・ジェフ・ベゾスが「人類は宇宙に住む以外道がない」と断言する衝撃理由(DIAMOND ONLINE 2021年12月31日)

ジェフ・ベゾス

※「資源が枯渇する」という明白な事実

グローバルなエネルギー使用量は毎年3パーセント伸びています。あまり大きな伸びに聞こえないかもしれませんが、それが毎年重なるとものすごい量になります。毎年3パーセントずつ複利で増加すると、人間のエネルギー消費量は25年ごとに倍になります。

現在のグローバルなエネルギー使用量を考えると、ネバダ州全域を太陽光パネルで覆うことですべてが賄える計算になります。もちろん、そんなことはかなり難しいように思えますが、不可能ではないでしょう。いずれにしろネバダ州のほとんどは砂漠ですから。

ですが、3パーセントの複利がそのまま伸びていくと、ほんの数百年もすれば地球全体を太陽光パネルで覆わなくては追いつかなくなってしまいます。そんなことは不可能です。現実的でもなければ、うまくいくはずもありません。ではどうしたらよいのでしょう?

ひとつは、言うまでもなくエネルギー効率を上げることです。ただし問題は、これはすでに織り込み済みだということです。この100年のあいだ、エネルギー消費量は年率3パーセント増加していますが、人はつねにエネルギー効率に取り組み続けてきました。例を挙げましょう。200年前は、1時間分の照明の費用は84時間の労働に値しました。いまでは、1.5秒分の労働で1時間分の照明の費用を賄えます。

エネルギー消費は増え続ける
 
蝋燭が灯油ランプになり、それが白熱灯になり、LEDに変わって、エネルギー効率は大幅に上昇しました。もうひとつの例は飛行機です。旅客機が飛びはじめて半世紀のあいだにエネルギー効率は4倍になりました。

50年前には一人の乗客がアメリカを横断するのにかかった燃料は109ガロンでした。いまでは、最新の787型機なら24ガロンしかかかりません。これは驚異的な改善度です。劇的と言えるでしょう。

コンピュータの処理能力はどうでしょう? コンピュータ処理効率は1兆倍になりました。世界初の商用コンピュータであるユニバックが15件の計算を処理するのにかかったエネルギーは1キロワット秒でした。最新のプロセッサなら同じエネルギーで17兆回の計算を処理できます。

さて、効率が上がったら人間はどうするでしょう? エネルギーをさらに消費するのです。人工照明の値段が下がった結果、もっと明かりを使うようになりました。空の旅が非常に安くなった結果、みんなが旅をするようになりました。コンピュータ処理能力のコストが激減した結果、いまやスナップチャットまで手に入れたわけです。

エネルギー需要は増大し続けるばかりです。いくらエネルギー効率が上がっても、私たちはもっともっと多くのエネルギーを使い続けるでしょう。先ほどの3パーセント成長という数字は、今後エネルギー効率が大幅に改善していくことを見込んだうえでのものです。

資源は有限なのに需要が無限に伸びたらどうなるでしょう? 答えは簡単です。配給制にするしかありません。いまのままだとその方向に向かうほかなく、世の中がその方向に進めば、歴史上はじめて私たちの孫世代は私たちよりよい人生を送ることができなくなります。決していい方向とは言えません。

「停滞」と「成長」のどちらを選ぶか?
 
ですが、幸運なことに、地球を出れば太陽系には私たちが実際に使える資源が豊富に存在します。ということは、私たちは選択できるのです。停滞と配給か? それとも活気と成長か? 選ぶのは簡単です。何を望むかは明らかでしょう。

ただ、急がなければなりません。太陽系全体では1兆人の人口でも維持できるかもしれません。そうなれば、1000人のモーツァルトと1000人のアインシュタインが生まれるかもしれません。文明は驚くほど進化するでしょう。

では、その未来は具体的にどんなものになるのでしょう? 1兆もの人がどこに暮らすのでしょう? プリンストン大学で物理学を研究していたジェラルド・オニール教授はこの問題を深く考え抜き、それまで誰も疑問に思わなかったことを問いました。それは「人が太陽系に進出するにあたって最適な場所は、惑星の表面か?」という問いです。

オニール教授はこの問いに答えるべく、学生たちと研究を重ね、直感に反する意外な答えにたどりつきました。答えは「ノー」だったのです。なぜか? 彼らは数々の問題を挙げました。

まず、惑星の表面はそれほど広くありません。最大でも現在の2倍の人口までしか維持できません。それでは小さすぎます。しかも遠すぎます。火星への往復には数年かかりますし、最適な打ち上げの機会は26か月に1回しかありません。これはロジスティクスの面で非常に深刻な問題になります。そのうえ、距離が遠すぎて地球とリアルタイムの通信ができません。光速の限界で遅れが出ます。

宇宙に「コロニー」をつくる
 
もっと基本的な問題もあります。地球以外の惑星の表面は、重力が弱いということです。人間が住めるのは重力のある場所に限定されます。火星の重力は地球の3分の1です。そこでオニール教授のグループは、惑星の表面ではなく、回転による遠心力を使って擬似重力を得る人工的な居住区を思いつきました。この人工居住区は長さ数十マイルにも及ぶ巨大な建造物で、一基につき数百万人が居住できるようなものです。

このような、いわゆるスペースコロニーは、国際宇宙ステーションとはまったく違います。コロニーの内部には高速輸送手段が備えられ、農業区域も都市もあります。

それぞれのコロニーの重力がすべて同じである必要はありません。遊び専用のコロニーでは重力をゼロにして飛び回ることも可能です。国立公園をつくることもできます。快適な居住環境も確保できます。地球にある都市をまねてコロニーにつくることもできます。歴史的な都市をまねて同じようにつくってもいいでしょう。まったく新しい種類の建築物を建てることもできます。

コロニーでは気候も思いのままです。マウイ島の最高の一日を一年中味わうことができるのです。雨も降らず、嵐もなく、地震もありません。

雨風をしのぐ必要がなければ、建物はどんな構造になるでしょう? それはできてみないとわかりません。ですが、コロニーが美しいものになることは確かです。住みたがる人は多いでしょう。しかも地球から近い場所につくれば、地球に戻ることもできます。人は地球に戻りたいと思うはずですから、これは大切な点です。誰も永遠に地球を離れたくはありません。

また、コロニー間の往来も簡単なものになります。別のコロニーに住む友人や家族に会いにいったり、娯楽専用のコロニーに遊びにいくこともできます。素早く行き来できるので、エネルギーはあまり必要ありません。日帰りも可能です。(中略)

地球は「制限居住地区」になる
 
では、このオニール教授の人工居住地構想は、どんな未来につながるのでしょう? これは地球にとってどんな意味を持つのでしょう?

地球は制限居住地区となり、軽工業が行われる場所になるでしょう。そして、住むにも、訪れるにも、美しい場所になることでしょう。大学に行くにも、軽工業を営むにも最適な場所になります。ですが重工業や大気汚染の原因になるような工業、つまり地球に害をもたらすことはすべて、地球の外で行われるようになるのです。

そうすれば、この宝石のような奇跡の惑星を、一度傷つけてしまうともとに戻らない場所を、保護することができます。これ以外に道はありません。地球を救わなければなりませんし、孫やその孫のために活気と成長をあきらめてはいけません。どちらも手に入れることはできるはずです。

すでにインフラがあったからアマゾンは成功できた
 
では、誰がこの仕事をするのでしょう? 私ではありません。これほどの大きな夢を実現するには長い時間がかかります。いま学校に通っている子どもたちとその子どもたちが実現するのです。彼らが何千何万という未来の会社をつくりだし、これまでにない新たな産業を生み、エコシステム全体をつくり変えるのです。起業家が活躍し、クリエイティブな才能が解き放たれて宇宙利用の新しいアイデアが生まれるでしょう。

ですがそのようなベンチャー企業は、いまはまだ存在していません。いま現在、宇宙で面白いことをしようしても、参入コストが高すぎるので不可能です。コストが高すぎるのは宇宙にインフラが存在しないからです。

アマゾンの創業は1994年でした。アマゾンが事業を行うために必要だった社会のインフラはすべて、すでにそこにありました。荷物を運ぶための輸送インフラを、私たちがつくる必要はありませんでした。もうあったからです。もし輸送インフラを自分たちでつくるとしたら、資本が何百億ドルあっても足りなかったはずです。ですが、輸送インフラはすでにありました。アメリカ郵便公社、ドイツポスト、ロイヤルメール、UPS、フェデックスです。そのインフラの上にアマゾンを築くことができました。

決済システムも同じです。決済システムを開発し、立ち上げたのは私たちではありません。もし自力でつくるとしたら莫大な投資と数十年という時間が必要だったはずです。ですがありがたいことに、すでにクレジットカードが存在していました。

後の世代のためにインフラをつくる
 
コンピュータを発明したのも私たちではありません。すでにほとんどの家庭にコンピュータはありました。ゲームをやるために使っていたかもしれませんが、コンピュータがあったことには変わりありません。そのインフラはあったのです。

莫大な金額を投資して通信網を建設する必要はあったでしょうか? それもせずにすみました。AT&Tやその他、世界中の通信事業者が、長距離電話のためにグローバルな通信網を構築してくれていたからです。起業家が活躍できるのは、このようなインフラのおかげです。

オニールコロニーを建設するのは、いまの子どもたちとその子どもや孫たちです。孫世代がコロニーをつくれるよう、インフラをつくりはじめるのは私たちの世代です。私たちが宇宙への道を切り開けば、素晴らしいことが起きるでしょう。(中略)

環境が整えば、人々は思い切り創造性を開花することができます。私たちの世代が宇宙への道を開き、インフラを築けば、大勢の未来の起業家が本物の宇宙産業を創造するでしょう。

私は彼らをその気にさせたいのです。大きすぎる夢に聞こえるかもしれませんし、実際、これは大きな夢です。いずれも簡単ではありません。何もかも難しいことですが、人々の心に火をつけたいのです。ぜひ考えてみてください──大きなことも小さくはじまる、ということを。

(本原稿は、ジェフ・ベゾス『Invent & Wander』からの抜粋です)

ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)
アマゾン創業者、元CEO。宇宙飛行のコスト削減と安全性向上に取り組む宇宙開発企業、ブルーオリジン創業者。ワシントン・ポスト社オーナー。2018年、ホームレスの家族を支援する非営利団体の支援や、低所得地域の優良な幼稚園のネットワーク構築に注力するベゾス・デイワン基金を設立。1986年、プリンストン大学を電気工学とコンピューターサイエンスでサマ・カム・ラウディ(最優秀)、ファイ・ベータ・カッパ(全米優等学生友愛会)メンバーとして卒業、1999年、タイム誌「パーソン・オブ・ザ・イヤー」選出。『Invent & Wander──ジェフ・ベゾス Collected Writings』を刊行。