・「国会で言う」西村大臣を黙らせる尾身会長への違和感 天下り公的病院コロナ病床は1割強(AERA dot. 2021年8月28日)
※「尾身さんが政治家になっちゃった」
社会学者の古市憲寿さんの発言だ。8月26日の「めざまし8」(フジテレビ系)で、新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長が国会でバッハ会長の再来日を「なんでわざわざ来るのか」などと強烈に批判したことに対して語った。尾身会長の批判はSNSなどで「よく言った」などと賛同の声もあったが、古市氏のように違和感を覚える人もいたようだ。
政府関係者がこう話す。
「専門家が専門的知見に基づき発言するのは当然なのですが、国会の場などで、個人的な思いを連発するのは、政治家、権力者気取りで、道を間違え始めたかなと思います。尾身さんは頻繁に西村さん(新型コロナウイルス対策担当相)と大臣室などで意見交換をしています。しかし、最近はなぜか西村さんがレクをし、それを受けて尾身会長が『とにかく国民の行動をとめるんだ』『新しい社会をつくるんだ』と指示を飛ばす“珍構図”となっています」
指示を実質的に出しているのは、西村大臣ではなく、尾身会長だというのだ。
「西村大臣が意に沿わない意見を言えば、『国会で言うよ』を連発し、黙らせています。もともと権力志向の強い方なので、素が出ただけなのかもしれません」(同前)
しかし、尾身会長が檄を飛ばしても、全国で新型コロナウイルスの新規感染者、重症者は増加の一途を辿り、全国で約11万人の自宅療養者があふれている。世論の厳しい目は、尾身会長が理事長を務める地域医療機能推進機構(JCHO)にも向けられている。
JCHOは厚生労働省が所管する独立行政法人で、旧社会保険庁所管の病院など公的医療機関が傘下に入る。尾身会長は厚労省OBだ。
東京都内では27日、新たに4227人の新規感染者が確認され、重症患者は過去最多の294人、18人が死亡と第5波で最も多くなった。医療現場がひっ迫する中、問題化しているのが、JCHO傘下の都内の病院のコロナ病床の数だ。
AERAdot.編集部が厚労省関係者より入手した資料によると、JCHO傘下にある都内5病院(東京新宿メディカルセンター、東京高輪病院、東京蒲田医療センター、東京山手メディカルセンター、東京城東病院)の総病床数は1532床だが、新型コロナ患者用に確保された病床は183床で1割強だ。そのうち重症病床はわずか6床だ。(27日現在の登録数)。
こうした病床逼迫を受け、田村厚生労働相と東京都の小池百合子知事が改正感染症法に基づいてJCHOなど医療機関に病床確保を要請。JCHOが東京城東病院を9月下旬からコロナ患者の専門病院とすることを決めたと読売新聞(28日付)で報じている。今後は数十人規模でのコロナ患者の受け入れを検討するという。
都は今年1月、都立広尾、公社荏原、公社豊島の3病院でそれぞれ240床を新型コロナ専用とした。総病床数の5割強にあたり、新型コロナ対応の専門病院となっている。渋谷区の東海大学医学部付属東京病院も昨年、99床のうち60床を新型コロナ専用にし、専門病院になっている。厚労省関係者はこういう。
「尾身会長は『JCHOは最大限やっている』と言っていますが、実際は公的病院の中でも患者受入の消極さが際立っている。『医療逼迫(ひっぱく)の危機』を国会で声高に叫ぶ前に、尾身会長があと数割でもコロナ病床に振り向けるようにもっと早く指示してくれたら、それこそ多くの命が救えると思うのですが…」
なぜこんなに少ないのか。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏はこう指摘する。
「本来であればJCHOなどの公的な病院が新型コロナ患者専用の病床を率先して確保する話です。経営が苦しい民間にちょっとずつ押し付けるのは一番やってはいけない。コロナの病床に変えるというのは医者の配置を変えたり、病床を隔離するなど大変なことです。これを避けているのでしょう」
尾身会長は連日、国会やメディアなどで「人流、人々の接触を減らす対策をもう少し強くやる必要がある」、「病床の逼迫が大変なことになる」と繰り返し訴えている。
その一方で尾身会長は「人々の行動制限だけに頼る時代は終わりつつある」(7月15日)とも主張し、科学技術の分野に予算を投じる必要性があると踏み込んだ発言をしている。
尾身会長は現在、DeNAとLINEらと一緒にQRコードを使った新型コロナ感染者の追跡システムにご執心なのだ。尾身会長と厚労省医系技官出身のDeNA幹部が一緒にQRコードを利用したシステム導入に関し、西村大臣に“直談判”していたことは、AERAdot.で既報(6月19日配信)している。
その甲斐あって新型コロナウイルス感染症対策本部が8月25日、公表した「基本的対処方針」には以下のように記されている。
「政府は、QRコードを活用した地方公共団体独自の取組を踏まえ、クラスター対策のための効果的な情報収集・分析・共有の在り方、新技術等の活用及び実効性を上げるためのインセンティブ等の仕組みについて、パイロット的に特定の地域で実証することも含め、検討を行う」
一方、接触確認アプリ「COCOA」や大規模ワクチン接種会場で使用される予約システムなど政府が発注した新型コロナウイルス関連のアプリやシステムは不具合が相次いでいる。
官邸関係者は「QRコード自体は否定するものではなくむしろ推進すべきものだとしても、尾身会長が特定の業者と密着し、動く姿には危うさを感じる」と指摘する。
前出の上氏もこう語る。
「公衆衛生の専門家がそんなところに口を出すことに違和感を覚える。開発業者側とは一歩引いて接するべきです。それに厚労省OBの天下り先にお金が落ちるようなことは国民の理解は得にくいのではないか」
・【独自】コロナ病床30~50%に空き、尾身茂氏が理事長の公的病院 132億円の補助金「ぼったくり」(AERA dot. 2021年9月1日)
※政府分科会の尾身茂会長が理事長を務める地域医療機能推進機構(JCHO)傘下の東京都内の5つの公的病院で、183床ある新型コロナウイルス患者用の病床が30~50%も使われていないことが、AERAdot.編集部の調査でわかった。全国で自宅療養者が11万人以上とあふれ、医療がひっ迫する中で、コロナ患者の受け入れに消極的なJCHOの姿勢に対し、医師などからは批判の声があがっている。
編集部が厚労省関係者から入手した情報によると、JCHO傘下にある都内5病院のコロナ専用病床183床のうち、30%(8月29日現在)が空床であることがわかった。
5病院のうち最もコロナ患者の受け入れに消極的だったのは、東京蒲田医療センターだ。コロナ専用病床78床のうち42床が空床で、半数以上を占めた。その他には、東京山手メディカルセンターは37床のうち35%(13床)が空床となっている。東京高輪病院は18床のうち10%強(2床)が空床だった。東京新宿メディカルセンターはコロナ専用病床50床が満床だった。東京城東病院はこれまでコロナ専用の病床はゼロだ。
都の集計によると現在、自宅療養者は2万人以上、入院治療調整中の患者は約6800人に上る。厚労省関係者はこう批判する。
「尾身氏は国会やメディアで『もう少し強い対策を打たないと、病床のひっ迫が大変なことになる』などと声高に主張していますが、自分のJCHO傘下の病院でコロナ専用ベッドを用意しておきながら、実は患者をあまり受け入れていない。こんなに重症患者、自宅療養者があふれているのに尾身氏の言動不一致が理解ができません。JCHOの姿勢が最近になって問題化し、城東病院を9月末には専門病院にすると重い腰を上げましたが、対応は遅すぎます。そもそもコロナ病床の確保で多額の補助金をもらっていながら、受け入れに消極的な姿勢は批判されてもしかるべきではないか」
厚労省はコロナの患者の受け入れ体制を整えるため、コロナ専用の病床を確保した病院に対して、多額の補助金を出している。
例えば、「病床確保支援事業」では新型コロナ専用のベッド1床につき1日7万1千円の補助金が出る。ベッドは使われなくても補助金が出るため、東京蒲田医療センターでは使われていない約40床に対して、単純計算で、1日284万円、1か月で約8500万円が支払われることになる。
その上、新たに重症患者向けの病床を確保した病院に1床あたり1950万円、中等症以下の病床には900万円を補助するなどの制度もある。JCHOが公表したデータによると、全国に57病院あり、稼働病床は約1万4千床。そのうち、6・1%にあたる870床をコロナ専用の病床にしたという。これまでいくらの補助金をもらってきたのかJCHOに尋ねると「すぐには回答ができない」(担当者)という。
しかし、厚労省関係者から入手した情報によると、2020年12月から3月だけでもJCHO全57病院で132億円の新型コロナ関連の補助金が支払われたという。
「コロナ病床を空けたままでも補助金だけ連日、チャリチャリと入ってくることになる。まさに濡れ手で粟で、コロナ予算を食い物にしている。受け入れが難しいのであれば、補助金を返還すべきです」(厚労省関係者)
JCHOは厚生労働省が所管する独立行政法人で、民間の病院とは異なり、公的な医療機関という位置づけだ。JCHO傘下の病院はもともと社会保険庁の病院だったが、公衆衛生の危機に対応するため、民営化はせずに独法として残った経緯がある。尾身氏は厚労省OBでJCHO理事長に14年より就任している。
医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏は「JCHOの存在意義が問われる」と指摘する。
「世界では国公立などの病院が先ずは積極的にコロナ患者を受け入れている。日本でも当然、国公立やJCHOなどの公的医療機関が受け入れるべきでしょう。そもそもコロナ患者を受け入れる病床数も少ないですし、このような危機的な状況で患者受け入れに消極的というのであれば、補助金を受け取る資格はないし、民営化したほうがいいのではないでしょうか」(上氏)
JCHOの見解はどうか。AERAdot.編集部が、JCHOにコロナ患者の受け入れの実態を質すと、8月27日現在の数字として、5病院全体では確保病床の30%が空床であり、東京蒲田医療センターでは約50%が空床であることを認めた。
尾身氏のコメント全文は後述するが、コロナ患者の受け入れに消極的なことについて、東京蒲田医療センターの石井耕司院長は書面で以下のように回答した。
「JCHOは、国からの要請に基づきJCHO以外の医療逼迫地域(北海道・沖縄等)の病院へ、全国のJCHO病院から看護師の派遣を行ってきました。しかし、全国的な感染拡大に伴い、各地域においても看護師のニーズが高まってきた結果、全国のJCHO病院から当院への派遣が困難となってきました。(中略)今回、国や都からの受け入れ増加の要請に応えるため、8月16日から看護師を追加で確保し、受け入れ増加に向けて取り組んでいます」
補助金を返還するつもりはあるのか。尾身氏、東京蒲田医療センターの石井院長ともに「JCHO全体の取り組みについて、国や自治体からの要請に応じてきたものであり、東京都の令和3年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(医療分)実施要綱に基づき申請を行ったものであります」と回答するにとどめた。返還するつもりはなさそうだ。
「蒲田医療センターに関しては、8月初旬ではコロナ患者の受入は20数人で搬送要請を一貫して避け続けていた。恒常的に人手が足りずに対応できないのなら、補助金だけ受け入れ続けるのは、あきらかなぼったくりだと思います」(前出の厚労省関係者)
人手不足については、「非常勤の医師や看護師を本気で集めれば、対応できる」(上氏)などと疑問の声があがる。
この危機的状況においてどこまで本気で取り組むか。理事長たる尾身氏の手腕が問われている。
(AERA dot.編集部・吉崎洋夫)
* * *
尾身茂氏からの回答全文は以下の通り
私共、JCHOは、これまでに国からの増床の要請について、全国のJCHO病院、特にJCHO都内5病院と連携・役割分担しながら対応してきました。この結果、都内JCHOの5病院では全病床の13%程度にあたる189床のコロナ病床を確保しました。
昨日、東京蒲田医療センターの石井院長が回答したとおり、東京蒲田医療センターにおいては、新型コロナウイルスの発生初期より、国からの要請に積極的に応えてきました。
例えば、クルーズ船患者の受け入れの際に1病棟(29床)を確保、さらに、令和3年2月には、もう1病棟(49床)の患者さんの転院等を行い、コロナ専用病棟に転換しました。その際、新たに生じる看護師不足については、全国のJCHO病院からの派遣によって確保してきました。
また、JCHOは、国からの要請に基づきJCHO以外の医療逼迫地域(北海道・沖縄等)の病院へ、全国のJCHO病院から看護師の派遣を行ってきました。しかし、全国的な感染拡大に伴い、各地域においても看護師のニーズが高まってきた結果、全国のJCHO病院から東京蒲田医療センターへの派遣が困難となってきました。
このため8月27日(金)時点では、東京蒲田医療センターでは5割程度の受入れとなっておりますが、JCHOの都内のその他の病院では確保病床の9割程度を受け入れており、全体では確保病床の7割程度の受け入れとなっております。
東京蒲田医療センターでは、国や都からの受け入れ増加の要請に応えるため、8月16日から看護師を追加で確保し、受け入れ増加に向けて取り組んでいます。
なお、JCHO全体の取り組みについて、国や自治体からの要請に応じてきたものであり、東京都の令和3年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(医療分)実施要綱に基づき申請を行ったものであります。
・東京都医師会の尾崎会長 自身の医院でなぜ陽性者を受け入れていないのか(NEWSポストセブン 2021年9月18日)
尾崎治夫会長の病院では陽性者の受け入れはしていないという…
※「医療逼迫」が叫ばれて久しいが、その裏でコロナ患者を受け入れていない病院が数多くある。日本テレビの報道によれば、8月31日時点で都内の確保病床(コロナ患者をすぐに受け入れ可能な「即応病床」)は5967床あったが、受け入れられた患者は4297人で、病床使用率は72%。個別に見ると、病床使用率40%以下の病院が27施設、0%の病院が7施設もあったという。
使用率100%の病院が50施設あるなか、“受け入れ格差”が浮き彫りになった形だ。
「中等症向けの臨時医療施設を、ぜひとも作っていただきたい」。8月31日、臨時会見に臨んだ東京都医師会の尾崎治夫会長は、悲痛な表情でこう訴えた。同23日には、小池百合子都知事が「通常医療の制限も視野に入れ、すべての病院、診療所に新型コロナ患者の受け入れをお願いしたい」と要請していた。
コロナ患者用の確保病床をそもそも用意していない病院は多い。都内には確保病床を持たない病院が約250あり、正当な理由なく受け入れを拒否する医療機関は、都や厚労省が名前を公表する意向を示している。
「もちろん、病院の規模的に院内感染予防を徹底できないところもあるでしょう。街中の小さなクリニックにも確保病床を用意しろというのは酷な話です。しかし、先陣を切って患者を受け入れるべき病院がそれをしていないんです」(都内病院に勤務するある医師)
臨時医療施設の設立を訴えた東京都医師会会長・尾崎氏が院長を務める「おざき内科循環器科クリニック」がそのひとつだ。
「ワクチン接種の提供や発熱外来はやってますが、陽性者の受け入れはしていません」(同前)
都医師会に聞くと、こう回答した。
「ワクチンの接種から、熱が出た患者の診察や検査はもちろん、肺炎症状があれば尾崎先生自身が救急搬送の手配をしている。検査結果が陽性となれば、ちゃんと保健所にも届出をしています。限られたスタッフ、設備のなか出来ることはすべてやっています」(広報課)
ちなみに厚労省はワクチン接種の実施病院にも補助金を出しており、一本あたり2070円の診療報酬に加え、1日50本以上打つと10万円の協力金が支給される。
医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師が指摘する。
「そうしたコロナ関連の様々な補助金で非常勤の医師や看護師を本気で集めれば、対応できるはずです。医療界のトップが患者を受け入れる姿勢を見せなければ、民間病院が積極的に受け入れるはずがありません。冬にかけてまた感染拡大の波が来るかもしれない。補助金の制度も含めて、いま一度仕組みを見直す時期に来ていると思います」
※週刊ポスト2021年10月1日号
・【独自】尾身理事長の医療法人がコロナ補助金などで311億円以上の収益増、有価証券運用は130億円も増加(AERA dot. 2021年9月24日)
※政府の新型コロナ対策分科会会長の尾身茂氏が理事長を務める地域医療機能推進機構(JCHO)で、コロナ対策などで給付された300億円以上の補助金で収益を大幅に増やす一方で、有価証券の運用も130億円増加させたことが、AERAdot.の取材でわかった。
JCHOではコロナ患者用の病床を用意し多額の補助金を受けながらも、患者を十分に受け入れていなかった実態がわかっており、厚生労働省などから批判があがっている。
* * *
「JCHOは適切に補助金を運用していないのではないか」
いま医療関係者の間でこんな疑念が生じている。どういうことか。その原因は、JCHOがホームページで公表している財務諸表を見るとわかる。
2020年度の財務諸表によると、20年度の当期純利益は約200億円で前年度より約168億円も増加していた。補助金等収益を見ると、こちらは約324億円で、前年度より311億円も増加していた。補助金等の明細を見ると、交付された補助金は126件(交付額は約368億円)あり、そのうちコロナ関連と思われる補助金は56件あった。56件の交付額は約351億円、うち約310億円が収益計上されていた。
同時に、有価証券での運用額は685億円で、前年度より130億円増加していた。当期純利益は200億円で、現金及び預金は約24億円しか増加していない。
これ以前にも、JCHOはコロナ患者を受け入れるために多額の補助金をもらいながらコロナ専用の病床数や受け入れ患者が少ないことが批判の的になっていた。AERAdot.では9月1日に配信した「【独自】コロナ病床30~50%に空き、尾身茂氏が理事長の公的病院 132億円の補助金『ぼったくり』」の記事で、JCHO傘下の都内病院で、コロナ専用病床の多くが空床になっていることを特報している。
これに関して、尾身氏は18日に自身のインスタグラムで「#ねえねえ尾身さん」と題したライブ放送を行い、視聴者からの疑問に答える形でこう釈明した。
「補助金のぼったくりの話ですけども、看護師さんなんかを確保するのに難しいという理由はあったにせよ、実際に確保した病床よりも、実際に入れた患者が少なかったという事実はある。この事実に関しての補助金の扱い方については、国や自治体が方針を示すと思いますから、その方針に従って適切な行動をとりたいと思っています」
◆厚労省幹部が「由々しき問題」
今回、新たに問題になっているのは、コロナ関連で多額の補助金を受け取り、法人全体の収益をあげながら、その収益が有価証券の運用に使われているということだ。この実態は政府関係者の間でも問題視され始めている。厚労省の幹部はこういう。
「コロナ関連の補助金が大部分を占めるJCHOの収益が、結果的に有価証券購入の原資として間接的に還流されているとみています。補助金収入がきちんとコロナ病床や患者医療に還元されず、有価証券などとして内部留保されていることは厚労省としても由々しき問題と考えています。尾身氏の経営判断を尊重する必要はあるのですが、自身があれだけ『医療ひっ迫』を主張する中で、このような経営は受け入れられないのではないでしょうか」
法人が自身の資金をどう運用しようとも、適切なプロセスを踏んでいれば問題はない。しかし、コロナ関連で受け取った補助金によって大幅に収益をあげて、それを間接的にでも投資に回していたとしたら、批判や疑問の声も出るだろう。
JCHO職員によると、補助金収入の大幅増と有価証券の取得増は「無関係ではない」という。他の民間医療機関と同様にJHCOもコロナの影響などにより病院経営は収益の柱となる医業収益が減となるなど厳しい環境下にある。こうした中で有価証券残高を130億円増やすことができたのは、「補助金収入が大きく寄与した」(前出の職員)という。
◆尾身氏からの回答は?
JCHO理事長の尾身氏はどう答えるか。尾身氏宛に、補助金で収益をあげながら多くの資金を有価証券で運用するのが適切と思うか、補助金を投資で使っている事実はないかなど書面で見解を質した。
すると、広報担当からメールで「個別にいただいたご質問等にはお答えすることはいたしかねます」と回答が来た。
医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏はこう指摘する。
「尾身氏はJCHOの理事長として国民に事実を説明する必要があるでしょう。この問題は、JCHOでコロナ病床を増やし、患者もしっかりと受け入れるという覚悟も問われていると思います」
補助金は国民の税金が原資だ。尾身氏の説明責任が問われている。
・尾身会長の医療機構、現場から悲鳴「暴走コストカットで患者救えない」(女性自身 2021年9月30日)
※コロナ対策の指針を示してきた政府分科会の尾身茂会長(72)。ときには強い口調で各病院にコロナ患者の受け入れ拡大を求めてきたが、自分が理事長を務める組織では――。
「うちの病院には、今年4月から常勤の内科医が一人もいないんです。定年間近の非常勤医師と、研修医が交代で回してきました。その研修医も、もうすぐいなくなります。こんな状態で、どうやってコロナ患者を受け入れるんでしょうか。不安しかありません」
そう話すのは、9月末から50床のコロナ専門病院になることが決定した東京城東病院(東京都江東区)で働く看護師のAさん。
東京城東病院は、政府分科会の尾身会長が理事長を務める地域医療機能推進機構(以下、JCHO)傘下の病院のひとつだ。
JCHOとは、全国に57の病院と26の介護老人保健施設などを持つ、厚生労働省が所管の独立行政法人。’20年度には300億円を超える巨額の補助金が投入されている。
「JCHOの財務諸表を見ると、少なくとも230億円以上がコロナ対策関連の補助金とみられます」
そう指摘するのは、医療ガバナンス研究所の理事長で、内科医の上昌広さんだ。
コロナ専用病床を1床確保すると、病床の種類に応じて1日あたり7万1,000~43万6,000円の補助金が、患者が入院しているか否かにかかわらず支給される(重点医療機関の場合)。ほかにも、重症患者向け病床を確保すると、1床あたり1,950万円の補助金が払われるなどの制度もある。
8月24日時点で、JCHOは傘下の全病院で870床、都内の5病院だけで187床のコロナ専用病床を確保。結果、補助金が230億円以上まで積みあがったようなのだが……。
都内の自宅待機者がピークの2万6,000人を超えた8月末時点で、JCHOの都内コロナ対応病院のうち「3~5割が空床」だったことが、「AERA dot.」の報道で明らかになった。報道に対して、JCHO側は、コロナが急拡大したことで、一時的な“人手不足”に陥ったと弁明している。
■「傘下の看護学校もつぎつぎ閉鎖して」
だが、本誌が取材を進めると、人手不足は慢性的かつ“意図的”なものだったという声が出てきた。前出のAさんはこう語る。
「4月に内科医がゼロになった後も、『(足りているから)大丈夫』といって、新たな医師を入れようともしませんでした。看護師の求人は出していますが、形だけ。実際には、看護師が辞めるなどして欠員が出ないと、いくら手が足りず、現場が疲弊していても、採用してくれません」
JCHO労働組合の書記長の大島賢さんは、「人手不足は関連病院全体に広がっていた」と語る。その裏には、「極端に黒字化を目指す幹部の指示がある」という。
「JCHOの幹部のほとんどが、厚労省や国立病院からの天下りで、赤字を出さないことを至上命題として人件費を削り続けてきました。全体で職員の上限数を決め、コロナ病床を回すために人手が必要になっても、新たに雇わずコロナを診ていない病院や病棟から補充しろ、と。でも、ふだんからギリギリの人数で回しているので、引き抜かれた側の病院スタッフは、休みもろくにとれなくなる」
そのうえ、不採算部門をどんどん切り捨てているという。
「JCHOは6つの看護学校を経営していますが、うち2つは今年度で廃止が決定。卒業生の多くはJCHOの病院に就職するので、看護師確保も難しくなります。しかし医療費と病床削減は国の方針でもあるので、JCHOは病床を減らして対応するようです。JCHOは感染症や周産期、救急など“不採算部門”を診る役割を担った公的病院です。『もうからないから削ります』は、許されないのですが……」(大島さん)
「女性自身」2021年10月12日号
・【独自】コロナ「幽霊病床」第5波ピーク時に3割の尾身理事長JCHOは補助金311億円 岸田首相が解消へ(AERA dot. 2021年10月16日)
※新型コロナの感染者が急減する一方で、第6波に備えて岸田文雄首相が医療体制の強化に動き始めた。全国で11万人以上の自宅待機者があふれた第5波では、ピーク時にコロナ即応病床と申告し、多額の補助金を受け取っていながら実際は使用されなかった「幽霊病床」が多く存在し、問題化した。
政府分科会会長の尾身茂氏が理事長を務める独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)傘下の病院でも次々と「幽霊病床」問題が発覚。岸田政権からJCHOの姿勢に厳しい目が向けられ始めている。
「この夏の感染拡大時にコロナ病床が十分に稼働しなかった反省も踏まえ、いわゆる幽霊病床を見える化し、感染拡大時の使用率について8割以上を確保する具体的方策を明らかにする」
10月15日午前、岸田首相は新型コロナウイルス感染症対策本部を開催し、こう述べた。AERAdot.が入手した岸田首相が出席した会議資料には以下の記述があった。
<いわゆる「幽霊病床」の実態把握。感染拡大時の コロナ用の病床の使用率について、少なくとも8割を確保する具体的な方策を明らかにする>
<国立病院機構法、地域医療機能推進機構(JCHO)法に基づく『要求』をはじめ、公的病院に関する国の権限を発動し、公的病院の専用病床をさらに確保する>
国立病院機構法と地域医療機能推進機構法には、厚労相が公衆衛生上重大な危害が生じるおそれがある緊急の事態に、国立病院とJCHOに対して必要な措置をとるように求めることができるが、こうして名指しするのは異例だ。
冒頭の岸田首相の発言の前日14日、尾身氏は官邸を訪れ、岸田首相に対しコロナ対策をレクチャーしたが、尾身氏が理事長を務めるJCHOや国立病院機構などが議題の対象に上げられた形だ。
「尾身氏は岸田首相にリーダーシップのあり方をレクチャーされていましたが、政府としてはJCHOの幽霊病床の補助金問題に強い問題意識を持っています。会議ではJCHOも名指されています。尾身氏は岸田首相と会談後、記者団に対し『首相は病院のコロナ貢献を可視化する方針だ』などとレクしていました。しかし、実際に政府が行うのは『貢献』ではなく、『非貢献』の可視化で、JCHOもターゲットになっています」(官邸関係者)
尾身氏が理事長のJCHOの「幽霊病床」の補助金問題はAERAdot.がこれまで追及してきた問題だ。
◆尾身氏が認めたJCHOの「幽霊病床」
幽霊病床とはピーク時にコロナ即応病床と自治体に申告し、多額の補助金を受け取っていながら実際はコロナ患者を受け入れず、空床のままにしていることだ。政府はコロナ用の病床確保策として、新たに重症患者向けの病床を確保した病院に1床あたり1950万円、中等症以下の病床に900万円を補助している。また「病床確保支援事業」では新型コロナ専用のベッド1床につき1日7万1千円の補助金が出る仕組みになっている。
AERAdot.が8月28日に報じた「『国会で言う』西村大臣を黙らせる尾身会長への違和感 天下り公的病院コロナ病床は1割強」という記事では、自宅療養者が連日あふれ、尾身氏が国会で「医療ひっ迫」を訴える中、JCHO傘下の都内5つの病院のコロナ病床はわずか1割強。都内の都立病院などの5割強に比べ、少なすぎる実態を報じた。
さらに9月1日には「【独自】コロナ病床30~50%に空き、尾身茂氏が理事長の公的病院 132億円の補助金『ぼったくり』」との記事で、都内に自宅療養者が溢れている8月末時点で、JCHO都内病院のコロナ病床が30%も幽霊病床にも関わらず、多額の補助金を受け取っている実態を特報した。
尾身氏はこの時のAERAdot.の取材に対して、30%の空床などを認めた。さらに、9月18日には自身のインスタグラムで「#ねえねえ尾身さん」と題したライブ放送を行い、こう釈明した。
「補助金のぼったくりの話ですけども、看護師さんなんかを確保するのに難しいという理由はあったにせよ、実際に確保した、計画した病床よりも、実際に入れた患者が少なかったという事実はあるわけですね。この事実に関しての補助金の扱い方については、国や自治体が方針を示すと思いますから、その方針、判断に従って、適切な行動をとりたいと思っています」
AERAdot.では9月24日には「【独自】尾身理事長の医療法人がコロナ補助金などで311億円以上の収益増、有価証券運用は130億円も増加」とJCHOがコロナ補助金で300億円以上もの収益を得ていたことを報じた。
◆厚生労働省と東京都が幽霊病床の補助金返還も
政府や東京都はとりわけJCHOなど公的病院の幽霊病床を問題視。厚労省は10月1日に<正当な理由がなく入院受入要請を断ることができないこととされていることを踏まえ、医療機関において万が一適切に患者を受け入れていなかった場合には、病床確保料の返還や申請中の補助金の執行停止を含めた対応を行う>と通知を出した。
東京都も5日、議会で「受入れ実績や病床使用率が低い医療機関には書面で理由を確認していく」、「必要に応じて医療機関に補助金の返還による精算を求めるなど、補助金に係る業務を適切に執行していく」と補助金の返還を求める姿勢を示している。
財務相の諮問機関である財政制度等審議会でも11日、JCHOが名指しされ、補助金問題が議題にあがった。会議に提出された資料によると、JCHOのコロナ関係の補助金は311億円で、「補助金が利益率の改善に寄与した」と報告されている。財務省も多額の補助金が幽霊病床に支払われていることについて問題視しており、補助金のシステムを改善する構えだ。
こうした状況の中、新たな可視化の対象となっているのが、9月30日からコロナ病床を50床に増やし、コロナ専門病院となったJCHO傘下の東京城東病院だ。
AERAdot.が厚労省関係者から入手した資料によると東京城東病院では確保病床50床に対して受け入れ患者数は3人、空床率94%だった(10月13日時点)。都内にある他のJCHO傘下の4病院では、確保病床165床に対し、受け入れ患者は6人となっていた(空床率96%)。
コロナの感染者数は急激に収束しており、10月15日時点で都内のコロナ入院患者は413人と少なくなっている。厚労省幹部はこう問題視する。
◆取材に「回答控える」と尾身氏
「JCHOで問題なのは、政府からの再三の要請にも関わらず、半年遅れの9月末になって城東病院をようやくコロナ専門病院にし、病床を増やしたことです。理事長の尾身氏が開設すると公表した8月末時点で、感染のピークはすでに過ぎており、9月末には感染者数が下火になることは専門家であれば十分に予測できる立場だった。今は却って幽霊病床が増え、補助金だけを受け入れる形になっている」
JCHOに補助金をどれだけ受給しているのか、幽霊病床の分の補助金を返還する意思はないのか。理事長の尾身氏に質問とともにインタビューを申し込んだ。しかし、広報担当から「個別にいただいたご質問等にはお答えすることはいたしかねます」、「JCHOにおける新型コロナウイルス感染症対応への取組みについては、当機構のHPに掲載しております」と回答があった。
専門家はどうみるか。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏はこう語る。
「コロナの患者を受け入れなくても補助金を出すという厚労省の制度設計にも問題はあったが、補助金についてどう対応するのか尾身氏は説明責任を果たすべきでしょう。また、JCHOは厚労省が所管する独立行政法人で、本来であれば率先して患者を受け入れないといけない。尾身氏はより一層受け入れの姿勢を明確に示すべきです」

※「尾身さんが政治家になっちゃった」
社会学者の古市憲寿さんの発言だ。8月26日の「めざまし8」(フジテレビ系)で、新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長が国会でバッハ会長の再来日を「なんでわざわざ来るのか」などと強烈に批判したことに対して語った。尾身会長の批判はSNSなどで「よく言った」などと賛同の声もあったが、古市氏のように違和感を覚える人もいたようだ。
政府関係者がこう話す。
「専門家が専門的知見に基づき発言するのは当然なのですが、国会の場などで、個人的な思いを連発するのは、政治家、権力者気取りで、道を間違え始めたかなと思います。尾身さんは頻繁に西村さん(新型コロナウイルス対策担当相)と大臣室などで意見交換をしています。しかし、最近はなぜか西村さんがレクをし、それを受けて尾身会長が『とにかく国民の行動をとめるんだ』『新しい社会をつくるんだ』と指示を飛ばす“珍構図”となっています」
指示を実質的に出しているのは、西村大臣ではなく、尾身会長だというのだ。
「西村大臣が意に沿わない意見を言えば、『国会で言うよ』を連発し、黙らせています。もともと権力志向の強い方なので、素が出ただけなのかもしれません」(同前)
しかし、尾身会長が檄を飛ばしても、全国で新型コロナウイルスの新規感染者、重症者は増加の一途を辿り、全国で約11万人の自宅療養者があふれている。世論の厳しい目は、尾身会長が理事長を務める地域医療機能推進機構(JCHO)にも向けられている。
JCHOは厚生労働省が所管する独立行政法人で、旧社会保険庁所管の病院など公的医療機関が傘下に入る。尾身会長は厚労省OBだ。
東京都内では27日、新たに4227人の新規感染者が確認され、重症患者は過去最多の294人、18人が死亡と第5波で最も多くなった。医療現場がひっ迫する中、問題化しているのが、JCHO傘下の都内の病院のコロナ病床の数だ。
AERAdot.編集部が厚労省関係者より入手した資料によると、JCHO傘下にある都内5病院(東京新宿メディカルセンター、東京高輪病院、東京蒲田医療センター、東京山手メディカルセンター、東京城東病院)の総病床数は1532床だが、新型コロナ患者用に確保された病床は183床で1割強だ。そのうち重症病床はわずか6床だ。(27日現在の登録数)。
こうした病床逼迫を受け、田村厚生労働相と東京都の小池百合子知事が改正感染症法に基づいてJCHOなど医療機関に病床確保を要請。JCHOが東京城東病院を9月下旬からコロナ患者の専門病院とすることを決めたと読売新聞(28日付)で報じている。今後は数十人規模でのコロナ患者の受け入れを検討するという。
都は今年1月、都立広尾、公社荏原、公社豊島の3病院でそれぞれ240床を新型コロナ専用とした。総病床数の5割強にあたり、新型コロナ対応の専門病院となっている。渋谷区の東海大学医学部付属東京病院も昨年、99床のうち60床を新型コロナ専用にし、専門病院になっている。厚労省関係者はこういう。
「尾身会長は『JCHOは最大限やっている』と言っていますが、実際は公的病院の中でも患者受入の消極さが際立っている。『医療逼迫(ひっぱく)の危機』を国会で声高に叫ぶ前に、尾身会長があと数割でもコロナ病床に振り向けるようにもっと早く指示してくれたら、それこそ多くの命が救えると思うのですが…」
なぜこんなに少ないのか。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏はこう指摘する。
「本来であればJCHOなどの公的な病院が新型コロナ患者専用の病床を率先して確保する話です。経営が苦しい民間にちょっとずつ押し付けるのは一番やってはいけない。コロナの病床に変えるというのは医者の配置を変えたり、病床を隔離するなど大変なことです。これを避けているのでしょう」
尾身会長は連日、国会やメディアなどで「人流、人々の接触を減らす対策をもう少し強くやる必要がある」、「病床の逼迫が大変なことになる」と繰り返し訴えている。
その一方で尾身会長は「人々の行動制限だけに頼る時代は終わりつつある」(7月15日)とも主張し、科学技術の分野に予算を投じる必要性があると踏み込んだ発言をしている。
尾身会長は現在、DeNAとLINEらと一緒にQRコードを使った新型コロナ感染者の追跡システムにご執心なのだ。尾身会長と厚労省医系技官出身のDeNA幹部が一緒にQRコードを利用したシステム導入に関し、西村大臣に“直談判”していたことは、AERAdot.で既報(6月19日配信)している。
その甲斐あって新型コロナウイルス感染症対策本部が8月25日、公表した「基本的対処方針」には以下のように記されている。
「政府は、QRコードを活用した地方公共団体独自の取組を踏まえ、クラスター対策のための効果的な情報収集・分析・共有の在り方、新技術等の活用及び実効性を上げるためのインセンティブ等の仕組みについて、パイロット的に特定の地域で実証することも含め、検討を行う」
一方、接触確認アプリ「COCOA」や大規模ワクチン接種会場で使用される予約システムなど政府が発注した新型コロナウイルス関連のアプリやシステムは不具合が相次いでいる。
官邸関係者は「QRコード自体は否定するものではなくむしろ推進すべきものだとしても、尾身会長が特定の業者と密着し、動く姿には危うさを感じる」と指摘する。
前出の上氏もこう語る。
「公衆衛生の専門家がそんなところに口を出すことに違和感を覚える。開発業者側とは一歩引いて接するべきです。それに厚労省OBの天下り先にお金が落ちるようなことは国民の理解は得にくいのではないか」
・【独自】コロナ病床30~50%に空き、尾身茂氏が理事長の公的病院 132億円の補助金「ぼったくり」(AERA dot. 2021年9月1日)
※政府分科会の尾身茂会長が理事長を務める地域医療機能推進機構(JCHO)傘下の東京都内の5つの公的病院で、183床ある新型コロナウイルス患者用の病床が30~50%も使われていないことが、AERAdot.編集部の調査でわかった。全国で自宅療養者が11万人以上とあふれ、医療がひっ迫する中で、コロナ患者の受け入れに消極的なJCHOの姿勢に対し、医師などからは批判の声があがっている。
編集部が厚労省関係者から入手した情報によると、JCHO傘下にある都内5病院のコロナ専用病床183床のうち、30%(8月29日現在)が空床であることがわかった。
5病院のうち最もコロナ患者の受け入れに消極的だったのは、東京蒲田医療センターだ。コロナ専用病床78床のうち42床が空床で、半数以上を占めた。その他には、東京山手メディカルセンターは37床のうち35%(13床)が空床となっている。東京高輪病院は18床のうち10%強(2床)が空床だった。東京新宿メディカルセンターはコロナ専用病床50床が満床だった。東京城東病院はこれまでコロナ専用の病床はゼロだ。
都の集計によると現在、自宅療養者は2万人以上、入院治療調整中の患者は約6800人に上る。厚労省関係者はこう批判する。
「尾身氏は国会やメディアで『もう少し強い対策を打たないと、病床のひっ迫が大変なことになる』などと声高に主張していますが、自分のJCHO傘下の病院でコロナ専用ベッドを用意しておきながら、実は患者をあまり受け入れていない。こんなに重症患者、自宅療養者があふれているのに尾身氏の言動不一致が理解ができません。JCHOの姿勢が最近になって問題化し、城東病院を9月末には専門病院にすると重い腰を上げましたが、対応は遅すぎます。そもそもコロナ病床の確保で多額の補助金をもらっていながら、受け入れに消極的な姿勢は批判されてもしかるべきではないか」
厚労省はコロナの患者の受け入れ体制を整えるため、コロナ専用の病床を確保した病院に対して、多額の補助金を出している。
例えば、「病床確保支援事業」では新型コロナ専用のベッド1床につき1日7万1千円の補助金が出る。ベッドは使われなくても補助金が出るため、東京蒲田医療センターでは使われていない約40床に対して、単純計算で、1日284万円、1か月で約8500万円が支払われることになる。
その上、新たに重症患者向けの病床を確保した病院に1床あたり1950万円、中等症以下の病床には900万円を補助するなどの制度もある。JCHOが公表したデータによると、全国に57病院あり、稼働病床は約1万4千床。そのうち、6・1%にあたる870床をコロナ専用の病床にしたという。これまでいくらの補助金をもらってきたのかJCHOに尋ねると「すぐには回答ができない」(担当者)という。
しかし、厚労省関係者から入手した情報によると、2020年12月から3月だけでもJCHO全57病院で132億円の新型コロナ関連の補助金が支払われたという。
「コロナ病床を空けたままでも補助金だけ連日、チャリチャリと入ってくることになる。まさに濡れ手で粟で、コロナ予算を食い物にしている。受け入れが難しいのであれば、補助金を返還すべきです」(厚労省関係者)
JCHOは厚生労働省が所管する独立行政法人で、民間の病院とは異なり、公的な医療機関という位置づけだ。JCHO傘下の病院はもともと社会保険庁の病院だったが、公衆衛生の危機に対応するため、民営化はせずに独法として残った経緯がある。尾身氏は厚労省OBでJCHO理事長に14年より就任している。
医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏は「JCHOの存在意義が問われる」と指摘する。
「世界では国公立などの病院が先ずは積極的にコロナ患者を受け入れている。日本でも当然、国公立やJCHOなどの公的医療機関が受け入れるべきでしょう。そもそもコロナ患者を受け入れる病床数も少ないですし、このような危機的な状況で患者受け入れに消極的というのであれば、補助金を受け取る資格はないし、民営化したほうがいいのではないでしょうか」(上氏)
JCHOの見解はどうか。AERAdot.編集部が、JCHOにコロナ患者の受け入れの実態を質すと、8月27日現在の数字として、5病院全体では確保病床の30%が空床であり、東京蒲田医療センターでは約50%が空床であることを認めた。
尾身氏のコメント全文は後述するが、コロナ患者の受け入れに消極的なことについて、東京蒲田医療センターの石井耕司院長は書面で以下のように回答した。
「JCHOは、国からの要請に基づきJCHO以外の医療逼迫地域(北海道・沖縄等)の病院へ、全国のJCHO病院から看護師の派遣を行ってきました。しかし、全国的な感染拡大に伴い、各地域においても看護師のニーズが高まってきた結果、全国のJCHO病院から当院への派遣が困難となってきました。(中略)今回、国や都からの受け入れ増加の要請に応えるため、8月16日から看護師を追加で確保し、受け入れ増加に向けて取り組んでいます」
補助金を返還するつもりはあるのか。尾身氏、東京蒲田医療センターの石井院長ともに「JCHO全体の取り組みについて、国や自治体からの要請に応じてきたものであり、東京都の令和3年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(医療分)実施要綱に基づき申請を行ったものであります」と回答するにとどめた。返還するつもりはなさそうだ。
「蒲田医療センターに関しては、8月初旬ではコロナ患者の受入は20数人で搬送要請を一貫して避け続けていた。恒常的に人手が足りずに対応できないのなら、補助金だけ受け入れ続けるのは、あきらかなぼったくりだと思います」(前出の厚労省関係者)
人手不足については、「非常勤の医師や看護師を本気で集めれば、対応できる」(上氏)などと疑問の声があがる。
この危機的状況においてどこまで本気で取り組むか。理事長たる尾身氏の手腕が問われている。
(AERA dot.編集部・吉崎洋夫)
* * *
尾身茂氏からの回答全文は以下の通り
私共、JCHOは、これまでに国からの増床の要請について、全国のJCHO病院、特にJCHO都内5病院と連携・役割分担しながら対応してきました。この結果、都内JCHOの5病院では全病床の13%程度にあたる189床のコロナ病床を確保しました。
昨日、東京蒲田医療センターの石井院長が回答したとおり、東京蒲田医療センターにおいては、新型コロナウイルスの発生初期より、国からの要請に積極的に応えてきました。
例えば、クルーズ船患者の受け入れの際に1病棟(29床)を確保、さらに、令和3年2月には、もう1病棟(49床)の患者さんの転院等を行い、コロナ専用病棟に転換しました。その際、新たに生じる看護師不足については、全国のJCHO病院からの派遣によって確保してきました。
また、JCHOは、国からの要請に基づきJCHO以外の医療逼迫地域(北海道・沖縄等)の病院へ、全国のJCHO病院から看護師の派遣を行ってきました。しかし、全国的な感染拡大に伴い、各地域においても看護師のニーズが高まってきた結果、全国のJCHO病院から東京蒲田医療センターへの派遣が困難となってきました。
このため8月27日(金)時点では、東京蒲田医療センターでは5割程度の受入れとなっておりますが、JCHOの都内のその他の病院では確保病床の9割程度を受け入れており、全体では確保病床の7割程度の受け入れとなっております。
東京蒲田医療センターでは、国や都からの受け入れ増加の要請に応えるため、8月16日から看護師を追加で確保し、受け入れ増加に向けて取り組んでいます。
なお、JCHO全体の取り組みについて、国や自治体からの要請に応じてきたものであり、東京都の令和3年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(医療分)実施要綱に基づき申請を行ったものであります。
・東京都医師会の尾崎会長 自身の医院でなぜ陽性者を受け入れていないのか(NEWSポストセブン 2021年9月18日)
尾崎治夫会長の病院では陽性者の受け入れはしていないという…
※「医療逼迫」が叫ばれて久しいが、その裏でコロナ患者を受け入れていない病院が数多くある。日本テレビの報道によれば、8月31日時点で都内の確保病床(コロナ患者をすぐに受け入れ可能な「即応病床」)は5967床あったが、受け入れられた患者は4297人で、病床使用率は72%。個別に見ると、病床使用率40%以下の病院が27施設、0%の病院が7施設もあったという。
使用率100%の病院が50施設あるなか、“受け入れ格差”が浮き彫りになった形だ。
「中等症向けの臨時医療施設を、ぜひとも作っていただきたい」。8月31日、臨時会見に臨んだ東京都医師会の尾崎治夫会長は、悲痛な表情でこう訴えた。同23日には、小池百合子都知事が「通常医療の制限も視野に入れ、すべての病院、診療所に新型コロナ患者の受け入れをお願いしたい」と要請していた。
コロナ患者用の確保病床をそもそも用意していない病院は多い。都内には確保病床を持たない病院が約250あり、正当な理由なく受け入れを拒否する医療機関は、都や厚労省が名前を公表する意向を示している。
「もちろん、病院の規模的に院内感染予防を徹底できないところもあるでしょう。街中の小さなクリニックにも確保病床を用意しろというのは酷な話です。しかし、先陣を切って患者を受け入れるべき病院がそれをしていないんです」(都内病院に勤務するある医師)
臨時医療施設の設立を訴えた東京都医師会会長・尾崎氏が院長を務める「おざき内科循環器科クリニック」がそのひとつだ。
「ワクチン接種の提供や発熱外来はやってますが、陽性者の受け入れはしていません」(同前)
都医師会に聞くと、こう回答した。
「ワクチンの接種から、熱が出た患者の診察や検査はもちろん、肺炎症状があれば尾崎先生自身が救急搬送の手配をしている。検査結果が陽性となれば、ちゃんと保健所にも届出をしています。限られたスタッフ、設備のなか出来ることはすべてやっています」(広報課)
ちなみに厚労省はワクチン接種の実施病院にも補助金を出しており、一本あたり2070円の診療報酬に加え、1日50本以上打つと10万円の協力金が支給される。
医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師が指摘する。
「そうしたコロナ関連の様々な補助金で非常勤の医師や看護師を本気で集めれば、対応できるはずです。医療界のトップが患者を受け入れる姿勢を見せなければ、民間病院が積極的に受け入れるはずがありません。冬にかけてまた感染拡大の波が来るかもしれない。補助金の制度も含めて、いま一度仕組みを見直す時期に来ていると思います」
※週刊ポスト2021年10月1日号
・【独自】尾身理事長の医療法人がコロナ補助金などで311億円以上の収益増、有価証券運用は130億円も増加(AERA dot. 2021年9月24日)
※政府の新型コロナ対策分科会会長の尾身茂氏が理事長を務める地域医療機能推進機構(JCHO)で、コロナ対策などで給付された300億円以上の補助金で収益を大幅に増やす一方で、有価証券の運用も130億円増加させたことが、AERAdot.の取材でわかった。
JCHOではコロナ患者用の病床を用意し多額の補助金を受けながらも、患者を十分に受け入れていなかった実態がわかっており、厚生労働省などから批判があがっている。
* * *
「JCHOは適切に補助金を運用していないのではないか」
いま医療関係者の間でこんな疑念が生じている。どういうことか。その原因は、JCHOがホームページで公表している財務諸表を見るとわかる。
2020年度の財務諸表によると、20年度の当期純利益は約200億円で前年度より約168億円も増加していた。補助金等収益を見ると、こちらは約324億円で、前年度より311億円も増加していた。補助金等の明細を見ると、交付された補助金は126件(交付額は約368億円)あり、そのうちコロナ関連と思われる補助金は56件あった。56件の交付額は約351億円、うち約310億円が収益計上されていた。
同時に、有価証券での運用額は685億円で、前年度より130億円増加していた。当期純利益は200億円で、現金及び預金は約24億円しか増加していない。
これ以前にも、JCHOはコロナ患者を受け入れるために多額の補助金をもらいながらコロナ専用の病床数や受け入れ患者が少ないことが批判の的になっていた。AERAdot.では9月1日に配信した「【独自】コロナ病床30~50%に空き、尾身茂氏が理事長の公的病院 132億円の補助金『ぼったくり』」の記事で、JCHO傘下の都内病院で、コロナ専用病床の多くが空床になっていることを特報している。
これに関して、尾身氏は18日に自身のインスタグラムで「#ねえねえ尾身さん」と題したライブ放送を行い、視聴者からの疑問に答える形でこう釈明した。
「補助金のぼったくりの話ですけども、看護師さんなんかを確保するのに難しいという理由はあったにせよ、実際に確保した病床よりも、実際に入れた患者が少なかったという事実はある。この事実に関しての補助金の扱い方については、国や自治体が方針を示すと思いますから、その方針に従って適切な行動をとりたいと思っています」
◆厚労省幹部が「由々しき問題」
今回、新たに問題になっているのは、コロナ関連で多額の補助金を受け取り、法人全体の収益をあげながら、その収益が有価証券の運用に使われているということだ。この実態は政府関係者の間でも問題視され始めている。厚労省の幹部はこういう。
「コロナ関連の補助金が大部分を占めるJCHOの収益が、結果的に有価証券購入の原資として間接的に還流されているとみています。補助金収入がきちんとコロナ病床や患者医療に還元されず、有価証券などとして内部留保されていることは厚労省としても由々しき問題と考えています。尾身氏の経営判断を尊重する必要はあるのですが、自身があれだけ『医療ひっ迫』を主張する中で、このような経営は受け入れられないのではないでしょうか」
法人が自身の資金をどう運用しようとも、適切なプロセスを踏んでいれば問題はない。しかし、コロナ関連で受け取った補助金によって大幅に収益をあげて、それを間接的にでも投資に回していたとしたら、批判や疑問の声も出るだろう。
JCHO職員によると、補助金収入の大幅増と有価証券の取得増は「無関係ではない」という。他の民間医療機関と同様にJHCOもコロナの影響などにより病院経営は収益の柱となる医業収益が減となるなど厳しい環境下にある。こうした中で有価証券残高を130億円増やすことができたのは、「補助金収入が大きく寄与した」(前出の職員)という。
◆尾身氏からの回答は?
JCHO理事長の尾身氏はどう答えるか。尾身氏宛に、補助金で収益をあげながら多くの資金を有価証券で運用するのが適切と思うか、補助金を投資で使っている事実はないかなど書面で見解を質した。
すると、広報担当からメールで「個別にいただいたご質問等にはお答えすることはいたしかねます」と回答が来た。
医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏はこう指摘する。
「尾身氏はJCHOの理事長として国民に事実を説明する必要があるでしょう。この問題は、JCHOでコロナ病床を増やし、患者もしっかりと受け入れるという覚悟も問われていると思います」
補助金は国民の税金が原資だ。尾身氏の説明責任が問われている。
・尾身会長の医療機構、現場から悲鳴「暴走コストカットで患者救えない」(女性自身 2021年9月30日)
※コロナ対策の指針を示してきた政府分科会の尾身茂会長(72)。ときには強い口調で各病院にコロナ患者の受け入れ拡大を求めてきたが、自分が理事長を務める組織では――。
「うちの病院には、今年4月から常勤の内科医が一人もいないんです。定年間近の非常勤医師と、研修医が交代で回してきました。その研修医も、もうすぐいなくなります。こんな状態で、どうやってコロナ患者を受け入れるんでしょうか。不安しかありません」
そう話すのは、9月末から50床のコロナ専門病院になることが決定した東京城東病院(東京都江東区)で働く看護師のAさん。
東京城東病院は、政府分科会の尾身会長が理事長を務める地域医療機能推進機構(以下、JCHO)傘下の病院のひとつだ。
JCHOとは、全国に57の病院と26の介護老人保健施設などを持つ、厚生労働省が所管の独立行政法人。’20年度には300億円を超える巨額の補助金が投入されている。
「JCHOの財務諸表を見ると、少なくとも230億円以上がコロナ対策関連の補助金とみられます」
そう指摘するのは、医療ガバナンス研究所の理事長で、内科医の上昌広さんだ。
コロナ専用病床を1床確保すると、病床の種類に応じて1日あたり7万1,000~43万6,000円の補助金が、患者が入院しているか否かにかかわらず支給される(重点医療機関の場合)。ほかにも、重症患者向け病床を確保すると、1床あたり1,950万円の補助金が払われるなどの制度もある。
8月24日時点で、JCHOは傘下の全病院で870床、都内の5病院だけで187床のコロナ専用病床を確保。結果、補助金が230億円以上まで積みあがったようなのだが……。
都内の自宅待機者がピークの2万6,000人を超えた8月末時点で、JCHOの都内コロナ対応病院のうち「3~5割が空床」だったことが、「AERA dot.」の報道で明らかになった。報道に対して、JCHO側は、コロナが急拡大したことで、一時的な“人手不足”に陥ったと弁明している。
■「傘下の看護学校もつぎつぎ閉鎖して」
だが、本誌が取材を進めると、人手不足は慢性的かつ“意図的”なものだったという声が出てきた。前出のAさんはこう語る。
「4月に内科医がゼロになった後も、『(足りているから)大丈夫』といって、新たな医師を入れようともしませんでした。看護師の求人は出していますが、形だけ。実際には、看護師が辞めるなどして欠員が出ないと、いくら手が足りず、現場が疲弊していても、採用してくれません」
JCHO労働組合の書記長の大島賢さんは、「人手不足は関連病院全体に広がっていた」と語る。その裏には、「極端に黒字化を目指す幹部の指示がある」という。
「JCHOの幹部のほとんどが、厚労省や国立病院からの天下りで、赤字を出さないことを至上命題として人件費を削り続けてきました。全体で職員の上限数を決め、コロナ病床を回すために人手が必要になっても、新たに雇わずコロナを診ていない病院や病棟から補充しろ、と。でも、ふだんからギリギリの人数で回しているので、引き抜かれた側の病院スタッフは、休みもろくにとれなくなる」
そのうえ、不採算部門をどんどん切り捨てているという。
「JCHOは6つの看護学校を経営していますが、うち2つは今年度で廃止が決定。卒業生の多くはJCHOの病院に就職するので、看護師確保も難しくなります。しかし医療費と病床削減は国の方針でもあるので、JCHOは病床を減らして対応するようです。JCHOは感染症や周産期、救急など“不採算部門”を診る役割を担った公的病院です。『もうからないから削ります』は、許されないのですが……」(大島さん)
「女性自身」2021年10月12日号
・【独自】コロナ「幽霊病床」第5波ピーク時に3割の尾身理事長JCHOは補助金311億円 岸田首相が解消へ(AERA dot. 2021年10月16日)
※新型コロナの感染者が急減する一方で、第6波に備えて岸田文雄首相が医療体制の強化に動き始めた。全国で11万人以上の自宅待機者があふれた第5波では、ピーク時にコロナ即応病床と申告し、多額の補助金を受け取っていながら実際は使用されなかった「幽霊病床」が多く存在し、問題化した。
政府分科会会長の尾身茂氏が理事長を務める独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)傘下の病院でも次々と「幽霊病床」問題が発覚。岸田政権からJCHOの姿勢に厳しい目が向けられ始めている。
「この夏の感染拡大時にコロナ病床が十分に稼働しなかった反省も踏まえ、いわゆる幽霊病床を見える化し、感染拡大時の使用率について8割以上を確保する具体的方策を明らかにする」
10月15日午前、岸田首相は新型コロナウイルス感染症対策本部を開催し、こう述べた。AERAdot.が入手した岸田首相が出席した会議資料には以下の記述があった。
<いわゆる「幽霊病床」の実態把握。感染拡大時の コロナ用の病床の使用率について、少なくとも8割を確保する具体的な方策を明らかにする>
<国立病院機構法、地域医療機能推進機構(JCHO)法に基づく『要求』をはじめ、公的病院に関する国の権限を発動し、公的病院の専用病床をさらに確保する>
国立病院機構法と地域医療機能推進機構法には、厚労相が公衆衛生上重大な危害が生じるおそれがある緊急の事態に、国立病院とJCHOに対して必要な措置をとるように求めることができるが、こうして名指しするのは異例だ。
冒頭の岸田首相の発言の前日14日、尾身氏は官邸を訪れ、岸田首相に対しコロナ対策をレクチャーしたが、尾身氏が理事長を務めるJCHOや国立病院機構などが議題の対象に上げられた形だ。
「尾身氏は岸田首相にリーダーシップのあり方をレクチャーされていましたが、政府としてはJCHOの幽霊病床の補助金問題に強い問題意識を持っています。会議ではJCHOも名指されています。尾身氏は岸田首相と会談後、記者団に対し『首相は病院のコロナ貢献を可視化する方針だ』などとレクしていました。しかし、実際に政府が行うのは『貢献』ではなく、『非貢献』の可視化で、JCHOもターゲットになっています」(官邸関係者)
尾身氏が理事長のJCHOの「幽霊病床」の補助金問題はAERAdot.がこれまで追及してきた問題だ。
◆尾身氏が認めたJCHOの「幽霊病床」
幽霊病床とはピーク時にコロナ即応病床と自治体に申告し、多額の補助金を受け取っていながら実際はコロナ患者を受け入れず、空床のままにしていることだ。政府はコロナ用の病床確保策として、新たに重症患者向けの病床を確保した病院に1床あたり1950万円、中等症以下の病床に900万円を補助している。また「病床確保支援事業」では新型コロナ専用のベッド1床につき1日7万1千円の補助金が出る仕組みになっている。
AERAdot.が8月28日に報じた「『国会で言う』西村大臣を黙らせる尾身会長への違和感 天下り公的病院コロナ病床は1割強」という記事では、自宅療養者が連日あふれ、尾身氏が国会で「医療ひっ迫」を訴える中、JCHO傘下の都内5つの病院のコロナ病床はわずか1割強。都内の都立病院などの5割強に比べ、少なすぎる実態を報じた。
さらに9月1日には「【独自】コロナ病床30~50%に空き、尾身茂氏が理事長の公的病院 132億円の補助金『ぼったくり』」との記事で、都内に自宅療養者が溢れている8月末時点で、JCHO都内病院のコロナ病床が30%も幽霊病床にも関わらず、多額の補助金を受け取っている実態を特報した。
尾身氏はこの時のAERAdot.の取材に対して、30%の空床などを認めた。さらに、9月18日には自身のインスタグラムで「#ねえねえ尾身さん」と題したライブ放送を行い、こう釈明した。
「補助金のぼったくりの話ですけども、看護師さんなんかを確保するのに難しいという理由はあったにせよ、実際に確保した、計画した病床よりも、実際に入れた患者が少なかったという事実はあるわけですね。この事実に関しての補助金の扱い方については、国や自治体が方針を示すと思いますから、その方針、判断に従って、適切な行動をとりたいと思っています」
AERAdot.では9月24日には「【独自】尾身理事長の医療法人がコロナ補助金などで311億円以上の収益増、有価証券運用は130億円も増加」とJCHOがコロナ補助金で300億円以上もの収益を得ていたことを報じた。
◆厚生労働省と東京都が幽霊病床の補助金返還も
政府や東京都はとりわけJCHOなど公的病院の幽霊病床を問題視。厚労省は10月1日に<正当な理由がなく入院受入要請を断ることができないこととされていることを踏まえ、医療機関において万が一適切に患者を受け入れていなかった場合には、病床確保料の返還や申請中の補助金の執行停止を含めた対応を行う>と通知を出した。
東京都も5日、議会で「受入れ実績や病床使用率が低い医療機関には書面で理由を確認していく」、「必要に応じて医療機関に補助金の返還による精算を求めるなど、補助金に係る業務を適切に執行していく」と補助金の返還を求める姿勢を示している。
財務相の諮問機関である財政制度等審議会でも11日、JCHOが名指しされ、補助金問題が議題にあがった。会議に提出された資料によると、JCHOのコロナ関係の補助金は311億円で、「補助金が利益率の改善に寄与した」と報告されている。財務省も多額の補助金が幽霊病床に支払われていることについて問題視しており、補助金のシステムを改善する構えだ。
こうした状況の中、新たな可視化の対象となっているのが、9月30日からコロナ病床を50床に増やし、コロナ専門病院となったJCHO傘下の東京城東病院だ。
AERAdot.が厚労省関係者から入手した資料によると東京城東病院では確保病床50床に対して受け入れ患者数は3人、空床率94%だった(10月13日時点)。都内にある他のJCHO傘下の4病院では、確保病床165床に対し、受け入れ患者は6人となっていた(空床率96%)。
コロナの感染者数は急激に収束しており、10月15日時点で都内のコロナ入院患者は413人と少なくなっている。厚労省幹部はこう問題視する。
◆取材に「回答控える」と尾身氏
「JCHOで問題なのは、政府からの再三の要請にも関わらず、半年遅れの9月末になって城東病院をようやくコロナ専門病院にし、病床を増やしたことです。理事長の尾身氏が開設すると公表した8月末時点で、感染のピークはすでに過ぎており、9月末には感染者数が下火になることは専門家であれば十分に予測できる立場だった。今は却って幽霊病床が増え、補助金だけを受け入れる形になっている」
JCHOに補助金をどれだけ受給しているのか、幽霊病床の分の補助金を返還する意思はないのか。理事長の尾身氏に質問とともにインタビューを申し込んだ。しかし、広報担当から「個別にいただいたご質問等にはお答えすることはいたしかねます」、「JCHOにおける新型コロナウイルス感染症対応への取組みについては、当機構のHPに掲載しております」と回答があった。
専門家はどうみるか。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏はこう語る。
「コロナの患者を受け入れなくても補助金を出すという厚労省の制度設計にも問題はあったが、補助金についてどう対応するのか尾身氏は説明責任を果たすべきでしょう。また、JCHOは厚労省が所管する独立行政法人で、本来であれば率先して患者を受け入れないといけない。尾身氏はより一層受け入れの姿勢を明確に示すべきです」
