・中国から「親戚」が消える日(JB Press 2022年3月9日)

伊東 乾
 
※今回は少子高齢化を巡るトピックスをご紹介しましょう。

中国の近未来:

不自然な人口政策が「親戚」を断絶

人口政策は一国の根幹というべき本質的なポリシーであるのに、日本は本当の意味で真剣にこれと取り組むことがなかった。

しかし、誤った取り組みは、もっと破滅的な結果をもたらします。

1979年から鄧小平の中国が全面展開した「一人っ子政策」は、急激に増える人口が食料不足、端的には飢饉を引き起こす懸念から、都市部に限定して1962年からスタートししました。

もともとは「文化大革命」(1965-75)の先行施策というべきものでした。

文革で中国全土を荒廃させた毛沢東が76年に死去した後、実権を握った鄧小平が「改革開放」とともに推進した中国近代化の鍵であったはずの「一人っ子政策」。

いまとなっては、浅慮な計画経済の人口政策で、中国に100年の惨禍を与えるものとなっており、鄧小平の評価も再検討が必要な国難を生み出してしまった。

時と共に進んだ労働力不足から、中国政府は段階的に「2人目容認」の姿勢に軟弱化し、最終的に2015年、36年間続いた一人っ子政策は廃止されました。



しかしちっとも子供は増えません。減少の一途をたどっています。

複数の予測が、2020年代半ばに中国では若年層と高齢層との人口逆転が起きることを予言しています。

それには理由があるのですが、自明の理でありながら、ほとんど中国国外で紹介されない要素も少なくないようです。

ここでは一人っ子政策が作り出した、中国における「親戚構造の破壊」問題を考えてみましょう。



1979年から2015年まで、つまり2022年時点で7歳から43歳という、子供と子育て年齢の両親全体をカバーする、中国コア世代の人口が、ほぼ「一人っ子」ばかりになっています。

これはつまり、現代中国のカップルは、男女を問わず兄弟がいないことを意味している。2人がカップルになれば、夫婦の上に「両親」が2組、4人いることになる。

ほかに兄弟姉妹はいません。

さて、ここからが中国の中国たるゆえんになりますが、中国の多くの地域では親孝行という社会道徳(というより、世間体に近いものであるらしい)が徹底している。

これは基本、すばらしいことでもあります。ただ、このため「親を高齢者施設に入れる」などというのは、もってのほかになってしまう。

もちろんそういう施設が中国にも存在しないわけではない。

しかし、施設に入れられた老人は「可哀そうな人」を見る眼差しを向けられ、親を施設に入れるような息子や娘は人外外道の親不孝者として、かなり厳しい社会的な批判にさらされる可能性が高い。

そんなバツの悪いことは、そこそこ以上の環境にある家庭では考えられず、両親は息子と娘が面倒を見る。

つまり、若夫婦2人で、4人の老人を養わなければならないケースが大半という状況になっている。

そんな中で、子供をもうける余裕がどれほどの若夫婦にあるか。

さらに、です。

夫にも妻にも、兄弟姉妹がありません。つまり「おじさん」「おばさん」さらには「いとこ」「甥、姪」といった概念が、16億人規模で成立しない状況が、20世紀末年から中国の水面下で、しかし確実に進んでいたのです。

「一人っ子」ばかりの中国には「親戚」という概念が、ほとんど通用しなくなっている。

これは一人っ子政策が終わった2015年までに生まれた世代が、ほぼ出産年齢を卒業する2065年頃まで、延々続く可能性が高い。

2015年以降は一人っ子どころか、子供を持てない「一人っ子同士夫婦」が少子化を加速する懸念が持たれています。