・市場規模が拡大する代替肉 “肉よりヘルシー”な新たな食文化の落とし穴(NEWSポストセブン 2022年3月5日)
環境にも体にも良いはずの代替肉に語られざるデメリットが
市場規模が拡大し、バリエーション豊富な商品が次々に開発されている「代替肉」食品は、「肉よりヘルシー」と人気が上昇中だ。しかし、新たな食文化の裏側には、必ず落とし穴がある。“第4の肉”とも呼ばれる代替肉を食卓でどのように扱うべきか参考にしてほしい。
※「大豆ミート」と書かれた食品をスーパーやレストランなどで目にする機会が増えた。モスバーガーやドトールコーヒーでは大豆由来のパティを使ったハンバーガーが販売され、コンビニでも大豆ミートのパスタや総菜が並ぶ。多くの飲食チェーン店で続々と大豆ミート商品が開発されており、もはや珍しいものではなくなりつつある。
日本能率協会総合研究所の調査によると、2019年に15億円だった大豆ミートの国内市場規模は右肩上がりで、2025年度には40億円に達する見通しだという。
牛や豚、鶏など家畜の肉を使わず作った肉のことを「代替肉(フェイクミート)」と呼ぶ。動物の細胞を培養して作る「培養肉」も代替肉の一種だが、まだ試験段階であり市場販売には至っておらず、現在は植物由来の食品を使って肉を作る「プラントベース・ミート」が主流だ。
アメリカでは、マクドナルド、ケンタッキー・フライド・チキン、スターバックス、バーガーキングなどの大手チェーン店が代替肉ブームを牽引し、イギリスの銀行が2019年に出した試算では、10年以内に世界で販売される肉の約10%が代替肉になると予想される。
なぜこれほど、世界で代替肉が広まっているのか。農林水産省によると、世界の人口増加による家畜肉不足への懸念、自然環境への配慮や動物愛護、欧米人の健康志向の高まり、さらに食品技術の向上による代替肉の味の改良などがある。実際に代替肉を食べてみると、食肉との違いに気づかないほど再現度が高い商品も多い。
日本では昨年6月、政府が脱炭素社会実現のために代替肉を「食の一つの選択肢」として初めて取り上げ、本格的に注目を集めるようになった。代替肉を取り入れることが、どうして脱炭素社会の実現につながるのか。食品問題評論家の垣田達哉さんが解説する。
「4つの胃がある牛は、ゲップによって温暖化ガスのメタンを放出します。当然、家畜の飼料の生産や輸送でも二酸化炭素が排出される。そのため、牛肉の代わりに代替肉を食べれば、牛の飼育頭数が減ってメタンの排出量も減少すると考えられているのです」
だが垣田さんは、必ずしも代替肉が脱炭素につながるとは言い切れないと疑問を投げかける。
「現在、大豆の生産量が世界1位のブラジルでは、森林を伐採して大豆の生産が行われています。大豆ブームが始まっている東南アジアでも、今後、森林伐採が行われる恐れがある。これでは本末転倒です。また、大豆の生産量が少ない日本は、輸入大豆に頼らざるを得ない。船で大量の大豆を運搬すれば、当然、二酸化炭素も排出されます」(垣田さん)
代替肉にすれば単純に解決するとは言い難い問題だ。
大豆イソフラボンの過剰摂取で乳がんに
代替肉の主な原料である大豆は、日本人にとってなじみ深い食材だ。しかし、世界的に見ると大豆を日常的に食べる国は珍しく、多くの国では、大豆は家畜の餌や燃料として用いられている。こくらクリニック院長の渡辺信幸さんが言う。
「日本では1871(明治4)年まで約1200年にわたって、肉食が禁止されてきた歴史があります。さらに第二次世界大戦中は、肉食を含めた多くの欧米文化が禁止されていました。日常的に肉を食べずに、大豆からたんぱく質を摂取していた食生活の名残が現在も続いているのです」
豆腐、納豆、みそ、豆乳など、日本人はすでに大豆を豊富に摂取している。さらにそこへ、肉を大豆ミートに置き換えると、大豆イソフラボンの過剰摂取になりかねない。
「大豆イソフラボンは『植物エストロゲン』ともいわれ、女性ホルモン類似の物質です。食品安全委員会によると、乳がんの発症や再発リスクを高める可能性があると報告されている。また、生殖機能が未発達な小児・乳幼児に対しては、大豆イソフラボンの摂取は推奨されていません」(渡辺さん)
垣田さんも言う。
「世界では大豆イソフラボンによる乳がんリスクは問題視されていない。それは安全を示すのではなく、日本ほど大豆を消費している国がほかにないため論じられていないだけです」
なお、朝食に納豆1パックと豆腐のみそ汁を食べたら、1日分の大豆イソフラボンをほぼ摂取している。さらに、代替肉には、食の安全に疑問が残る「遺伝子組み換え大豆」の問題もある。
「世界では遺伝子組み換え大豆の生産が増えており、総栽培面積の8割を占めています。輸入大豆はほとんどが遺伝子組み換えだと考えても間違いではない。今後、流通が拡大する大豆ミートに、遺伝子組み換えではない大豆が使用されることはかなり難しいでしょう」(垣田さん・以下同)
フランス・カン大学の研究チームが行った実験によると、遺伝子組み換えのコーンを食べ続けたマウスは、非遺伝子組み換えのコーンを食べ続けたマウスと比べ、約2倍もがんの発生率が上がり、早死にすることがわかった。
「輸入大豆では、収穫後に劣化、腐食を防ぐために使われるポストハーベスト農薬の問題もある。がんの原因になることが指摘されています」
積極的に食べるべきか、検討が必要だ。
炭水化物の摂りすぎになる
いま、日本で代替肉といえば「大豆ミート」のことだが、アメリカのマクドナルドでは、昨年11月から一部の店舗で「マックプラント」と呼ばれる「牛肉レス」のハンバーガーが試験的に販売されている。ハンバーグの代わりにバンズに挟まれているのは、えんどう豆、米、じゃがいもなどから作られたパティだ。このように大豆以外の穀物を使った代替肉が普及すれば、大豆の過剰摂取リスクは解決する。しかし今度は炭水化物を二重に食べることになり、栄養不足や肥満のリスクが浮上する。
「普段の食事が脂質によるカロリーオーバーで肥満の人なら、代替肉にすることはヘルシーかもしれません。しかし、普通の人は代替肉にするとカロリーが不足する。足りないカロリーを補うためにご飯やパンを食べると、糖質の摂りすぎになってしまいます」
渡辺さんは、そもそも豆が主原料の代替肉を、肉の代用品と考えるべきではないと指摘する。
「よく『良質なたんぱく質を摂りましょう』と言いますが、たんぱく質とは『動物性たんぱく質』のことだと厚生労働省も示しています。たんぱく質の栄養価を示す『アミノ酸スコア』というものがありますが、スコア値が高く、バランスがいいのは肉やチーズ、卵などの動物性たんぱく質であり、植物性たんぱく質はスコアが完全ではない。種類にもよりますが、豆は炭水化物も豊富に含んでいます」
現在、食品メーカーでは競うように代替肉の商品開発が進んでいる。環境への配慮から代替肉を選ぶことは素晴らしい心がけだが、問題は「代替肉の方がヘルシー」という風潮だ。安易に流されてはいけない。
※女性セブン2022年3月17日号
環境にも体にも良いはずの代替肉に語られざるデメリットが
市場規模が拡大し、バリエーション豊富な商品が次々に開発されている「代替肉」食品は、「肉よりヘルシー」と人気が上昇中だ。しかし、新たな食文化の裏側には、必ず落とし穴がある。“第4の肉”とも呼ばれる代替肉を食卓でどのように扱うべきか参考にしてほしい。
※「大豆ミート」と書かれた食品をスーパーやレストランなどで目にする機会が増えた。モスバーガーやドトールコーヒーでは大豆由来のパティを使ったハンバーガーが販売され、コンビニでも大豆ミートのパスタや総菜が並ぶ。多くの飲食チェーン店で続々と大豆ミート商品が開発されており、もはや珍しいものではなくなりつつある。
日本能率協会総合研究所の調査によると、2019年に15億円だった大豆ミートの国内市場規模は右肩上がりで、2025年度には40億円に達する見通しだという。
牛や豚、鶏など家畜の肉を使わず作った肉のことを「代替肉(フェイクミート)」と呼ぶ。動物の細胞を培養して作る「培養肉」も代替肉の一種だが、まだ試験段階であり市場販売には至っておらず、現在は植物由来の食品を使って肉を作る「プラントベース・ミート」が主流だ。
アメリカでは、マクドナルド、ケンタッキー・フライド・チキン、スターバックス、バーガーキングなどの大手チェーン店が代替肉ブームを牽引し、イギリスの銀行が2019年に出した試算では、10年以内に世界で販売される肉の約10%が代替肉になると予想される。
なぜこれほど、世界で代替肉が広まっているのか。農林水産省によると、世界の人口増加による家畜肉不足への懸念、自然環境への配慮や動物愛護、欧米人の健康志向の高まり、さらに食品技術の向上による代替肉の味の改良などがある。実際に代替肉を食べてみると、食肉との違いに気づかないほど再現度が高い商品も多い。
日本では昨年6月、政府が脱炭素社会実現のために代替肉を「食の一つの選択肢」として初めて取り上げ、本格的に注目を集めるようになった。代替肉を取り入れることが、どうして脱炭素社会の実現につながるのか。食品問題評論家の垣田達哉さんが解説する。
「4つの胃がある牛は、ゲップによって温暖化ガスのメタンを放出します。当然、家畜の飼料の生産や輸送でも二酸化炭素が排出される。そのため、牛肉の代わりに代替肉を食べれば、牛の飼育頭数が減ってメタンの排出量も減少すると考えられているのです」
だが垣田さんは、必ずしも代替肉が脱炭素につながるとは言い切れないと疑問を投げかける。
「現在、大豆の生産量が世界1位のブラジルでは、森林を伐採して大豆の生産が行われています。大豆ブームが始まっている東南アジアでも、今後、森林伐採が行われる恐れがある。これでは本末転倒です。また、大豆の生産量が少ない日本は、輸入大豆に頼らざるを得ない。船で大量の大豆を運搬すれば、当然、二酸化炭素も排出されます」(垣田さん)
代替肉にすれば単純に解決するとは言い難い問題だ。
大豆イソフラボンの過剰摂取で乳がんに
代替肉の主な原料である大豆は、日本人にとってなじみ深い食材だ。しかし、世界的に見ると大豆を日常的に食べる国は珍しく、多くの国では、大豆は家畜の餌や燃料として用いられている。こくらクリニック院長の渡辺信幸さんが言う。
「日本では1871(明治4)年まで約1200年にわたって、肉食が禁止されてきた歴史があります。さらに第二次世界大戦中は、肉食を含めた多くの欧米文化が禁止されていました。日常的に肉を食べずに、大豆からたんぱく質を摂取していた食生活の名残が現在も続いているのです」
豆腐、納豆、みそ、豆乳など、日本人はすでに大豆を豊富に摂取している。さらにそこへ、肉を大豆ミートに置き換えると、大豆イソフラボンの過剰摂取になりかねない。
「大豆イソフラボンは『植物エストロゲン』ともいわれ、女性ホルモン類似の物質です。食品安全委員会によると、乳がんの発症や再発リスクを高める可能性があると報告されている。また、生殖機能が未発達な小児・乳幼児に対しては、大豆イソフラボンの摂取は推奨されていません」(渡辺さん)
垣田さんも言う。
「世界では大豆イソフラボンによる乳がんリスクは問題視されていない。それは安全を示すのではなく、日本ほど大豆を消費している国がほかにないため論じられていないだけです」
なお、朝食に納豆1パックと豆腐のみそ汁を食べたら、1日分の大豆イソフラボンをほぼ摂取している。さらに、代替肉には、食の安全に疑問が残る「遺伝子組み換え大豆」の問題もある。
「世界では遺伝子組み換え大豆の生産が増えており、総栽培面積の8割を占めています。輸入大豆はほとんどが遺伝子組み換えだと考えても間違いではない。今後、流通が拡大する大豆ミートに、遺伝子組み換えではない大豆が使用されることはかなり難しいでしょう」(垣田さん・以下同)
フランス・カン大学の研究チームが行った実験によると、遺伝子組み換えのコーンを食べ続けたマウスは、非遺伝子組み換えのコーンを食べ続けたマウスと比べ、約2倍もがんの発生率が上がり、早死にすることがわかった。
「輸入大豆では、収穫後に劣化、腐食を防ぐために使われるポストハーベスト農薬の問題もある。がんの原因になることが指摘されています」
積極的に食べるべきか、検討が必要だ。
炭水化物の摂りすぎになる
いま、日本で代替肉といえば「大豆ミート」のことだが、アメリカのマクドナルドでは、昨年11月から一部の店舗で「マックプラント」と呼ばれる「牛肉レス」のハンバーガーが試験的に販売されている。ハンバーグの代わりにバンズに挟まれているのは、えんどう豆、米、じゃがいもなどから作られたパティだ。このように大豆以外の穀物を使った代替肉が普及すれば、大豆の過剰摂取リスクは解決する。しかし今度は炭水化物を二重に食べることになり、栄養不足や肥満のリスクが浮上する。
「普段の食事が脂質によるカロリーオーバーで肥満の人なら、代替肉にすることはヘルシーかもしれません。しかし、普通の人は代替肉にするとカロリーが不足する。足りないカロリーを補うためにご飯やパンを食べると、糖質の摂りすぎになってしまいます」
渡辺さんは、そもそも豆が主原料の代替肉を、肉の代用品と考えるべきではないと指摘する。
「よく『良質なたんぱく質を摂りましょう』と言いますが、たんぱく質とは『動物性たんぱく質』のことだと厚生労働省も示しています。たんぱく質の栄養価を示す『アミノ酸スコア』というものがありますが、スコア値が高く、バランスがいいのは肉やチーズ、卵などの動物性たんぱく質であり、植物性たんぱく質はスコアが完全ではない。種類にもよりますが、豆は炭水化物も豊富に含んでいます」
現在、食品メーカーでは競うように代替肉の商品開発が進んでいる。環境への配慮から代替肉を選ぶことは素晴らしい心がけだが、問題は「代替肉の方がヘルシー」という風潮だ。安易に流されてはいけない。
※女性セブン2022年3月17日号