・「地球最悪の侵略的植物」淡路島で畑に広がる…駆除作業実らず「もはや住民だけでは防げない」(読売新聞 2021年6月7日)

※「地球上で最悪の侵略的植物」とも呼ばれ、兵庫県洲本市のため池で確認された特定外来生物の水草ナガエツルノゲイトウが、周囲の畑などに広がっているのが見つかった。農地での確認は県内初といい、駆除などで支援してきた市民グループは「もはや住民だけでは防げない。県や市が早急に対応しなければ、急拡大する」と危機感を募らせる。

繁殖しているのは洲本市五色町都志米山の本田(ほんでん)池で、4月の段階で水面の6割ほどを覆っていた。管理する農家の人らは、河川やため池の保全を進める市民グループ「兵庫・水辺ネットワーク」(神戸市)の支援を受け、駆除に着手。池の底の一角を遮光シートで覆い、枯死させる手法を取った。

対処した箇所では順調に腐敗が進んだが、泥中に発生したガスでシートが膨らみ、継ぎ目が剥がれた。今月に入り、水辺ネットのメンバーが修復作業に駆け付けてみると、周辺の草むらや畑にも多数生えているのが見つかったという。

乾燥や塩分に強く、水陸を問わず、茎や根の一部からでも増殖するため、堤の草刈りで飛散したり、農機具や長靴などに付いたりして広がった可能性がある。半径50メートルほどの範囲だけでも、数十か所に及んだ。

土中に数ミリでも根の断片が残れば再生し、畑を所有する女性は「抜いても抜いても、すぐ生えてくる」。池を管理する住民組織「米山逆池(さかさまいけ)田主(たず)」の役員を務める岡本賢三さん(60)も「気を付けていたのに、知らない間に広がっていた」と途方に暮れる。

外来種対策を担当する県自然環境課は5月、本田池を視察したが、その時よりも事態は悪化した。

今後、危惧されるのは稲への影響だ。周辺には田植えを控えた田んぼもあり、水を張ったところにナガエツルノゲイトウが入ると、畑とは比較にならない速さで増殖。茎の長さが1メートルを超えるため、稲に覆いかぶさって成長を阻害し、収穫量の減少を引き起こす危険性が高いという。

水辺ネットの碓井信久さんは現場を確認した上で、「ため池やその水系だけの対策を考えればよかった段階から、状況は最も深刻なレベルにまで一気に高まった」と強調。「より多くの人に周知し、対策を加速させないと、手に負えなくなる」とし、淡路島内の各地へ拡大する可能性も指摘している。

◆ナガエツルノゲイトウ=南米原産の多年草。国内初の確認事例として1980年代に県内で見つかり、琵琶湖(滋賀県)など全国各地に拡大した。ブラックバスなどの生息地で多く見られ、釣り人が媒介している可能性が指摘されている。ため池では水質の悪化や、水路が塞がれる被害が懸念される。


・「地球上最悪」侵略的水草と住民の終わりなき戦い 驚異的な生命力、切られた茎や根から新たな芽が…(神戸新聞NEXT 2022年8月13日)



(上)本田池の水面で生い茂り、浮島を形成しているナガエツルノゲイトウ。昨年は池のほとんどを覆っていたが、今年2月、水を抜いた池底に遮光シートを張って周囲から防除。浮島部分はフェンスなどで拡大を防ぎ、再び水を抜いて駆除する=8月2日、洲本市五色町都志米山(ドローンで撮影)

※ため池の真ん中に、巨大な緑色の塊が浮かぶ。こんもりと、まるで島のように見えるが、その正体は水面に生い茂った水草。「地球上最悪の侵略的植物」と呼ばれ、栽培や輸入などが規制される特定外来生物、ナガエツルノゲイトウだ。淡路島や東播磨地域などの兵庫県南西部で近年、深刻な分布拡大が続いている。

南米原産で、英名はアリゲーターウィード。水草なのに乾燥に強く、水陸両生。水辺では41日間で倍増するとの報告があり、放っておけばたちまち水面を覆ってしまう。

在来の水生植物を追いやる恐れがあるほか、水田に入れば稲の生育を妨げ、農業被害につながる。風や水流で茎が切れれば塊のまま流され、水利施設を詰まらせて水害を引き起こす恐れもある。

県南西部では2016年以降、神戸市西区や稲美、播磨両町、明石、加古川、洲本の各市で見つかり、河川やため池の環境保全に取り組む市民グループ「兵庫・水辺ネットワーク」(神戸市)が行政や地元住民と共に駆除を続ける。

その闘いは困難を極める。切れた茎や根の断片からも、新たな芽を出して増殖する生命力を持つからだ。手作業では、深さ50センチにもなる根を切らずに取り除くことはできない。

あるときは農業用エンジンポンプと消防用ホースによる放水で掘削して回収し、またあるときは遮光率100%のシートで覆って1年半もかけて死滅させる。根付いた土砂ごと重機で掘り返し、積み上げて埋めることもある。ただ、稲美町の新仏池では、その荒野のような土壌からも次々に再生してしまった。

「ナガエに比べれば、他はかわいいものだった」と同ネットワーク事務局の大嶋範行さん(70)はため息交じりに言う。驚異的なしぶとさを前に、途方もない闘いが続く。(吉田敦史)

■尼崎で国内初確認 現在は21府県に

ナガエツルノゲイトウ(以下、ナガエ)は北米、アジア、オセアニア、アフリカの各地で問題になっている。日本では1989年、初めて尼崎市で定着が確認された。国立環境研究所の侵入生物データベースによると、現在は茨城県以西の21府県に広がっている。

兵庫県内では伊丹市の昆陽池のオニバスや、稲美町の天満大池のアサザといった希少植物が脅かされる。

なぜ各地に広がるのか。県南西部などでナガエの防除活動を続ける「兵庫・水辺ネットワーク」(神戸市)メンバーの丸井英幹さん(54)は「日本に入り込んだナガエは、花は咲いても種はできないため、鳥が運ぶことは考えにくい」と話す。

これまで見つかっている場所はいずれも近くまで車で行けるなどアクセスしやすい共通点があり、人が媒介している可能性も指摘されている。

環境省は2005年にナガエを特定外来生物に指定。研究目的以外での栽培や保管、運搬、放逐が禁じられ、違反すれば個人で300万円以下、法人で1億円以下の罰金が科せられる。