した。英国は既に4000基を超える対戦車兵器を提供しており、支援を大幅に拡大させる。

ジョンソン首相が24日、ブリュッセルで開かれる北大西洋条約機構(NATO)など一連の首脳会合で表明する。各国にも支援強化を呼び掛ける。


・ロシア兵最大4万人死傷・捕虜=NATO推計、侵攻1カ月で―米報道(時事通信 2022年3月24日)

※複数の米メディアは23日、ウクライナへの侵攻1カ月間で、最大4万人のロシア兵が死傷または捕虜、行方不明になったとする北大西洋条約機構(NATO)の推計を報じた。このうち7000~1万5000人が戦死したとみられている。


・ウクライナ、ロシア揚陸艦の破壊発表 アゾフ海の港で(AFPBB News 2022年3月25日)

※ウクライナ海軍は24日、アゾフ海(Sea of Azov)に面した南部ベルジャンスク(Berdyansk)港で、停泊中だったロシア軍の揚陸艦を破壊したと発表した。

ベルジャンスクは、ロシア軍に包囲された南東部の港湾都市マリウポリ(Mariupol)近郊にある。ウクライナ海軍はソーシャルメディアに、ロシア軍が占領するベルジャンスク港に停泊中だった黒海艦隊(Black Sea Fleet)の大型揚陸艦「オルスク(Orsk)」が破壊されたと投稿。大型クレーンの隣に停泊している灰色の大型船から黒煙が立ち上る映像を公開した。

ウクライナ海軍の発表についてロシア国防省はコメントを出しておらず、AFPは今回の攻撃について確認できない。

ロシア国営タス通信(TASS)は先に、ロシア国防省系のテレビ局ズベズダ(Zvezda)を引用し、オルスクのベルジャンスク到着は黒海(Black Sea)での後方支援強化につながる「大きな出来事」と表現していた。