・はい罰金!中国警察の交通違反「ワナ」に世論騒然(JBpress 2021年4月15日)
福島 香織

※庶民が日々科される様々な罰金は、ときには人を自殺に追い込んでしまうこともあるほど深刻だ。

誰もがトラップにかかる「罰金道路」
 
先日、CCTV(中国中央電視台)はじめ中国メディアが広東省の「罰金道路」について報じたことから、中国当局が科す罰金の悪辣さに注目が集まった。

報道によると、とあるドライバーが広東省仏山市の広州~台山を結ぶ高速道路(広台高速)にあるY字路の分岐点で車線変更禁止ゾーン走行中に車線変更したとして、罰金200元を徴収された。このとき、罰金切符に記されたこの場所での累計違反人数が62万4149人であった。ドライバーはそれを見て、自分と同様に違反して罰金を科された人間が62万人もいて、1人200元の罰金が徴収されたとしたら累計1億2000万元が罰金が徴収されたことになる、と中国のSNS「微博」に投稿した。

さらに誰かが4月10日、この高速道路のY字分岐点の様子をドローンを使って上空から撮影、その動画をネットに投稿した。その動画では、3分間で27人の交通違反者が出ていた。この動画はCCTVでも紹介された。

CCTVの報道を受けて、広東省仏山市公安局交通警察支隊は昨年(2020年)3月18日から今年4月1日までの間に、「監視カメラのスクリーンショットによって交通違反と判断したケースは18万4383件である」として、62万人の交通違反説を否定した。また罰金も、この1年前後の間に3700万元ほどであるという。

だが、それでも異様に違反と徴収罰金額が多い、と世論は沸き立った。

さらに、異様に交通違反が多いこの高速道路区間の車線変更ルールは、交通警察当局がわざと交通違反を誘発して罰金を徴収するための「トラップ」なのではないか、という噂が立った。

動画をみると、高速道路はY字の少し手前のところから、車線変更禁止の実線が描かれている。そこまでは、車線変更できる4車線である。その4つの車線は、車線変更できる破線によって区切られている。それがY字の手前に来ると、変更禁止の実線で区切られる5車線に切り替わる。



ドローンで撮影されたY字分岐区域(出所:星视频的微博)

交通違反の例を挙げよう。Y字では、右側に3車線、左側に2車線に分かれる形になっている。Y字で左に行くつもりで、4車線のときに左から2車線目を走っている車があるとする。Y字に近づくと、車線が増えて5車線になる。ドライバーは、自然に真ん中の車線に入る。すると、その車線は右側に吸い込まれていく。ドライバーはあわてて左側車線に移る。しかし、そこはすでに車線変更禁止区域である。車線変更禁止の実線を乗り越えたドライバーはあえなく反則切符を切られるというわけだ。

実際、この高速道路を利用するドライバーたちによると、この車線変更禁止の実線は高速道路上に突然現れ、反応が間に合わず、間違った車線に入ってしまうのだという。

ドライバーたちは、交通警察当局が、最初から罰金を科すために、こうしたわかりにくい、反応しにくい車線変更ルールにしたのではないか、罰金を取るための罠、トラップではないか、と不満を訴えている。当局は、中国メディアの批判報道を受けて、「広東省の関連部門はすでに現場に調査チームを派遣している。この区間の車線変更もっとわかりやすく整理する」としている。

サービスエリアに入れない?
 
実は交通違反トラップは、中国の全国各地の高速道路、幹線道路に当たり前のように存在している、という。

たとえば、沈海高速道路の茂名から広州に向かうところにある白電サービスエリアへの入り口手前には、長さが1.5キロにおよぶ車線変更禁止の実線が描かれている。ドライバーがサービスエリアに入ろうと思えば、その1.5キロ前から車線を変更しておかなければならない。だが、その指示が手前にない。サービスエリアが見えてきてからあわてて車線変更すると、交通違反、となる。広東省茂名交通警察当局の2018年の発表によると、2017年にこのサービスエリア付近で12万5000件の交通違反が取り締まられ、罰金総額は2500万元に上ったという。

ほかにも、左折禁止や右折禁止になっている交差点で、手前にそれを知らせる表示がなかったり、見えにくかったり、そういうところにあえて「電子眼」が設置されていたりする例は枚挙にいとまがない。あきらかに、ドライバーをだまして交通違反させ、罰金を徴収しようとするかのように。

多すぎる「電子眼」
 
中国の交通違反取締は現在、スマート交通違反監視撮影管理システム、通称「電子眼」「電子警察」と呼ばれるシステムによって行われている。監視カメラが交通違反車を撮影し、プレートナンバーを記録、後日、罰金請求をドライバー宅に送りつけ、もれなく徴収するやり方だ。

電子眼がいたるところに設置されていることがドライバーに知れわたったおかげで、ドライバーがスピード違反や危険運転をしないようになったともされている。だが、今年の全人代(全国人民代表大会)では一部代表から、「電子眼の設置が過密すぎて、合理的でない」という指摘が出た。

重慶市の代表で弁護士の韓徳雲は、2020年の交通違反罰金総額が3000億元前後に達していると指摘した。全国の民用車両の保有台数が2.81億台とすると1台平均1000元以上の罰金が科されていることになる。韓徳雲は、この罰金の多さは、電子眼の設置の仕方に問題があるのではないか、という。つまり、わかりにくい車線変更禁止ゾーンなどのトラップをつくって違反を起きやすくし、そこに電子眼を設置して、罰金をより多く徴収しようとしているのではないか、と。

陝西省法学会警察法学研究会常務理事で、陝西省人民警察研修学校治安教学研究室主任の李祖華は、中国誌「財経」に対し「電子警察(電子眼)は今のところ財源が許す限り、より多く、ランダムに設置している」と述べている。数多くランダムに設置する目的は、罰をもって管理するためであり、罰せられる、見張られているという意識による教育指導効果を上げ、管理することによって安全意識の向上が促進できるから、とのことだ。決してむやみに罰金を徴収する目的ではない、ということらしい。

もっとも、交通ルール違反と罰金情報の不透明さに、市民の「電子眼」に対する不信感、疑問は募るばかりだ。電子眼による罰金収入額がどのくらいで、その用途についても説明はされていない。

運転席で自殺したトラックドライバー
 
中国ではこうした怪しげな罰金徴収は交通違反にかかわるものだけではない。大型貨物トラックやバスなどは、2013年から中国版GPS「北斗システム」の設置を義務付けられ、その走行ルートや走行時間などが監視されている。これはドライバーの長時間労働を防ぎ、疲労による事故を防ぐのを目的としているとの建前だ。

ドライバーは、運転中は常に北斗システムを稼働させておかなければならない。接続を切ってトラックを運転すると罰金対象になる。今年4月5日、河北省のあるトラックドライバーが、北斗システムの接続が切れたまま走行していたことが検問所で発覚し、2000元の罰金が科された。ドライバーは接続が切れたのは自分のせいではないと主張し罰金の支払いを拒んでいたが、認められず、衝動的に運転席で殺虫剤を飲んで自殺した。

この自殺報道で世論が騒然としたのは、トラックドライバーは数千元の北斗システム設置費用や、年に数百元のサービス費用を支払わなければ、営業許可証が取得できない、という状況が明らかになったからだ。ドライバーの過剰労働を防ぎ輸送の安全を守るという建前で監視が強化され、さらにはその監視のための高額な装置を買わされ、サービス料が徴収される。その上、装置の不具合で接続が切れたらさらに罰金が徴収される。これは一種の搾取ではないか、ということだ。

広台高速道路の「トラップ」罰金について論評記事を報じた財経誌は次のようにまとめている。「強調すべきことは、罰金は一種の手段であるが、その目的は車両に交通規則を守らせ、交通秩序を維持するためにある。(同じ場所で)罰金総額が増え続けて、違反行為の減少が見られないとすると、そのような罰金は、実際、罰金を徴収すること自体が目的となっている。そのような交通ルールは警戒され、無くなるべきなのだ。設計に欠陥があることを顧みず、とにかく罰金を科せばいい、という状況は、ドライバーの恨みと不満を買い、執法者の発信力にネガティブな影響しかもたらさない」。まさにその通りであろう。

支配し、富を奪うための「監視」
 
中国は世界最高レベルにして世界最大の監視国家であり罰金国家だ。ハイテクを駆使した監視システムにより、監視の目から逃れるすべはほとんどなくなった。中国が監視社会化し、罰金をもれなく徴収するようになったおかげで、犯罪が減り、ルール違反が減り、庶民の文化レベルが上がったと評価する声がなくもない。

だが、こうした監視と罰金によるがんじがらめの社会が、ルールを破ろうとするつもりのない人にもルールを破らせ、罰金を徴収することが目的のルールや規則が増える状況を生んでしまう。

それは、中国において、法やルールが社会の平等や公正さの実現のために作られるものではなく、権力が社会や庶民を完全に支配しコントロールするための道具、手段としてつくられているからだろう。

つまり、監視社会、罰金社会が最終的に行きつくのは、管理と搾取のディストピアでしかない、ということだ。