・キラキラ夫婦が吊し上げ…「豚解体風呂」とホームレス記事“炎上”事件から考える言論の自由(文春オンライン 2020年11月18日)

安田 峰俊
 
※11月16日夕方、私は埼玉県北部の県道沿いを、ビールのロング缶12本が入ったコンビニのビニール袋を手に歩いていた。目的は最近話題の群馬・埼玉両県での家畜窃盗事件の取材だ。

事前に目星をつけていたアパートの部屋に向かい、アポ無しでインターホンを押すと、髪の毛を茶色く染めた東南アジア系の若者が顔を出した。私が連れてきたベトナム難民2世(日本育ち)の友人が、事前の打ち合わせ通り、ネイティヴのベトナム語で一気に畳み掛ける。

「やあ、お兄さん! 元気かい? ビールを飲まないか? ああ、こっちにいるのは日本人の記者だ。警察じゃないし、お兄さんに危害を加えるわけじゃないから安心してね。さあ、一緒に乾杯しようぜ!」

若者ははじめ驚いた表情を浮かべたものの、初対面にもかかわらず私たちを部屋に上げてくれた。この部屋は技能実習先から逃亡したベトナム人不法就労者たちのアジトである。最近、同居していた仲間8人のうち数人が、豚の違法解体や不法滞在の容疑で埼玉県警に逮捕された。

豚解体アパートで暮らす逃亡者
 
月の家賃が4万円だという部屋は饐えた臭いが漂っていた。炊飯器や洗濯機はあるものの、テレビやステレオといった文化的な生活に関係する家電は見当たらず、書籍は日本語の教科書1冊さえもない。

大小のゴキブリの子どもが汚れた壁を走り、銀蠅が5匹ほど飛び回る居間で車座になって缶ビールを開けた。マスクをずらしてちびちびと飲みながら、3人であぐらをかいて雑談していると場がほどなく和んだ。彼は不法就労者だがコロナ禍で失業中だ。仲間が逮捕されて退屈していたらしく、私の質問にも気軽に答えてくれた。

「お兄さんの仲間は風呂場で豚を解体したのか。肉ならスーパーで売っているのに、なぜ?」

「捌きたてが新鮮だ。それに骨付き肉がおいしいんだけど、日本であまり売ってない」



本邦初公開、埼玉県内の逃亡技能実習生ベトナム人グループによる「豚解体風呂」。2020年11月16日、安田撮影。

「確かに豚肉は骨付きに限るよね。どのくらいの大きさの豚? 部屋に来た時点では生きていた?」

「70~80キロぐらいの成獣で、すでに死んでいた。調達したルートは、ええと──」

今日も取材は順調だ。私は彼からみっちり1時間半ほど話を聞き、意気揚々と引き上げたのだった。

(後略)


・豚窃盗疑惑! ベトナム人男女19人同居「兄貴ハウス」に突撃して見えた真実(文春オンライン 2020年12月13日)

安田 峰俊

※「群馬の兄貴」をご存知だろうか? 今年に入り、群馬県を中心に埼玉・栃木の北関東各県で発生が続いた、被害総額3000万円ともいわれる家畜や果物の窃盗事件。その犯人グループの元締めであるかのように報じられた在日ベトナム人の39歳の男、レ・ティ・トゥン容疑者である。

「兄貴」の逮捕は今年10月26日だ。群馬県警の捜査員が、ベトナム人窃盗団のアジトであるかに見える太田市新田上中町の貸家2棟を6時間にわたり家宅捜索。屋内に居住していたベトナム人の男女19人のうち、13人を逮捕したのだ。そこで主犯格とみられたのが「兄貴」だった。

逮捕容疑は入管法違反(不法残留)だが、貸家の床下からは約30羽の冷凍ニワトリが見つかった。加えて、わずか2棟の貸家の住人数としては桁違いに多いベトナム人居住者たちの多くが逮捕されたことや、牛刀やモデルガン・金属バット・模造刀などの「武器」が押収されたこともあって、主要メディアやネットニュースは家畜窃盗事件との関係を書き立てた。

武装した刺青の「兄貴」と舎弟
 
いっぽう、この逮捕劇はネット上でも大きな話題になった。理由は「豚を盗んだ『群馬の兄貴』」という面白すぎる言葉の響きに加えて、ネットに流れた兄貴一派のフェイスブックの写真(画像)があまりに個性的すぎたからだ。



「群馬の兄貴」のフェイスブックページにアップされていた「兄貴」(左から2番目)と舎弟たち。刺青に長大な刃物と、一見すると到底カタギの集団には見えないのだが……
 
容疑は入管法違反とはいえ、カタギとは思えない集団が一網打尽にされた。また前後して、群馬県太田市由良町や埼玉県上里町三町などでも、アパートの室内で豚を解体したベトナム人たちが、入管法違反やと畜場法違反などの容疑で次々と逮捕された。「兄貴」と仲間たち計6人については、勾留期限が切れる前に、偽造在留カード所持や無免許運転などの容疑で再逮捕されている。

北関東を騒がせた家畜窃盗事件は、これにて一件落着。……かと思われたが、話はまだ終わらなかった。「兄貴」と仲間たちは取り調べに対して、いずれも逮捕容疑については認めたものの、なんと家畜窃盗については頑なに否認を続けているのだ。各地で逮捕された他のベトナム人たちからも充分な情報はない。事件は意外にも、長期化の様相を見せはじめた。

ゆえに私は真相を探るべく、『文藝春秋』1月号(12月10日刊行)の取材で「兄貴」の周囲を探ることにした。そこで足を運んだのが、まずは埼玉県上里町三町の豚解体アパート。そして、10月26日に「兄貴」ら13人が逮捕されたという、群馬県太田市新田上中町の2棟の貸家であった。

最寄り駅まで徒歩1時間14分……
 
──苦労して探し当てた新田上中町の「兄貴ハウス」は、思った以上に群馬っぽかった。

コロナ第3波が本格化する前の11月13日午後。抜けるような青空の下で畑とビニールハウスがどこまでも広がっていた。天に向かい伸びる土のついた太いネギをからっ風が撫でていく。Google Mapで調べると、最寄り駅まで徒歩1時間14分(両毛線)。もしくは1時間21分(東武伊勢崎線)もかかるらしい。

近くにレンタカーを停め目的地に向かう。私たちが目指す貸家は4棟あり、2棟目と3棟目が「群馬の兄貴」の住居だとみられた。もちろん「兄貴」はまだ勾留中だが、逮捕されなかったり保釈されたりした仲間は、まだこちらに住んでいるはずだった。

「Có ai không??」(誰かいますかあ?)

「さっさと出ていけ!」
 
通訳のTが呼ばわる。彼は日本育ちのベトナム難民2世の青年で、私とは6年来の友人だ。しかし、外に洗濯物が干されているにもかかわらず屋内からの反応はない。

周囲を探索すると、サッシ戸の外にベトナムの男性がよく吸う巨大な竹製の煙草パイプが放置されていた。しかも戸の鍵が開いている。おそるおそる開けてみると、室内には煙草の吸殻と飲みかけのペットボトル、公共料金の督促状の束があった。

督促状には外国人らしきカタカナの名前が書かれている。また、部屋の鴨居には、住民の名前らしきベトナム語が手書きされた紙が貼られ、さらに奥には──。

すると突然、奥の襖がガラッと開いて東南アジア系の若者が顔を出し、ベトナム語で一気にまくし立てた。

「誰だぁ、お前ら!? どうせ豚の盗難の件で来たんだろう? 仲間が捕まってから、日本人の記者どもが大勢、写真を撮りにきて気分が悪いんだ。さっさと出ていけ!」

 Tと一緒に彼をなだめる。根気強くコミュニケーションを取っていると、言葉が通じることやTが同世代であることからか、彼は次第に態度を和らげ、ついに「上がれよ」と屋内に迎え入れてくれた。根は悪い人ではなさそうだ。

一斉逮捕で「兄貴ハウス」が崩壊
 
彼の名はヴァン(仮名)。ベトナムに妻子を残して2年前に技能実習生として来日したが、劣悪な労働環境と低賃金に嫌気がさして逃亡、不法就労者になった25歳である。だが、コロナ禍が深刻化してから、ほぼ失業状態になってしまった。

「ベトナムにいる家族のところに帰りたいけれど、フライト数が減って航空券もすごく高くなって、帰りようがないんだ。入管にも出頭したんだけどさ」

現在、彼のようなベトナム人が多いことは、すでにさまざまなメディアが報じている。不法滞在と言えば聞こえが悪いが、彼らはもともと日本国家の技能実習制度の落し子であり、しかも入管に出頭しても、コロナ禍の混乱のなかで自宅待機を命じられて帰国できない立場にある。

「それが、この間(10月26日)の大捕物では不法滞在容疑で逮捕だよ? 入管に出頭したときは家に帰したくせに、なんで逮捕するんだか。日本の警察がやることはわけがわからねえ」

もちろん不法滞在者である以上、入管や警察の指示には従うべきだろう。ただ、兄貴ハウスの住民からすると、謎の一斉逮捕によってわずかに不法就労をおこなっていた仲間も収入源を絶たれてしまった。生活はたいへん厳しく、もうすぐ電気やガスも止まりかねないという。

「逮捕された『兄貴』のことかい? 同居人の一人だったし、優しいいい人だったよ。でも、彼の仕事のことはよくわからないが、豚を盗んではいない。マジで、この件は俺たちはシロなんだ」

兄貴ハウスの専有面積は1棟60~70平米ほどで、間取りは3DKである。家賃は1棟あたり月3~4万円、光熱費を加えた金額を居住人数で頭割りする。住む人間が増えるほど金銭的に楽になる仕組みだ。事実、ヴァンは言う。

「2~3ヶ月前、フェイスブック上の(ベトナム人逃亡技能実習生の)コミュニティで、群馬で同胞たちがシェアハウスをやってるって投稿を見つけた。それで、この家に来たんだ」

コロナ禍で急増したハウス住民たち
 
この貸家は逃亡技能実習生たちの隠れ家だったのだ。もっとも、実際に上がりこんで観察する限り、「快適」な住居とは決して言えない。古い日本住宅に特有の饐(す)えた臭いと、獣の内臓と米の臭い。さらにベトナム人労働者たちの体臭や煙草臭やアンモニア臭が混じった独特の臭気が、マスク越しですら私の鼻孔に飛び込んできた。

なお、貸家の大家(日本人、73歳)は近所で暮らしている。彼の話によると、4~5年前に貸家の賃貸契約を結んだ相手は流暢な日本語を話す在日ベトナム人の会社員で、しっかりした人物に見えた(当然、「群馬の兄貴」とは別の人物だ)。やがて、数人のベトナム人の若者たちが生活しはじめたという。

だが、コロナ禍の前後から大家も知らぬうちに居住者が急増。家宅捜索がおこなわれた2020年10月時点では、20~30代のベトナム人男女が19人も集まり暮らすようになっていた。

──私たちとヴァンは、それなりに仲良くなれた。しかし、アポ無しの突撃で1回会っただけでは聞けない話もあるし、なにより他の仲間にも会ってみたい。そこで翌日、私は再び兄貴ハウスを訪問してみることにした。

外国人が多い街だけに、太田駅前のドン・キホーテは外国食材が充実している。私は同店で冷凍アヒル1羽と冷凍のライギョ1匹、さらに米と缶ビールと煙草をたっぷり買い込んだ。これだけお土産を持っていけば、他のベトナム人たちからもそう邪険には扱われないだろう。

夕食は“ため池で釣った魚”に“道端の草”

「おう、また来たのか? ……せっかくだし上がっていけよ。夕飯を食っていけ」

11月14日夜、アヒルとライギョを手に兄貴ハウスを訪ねた私たちは、ヴァンから快く迎え入れられた。屋内ではちょうど夕食の準備中で、隣の棟の住人も合わせて男女10人近くが集まっていた。当然、全員が逃亡技能実習生の不法滞在者であり、日本語はほぼできない。以前の職場について尋ねてみると「月給8万円」「建設現場きつい」「殴られた」といった話が口々に飛び出した。

スキンヘッドの男が3人ほど混じっており威圧感を覚えたが、後に聞いたところ、いずれも10月26日に一斉逮捕されて数日前に保釈されたばかりだった。勾留中はシャワーを5日に1回しか浴びられず、蒸れるので髪を剃ったらしい。他の男女はヴァンを含めて、粗末な身なりをした普通のベトナム人の若者である。そんな彼らと夕食を囲んだ。

「さあ、食おう。口に合うか?」

「ありがとう。……っていうか、この魚と菜っ葉、めちゃくちゃ美味くないか?」

「魚は釣った。日本の魚はベトナムと比べるとイマイチだが仕方ないな。菜っ葉は、そこらへんに生えてる草を唐辛子で和えた」

群馬の兄貴の仲間たちの晩餐は、食料調達に出た男たちが近所のため池で釣った魚の唐揚げと、道端の草の唐辛子あえ、さらに埼玉県のベトナム寺院が困窮した同胞に支援しているコメのメシ、そして蒸し鶏だ。

「兄貴キッチン」にあふれる冷凍ニワトリ
 
蒸し鶏は一羽をまるごと蒸し、男性が巨大な中華包丁で骨ごと叩き切ったものである。先日、彼らが群馬県警の家宅捜索を受けた際、冷凍のニワトリ約30羽が発見されたニュースを思い出した。

「日本の警察は、私たちがニワトリを丸ごと食べることを知らないから、養鶏場から盗んだものだと勘違いした。でも、うちのニワトリは、普通に店で買ってるんだよ」

そう話す29歳の女性から台所に案内された。彼女が「見なよ」と業務用の上開き冷凍庫を開けてみせると、内部には冷凍ニワトリがぎっしりと詰まっている。

「これ、太田市内のタイ物産店で、3羽1000円で買える。うちは大所帯だからたくさん冷凍して保存してるだけ。豚の肉も、過去にフェイスブック経由で買ったことはあるけど、盗んだことはない。普段は埼玉県本庄市にある食肉工場直営の肉屋で買うことが多い」

彼女の話に嘘はなさそうだ(事実、これらの店は私が翌日取材に行くといずれも実在した)。ヴァンも言う。

「俺たちが豚泥棒なんて冗談じゃないよ。確かに、技能実習先から逃げて不法滞在や不法就労状態なのは確かだ。まだ警察に捕まってる仲間が、偽造の外国人登録証を持ってたのも確かだ。それに、俺たちが日本で運転するときは、みんな無免許運転だ。確かにその通りだが、豚泥棒については本当にやっていないんだ」

それでは「兄貴」は何者なのか?
 
では、現在も留置場にいる「群馬の兄貴」についてはどうか。彼らは口々に話した。

「彼も不法滞在者。この家の住人ではいちばん年上だから“Anh”(兄貴、年長者)と呼んでいたけれど、それだけ。実はヤクザでもなんでもないよ」

「ネットでマフィアの元締めみたいに言われているのは、違う。タトゥーを入れるベトナム人は多いし、それだけで反社会組織の人間だとは限らない。もちろん、豚は盗んでない」

驚いたことに、食卓を囲む約10人の男女は、誰一人として「兄貴」と家畜窃盗の関係を認めなかった。口調からなにかを恐れているような雰囲気や、口はばったそうな雰囲気も感じられない。

そもそも、仮に「兄貴」が不良ベトナム人マフィアの元締めのような人物であれば、こんな貸家で他の不法滞在者たちと小鮒や雑草を食べ、雑魚寝をして暮らすような生活はしていないはずだろう。

フェイスブックにアップされていたさも「マフィア」っぽい写真も、よく見ると「兄貴」が手にしているのはおそらくモデルガン、他の舎弟が持っている長大な刃物は、ベトナムでは一般家庭に常備されている牛刀である。靴やジーンズも高級感がなさそうに見える。

技能実習制度は、身も蓋もない言い方をするならば、ベトナムの「情弱」なマイルドヤンキー層の若者を甘言で釣り、低賃金の労働力を必要とする日本の中小企業に送り込む仕組みだ。ゆえに来日する人のなかには、タトゥーくらいは入れているヤンチャなブルーカラーの人も少なからずいる。

「兄貴」のフェイスブック写真に一緒に写っていた舎弟たちも、ひょっとしたらそういう人たちではなかったか──? 一種のコスプレとして、ヤンチャ仲間とマフィアのふりをしてみただけのようにも思えるのである。


・賭博、闇市、豚解体…ナンパアプリと「群馬の末弟」から見えた“ベトナム人アングラ社会”の現実(文春オンライン 2021年1月4日)

安田 峰俊

※──そこは、相変わらずの群馬だった。

場所は群馬県館林市上三林町である。赤城颪が吹きすさぶ師走の畑を歩き、手元の写真に合致する家を探し回る。私たちが捜索していたのは、豚の肉や内臓をSNSを通じて無許可で販売していたことで、12月2日に食品衛生法違反(無許可販売)の疑いで逮捕されたベトナム人男女2人の住居である。豚肉の入手経路は当然ながら不明だが、報道では彼らが窃盗肉を転売している可能性があるとされていた。

2020年11月中旬以降、在日ベトナム人による家畜窃盗疑惑を追いかけている私たちは、「群馬の兄貴」の異名で知られるレ・ティ・トゥン容疑者(39)ら男女13人が入管法違反などの疑いで逮捕された群馬県太田市新田上中町の貸家、豚を自宅アパート風呂場で解体した容疑(と畜場法違反)で1人が逮捕された埼玉県上里町三町のアパート、さらにベトナム人4人が同容疑で逮捕された太田市由良町の豚解体アパートなどを探し出し、手土産を持って突撃取材を続けてきた。

これらのうち、新田上中町の 兄貴ハウス と埼玉の 豚解体風呂 は取材に成功し、由良町のアパートは住人不在のため失敗した。12月20日、上三林町での「豚販売男女」宅の特定と訪問は、4番目のアタックになるはずだった。

「豚売り男女」の自宅を特定
 
この日の捜索チームのメンバーは、私と、ベトナム難民2世で通訳を担当する23歳のT、さらに参加を立候補してくれた新メンバーの女子大生L嬢(後述)だ。私たちは地道に情報収集を続け、日没が迫った午後4時になり「豚売り男女」の自宅を特定。場所は地域の土地持ちの老人の離れの貸家だった(老人への取材は断られた)。

部屋数は合計4部屋で、問題の部屋は2階。ほかに1階にもベトナム人らしき住民が入居しており、ドアの付近には買い物のレシートや外国人名が書かれたATMの利用明細が落ちていた。では、「豚売り男女」についてはどうかといえば──。

「隣の夫婦は逮捕以来、帰ってないよ。もう出ていった」

隣戸に入居している日本人男性はそう話した。豚の売買や解体をおこなうベトナム人は逃亡した技能実習生が多く、アジト化した安物件に4~10人ほどで集住しがちだが、今回の男女はなぜか、本当に2人だけで住んでいたらしい。

「Nearby」(近くにいる人を探す)をオンにすると……
 
たまには、このように空振りすることもある。だが、私たちは情報収集の過程で驚くべき事実を発見した。

それは、日本人の女の子がベトナム製のメッセンジャーアプリ『zalo』にログインして「Nearby」(近くにいる人を探す)機能をオンにすると、近所に住んでいる技能実習生や不法滞在者のベトナム人男性の情報を大量に取得できることであった。zaloはLINEやWeChatに似たアプリだが、ベトナムではしばしばナンパツールとして用いられている。

数十人の“ナンパ男”からメッセージ
 
今回の取材チームに新たに加わったL嬢は、2016年に不法滞在者のベトナム人男性と交際。当時、太田市郊外の技能実習生寮の庭で開かれた不良ベトナム人たちのパーティーに招かれ、技能実習生の一人が近所の牧場からかっぱらった子豚の丸焼きを振る舞われたという稀有な体験の持ち主だ。

(ちなみに在日ベトナム人による家畜窃盗は、必ずしも組織的な犯行ではなく、過去長年にわたり彼らの間で小規模におこなわれ続けてきた行為だったのが、ベトナム人労働者の急増とコロナ禍による困窮によって新規参入者や窃盗肉の転売者が増加。結果的に日本人にも気づかれるレベルの被害規模になっている──。というのが、 『文藝春秋』1月号 でも書いた私の見立てである)。

さておき、そんなL嬢が群馬県の田んぼの真ん中で「Nearby」機能を使うと、近所に隠れ住むベトナム人のナンパ男たちが“置いてけ堀”の魚さながらにどんどん釣れはじめた。

半日ほどの間に、メッセージが来たのは数十人、テレビ電話をおこなった人も7~8人にのぼった。通話したうち3人は不法滞在者であり、その他の多くは技能実習生だ(ほかに変わり種として、ベトナム人に車両を売っている日本語ペラペラのパキスタン人が引っかかった)。

隣で様子を見ていると、出会い系アプリで「ダラメ」(だらだらとメッセージのリレーを続ける行為)を続けがちな日本人と違って、ベトナム人男性にはマッチングが成功した瞬間にテレビ電話を掛けてくるアグレッシブな人が多いようである。

奇妙な群馬ブラザーズ
 
結果、私たちはzalo取材を通じて、太田市内に暮らす「E Út Gunma」(日本語では「群馬の末っ子」)というハンドルネームの人物を発見する。本人が公開している情報をたどる限り、彼は新田上中町の「群馬の兄貴」のアジト(兄貴ハウス)に居住している。しかも、彼は大量の一万円札を手にした写真をアップロードしていた。

さらに、さまざまな方法で兄貴ハウスに居住するベトナム人たちのzaloやフェイスブックのアカウントを特定したところ、他の一部住人についても同様の札束写真や、賭博をおこなっている写真のアップロードを確認できた。

また、前回訪問時には「留置場で蒸れるので頭髪を剃った」と話していたスキンヘッド姿の一団が、本当は自分の意思でスキンヘッドにしていたことも判明した。日本とは違い、中華圏やベトナムにおけるスキンヘッドは(警官や僧侶を除けば)「不良の証」と言っていい。

カネとバクチと「群馬の兄貴」
 
昨今の家畜盗難事件について、群馬県警は10月以降に20人近いベトナム人を逮捕したが、大部分の容疑者は不起訴処分となり釈放。起訴された数人の容疑者についても入管法違反などの別件による起訴となっている。

こうした捜査結果や、前回までの兄貴ハウス訪問の際の証言から考える限り、「群馬の兄貴」一派の家畜窃盗疑惑はシロ(少なくとも証拠不十分)であって、大捕物をおこなったはずの群馬県警の失態は明らかだ。だが、そのことは兄貴ハウスの住人の全員が100%品行方正な人たちであることを示すわけではない。もちろん、なかにはカタギの人もいるのだが、明らかにヤンチャな住民も一定数存在している。

そもそも、兄貴ハウスに強制捜査が入った10月26日に逮捕されたベトナム人の一人・Nは、賭博の借金の返済をめぐるトラブルから同胞を拉致し、自宅(兄貴ハウス)に監禁した容疑が持たれていた。Nは結果的に証拠不十分で釈放されているが、兄貴ハウスに違法賭博をおこなうベトナム人が複数居住し、少なからぬカネが動いていたことは、他の仲間のzaloやフェイスブックの投稿からも明らかである。

豚窃盗疑惑はおそらく濡れ衣だった「群馬の兄貴」についても、感心できる素行の人物ではない。太田市内に住むベトナム人の証言によると、兄貴は伊勢崎市内にあったベトナム人向け飲食店「カラオケ・ハノイ」の雇われ店長のような立場にあり、店内で不法滞在者(≒逃亡技能実習生)のベトナム人たちにポーカー賭博の場所を提供していたという。

工場から逃亡して不法滞在者に

「トゥン君(「群馬の兄貴」)はもともと、悪い人間じゃなかった。タトゥーも入れておらず、髪の毛も普通に伸ばしていた。小柄で優しげな感じの、普通の人だったんだ」

ところで、ちょっとおもしろいエピソードがある。第三者を介した取材で得た情報ではあるが、「群馬の兄貴」ことレ・ティ・トゥンの過去の同僚がこうした証言をおこなっているのだ。かつて彼らは、兄貴ハウスからほど近い場所にある旋盤工場に勤めていたという。

証言によれば、トゥンはおそらく2010年代に入ってから留学生として来日した。日本語学校から専門学校へと進み、なんと合法的な就労ビザである技人国ビザ(「技術・人文知識・国際業務ビザ」)の取得に成功する。その勤務先となったのが、群馬県太田市郊外のある旋盤工場だった。

だが、「兄貴」は仕事になじめなかったらしい。専門学校で身につけたスキルを使う機会は少なく、やがて現在から2年すこし前に技人国ビザを取り消され、短期滞在ビザに書き換えられてしまう。

本来、この手のビザ書き換え処分は珍しいことではなく、行政書士に相談するなどすれば再び技人国ビザに戻すことが可能なケースも多い。しかし、気の小さいトゥンは技人国ビザの取り消しに動揺し、そのまま工場から姿を消して不法滞在者になってしまった。彼本人は技能実習生ではなかったが、結果的には逃亡した技能実習生たちと似たような身分になったというわけである。

「旋盤絶望37歳」が“兄貴”に変わるまで
 
それまで真面目なベトナム人労働者だったトゥンが、頭髪を剃り上げ、腕にタトゥーを入れたお馴染みの「群馬の兄貴」姿になったのは、なんと2018年のテト(旧正月)以降だという。同年に37歳になる男性の、遅まきの不良デビューだったのである。

証言者いわく「悪い仲間」と付き合いはじめたのもこの時期からだった。すなわち、スキンヘッドの博徒集団のことであり、トゥンは調子に乗ってしばしば大規模なパーティーを開くなどしていた(zaloで見つけた「群馬の末弟」も、そうした仲間の一人だったようだ)。

不良ベトナム人は、フェイスブックの不法滞在者コミュニティなどで、ニセの車検証や偽造の在留カード、飛ばしの携帯や預金通帳、来歴不明(多くは盗難)の果物や肉の転売などを盛んに行っている。なかには、真の売り手は別にいて、フェイスブックに書き込んだ販売情報を通じて顧客が購入するだけで1000円ほどのマージンが入るシステムもある。

10月26日の逮捕後、「群馬の兄貴」は逮捕容疑である入管法違反や偽造在留カードの使用は認めたが、豚の窃盗についてはかたくなに否認し(他の仲間も同様)、事実として豚の窃盗容疑では立件されていない。フェイスブックで多くのフォロワーを抱える兄貴の「真の罪」とは、せいぜいマージン目的で肉の販売情報を掲載した程度のことだったかとみられる。

不良キャリア2年目でイキりたい盛りだった彼は、本当は小物なのに悪目立ちしていたせいで、日本の官憲から実態以上の巨大組織犯罪のボスであると勘違いされてしまった可能性が高い。

技能実習制度と巨大な地下社会
 
──さておき、彼らを追う過程で見えてくるのは、令和の北関東の大地の裏側に広がる、ベトナム人アングラ社会の想像以上の広大さだ。

前回記事でも書いた通り、技能実習制度とは、ベトナムの「情弱」なマイルドヤンキー層の若者を甘言で釣り、低廉な労働力として日本の中小企業に送り込む仕組みである。

衰退を続ける日本の社会には、マイナス面に目をつむってでも安価な労働力を輸入せねばならない事情もあるに違いない。ただ、2019年まで2年連続で9000人前後の逃亡者を出し続けてきたいびつなシステムこそ、北関東の畑のなかに半グレ層ベトナム人たちの巨大なアングラ社会を作り上げた元凶であることもやはり事実だ。

「群馬の兄貴」一派の摘発にまつわる騒動は、この大いなる矛盾が表社会へと吹き出した最初の事件だったのかもしれない。


・相次ぐベトナム人犯罪のなぜ? 「ひとり月500円」「性接待も日常的」……実習生送り出し機関の“悪質な手口”(文春オンライン 2020年11月22日)

室橋 裕和
 
※ベトナム人による犯罪が相次いでいる。その背景だと語られるのは彼らの労働環境の劣悪さだ。しかしもうひとつ、実習生を送り出してくるベトナム現地機関にも悪質なものが多いことはあまり知られていない。ベトナム人経営の送り出し機関が、同じベトナム人を搾取し、そこに日本人が寄生しているという図式があるのだ。

◆ ◆ ◆

「まず一度、ベトナムに行ってみませんか?」

人手不足に悩む地方の中小零細企業、とくに建設関連の会社を回っているブローカーは、まずこう切り出すという。

ベトナム側の送り出し機関は首都ハノイにとりわけ多い

「技能実習生の候補生たちが日本語を学んでいる現場を見てから、彼らを雇うかどうか決めてはいかがでしょう。もちろん渡航費用はこちらでお出しします」

そう誘われて、企業の担当者はそれまで縁もなかったベトナムに向かうことになる。同行するのは営業をかけてきた「紹介会社」などと称する日本人ブローカー、それに地域にある実習生受け入れの組合(監理団体)の日本人担当者だ。

監理団体は英語でいうとアクセプト・オーガナイザー、つまり受け入れ機関だ。この団体が、ベトナム側にあるセンド・オーガナイザー、つまり送り出し機関を通じて、技能実習生を受け入れ、各企業が雇う。送り出し機関はベトナム人の経営だ。

技能実習制度は「海外の送り出し」と「日本の受け入れ」双方があって成り立つものなのだが、そこに悪質なブローカーが寄生していることがベトナムの場合、非常に多い。

良くも悪くもエネルギッシュなベトナム人の国民性

そんなブローカーの営業を受けて実習生の導入を検討し始めた企業の担当者は、ベトナムに到着すると、流暢に日本語を話す送り出し機関のベトナム人に出迎えられる。クルマはたいてい、アルファードかヴェルファイア。まず向かうのは「日本語センター」などと呼ばれる学校だ。送り出し機関はたいてい日本語学校を兼ねているが、やはり悪質なところもかなり混じっているという。

「性接待」も日常的…送り出し機関“ベトナムツアー”の実態
 
教室をのぞいてみれば生徒たちがいっせいに立ち上がり、

「ようこそお越しくださいました! いらっしゃいませ! 私たちは日本の技術を学びたいです! 一生懸命がんばります!」

などと、日本語で声を合わせて唱和する。異様な光景だが、

「もちろん事前に、客が来るからピシッとしとけ、と言いつけられています」

と語るのは送り出し機関の関係者で、この手の“ツアー”にたびたび同行している日本人Tさん。校内を回った一行が、校長室や応接室で次に見せられるのは、山のような日本語検定の合格証の束だ。日本語能力試験(JLPT)、日本語NAT-TEST……どれも高得点で生徒たちの優秀さをアピールするが、

「詳しい人が見れば、このテストはサインの位置がおかしい、役所の印鑑が異なる、点数配分が違うといったことがわかります」(Tさん)

偽造である。ろくに日本語を教えず、書類だけ偽造している送り出し機関が多いのだが、それに気づかず企業の担当者はいたく感心して宿泊先のホテルへと案内される。そこにベトナムの美女たちが待っているのもよくある手口だ。

ベトナムも経済発展を続けているが、まだまだ「海外出稼ぎ」は多い

「好きな子を選んでください」

と迫られ、きっぱり断れる企業担当者はあまりいないという。こうして夕食まで2時間ほど、計算されたように空いた時間を部屋で楽しむことになる。その後の夕食や飲みの席は、女性がかいがいしく担当者を世話する。

「うちはひとりアタマ月500円でいいですよ」
 
旅程はたいてい、2泊3日。最後の最後に契約の話となる。

実習生を受け入れる企業は、監理費という形で、実習生ひとり当たり毎月2~5万円を組合に払う必要がある。このうち一部は送り出し機関にも還流されていく。もちろん話を仲介したブローカーも「分け前」にあずかるのだが、

「うちはひとりアタマ月500円でいいですよ」

などと、極めて良心的なことを言う。監理費や、実習生来日後の研修費などを含めても、日本人を雇うよりはるかに安い。

こうして大満足の視察を終えた担当者は、社長に報告をするのだ。ベトナム人は失踪や犯罪のイメージがあるかもしれないが、私が行った学校の生徒はとても優秀であいさつもしっかりしていて、費用も安いし……。

「じゃあ、20人ばかり入れてみるか」

こうして、送り出し機関とブローカーの巧みな連携で、日本語能力の低い実習生たちが次々と入国してくることになる。

親の土地や田畑を担保に借金を負う実習生たち
 
ブローカーはもちろん、実習生ひとり当たり月500円の利益で満足しているわけではない。

ベトナム人実習生が日本に旅立つまでの費用は、健全な送り出し機関の場合60~70万円といわれる。日本語学習や、そのための寮生活、食費、パスポートの取得代金、役所での書類手続きといった費用だ。ちなみにインドネシアやラオスの場合は30万円ほど、ネパールは50万円前後といわれる。物価や、その国の役所の「取り分」によってもさまざまだ。

しかしベトナムでブローカーが絡んだ場合、その額におよそ80~100万円が上乗せされて、送り出し機関から実習生へと請求される。

「実習生を目指すのはほとんどが、地方の農村の子たちです。もちろんそんなお金は払えない。そこで借金ということになるのですが、送り出し機関を経営するベトナム人は、元銀行員など金融関連の職歴を持った人が多いのです」(Tさん)

田舎で送り出し機関に夢を見せられ日本へやってきて、はじめて搾取の構造に気がつくベトナム人も多い

彼らのツテでブローカーの利益も含めた150~200万円ほどの借金を負うことになるのだが、その場合に担保となるのは実習生の実家の土地や家、田畑、それに両親の生命保険だ。

「加えて高額な金利が課されます。まともな送り出し機関であれば年利5%ほどですが、悪質な送り出し機関は20%を超える年利を要求してくる」(Tさん)

ほかに借りる当てもないし、そもそも地方の農村で暮らしていた実習生もその家族も、あまり知識を持ち合わせていない。スマホは持っていてもSNSと動画サイトくらいで、なにかを検索して調べようというリテラシーにも乏しい。そういう層にあえて営業をかけて「人買い」をしているわけだが、そのため実習生も「なにかおかしい」と薄々感じていながらも、借金の契約を交わしてしまえばもう日本へ行くしかなくなる。

失踪、犯罪へと追い込む仕組み
 
ベトナム人実習生を受け入れた担当者は、はじめの1か月ほどは彼らの真面目な働きぶりに安心して、胸をなでおろすのだ。

ところが、2か月目には休みがちになる。無断欠勤が目立つようになる。3か月も経つとそれが常態化し、パチンコを覚えて入り浸る者も出てくる。やがて寮の部屋はもぬけの殻となり、失踪してしまう。典型的なパターンだが、実習生は担当者の陰で送り出し機関の金利がどれほどにきついものか、日本で働き返済を始めてようやく気がつき、絶望するのだ。

もちろん日本側の企業が、残業代の不払いや寮費のピンハネなどあの手この手で最低賃金の実習生を食い物にしている実態もあるのだが、加えて送り出し機関の金利が彼らを圧迫する。これはちょっと返せないと感じ、無気力になり、労働意欲を失う。逃亡する。

ベトナム北部の農村。実習生の多くはこうした地方の出身だ

焦った担当者は送り出し機関の窓口ともなっているブローカーに連絡をするが、親切だった態度は一変し、

「うちは500円しかもらってないんですよ。それでどうしろって言うんですか。それより、まだまだ生徒はいますから、次の入れましょうよ。何人ですか」

とあしらわれるのだ。それならこちらは組合や警察、入管にも相談をすると返すと、スマホに送られてくるのは、あのとき一夜をともにしたベトナム女性との密会の様子、いわゆる「ハメ撮り」の写真だ。

愕然とした担当者は、社長や組合、入管に頭を下げ、自分の管理不行き届きだと謝罪し、話はうやむやとなり、もうベトナム人は懲り懲りだ、となる。ブローカーや送り出し機関に累が及ぶことはない。

「それでもまた別のブローカーがこういう会社を訪れます。そしてまたベトナムに視察に行き、同じことを繰り返す人も多いのです」(Tさん)

借金を背負った実習生のリストが出回っている
 
実習生たちは、あてもなく逃げるわけではない。

日本で知り合ったベトナム人や、同じ元実習生に誘われて、さまざまな仕事に就いていく。在留カードを偽造して、ベトナム人経営の会社に潜り込んでいるケースもあるし、いま問題になっているように窃盗団や薬物売買の組織に取り込まれることもある。

というのも、実習生が日本に着いたときから、いやベトナムで借金をしたときからすでに「これだけの額を借りている人間が、この県のこの会社で来月から働く」といった情報、リストが出回るのだ。これは送り出し機関のベトナム人から、日本に住みグレーあるいはブラックな仕事をしているベトナム人に流され、活用される。

「来日間もないうちから、金利と低待遇にあえぐ実習生に近づき、親密になるベトナム人が必ずいるものです。仕事を放棄し、失踪する実習生はほとんど、こうした連中の誘いに乗ったものです」(Tさん)

借金を背負わされ、犯罪へと追い立てられ、分かり切った結末に追い込まれていく。ベトナム人の犯罪が多発している要因はここにある。その絵図を描いているのは同胞のベトナム人と、実習生を奴隷としか見ていない日本人だ。

自らを搾取した送り出し機関に就職する実習生も

技能実習制度を根本から変えないと、日本人もベトナム人も不幸になるばかりだ

「ベトナムには300~400の送り出し機関があると言われますが、そのうち半数くらいは悪質なブローカーが関与しているように思います」(Tさん)

こうした厳しい搾取を乗り越えて、借金を返済し、3年間の技能実習を無事に終えて帰国する優秀なベトナム人もいる。日本語や日本で学んだ技術を活かしてステップアップしていくケースもあるのだが、

「目立つのは送り出し機関に就職するパターンです」(Tさん)

今度は自分が流暢な日本語で、日本の中小企業の人事担当者を出迎える立場になるのだ。借金を背負わされた側が、借金を背負わせる側へと回る。そんな負のスパイラルがある。

技能実習制度という制度そのものを根本から見直し、悪質な送り出し機関やブローカーを排除する仕組みを作る必要がある。でなければ、ベトナム人による犯罪が日本ではこれからも増えるし、搾取されるベトナム人も減ることはないだろう。