https://kon-51.hatenablog.com/entry/2021/10/25/070000

・スウェーデンの実情が日本で報道されにくい理由

※日本ではスウェーデンは福祉大国であり、誰もが平和でのどかに暮らす夢のような国をイメージしている人が多いのではないでしょうか?

確かにスウェーデンには自然も多く、人々も穏やかであり、日本と比べるとのんびりと余暇を楽しみながら過ごせる人が多くいます。

しかし近年では犯罪が非常に多発しており、日本と比べると拳銃事件発生率は人口当たり272倍以上、爆発事件数は122倍以上、性犯罪率も86倍以上も高い状況となり、多くの凶悪事件にはギャングメンバーが関与している事が多く、年々治安が非常に悪くなっています。

また防犯協議会Bråによる調査で、移民系スウェーデン人による犯罪が、先住のスウェーデン人による犯罪を大きく上回っていることが公式発表され、外国生まれとその子供たちは、スウェーデン生まれの両親を持つスウェーデン生まれの子供よりも、犯罪の疑いがある可能性が2.5〜3倍高くなっています。

しかしこうした現在犯罪が急増するスウェーデンの状況は日本ではあまり報道されないのではないでしょうか。

コロナ事情に関しても、日本ではスウェーデンの集団免疫戦略(正式には言っていない)や、2020年12月18日にスウェーデン国王カール16世グスタフがスウェーデンのコロナ対策は失敗であったという発言はあったものの、それ以外のスウェーデン情報はあまり日本では報じられていません。

しかし実はコロナ以前から高齢者施設に脆弱性があり、また2020年4月5月時点ですでにレナ・ハレングレン社会大臣、ロベーン首相が高齢者コロナ対策は失敗と発言し、2020年12月15日にコロナ委員会が高齢者コロナ対策は失敗であると正式報告していたことは日本であまり報道されておらず、知る人もあまりいないのではないでしょうか。

恐らく多くの日本人が知っているのはスウェーデンの一部の情報のみなのではないでしょうか?

それでは日本ではなぜスウェーデンの実情が報道されにくい理由をコロナ事情を例として示していきます。


スウェーデン報道と日本の報道の違い

下記はスウェーデンの主なコロナ事象を時系列化したのです。





しかし日本の主要メディアでは下記のような報道が主にされたのではないでしょうか。





こうした一般的に日本で報道される情報だけを聞くと、あたかもスウェーデン公衆衛生庁主導の集団免疫戦略(正式にはそう発言していません)は途中失敗だったが、現在も日本ではいま規制解除ができない中、スウェーデンではロックダウンもマスクも推奨せず感染者数が減り、最終的に集団免疫戦略は成功し9月29日からの規制緩和につながりたようも見えてしまいます。

(またスウェーデンのロックダウンしないことが日本では話題となりましたが、実際には隣国フィンランドも一部地域封鎖が短期間あったものの、フランスのようなロックダウンはしていません)

しかし実際には2020年4月5月時点でハレングレン社会大臣、ロベーン首相はすでに高齢者対策は失敗であると発言しており、12月15日に政府のコロナ委員会も高齢者政策は失敗でありその最終責任は政府にあると正式報告をだしているのです。

その後、スウェーデンは政府主導による他国に近い規制を設けるコロナ対策に切り替わりマスク使用も推奨され、ワクチンの普及が日本よりも進み大幅に感染者数が減ったことで、9月29日からの大幅な規制緩和に踏み切ることとなったのです。

ではなぜ日本ではスウェーデンの実情に関し、切り取られたような報道となるのでしょう?


1つ目の理由:日本:国際報道数が少ない

1つ目の理由として、日本の主なメディアでは欧米メディアと比べ国際報道数が少ないため、海外支局が主要国にしかない事に起因していると考えられます。

日本のメディアは国内報道数は多いものの、国際報道数は少ないです。

大阪大学を拠点とするメディア研究機関グローバル・ニュース・ビュー(GNV)が調査した三大紙(読売新聞、朝日新聞、毎日新聞)における国際報道の割合は下記のようになっています。


国際報道の割合(記事数) 2017年 (出所GNV)


朝日新聞:国内報道数 88.5%、国際報道数 10.7%、日本関連の国際報道数 0.7%
毎日新聞:国内報道数 88.9%、国際報道数 10.3%、日本関連の国際報道数 0.9%
読売新聞:国内報道数 87.8%、国際報道数 11.1%、日本関連の国際報道数 1.0%


また5月23日の東洋経済には、GNV創設者、大阪大学大学院 国際公共政策研究科 ホーキンス教授の記事が掲載されています。


「メディアの偏った報道」解消に挑む阪大教授の志

データで浮かび上がる日本の国際報道の問題点

--GNVでの活動や研究を通して、ホーキンス先生は「日本の国際報道には2つの問題点がある」と主張しています。具体的には、どういうことなのでしょうか。


量が乏しすぎる。そして、中身が偏りすぎている。この2点です。もちろん、外国の国際報道にも同様の傾向はあります。測り方の問題があるので簡単に比較はできないですが、アメリカのテレビ報道では国際ニュースが15~20%くらいです。日本の新聞は、ニュース全体の10%前後ですね。

これとは別に、以前、私が手掛けた調査では、欧米の国際報道でアフリカのニュースが占める割合は6~9%でした。これに対し、日本の新聞では2~3%です。

日本の国際報道は量が乏しく、そのうえで地域的な偏りが激しい。とはいえ。欧米の国際報道も決してモデルにすべきようなものではありません。

ナショナリズムと自国中心主義の影響が大きい

日本の国際報道が偏りすぎている原因については、ナショナリズムと自国中心主義の影響が大きいと言えます。例えば、事故やテロがあれば、日本のメディアは「被害者に日本人がいるか」「その出来事と日本人にはどんな関わりがあるのか」といった点にばかり、まず目を向けます。

その次に来るのは、欧米メディアの目線です。日本の国際報道は、欧米メディアの報道を追いかけている。したがって、アメリカが着目するニュースに日本も着目します。アフリカの出来事を報道するにしても、しばしば、ニューヨークやワシントンから「アフリカのこの問題について、アメリカ当局はこういう見解を示している」といった伝え方をしています。

https://toyokeizai.net/articles/-/428939?page=3

こうした大阪大学院ホーキンス教授の発言から、日本の報道は国内数は多いものの、国際報道数は欧米のメディアと比較するとがかなり少なく、偏っている記事もあることがわかります。

国際報道の記事数が少ないという事は、主要国にしか海外支局がなく国際報道担当記者数も少ないという事になります。


日本の主要メディアの海外支局一覧

朝日新聞

アメリカ総局(ワシントン) ニューヨーク支局、サンフランシスコ支局、サンパウロ支局、ハバナ支局 ヨーロッパ総局(ロンドン) パリ支局、ベルリン支局、ブリュッセル支局、ジュネーブ支局、ローマ支局、ウィーン支局、モスクワ支局 中東アフリカ総局(カイロ) エルサレム支局、ヨハネスブルク支局、テヘラン支局、バクダッド支局、ドバイ支局、イスタンブール支局 アジア総局(バンコク) シンガポール支局、ジャカルタ支局、ニューデリー支局、ハノイ支局、ヤンゴン支局、シドニー支局 中国総局(北京) 上海支局、瀋陽支局、広州支局、台北支局、香港支局、ソウル支局
アメリカ総局(ワシントン) ニューヨーク支局、サンフランシスコ支局、サンパウロ支局、ハバナ支局、ヨーロッパ総局(ロンドン) パリ支局、ベルリン支局、ブリュッセル支局、ジュネーブ支局、ローマ支局、ウィーン支局、モスクワ支局、中東アフリカ総局(カイロ) エルサレム支局、ヨハネスブルク支局、テヘラン支局、バクダッド支局、ドバイ支局、イスタンブール支局 アジア総局(バンコク) シンガポール支局、ジャカルタ支局、ニューデリー支局、ハノイ支局、ヤンゴン支局、シドニー支局 中国総局(北京) 上海支局、瀋陽支局、広州支局、台北支局、香港支局、ソウル支局


毎日新聞

北米総局(ワシントン)、ニューヨーク支局、ロサンゼルス支局、メキシコ支局、ソウル支局、中国総局(北京)、上海支局、台北支局、マニラ支局、ジャカルタ支局、ニューデリー支局、エルサレム支局、テヘラン支局、欧州総局(ロンドン)、ローマ支局、パリ支局、ウィーン支局、ベルリン支局、ジュネーブ支局、ブリュッセル支局、モスクワ支局、カイロ支局、ヨハネスブルク支局、通信員(トロント、カトマンズ)


読売新聞

ロンドン(欧州総局)、パリ支局、ブリュッセル支局、ジュネーブ支局、ベルリン支局、フランクフルト支局、ローマ支局、ウィーン支局、モスクワ支局、プラハ支局、アテネ支局、ワシントン(アメリカ総局)ニューヨーク支局、ロサンゼルス支局、メキシコ支局、ハバナ支局、リオデジャネイロ支局、北京(中国総局)上海支局、瀋陽支局、香港支局、台北支局、ソウル支局、バンコク(アジア総局)マニラ支局、シンガポール支局、ジャカルタ支局、シドニー支局、ニューデリー支局、イスラマバード支局、カイロ支局、エルサレム支局、テヘラン支局、イスタンブール支局、ヨハネスブルク支局


NHK

アジア総局、マニラ支 局、ジャカルタ支 局、ハノイ支 局、クアラルンプール支局、ニューデリー支局、イスラマバード支局、シンガポール支局、シドニー支局、ソウル支局、中国総局、上海支局、広州支局、台北支局、ヨーロッパ総局、ロンドン支局、ブリュッセル支局、ベルリン支局、ウィーン支局、モスクワ支局、カイロ支局、ドバイ支局、エルサレム支局、テヘラン支局、ウラジオストク支局、アメリカ総局、ワシントン支局、ロサンゼルス支局、サンパウロ支局


日本テレビ
ロンドン支局、パリ支局、モスクワ支局、カイロ支局、中国総局、上海支局、ソウル支局、バンコク支局、ニューヨーク支局、ワシントン支局、ロサンゼルス支局


TBS

ニューヨーク支局、ワシントンDC支局、ロサンゼルス支局、パリ支局、ロンドン支局、ベルリン支局、ウイーン支局、モスクワ支局、カイロ支局、北京支局、上海支局、ソウル支局、バンコク支局


朝日テレビ

アメリカ総局、ニューヨーク支局、ワシントン支局、ロンドン支局、パリ支局(ABC)、モスクワ支局、カイロ支局、バンコク支局、中国総局(北京)、ソウル支局 上海支局(ABC)


東京テレビ

ニューヨーク・ワシントン・ロンドン、モスクワ・ソウル・北京・上海


上記の主要メディアの海外支局一覧からもわかるように、日本の主要メディアにはスウェーデン支局が1つもありません。その理由としてアメリカやイギリス、フランスなど大国には支局があるものの、人口1,023万人しかいない小国であり、政治的にも繋がりが少ないスウェーデンに支局がないと考えられます。

その為スウェーデンの報道は近隣のロンドン支局やパリ支局が対応すると考えられます。ただスウェーデン支局がなく他国の支局が対応すると、スウェーデン語という言語障壁や地理的問題により情報は限られてしまいます。

そこで報道記者ではない一部の現地日本人からの情報にも頼ることにもなり、日本で報道されるスウェーデン事情には個人的主観も含まれた報道になりやすいと考えられるのです。コロナ期で移動制限がかかる中ではなおさらであります。

このように日本で報じられるスウェーデンの報道にはフィルタリングがかかり、スウェーデン国内や欧米諸国で報じられる一般的なスウェーデン情報(良い面、悪い面とも)でさえも日本には伝わらず、一部のフィルタリングされた情報のみが日本では報じられていると考えられます。

しかし欧米のメディア(BBC、ロイター、ニューズウィーク、または隣国フィンランドなど)では、地理的問題や語学障壁も少なく、比較的スウェーデン国内に近い記事や、さらに追求した記事も報じられています。





もちろん日本人でも英語や他言語が堪能であり欧米メディアにも目を通せる方は問題ないのですが、一般の日本人は現在も英語が苦手である人も多いため、なかなか海外の主要メディアの国際報道に目を通すことは難しいです。

その為多くの日本人は日本のメディアからの国際報道に頼り、スウェーデンの実情に関しても一部の情報しか知ることができないのです。



また「スウェーデン 福祉大国の深層」を読まれた方はわかるかもしれませんが、本書の内容は多くの日本人にとって意外なスウェーデンの側面が記されているかもしれません。

しかし本書は基本的としてスウェーデンの報道記事で構成しており、スウェーデン国内では一般的に報じられている内容が多くあります。

ただ一般的な日本メディアでの報道内容とは異なるため、多くの日本人がもつスウェーデンのイメージと違うのです。


ミスリード報道

またこうした日本の報道は、以前記した「ミスリード報道⁉ 日本の再犯者率と北欧の再犯率」の内容ともつながるものがあります。

内容は日本では日本の再犯者率と北欧の再犯率を比較することがあり、あたかも日本の再犯率は高く、北欧の再犯率は低いと錯覚してしまう理由を記したものです。

ただ実際には日本の再犯者率と北欧の再犯率では定義が全く違うので比較はできません。

その中で記した2016年11月15日のヤフー ニュースには、『「再犯者率、過去最高」のカラクリ 犯罪白書でミスリード報道相次ぐ』という見出しの記事があり、次のように記されています。


その意味を十分理解せずに「過去最高」と大きく報道し、ミスリードしているケースも少なくない

実態を表している「生のデータ」を自ら分析するのではなく、法務省(法務総合研究所)が行った比較分析などの「分析結果」を検証するのでもなく、そのまま借用して「事態の悪化」を印象づける報道がみられた。

こうした「犯罪白書」報道から見て取れるのは、メディアの「発表」依存と「悪いニュース」志向という病理である。


こうした理由から日本でのスウェーデンに関する報道内容も、発表(提供)された一部の情報をもとにメディア自らの分析があまりなく記事が構成され、メディアによりフィルタリングされ切り抜かれた一部の報道しか一般の日本人は得ていないと考えられるのです。

https://news.yahoo.co.jp/byline/yanaihitofumi/20161115-00064334


2つ目の理由:日本:ノーベル賞への多額投資

2つ目の理由として、日本ではノーベル賞獲得に多額の資金投資をしていることが考えられます。

技術大国日本にとってノーベル賞獲得は日本の技術力を世界に示すために大きな役割を担っています。そのためノーベル賞の威厳を保つためにもスウェーデンが良いイメージを保つことが重要となってきます。

そのためスウェーデンのイメージが崩れるような報道はノーベル賞の威厳存続にも繋がり、ノーベル賞獲得のために多額投資する日本にとってもマイナスにつながる可能性も出てきます。

その為日本ではスウェーデンにマイナスになる報道はあまりされないと考えられます。

ちなみに日本で毎年大きく報道されるノーベル賞受賞式ですが、一般のスウェーデン人の間ではあまりノーベル賞について騒いでいません。

また多くのノーベル賞受賞者を輩出するアメリカでも一般のアメリカ人はあまりノーベル賞受賞を騒がないそうです。2016年にアメリカのミュージシャン ボブ・ディランがノーベル文学賞事務局の連絡を無視し続けてきたことは大きなニュースでした。


3つ目の理由:スウェーデン:産業界の影響力

3つ目の理由としてスウェーデン産業界の影響力により、スウェーデン経済に影響を及ぼすようなマイナスのイメージ報道が日本でされずらいとも考えられます。

日本ではほとんど知られていませんが、スウェーデンでは一部の大財閥(家族)がストックホルム証券所の時価総額70%を保有しています。またこうした財閥(家族)は現政府である社会民主党との結び付きが強くあります。

このスウェーデンの財閥の中の最大財閥(家族)は世界的にもネットワークがあり日本にも支局があります。またこの財団(家族)の1人は、2019年に在スウェーデン日本国大使から両国の経済関係強化と友好親善に寄与した功績として旭日重光章が授けられました。そのためこの財団(家族)が日本経済とのつながりがないとはいえないのです。

またスウェーデンの最大財閥(家族)は大学・研究機関にも多額な助成金をだし、さらにノーベル財団へも多額の寄付金をだし強い結びつきをもっています。

2つ目の理由で示したように日本でスウェーデンのイメージを壊すような報道がされるとノーベル賞の威厳を損ないかねず、ノーベル賞の威厳が損なうことはスウェーデンの経済や産業界にも大きな影響を与えることになるのです。

このためスウェーデンの産業界からの影響もあり、日本ではスウェーデンにマイナスにとなるような報道はされにくいとも考えられるのです。

(ここでスウェーデンの社会構造を細かく全て記せないので、詳しくお知りになりたい方はスウェーデン 福祉大国の深層 をお読みください)


結論

こうした3つの理由により、日本におけるスウェーデンの実情に対する報道には、フィルタリングがかかり一部の情報しか一般の日本人は知らされていないと考えられます。

その為2020年12月15日にコロナ委員会がスウェーデン高齢者コロナ対策は失敗したという正式発表も、多くの日本人はスウェーデン政府の正式見解を知らないのです。また中には集団免疫戦略が継続されており、それが9月29日からの大幅な規制緩和につながったと考える人さえもでてしまうかもしれません。

ただ付け加えておくこととして、スウェーデンの実情は日本の一部の専門家には知られており論文や報告書などでは公表されています。

しかし一般の日本人はテレビなどの大衆メディアからの情報が大半であるため、フィルタリングされた一部の報道で、現在のスウェーデンに対する固定的なイメージが作りあげられていると考えられるのです。

またもう少し深く追求すると、これはスウェーデンに対する固定的なイメージに限ったことではなくなく、

多くの日本人が憧れを抱く西欧諸国のイメージも作り上げているのでははないでしょうか?



https://kon-51.hatenablog.com/entry/2021/08/08/070000

・スウェーデン「巨大財閥! 映画『ドラゴンタトゥーの女』を超える現実の大財閥」

※スウェーデンではサスペンスや刑事事件や小説やドラマが人気です。

その中でも2人の作家スティーグ・ラーソンとダヴィド・ラーゲルクランツにより書かれた、『ミレニアム』は世界でも有名な推理小説です。そして2011年に『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』を原作とした映画『ドラゴン・タトゥーの女』がハリウッドで映画化されました。


あらすじは、社会派ジャーナリストの主人公と小柄な天才ハッカーのヒロインが手を組み、孤島に暮らす財閥一族の血塗られた謎に迫っていくさまをスリリングに描き出したものです。

社会派月刊誌『ミレニアム』を発行するジャーナリストのミカエルは、大物実業家ヴェンネルストレムの武器密売をスクープするも名誉毀損で訴えられ、敗訴し全財産を失ってしまいます。

そんな彼のもとに、大財閥ヴァンゲル・グループの前会長ヘンリックからある調査依頼が舞い込みます。それは、ヴァンゲル一族が暮らすスウェーデンの孤島で40年前に起こった未解決の少女失踪事件を再調査してほしいというものでした。

依頼を引き受けたミカエルは、猟奇連続殺人に関わる一族の秘密を知ることになります。そしてミカエルは、彼に興味を持ったドラゴンの刺青をしたフリーの天才女ハッカーであるリスベットとともに捜査を進め、すべての謎と事件を解決していくというストーリーです。

映画『ドラゴン・タトゥーの女』の中では、ヴァンゲル家というスウェーデンにおける大財閥で起きた失踪事件が舞台となり、スウェーデン財閥の力の大きさを示しています。


フィクション映画より巨大な現実のスウェーデン大財閥

しかし実は現実のスウェーデンにおける財閥は、このフィクションの映画より大きな力を持っています。そしてこのことは映画の中でも語られています。

映画の中では、ヴァンゲル家の兄マルティンがヴァンゲル財閥について話すシーンがありますが、その中でマルティンは「エリクソンやノルデアほどではないが、うち(ヴァンゲル家)は同族経営としては国内大手だ。最盛期は従業員4万人いた、今は約その半分だ」と語っています。

また日本ではあまり知られてはいませんが、スウェーデンでは一部の財閥(家族)所有する富の割合は、世界のほかの富裕国と比べて非常に高いのです。

著書『スウェーデン 福祉大国の深層』では詳細を記していますが、2013年の新聞アファースバーデンの記事によると、ストックホルム証券取引所の時価総額70%が15つの一族(財閥)だけで占められています。

その中でもスウェーデンのある最大一族(財閥)は、2番目に大きな財閥である、イケアを創設したカンプラット家の3倍以上の富を保有しており、ストックホルム証券取引所の時価総額40%を保有していると報じています。

また2019年の新聞アファースバーデンの記事でも、スウェーデンにおける最大一族(財閥)は、世界でも名の知れたスウェーデンのアパレルメーカーH&M創始者エーリング・パーソンが所有するパーソン一族(財閥)の2.5倍以上の富を保有していると記されています。

2番手のパーソン一族(財閥)を大きく引き離し、2019年においても巨額な富を保持していることがわかります。またこの最大一族(財閥)はドラゴンタトゥーの女と同様に武器輸出も行っています。

ドラゴンタトゥーの女はフィクション映画であります。また通常、映画や小説は現実より誇張されて記されることが多いです。

しかしスウェーデンにおける財閥の富保有に関しては、イギリスの詩人バイロンが「事実は小説よりも奇なり」と言葉を残したように、現実のほうがフィクション映画を超えるものとなっているのです。

スウェーデンの大財閥について詳しく知りたい方は『スウェーデン 福祉大国の深層』をお読みください。




※ヴァレンベリ家



(上)アンドレ・オスキャル・ヴァレンベリ (1816–1886)


ヴァレンベリ家(Wallenberg, ワレンバーグ家、ウォーレンバーグ家)は、金融界と産業界で有名なスウェーデンで最も影響力があり富裕な一族である。1990年には、この一族がスウェーデンのGNPの3分の1を間接的に支配していると見積もられている。ヴァレンベリ家は自らが人選した企業幹部を通じた閥と最大の議決権を持つ株式により兵器メーカーSAAB などの各傘下企業をコントロールしている。また、外交官のラオル・ヴァレンベリは第二次世界大戦中に何千人というユダヤ人をホロコーストから救ったことで知られている。


ヴァレンベリ財団

ヴァレンベリ家は事業における多数の所有権や影響力をヴァレンベリ財団(Wallenbergstiftelserna)と呼ばれるものを通して行使している。ヴァレンベリ家により約10の異なる財団が設立されているが、この中で最大のものは2008年末の時点で基本資産530億USドル、世界中の財団の中で第19位のクヌート・アンド・アリス・ヴァレンベリ財団(Knut och Alice Wallenbergs Stiftelse)である。


ヴァレンベリ一族
ノーベル財団理事を4人輩出している。


ヤーコプ・ヴァレンベリ(Jacob Wallenberg:1746年 - 1778年)
船乗り、聖職者で著述家、ヤコブはヴァルベリ(Wallberg)という名であったがヴァレンベリに改名した
マルクス・ヴァレンベリ(Marcus Wallenberg:1774年 - 1833年)
ヤーコプ・ヴァレンベリの甥、 リンシェーピングの主教.
アンドレ・オスキャル・ヴァレンベリ(Andre Oscar Wallenberg:1816年 - 1886年)
マルクス・ヴァレンベリの息子、新聞王で政治家、「ストックホルム・エンスキルダ銀行」(1856年)の設立者
クヌート・アガソン・ヴァレンベリ ( Knut Agathon Wallenberg:1853年 - 1938年)
オスキャル・ヴァレンベリの息子、銀行家で政治家
グスタフ・オスキャル・ヴァレンベリ(Gustaf Oscar Wallenberg:1863年 - 1937年)
オスキャル・ヴァレンベリの息子、実業家、外交官、政治家、駐日スウェーデン特命全権公使
マルクス・ヴァレンベリ (シニア)(Marcus Wallenberg (senior):1864年 - 1943年)
オスキャル・ヴァレンベリの息子、産業人で銀行家
アクセル・ヴァレンベリ(Axel Wallenberg:1874年 - 1963年)
オスキャル・ヴァレンベリの息子、産業人で外交官
ラオル・オスキャル・ヴァレンベリ(Raoul Oscar Wallenberg:1888年 - 1912年)
グスタフ・ヴァレンベリの息子、海軍士官でラウル・ヴァレンベリの父
ヤーコプ・ヴァレンベリ (シニア)(Jacob Wallenberg (senior):1892年 - 1980年)
マルクス・ヴァレンベリ (シニア)の息子、海軍士官で銀行家、産業人で外交官、ノーベル財団理事
マルクス・ヴァレンベリ (ジュニア)(Marcus Wallenberg (junior):1899年 - 1982年)
マルクス・ヴァレンベリ (シニア)の息子、産業人で銀行家、外交官、ノーベル財団理事
グスタフ・ヴァリー(Gustaf Wally:1905年 - 1966年)
アクセル・ヴァレンベリの息子、舞踏家で俳優、劇場経営者
ラオル・ヴァレンベリ(Raoul Wallenberg:1912年 - 1947年)
ラオル・オスキャル・ヴァレンベリの息子、ホロコーストから多数のユダヤ人を救ったことで知られる外交官
マルク・ヴァレンベリ(Marc Wallenberg:1924年 - 1971年)
マルクス・ヴァレンベリ (ジュニア)の息子、銀行家で産業人
ペータル・ヴァレンベリ (シニア)(Peter Wallenberg (senior):1926年 -)
マルクス・ヴァレンベリ (ジュニア)の息子、銀行家で産業人、ヴァレンベリ家の長老、ノーベル財団理事
ペーダル・ヴァレンベリ (シニア)(Peder Wallenberg (senior):1935年 -)
ヤーコプ・ヴァレンベリ (シニア)の息子、建築家で実業家
ヤーコプ・ヴァレンベリ(Jacob Wallenberg:1956年 -)
ペータル・ヴァレンベリの息子、銀行家で産業人、ノーベル財団理事
マルクス・ヴァレンベリ(Marcus Wallenberg:1956年 -)
"フースキ(Husky)"、マルク・ヴァレンベリの息子、銀行家で実業家
ペータル"・ポーキャル"・ヴァレンベリ (ジュニア)(Peter "Poker" Wallenberg (junior):1959年 -)
ペーテル・ヴァレンベリ (シニア)の息子、実業家
ナーネ・マリア・アナン(Nane Maria Annan)
ラオル・ヴァレンベリの姪、第7代国際連合事務総長・コフィー・アナンの妻


家系図



https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/b0/Slakttrad_Wallenberg.jpg