オール電化やタワマンを見れば分かる EV一辺倒に傾くことの愚かさとリスク(ITmediaニュースONLINE 2021年2月1日)
高根英幸
※クルマの電動化に関する議論が過熱している。欧州や北米、中国での純エンジン車販売規制によって、従来のCAFE規制(企業内平均燃費規制=企業ごとに販売車の平均燃費を規制する法律)をクリアするためのEV導入から、さらに進んだ電動化への具体策が求められているからだ。
実際、欧州や中国ではEVの販売比率が急速に高まっている。それに対し日本でも、日産や三菱に続いて、ホンダ、トヨタ、マツダがEVを出しているが、それらは販売目標も少なく、まだ現時点では飛躍的にEVの比率が高まるような気運は見られない。
そんな中、日本政府も2050年にカーボンニュートラル達成という政策の中で、クルマの電動化を進めて30年代半ばには100%の電動化を実現するという目標を掲げた。CAFE燃費の緩さ(欧州とは違い罰則はない)同様、回りを見て足並みをそろえた程度の印象でしかないが、電動化の中核にあるのがEVであることは間違いなさそうだ。
30年に純EVの販売比率はどれほどになるのか、それは50年にはほぼ100%になるのか。関心を持っている人の多くはそう考えることだろう。単純に考えれば、カーボンニュートラルにするにはEVに頼るしかないだろうからそんな意識になるのだろうが、一足飛びにEV比率を高めようというのは、まったく現実的ではない。
もうそろそろ理論上の話から、リアルな現実、そして近い将来の実現性について情報をキチンと分析した上で議論をすべき時だ。かなり長期的に見れば、クルマの動力源はモーターへと収束していくのかもしれないが、そのためには乗り越えなくてはならないハードルがいくつも存在するからだ。
ここで考えるのはモーターやインバーター、バッテリーの性能の話ではない。そんなことより根本的な問題が待ち構えているのである。
●EVを増やす前に用意しなければならないもの
クルマを電動化するということは、一定以上の車格では最低でもPHEV、それとEVにしなければならなくなる。
ハイブリッドでも燃費の向上は期待できるが、それは現在と比べてというレベルであり、カーボンニュートラルを目指す以上、ほぼ電力だけで走れるようにならなければ意味がない。
そもそもこれまで通りのクルマの移動を続けたとすると、どれだけ電力が必要になるか、試算した分析はあるのだろうか。筆者は見たことがないし、探しても見つからない。そこで、ここで簡単な計算をしてみよう。
日本中のクルマ(約8000万台)がすべてEVに置き換わったとして、ざっくりと平均電費を、日産がサイトでリーフ基準としている6キロ/kWhを参考にて、分かりやすくするために年間走行距離を平均6000キロとすると、1台あたり年間1000kWh、つまり日本全体で8000万台×1000kWh=800億kWhの電力が必要となる。これは家庭用電力の4割弱に値する。これだけの電力を何を使って新たに発電するのか。
この800億kWhは、全てのクルマが同じ稼働率で動いたと仮定しているが、実際には週末しか動かないクルマもある。しかし商用車では走行距離も多く、貨物車などの電費はさらに悪いだろう。しかも、これはクルマに充電された電力の消費量であるから、送電ロスや充電時のロスは含まれていない。これも含めると1000億kWh以上の発電能力は必要になる。
単位を繰り上げずkWhのままとしているのは、資源エネルギー庁のデータに合わせるためだ。現在のところ、日本の電力供給量は10000億kWh程度。そしてそのほぼ全てを使い切っている。だから電力供給がひっ迫して節電を呼びかける羽目になっているのだ。
さらに問題は年間の電力消費量だけでなく、ピーク時の電力供給がどれだけ必要か、ということだ。クルマの利用は、渋滞を見れば分かるようにピーク時とオフピーク時がある。1日の動きで見るだけならば、1回の充電で足りれば、深夜に自宅で充電できる人と昼間に勤務先で充電できる人に分かれることで、電力消費も分散できる。
しかしコロナ禍が収束すれば、人はまた旅行に帰省にと移動し出すことになり、それは季節や日付によるピークを発生させる。高速道路で移動するEVがサービスエリアに充電のために立ち寄る。今よりも急速充電のシステムが改善され、1台あたり15分で充電が完了できるようになるかもしれないが、それはその分充電に費やされる電力が増えることになる。1時間あたりの電力消費量がドカンと増えれば、電力の供給不安が持ち上がる。
それに充電ステーションの数も圧倒的に足りなくなる。今や充電ステーションの拠点数は2万カ所近くになり、ガソリンスタンドを抜いたという報道も見られるが、給油ポンプが1台しかないガソリンスタンドなど見たことがあるだろうか。油種の問題もあるが、大抵は複数の給油ポンプ機を備え、それぞれに2つ以上の給油ガンがある。一方、複数の急速充電器を持つ充電ステーションは500カ所あまりしかなく、残り約7000カ所の急速充電器は1機のみの設置だ。さらに残りは急速充電ではなく200Vか100Vの普通充電施設だ。
そしてエンジン車の給油は5分程度で完了する。急速充電設備を備えた充電ステーションで同じ稼働率を実現するには、今の規模の10倍でも足りない。現状は新車販売の1%程度でしかなく、保有台数で見ても30万台程度のEVとPHEVでも不足する充電ステーションの状況を、全車プラグインへと置き換えたら、単純計算では270倍は必要になる。
更なる急速充電化、日時指定の充電予約などして効率化を図ったとしても、まずは100倍の急速充電器がなければ、とても足りない。そしてそれだけの充電ステーションには供給する電力がまた必要なのである。
クルマの電動化が求められるのが30年半ばであり、それまでに発電能力を高めればいいのでは、なんて意見も聞こえてきそうだが、クルマの電動化を進めるにはまず電源を確保する算段をつけなければ意味がない。
なぜなら、現状の電力事情を語らずして、EV化を安易に推し進めることの愚かさを伝えることはできないからだ。
●新電力の惨憺(さんたん)たる現状を見て考えるべきは未来の電源構成
16年の電力自由化によって発電と送電が分離されたことで、電力を供給する企業が一気に増えた。ガス会社が電気も売り、通信会社や小売り大手などさまざまな企業が独自ブランドの電力会社を立ち上げた。
しかし実際に発電している電力の8割は、電力を従来供給してきた大手電力会社だ。残りの2割のうちおよそ半分は、工場など自前で発電設備を持つ企業から余剰電力を購入して、その権利を市場で取り引きしている。
新電力は購入してユーザーに供給しているだけで、独自の発電所を所有しているところはほとんどない。自治体などがゴミ焼却場や木質ペレットなどのバイオマス燃料による発電は手掛けているものの、極めて小規模だ。
再生可能エネルギーによる発電は1割にも満たず、ここ10年で設備容量こそおよそ4倍にまで増えているが、実際に供給している電力はそこまで増えていない。電源構成上は設備容量に準じた4倍の構成比率を示しているが、総発電量は10年をピークに減少(東日本大震災により原発の稼働が停止したため)しており、実際にはそこまで発電量は増えていないのである。
再生可能エネルギーについても、それぞれの技術や目的は素晴らしいものであるが、技術だけで電力は作り上げられるものではなく、自然相手だけに予測通りに稼働しないのが大きな課題だ。太陽光発電や風力発電が理想と現実のかい離に悩まされているのも、すべてはコレが原因で予測が成り立ちにくいからだ。
地熱発電や海流を使った潮流発電の方が安定して電力を生み出せそうだが、潮流発電はまだまだ実用化には時間がかかる。地熱発電も、環境問題や地下資源問題、既得権益(温泉など)の問題もあり、容易に増やせない。
日本は国土が限られている上に、洋上風力発電も触れ込みほどの発電力は期待できないことが判明しており、再生可能エネルギーが電源の主力になるには、相当に時間がかかる。あと30年で達成するのは、かなり難しい目標だろう。
電力を販売する会社ばかりが立ち上がり、電源構成は、未だほぼ旧態依然のままというのが、日本の電力事情なのである。しかも、この冬は大雪により暖房需要が高まっただけで電力の供給不安が起こり、電力市場の価格が一気に跳ね上がった。これにより新電力系は新規契約を停止するなど、慌てふためいている。電力自由化により参入を促されたのに、大手電力会社によってはしごを外された格好だ。
ちょっと雪が多く降っただけで、節電を呼びかけるようなぜい弱な電力会社が、液体燃料に代わってクルマに電力を供給できるようになるとは思えない。EV比率向上を推進しても充電ステーションがそろわず、電力の供給もおぼつかなければ、同じような事態に成り得る。あと10年で発電容量をどれだけ高めることができるだろうか。発電所を造るのは調査から始まると考えるとかなりの年月がかかるし、今さら火力や原発を作れるムードではない。
大規模な災害だけが停電を起こすわけではない。EVの比率が高まることも停電の要因になりかねない。エネルギーの多様性が必要なことは、どう考えても明らかだ。電源構成を先に改善せずにクルマの電動化を進めることが、いかに愚かなことか、これでお分かりいただけただろうか。
・あの小泉進次郎さんが言い出した「脱炭素社会」の憂鬱(文春オンライン 2021年3月23日)
山本 一郎
※2月、環境大臣になった小泉進次郎さんが立憲民主党の岡田克也さんからの衆院予算委員会での質問で「(二酸化炭素などの)温室効果ガス削減の先進地域を国内に作りたい」とか言い始めまして、ああ、始まったなと思うわけですよ。環境先進国であるドイツや、ドイツに導かれたEUに倣え、というような話です。
日本でLNG一本足打法は厳しいという実情
確かに、自然エネルギー・再生エネルギー中心の電力供給体制に移行するのは理想です。日本も2050年には温室効果ガス実質ゼロを目指すということで、洋上風力発電や潮力発電、あるいは地熱発電のような新たなエネルギー源の開発をどんどこ進めていかないとなりませんが、基本的にこれらのエネルギーは調達コストがとても高く、LNGガス(天然ガス)や一部石油石炭も含む火力発電への依存から脱却するのはなかなか大変です。
廃炉コストや核廃棄物処理コストを抜きにすれば二酸化炭素を出さず環境負荷が小さい原子力発電を移行過渡期に使おうぜという議論もまたありますが、日本では原子力と聞くだけでデモ隊が官邸にやってくるぐらいアレルギー反応が強いのもまた事実です。定常的に電力を供給するベースロード電力をなんだと思ってるんでしょうね。一方で、電力自由化を単なる電力値下げと純粋に思ってたみなさんが騙されて、2021年1月のLNG高騰で超高額な電気代を支払わされそうになって政府が救いの手を差し伸べたりする話もあるぐらい、LNG一本足打法は世界のホームラン王ですというわけにもいかないのが実情です。
EVにしてもエネルギー供給はどうするんだという問題
つまりは「脱炭素社会やぞ」ということでいくら旗を振ったところで、風力や太陽光など再生エネルギーは日本の地勢的に無理だし常時発電できるほどではない、地熱も大規模発電がむつかしそうだ、原子力発電所も国民感情としてすぐには増やせないし核廃棄物どうすんだよとなれば、いくら「二酸化炭素をいっぱい出すLNG発電をやめよう」と左翼が騒いだところで代替案がなくて詰みなわけですよ。
それでも、世界の潮流は脱炭素社会へ向かおうという謎のコンセンサスと共に競争が始まっています。
昨今では、電気自動車(EV)のメーカー大手の米・テスラ社が、このカーボンプライシング(炭素排出権)の排出枠販売で大きな利益を上げて話題になっていましたけれども、これからの自動車は純然たる電気自動車や水素燃料によるものを中心にやるべきだと言われても「その大量の電気自動車が町中を走り回るために必要な電力は、誰がどう供給するんですか」というところで手詰まりになります。
EVも結局はエネルギーで走るんだから
危機感を抱いたのか、我が国産業界に君臨するトヨタ自動車・豊田章男社長が先日オンライン懇談会で「電動化=EV化じゃないだろ」「日本で走る車を全部EVにしたら、消費電力は10%から15%上がるやろ」と真っ当なことを言いながら怒っていました。まあ、わかる。そりゃ怒るよね、脱炭素社会だから電気自動車(EV)にしようといったって、結局はエネルギーで走るんだからそのエネルギーを供給する発電所を何で動かすか問題ってのは絶対に重要になります。
しかも、来月9日に予定されている我らが総理・菅義偉さんの渡米においては、これらの自然エネルギーやEV環境規制などでアメリカの要望を飲まされる危険があり、そうだとするならば、沈みそうな菅政権がアメリカ政府の歓心を買うために我らが自動車業界を「お土産」にして、意味のない不利な規制に晒されて壊滅的打撃を受ける危険さえもあります。
かといって、じゃあいままでみたいにジャブジャブとガソリンをタンクにぶち込んで黒煙出しながら日本全国車が走り回るのもどうなのかということで、EVよりも効率(燃費や出力効率)の良いHV(ハイブリッド車)をもっと展開すりゃいいんじゃないかとか、そもそも町全体のエネルギー効率を改善させるために行政・自治体と一緒になってスマートシティやろうやという話もまた出るのは当然の帰結です。
それでも持て囃される専業EV自動車メーカー
ところが、世間のカネ余りの証券市場では、テスラ社のような一見専業EV自動車メーカーのようなところが持て囃されます。一時期は超絶にバブってトヨタほか自動車づくりに長年専念していたような各社よりも時価総額が高くなるという不思議現象が発生し、日本国内でたかだか年間2,000台も売れていない電気自動車の仕組みを真に受けて、日本でもテスラ社礼賛の言論が増えていたのもまた事実です。
もしも、日本でもこれらのEV/HV車を増やしていき、二酸化炭素の排出量を減らしていくんだよという話をするにしても、結局はエネルギーをどこで創り出し、いかに効率よく消費するかという命題が横たわっていることには変わりありません。単純に「脱炭素、だから原子力」とか「いますぐ再生エネルギーの比率を引き上げろ」という話ではなく、2050年に日本社会が持続可能な状態であるときにどのくらいのエネルギー供給体制であるのかという青写真を作って、そこから逆算して「いま何をしなければならないのか」という現状を把握する必要があるわけですよ。
日本と違い、ドイツには後背地がちゃんとある
一方で、日本は島国であって、陸続きでうまい具合にエネルギー相互供給をしてくれる隣国はいません。一応ギリギリで韓国とかいう国はありますが、うっかり日本と手を握って日本の大事なエネルギー供給の一部を韓国に任せることになると、ある日突然不思議な言いがかりをつけられて電力供給を止められたりしたら死活問題なので、韓国とのエネルギー面での協調は論外じゃないかと思います。
どうしてもエネルギー政策で言うと、ドイツを見習えとか、テスラ社に学べという話が出てきてしまうわけですが、いくらドイツが原発依存をゼロにしたのだと言っても、依然として隣国の原子力大国フランスからのベースロード電源に一部依存し、同時にロシアからパイプラインを通じてやってくる天然ガスにも頼っているうえ、炭素を排出するドイツ系製造業は製造拠点をEU域内の他の国でやっていたりもしますので、つまりは「ドイツには後背地がちゃんとある」わけです。
EVは本当に環境に優しいのか?
同様に、前述のテスラ社のようなEV自動車メーカーは確かに車づくりとしては画期的な部分もあるにせよ、最終的には車づくりそのものと、その移動の効率で二酸化炭素の排出量は決まってきますので結果的にEV車のほうが二酸化炭素をたくさん出してしまうという可能性もかなり高くあります。
【EVは本当に環境に優しい?】値下げされたテスラ、モデル3、ガソリン車よりもCO2排出が多い問題
https://note.com/kappa03/n/na0c751d9b69f
ここまでくると、いま私たちが直面して困っている大規模な温暖化による気候変動と災害の多発に対して、脱炭素社会を構築しなければならないという偉大な理念の大目標は、実はかなりマーケティング的に作り上げられた虚構の面を振り払いながら「何が本当に炭素排出の削減に繋がり、地球環境の維持に資することができるのか」と考え続ける、実に高度な科学と政治のぶつかり相撲みたいなものであると考えることができます。
経産省でめっちゃ利益相反やらかしてる素敵ビジネスマンや環境省周辺に女スパイみたいなのがうろうろして日本のエネルギー政策に影響力を行使しようとしているのだとすればそれは問題だと思いますし、日本の国富を支えている輸出産業は、依然として素材や部品、自動車などの製造業に依存している割合が高くあります。これらの産業力・競争力の源泉は、人件費ももちろんありますが基本的には安い電力コストや優れた人材、そして研究開発であることは間違いなく、一連の脱炭素の議論はことごとく、日本にとって国際的に不利な競争を強いられていることに気づきます。
ドイツ、中国、アメリカとは戦略的条件がまるで違うのに…
とりわけ、後背地の大きいドイツ(EU)、中国、アメリカなどの国々の置かれている環境と私たち島国・日本とでは、備えている戦略的条件が違います。あれだけ栄華を極めたエジプトが、鉄器時代になってからというもの自領に鉄が出ず衰退してしまったのと同様に、日本は大航海時代末期には銀が枯渇し、明治政府ができても鉄が出ず、戦前は原油がなく、戦後はウランもレアメタルも出ないし、未来社会では常時風が吹く洋上風力発電ができる場所は秋田沖に限られるという、なんとも資源には恵まれていなさすぎるクソ立地です。これがシヴィライゼーションなら「何て場所に京都を建ててしまったんだ」とマップごとぶん投げる勢いです。
そういう難易度ハードモードの令和日本の真っただ中で、環境大臣である小泉進次郎さんが「レジ袋有料化がうまくいったので、今度はプラスチックスプーンを有料にしよう」とかいう、欧州やカリフォルニアの環境左派が主張するような政策を真顔で立案してしまうような状況なのでどうにもなりません。
もちろん持続可能な社会にしていくことには賛同なんですけど、ゼロエミッションなり、カーボンプライシングなり、それらの枠組み・ルール作りに日本の立場や考え方も反映させられるような物言いをできるよう頑張るのが環境大臣の役割なんじゃないかと思うんですが。
高根英幸
※クルマの電動化に関する議論が過熱している。欧州や北米、中国での純エンジン車販売規制によって、従来のCAFE規制(企業内平均燃費規制=企業ごとに販売車の平均燃費を規制する法律)をクリアするためのEV導入から、さらに進んだ電動化への具体策が求められているからだ。
実際、欧州や中国ではEVの販売比率が急速に高まっている。それに対し日本でも、日産や三菱に続いて、ホンダ、トヨタ、マツダがEVを出しているが、それらは販売目標も少なく、まだ現時点では飛躍的にEVの比率が高まるような気運は見られない。
そんな中、日本政府も2050年にカーボンニュートラル達成という政策の中で、クルマの電動化を進めて30年代半ばには100%の電動化を実現するという目標を掲げた。CAFE燃費の緩さ(欧州とは違い罰則はない)同様、回りを見て足並みをそろえた程度の印象でしかないが、電動化の中核にあるのがEVであることは間違いなさそうだ。
30年に純EVの販売比率はどれほどになるのか、それは50年にはほぼ100%になるのか。関心を持っている人の多くはそう考えることだろう。単純に考えれば、カーボンニュートラルにするにはEVに頼るしかないだろうからそんな意識になるのだろうが、一足飛びにEV比率を高めようというのは、まったく現実的ではない。
もうそろそろ理論上の話から、リアルな現実、そして近い将来の実現性について情報をキチンと分析した上で議論をすべき時だ。かなり長期的に見れば、クルマの動力源はモーターへと収束していくのかもしれないが、そのためには乗り越えなくてはならないハードルがいくつも存在するからだ。
ここで考えるのはモーターやインバーター、バッテリーの性能の話ではない。そんなことより根本的な問題が待ち構えているのである。
●EVを増やす前に用意しなければならないもの
クルマを電動化するということは、一定以上の車格では最低でもPHEV、それとEVにしなければならなくなる。
ハイブリッドでも燃費の向上は期待できるが、それは現在と比べてというレベルであり、カーボンニュートラルを目指す以上、ほぼ電力だけで走れるようにならなければ意味がない。
そもそもこれまで通りのクルマの移動を続けたとすると、どれだけ電力が必要になるか、試算した分析はあるのだろうか。筆者は見たことがないし、探しても見つからない。そこで、ここで簡単な計算をしてみよう。
日本中のクルマ(約8000万台)がすべてEVに置き換わったとして、ざっくりと平均電費を、日産がサイトでリーフ基準としている6キロ/kWhを参考にて、分かりやすくするために年間走行距離を平均6000キロとすると、1台あたり年間1000kWh、つまり日本全体で8000万台×1000kWh=800億kWhの電力が必要となる。これは家庭用電力の4割弱に値する。これだけの電力を何を使って新たに発電するのか。
この800億kWhは、全てのクルマが同じ稼働率で動いたと仮定しているが、実際には週末しか動かないクルマもある。しかし商用車では走行距離も多く、貨物車などの電費はさらに悪いだろう。しかも、これはクルマに充電された電力の消費量であるから、送電ロスや充電時のロスは含まれていない。これも含めると1000億kWh以上の発電能力は必要になる。
単位を繰り上げずkWhのままとしているのは、資源エネルギー庁のデータに合わせるためだ。現在のところ、日本の電力供給量は10000億kWh程度。そしてそのほぼ全てを使い切っている。だから電力供給がひっ迫して節電を呼びかける羽目になっているのだ。
さらに問題は年間の電力消費量だけでなく、ピーク時の電力供給がどれだけ必要か、ということだ。クルマの利用は、渋滞を見れば分かるようにピーク時とオフピーク時がある。1日の動きで見るだけならば、1回の充電で足りれば、深夜に自宅で充電できる人と昼間に勤務先で充電できる人に分かれることで、電力消費も分散できる。
しかしコロナ禍が収束すれば、人はまた旅行に帰省にと移動し出すことになり、それは季節や日付によるピークを発生させる。高速道路で移動するEVがサービスエリアに充電のために立ち寄る。今よりも急速充電のシステムが改善され、1台あたり15分で充電が完了できるようになるかもしれないが、それはその分充電に費やされる電力が増えることになる。1時間あたりの電力消費量がドカンと増えれば、電力の供給不安が持ち上がる。
それに充電ステーションの数も圧倒的に足りなくなる。今や充電ステーションの拠点数は2万カ所近くになり、ガソリンスタンドを抜いたという報道も見られるが、給油ポンプが1台しかないガソリンスタンドなど見たことがあるだろうか。油種の問題もあるが、大抵は複数の給油ポンプ機を備え、それぞれに2つ以上の給油ガンがある。一方、複数の急速充電器を持つ充電ステーションは500カ所あまりしかなく、残り約7000カ所の急速充電器は1機のみの設置だ。さらに残りは急速充電ではなく200Vか100Vの普通充電施設だ。
そしてエンジン車の給油は5分程度で完了する。急速充電設備を備えた充電ステーションで同じ稼働率を実現するには、今の規模の10倍でも足りない。現状は新車販売の1%程度でしかなく、保有台数で見ても30万台程度のEVとPHEVでも不足する充電ステーションの状況を、全車プラグインへと置き換えたら、単純計算では270倍は必要になる。
更なる急速充電化、日時指定の充電予約などして効率化を図ったとしても、まずは100倍の急速充電器がなければ、とても足りない。そしてそれだけの充電ステーションには供給する電力がまた必要なのである。
クルマの電動化が求められるのが30年半ばであり、それまでに発電能力を高めればいいのでは、なんて意見も聞こえてきそうだが、クルマの電動化を進めるにはまず電源を確保する算段をつけなければ意味がない。
なぜなら、現状の電力事情を語らずして、EV化を安易に推し進めることの愚かさを伝えることはできないからだ。
●新電力の惨憺(さんたん)たる現状を見て考えるべきは未来の電源構成
16年の電力自由化によって発電と送電が分離されたことで、電力を供給する企業が一気に増えた。ガス会社が電気も売り、通信会社や小売り大手などさまざまな企業が独自ブランドの電力会社を立ち上げた。
しかし実際に発電している電力の8割は、電力を従来供給してきた大手電力会社だ。残りの2割のうちおよそ半分は、工場など自前で発電設備を持つ企業から余剰電力を購入して、その権利を市場で取り引きしている。
新電力は購入してユーザーに供給しているだけで、独自の発電所を所有しているところはほとんどない。自治体などがゴミ焼却場や木質ペレットなどのバイオマス燃料による発電は手掛けているものの、極めて小規模だ。
再生可能エネルギーによる発電は1割にも満たず、ここ10年で設備容量こそおよそ4倍にまで増えているが、実際に供給している電力はそこまで増えていない。電源構成上は設備容量に準じた4倍の構成比率を示しているが、総発電量は10年をピークに減少(東日本大震災により原発の稼働が停止したため)しており、実際にはそこまで発電量は増えていないのである。
再生可能エネルギーについても、それぞれの技術や目的は素晴らしいものであるが、技術だけで電力は作り上げられるものではなく、自然相手だけに予測通りに稼働しないのが大きな課題だ。太陽光発電や風力発電が理想と現実のかい離に悩まされているのも、すべてはコレが原因で予測が成り立ちにくいからだ。
地熱発電や海流を使った潮流発電の方が安定して電力を生み出せそうだが、潮流発電はまだまだ実用化には時間がかかる。地熱発電も、環境問題や地下資源問題、既得権益(温泉など)の問題もあり、容易に増やせない。
日本は国土が限られている上に、洋上風力発電も触れ込みほどの発電力は期待できないことが判明しており、再生可能エネルギーが電源の主力になるには、相当に時間がかかる。あと30年で達成するのは、かなり難しい目標だろう。
電力を販売する会社ばかりが立ち上がり、電源構成は、未だほぼ旧態依然のままというのが、日本の電力事情なのである。しかも、この冬は大雪により暖房需要が高まっただけで電力の供給不安が起こり、電力市場の価格が一気に跳ね上がった。これにより新電力系は新規契約を停止するなど、慌てふためいている。電力自由化により参入を促されたのに、大手電力会社によってはしごを外された格好だ。
ちょっと雪が多く降っただけで、節電を呼びかけるようなぜい弱な電力会社が、液体燃料に代わってクルマに電力を供給できるようになるとは思えない。EV比率向上を推進しても充電ステーションがそろわず、電力の供給もおぼつかなければ、同じような事態に成り得る。あと10年で発電容量をどれだけ高めることができるだろうか。発電所を造るのは調査から始まると考えるとかなりの年月がかかるし、今さら火力や原発を作れるムードではない。
大規模な災害だけが停電を起こすわけではない。EVの比率が高まることも停電の要因になりかねない。エネルギーの多様性が必要なことは、どう考えても明らかだ。電源構成を先に改善せずにクルマの電動化を進めることが、いかに愚かなことか、これでお分かりいただけただろうか。
・あの小泉進次郎さんが言い出した「脱炭素社会」の憂鬱(文春オンライン 2021年3月23日)
山本 一郎
※2月、環境大臣になった小泉進次郎さんが立憲民主党の岡田克也さんからの衆院予算委員会での質問で「(二酸化炭素などの)温室効果ガス削減の先進地域を国内に作りたい」とか言い始めまして、ああ、始まったなと思うわけですよ。環境先進国であるドイツや、ドイツに導かれたEUに倣え、というような話です。
日本でLNG一本足打法は厳しいという実情
確かに、自然エネルギー・再生エネルギー中心の電力供給体制に移行するのは理想です。日本も2050年には温室効果ガス実質ゼロを目指すということで、洋上風力発電や潮力発電、あるいは地熱発電のような新たなエネルギー源の開発をどんどこ進めていかないとなりませんが、基本的にこれらのエネルギーは調達コストがとても高く、LNGガス(天然ガス)や一部石油石炭も含む火力発電への依存から脱却するのはなかなか大変です。
廃炉コストや核廃棄物処理コストを抜きにすれば二酸化炭素を出さず環境負荷が小さい原子力発電を移行過渡期に使おうぜという議論もまたありますが、日本では原子力と聞くだけでデモ隊が官邸にやってくるぐらいアレルギー反応が強いのもまた事実です。定常的に電力を供給するベースロード電力をなんだと思ってるんでしょうね。一方で、電力自由化を単なる電力値下げと純粋に思ってたみなさんが騙されて、2021年1月のLNG高騰で超高額な電気代を支払わされそうになって政府が救いの手を差し伸べたりする話もあるぐらい、LNG一本足打法は世界のホームラン王ですというわけにもいかないのが実情です。
EVにしてもエネルギー供給はどうするんだという問題
つまりは「脱炭素社会やぞ」ということでいくら旗を振ったところで、風力や太陽光など再生エネルギーは日本の地勢的に無理だし常時発電できるほどではない、地熱も大規模発電がむつかしそうだ、原子力発電所も国民感情としてすぐには増やせないし核廃棄物どうすんだよとなれば、いくら「二酸化炭素をいっぱい出すLNG発電をやめよう」と左翼が騒いだところで代替案がなくて詰みなわけですよ。
それでも、世界の潮流は脱炭素社会へ向かおうという謎のコンセンサスと共に競争が始まっています。
昨今では、電気自動車(EV)のメーカー大手の米・テスラ社が、このカーボンプライシング(炭素排出権)の排出枠販売で大きな利益を上げて話題になっていましたけれども、これからの自動車は純然たる電気自動車や水素燃料によるものを中心にやるべきだと言われても「その大量の電気自動車が町中を走り回るために必要な電力は、誰がどう供給するんですか」というところで手詰まりになります。
EVも結局はエネルギーで走るんだから
危機感を抱いたのか、我が国産業界に君臨するトヨタ自動車・豊田章男社長が先日オンライン懇談会で「電動化=EV化じゃないだろ」「日本で走る車を全部EVにしたら、消費電力は10%から15%上がるやろ」と真っ当なことを言いながら怒っていました。まあ、わかる。そりゃ怒るよね、脱炭素社会だから電気自動車(EV)にしようといったって、結局はエネルギーで走るんだからそのエネルギーを供給する発電所を何で動かすか問題ってのは絶対に重要になります。
しかも、来月9日に予定されている我らが総理・菅義偉さんの渡米においては、これらの自然エネルギーやEV環境規制などでアメリカの要望を飲まされる危険があり、そうだとするならば、沈みそうな菅政権がアメリカ政府の歓心を買うために我らが自動車業界を「お土産」にして、意味のない不利な規制に晒されて壊滅的打撃を受ける危険さえもあります。
かといって、じゃあいままでみたいにジャブジャブとガソリンをタンクにぶち込んで黒煙出しながら日本全国車が走り回るのもどうなのかということで、EVよりも効率(燃費や出力効率)の良いHV(ハイブリッド車)をもっと展開すりゃいいんじゃないかとか、そもそも町全体のエネルギー効率を改善させるために行政・自治体と一緒になってスマートシティやろうやという話もまた出るのは当然の帰結です。
それでも持て囃される専業EV自動車メーカー
ところが、世間のカネ余りの証券市場では、テスラ社のような一見専業EV自動車メーカーのようなところが持て囃されます。一時期は超絶にバブってトヨタほか自動車づくりに長年専念していたような各社よりも時価総額が高くなるという不思議現象が発生し、日本国内でたかだか年間2,000台も売れていない電気自動車の仕組みを真に受けて、日本でもテスラ社礼賛の言論が増えていたのもまた事実です。
もしも、日本でもこれらのEV/HV車を増やしていき、二酸化炭素の排出量を減らしていくんだよという話をするにしても、結局はエネルギーをどこで創り出し、いかに効率よく消費するかという命題が横たわっていることには変わりありません。単純に「脱炭素、だから原子力」とか「いますぐ再生エネルギーの比率を引き上げろ」という話ではなく、2050年に日本社会が持続可能な状態であるときにどのくらいのエネルギー供給体制であるのかという青写真を作って、そこから逆算して「いま何をしなければならないのか」という現状を把握する必要があるわけですよ。
日本と違い、ドイツには後背地がちゃんとある
一方で、日本は島国であって、陸続きでうまい具合にエネルギー相互供給をしてくれる隣国はいません。一応ギリギリで韓国とかいう国はありますが、うっかり日本と手を握って日本の大事なエネルギー供給の一部を韓国に任せることになると、ある日突然不思議な言いがかりをつけられて電力供給を止められたりしたら死活問題なので、韓国とのエネルギー面での協調は論外じゃないかと思います。
どうしてもエネルギー政策で言うと、ドイツを見習えとか、テスラ社に学べという話が出てきてしまうわけですが、いくらドイツが原発依存をゼロにしたのだと言っても、依然として隣国の原子力大国フランスからのベースロード電源に一部依存し、同時にロシアからパイプラインを通じてやってくる天然ガスにも頼っているうえ、炭素を排出するドイツ系製造業は製造拠点をEU域内の他の国でやっていたりもしますので、つまりは「ドイツには後背地がちゃんとある」わけです。
EVは本当に環境に優しいのか?
同様に、前述のテスラ社のようなEV自動車メーカーは確かに車づくりとしては画期的な部分もあるにせよ、最終的には車づくりそのものと、その移動の効率で二酸化炭素の排出量は決まってきますので結果的にEV車のほうが二酸化炭素をたくさん出してしまうという可能性もかなり高くあります。
【EVは本当に環境に優しい?】値下げされたテスラ、モデル3、ガソリン車よりもCO2排出が多い問題
https://note.com/kappa03/n/na0c751d9b69f
ここまでくると、いま私たちが直面して困っている大規模な温暖化による気候変動と災害の多発に対して、脱炭素社会を構築しなければならないという偉大な理念の大目標は、実はかなりマーケティング的に作り上げられた虚構の面を振り払いながら「何が本当に炭素排出の削減に繋がり、地球環境の維持に資することができるのか」と考え続ける、実に高度な科学と政治のぶつかり相撲みたいなものであると考えることができます。
経産省でめっちゃ利益相反やらかしてる素敵ビジネスマンや環境省周辺に女スパイみたいなのがうろうろして日本のエネルギー政策に影響力を行使しようとしているのだとすればそれは問題だと思いますし、日本の国富を支えている輸出産業は、依然として素材や部品、自動車などの製造業に依存している割合が高くあります。これらの産業力・競争力の源泉は、人件費ももちろんありますが基本的には安い電力コストや優れた人材、そして研究開発であることは間違いなく、一連の脱炭素の議論はことごとく、日本にとって国際的に不利な競争を強いられていることに気づきます。
ドイツ、中国、アメリカとは戦略的条件がまるで違うのに…
とりわけ、後背地の大きいドイツ(EU)、中国、アメリカなどの国々の置かれている環境と私たち島国・日本とでは、備えている戦略的条件が違います。あれだけ栄華を極めたエジプトが、鉄器時代になってからというもの自領に鉄が出ず衰退してしまったのと同様に、日本は大航海時代末期には銀が枯渇し、明治政府ができても鉄が出ず、戦前は原油がなく、戦後はウランもレアメタルも出ないし、未来社会では常時風が吹く洋上風力発電ができる場所は秋田沖に限られるという、なんとも資源には恵まれていなさすぎるクソ立地です。これがシヴィライゼーションなら「何て場所に京都を建ててしまったんだ」とマップごとぶん投げる勢いです。
そういう難易度ハードモードの令和日本の真っただ中で、環境大臣である小泉進次郎さんが「レジ袋有料化がうまくいったので、今度はプラスチックスプーンを有料にしよう」とかいう、欧州やカリフォルニアの環境左派が主張するような政策を真顔で立案してしまうような状況なのでどうにもなりません。
もちろん持続可能な社会にしていくことには賛同なんですけど、ゼロエミッションなり、カーボンプライシングなり、それらの枠組み・ルール作りに日本の立場や考え方も反映させられるような物言いをできるよう頑張るのが環境大臣の役割なんじゃないかと思うんですが。