・ふるさと納税「麻薬のよう」 額が乱高下、税が流出…現場の実情(毎日新聞 2021年10月19日)

※国政は地方にどんな恩恵やゆがみをもたらしたのか。自治体の現場の実情を聞いた。

長野県伊那市は2016年度、テレビやブルーレイレコーダーといった家電製品が返礼品として人気を博し、「ふるさと納税」の寄付金受け入れ額が全国2位の72億円に上った。「仕入れ先」となったのは「県電機商業組合伊那支部」に加盟する個人経営の店で、中には売り上げの半分以上を返礼品が占める店も出た。市も商店も潤った。

ところが、17年度に総務省が返礼品競争の鎮静化に乗りだすと状況が一変した。換金が容易で資産性が高いと判断された家電製品が返礼品から除外されることになり、同年度は4億4934万円、18年度は1億6400万円に急減した。国が再度、家電を返礼品として認めると、19年度は12億542万円、20年度は18億5510万円に回復した。国の方針が変わる度に、額は乱高下している。

寄付金は市の財政にとって貴重な財源で、第3子の保育料無料化や市の貴重な産業の木材やペレット活用の活性化など、「ふるさと納税がなければ実現できなかった」という施策も多い。

担当者は淡々と話す。「国の方針に左右されるのは仕方ない。財政が急に苦しくならないように注意しながら、住民サービスを向上できるように知恵を出し続けたい」。

ふるさと納税制度は菅義偉前首相が総務相時代に打ち出し、官房長官になってから拡充させた。菅氏は退任会見で「私のある意味の原点はふるさと納税の創設だった」と誇った。そんな菅氏の退陣に担当者は「急に制度がなくなることはないとは思うが、不安に感じる面もある」と気をもんでいる。

返礼品用意していない県内唯一の自治体は

「また年末がやってくる。苦々しい思いで『カタログショッピング』のテレビコマーシャルを見ている職員は私だけではないはず」。大桑村のふるさと納税担当者にとって年末は不快な季節だという。年末にはふるさと納税のポータルサイトのテレビCMが多く流れる。大桑村はふるさと納税への返礼品を用意していない県内唯一の自治体だ。担当者は「返礼品を『売る』ためには大手ポータルサイトに手数料を払わないといけない。自治体に入るべきお金が減ってしまうのではないか」と問題点を指摘する。

税収が豊かな大都市部などで返礼品を導入していない自治体も多いが、地方の自治体としては大桑村は、異色の存在だ。担当者は「国の動向に左右されるふるさと納税は財源としては不安定な存在。『麻薬』のようなもので、制度が切れたら急に苦しむことになる」と眉をひそめる。

返礼品なしの寄付を受け付けるが、昨年度は6件68万円にとどまった。「愚直に真面目にやっている自治体ほど損をするゆがんだ制度。悔しいが、本来の趣旨を曲げるつもりはない」と歯を食いしばる。

住民税「流出」痛手で方針転換も

方針を転換した自治体もある。松本市は今年度、ふるさと納税に伴い、住民税が約3億8000万円減った。大半は市外への寄付として、「流出」したとみられる。減収分の75%は地方交付税で補塡(ほてん)されるが市財政には手痛い。

寄付額は、大口の寄付があった昨年度をのぞくと、ここ数年1500万~2000万円程度。返礼品の出品を抑制してきたためだ。だが10月、返礼品を24品から171品に7倍に拡充した。品ぞろえを充実させ、寄付を呼び込む狙いだ。「制度がある以上、活用して市民の福祉向上に役立てることも必要では」と、市の担当者は話す。