※ブログ主注:初期の作戦ではそのように見えましたが、2024年2月現在、国力と人口の差から、現在はロシアの勝利はほぼ確定です。長期戦・総力戦になると国力がものをいうようです。





・ロシア空軍に不可解行動 ウクライナの空で大損害を被るのも当然な「定石」軽視とは?(乗り物ニュース 2022年3月5日)

関 賢太郎(航空軍事評論家)

※現代の戦争における、いわゆる「定石」といえるもののひとつが「航空優勢の確保」です。しかしウクライナに侵攻したロシア軍は、これを軽視あるいは無視したかのような不可解な作戦行動をとりました。どう読み解けるのでしょうか。

ウクライナの徹底抗戦とロシア軍の不可解行動
 
2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻を契機とする戦争も、同3月3日でいよいよ第2週目に入りました。

この1週間の動きや錯綜するさまざまな情報などから、ロシアのプーチン大統領は、早ければ開戦から2日のうちに勝利しウクライナを併合、大ロシアを再興するという甘い見積もりで戦争に踏み切ったのではないか、という見方が強まりつつあります。



(上)ロシア空軍のイリューシンIl-76大型輸送機。生産数は1000機。ロシア空軍はウクライナにて、この無防備な機体をなぜか自殺的な作戦に投入し2機を失った。

プーチン大統領の思惑はどうあれ、実際にロシア軍は「土台の腐った納屋などひと蹴りで倒壊させられる」と言わんばかりの速攻作戦を実行しました。ところがウクライナ軍による頑強な抵抗にあい、わずか1週間で自軍に2000人とも6000人ともされる死傷者を出してしまう大失敗を招いてしまいました。

両国の軍事力は防衛費で比較すると、ロシア10に対しウクライナは1。単純に考えれば勝負にさえならない差があるにもかかわらず、なぜロシアは多数の犠牲者を出しつつ、当初の作戦を遂行できていないのでしょうか。

その理由のひとつは、戦争の常識を無視したロシア軍の不可解な作戦行動にありそうです。

ロシア軍が大損害を被った主要な原因のひとつに、航空優勢を得られなかったという点が挙げられます。「航空優勢」とは「ある空間において、ある時間内、味方の航空活動において大規模な妨害を受けることがなく、また敵国の航空活動を困難とさせた状態」を意味し、「制空権」という言葉でも知られます。

航空機は非常に速く、山や海にもさえぎられることがなく、爆弾や物資、人間を好きな場所へ即座に運ぶことができます。よって航空機を自由に使える場合は非常に有利に作戦を行うことができ、また逆に相手に使われると大変な不利となります。

航空優勢の確保が戦争の勝敗を決めてしまうことも珍しくなく、開戦時は航空優勢を確保するための作戦がほぼ必ず実施されます。より具体的に言うならば、敵航空機を離陸させないための飛行場への爆撃、そしてレーダーや地対空ミサイルなど敵防空システムの破壊です。

航空優勢を確保しないとどうなるか ロシア軍の実例
 
ところがロシアによるウクライナ侵攻では、不思議なことが起こります。ロシア軍は航空優勢確保のための爆撃をひと通り実施しただけで、なぜか全く不徹底なまま「航空優勢を確保した」と判断、なんとまだ地対空ミサイルなどがたくさん残っているウクライナ本土に対し、ヘリコプターや輸送機を突っ込ませ陸軍を送り込む「空挺降下作戦」を実行してしまったのです。

その結末は大変、無残なものでした。ウクライナ軍は最初の5日間で、ロシア空軍の飛行機29機、ヘリコプター29機を撃墜したと発表。この数字にはエンジン4基を搭載し兵員輸送にも使われるイリューシンIl-76大型輸送機が2機含まれており、最悪この2機だけで200人から400人のロシア兵が死亡した可能性があります。また、降下した空挺部隊が敵中に孤立したまま撃破されるといった事態も、少なからずあったようです。

ウクライナが巧妙に地対空ミサイルを隠蔽し、見事な「死んだふり」にロシア空軍がまんまと引っかかったという点はほぼ間違いないと思われますが、なぜロシア空軍の作戦がここまで杜撰だったのかは、さらなる調査が必要となるでしょう。



(上)S-300長射程地対空ミサイル。射程100km以上。ウクライナ上空はほぼこのミサイルの支配下にあると推測される。ロシア、ウクライナ両国とも保有。

これはあくまでも筆者の推測ですが、ウクライナ軍が保有する地対空ミサイルはほぼ旧ソ連製のものであり、ロシア空軍は旧ソ連製地対空ミサイルの怖さを甘く見ていたのではないでしょうか。

旧ソ連製地対空ミサイルはベトナム戦争で、中東戦争で、湾岸戦争で、ユーゴスラビア戦争で、常に西側諸国空軍を苦しめてきました。これが恐ろしくて仕方がないアメリカ空軍などは、地対空ミサイルを破壊するための専門部隊まで保有しており、たとえば三沢基地(青森県)に駐留する第35戦闘航空団がそれです。アメリカは戦争において徹底的に航空優勢の確保を行ってきましたが、それでもなおユーゴスラビア戦争では、ステルス戦闘機F-117が旧ソ連製地対空ミサイルに待ち伏せされ落とされています。

身をもって知る 実は優秀だった自国ロシアの対空火器
 
一方ロシア空軍は旧ソ連崩壊後、比較的小規模な武装組織や、比較的小国のジョージアを相手に戦ってきたものの、組織だった高度な防空システムを有する相手との戦いはウクライナが初めてです。



(上)防空網潰しの要となるはずだったSu-34戦闘爆撃機。レーダー電波源へと誘導されるKh-31ミサイルを搭載する。露軍機が少なくとも1機、撃墜されている。
 
ウクライナでは地対空ミサイルを避けるため、非常に低い高度を飛んでいるロシア空軍機が多く目撃されています。低い高度はたしかに長射程の地対空ミサイルに狙われにくくなる利点がありますが、その一方で地上の機関砲や携帯型地対空ミサイルの射程に入ってしまう欠点があり、これもまた非常に危険です。

機関砲弾は、命中しても即座に墜落とは限らないので地対空ミサイルよりは脅威ではないものの、被弾すれば何かが壊れ修理が必要ですから、整備に時間を要し部品在庫も消費、稼働率を確実に下げるので、すでにかなりの機が飛行不可能になっている可能性もあります。

高く飛ぶと長射程地対空ミサイルでほぼ撃墜される、低空を飛ぶと消耗を強いられる。この厳しい状況にあってロシア空軍は7日目までに、さらに飛行機2機、ヘリコプター2機を失いました。最初の5日間に比べると損害が激減しており、ほとんど活動していないという見方もできます。

そうだとして、「活動していない」のか「活動できない」のかは不明ですが、いずれにせよ今後ロシア空軍は大きな変革が必要となるはずです。しかも間違いなくやってくる経済制裁の影響下にあって、それは苦難の道のりとなるでしょう。


・航空作戦の常識と乖離、ロシア空軍の活動が異常に低調なのはなぜか?(JB press 2022年3月6日)

数多 久遠:小説家・軍事評論家、元幹部自衛官

※ロシアがウクライナに侵攻を開始して10日以上が経過しました。開戦前、私を含む軍事専門家の誰もが、ウクライナ上空の航空優勢はロシアのものになると予測していました。ウクライナの航空活動はもって数日、早ければ数時間で終了するだろうと予想されていたのです。ところが、ウクライナ空軍は、現在でも活動を継続しています。

もちろん、状況は苦しいようです。ウクライナ政府はNATOに飛行禁止空域の設定を求め、MANPADS(携帯式防空ミサイルシステム)より強力な対空兵器の供与も求めています。真偽の怪しい「キエフの幽霊」(防空戦で多数のロシア軍機を撃墜したとされるウクライナ空軍のパイロット)の噂を否定しないのも、戦意高揚のためでしょう。

それでも現在までのところ、ウクライナ航空戦は、ウクライナ側にとって奇跡と呼んでいい状況が続いています。そこで以下では、これまでのウクライナ航空戦を概括し、ウクライナ軍善戦の理由を考察することで、今後の展望を提示したいと思います。

ロシア空軍の活動は低調
 
3月6日現在、ウクライナ側の発表によるロシア軍の航空、防空戦力の損失は次の通りです。

・航空機:44機

・ヘリ:48機

・UAV(無人航空機):4機

・防空システム:21台

ロシア軍は、ウクライナ周辺に500機の戦闘機/戦闘爆撃機、50機の戦略爆撃機を集めていました。損耗率としては、地上で侵攻しているロシア軍と同程度の損害を受けていると考えて良さそうですが、航空戦力は高価です。かなりのダメージを受けていると言ってよいでしょう。

しかし、ロシア軍の思考に立てば、航空優勢の確保は、地上での戦局を有利にするために必須のはずです。損害が出ても、ウクライナ空軍を排除するOCA(Offensive counter air:攻勢対航空)、中でも防空網を破壊するSEAD/DEAD(Suppression/Destruction of Enemy Air Defence)は、最優先で完遂すべき作戦だったはずです。それができていれば、UAVの「バイラクタルTB2」によって多数の車両を破壊されることはなかったに違いありません。実際、上記戦果の内、航空機6機、ヘリ3機は、最新データが更新された24時間以内の数字です。無理を押して攻撃をしかけた結果です。

しかしロシア軍の航空活動は、成功していないだけでなく、実施しようとする動きも見られません。これは、湾岸戦争以降の航空作戦の常識からかけ離れています。

戦闘の開始から、つぶさに状況を見守っていた私は、開戦当日の時点で、このことを奇妙だと感じていました。

海外の専門家も同様に感じたようで「ミステリアスだ」と報じる記事もありました。それくらい、異常なことなのです。ウクライナ空軍の抵抗が頑強だというだけでなく、まるでロシア空軍に積極的な攻撃の意思がないようにさえ見えました。

活動が低調な理由、5つの可能性
 
なぜロシア軍の航空活動は低調なのか。その原因として、いくつかの可能性が指摘されています。ここでは以下の5つの可能性を取り上げます。どれも、短期間に改善できる見込みは低く、ロシア軍が活動を活発化させればさらに被害が拡大し、撃墜される可能性が高まるでしょう。

(1)精密誘導兵器の不足

ロシア軍に「PGM」(precision guided munition、精密誘導兵器)が不足しているのはほぼ間違いありません。特に、防空システムを破壊するための「ARM」(anti-radiation missile:対レーダーミサイル)は、撃ち尽くしてでも投入し、ウクライナの防空網を破壊するために使用するべき弾種ですが、2月24日に首都キーウで「S-300」防空ミサイルに迎撃されてからは、確実な投入実績の確認はされていません。ウクライナ側は「SAM」(地対空ミサイル)用のレーダーだけでなく、警戒管制レーダーさえ運用しているようです。

そうした状況から、ロシア空軍はウクライナ国内に侵攻しても、中高高度を攻撃できるSAMによる迎撃を恐れ、低高度を飛行せざるをえなくなっています。結果的に、欧米諸国が多数供給した安価なMANPADSに撃墜されることさえ多発しています。

(2)ロシア軍防空システムから誤射を受ける可能性

ロシア軍防空システムからの誤射の可能性ははっきりしませんが、捕虜となったロシア兵から得られた情報では、ロシア軍の通信が極めて貧弱で、部隊が混乱に陥っている様子です。防空システムからの誤射は、十分にありえる状態なのでしょう。

ウクライナ側の事案ですが、キーウ上空でウクライナ軍のSu-27戦闘機がウクライナ側の防空システムによって撃墜されています。ロシア側で同様の事象が発生する可能性は高いと言えます。

(3)ロシア軍の練度不足

練度不足自体は、ロシア軍の飛行訓練の少なさが確認されているため間違いありません。ですが、それがどれだけ航空作戦が低調な理由に結びついているかどうかは不明です。

とはいえ、基本的な空戦機動などはできるとしても、組織的な防空が行われている空域に対して、多数機を協同させて侵攻する「ストライクパッケージ」の編成、運用ができないという可能性は高く、損害を受けるだけでなく、ロシア空軍の実力が露見することを恐れているとする分析も出ています。

(4)戦闘捜索救難が困難

航空作戦は、基本的にウクライナ領内、それもウクライナ側支配地域内で発生しています。そのため、撃墜されたロシア軍パイロットが脱出に成功した場合でも、「CSAR」(Combat Search and Rescue:戦闘捜索救難)を行おうとすれば、ウクライナ側の迎撃、もっと言えば、MANPADSによる待ち伏せを受けることになります。

実際、パイロットを救出するために強行侵入したヘリが、撃墜されています。救出される可能性が低いとなれば、パイロットが尻込みをしても不思議ではありません。

(5)アメリカによる情報提供

アメリカは、今回の戦闘が始まる前から、ほぼリアルタイムの情報をウクライナ側に提供していることを明らかにしています。ポーランド上空を飛行するAWACS(早期警戒管制機)が得た情報を、ウクライナの防空に活かしているようです。

開戦初日の2月24日に、キーウ北西にあるホストメリ/アントノフ空港をヘリ部隊が急襲し、占拠しました。そこに、キーウとゼレンスキー大統領を襲撃するため、18機もの大型輸送機IL-76がロシア北方のプスコフから離陸し向かっていました。ウクライナ空軍は、これを迎撃し2機のIL-76を撃墜したため、首都キーウ急襲作戦は、ヘリで急襲した部隊だけで行う結果となり、最終的に全滅しています。これは、AWACSからの情報による迎撃だったと思われます。

ただし、AWACSをはじめとした米軍機は、開戦後はウクライナ上空に入っておらず、ドニエプル川以東の監視能力は限定的です。

NATOに求める「飛行禁止空域」設定、武器供与
 
ウクライナ側の損害は発表されていませんが、ロシア側の損害をはるかに上回っていることは確実です。ウクライナ側は飛行場の写真を何件か公開していますが、ロシアが強行奪取しようとしたホストメリを除けば、被害の少ない基地を広報の意図で公開したものばかりです。

そのため、ウクライナ側の本当の被害程度はよく分かりませんが、EU諸国から航空機の機体供与を求めていることに加え、3月5日にウクライナ・NATO間の協議で焦点になった飛行禁止空域設定をウクライナ上空に求めていることから考えても、かなり苦しい状況が伺えます。さすがに余力はあまりないのでしょう。航空機自体はかなりの機数が残っているとの情報もありますが、損傷の修復ができず、ミサイル・弾薬や燃料が枯渇しかけているようです。

この飛行禁止空域は、3月3日あたりからウクライナのクレーバ外相の発言に見られており、NATOがウクライナ上空に飛行禁止空域を設けるというものです。「禁止」と言葉で言うことは簡単ですが、NATOが禁止を唱え、ロシアがそれに違反すれば、NATOがそれを防ぐという措置になります。つまり、これは実質的にNATOの参戦となるもので、現状ではNATOが認めるはずのないものです。

3月5日にNATOが明確に拒絶したため、今後、ウクライナ側の要望は航空機や防空システムの供与を求める方向にシフトするでしょう。4日の時点で、この話題は現在協議のテーブル上にあり、クレーバ外相がMANPADSではなくもっと強力な防空システムを要求していることが明らかになっています。ただし、アメリカ世論では飛行禁止空域設定に対する賛成が多く、今後事態を急変させる決定が行われる可能性は否定できません。

必要とされる高度な防空システム
 
しかし強力な防空システムの供与を受けても、ウクライナ側が使用できなくては意味がありません。そのため、ウクライナが使用した経験のあるロシア系の防空システムを、東欧のNATO諸国から供与を受ける形となるでしょう。

MANPADSよりも強力な防空システムと言っても多種多様です。ウクライナ側は、「パンツィーリ」などの近距離用防空システムを多数鹵獲(ろかく)していますが、ウクライナ側の兵器として使用を試みている形跡は多くありません。「ブーク」などの中距離に対応できる防空システムは軍の基地に運び込み、使用準備をしているようです。その原因は、恐らくSAM運用経験のある兵が不足していることにあると思われます。

ウクライナ側の防空システムは最大限稼働させているはずですし、被害を受けた部隊では、兵が死傷してしまっています。兵器が高度化しているため、民間人を動員した郷土防空隊などではMANPADS以外の高度な対空兵器は運用できません。この点を考えれば、筆者は、S-300のようななるべく高度な防空システムの供与を受けるべきだと考えています。

もちろん、高度な防空システムは東欧諸国にとっても虎の子であり、供与を渋る可能性が高いですが、高度な防空システムほど、一度戦闘準備を整えてしまえば、コンソールについて操作する人員の他は装備に給油だけすれば運用を継続できます。特にS-300は弾道ミサイルやARMさえ迎撃できるため、ほぼ固定のままでも運用継続が可能です。

または、ブークのような、車両1両でも戦闘ができる自己完結性の高いシステムでも良いかもしれません。予備弾の搭載車両などは郷土防衛隊でも支援することができます。

ウクライナ航空戦の今後の展開は?
 
ウクライナ航空戦は今後どうなるのでしょうか。現時点ではまだウクライナ中央部でも、ウクライナの航空機が活動できているようです。また、SAMが防空火網を敷いているため、バイラクタルTB2の運用も可能になっています。

しかし、各地の飛行場で燃料タンクや弾薬庫の破壊されており、継戦能力は徐々に低下しています。航空機も機体故障が多いのか、稼働機数は低下しているようです。ウクライナ中央部ではSAMに防空を頼ることになり、エアカバーの届かない場所では、ロシア軍航空攻撃の被害が増えるでしょう。EU諸国からどれだけの防空火器が供与されるかにかかっています。

最新情報では、ウクライナが運用可能なロシア製戦闘機を東欧諸国が供与し、その補填として、アメリカが東欧諸国にF-16などの米国製戦闘機を供与する、言わば玉突き供与案も出ています。これが実現すれば、航空優勢はさらにウクライナ側に有利となる可能性があります。

ウクライナ西部では、少々状況が違います。かなり機微な情報だったので、その後の情報が途絶え、真偽がいまだに怪しい状態ですが、ポーランドが機体をウクライナに供与するだけでなく基地をウクライナに提供するという情報が流れています。ポーランド領内基地での供与されたウクライナ機が活動しているとしたら、ポーランドからの義勇兵が、供与機を運用している可能性もあります。またこれが実現していなかったとしても、ロシア側は警戒を強いられているはずです。

結果的に、ポーランドに近いウクライナ西部は、今後もロシア側の航空活動は少なく、航空優勢はウクライナにある状態が続くでしょう。

なお、このポーランド側が実態的にウクライナ西部にエアカバーを敷き、ロシアの航空活動からリヴィウなどの都市を守っているという事実が、ウクライナ側が飛行禁止空域設置をNATOに要望している背景にあると思われます。「ウクライナ西部だけでなく全土の空域を守ってくれ」ということなのでしょう。

しかし残念ながら、アメリカ世論に賛同が多くともNATOにそれはできないでしょう。ロシアが核の使用に踏み切れば、対抗策として出てくるかもしれませんが、そのような事態は想像することさえ辛いものです。


・航空優勢をどちらが握るか 元陸将補が占うウクライナの戦況(Forbes Japan 2022年3月9日)

※ロシアによるウクライナへの全面侵攻から9日で、2週間が経った。ロシア軍は当初の軍関連施設への精密攻撃から、民間施設も含む全面攻撃に舵を切ったように見える。限られた情報のなか、現在の戦況をどう分析すれば良いのか。陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長などを務め、『自衛隊は市街戦を戦えるか』などの著書がある二見龍元陸将補は「航空優勢をどちらが握るのかが焦点になる」と語る。

ロシア、ウクライナ両国を含め、世界中のメディアがウクライナ情勢を報道している。ただ、ロシア軍とウクライナ軍による組織戦闘の映像は流れてこない。二見氏は「ロシア、ウクライナ両軍ともに手の内を見せたくないから、映像も流れない」と語る一方、「ウクライナ軍はロシアとの重戦力との戦い、地雷や対戦車火器による防御を行い、進出してくるロシア軍を食い止めているのではないか」と語る。

二見氏によれば、サイバー戦を巡り、ロシアがウクライナの頑強な抵抗に遭っている様子がうかがえるという。「ロシアは2014年のクリミア併合の際、メディアやSNSにサイバー攻撃をかけて、ロシアに都合の良い情報を流して、住民のコントロールに成功した。今回は、ウクライナがロシアの自由にさせていない」という。

キエフ中心部では1日、テレビ塔がロシア軍と思われる攻撃を受けた。それでも、ウクライナではテレビやラジオの放送が続いている模様だ。ゼレンスキー大統領らウクライナ政府高官も連日、テレビなどを通じてメッセージを全世界に発信している。二見氏は「クリミアのようにロシア軍に有利な情報がどんどん流れる事態に陥っていない。相当、ITに強いメンバーが対抗策を練っていたとみられる。情報戦の不調は、ロシアがキエフやウクライナを早期に陥落させられない原因の一つではないか」と語る。

ロシアは確かに徐々に戦術を変えているように見える。主要都市では、民間施設を含む無差別な攻撃が始まっているようだ。ロシアのプーチン大統領は核兵器の使用も辞さない考えを示している。ロシア国防省は6日、北大西洋条約機構(NATO)加盟国などを念頭に、ウクライナの軍用機の駐機を認めたり、ロシア攻撃のために空域を利用させたりする行為を参戦とみなす考えを示した。

二見氏は、こうしたロシアの行動は、サイバー攻撃のほか、補給の行き詰まりも原因になっている可能性があると解説する。「(ウクライナ国境に集結していた)19万のロシア軍兵力のほとんどが、1週間以上も戦闘しているのは、なかなか大変だ。特に兵站線の維持が難しい」という。二見氏によれば、1個師団(1万人から1万5千人)に必要な1日あたりの補給量は2千トン以上にのぼる。補給用車両の積載量は3トン程度で、計700両が活動することになる。二見氏は「兵站線が200キロ以上に達すると、補給路の確保が重要になる。道路の状況を考えるとロシアも楽な戦いではないだろう。当初は、キエフとハリコフを早期に陥落させ、そこかを拠点に展開する計画だったのではないか。今のままでは、北部への侵攻は、ベラルーシ経由で補給しなければならない」と語る。

ロシア軍は、こうした誤算を受け、戦術の変更を強いられている。市街地への攻撃が激しくなっているが、二見氏は「砲撃と空爆を繰り返して破壊しながら、戦力を押し進めていく作戦に切り換えようとしている」と語る。

ただ、苦境に立つロシア軍がなお優位に立っているのは、航空優勢を維持しているからだとみられる。二見氏はキエフ近郊20数キロの地点に迫った長さ60キロ以上に達するロシア軍の車列をその例に挙げる。「長い車列が続き、動けない状態に陥っている状態でも、全面的な破壊を免れているのは、航空優勢を保っている証拠になる。また、キエフ正面での戦闘が進展しないため、補給車両が前進できない状態でもある」という。

二見氏は「おそらくウクライナ軍はキエフなどの地下に潜って分散して戦うだろう。通信ネットワークもしっかりしているから、組織的な戦闘もできるだろう。そのためには、弾薬・燃料などの補給が重要になる。ウクライナにとって今後の戦闘の変換点は航空優勢の回復だ。戦況を変える鍵になる」と語る。ロシア軍は初期の攻撃で、ウクライナ軍の防空システムを破壊した。「肉眼で豆粒大の戦闘爆撃機を確認した時には、すでに攻撃を受けている可能性が高いから、ロシア軍の航空機を見つけるためのレーダーが必要だ。索敵レーダーと連携した携帯式地対空ミサイルの運用が可能になれば、ロシア軍の航空機の運用が制限される」という。「しかし、ロシアも戦況を変える動きは許さないだろう。航空優勢に影響を与える行動、例えば、西側諸国がレーダーや情報を供与する動きを示せば、プーチン大統領は核の使用をちらつかせるだろう」

今後は、ロシア軍とウクライナ軍の間で、航空優勢の奪い合いが一つの焦点になりそうだ。二見氏は「今は、両軍が東部や北部で様々な戦いを仕掛け合い、お互いの戦力を削り合っている状態だろう。戦況が膠着してる状態だが、分水嶺を超えると、どちらかが一気に崩壊する。ウクライナ軍が持ちこたえている間に、ロシア軍による空爆が減ったり、撃墜されるロシア軍の航空機が増加したりする状況が生まれれば、戦況が変わる兆候になる」と語った。


・ウクライナへの戦闘機供与案、米が拒否(AFPBB News 2022年3月9日)

※米国は8日、ポーランドが保有する旧ソ連製戦闘機「ミグ29(MiG29)」を米軍基地経由でウクライナに供与する案について、北大西洋条約機構(NATO)全体に深刻な懸念をもたらすとして受け入れを拒否した。

ポーランドはこの日、ミグ29を独南西部ラムシュタイン(Ramstein)にある米空軍基地に引き渡す用意があると表明。同基地経由でウクライナに移送し、見返りに米国製戦闘機「F16」を受け取る考えだった。

旧ソ連製のミグ29や「スホイ27(Sukhoi27)」、「スホイ25(Sukhoi25)」はウクライナ空軍にも配備されているため、操縦士が新たな訓練を受けなくても直ちに使用できる。

これに対し、米国防総省のジョン・カービー(John Kirby)報道官は声明で、米国の管理下に移されたミグ29が米軍のほかNATO軍も拠点としている基地を飛び立ち、ロシア軍との戦闘が行われているウクライナの領空に入れば「NATO全体に深刻な懸念をもたらす」と述べた。

カービー氏は、ポーランドがウクライナに戦闘機を間接的に供与する案について「ポーランドや他のNATO加盟国と協議を続けるが、支持できるとは思えない」と発言。「具体的な根拠があるかも定かではない」と語った。

米国の立場に関しては、「ポーランドが保有する航空機をウクライナに供与するかは最終的にはポーランド政府が決めることだ」と説明した。

ウクライナは西側諸国に軍用機の供与を要請。しかし、NATO加盟国の間では、要請に応じればロシア側に参戦したとみなされる恐れがあるとの懸念が強い。


・ウクライナ侵攻 背後の情報戦(3) ロシア軍の停滞のワケを読み解く(テレ朝news 2022年3月13日)

※なぜか小規模の部隊で動き、ウクライナ軍の待ち伏せで犠牲を重ねたロシア軍。

一方、なぜウクライナ軍はロシア軍を待ち伏せ攻撃できているのか。

ウクライナ侵攻の裏側で繰り広げられていた情報戦について、シリーズの第3回は、圧倒的な戦力を誇るはずのロシア軍が停滞を余儀なくされている謎に迫る。

■ アメリカによるインテリジェンス支援の実態

前回、記したように、いくら作戦の初期段階において地上部隊を大規模に投入しない「手加減」をしていたとしても、ロシア軍は巡航ミサイルや弾道ミサイルをウクライナ軍の防空施設や指揮所に撃ち込んでいる。ロシア軍が発射したミサイルは700発以上にのぼる。

ロシア軍に詳しい現役の軍関係者は「全体像はわからないが、初期のミサイル攻撃、航空攻撃によってウクライナ軍のC4I(指揮・通信・統制・コンピューター、情報)システム、防空システム、司令部機能の多くは破壊されたと見るべき」だと指摘する。そのうえで「ウクライナ軍の神経機能と眼と耳の多くは失われ、ウクライナ軍は組織的な戦闘というよりも、生き残った部隊ごとに独立的に戦闘をおこなっていると見るべき」だという。

それにもかかわらず、ウクライナ軍はロシア軍の車列を対戦車ミサイルやドローンで待ち伏せ攻撃をしている。動画で明らかになっている範囲でいえば、ウクライナ軍の戦い方は進撃しつつロシア軍の陣地や拠点を正面から叩くという積極攻勢ではなく、あくまで道路上を進んでくるロシアの小規模の車列を後方に回り込んで待ち伏せて叩く、という守勢的な作戦だ。

待ち伏せには敵がやってくる位置とタイミングを正確に把握することが必須なのは言うまでもない。前述の軍関係者はアメリカのインテリジェンス支援があるのではないか、と疑う。

「たとえば市街地で待ち伏せをするにしても、ロシア軍の経路、車列の規模、先端の位置などがわかっていなければ準備のしようもないはず」と前述の軍事専門家は言う。「『マルチドメイン作戦』(陸海空、宇宙、サイバー空間を含む多角的で高度な作戦 )の支援が、間接的に行われているとしか思えない。今、それができる能力を持つのはアメリカだけ」だという。

この疑問は3月2日のホワイトハウスのサキ報道官の会見で氷解した。記者に問われるとサキ報道官はあっさりウクライナ側に「リアルタイムで」インテリジェンスの提供をしていることを明らかにしている。

CNNによれば、アメリカ軍はロシア軍の動きや位置に関する情報を入手して30分から1時間以内にウクライナ側に伝達しているという。おそらくこれは大まかな動き、たとえばロシア軍の輸送トラックの車列がどの道をどの方角に向かいつつある、という情報なのだろう。特定の戦車をミサイルで照準して撃破するのに使えるような、より精度の高い個別の目標に関するターゲティング情報まで提供しているかどうかはアメリカ政府はコメントを避けている。

アメリカ軍はさらに開戦前まで首都キエフ西方でウクライナ軍に訓練を施してきた。米陸軍特殊部隊グリーンベレーとフロリダ州軍の兵士が教官として教育した数は延べ2万7千人にのぼるという。

「ロシア軍と事を構える気はない」として地上部隊のウクライナ派遣など直接介入を早々に否定しているバイデン政権だが、武器の提供、訓練の提供、そしてインテリジェンスの提供など間接介入の範囲で最大限できる支援をしている。

■ 軍事大国アメリカの「冷静と情熱」

どんなに美しい外交的レトリックで飾ったとしてもアメリカがウクライナの直接支援のために軍を派遣しないのは、そこに戦略的利益がないからである。

戦略的利益があると判断すればアメリカはもっとリスクをとって軍事的対抗策を打ち出すこともあったかもしれないが、今のところ変化の兆しは見られない。ヨーロッパに派遣している軍の増強もバルト3国やポーランド、ルーマニアといった東欧のNATO加盟国に対する安心供与のためであり、ウクライナ防衛のためではない。

ロシア軍の爆撃やミサイル攻撃に苦しむウクライナ政府が再三、求めているウクライナ上空の飛行禁止空域の設定でもアメリカ政府は拒否の姿勢を崩さない。そんなことをすれば「NATO軍機がロシア軍を撃墜する展開となり、第三次世界大戦に発展してしまう」からだ。ロシアと事を構えることになるようなリスクは一切とらない、それがアメリカ政府の戦略的目標だ。

どんなに非人道的な破壊行為がおこなわれていて、心を痛める光景があろうとも、できないことはできないし、しないことはしない。国際政治が冷徹な国益の計算に基づいていることに気づかされる。

だが、そのアメリカも冷徹な国益計算だけ、というわけではない。利益だけではない、情熱(感情)で動いている側面ももちろんある。

武器の提供がいい例だ。ウクライナへの武器の輸送は主にポーランド、ルーマニアから陸路でおこなわれているが、ロシア軍からの攻撃を受けるリスクと隣り合わせだ。

流れはこうだ。アメリカをはじめ各国が提供する武器は一度、ウクライナと隣接するポーランドとルーマニアにある非公表の飛行場に空輸されたのちに陸路でウクライナに搬入される。基地をホストしているポーランドが果たしている役割はロシア軍から見れば敵対行為であり、場合によっては当該飛行場に攻撃が加えられることもあり得る。

実際、ロシア軍の作戦はポーランドとの国境に近いところにも及んでいて国防総省が強い懸念を示している。またポーランドとウクライナが接している国境付近の空域はベラルーシに配備されたS-300地対空ミサイルの射程に収まっており、ロシアがその気になれば空輸に対して妨害や攻撃を加えることもできる。

■ なぜ小国・中立国までがリスクを冒すのか

武器の提供と一言でいっても、やっている側も相当のリスクをとってやっていることなのである。実際、NATO各国は大国から小国までリスクをとってウクライナ支援に動いている。ロシア侵攻があった翌日には早速、アメリカ、カナダ、スロバキア、リトアニア、ラトビア、エストニアなどの各国が共同で武器弾薬をポーランド経由で送っている。

GDPや国防予算が日本よりも圧倒的に小さいような国々もリスクをとって責任と役割を果たしている姿からは冷徹な国益計算とともに、何か心意気のようなものさえ感じさせる。オランダは数少ない輸送機を使って、対戦車ミサイル400発、スティンガー携帯型対空ミサイル200発を輸送しているし、デンマークも自ら輸送機を飛ばして対戦車ミサイルを空輸している。最終便がデンマーク本国に帰還したのはロシア軍による攻撃が本格化している3月1日のことだった。持っている輸送機の数も稼働数も少ない、これらの国にとっては決して楽なオペレーションではなかったはずだ。

小国といえばバルト3国の本気度はさらに高い。リトアニアはロシアによる侵攻がはじまった2日後の2月26日、早速、陸路でウクライナに武器を届けている。忘れてはいけないのはフィンランドやスウェーデンといったNATOに加盟しない、歴史的に中立的立場をとってきた国々もウクライナ支援の列に加わったことだ。フィンランドは1500のロケットランチャー、2500丁のライフル、15万発の弾を提供したほか、スウェーデンも7700発の対戦車ミサイルを送っている。

なぜ、ヨーロッパの小国や中立国がこれほどの支援をするのだろうかー。

それはロシアに近い位置にある国々にとってウクライナ侵攻は「明日は我が身」だからだ。

まずは自分達に累が及ぶ前にウクライナで食い止めてもらいたい。それが偽りのない本音だろう。そこには当然、小国なりの冷静な国益計算と自己防衛本能がある。

だが、彼らを動かしているのはそれだけではない。それはウクライナが本気と勇気を世界に示しているからだ。

■ ウクライナの「クリエイティブな戦い」

「ウクライナ軍、そして人々は勇敢に、そしてクリエイティブに戦っている」(アメリカ国防総省)。まさにウクライナが見せている抵抗は勇気にあふれ、創造的な戦法がとられている。

アメリカの情報機関はロシア軍が数日で首都キエフを陥落させられると考えていたと分析している。その電撃的短期決戦の先兵として首都キエフに投入されていたのが、ゼレンスキー大統領の暗殺を狙った工作員だ。

ウクライナ兵に身分偽装した工作員の数は100人とも200人とも言われ、開戦6日前の2月18日からキエフ市内で活動をしていたという未確認情報もある。

SNS上にはウクライナ軍に身分を見破られて捕らえられた工作員たちとされる写真が出回っている。ウクライナ側はロシア人には発音しにくいウクライナの方言を合言葉にして、それを言えなかった工作員たちを次々に見破っていったとも言われている。

ウクライナ軍はロシア軍の進軍を少しでも遅らせるために道路標識を書き換えたり、非武装の一般市民がグループで道をふさぐ形でロシア軍の進軍の前に立ちはだかったりしている。18歳から60歳の男性の出国を禁じているウクライナ政府だが「前線で罪を償える」(ゼレンスキー大統領)として軍務経験のある受刑者を急遽、釈放して戦力にしている。

クリエイティブな戦い方といえば、極めつけはウクライナ軍がロシア軍パイロットに呼び掛けている懸賞金だ。航空機であれば100万ドル、ヘリコプターであれば50万ドルの懸賞金を渡すので投降を呼びかけているのだ。懸賞金目当てで機体ごとパイロットが投稿すれば、ロシア軍にこちらの犠牲なしで実質的なダメージを与えられるという、合理的でユニークな発想だ。ウクライナ国防省が作った動画には連絡先の電話番号もある。さて、ホットラインが鳴ることはあるだろうか。


・米、ウクライナに追加支援=対戦車・地対空ミサイルか(時事通信 2022年3月13日)

※米ホワイトハウスは12日、ロシアの軍事侵攻に対抗するため、ウクライナに約2億ドル(約230億円)の軍事支援を追加実施すると発表した。米メディアによると、対戦車ミサイル「ジャベリン」や地対空ミサイル「スティンガー」などが含まれる見通し。

バイデン政権は、2月にも3億5000万ドル(約410億円)規模の軍事支援を行っていた。今回の追加実施により、昨年以降のウクライナへの支援は計12億ドル(約1400億円)に上るという。 


・ウクライナが得た大量の対戦車ミサイル、ロシアに戦術変更迫る可能性(Bloomberg 2022年3月16日)

Marc Champion

※ロシアによるウクライナ侵攻は3週目に入り、過酷な市街戦となる見通しが一段と強まっている。こうした中、ウクライナに各国から大量に送られた対戦車ミサイルが戦争の流れを変える可能性がある。

一部の軍事アナリストは、過去数週間でウクライナに送り込まれた最新式対戦車ミサイルの量は驚異的であり、近代の主要戦争では前例のない規模をウクライナ軍が手にした可能性があると指摘する。

英国は次世代軽対戦車(NLAW)ミサイル3615基をウクライナに送ったと発表。ドイツは1000基、ノルウェーは2000基、スウェーデンは5000基の対戦車兵器をそれぞれ供与する。米国は数量こそ公表していないが、携行式対戦車ミサイル「ジャベリン」をウクライナに提供する。他の国も同様の兵器を送っており、その多くは最新技術ではないものの、ロシア軍にとっては相当な脅威となる。

プーチン大統領が始めた侵攻はウクライナ側の抵抗とロシアの誤算により、当初の想定通りには進んでいない。最新鋭の対戦車兵器もロシア軍を阻む要因の一つだ。

米シンクタンク、ジェームズタウン財団でロシア軍を専門とするパベル・フェルゲンハウアー氏(モスクワ在勤)によれば、最新式のロシア戦車でさえジャベリンには弱いことが明らかになっている。ジャベリンもNLAWも戦車の装甲が最も弱い上方から攻撃するタイプで、ミサイル自体が標的を追尾する能力を持つ。発射したらすぐにその場を離れることが可能であるため、敵に位置を知られずに済み、反撃されるリスクを減らすことができる。

ソーシャルメディア上で広く共有された動画では、キエフ近郊のブロバルイに進入しようとしたロシア軍の戦車や装甲車の車列が攻撃を受けて退却する様子が映し出されていた。

フェルゲンハウアー氏は「都市部の制圧に際しては、爆撃するだけなく、防御側がショックを受けている間に歩兵が進入することが重要」であり、それが不可能なら目標は達成できないと指摘する。

ロンドン大学キングス・カレッジ戦争学部のローレンス・フリードマン名誉教授は最近のブログで、「主要都市への本格的な進軍がないのは注目に値する。ロシア軍上層部は、ウクライナ側が入念に準備してきた市街戦に及び腰な部隊を無理に送り込むことを懸念しているのかもしれない」と分析。それが事実であれば、交渉による解決の可能性は高くなるとの見方を示した。

しかし、停戦が実現しない限り、ウクライナがロシアの戦車による都市部進攻を防げたとしても、それによってさらに戦争は長期的かつ残酷な展開となる恐れもある。


・軽視ダメ、ゼッタイ! ウクライナ戦で「ロジスティクス」を甘く見たロシア軍の失態(乗り物ニュース 2022年3月19日)

矢作真弓/武若雅哉(軍事フォトライター)

致命的といえる兵站の軽視
 
※ロシアによるウクライナ侵攻から間もなく3週間が経ちます。ロシア軍はウクライナの首都キエフまであと少しのところにまで迫っていますが、進軍スピードは大幅に減速。開戦当初の猛攻も今はでは見る影もありません。世界第2位の軍事大国であるロシアですが、なぜこんなにも苦戦しているのでしょうか。

改めて振り返ってみると、今回のウクライナ侵攻には色々と無理がありました。こうした大規模な侵攻作戦は、初期段階で数日間に渡る航空攻撃や砲撃などを行い、相手の対空警戒網や通信網を破壊し、さらには軍事拠点などを攻撃して相手の反撃を最低限に抑え込む行動を取ります。しかし、プーチン大統領は十分な航空攻撃を行わず、侵攻当日に早々と地上軍を繰り出しました。

この愚策ともいえる行動。これは筆者の推測ですが、ロシアはウクライナをすぐに掌握することができると考え、勢いでなんとかしようとしたのでしょう。

そのため、長期の戦闘を考慮しない“短期決戦”計画を立てたと思われるのですが、案の定、そこには大きな落とし穴がありました。

ロシア軍の正規軍人はウクライナ軍の約8倍となる約90万人います。そのうち、約15万人がウクライナに侵攻したと考えられていますが、この15万人という数字、実は陸上自衛隊の定員数と同じです。

これだけの大規模な部隊を一度に投入できることはロシア軍の強みであるものの、その一方で、ロシア軍が「兵站」を軽視したことは致命的ともいえます。

兵站に重要な前線部隊との距離感
 
ロシア軍が想定していた以上にウクライナ軍の反撃が激しかったことも誤算のひとつではありますが、兵站に関してはそれを上回る大誤算といっても良いでしょう。

そもそも「兵站」とは、英語では「logistics(ロジスティクス)」といい、食料、燃料、弾薬、通信、整備、医療などの各機能を集約した言葉です。ゆえに、陸上自衛隊では後方支援と呼ばれるもので、活動するうえで欠かすことのできない分野としてそれぞれを担当する専任の部隊を用意しているほどです。

自衛隊に限らず世界中の軍隊で、この兵站能力は部隊の行動を維持するために必要不可欠なものとみなしており、特に作戦行動が長期化すればするほど、この兵站能力の差がモノをいうようになってきます。

逆に、兵站能力をある程度無視できる場合もあります。ただ、それは長くても1週間程度の短期決戦に限られます。つまり、それ以上の長期に渡る行動には兵站の充実が部隊を円滑に動かす秘訣になるといえるでしょう。

なお、この兵站は前線に進出する部隊との距離感も大切になります。世界の軍隊でひとつの目安として語られているのは、兵站拠点から300km程度離れると十分なサービスを供給しにくくなるということです。

理由は単純、補給線が伸びれば伸びるほど、輸送部隊や衛生部隊が前線へたどり着くまで時間がかかるからです。たとえ高速道路などがあったとしても、高速道路は遠くからでも視認しやすいことから常に狙われているといっても過言ではありません。そのため、輸送部隊は高い緊張を強いられながら移動しなければならないのです。

最前線に届いていない食事と燃料
 
さらに、移動速度も平素の高速道路のように素早く走れるわけではありません。道路には瓦礫などの障害物があったり、場合によっては寸断されていたり、狙撃や地雷など含めた敵の攻撃による脅威もあったりするでしょう。こうした危険から部隊を守るため、補給線の安全を確保しなければならないのですが、補給線が延伸すればするだけ安全確保は難しくなります。

こうした点を考えると、十分なサービスを行きわたらせるためには、前線から兵站拠点までの距離は、概ね100km以内が理想だといえるでしょう。

実際には、大規模な兵站拠点を300km先に設けたとしたら、中継地点となる中規模な拠点を100kmごとに設置して、さらに末端の部隊にサービスするための小規模な兵站拠点を前線から50km以内に設けることが理想です。こうすれば、部隊は効率的に動き続けることができると考えられます。

しかし、今回のロシア軍は十分な兵站機能を設けずに部隊をウクライナへと送り込みました。そのため、前線の兵士らはまともな食事を摂ることもできず、戦車などは燃料切れで立ち往生しています。

ウクライナとロシアは、依然として一進一退の攻防を繰り広げていますが、このままロシア軍の部隊再編がうまくいかなければ、軍事弱小国家ともいえるウクライナにも勝機が見えてきます。広大な領土を持つロシアは、ウクライナ正面だけに部隊を集中させることができません。そのため、ロシア軍が現状以上の部隊をウクライナに投入することは非常に難しいと考えられます。

また、ロシアが受けている世界規模の経済制裁に、ロシア国民がいつまでも我慢できるとも考えられません。両国ともにこれ以上の犠牲や損害を増やす前に、プーチン大統領は自身の独断で始めたであろう“短期(短気)決戦”を終結させるべきなのです。


・ロシア軍兵士1万4400人近くが死亡 ウクライナ外務省(テレ朝news 2022年3月20日)

※ウクライナ外務省はロシア軍兵士1万4400人近くが死亡したと発表しました。

ウクライナ外務省は19日、1万4400人近くのロシア軍兵士がウクライナで死亡したと公式ツイッターで発表しました。

また、ロシアの航空機95機とヘリコプター115機、装甲車1470台、大砲213台などを破壊したとしています。

一方、ロシア側から死傷者についての発表はほとんどなく、2日に国防省が公表した兵士498人の死亡が最新の数字となっています。

CNNテレビはアメリカとNATO=北大西洋条約機構の関係者の話として、ロシア軍の死者は3000人から1万人の間だと報じています。


・ロシアの弱点は「道路輸送」だった! 特異な物流構造からウクライナ侵攻を考える(Merkmal 2022年3月21日)

本川裕(統計データ分析家)

※ロシア・ウクライナ両国の物流の特徴
 
2022年2月24日に始まったロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻は首都キエフ近くで膠着(こうちゃく)状況を続けている。

ここではこの戦役の背景として、ロシアおよびウクライナ両国の物流構造を探ってみよう。

まず、ロシア、およびウクライナの物流の特徴を理解するため、両国の輸送モード別の貨物輸送分担率を見てみよう。


「t・km」という単位



(上)貨物輸送における分担率の国際比率

図には、世界の主要27か国の貨物輸送の分担率を掲げた。ここで、分担率とは各輸送モードのt・km(トンキロ)ベースの輸送量の構成比をいう。

t・kmとは、輸送した貨物の重量に輸送距離をかけた貨物輸送総量を表す単位。データは、ヨーロッパ諸国を中心に世界63か国が加盟する国際機関であるITF(International Transport Forum、国際交通フォーラム)が取りまとめている輸送統計による。

ロシアの2019年の輸送量は鉄道が2兆6025億t・km、道路が2639億t・km、内陸水運が659億t・km、パイプラインが1兆3685億t・km、沿岸海運が210億t・kmとなっており、輸送分担率は鉄道が60%、道路が6%、内陸水運が2%、パイプラインが32%、沿岸海運は1%未満となっている。

ウクライナの分担率は、鉄道が70%とロシアよりもさらに高く、道路は25%、内陸水運が1%、パイプラインが4%となっている。ウクライナの沿岸海運のデータはない。

27か国を比較した図を俯瞰(ふかん)的に眺めると、鉄道先進国だった西欧諸国では今や道路輸送が大勢を占めるようになっている点(オーストリアは例外)、旧共産圏の中でも旧ソ連諸国では鉄道輸送がかなりのシェアを占めている点、また米国、カナダ、オーストラリアといった西欧の旧海外植民地ではやはり鉄道のシェアがなお高い点などが目立っている。


道路輸送が脆弱なロシアの物流

ロシアを中心とする旧ソ連、さらに米国、カナダを含め、東西の交通路が基軸となる大陸国では鉄道の地位がなお高くなっている。同じ大陸国でも、古来より東西方向の大河や南北方向の運河による大動脈が大きな役割を果たしていた中国では鉄道の地位はそれほど高くなく、むしろ内陸水運のシェアが高いという特徴がある。

日本については沿岸海運のシェアが42%と、27か国中もっとも高い点が目立っているが、同じ島国の英国や半島国のスペイン、イタリア、韓国などでも、やはり沿岸海運の地位が大きくなっている。

ロシアやベラルーシではパイプライン輸送のシェアが大きい点が目立っているが、石油や天然ガスといった資源の生産と輸出が多いせいであるが、鉄道とあわせ、計画経済的な体質とマッチしていたという側面もあろう。

ロシアの物流構造の特徴は、鉄道、パイプラインといった装置型輸送路のシェアが高い点にある。道路輸送は6%と図の27か国の中で最少となっている。背景としては、国土が広く(またシベリアもあるため)道路整備が一部の地域に集中し、網羅的に発達しなかったことによるものとされている。

日本を始め欧米先進国では、重厚長大から軽薄短小への産業構造の転換、またジャストインタイム生産方式やドアツードア輸送に対応するきめ細かな配送需要が高まった。それに伴って、高速道路を含む道路ネットワークのインフラ整備が進み、道路輸送のシェアが大きく拡大する傾向にあるが、ロシアはこうした動きに決定的に乗り遅れていると言わざるを得ない。

ウクライナの輸送構造もロシアより道路輸送が多く、パイプライン輸送が少ないという違いはあるが、鉄道輸送の分担率はロシアより高く、なお、ロシアとの共通性が高いと考えられる。


ウクライナ侵攻への物流構造の影響
 
ロシアなど旧ソ連圏では鉄道への依存度が非常に高いが、それと同じように、物資を運ぶロシア軍の兵站線(へいたんせん。本国と戦場を連絡する輸送連絡路)は、現在でも鉄道頼りである。鉄道による移動を前提としているため、装備しているトラックの台数なども限定的であり、大量に費消される弾薬の補給の多くをトラックで行うようには設計されていない。

こうした兵站線の特徴からロシア軍は、旧ソ連圏内での防衛作戦は得意だが、領域の外での持続的な作戦行動を行う能力は限定的だという。ナポレオンやナチス・ドイツを撃退した、祖国防衛戦争の成功体験がそうさせているとも考えられる。

領域外への作戦行動が不得意である理由のひとつは、ロシアの鉄道の線路幅がいわゆる標準軌(1435mm)よりも幅の広い独自の広軌(1520mmまたは1524mm)であり、旧ソ連圏とフィンランドでしか使われていないからである。例えば、ポーランドには、ロシアからウクライナのキエフを経由して南部のクラクフまで、1本だけ広軌の鉄道が通っているが、ほかは標準軌であり兵站線を接続できない。

線路幅規格の共通性が旧ソ連圏に限られているのは、帝政ロシア時代の鉄道規格を引き継いだためである。敷設が始まった1830年代当時は広軌優位論が盛んであり、他国との連結はあまり考慮されておらず、広大なロシアでは標準軌より広軌の方が、輸送力が大きく有利と当時、考えられたのが理由のようだ。

今回のロシア軍のウクライナ侵攻に関しては、短期決戦による全土制圧を前提とした多方面からの侵攻を行ったのに、ウクライナ側からの予想外に強い反攻を受け、十分な制空権も得られず戦況が膠着。そんななかで、食料や燃料、弾薬の補給といった兵站に問題が生じていると言われる。

これは推測であるが、当初予定していた鉄路でつながれているウクライナ国内への鉄道輸送による兵站が困難となったためなのではあるまいか。道路輸送が不得意なロシア軍の体質が弱点となっている可能性があろう。


鉄道輸送への過信

第2次世界大戦の最終局面で、ソ連は勝利したヨーロッパ戦線からシベリア鉄道を使って5000両の戦車輸送を行うなど、関東軍の予想を上回るスピードで対日戦の補給準備をととのえて対日宣戦布告を8月8日に行い、直ちに満洲に攻め込んだ。

日本の関東軍はこうした迅速なソ連の参戦をあらかじめ察知できずに「奇襲」を許し、撤退戦の準備もととのわないままに軍が崩壊した。このため、満蒙開拓団をはじめとする在留民間人を置き去りにしたまま、軍人・軍属、およびその家族からわれ先にと戦地から逃げ出し、多くの民間人が満洲で犠牲となり、中国残留日本人やシベリア抑留などの問題が深刻化させたのだった。

日露戦争でバルチック艦隊に勝利した成功体験が、その後の日本軍の大艦巨砲主義を生み、航空兵力で勝敗が決した太平洋戦争に惨敗したように、鉄道輸送の機動性を生かした対日参戦の勝利がソ連にとっての成功体験となって、ウクライナ戦の失敗を招いているとみなすとすると、それはうがちすぎであろうか。


・ロシア戦車、ウクライナが墓場に 現代戦にぜい弱 侵攻開始以降、重武装の無限軌道車230台余りを失う(THE WALLSTREET JOURNAL 2022年3月21日)

By Robert Wall and Daniel Michaels

※ロシアは世界最大の戦車部隊を引き連れてウクライナへの侵攻を開始した。だが、これまでに多数の戦車が破壊され、現代の戦いではロシアの弱みを露呈させている。

ロシア軍はウクライナ侵攻を開始した2月24日以降、重武装の無限軌道車230台余りを失った。軍装備の被害状況を追跡するオープンソースサイト「オリックス・ブログ」が分析した。その大半は破壊されたもので、放棄あるいは押収されたものや、壊れたものもあった。

ウクライナ政府はさらに多くの打撃を与えたと主張。ロシア軍の戦車400台以上に加え、より装備が薄い装甲軍用車両も多く破壊したとしている。

ロシアは戦争前、約3000台の重戦車を保有していた。これに対し、ウクライナが保有する開戦時の戦車数は約850台だった。双方とも失った戦車の数は明らかにしていない。

ここ数週間における装甲車両の被害状況を踏まえると、これだけの短期間に破壊された戦車の数としては、第二次世界大戦以降で最多に上るとアナリストは分析している。当時、戦車を破壊する最も有効な方法は、別の戦車を使うことだった。

対照的に、ウクライナは今回の戦争で、一段と小型かつ機動的な兵器を活用している。具体的にはトルコ製の武装ドローン(小型無人機)や米国製の対戦車ミサイル「ジャベリン」など、歩兵隊が携行する対戦車ミサイルだ。これらの最先端の軍装備によって、ロシア軍の戦車や装甲車、補給部隊に驚くべき打撃を与えるなど、数で劣るウクライナ兵の善戦を支えている。

ホワイトハウスは今週、さらに8億ドル(約950億円)相当の武器をウクライナに提供すると発表した。これにはロシア軍装甲車への攻撃で有効性が確認された多くの戦車破壊兵器が含まれている。米国はジャベリン2000基、その他の対戦車兵器7000基のほか、自爆型ドローン「スイッチブレード」100台を供与する計画だ。

ロシアはこれに対し、戦場での戦術を調整するとともに、ぜい弱さが露呈している部隊の連携改善を目指しているかもしれない。

トランプ政権で国家安全保障担当の大統領補佐官を務めたH.R.マクマスター氏は「(ロシア軍は)連合部隊の作戦にたけていない」と指摘する。

ただ、歴史に基づけば、戦術を改善しても先端技術にはそこまで太刀打ちできない。戦車と戦車破壊システムの激しい開発競争は数十年にわたり続いている。

戦車はまず、第一次世界大戦で最初に導入され、第二次世界大戦で中心的な役割を担った。第二次大戦ではロシアの戦車作戦がドイツに敗北をもたらし、国家総力戦時代において最も伝説的な戦いの一つとなった。

史上最大の戦車戦は1943年、ロシアの都市クルスクに近いウクライナ北部で起こった。ドイツと旧ソ連の戦車およそ6000台、数千の機体、推定200万人の兵士が投入された。

ドイツの電撃戦戦術は、装甲車と歩兵隊、空軍の支援を連携した共同攻撃の力をみせつけた。それ以降、戦車を中心とする攻撃では類似の戦術が使われており、これにはイスラエルとアラブ諸国が戦った第四次中東戦争(ヨム・キプール戦争)や、二度にわたる米国主導の湾岸戦争が含まれる。

第二次世界大戦での大規模な戦車戦を経て、旧ソ連は冷戦時代に莫大(ばくだい)な数の戦車を製造した。ソ連の武器生産と直接競合することに後ろ向きだった米国は、装甲軍用車に攻撃を加える別の手だてを開発した。

米国は1970年代半ば、「ウォートホッグ(イボイノシシ)」とも呼ばれる地上攻撃機「A-10」を投入した。A-10は爆弾やミサイル、強力なマシンガンを使って、低空飛行しながら敵に猛攻撃をかけることができる。

その10年後には、攻撃型ヘリコプター「AH-64アパッチ」の配備が開始された。これはA-10と類似の任務を担うが、一段と機動性が増した。

そして現在では、ドローンや肩乗せ射撃型のシステムが同じ任務を担うことを目指しており、より小型で携行しやすくなり、自律システムが搭載された。

防衛業界コンサルタント、ニコラス・ドラモンド氏は「とりわけこの二つの兵器のおかげで、ウクライナ兵は前線にとどまることが可能になり、ロシア軍に作戦の見直しを余儀なくさせている」と述べる。

こうした技術の進展を踏まえると、特にロシアのアプローチに関しては、戦車戦での損失を防ぐために適応することが必要になる。とはいえ、戦車はこの先も、地上戦で重要な役割を担うことになるだろうと軍事専門家は指摘している。

前出のマクマスター氏は、ロシア軍がウクライナで戦車を失っている状況について「歩兵隊と比較して戦車に欠陥があるわけではない」と話す。「迫撃歩兵隊と装甲部隊を連携させる能力が劣っているためだ」

重武装がなければ、部隊は敵の砲撃に極めてぜい弱になるとマクマスター氏は指摘する。ウクライナ自身、ロシアがクリミア半島を併合した2014年にこれを経験した。ロシア軍はその後、「重武装でないものを片っ端から破壊することができた」という。

歩兵隊に反撃しながら進軍する部隊は、行く手にいる敵を銃で排除する戦車の中か、後方で守られることになる。米国と同盟国はイラクやアフガニスタンでの戦いで、戦車や軽装甲機動車などを有効に活用した。

また米ジョンズ・ホプキンス大学で地球空間情報を教えるベリペッカ・キビマキ氏は、ウクライナ軍によって破壊されたロシア軍の戦車は、西側諸国の軍装備には搭載されている先端の技術が不足しているようだと指摘する。例えば、爆発エネルギーを外に排出する「ブローアウトパネル(破裂板式安全装置)」といったもので、これにより戦車や兵士への危険を減らすことができるという。

現代戦で戦車が生き残るための技術は、他にも開発が進んでいる。その一つがイスラエルの「トロフィー」システムで、これは向かってくる飛翔(ひしょう)体を特定した上で迎撃し、破壊するものだ。軍艦には長年、アクティブ防護システムが搭載されてきた。これを戦車向けに小型化し、一段と近距離で稼働できるよう設計するには技術的な壁があるが、軍は現在これを克服しつつある。

ロシアもこの教訓を学んでいる。ロシアの最新鋭戦車「T-14アルマータ」は、まだ実戦配備されていないが、アクティブ防護システムを搭載していると述べている。


・ロシアvsウクライナのサイバー戦争 今回の“主役”は軍よりも「民兵」(NEWSポストセブン 2022年3月21日)

※プーチン大統領の指示のもとウクライナに侵攻したロシア軍は、ミサイルによる無差別攻撃を展開するなどして、民間人の被害も広がっている。そうしたなか、ウクライナ側はサイバー空間からの“反撃”を試みている。現代の戦争は、陸海空軍の戦力だけで結果が決まるものではない。ロシア側とウクライナ側の間で、どのような攻防が繰り広げられているのか。世界のサイバー戦情勢に詳しい国際ジャーナリスト・山田敏弘氏がレポートする。

 * * *

ウクライナのミハイロ・フョードロフ副首相は、ロシアによるウクライナ侵攻が始まると、ロシアに対してサイバー攻撃で抵抗するIT軍の創設を宣言。国内外にいるウクライナ人などに参戦を呼びかけた。

実は、ウクライナには、アメリカなどのようなサイバー軍や部隊は存在しない。そのため、国民だけでなく、サイバー攻撃やネットでの反ロシア活動をできる人たちと共に戦う「民兵」を募集したのである。実は、ウクライナは他国に比べてIT技術の高い人が多い。こうした活動によって、世界中から寄付なども集まり、情報戦またはプロパガンダが激化する様相になっている。

ちなみに今回、世界屈指のサイバー攻撃能力を持つとされるロシアのサイバー部隊がほとんど目立った活動をしていないように見える。これまで散々、ウクライナにサイバー攻撃を仕掛けてきたにもかかわらず、である。

その理由の一つには、ロシアの侵攻が始まる数か月前の2021年10月の時点で、世界最強であるアメリカのサイバー軍の関係者がウクライナ入りしており、さまざまな対策を実施していたからだ(アメリカ政府はこの時点ですでにロシアのウクライナ侵攻に対抗する準備をしており、水面下ではアメリカ側とロシアのサイバー攻撃の攻防も起きている)。

とにかく、軍などのサイバー部隊は目立っていない。そんなこともあって、今回、ウクライナ側においてもロシア側においても、目立った活動をしているのは、個人ハッカーや、民間のサイバー攻撃組織などだ。

では今、どんなサイバー「民兵」たちが動いているのか。


「Attack!」ボタンを押すだけでロシアの“標的”を攻撃
 
今回のウクライナ紛争では数多くのサイバー攻撃集団が立ち上がっている。

有名なのは、「Anonymous(アノニマス)」や、冒頭で述べた「IT Army of Ukraine(ウクライナIT軍)」だろう。主な戦術は、ロシアの政府機関や団体などへのDDoS攻撃(大量のデータを送りつけて負荷を与えてシステムをダウンさせる攻撃)や、ウェブサイトの改ざんである。「Anonymous(アノニマス)」は、以前からハクティビスト(ハッカーとアクティビストを足した言葉)として知られるハッカーの集合体で、今回は、反ロシアの平和主義活動を行なっている。リーダーもおらず、各自が攻撃を行なう。ロシアの政府系機関や国営メディアを攻撃して、一瞬であるが、DDoS攻撃で公式サイトをダウンさせたと主張している。

また先日、ロシアの国営テレビ局をハッキングして乗っ取り、ウクライナ内部の映像をロシア国民に見せつけた、というニュースがあった。だがこれは日本でいうNHKの地上波放送を乗っ取ったというようなものとは全く違う。もしそうなら凄まじい偉業だが、実際は、オンライン上の配信サービスで流れる映像を、短い時間だけ差し替えることに成功したということである。こうした攻撃を大きく見せて喧伝するのも、彼らの手段である。

「IT Army of Ukraine(ウクライナIT軍)」は、拠点をウクライナに置き、ツイッターなどで世界にメッセージを発信している。最近も、国連でロシア寄りの立場を見せる4カ国を名指しして、敵は誰なのかを明確にしようとしている。ちなみにそれらの国々とは、北朝鮮、エリトリア、シリア、ベラルーシである。

IT軍に参加したいハッカーたちはオンライン上のフォームに得意分野や経歴を記載して登録し、電力網や水供給システムなど重要インフラのセキュリティを担当したり、ウクライナ軍による偵察活動などを支援している。

また、ある裕福なウクライナ人が、ロシアの政府機関などをサイバー攻撃で破壊するための「脆弱性」を10万ドルで募集していたり、DDoS攻撃を行なうためのマルウェア(不正なプログラム)を提供している人もいる。ロシア国内の鉄道のチケットシステムを一時的に停止させた例も報告されている。

またある組織は、DDoS攻撃のためのサイトを提供。このウェブサイトの参加ユーザーは、サイト上の「Attack!(攻撃!)」ボタンをクリックするだけで、設定されたロシア国内の標的へのサイバー攻撃に自動で参加できるようになっている。「ドローンのようにプーチンの部隊を破壊しよう」「ウクライナに栄光を!」とメッセージが記載されている。

同じくウクライナのためにロシアに対してDDos攻撃やハッキングを攻撃手法としている組織は多い。ウクライナを拠点に反ロシアのサイバー活動をしているのは、別掲の【表1】のような組織だ。



こうしたグループや個人の中には、情報統制で戦争の実態が伝わっていないロシア国民に、ロシアの攻撃で被害を受けるウクライナの窮状を伝えるメールなどを送りつけるなどしている人たちもいる。

また国外を拠点にして、ウクライナのために動いている組織もある。「Belarusian Cyber Partisans(ベラルーシ・サイバー・パルティザン)」は、ランサムウェア攻撃(身代金要求型ウィルス)でロシアに攻撃を仕掛けている。ランサムウェアは攻撃相手のコンピューターの情報を勝手に暗号化してしまって使えなくしてしまうため、敵のシステムを不全にするには効果がある。

またフランスに拠点を置き、普段は中国への攻撃を行なっている「AgainstTheWest」はランサムウェアだけでなく、ハッキングによって情報搾取も実施する。最近では、ランサムウェアを感染させて内部の情報を盗む手口が主流だが、この「AgainstTheWest」はそういう攻撃も行なっていると見られている。

さらにフィンランドには、「NB65-Finland」という組織がいて、ロシアへDDoS攻撃や、ウェブサイトやサーバーにハッキングを実施している。トルコからも、「Monarch Turkish Hacktivists」というハクティビスト組織が参加している。

一方でロシア側にも、ウクライナへ攻撃する組織が存在している。


ロシア側の“民兵”はフェイクニュースを量産
 
そもそも、ロシア政府は、情報機関が犯罪組織や民間企業などを駆使してサイバー攻撃を実施しているとみられている。ロシアといえば、旧ソ連のKGB(ソ連国家保安委員会)が有名だが、実は、ソ連が崩壊した後も、KGBは生き残ったと言っていい。KGBはソ連崩壊後、主に国内を担当する部門が現在のFSB(ロシア連邦保安庁)となり、国外諜報部門がSVR(ロシア対外情報庁)として任務を続けている。こうした組織が政府系サイバー攻撃を担当している。

また、それ以外にも軍のスパイ機関であるGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)という組織もサイバー攻撃を実施している。

ただ今回のウクライナ紛争では、やはりロシアのサイバー「民兵」が活発に動いている。では、どんな組織が存在しているのか。有名なのは、「UNC1151(Ghostwriter)」で、ウクライナを貶めるために捏造記事や偽記事、フェイクニュースなどをばら撒く活動も確認されている。それ以外は別掲の【表2】に一覧にした。



加えて、ロシアを拠点にこれまでランサムウェア攻撃を世界中で行なってきた組織、例えば有名組織の「Conti」も参戦を宣言している。ただこの「Conti」は先日、ウクライナ側からのサイバー攻撃を受けて、内部情報を暴露されるという失態が話題にもなっている。

こうした組織は、DDoS攻撃というシンプルなものよりも、ハッキングでターゲットのシステムに入り込んで情報を奪う工作を行なっている。先に述べた「UNC1151」に加えて、「SandWorm」「Zatoichi」といった組織は偽情報などを拡散させる活動が確認されている。「Zatoichi」と「Killnet」などについては、アノニマスに対しても攻撃を行なっていると宣言している。普段はランサムウェア攻撃を行なっている「CoomingProject」はフランスに拠点を置いているとされ、「ロシア政府をサイバー攻撃するものは報復する」と表明している。

このように、さまざまなサイバー部隊が入り混じって、サイバー空間上で「ウクライナvs.ロシア」の戦いが繰り広げられているのが実態である。

民間のこうした争いは紛争が長期化するにつれて、激化していく可能性がある。今後、どのように展開していくのか注目したい。