・マスク非着用者の入場を許したら罰則? 国会関与なく罰則新設できる"新型コロナ"改正特措法の欠陥(Yahoo!ニュース 2021年2月7日)

楊井人文 | FIJ事務局長・InFact共同編集長・弁護士

https://news.yahoo.co.jp/byline/yanaihitofumi/20210207-00221420/

※新型コロナ対策を迅速に行うという名目で、新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正法案が先週成立し、2月13日施行される。政府は、特措法の「政令案」を公表し、マスク非着用者の入場を許した事業者にも罰則を科すことを検討しているようだ。

改正特措法は、自民党憲法改正案の緊急事態条項にも定めのある「国会承認」の縛りもなく、政府が新たな罰則を政令で創設できる重大な欠陥がある。それを明らかにした政令案に国民が意見を提出できるパブリックコメントはたった3日間。今夜までだ。

改正特措法の問題はこれまでも指摘してきたが、誤解を恐れず一言でまとめるなら、「緊急事態であろうがなかろうが、いつまで権利制限するか、どの範囲まで制限するか、全ては世論次第、政府のさじ加減次第、知事のさじ加減次第でできる」という法律である。

そういう法律を国会が2月3日に通してしまったのである。

まさか、と思う読者もいるであろうが、できるだけ簡単に説明しておきたい。

政令案の中身
 
改正特措法は、緊急事態宣言をしている間はもちろん、その宣言を解除しても、政府が「まん延防止等重点措置」という新たな期間を作り、その間「営業時間の短縮」と「まん延防止に必要な措置」としての権利制限を、罰則つきで強制することが可能になった(法31条の6第1項、第3項)。

しかも、改正特措法は、「まん延防止に必要な措置」として知事が命令で権利制限できる範囲を「政令」で定められるとしている。

政府は、その内容についての「政令案」を公表した。要点をまとめると次のようになる。

・従業員に対する検査受診の勧奨

・入場者の整理等

・発熱等の症状を呈している者の入場の禁止

・手指の消毒設備の設置

・施設の消毒等

・入場者に対するマスクの着用等の感染の防止に関する措置の周知

・当該措置を講じない者の入場の禁止

(政令案)

これを読むと、発熱等の症状を呈している者、マスクの着用をしない者の入場を禁止し、それを許す事業者に罰則(過料)を科せられると解釈できる。

手指の消毒設備の設置などの要請・命令に応じなかった場合も違法化され、罰則が与えられる可能性がある。

罰則により強制力が付与されるのは、事前に報道されたように、休業や時短だけではない、ということだ。

マスク非着用者の入場を禁止すべきかどうか、それを許した事業者を処罰すべきかどうか、そんな議論は国会でも行われていなかったはずだ。

国会で全く審議されていなかった事項を命令・罰則で強制できる、ということは許されることなのだろうか。

パブコメ期間は30日→3日に短縮
 
しかも、この改正特措法の政令案は、2月13日施行に間に合わせるつもりだろうか、国民の意見を受け付ける「パブリックコメント」の期間を、通常の30日間から、たった「3日間」に短縮している。

「政令案」は2月4日に公表され、5日にNHKなどが報道した。

「政令」は国会を通さず、政府が一方的に決められる
 
なぜこうなったかといえば、改正特措法は、「まん延防止等重点措置」を発動すれば、「政令」で、「まん延を防止するために必要な措置」を定め、それを知事が要請できるだけでなく、従わなければ命令し、違反すれば罰則をかけられるようになっているからだ。「政令」とは、法律と違って、政府が一方的に決められ、変更できるものだ。

改正特措法という法律が、政府が国会を通さずに、一方的に「政令」で措置の内容を決めていいですよ、と授権してしまったのだ。

都道府県知事は、(・・・)営業時間の変更その他国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある重点区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するために必要な措置として政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。(改正特措法第31条の6第1項)

もちろん、何をしてもいいということではない。

条文上「営業時間の変更その他・・・」と書いてあるので、「営業時間の変更」に匹敵するものに限られる、という解釈は成り立つ。

実際、改正特措法に反対した国民民主党が追及したことで、西村康稔・コロナ担当相がそのような解釈を示し、緊急事態宣言で認められるような「休業要請」や「全面的な外出自粛要請」は、まん延防止等重点措置における政令に書き込むことは「できない」と答弁した(2月1日、衆議院内閣委員会)。

ただ、「営業時間の変更」に匹敵する、まん延を防止するために必要な措置、というのは、かなり解釈の幅が広い。

緊急事態宣言でも、政令で、新たな措置、命令、罰則が作れるようになっている。

政府は今後も、国会を通さずに、政令だけで、新たな罰則を作る恐れがある。

実際、緊急事態宣言を発令直前の1月7日に、政府はこっそり政令改正をして権限を拡大したことがある(NHK: 営業時短要請応じない飲食店 政令改正で公表可能に)。

自民党の地方議員もその危険性に気づき、ブログで警鐘を鳴らしている。

https://ameblo.jp/hiroshioda/entry-12655118883.html

自民党改憲案にもあった「国会承認」の縛り

自民党の憲法改正案は、戦争や大規模自然災害を想定した緊急事態において、内閣総理大臣に広範な政令制定権を授権する「緊急事態条項」を提案している。

その改憲案でも、緊急事態宣言の発動、100日ごとの延長は「国会の承認」を要件とし、国会承認がなければ無効になるという内容になっている。

政令も「国会の事後承認」が必要で、承認がなければ廃止するものとされている。

このように、いかに緊急事態であっても、国会を通さずに、政令だけで権利制限をするということは、自民党の憲法改正案ですら、考えていなかったことなのだ(改正特措法は緊急事態宣言の発動の時だけ「国会の報告」が要件になっているが、国会承認と異なり、単なるセレモニーである)。

他の緊急事態法制にも、調べた限り、改正特措法のような国会承認なき政令制定権を許容した法律は見当たらない。

災害対策基本法にも「災害緊急事態」で緊急政令で罰則を定められることになっているが、国会を開く余裕がないなどかなり具体的なケースに限り、かつ、かなり具体的に限定列挙している。

「その他・・・必要な措置」のような曖昧な規定はしていない。

(詳細は、拙稿:【検証コロナ禍】自民党改憲案の緊急事態条項にも国会承認を明記 改正特措法は国会関与なく規制権限拡大も)

「ミニ緊急事態宣言」はいつ終わるのか?
 
「まん延防止等重点措置」の本質は、緊急事態宣言とほぼ同様の権限を政府・自治体に付与するという意味で「ミニ緊急事態宣言」であり、法律上の歯止めがないことを、私は繰り返し指摘してきた。

(拙稿:【検証コロナ禍】改正特措法 権利制限事態に法律上の歯止めなし)

「ミニ緊急事態宣言」は、緊急事態でないにも関わらず、まん延防止の必要があると言える限り、緊急事態宣言下と同様の権利制限を可能とするものだ。

つまり、緊急事態宣言の解除は、実質的に意味がなくなる。

実際、緊急事態宣言の解除後は、まん延防止等重点措置に移行するとの方針が伝えられている。

そして、まん延防止等重点措置を解除する基準は、改正特措法には明記されていない。

今回公表された「政令案」には、次のように発動要件が定められた。

新規陽性者数等の新型インフルエンザ等の発生の状況を踏まえ、都道府県において感染の拡大のおそれがあると認められる場合であって、その感染の拡大に関する状況を踏まえ、医療の提供に支障が生ずるおそれがあると認められること

こんな規定では、極端な話、「ゼロコロナ」まで「〜のおそれ」はなくならないと言えなくもない。「〜のおそれがない」という説明、証明は難しいからだ。
 
結局、世論が「ミニ緊急事態」の継続を望むか、望まないか次第ともいえる。

(弁護士ドットコムニュース:「一線越えた」改正特措法、歯止めなく「ゼロコロナ」まで営業制限も…弁護士が警鐘)

異例のプロセスで通過 元衆院議長も苦言
 
一部主要メディアは、与野党修正協議で刑事罰が削除されたこと(行政罰は残った)について「野党案丸のみ」「与党が大幅譲歩」などと報じたが、実際は、補償規定を含む野党案(昨年12月提出)を全く反映していなかった。

罰則規定やまん延防止等重点措置といった政府案の骨格はほぼ全て維持され、実態は「政府案丸のみ」に近い。

しかも、自民党と立憲民主党は、国会審議を始める前に密室で修正合意し、土日を挟んでわずか4日後に採決に至った(与野党共同提出の議員立法法案で即日可決)。

伊吹文明元衆院議長も「国会審議も経ずして修正するのは異例だ」と苦言したほどの、極めて異常なプロセスだった。

自民党の伊吹文明元衆院議長は28日の二階派会合で、新型コロナウイルス対策の特別措置法改正案などの修正協議に関し、「国会審議も経ずして修正するのは異例だ。国会での議論を国民に見せた上で、直していくのが議会制民主主義の基本だ」と述べ、苦言を呈した。(時事通信 2021年1月28日:自民・伊吹氏、審議前の修正協議に苦言 新型コロナ)

この異常な法改正プロセスも、ここで記録しておきたい。

1月22日 新型インフルエンザ等対策特別措置法の政府改正案が閣議決定され、法案が国会に提出

1月28日 自民党と立憲民主党が密室協議で、感染症法の刑事罰削除、過料減額を柱とする修正案に合意

1月29日 改正特措法(政府案)の国会審議はじまる

2月1日 実質審議2日間で、与野党共同提出の修正案が提出され、即日、衆議院本会議で可決(自民・公明・維新・立憲が賛成。国民・社民・共産が反対)。

2月1日夜 修正された条文案が公開

2月3日 参議院本会議で可決、成立

2月4日夜 改正特措法の政令案を公開(パブリックコメント3日間)

2月13日 施行予定


楊井人文

FIJ事務局長・InFact共同編集長・弁護士
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年4月、マスコミ誤報検証・報道被害救済サイト「GoHoo」を立ち上げ、一般社団法人日本報道検証機構を設立。2017年6月、「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)を旗揚げし、事務局長。2018年4月、共著『ファクトチェックとは何か』を出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。現在、インファクト(InFact)のファクトチェック担当編集長。早稲田大学次世代ジャーナリズム・メディア研究所招聘研究員、インターネットメディア協会(JIMA)監事。


・マスク非着用者の入場禁止…コロナ罰則追加の政令案公表 「新たな日常」という名の「新たな異常」

2021-02-07

https://ameblo.jp/hiroshioda/entry-12655118883.html

※新型コロナウイルス感染症をめぐる一連の改正法が3日、成立しました。国会での修正協議を経て、入院勧告や強制入院を拒否した際に最大懲役1年を科す刑事罰(感染症法)がなくなったことは評価できます。

一方、時短要請「等」の措置に従わなかった事業者に罰則(行政罰、前科はつかない)を科せるようになります。さらに、新たに創設される「まん延防止等重点措置」の実施要件は国会に諮らない政令で定めることができ、恣意的な運用が可能です。まん延防止等重点措置の期間は半年未満ですが、再延長を繰り返すことができるため(特措法第31条)、政府のさじ加減で半永久化が可能です。しかも、報道によれば、緊急宣言事態宣言が解除された後にまん延防止等重点措置に移行する可能性が高そうです。

法改正の問題点や危険性についてはファクトチェッカーの弁護士、楊井人文さんの解説が分かりやすいです。

・【検証コロナ禍】新設される「まん延防止等重点措置」の本質は「ミニ緊急事態宣言」 しかも現行法より制限強化

https://note.com/h_yanai/n/n2eb716851221

・「一線越えた」改正特措法、歯止めなく「ゼロコロナ」まで営業制限も…弁護士が警鐘

https://news.yahoo.co.jp/articles/a5d7ad60580fa1c7eeaf0eac22dcf1402ba4eee1

詳細はそちらを読んでいただければと存じますが、「まん延防止等重点措置」は「プチ緊急事態宣言」「ミニ緊急事態宣言」と言える中身です。実態面としては、現行の宣言より制限を強化する部分もあります。私権制限が今以上に容易となり、その状態は長期化する懸念があるわけです。自由や私権を重視する立場としては、危なっかしい立法というほかなく、大変残念です。

法改正で可能になる罰則の対象としては、入院拒否や時短要請拒否が報じられていますが、罰則対象は政令で追加することができます。朝日新聞の記事「手指消毒できない店に過料も 特措法政令案の概要公表」を読んで、気になったので調べてみました。

罰則対象として追加される政令の内容を検討してみます。政府が意見募集(パブリックコメント)でしれっと公開した政令案を見ると、「まん延防止等重点措置」で必要な措置として、以下が列挙されています。



これらはコロナ対策として広く行われていますが、これまでとの大きな違いは、以上の措置を講じない場合に、罰則の対象となり得るという点です。

罰則対象追加事項の最後の「当該措置を講じない者の入場禁止」とは前段の「マスク着用等」にかかっていると解釈できます。つまり、マスク非着用者等の入場を禁止しない事業者には、過料を科せるということです。マスク着用は従来、呼びかけにとどまっていましたが、これからはお店に入る際のドレスコード、いわば「制服」になるわけです。私は行き過ぎだと捉えます。

過料は行政罰であり、知事の権限です。法律の使い勝手を良くして知事の権限を強化することは地方分権の主旨にはそぐうかもしれませんが、コロナ禍をめぐっては、私権制限に対する恐れを知らない知事が散見されます。

この1年間、「コロナ対策」を錦の御旗として、私権や自由だけでなく法の支配、財政民主主義、議会制民主主義などが大きく損なわれてきました。「新たな日常」は「新たな異常」の始まりだと言っても過言ではありません。息苦しい社会は一体いつまで続くのでしょうか。

なお、罰則事項の追加は国民生活に関わる極めて重要なテーマですが、パブコメの期間は7日までです。政令案公表からわずか3日間しかありません。しかも郵送の場合でも7日必着です。多くの国民は間に合いません。

政府としては、13日の改正法施行に間に合わせるため急ぎたい事情はあるのかもしれません。ですが、後に「罰則追加について国民から大きな異論や反論はなかった」というアリバイを作るためのパブコメにどうしても見えてしまいます。パブコメの手続きは形式的には存在していても、その実質を大きく損なっていると言えるでしょう。


・【検証コロナ禍】新設される「まん延防止等重点措置」の本質は「ミニ緊急事態宣言」 しかも現行法より制限強化

楊井 人文

2021/02/01

※政府が提出した新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正案が、立憲民主党との修正合意(1月28日)を経て、今日2月1日に衆議院で可決、参議院に送られ、3日にも成立する見通しと報じられている。

新設される「まん延防止等重点措置」は、国民の権利制限という面でみると「緊急事態措置」と実質的な違いがほとんどなく、その本質は「ミニ緊急事態宣言」である。
 
しかも、この「ミニ緊急事態宣言」は、現行法の緊急事態宣言より強力な制限を伴う。今後、緊急事態宣言が解除されても、事実上、緊急事態宣言下と同じ状況が続くことになる。
 
このことは、修正合意でも何ら変わっていない。

以下では「まん延防止等重点措置」という(官僚が目くらましのために編み出したのであろう)分かりにくい名称を、時々「ミニ緊急事態宣言」と置き換えることがある。理由もきちんと説明するので、ご理解いただきたい。

「ミニ緊急事態宣言」でも罰則が導入され、従来の適法行為が違法化される
 
最も重要なポイントは、事業者に対する休業・時短要請に関する罰則規定が、法改正で「緊急事態措置」だけでなく「まん延防止等重点措置」にも設けられる、という点だ。

両者の違いを分かりやすく整理すると、次のようになる。



改正後の「新たな緊急事態宣言」と「まん延防止等重点措置」は、ほとんど違いがないことがわかるだろう。
 
従来の「要請」に従わなくても合法的に営業できる状態が消滅し、過料が科される可能性のある違法行為となる点では、緊急事態宣言もまん延防止等重点措置も全く同じでなる。
 
まん延防止等重点措置を「ミニ緊急事態宣言」と名付けるほかないゆえんだ。

修正合意で、過料の上限が緊急事態宣言で30万円(元は50万円)、まん延防止等重点措置で20万円(元は30万円)となったが、そんな違いははっきり言って全く無意味だ。
 
唯一、違いがあるとすれば、緊急事態措置で可能な「施設の使用制限・停止」等の要請(命令)が、「まん延防止等重点措置」の規定には明記されていない点である。
 
明記されていないということは、そのような権限を付与してしないと理解するのが普通である。
 
だが、事はそう単純ではない。

「ミニ緊急事態宣言」下の知事への授権範囲が不明確
 
実は、法律上、知事がどこまで事業活動や人々の行動を制限できるかについて明確に書かれていない。
 
現行の特措法では、緊急事態宣言下で知事が要請できることを、次のように定めている。

特定都道府県知事は、(・・・)当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。(45条2項)
 
法律ではなく、政府が一方的に内容を変更できる「政令」で制限できる措置の内容を決められることになっている。
 
この条文は、改正法でもほとんど変更されない。

問題は、改正で新設される「まん延防止等重点措置」の規定である。次のようになっている。

都道府県知事は、(・・・)営業時間の変更その他国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある重点区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するために必要な措置として政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。(改正法31条の6第1項)
 
規定の仕方の違いがわかるであろうか。
 
緊急事態措置の条文では、「施設使用または催物開催の制限・停止」と具体例を挙げた後すぐに「その他政令で定める措置」と規定している。
 
他方、まん延防止等重点措置の条文では、具体例として「営業時間の変更」を挙げた後すぐに「その他政令で定める措置」と規定していない。
 
「営業時間の変更その他国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある重点区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するために必要な措置」の後に「政令で定める措置」と規定しているのである。

すなわち、改正法は、「営業時間の変更」(いわゆる時短要請)だけでなく、「まん延を防止するために必要な措置」という、いかようにでも拡大解釈できそうな漠然とした内容の権限を、政府が(国会の審議を仰がずに一方的に)政令で定めてよい、という内容になっているのだ。
 
もちろん、理屈上は、政令で定める内容は、法律が委任している範囲を超えてはならない。
 
だが、「法律が委任している範囲」が条文上、明確でないのだ。

法律が委任している範囲を解釈するにあたっては、特措法第1条の「国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるように」と第5条の「制限は…必要最小限でなければならない」というの趣旨を踏まなければならない、ということは何度強調しても強調しすぎることはない。

「休業要請」と「時短要請」の間に本質的な違いはあるのか
 
そもそも、改正法で、まん延防止等重点措置で要請(命令)ができることと明記される「営業時間の変更」は、一見すると、緊急事態宣言で可能な「施設の使用停止」=「休業」より制限の程度が弱いと見えるが、果たしてそうだろうか。

現在、緊急事態宣言の対象地域では、飲食店の午後8時以降の営業自粛が要請されている(現行法ではあくまで要請であり、従わずに午後8時以降営業しても違法ではない)。
 
緊急事態宣言の解除後、まん延防止等重点措置に移行し、同様に午後8時以降の営業自粛が要請(命令)できるようになると、どうなるか。
 
午後8時以降の営業での売り上げが大半の店は、実質的に休業要請(命令)されているのと同じことになるのではないか。

2月1日の衆議院内閣委員会の質疑で、西村康稔コロナ担当相は、まん延防止等重点措置における知事の権限を定める政令に「休業要請」を含めることは「できない」と断定した(山尾志桜里議員の質問)。
 
政府として、緊急事態宣言でできることと、まん延防止等重点措置でできることには、質的な違いがあると強調しておきたかったのだろう。

国会答弁であるから重みはあるが、「まん延を防止するために必要な措置」という漠然とした文言になっているがゆえに「営業時間短縮」にとどまらない強い権限が付与される可能性は否定できない。
 
何より「営業時間短縮」=「休業」を意味する店が少なからずある、という点を見過ごすべきでない。

現在、要請に応じていては経営が成り立たないと考え、従わずに午後8時以降も営業している店もあるが、この法改正後に時短要請がなされれば「違法」となる。
 
時短要請に応じてもダメージが少ない事業者もあるだろうが、甚大なダメージを被る事業者もある。
 
にもかかわらず、要請に応じずに営業を続ける選択肢を奪われた事業者には、損失を補償を請求する権利は与えられない。
 
何らかの支援はするといっても、どの程度の支援を行うかは政府・自治体が政策的に判断することで、十分な補償が得られるとの「保証」はない。

特措法改正案は、「補償の保証」なき「強制力を伴う緊急事態措置/ミニ緊急事態措置」の創設を可能とするだけでない。
 
緊急事態措置/ミニ緊急事態措置を解除する「出口」の見通しが現在以上に見えづらくなり、この権利制限状態を長期化・慢性化させる危険がある。
 
そのことを次に明らかにしたい。 


・【検証コロナ禍】改正特措法 権利制限事態に法律上の歯止めなし

楊井 人文

2021/02/04
 
前回、改正特措法で新設される「まん延防止等重点措置」は緊急事態宣言と実質的に同じであり「ミニ緊急事態宣言」にほかならないことを明らかにした。
 
権利制限の内容は、政府が一方的に決められる政令に丸投げしている。しかもこの新たな「ミニ緊急事態宣言」はいつまでも続けることができ、発動・解除の基準もないため、法律上の歯止めがない。
 
コロナ禍で怯える世論の下、憲法が想定していない「非常事態体制」を創出し、その長期化、慢性化を許容する法律になっているのではないか。

ここで「非常事態体制」という言葉を使ったのは理由がある。

「緊急事態」とは、国民の生命・財産が脅かされるなど急迫した事態を指す。緊急事態だからと言って、従来の自由・権利を制限できるわけではない。そのためには別途、(特措法のような)法律が必要となる。

一方、「非常事態」とは、法律がなくても従来の自由・権利に制限をかけられる例外的状態を指す。非常事態条項は現行憲法にないため、改正論議に必ず出てくる論点である。
改正特措法は、その「非常事態」の創出を可能にした疑いがある。しかも、憲法の非常事態規定なら必要となるような歯止めが、この改正特措法には見当たらない。以下、それを検証することになる。

NHKのパネル図でも一目瞭然となった「ミニ緊急事態宣言」の導入
 
まず、NHKが改正特措法の内容を詳しく報じた際の3つのパネル図を見比べてほしい。ほとんど違いがないことが一目瞭然である。
 つまり、まん延防止等重点措置が緊急事態宣言と実質的に同じ「ミニ緊急事態宣言」であることが、このパネル図からもわかる。







改正特措法の施行でどうなるか
 
2回目の緊急事態宣言(1月8日〜2月7日)は、一部を除き10都府県で1ヶ月間延期の方針が確定している。
 
改正特措法が施行される2月13日からは、緊急事態宣言下の10都府県の知事に、休業・営業時間短縮などを強制できる権限(命令、違反すれば過料)が授権される。つまり、その日から今よりも強い権利制約を伴う「新・緊急事態宣言」に格上げとなる。

そして、いずれの日か緊急事態宣言が解除されても、「まん延防止等重点措置」に移行する可能性が高い。知事には引き続き、緊急事態宣言下とほぼ同様の、営業時間短縮などを強制できる権限が付与される。名称が変わるだけで、実質は何も変わらない。しかも、知事に授権される「命令」の範囲は、政府が決められる「政令」に委ねられている。
 
さらに、緊急事態宣言が実施されなかった地域(北海道や他県)も、他の地域とのバランスから、「まん延防止等重点措置」という名の強制力を伴うミニ緊急事態宣言に格上げされる可能性がある。

<改正特措法の施行でこう変わる>



「ミニ緊急事態宣言」の発動要件が曖昧
 
しかも、緊急事態宣言と比べて、新設された「まん延防止等重点措置」の発動要件は極めて曖昧になっている。政府の主観的判断に委ねてしまっていると言っても過言ではない。
 
緊急事態宣言は、発動の要件を次のように定めている(改正でも変わらない)。

新型インフルエンザ等(…)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(…)が発生したと認めるとき(第32条)
 
他方、新たな「まん延防止等重点措置」については、次のように定めている。

新型インフルエンザ等(…)が国内で発生し、特定の区域において、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある当該区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するため、新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要があるものとして政令で定める要件に該当する事態が発生したと認めるとき(第31条の4第1項)
 
非常にわかりにくい条文だが、いずれも最終的に、政府が一方的に定められる「政令」に委ねているとはいえ、ひとつ大きな違いがある。
 
緊急事態宣言は「全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがある」という客観的な要件があった。
 
他方、まん延防止等重点措置は、「まん延を防止する」という目的のために「まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要がある」と判断できれば可能となっている。特定地域のまん延状態の発生といった客観的な要件が明記されていない。言い換えれば、特定地域にまん延する前から「まん延防止のための集中的対策が必要」と判断さえすれば、実施できるように読める条文である(今後定められる政令でどのような要件が入るか、現時点で不明)。

裏を返せば、まん延防止等重点措置の解除は、政府が「まん延防止のための集中的対策が必要なくなった」と判断したときに行えばよいことになっており、解除基準は法律上、無きに等しい。
 
日本での「まん延防止のための対策が必要」とみられる状態が続く限り、論理的には「まん延の恐れ」が消滅する「ゼロコロナ」になるまで、権利制限の非常事態体制を継続することを許容する法律になっているのだ。

政府対策本部長は、第一項の規定による公示をした後、新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を実施する必要がなくなったと認めるときは、速やかに、同項に規定する事態が終了した旨を公示するものとする。(第31条の4第4項)

長期化の歯止めがない
 
もちろん、たとえ新型コロナの「まん延の恐れ」が残っていても、この強制的な権利制限を伴う非常事態体制を望まない世論が高まれば、政治的判断で解除することはあるかもしれない。
 
逆に言えば、解除せずそのまま続けてくれという世論が支配的である限り、法律上、権利制限を伴う緊急事態法制を継続できる、ということでもある。解除するかどうかは、全ては世論次第、政府のさじ加減次第となる。

しかも、強制力を伴う「ミニ緊急事態宣言」にもかかわらず、国会の承認決議は必要なく、従来の強制力を伴わない緊急事態宣言でさえ明文化されていた「国会の報告」も法律上明記されなかった。つまり、ミニ緊急事態宣言の発動に対する国会の歯止めは何もない。
 
さらに、従来の強制力を伴わない緊急事態宣言は最長2年、延長は最長1年であった。延長は1回だけできる。改正後の「新・緊急事態宣言」格上げ後も同じだ。
 
同じく実質的にミニ緊急事態宣言である「まん延防止等重点措置」は最長6ヶ月だが、何度でも最長6ヶ月の延長を繰り返せる規定となった。つまり、期間の歯止めが事実上なくなった。
 
この改正特措法で、日本社会はあと何ヶ月後か何年後かは知らないが、「ゼロコロナ」になるまで、知事がいつでも強制的に営業制限命令できる、私たちが置かれているのとは次元の異なる非常事態体制を敷くことを、政府及び知事に授権したのである。

政府対策本部長は、新型インフルエンザ等の発生の状況を勘案して(…)期間を延長し、又は(…)区域を変更することが必要であると認めるときは、更に六月を超えない範囲内において当該期間を延長する旨又は当該区域を変更する旨の公示をするものとする。当該延長に係る期間が経過した後において、これを更に延長しようとするときも、同様とする。(第31条の4第3項)
 
この改正特措法は、緊急事態時に例外的に権利制限を行うことを許容する自民党の憲法改正案でさえ明文化していた歯止めが、全く入っていない。

新型インフルエンザ等対策特別措置法の政府改正案が閣議決定され、法案が国会に提出されたのは、1月22日。
 
自民党と立憲民主党が、過料を減額するだけでそれ以外に修正を加えない「密室合意」をしたのが、1月28日(冒頭写真)。
 
29日に審議入りし、実質審議2日で、与野党提出の修正法案(議員立法)を衆議院で可決したのが、2月1日(自民・公明・維新・立憲が賛成。国民・社民・共産が反対)。
 
修正された条文案が公開されたのは2月1日夜。
 
参議院で可決、成立したのが、2月3日であった。


・【検証コロナ禍】自民党改憲案の緊急事態条項にも国会承認を明記 改正特措法は国会関与なく規制権限拡大も

楊井 人文

2021/02/06

コロナ禍に迅速に対応するという名目で実質2日間のスピード審議で成立し、2月13日に施行される新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案(以下、改正特措法)。緊急事態だけでなく、緊急事態前でも、知事による権利制限を可能とする規定が盛り込まれ、その内容を、国会が関与しない政令で決められるようになっている。
 
緊急時に政令による権利制限を行う際に国会承認を義務づけていた自民党憲法改正案と比較してみると、その異常さが浮き彫りとなる。政府に国民の権利制限の内容を委任してしまう法律というのは、これまでに無かったのではないか。

自民改憲案では緊急事態宣言の発動、政令の制定いずれも国会の承認を明文化
 
まず、自民党の憲法改正草案(2012年4月発表)を見てみよう。
 
戦争や大規模自然災害を想定した「緊急事態条項」は、「緊急事態宣言を発するとき」と「政令を制定するとき」の両方に、国会の承認決議を明記していた。

(緊急事態の宣言)

第九十八条
 
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。

2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
 
しかも、国会の不承認決議、もしくは解除決議があれば、政府に緊急事態宣言を解除すべき憲法上の義務が発生すること、緊急事態宣言を100日を超えて継続するときは、その都度、国会の承認が必要となることも盛り込まれていた。

3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
 
緊急事態宣言の発令時には、政府に政令を制定できる権限(いわゆる緊急政令)、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他処分を行う権限が与えられるが、いずれも事後に「国会の承認」が必要とされていた。

(緊急事態の宣言の効果)

第九十九条

緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。

2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
 
緊急政令について国会の承認が得られなかった場合の規定はないが、Q&Aは「緊急政令は、承認が得られなければ直ちに廃止しなければなりません」と解説している。
 
こうしてみると、自民党の改憲案は、緊急時の人権制約を伴う政令(緊急政令)は、憲法上の「緊急事態宣言」によって初めて認められるもので、しかも、国会の承認なくして緊急事態宣言も緊急政令も続けられないという考え方に立っていることがわかる。
 
裏を返せば、政府が緊急事態宣言により緊急政令を制定する権能は、憲法上の根拠と国会承認なくして与えられない、という憲法理解を前提としていると考えられるのではないだろうか。

他の緊急事態法制とも比較してみると
 
自民党改憲案のQ&Aでも解説されているように、現在、特措法以外にも緊急事態法制は存在する。
 
災害対策基本法、国民保護法(武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律)、原子力災害対策特別措置法である。

災害対策基本法は、内閣総理大臣が災害緊急事態を布告したときで、不足している生活必需物資の譲渡禁止など、一定の事項について政令で措置と罰則を定めることができるとの規定がある(109条)。
 
だが、政令に委任している事項は、具体的に限定列挙されている。
 
しかも、あくまで「国の経済の秩序を維持し、及び公共の福祉を確保するため緊急の必要がある場合において、国会が閉会中又は衆議院が解散中であり、かつ、臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求めてその措置をまついとまがないとき」という極めて例外的な状況にのみ認められ、政令制定後直ちに国会を召集し、法制化もしくは国会承認することを求めている。

政令による規制拡大リスクが残る特措法の曖昧規定
 
ところが、新型コロナ対策のための改正特措法は、緊急事態宣言を発動していない時(まん延防止等緊急事態措置=ミニ緊急事態宣言)でも、政令で規制できる内容を決められる権限を政府に与え、それに関して国会の承認も国会の報告も要求していない。
 
緊急事態宣言の発動の場合のみ、国会の報告が必要とされているが、「国会の承認」とは似て非なるもので、セレモニーに過ぎない。
 
政令に関する国会の承認・報告は必要とされていない。

改正特措法が、自民党改憲案の「緊急政令」と同様に人権制約を可能とする規制権限を政府に与えてしまっているとすれば、憲法上の疑義が濃厚となるのではないか。
 
そこで、改めて、実際の規定ぶりを確認してみよう。
 
緊急事態宣言発動前(解除後)に行うことができる「まん延防止等重点措置」では、次のようになっている。

都道府県知事は、(・・・)営業時間の変更その他国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある重点区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するために必要な措置として政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。(改正特措法第31条の6第1項)

第一項の規定による要請を受けた者が正当な理由がないのに当該要請に応じないときは、都道府県知事は、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある重点区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するため特に必要があると認めるときに限り、当該者に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを命ずることができる。(同第3項)
第三十一条の六第三項の規定による命令に違反した場合 には、当該違反行為をした者は、三十万円以下の過料に処する。(同第80条)
 
これを読み解くと、知事には次の2つの事項について、要請し、要請に従わなければ命令し、命令に違反したら過料に処する権限が与えられていることがわかる。

(1)営業時間の変更
 
(2)その他国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある重点区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するために必要な措置として政令で定める措置

問題は(2)だ。
 
「まん延を防止するために必要な措置」という非常に曖昧な規定では、例えば、ある業態の事業者については、営業時間の短縮だけで感染リスクを軽減できるとは限らないから、全面休業、あるいは施設の使用禁止といった措置を政令で定め、それを要請・命令する権限を知事に与えることも、文言上は可能になってしまうのではないか。

国会審議では「まん延を防止するために必要な措置」に休業は含まれるのかどうか不明なことから、2月1日の衆議院内閣委員会で山尾志桜里議員が問いただしたところ、西村康稔・コロナ担当相は「できない」と明言した。
 
国会答弁は重みがあるとはいえ、(2)の措置の限界が明確になったわけではない。

制定予定の政令内容とは
 
本日(2月6日)現在、政令はまだ制定されていないが、パブリックコメントで政府原案が出ている。
 
それによると「まん延を防止するために必要な措置」に盛り込まれる内容として、次のようなものが列挙されている。

・従業員に対する検査受診の勧奨
・入場者の整理等
・発熱等の症状を呈している者の入場の禁止
・手指の消毒設備の設置
・施設の消毒等
・入場者に対するマスクの着用等の感染の防止に関する措置の周知
・当該措置を講じない者の入場の禁止

一見して、比較的穏当なもの、感染防止策として甘受し得るものが並んでいるように見える。
 
だが、どのような運用になるかは権限を行使する知事に委ねられている面もあり、未知数だ。
 
例えば、マスクをしない人の入場を禁止する措置(の要請・命令)がとられた場合、それに違反した事業者が違法となる可能性がある。
 
そうなると、政令で、法律で定めていない新たな罰則を作ったも同然である。
 
しかも、最初の政令の内容がこうであっても、法律と異なり、いつでも書き換え可能(新たな罰則を作れる)という点にも留意しておかなければならない。

緊急事態宣言下で、国会での実質審議わずか2日で慌ただしく成立させた特措法は、法律上明記された営業時間の変更だけでなく、その他の権利制限の内容も、国会の関与なく政府が一方的に定められる政令で定めることができるようになってしまっている。
 
これは、緊急事態宣言・緊急政令に必ず国会承認を必要とすることで政府の権限に歯止めをかけていた自民党の憲法改正案の考え方ともかけ離れており、行政府をチェックすることで権限濫用を防ぐ国会の役割を放棄していることにならないだろうか。


・「一線越えた」改正特措法、歯止めなく「ゼロコロナ」まで営業制限も…弁護士が警鐘(弁護士ドットコム 2021年2月5日)

※新型コロナウイルス対策として進められていた新型インフルエンザ対策特別措置法(特措法)と感染症法の改正案が成立し、2月13日から施行される。

改正特措法では、緊急事態宣言を発令する前でも、実効的な対策を講じられるようにするため、「まん延防止等重点措置」が新設されたことが目を引く。

この措置の下で、都道府県知事は、事業者に対して、営業時間の変更などを命令できるようになる。違反すれば20万円以下の過料となる。また、命令に伴う立ち入り検査も可能となり、拒んだ場合は20万円以下の過料となる。

今回の改正法は1月29日の審議入りから、わずかな期間で成立したが、まん延防止等重点措置については、緊急事態宣言をしなくても権利を制限できる点を懸念する声もある。危機感をあらわにする楊井人文弁護士に聞いた。

●まん延防止等重点措置は「ミニ緊急事態宣言」

――2月3日、改正特措法などがスピード成立しました。

歴史的な日になるかもしれません。ついに一線を越えてしまいました。

――どのような「一線」を越えてしまったのですか。

新設された「まん延防止等重点措置」は、国民の権利制限という面でみると、「緊急事態措置」と実質的な違いがほとんどがありません。その本質は「ミニ緊急事態宣言」です。

たとえば、緊急事態宣言下で出された営業時間の変更命令に違反した場合、「30万円以下の過料」となりますが、まん延防止等重点措置下で同じ違反した場合、「20万円以下の過料」となります。

立ち入り検査を拒否した場合にいたっては、緊急事態宣言下でもまん延防止等重点措置下でも、どちらも同じ「20万円以下の過料」です。

つまり、過料の上限額が違うだけで、従来の「要請」に従わなくても合法的に営業できる状態がなくなり、過料が課せられる可能性のある行為となる点では、緊急事態宣言もまん延防止等重点措置もまったく同じといえます。

そして、その「ミニ緊急事態宣言」の発動要件が極めてあいまいで、政府の主観的判断に委ねてしまっているといっても過言でない点が非常に問題です。

●「まん延防止等重点措置の解除基準、なきに等しい」

――まん延防止等重点措置の発動要件について、改正特措法はどのように定めていますか。

改正特措法は、緊急事態宣言およびまん延防止等重点措置の発動要件について、次のように定めています。

【緊急事態宣言】新型インフルエンザ等(…)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(…)が発生したと認めるとき(特措法32条)

【まん延防止等重点措置】新型インフルエンザ等(…)が国内で発生し、特定の区域において、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある当該区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するため、新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要があるものとして政令で定める要件に該当する事態が発生したと認めるとき(特措法31条の4第1項)

いずれの要件についても、最終的には政府が一方的に定める「政令」に委ねられていますが、大きな違いが1つあります。

緊急事態宣言には「全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがある」という客観的な要件があります。

ところが、まん延防止等重点措置には、「まん延を防止する」という目的のために「まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要がある」と判断できれば、発動が可能となっており、「特定地域のまん延状態の発生」といった客観的な要件が明記されていません。

――具体的にはどのように違ってくるのでしょうか。

現時点では、今後定められる政令でどのような要件が入るか不明ですが、この規定だと、特定地域にまん延する前から「まん延防止のための集中的対策が必要」と判断さえすれば、実施できるように読めます。

裏を返せば、まん延防止等重点措置の解除は、政府が「まん延防止のための集中的対策が必要なくなった」と判断したときにおこなえばよいことになっており、解除基準は法律上、なきに等しい状態といえます。

日本での「まん延防止のための対策が必要」とみられる状態が続く限り、論理的には「まん延のおそれ」が消滅する「ゼロコロナ」になるまで、国民の権利を制限する緊急事態体制を継続することを許容する法律になっています。

【まん延防止等重点措置の終了】政府対策本部長は、第一項の規定による公示をした後、新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を実施する必要がなくなったと認めるときは、速やかに、同項に規定する事態が終了した旨を公示するものとする。(31条の4第4項)

●歯止めの効かない緊急事態体制になるおそれ

――恣意的な運用が懸念されるということですね。

もちろん、たとえ新型コロナの「まん延のおそれ」が残っていても、この強制的な権利制限を伴う緊急事態体制を望まない世論が高まれば、政治的判断で解除することはあるかもしれません。

しかし、逆に言えば、「解除せずそのまま続けてくれ」という世論が支配的である限り、法律上、権利制限を伴う緊急事態体制を継続できるということでもあります。解除するかどうかは、すべては世論次第、政府のさじ加減次第となるわけです。

まん延防止等重点措置下では、「違反すれば罰則」という強制力の伴う命令ができるにもかかわらず、国会の承認決議は必要なく、従来の強制力をともなわない緊急事態宣言でさえ明文化されていた「国会の報告」も法律上明記されませんでした。

つまり、まん延防止等重点措置の発動に対する国会の歯止めは何もない状態です。

さらに、まん延防止等重点措置は「最長6カ月」ですが、何度でも「最長6カ月」の延長を繰り返せます。最長2年、延長は1回だけ最長1年の緊急事態宣言と比べて、期間の歯止めも事実上ありません。

強制力がない改正前の特措法にさえあった歯止めも取っ払われたのです。

●法律家として「警鐘を鳴らし続ける」

――今後について、どのように考えていますか。

この改正特措法により、日本社会は、何カ月後か、何年後かもわからない「ゼロコロナ」になるまで、知事がいつでも強制的に営業制限命令できるという、今までわれわれが経験したのとは次元の異なる緊急事態体制下に入ることになります。

私は、法律家の端くれとして「本当にこれでいいんですか?」と立場を顧みずに、有志とともに警鐘を鳴らしてきました。この流れを止められるとは思っていませんでしたが、やはり忸怩たる思いです。

「あのときなんでパパは黙っていたの、なんでこんな社会を作ったの」と言われないように、今後も濫用されることがないかチェックしつつ、きちんとしたチェック&バランスの歯止め、補償規定を盛り込んだ抜本的な法改正に向けて、有志とともに提言していきたいと思います。


・アクリル板不設置で罰則も 国会の関与なく知事の命令範囲拡大 パブコメも省略(YAHOO!ニュース 2021年4月4日)

楊井人文 | 弁護士

※大阪府などでまん延防止等重点措置を実施するのに先立ち、知事がアクリル板設置などの対策を事業者に要請・命令できるよう、厚生労働省が4月1日に告示を改正していたことがわかった。

官報に掲載されていたが、報道発表はなく、事前に案を示して国民の意見を聴くパブリックコメントも省略されていた。田村憲久厚労相が「命令・罰則範囲の拡大」という重要な決定を、国民に事前に知らせず行ったことになる。

先月にも、国会で議論されていなかった「マスク非着用者の入場禁止」などの措置を政令で追加したばかり。新型コロナ対策の名のもとに、国会の関与なく、国民に十分周知されない間に、命令・罰則範囲が拡大しつつある。緊急事態宣言の最中に成立した改正特措法の危うさが、改めて浮き彫りになった形だ。


国会関与なく命令対象が徐々に拡大
 
2月初めに成立した改正特措法は、国会の関与なく政府の判断で命令・罰則の対象を広げることを可能とする法律だ。

緊急事態宣言や新設された「重点措置」で知事が事業者に命令できる対策を「営業時間の短縮」のほかに、政令で追加できる規定が置かれたからだ。

政府はこの規定を使って、改正特措法の施行と同時に政令を改正し、「マスク非着用者の入場禁止」など7項目を命令・罰則の対象に追加した(詳しくは既報=マスク非着用者の入場を許したら罰則? 国会関与なく罰則新設できる"新型コロナ"改正特措法の欠陥も参照)。

この政令改正のパブリックコメント(以下「パブコメ」)は3日間と大幅に短縮された上、告示で新たな措置を追加できる規定も盛り込まれた。これにより、閣議決定なしに厚労相の判断で命令・罰則の範囲を広げることが可能になった。


大阪府など 付与された権限をフル活用の方針
 
田村厚労相は今回、この規定に基づく告示で、次のような措置を知事が要請、命令できる権限を認めた(官報)。

(1) 当該者が事業を行う場所の換気

(2) 入場をする者等の会話等により飛散する飛沫を遮ることのできる板その他それに類するものの設置

(3) 入場をする者等相互の適切な距離の確保 その他の入場をする者等の会話等により飛散する飛沫による新型コロナウイルス感染症の感染の防止に効果のある措置

(注)厚生労働省告示第169号。わかりやすくするため箇条書きにし、括弧書きを省略した。なお、「施設の換気」は改正前の告示にもあり、表現が若干変更されたものの、追加は実質的に(2)(3)の2項目。事務連絡も参照のこと。

このうち(2)は「アクリル板の設置」を指している(政府の説明資料)。

一見すると事業者の負担はさほど大きくないように見えるが、空間的にゆとりがなく難しい対応が迫られる店も出てくるとみられる(NHK参照)。

大阪府、兵庫県、宮城県は、4月5日から実施される重点措置期間中、時短要請やマスク非着用者の入場禁止、アクリル板設置など、知事に付与された10項目の措置全てを飲食店事業者に適用する方針を示した。

大阪府の吉村洋文知事は、政令に明確な規定はないが、マスクをつけたまま食事をする「マスク会食」の周知や、それに応じない客を退させる措置を事業者に要請する考えだ。




(上)まん延防止等重点措置の期間中、飲食店などの事業者に要請する事項。大阪府ホームページより


措置追加の事前周知、報道発表なし
 
今回の「アクリル板設置」などの措置を追加する告示改正では、行政手続法が義務付けている事前公表・パブコメの手続きが省略されていたことも判明した。

行政手続法は、政令などを定める際、事前に案を示して原則30日間のパブコメ期間を設けることを行政機関に義務づけているが、例外的に免除できる規定もある。

厚労省はこの規定を使い、「公益上、緊急に命令等を定める必要があるため、意見公募手続を実施することが困難」だったと説明している。

田村厚労相は、大阪府の吉村知事からの要望を受け、急きょ告示で措置を追加した可能性がある。

ただ、4月2日の厚労相定例会見では、前日行った告示についての言及がなかった。今のところ、報道発表も行われていないようだ(会見録は後日掲載見込み)。

調べた限り、政府が国民に対してこの罰則の新設を公表したのは、官報以外では、西村康稔コロナ担当相が3日に公表した啓発動画が初めてではないかとみられる。

この中に、アクリル板設置も命令対象に追加したとする説明資料が掲載されていた。


・緊急事態宣言解除後も居酒屋・カラオケ店の営業停止可能に 告示で知事の権限拡大 国会答弁と矛盾(YAHOO!ニュース2021年4月25日)

楊井人文 | 弁護士
 
※緊急事態宣言中だけでなく、まん延防止等重点措置(以下「重点措置」)でも、知事が酒類提供やカラオケ機器使用を禁止する命令を出せるよう、厚生労働省が4月23日、告示を改正していたことが判明した。

これにより、居酒屋とカラオケ店は、緊急事態宣言解除後も、重点措置に移行した場合、営業停止に追い込まれるおそれがある。政府は特措法改正の国会審議で、重点措置では営業停止を行わないと答弁していたが、それとの整合性も問われる問題だ。

告示は官報で発表されたが、事前に国民の意見を聴くパブリックコメントや報道発表はなかった。田村憲久厚労相が権利制限の範囲を拡大する告示を事前の周知なく行ったのは、4月1日に続いて2度目。

特措法には、2月の改正で、知事の命令権限を政令で拡大することを可能とする条文が盛り込まれた。政府はこれを活用して、国会の議論や国民への説明をしないまま、「新型コロナ対策」の名のもとに次々と措置を追加している。

今回の追加措置で、改正特措法の危険性がいよいよ現実化した形だ。




(上)知事の要請・命令権限を拡大する告示が掲載された官報(4月23日特別号外)


まん延防止措置でも酒類提供・カラオケ営業の中止命令可能に
 
今回、新たに追加された措置は、以下の2つだ(官報)。

・入場者等の歌唱その他の飛沫まつの飛散を伴う行為の用に供する設備、機器又は装置の使用の停止

・入場者等に対する酒類の提供の停止

「営業停止」という表現はないが、カラオケ店、酒類提供が欠かせない居酒屋などに対する営業停止の要請・命令を事実上認める内容となっている。

告示では、これと同じ措置が、緊急事態措置だけでなく、まん延防止等重点措置でも実施できるよう改正された。

実際、神奈川県は、さっそく4月28日から、重点措置の適用地域を3市から8市に拡大するとともに、「酒類提供の終日停止」「カラオケ設備使用の終日停止」を特措法31条の6に基づいて要請すると発表している。

要請段階では従う法的義務はない。だが、知事は、要請に応じない事業者に対しては感染防止のため「特に必要と認められるとき」に限り、一定の手続きを踏んで命令を出すことができる(命令違反は過料)。


事前公表も省略して即日改正
 
東京都などでは今日から緊急事態宣言が実施される。解除後に重点措置に移行する可能性が取り沙汰されている(一時期「下りマンボウ」と呼ばれていた措置。政府資料参照)。

行政法実務に詳しい水野泰孝弁護士は「緊急事態宣言解除後に重点措置に移行した場合には、居酒屋とカラオケ店は引き続き営業停止に追い込まれる可能性が十分にある」と指摘している。

だが、今回の告示は、行政手続法が義務付けている事前公表・パブリックコメント(国民の意見聴取)の手続きが省略されていたことも判明した。

厚生労働省は、「公益上、緊急に命令等を定める必要があるため、意見公募手続を実施することが困難」だったと説明。

これについて、前出の水野弁護士は「緊急性があるとの理屈であるとはいえ、パブコメの実施すらなされていないことは、措置の適法性に疑問を生じさせる事情となり得る」と指摘している。

厚労省は、4月1日にも同じ理由で事前公表をせず「アクリル板設置」などの措置を命令できるよう、告示改正を行っていた。

いずれの告示改正も、厚労省により報道発表された形跡はなく、メディアも報道していない。


西村大臣「休業要請は考えていない」と答弁
 
今回の新たな措置追加は、政府の国会答弁とも矛盾している。

西村康稔経済再生担当相は特措法改正案の国会審議で、重点措置では休業要請は考えていないし、政令改正でもできないと答弁していた。

山尾志桜里議員  端的に伺います。政令を改正してまん延防止措置で休業要請をかけることは法的に可能ですか。

西村大臣  営業時間の変更よりも私権の制限を小さいものを考えておりますので、休業要請は考えておりません。

山尾議員  質問にお答えになっていないんですね。私が言ったのは、政令を改正して休業要請をかけることは今回の法制度上可能か不可能かと聞いています。考えているかどうかではないです。

西村大臣  代表的に挙げている例が営業時間の変更でありますので、それはできないというふうに考えております。

山尾議員  そうすると、政令の改正の限界を超えるということですね。休業要請をかけることは、政令を改正してもまん延防止措置ではできないということを明確にしていただいたと。もう一回確認させてください。

西村大臣  そのとおりであります。

(衆議院内閣委員会 2021年2月1日)

今回の追加措置について、山尾議員は筆者の取材に対し「酒類提供の停止は、居酒屋・バーにとって実質的に営業停止。時短要請より厳しいことが明らかだ。国会答弁との整合性がとれない。政令で罰則を際限なく作れる特措法は問題だ」と話している。

改正特措法は緊急事態宣言発令の最中、自民党と立憲民主党の異例の密室修正協議を経て、2月3日に成立、13日施行された。

筆者は、改正特措法の危険性について繰り返し警鐘を鳴らしてきた。

しかし、国会の関与なく、政令で次々と措置を拡大できる問題や、事前手続きなく告示で追加した経緯について、今日現在、主要メディアは全く報道していない。

楊井人文

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年4月、マスコミ誤報検証・報道被害救済サイト「GoHoo」を立ち上げ、一般社団法人日本報道検証機構を設立。2017年6月、「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)を旗揚げし、事務局長。2019年10月〜2021年2月までインファクト(InFact)のファクトチェック担当編集長。2018年4月、共著『ファクトチェックとは何か』を出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。早稲田大学次世代ジャーナリズム・メディア研究所招聘研究員、インターネットメディア協会(JIMA)監事。


一方、本家のドイツでは・・・

以下「In Deep」様より転載

https://indeep.jp/past-germans-are-back-now/

・ドイツ人が帰ってきた!

C. J. ホプキンス - ドイツ在住アメリカ人

2020/11/22

※ドイツ人が戻ってきました。

それは、暖かく、曖昧で、小柄で、平和を愛する、戦後のドイツ人のことではありません…。

2020年11月18日、ドイツの議会はいわゆる「感染保護法」(ドイツ語で「Das Infektionsschutzgesetz」)と呼ばれる法律を可決しました。

これは、この法律の基本である「公衆衛生の保護」のためなら、すべての権限をドイツ政府に付与するものです。

これまでもドイツ政府は以下のようなことを行ってきました - - ロックダウン、夜間外出禁止令、旅行の禁止、デモの禁止、家や企業への急襲、医療用マスクの着用の命令、マスク着用反対者への嫌がらせや逮捕など。

しかしこれまでは、そのようなことは合法ではなかったのですが、今は連邦議会によって、それらが「合法化」されました。法律として祀られているのです。

議会を通じて決定された、この「感染保護法」を、ドイツで 1933年に制定された法律「全権委任法」と比較することは、いかなる方法でもできません。しかし、全権委任法はあらゆる権限が政府に付与された点で、私はこの感染保護法と全権委任法が非常に似ているように響きます。

今回、感染保護法が合法化された後には、何万人もの反全体主義の抗議者たちがドイツの通りに集まり、多くがドイツ連邦憲法(ドイツ議会が廃止したばかりの憲法)のコピーを持っていました。

しかし、抗議者の多くはマスクを着用していなかったので「違法のデモ」と見なされ、何千人もの機動隊によって打ちのめされ、数百人が逮捕されました。また、多くが放水車で水を撒かれていました。

ドイツのメディアは、ナチス時代のゲッベルスの宣伝省とはまったく異なり、完全に客観的でしたが、これらの抗議者をすべて「コロナ否定派」、あるいは「極右過激派」「陰謀理論家」、「反ワクチン派」、「ネオナチ」であると国民に報道していました。

ドイツ政府、ドイツのメディア、インテリ、そして基本的にはそこに留まりたいと願う役人たちの誰もが、これらの「コロナ否定派」が問題になりつつあると認識しています。

「コロナ否定派」たちは、公衆衛生を脅かし、ドイツ国民に苦痛を与えている根拠のない「陰謀説」を広めているとされています(たとえば、コロナに感染した人々の大多数は、軽度から中等度のインフルエンザ的症状しかないか、より一般的にはまったく症状がなく、感染しても 99.7%以上が生き残る、などの「事実」を広めています)。

「コロナ否定派」たちは、マスクなしで歩き回っています。彼らは、終末論的な感染症に襲われていることを国民に納得させるためのドイツ政府とメディアの努力を嘲笑しているとされています。

彼らはインターネット上で科学的事実を投稿し続けてもいます。

彼らはこれらの抗議デモを行うことで、「健康緊急事態」を宣言し、ドイツ憲法を無期限に停止し、法令と力によって社会を支配する、ドイツ政府の権利に、異議を唱えているのです。政府とメディアは彼らを「国民の敵」と見なしています。

しかし、このようなドイツ政府とメディアの努力にもかかわらず、「コロナ否定論」運動はドイツだけでなくヨーロッパ全体で成長しています。

明らかに、ドイツがこの脅威に対してより強力な対策を講じる時が来ています。

この「感染防止法」は、何らかの解決策を考案して、それを実行するために必要な権限をドイツ政府に提供します。これら「コロナ否定派」の退化した反社会的逸脱者たちがドイツ政府の絶対的な権力に挑戦することを許可しません。

今や、「コロナ否定派は、ナチスに共感する者」とされており、それは根絶され、容赦なく対処されなければならないものなっているのです。

詳細はわかりませんが、「コロナ否定派問題」に効率的に対処するために、なんらかの特別な実行措置機関が設置されていると思われます。そして明らかにすでに措置が講じられています。

今年 4月には、有名な反体制派の女性ドイツ人弁護士が精神科病棟に強制的に拘束されました。

また、重武装の警察たちが、コロナ否定派 YouTuber を逮捕しています。これについてドイツ当局は詳細を発表しておらず、主流メディアもまたそれを報告していないため、正確なことはわかりません。

私はドイツ人が大好きで、私はドイツに住んでいます。

けれども、この新しい病的な全体主義を実行しているのは政府とメディアだけではありません。一般のドイツ人たちもそうなのです。

このドイツの歴史の中で、ドイツが再び全体主義国家に変貌し、警察がマスクの不着用者を追い詰めている光景を見るのはかなり憂鬱であり、少し恐ろしいことでもあります。

街頭、レストラン、バー、そして家庭を警察たちが襲撃しています。

ここでは、善良なドイツ市民が、散歩や買い物で「社会的距離のルール」に違反していないかどうかを確認するために、市民たちはヨガスタジオの窓さえも覗き込んでいます。

食料品店で、私がマスクを着用していないことに腹を立てた人に、敵対的な視線で睨みつけられ、または、口頭で非難するドイツ人に囲まれることもあります。

「マスクは義務だ!」と。

はい、私はそれが「義務」であることを十分に承知しています。

それが「義務」であるかどうか疑問がある場合のために、ベルリンの上院議員は、以下の魅力的な広告を出稿しました。



私は決して、これらのドイツ人を「ナチス」とは呼びません。それでも、私は、彼らを「全体主義者」と呼びます。このコロナウイルスによって私たちが受けている、まったくばかげた「緊急措置」を正当化するふりをしているのは、政府と共に市民でもあるのです。

これはカルト、全体主義のように機能しています。

それは、あなたがた市民に少しずつ少しずつ嘘をつき、合理化によって市民たちが全世界を作り直すという使命を帯びた「小さな自己陶酔的なニヒリスト」から、命令を受けていることに気付くまで続きます。

一気にすべてが変わるのではありません。数週間から数ヶ月の間にそれがなされていきます。

そして、それがいつの間にか、あなたたち市民の現実になります。

詳細やシンボルは変わっても、全体主義は全体主義です。

それがどのようなユニフォームを着ているか、または、どんな言語を話しているかということは実際には問題ではありません。

それは偶像であり、人間の傲慢さの模造品であり、大衆の心の粘土から彼らが制御できないものを根絶したい巨大な精神的不自由によって形成されています。

そして、彼らがコントロールしたいのは常に「すべて」です。

私。社会。世界。笑い。愛すること。名誉。信仰。過去。未来。生活。死。それらに従わないすべて。

残念ながら、この種のことが始まり、それが現在私たちが経験している段階にまで達すると、多くの場合、都市が廃墟になるか、大地に人間の頭蓋骨が散らばるまで、それは止まりません。

そこにたどり着くまでに 10年や 12年などかかるかもしれませんが、間違いなく、私たちが向かっているのは全体主義が常に向かっている「場所」です。

信じられないなら、ドイツ人たちに聞いてください。