・「接待問題」に隠れるように進む重要法案 信頼ないままのデジタル化「監視法案」と名付けられた肝いり政策(withnews 2021年3月21日)
※「デジタル監視法案」
国会ではある重要法案が審議されています。「デジタル庁」創設や個人情報保護法改正を盛り込んだ「デジタル改革関連法案」です。菅さん肝いりで、今年9月のデジタル庁設置を目指すため、新年度予算案と平行した異例の形で審議が進められています。
ただ、急ピッチで進められたため、法案のミスも相次いでいます。国会に提出された法案の参照条文で45カ所も誤りがあり、その正誤表でもさらに間違えるというミスを重ねています。とりわけ問題になったのは、国会への報告の遅れです。2月12日に最初のミスに気づきながら、野党側に正式に報告したのは約1カ月後の3月9日。衆院本会議で審議入りした当日です。野党からは「説明する気があったのか、疑念を持っている。単なるミスと思えない」という疑念の声があがりました。
こうした国会軽視に加え、この法案はこれまで3つの法律に分かれていた個人情報保護のルールを統一するなど、63本もの法律を束ねた内容です。自治体が先行して築いてきた個人情報保護のルールについて、条例で定められていたルールを一度白紙にし、国のルールに一元化する大転換でもあります。
3月18日に衆院内閣委員会で行われた参考人質疑では、4人出席した参考人のうち、2人が「慎重な審議」を求めました。
そのうちの1人、内閣府の公文書管理委員会の委員長代理を務めた弁護士の三宅弘さんは、「デジタル庁設置法案によって10年後、データの分散管理を根本的に改め、内閣総理大臣のもとに個人情報を含む全てのデジタル情報を集中管理するものとされています」と指摘。無料通信アプリ「LINE(ライン)」の個人情報が利用者への具体的な説明が不十分なまま、中国の関連企業からアクセスできる状態にあった問題にも触れ、「集中管理はいったん個人情報が漏洩するとその影響は計り知れない」と述べました。
「刑事訴訟法197条の捜査照会手続きでは、本人の同意なくして個人情報を任意に集めることができます。指紋、DNA、顔認証。こういうものの法律の根拠はございません。ドイツに行ったときに、憲法裁判所裁判官にそういう報告をしたら、『え?日本って、そういう野蛮な国なの?』と言われました」
三宅さんは、ドイツでのこんな体験を紹介し、個人情報保護の仕組みを強化するよう求めました。政府の個人情報保護委員会が警察などの政府機関に改善の命令ができないという課題が解決されないまま、首相の下にデジタル情報が集中管理されるようになる今回の法改正を「デジタル監視法案」と名付けて問題視し、「個人情報が首相直轄の内閣情報調査室に集積され、本人が知らないうちに監視される危惧がある」と指摘しました。
参考人が問いかけた信頼
もう一人、慎重な審議を求めたのは、専修大文学部ジャーナリズム学科教授の山田健太さんです。
「例えば、今、皆さんがコロナ対策の中で、韓国や台湾を例として考えていらっしゃいますけれども、その感染者情報などでも、その前提は、行政の徹底したいわゆる開示、行政情報の開示、そして自己情報へのアクセス権です。それによって政府の信頼性を高め、その上でさまざまな施策を打っているわけでありまして、まさにこの情報公開をこの個人情報のさまざまな法案、立案にあたってはまず前提にすべきです」
与党側は、今月31日の衆院内閣委、4月1日の衆院本会議での採決を目指しています。
しかし、100人規模の民間登用を目指すデジタル庁の特定企業との距離感についても、政府の答弁は「具体的な運用方法について、有識者を含めた検討の場も設けて検討したい」と明確になっていません。
「信頼」という政治の根本が揺らいだままで、人とカネ、そして政府に大量の情報を集めていく新たな役所を無条件でつくらせていいのでしょうか。参考人の警鐘に耳を傾けながら、国会で慎重に議論すべき課題だと感じています。
◇
南彰(みなみ・あきら)1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連に出向し、委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。
※「デジタル監視法案」
国会ではある重要法案が審議されています。「デジタル庁」創設や個人情報保護法改正を盛り込んだ「デジタル改革関連法案」です。菅さん肝いりで、今年9月のデジタル庁設置を目指すため、新年度予算案と平行した異例の形で審議が進められています。
ただ、急ピッチで進められたため、法案のミスも相次いでいます。国会に提出された法案の参照条文で45カ所も誤りがあり、その正誤表でもさらに間違えるというミスを重ねています。とりわけ問題になったのは、国会への報告の遅れです。2月12日に最初のミスに気づきながら、野党側に正式に報告したのは約1カ月後の3月9日。衆院本会議で審議入りした当日です。野党からは「説明する気があったのか、疑念を持っている。単なるミスと思えない」という疑念の声があがりました。
こうした国会軽視に加え、この法案はこれまで3つの法律に分かれていた個人情報保護のルールを統一するなど、63本もの法律を束ねた内容です。自治体が先行して築いてきた個人情報保護のルールについて、条例で定められていたルールを一度白紙にし、国のルールに一元化する大転換でもあります。
3月18日に衆院内閣委員会で行われた参考人質疑では、4人出席した参考人のうち、2人が「慎重な審議」を求めました。
そのうちの1人、内閣府の公文書管理委員会の委員長代理を務めた弁護士の三宅弘さんは、「デジタル庁設置法案によって10年後、データの分散管理を根本的に改め、内閣総理大臣のもとに個人情報を含む全てのデジタル情報を集中管理するものとされています」と指摘。無料通信アプリ「LINE(ライン)」の個人情報が利用者への具体的な説明が不十分なまま、中国の関連企業からアクセスできる状態にあった問題にも触れ、「集中管理はいったん個人情報が漏洩するとその影響は計り知れない」と述べました。
「刑事訴訟法197条の捜査照会手続きでは、本人の同意なくして個人情報を任意に集めることができます。指紋、DNA、顔認証。こういうものの法律の根拠はございません。ドイツに行ったときに、憲法裁判所裁判官にそういう報告をしたら、『え?日本って、そういう野蛮な国なの?』と言われました」
三宅さんは、ドイツでのこんな体験を紹介し、個人情報保護の仕組みを強化するよう求めました。政府の個人情報保護委員会が警察などの政府機関に改善の命令ができないという課題が解決されないまま、首相の下にデジタル情報が集中管理されるようになる今回の法改正を「デジタル監視法案」と名付けて問題視し、「個人情報が首相直轄の内閣情報調査室に集積され、本人が知らないうちに監視される危惧がある」と指摘しました。
参考人が問いかけた信頼
もう一人、慎重な審議を求めたのは、専修大文学部ジャーナリズム学科教授の山田健太さんです。
「例えば、今、皆さんがコロナ対策の中で、韓国や台湾を例として考えていらっしゃいますけれども、その感染者情報などでも、その前提は、行政の徹底したいわゆる開示、行政情報の開示、そして自己情報へのアクセス権です。それによって政府の信頼性を高め、その上でさまざまな施策を打っているわけでありまして、まさにこの情報公開をこの個人情報のさまざまな法案、立案にあたってはまず前提にすべきです」
与党側は、今月31日の衆院内閣委、4月1日の衆院本会議での採決を目指しています。
しかし、100人規模の民間登用を目指すデジタル庁の特定企業との距離感についても、政府の答弁は「具体的な運用方法について、有識者を含めた検討の場も設けて検討したい」と明確になっていません。
「信頼」という政治の根本が揺らいだままで、人とカネ、そして政府に大量の情報を集めていく新たな役所を無条件でつくらせていいのでしょうか。参考人の警鐘に耳を傾けながら、国会で慎重に議論すべき課題だと感じています。
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南彰(みなみ・あきら)1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連に出向し、委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。