・水道民営化と関空タンカー事故を外国に売り渡した謎の補佐官(NEWSポストセブン 2019年1月12日)
※日本の水道や空港を外資に"開放"する──生活に密着したインフラの民営化は、重大な国家政策の転換点だ。だが、かつての郵政民営化のような国を二分しての議論が起きないまま、それらの法改正はあっさりと、そして次々と決まっていった。そこには、仕掛け人たちの周到な計画があった。『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』『地面師』などの話題作を連発するノンフィクション作家の森功氏が"国家の盲点"を抉り出す。
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コンセッション方式による民営化──。そんな言葉を昨年秋の臨時国会あたりから、しばしば耳にするようになった。民間の資金やノウハウを活用して公共施設の建設や維持管理、運営をするPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)の一種とされる。
PFIは古く1999年、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)として、施行されてきたが、なかなか使い勝手が悪く浸透しなかった。
そこで、2011年の法改正で、公共施設の運営を長期間民間企業に任せるコンセッション方式が導入された。コンセッションを単純に直訳すれば「譲歩」「譲与」。平たくいえば、公共団体の所有する施設の「運営権」を民間に販売し、利益の一部をバックさせて赤字経営を建てなおす手法だ。企業と30~50年の長期の契約をし、公共インフラの経営を任せる民営化事業である。
民間企業がこれまで都道府県や市町村の手掛けてきた水道料金の徴収をすることになる。政府は先の臨時国会でそのコンセッション導入のために必要な水道法の改正に踏み切った。水道事業がにわかに注目されてきた。
「世界の水道事業は水メジャーと呼ばれる仏の『スエズ・エンバイロメント』や『ヴェオリア・ウォーター』、英の『テムズ・ウォーター』の3社が支配している。民営化すれば、そこに日本も牛耳られる」
そんなドメスティックな心配を始め、反対の声があがった。民営化の進む欧州では民営化の失敗も目立っているため、野党はそこを突いた。
「水道事業の独占により、料金が高騰した」
「水質の低下を引き起こし、環境悪化が進んだ」
「いったん民営化すれば自治体のノウハウが失われ、もとに戻せない」
といった塩梅だ。海外の事例を見ると、これらは単なる杞憂とも思えない。オランダの民間調査によれば、2000年以降の17年間、世界33か国267都市で水道事業が再び公営化されている。一方、政府は3例の海外の現地調査を実施したのみで、民営化に踏み切ろうとしているという。
いきおい臨時国会は揉めた。12月10日の会期末を控えた5日午後の衆院厚生労働委員会では、立憲民主党の初鹿明博が、水道民営化の旗振り役だった内閣官房長官補佐官にまで追及の矛先を向けた。
「公共サービス担当の補佐官である福田隆之氏が6月にフランスに出張した際、ヴェオリア社の副社長と会食し、スエズ社の用意した車を移動に使っていた。ワイナリーにも行っています。その件の報告を(内閣府に)求めたところ、いまだ報告がありません」
官房長官補佐官だった福田隆之は、コンセッション方式による水道民営化の仕掛人として、すっかり永田町で有名になった。繰り返すまでもなく、ヴェオリアとスエズは民営化後の日本市場への参入を虎視眈々と狙っている。
福田は水道の民営化を進める当事者でありながら、海外事業者から便宜を図ってもらっているのではないか──そんな趣旨の怪文書が出回っていた。
当の福田はコンセッションの民間有識者として政府の検討会に加わり、そこから官房長官補佐官に抜擢された異色の経歴を持つ。ところが、臨時国会が始まった直後の11月9日付で、唐突に補佐官の職を辞任。その原因が、この怪文書の流出ではなかったか、とも囁かれた。
ところが安倍政権では、例によっていくら反対の声があがろうが、疑惑があろうがお構いなしだ。初鹿の質問があった12月5日、法案の採決を強行、翌6日の衆院本会議で改正水道法を成立させた。水道事業の民営化を巡っては、大きな疑念を残したまま国会の幕を閉じたことになる。
おまけに目下、政府の進めるコンセッションは、これだけではない。すでに空港や下水道では外資が参入し、民営化されている。今年、一挙に増えそうなのだ。
◆関空民営化も手掛けた
水メジャーとの関係が取り沙汰された当の福田が最初に取り組んだのが、関西国際空港の民営化である。
関空は2016年4月、政府の出資する「新関西国際空港」から伊丹市の大阪国際空港とともに運営を引継ぎ、民間の関空エアポートとしてスタートした。日本のオリックスと仏のヴァンシ・エアポートが40%ずつ出資して設立されたコンソーシアム企業だ。
オリックスから山谷佳之が社長(CEO)に就任し、ヴァンシから副社長(共同CEO)としてエマヌエル・ムノントを招いた。空港経営の事業期間は44年。関空エアポートが利益の中から2兆円以上を旧会社の借金返済に充て、経営を健全化すると謳っている。空港コンセッションの事実上の第一号事案として脚光を浴びてきた。
ところが、その関空が昨年9月4日、台風21号の襲来により、パニックに陥った。なぜ、ここまで混乱したのか。あきらかなコンセッションの失敗事例といわざるをえないのである。
〈災害対策について〉。関空を運営する「関西エアポート」が、12月13日付でそう題し、レポートを公表した。台風の襲来から実に3か月半も経た調査結果である。その割には中身がスカスカというほかない。
レポートには「災害対策タスクフォース立ち上げ」として、〈ハード/ソフト面の両面から以下の3つの観点で検討する〉と記されている。「護岸タスクフォース」(予防)、「地下施設タスクフォース」(減災、早期復旧)、「危機対応(管理)体制タスクフォース」(予防、減災・緊急対応、早期復旧)とある。3番目が肝心なソフト面の災害対応だろうが、こう書かれているだけだ。
〈災害発生時の状況を振り返って検証し、減災・緊急対応から早期復旧における意思決定の一元化・迅速化を含めた危機対応体制の再構築〉
あまりに抽象的に過ぎてどこが問題だったのか、さっぱりわからない。
◆中国人を優先避難の怪
台風21号の被害では、関空と対岸の泉佐野市を結ぶ連絡橋に燃料タンカーが衝突した。ありえない事故の映像が衝撃的だったが、災害対応という点では、それよりもっと深刻な問題があった。ある航空会社の役員はこう憤った。
「いちばん最初の混乱は、関空側が発表した空港島滞留者3000人という数字でした。目視で関空の職員が数えたところ、空港島に残されている飛行機の乗客がそれだけだった、とあとから言っていました。
しかし、3000人という数字が独り歩きし、それが乗客だけの数なのか、働いている人数も含めた数字なのか、わからない。空港に勤務する従業員は1万人以上いる。滞留者の状況も把握せず、とにかくバスを出して移送させようとしていたのは明らか。だから従業員が乗客に混じって脱出したり、余計に混乱したのです」
関空では、9月4日午後1時頃から浸水が始まった。2本ある滑走路のうち被害の大きいのは地盤沈下の激しい古い1期島の滑走路で、ターミナルビルが水浸しになり、地下の配電盤が故障して停電した。
空港を運営する関西エアポートはこうした事態に戸惑いっ放しだ。空港島に取り残された人たちの移送を始めたのは、一夜明けた5日早朝からだ。ここでは滞留者を8000人と修正したが、その時点でも乗客と空港従業員の区別ができていない。
移送手段は110人乗りのフェリーと50人乗りのリムジンバスだ。とりわけリムジンバスのピストン輸送で、対岸の泉佐野まで利用客を運ぼうとした。だが、わずか4km足らずの連絡橋の移送に深夜11時までかかる始末だった。そんな混乱のなかで悲劇も起きた。
「中国領事館から空港に連絡があり、泉佐野まで迎えに行くから団体ツアー客をまとめて運んでほしいと要請があったのです。それで中国人ツアー客は専用バスで橋を渡り、中国領事館はたいそう感謝した。けど、それを知った台湾人旅行者が、なぜ台湾外交部は同じような対応ができなかったのか、と騒ぎだしたのです」(同前)
そしてSNSなどで責められた台北駐大阪経済文化弁事処(領事館に相当)の代表が14日、自殺してしまう。むろん空港側の過失だとはいわないが、移送に手間取り、パニック状態の中で起きた悲劇なのは間違いない。
空港のような公共性の極めて高い交通インフラの運営は難しい。とりわけ災害時には、対策能力が問われる。関空エアポートの元幹部社員は、こう手厳しく指摘した。
「台風21号では、まさに関空のお粗末さを露呈したといえます。一つは責任の所在の曖昧さ。空港運営のノウハウを仏のヴァンシに頼りながら、オリックスから来ている山谷社長が運営の責任を負うことになっている。2頭立ての体制で、どちらが陣頭指揮をとるのかさえはっきりしてない。ふだんの運営もそうですが、災害時の連絡や広報でとくにその拙さを露呈してしまったわけです」
◆「何、まごまごやってるんだ」
交通インフラである空港には、利便性や安全性が不可欠だが、被災した道路や鉄道をいかに迅速に復旧できるかが重要なポイントでもある。先の航空会社役員が言う。
「ところが、関空は当初、1週間は空港を閉鎖すると言っていたのです。たしかに飛行機を飛ばさなければ、事故は起きないし、混乱は避けられます。が、それでは空港がなくてもいいという話。
実は1期島の滑走路はすぐには使えませんでしたが、2期島の滑走路は1期島に比べると3.5メートルくらい地盤がかさ上げされているので、浸水もほとんどしてない。台風の翌日にでも飛行機を飛ばせる状態だったし、実際、LCC(格安航空会社)のピーチなどはそう主張していました。でも、ターミナルのトイレが壊れているとか、ガスがまだ来ていないとか、四の五の理由をつけて再開しようとしなかったのです」
空港を所管する国交省も早期の復旧を求めたが、民営化されている以上、強制はできない。台風当日の4日から5日にかけ空港再開の議論はあったが、コンセッション方式では、あくまで民間企業が空港運営を担うため、所管する大阪航空局でも従わざるを得ないのだという。
ところが6日朝になると、事態が動いた。先の航空会社役員が続ける。
「安倍(晋三)総理が、関空は明日から再開すると非常災害対策本部会議でぶち上げたのです。われわれも驚きましたが、あとから聞くと、国交省から第二滑走路は大丈夫だと情報があがっていて、それを受けた総理が会議で話したようなのです。台風から丸一日以上経っても、関西エアポートが全然動かないのでね」
内閣危機管理監の高橋清孝から台風被害の報告を受けた首相の安倍と官房長官の菅義偉は、首相補佐官の和泉洋人に指揮を任せた。和泉は国交省と連携をとり、対策チームをつくったとされる。
そうなると、当初空港の再開を渋っていた関空も従わざるをえない。
「(国交省)大阪航空局が関係者連絡会議を開き、状況を整理して官邸にレポートしていました。そこで官邸側から『何、まごまごやってるんだ』という指示が飛んできたと聞いています。それを総理の発言が後押しした格好で、総理が言っているのに何やっているんだというシグナルのようなものでしょう」(同前)
実は9月6日にも新千歳空港発の1便を関空に着陸させる計画だった。だが、同日に発生した北海道地震でそれを断念し、7日からの2期島滑走路の運航となったという。7日にはピーチの17便に加え、JALも2便が飛んだ。
むろん1期島の滑走路や鉄道の復旧には時間を要したが、台風被害から3日目の空港再開については、まずまず評価が高い。しかし、それは民営化された関空エアポートが主導した作業ではない。関係者たちにとっては、むしろ足を引っ張られたというのが実感だという。
「災害対策を通じてわかったのは、日本のオリックスと外資のヴァンシの覇権争い。それは好きにしてくれていいけど、挙げ句、経営陣とこれまで働いてきた空港の専門スタッフとの意思疎通がまったくできてない。空港運営現場のリアリティを感じないのです」(同前)
台風から3か月半経って災害レポートを発表した関空エアポート専務の西尾裕はこう言った。
「今度のレポートは最終形態の形をとっていますが、対策の詳細はこれから詰めていきます。最初に発表した滞留者の3000人は職員の目視で推計したものであり、8000人の内訳については調べていません」
本格的な空港コンセッションの第一号事案として、インバウンド効果の強烈なフォローのおかげでようやく利益を出せるようになった関空。もとはといえば、官房長官補佐官に就任する前、福田が大阪府知事だった橋下徹にコンセッションの導入を働きかけて実現したものだ。そこから福田は補佐官として全国の空港民営化、さらに水道へと手を広げてきた。
だが、民営化は魔法の杖ではない。赤字の公共事業に明るい未来が開けるわけでもない。
・橋下氏、東国原氏、竹中氏らがブレーンとして重用した謎の男(NEWSポストセブン 2019年1月23日)
通常国会の召集を前に、置き去りにされた議論がある。「水道と空港の民営化は本当に安全なのか」という問題だ。昨年9月に発生した関西空港のタンカー事故と、12月に成立し物議を醸した水道民営化法案は、民間企業に運営を任せる「コンセッション」という言葉と、ひとりの仕掛け人の存在で繋がっていた。それはどのように生み出されたのか。ノンフィクション作家・森功氏が知られざる経緯を辿る。(文中敬称略)
【写真】関西空港の復旧の遅れはコンセッションの弊害か
◆元大臣の告白
「コンセッションについては、検証が必要だとは思っています。たとえばインバウンドが右肩上がりで増えているような状況において、空港がうまくいく余地はある。しかし、需要が落ちる事業、市場が縮小していくものについては、果たして半永久的にコンセッションが可能かどうか。そこは慎重に検討しなければなりません。水道などはその一つかもしれません」
国土交通大臣を務めた前原誠司(国民民主党)がそう語る。10年前の民主党政権時代、従来の公共事業の民間化を取り入れようとしてきたのが、ほかならない前原である。その前原でさえ、今ではコンセッションに異議を唱えている。
前原が国交大臣として取り組んだ一つが、政府の管理する新関西国際空港の民営化だ。のちにそれが実を結び、仏の空港運営会社「ヴァンシ・エアポート」と日本のオリックスが40%ずつ株を出資してつくった「関西エアポート」が、関空および大阪国際空港(伊丹空港)の運営権を買い取った。そうして2016年4月、空港コンセッションの本格的な第一号として鳴り物入りでスタートしたのである。
その空港コンセッション第一号の迷走ぶりは、前号(週刊ポスト2019年1月18・25日号)で書いた通りだ。昨年9月の台風21号の上陸で、滑走路が水浸しになってパニックに陥る。急きょ、首相補佐官の和泉洋人や国交省が乗り出して空港の復旧にこぎ着けたものの、企業統治(ガバナンス)の欠如や災害時の対応の拙さをモロに露呈した。昨年の事態について前原に尋ねた。
「災害時にどこが責任を持つか。おそらく(コンセッション)契約の中身が、その想定に入っていなかったのだと思います。国も対応が決まっていなかったので、初めはオリックスさんとヴァンシさんでやってくださいよとなった。いや、それは国でやることでしょう、とお互い押し付け合いになる。それで混乱したのでしょう。戦争や大規模震災などの有事では、空港という重要インフラは国が一義的に責任を持たなきゃいけない。それを契約のときに決めておく必要があるのです」
さすがに関空を民営化した張本人だけに、あからさまに「コンセッションの失敗だ」とは言わない。
「衆院本会議場での隣がたまたま石井啓一国土交通大臣なので、国土交通大臣経験者同士として話す機会がありました。で、関空のほか、自然災害によるインフラ整備は国費でテコ入れすると言っていました。ああいう災害が起き、検証できて対応策がとれたのだから、むしろ私はよかったんじゃないかと思います」
しかし前号で書いた通り、その検証作業は4か月経た今でも、さほど進展した様子がない。そもそも放っておいてもインバウンドで利益が上がるなら、コンセッションによる民営化が必要だったのかどうか。そんな疑問すら湧く。
◆「竹中先生が連れてきた」
このコンセッションの旗振り役が、昨年11月まで官房長官補佐官だった福田隆之である。昨年暮れの臨時国会で、水道民営化の推進役としてその存在が取り沙汰されたが、一般にはあまり知られていない。
1979年千葉県生まれの39歳。福田は2002年3月に早大教育学部を卒業し、野村総合研究所に入社して公共事業の政策を研究するようになったという。いったいどんな人物なのか。
もともと政治や行政への関心が旺盛だったのだろう。福田は早大で政治サークル「鵬志会」に入り、大学4年時の2001年11月には、その延長線上でNPO法人「政策過程研究機構」を設立、代表に就任した。
「鵬志会は彼の原点で、その頃から自民党青年局の学生部に出入りし、早大の先輩議員の選挙を手伝っていました。卒論のテーマが『ニューパブリック・マネージメント』。文字通り、公共事業の民営化がテーマでした。そして大学卒業後、野村総研に就職してからもNPO『政策過程研究機構』の活動を続けていました。早大に通っていた東国原(英夫)さんが2006年に宮崎県知事選に出馬するにあたり、そのマニフェスト作成に関わりました。もともと有名人好きなのでしょうね」(知人の一人)
前知事の談合事件を批判して出馬した東国原は「そのまんまマニフェスト」なる公約で「宮崎県を変える」と民間活力による地域経済の活性化を謳い、当選した。
それで自信を得たのかもしれない。福田はそこから折々の政権中枢に近づき、自らの政策を実現させていく。
日本におけるコンセッションの源流をたどれば、民主党政権時代の国交大臣だった前原が、福田を有識者として政府の委員会に招聘したことに始まる。紹介者が小泉純一郎政権時代に規制緩和で鳴らした竹中平蔵だという。小泉は「官から民へ」、前原は「コンクリートから人へ」というスローガンを掲げたが、つまるところ公共事業を減らすという政策だ。
「国土交通大臣として私は、選挙公約として掲げてきた高速道路の無料化に取り組み、そこで親交のあった竹中平蔵先生にアドバイスを頂戴しました。そしてあるとき朝食会に竹中先生が福田さんを連れて来られ、紹介されました。で、国土交通省の中に成長戦略会議をつくって福田さんにメンバーに入ってもらったのです。その中でインバウンドをどう増やすか、という大きなテーマを掲げた」
2009年9月に誕生した民主党政権で、前原は鳩山由紀夫内閣の1年間、国交大臣を務めた。目下、成長戦略における安倍政権の看板政策である訪日外国人旅行者の拡大政策は、その実、民主党時代の発想でもあった。
福田はPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)やPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)政策の専門家として、野村総研から国交省の成長戦略会議に初めて出席した。それが2009年12月14日の第5回会議だ。と同時に、大阪府知事だった橋下徹も会議に招かれ、関空のLCC(格安航空)拠点化やインバウンド政策について、話し合っている。
以来、前原と竹中の後押しを得た福田は成長戦略会議だけでなく、内閣府のPFI推進委員会にも参加するようになる。公共施設の建設から維持管理まで民間に任せるPFIそのものは1999年から導入されていたが、なかなか定着しなかった。そこで福田は、PFI法の改正を働きかけていく。
そして2011年5月、法改正により政府や自治体が施設を所有したまま公共事業の運営を任せる新たなコンセッションの導入が可能になる。民主党では、鳩山から菅直人に政権が移り、前原は国交大臣から外務大臣に横滑りしたが、コンセッションには肩入れした。
◆震災で民営化が加速
折しもこの年の3月11日、東日本大震災が東北一円を襲った。宮城県では津波が仙台空港に到達し、滑走路の航空機が流されていく衝撃的な場面がニュースで流れた。菅内閣は空港再建のため、関空に続く仙台空港の民営化に乗り出した。
ちなみに、水道コンセッションは、空港より遅れて計画された感があるが、実は同時に進んでいたという。
「水道コンセッションもここから始まっています。東日本大震災が起きた直後の2011年5月、私は福田さんと仙台に行って村井(嘉浩)知事とお話をしました。このとき仙台空港の民営化だけじゃなく、水道も提案したのです」
前原がこう振り返った。
「沿岸部がすべて津波で壊滅的な被害を受けた。そこで村井知事に、広域の自治体協議会をつくり、一体的に上下水道を管理、運営できるように改組してはどうか、そこに民間の経営手法を取り入れたらどうですか、と提案しました。まだコンセッションとは呼んでいなかったけど、村井知事は仙台空港と宮城の水道の両方を検討し、先に空港に手を付けたわけです」
水道コンセッションには法改正が必要なため、後回しになったわけだ。全国の自治体の中では、宮城県が最も水道コンセッションに前のめりだとされるが、それは東日本大震災のときのこうした経緯があったからにほかならない。
周知のように民主党政権は2009年から2012年12月までの3年しかもたなかった。現実には、それを引き継いだ第二次安倍政権で、コンセッションが動き始めたといえる。そこでも、民主党政権のときと同じく、中心は竹中-福田のラインだ。
自民党が政権に返り咲く前夜の2012年3月、政府委員会に参加する有識者として顔を売った福田は、国内3大監査法人の一角である「新日本有限責任監査法人」にヘッドハンティングされる。パブリック・マーケッツ推進本部インフラストラクチャー・アドバイザリーグループの金融・PPP・PFI担当エグゼクティブディレクターという肩書で、取り組んだのが関空のコンセッションだ。大阪府知事だった橋下徹もいたく福田を評価し、福田は翌4月、関空と水道コンセッションを進めるべく、大阪府の特別参与にも就任する。
一方、竹中平蔵は第二次安倍政権が誕生すると、明くる2013年1月、日本経済再生本部の下に置かれた「産業競争力会議」のメンバーに抜擢された。官房長官の菅義偉が竹中を推薦したとされる。菅は第三次小泉改造内閣時代に総務大臣だった竹中の下で副大臣を務めて以来、竹中の政策を信奉し、今でも頻繁に会っている。産業競争力会議は2016年9月、「未来投資会議」に衣替えするが、アベノミクスの成長戦略を担うエンジンとして期待されてきた。
◆関空から官邸へ
福田はその竹中の右腕として仕えてきた。二人は空港と水道のコンセッションを実現すべく、二人三脚で取り組んできたといえる。
たとえば2013年4月3日の「産業競争力会議」テーマ別会合では、竹中が次のように提案している。
「規制改革の突破口としての特区を今までと違う形で大幅に拡充したい。もう一つは、官業の民間開放としてのコンセッションを今までとは違うスケールで進めるという点。この2つが実現すれば、日本の経済にかなり違った景色をつくれるのではないか」
念を押すまでもなく、竹中の挙げた2点のうち、特区の見直しは加計学園問題で注目された「国家戦略特区」であり、もう一つが福田と進めるコンセッションだ。政府の関係者が打ち明けてくれた。
「竹中先生がこうした委員会で提案する際のバックデータとして資料作りを担ってきたのが、福田さんでした。それだけでなく、会議にも出てきて竹中先生をサポートする。その構図は未来投資会議においても同じでした」
実際、産業競争力会議関連の議事録を見ると、竹中と福田がコンビで登場する場面がやたらと目立つ。とりわけ2014年2月の「第2回産業競争力会議フォローアップ分科会」(立地競争力等)以降、毎回のように二人がそろって出席している。一例を挙げると、2015年4月13日に開かれた「第15回産業競争力会議」の実行実現点検会合にも、福田が民間の有識者として参加し、こうぶち上げている。
「(公共施設の)運営権の場合は(中略)民間に設定されるが、資産そのものは行政側に残る。行政側に残る資産は、当然何か大規模な災害などが発生した場合には復旧をしたりしないといけない。復旧をするときに交付税や補助金でその復旧財源を国から補填してもらう必要があると考えていくと(中略)公営企業を維持しなければ、交付税や補助金をもらうことが現状はできない」
そうして竹中や福田は、関空や仙台空港のコンセッションに取り組んできた。わけても関空では、新日本有限責任監査法人が政府のアドバイザー企業に選ばれ、そこに籍を置く福田は関空コンセッション検討チームのリーダーになる。関空の関係者が明かした。
「ところがいざやってみると、きちんとした計画ができない。福田氏のつくった実施計画の素案を見て財務省が激怒したのです。ごく簡単にいえば、財務省は関空の借金返済にこだわっていたが、彼の素案では、仮定の計画ばかりで現実には返済のあてがないという内容。それでメンバーを替え、再び検討し直した。しかし彼は、解決策を探っていくギリギリの議論についてこれなかったのかもしれません。いつの間にか、検討会に参加しなくなり、懇意の村井知事の進める仙台空港に乗りかえていきました」
これでは会社にも居づらくなったのかもしれない。そうこうしているうち、福田は新日本有限責任監査法人を退社してしまう。気づくと、内閣官房長官補佐官に就任していたという。
「竹中先生はずっと福田氏を使ってきましたから、福田氏が竹中先生に相談し、菅官房長官に推薦したのではないでしょうか。それで、2015年12月の年の瀬になり、官房長官が補佐官就任を記者発表した。さすがに驚きました」(関空関係者)
2016年1月1日付で官房長官補佐官に就任した福田は、以前にも増して権勢を振るうようになる。同月に開かれた内閣府PPP/PFI推進室の「PPP/PFI推進タスクフォース全体会合」第1回では、議長の和泉に次ぐナンバー2の議長代理として参加。水道コンセッションのほか、北海道7空港の民営化を取り仕切っていく。(以下続く)
・水道民営化の裏で…菅長官の元補佐官にくすぶるタカリ疑惑(日刊ゲンダイDIGITAL 2018年12月8日)
※6日、衆院本会議で成立した改正水道法。野党は「審議不十分」と反発したが、与党は5日の衆院厚生労働委で審議なしで採決を強行。これから国民の“命の水”が国内外の民間業者にバンバン売られかねない。とりわけ、水ビジネスを世界展開する“水メジャー”にとって、未開拓の日本市場は「垂涎の的」。外資による水支配のレールを敷いたのは、菅官房長官の“懐刀”で補佐官だった福田隆之氏だ。
■“水メジャー”からアゴ足付き接待
福田氏は2016年1月、民間から菅の補佐官に抜擢された。民間資金の活用による公共施設の整備運営(PFI)のスペシャリストとして公共サービス改革を担当したが、先月、突然辞任。「臨時国会直前から福田氏がPFIを巡ってリベートを要求していたという“怪文書”が永田町に出回り、慌てた官邸がクビを切ったのではないか」(永田町関係者)とささやかれている。
福田氏に関する疑惑は水道法審議でも取り上げられた。きのうの衆院本会議では、立憲民主党の初鹿明博議員が、次のように反対の演説をした。
「官房長官の補佐官がフランス出張の際には『ヴェオリア社』の副社長と食事を共にし、水メジャー『スエズ社』から移動のための車を提供してもらうなど、利益相反が疑われる事態も明らかになっています。水メジャーがこのような便宜供与を行う理由は法改正が行われれば、一定の利益を得ることができると考えているからこそで、今、国と契約関係にないから利益相反に当たらないとはとても言えない」
「ヴェオリア」も「スエズ」もフランスの水メジャーだ。福田氏のおかげかどうかは不明だが、すでに日本の市場に食い込んでいる。ヴェオリアは、今年4月から静岡県浜松市で下水道の運営を開始。スエズは先月7日、前田建設と日本の上下水道で業務提携する覚書を結んだ。
加えて、“怪文書”には昨年6月に福田氏が欧州に出張した際の旅程が書かれているが、これまた福田氏と水メジャーの“癒着”をにおわすような中身なのだ。
「9日間もの長期日程で、パリ↓ボルドー↓バルセロナ↓カンヌ↓ロンドンと回っています。ロンドンとパリ以外の各地で水処理施設を視察したようですが、どれも有名な観光地ばかり。事実なら遊び半分と見られても仕方ない。パリで宿泊した夜に、ヴェオリアから接待を受けたともいわれています。福田氏は補佐官に就任してから3回、フランスに出張していますが、水道局を視察せずにヴェオリアと頻繁に会っています。官邸の水道民営化推進は水メジャーと組んだ“出来レース”ではないか」(野党関係者)
もし疑惑が本当なら、福田氏は利害関係者から「アゴ足」付きの接待を受けていたことになる。真偽を確かめるため福田氏の携帯を数回にわたって鳴らしたが、ついに電話に出ることはなかった。
ヴェオリアを巡っては、日本法人の社員が、水道などの民営化を手掛ける内閣府の「民間資金等活用事業推進室」に出向していることが分かっている。福田氏と外資との“癒着”疑惑も合わせて考えると、官邸と水メジャーはズブズブの“共犯関係”である可能性が高い。
こうして、売国政権に日本が潰されていく。
・水道民営化で特需か 仏ヴェオリア日本人女性社長の“正体”(日刊ゲンダイDIGITAL 2018年12月11日)
※10日閉幕の臨時国会で安倍政権が強行成立させた「水道民営化法」のバックで、菅官房長官の元補佐官が暗躍していた疑惑を日刊ゲンダイは報じた(12月8日号)が、この事業にはもうひとり、気になる人物がいる。元補佐官が接待を受けたフランスの水メジャー「ヴェオリア」の日本法人社長・野田由美子氏。公職に就いていた10年ほど前、民間資金の活用による公共施設の整備運営(PFI)を推進する内閣府の委員会の委員としてPFIの旗振り役をしていたのだ。自分で提案してその後、自分がプレーヤーになる――。あの竹中平蔵東洋大教授とソックリじゃないか。
野田社長は1982年に東大卒業後、外資系金融機関やコンサル会社を経て、2007年6月に横浜市副市長に就任(09年9月に退任)。当時、内閣府の「民間資金等活用事業推進委員会総合部会」の委員に名を連ねていた。
副市長時代には、メディアのインタビューにも「日本におけるPFI普及の第一人者」として登場。<「民」が必死で頑張った結果が、企業としての利益だけではなく、国民に安くて良質な公共サービスという形で還元される。PFIの考え方こそ、日本が必要としているものではないかと感じたんです〉と話していた。
その野田氏は昨年9月、ヴェオリアの日本法人である「ヴェオリア・ジャパン」の社長に就任。同社はすでに今春から静岡県浜松市で下水道施設の運営権を獲得している。「水道民営化法」が成立したことで、全国で上下水道の民営化が加速することが予想され、ヴェオリア社がウハウハなのは間違いない。
しかもヴェオリア社からは、女性社員が内閣府のPFI推進室に出向中であることが、法案審議中の先月、参院厚労委で明らかになってもいる。内閣府はこの女性を、公募で選び、昨年4月から2年間の予定で採用したとしながら、「一般的な海外動向調査に従事し、政策立案はしていない」と苦しい答弁だった。質問した社民党の福島みずほ議員は、「まるで受験生が採点する側に潜り込んで、いいように自分の答案を採点するようなものだ」と言っていたが、野田社長にしろ、女性社員にしろ、役所とのパイプを生かして商売につなげる典型といえる。
「『竹中平蔵効果』とでも言うのでしょうか。純粋な民間人ではできないことを、政府の中に紛れ込むことによって実現し、甘い汁を吸う。企業にとっては権力と民間をつなぐ、得難い人物になる。国家戦略特区などでも見られた構図です」(政治評論家・本澤二郎氏)
企業が儲けて、国民も安くて良質な公共サービスを享受……。海外では水道民営化が失敗して再公営化が続出しているというのに、そんなバラ色の話、本当にあるんだろうか。
※日本の水道や空港を外資に"開放"する──生活に密着したインフラの民営化は、重大な国家政策の転換点だ。だが、かつての郵政民営化のような国を二分しての議論が起きないまま、それらの法改正はあっさりと、そして次々と決まっていった。そこには、仕掛け人たちの周到な計画があった。『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』『地面師』などの話題作を連発するノンフィクション作家の森功氏が"国家の盲点"を抉り出す。
* * *
コンセッション方式による民営化──。そんな言葉を昨年秋の臨時国会あたりから、しばしば耳にするようになった。民間の資金やノウハウを活用して公共施設の建設や維持管理、運営をするPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)の一種とされる。
PFIは古く1999年、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)として、施行されてきたが、なかなか使い勝手が悪く浸透しなかった。
そこで、2011年の法改正で、公共施設の運営を長期間民間企業に任せるコンセッション方式が導入された。コンセッションを単純に直訳すれば「譲歩」「譲与」。平たくいえば、公共団体の所有する施設の「運営権」を民間に販売し、利益の一部をバックさせて赤字経営を建てなおす手法だ。企業と30~50年の長期の契約をし、公共インフラの経営を任せる民営化事業である。
民間企業がこれまで都道府県や市町村の手掛けてきた水道料金の徴収をすることになる。政府は先の臨時国会でそのコンセッション導入のために必要な水道法の改正に踏み切った。水道事業がにわかに注目されてきた。
「世界の水道事業は水メジャーと呼ばれる仏の『スエズ・エンバイロメント』や『ヴェオリア・ウォーター』、英の『テムズ・ウォーター』の3社が支配している。民営化すれば、そこに日本も牛耳られる」
そんなドメスティックな心配を始め、反対の声があがった。民営化の進む欧州では民営化の失敗も目立っているため、野党はそこを突いた。
「水道事業の独占により、料金が高騰した」
「水質の低下を引き起こし、環境悪化が進んだ」
「いったん民営化すれば自治体のノウハウが失われ、もとに戻せない」
といった塩梅だ。海外の事例を見ると、これらは単なる杞憂とも思えない。オランダの民間調査によれば、2000年以降の17年間、世界33か国267都市で水道事業が再び公営化されている。一方、政府は3例の海外の現地調査を実施したのみで、民営化に踏み切ろうとしているという。
いきおい臨時国会は揉めた。12月10日の会期末を控えた5日午後の衆院厚生労働委員会では、立憲民主党の初鹿明博が、水道民営化の旗振り役だった内閣官房長官補佐官にまで追及の矛先を向けた。
「公共サービス担当の補佐官である福田隆之氏が6月にフランスに出張した際、ヴェオリア社の副社長と会食し、スエズ社の用意した車を移動に使っていた。ワイナリーにも行っています。その件の報告を(内閣府に)求めたところ、いまだ報告がありません」
官房長官補佐官だった福田隆之は、コンセッション方式による水道民営化の仕掛人として、すっかり永田町で有名になった。繰り返すまでもなく、ヴェオリアとスエズは民営化後の日本市場への参入を虎視眈々と狙っている。
福田は水道の民営化を進める当事者でありながら、海外事業者から便宜を図ってもらっているのではないか──そんな趣旨の怪文書が出回っていた。
当の福田はコンセッションの民間有識者として政府の検討会に加わり、そこから官房長官補佐官に抜擢された異色の経歴を持つ。ところが、臨時国会が始まった直後の11月9日付で、唐突に補佐官の職を辞任。その原因が、この怪文書の流出ではなかったか、とも囁かれた。
ところが安倍政権では、例によっていくら反対の声があがろうが、疑惑があろうがお構いなしだ。初鹿の質問があった12月5日、法案の採決を強行、翌6日の衆院本会議で改正水道法を成立させた。水道事業の民営化を巡っては、大きな疑念を残したまま国会の幕を閉じたことになる。
おまけに目下、政府の進めるコンセッションは、これだけではない。すでに空港や下水道では外資が参入し、民営化されている。今年、一挙に増えそうなのだ。
◆関空民営化も手掛けた
水メジャーとの関係が取り沙汰された当の福田が最初に取り組んだのが、関西国際空港の民営化である。
関空は2016年4月、政府の出資する「新関西国際空港」から伊丹市の大阪国際空港とともに運営を引継ぎ、民間の関空エアポートとしてスタートした。日本のオリックスと仏のヴァンシ・エアポートが40%ずつ出資して設立されたコンソーシアム企業だ。
オリックスから山谷佳之が社長(CEO)に就任し、ヴァンシから副社長(共同CEO)としてエマヌエル・ムノントを招いた。空港経営の事業期間は44年。関空エアポートが利益の中から2兆円以上を旧会社の借金返済に充て、経営を健全化すると謳っている。空港コンセッションの事実上の第一号事案として脚光を浴びてきた。
ところが、その関空が昨年9月4日、台風21号の襲来により、パニックに陥った。なぜ、ここまで混乱したのか。あきらかなコンセッションの失敗事例といわざるをえないのである。
〈災害対策について〉。関空を運営する「関西エアポート」が、12月13日付でそう題し、レポートを公表した。台風の襲来から実に3か月半も経た調査結果である。その割には中身がスカスカというほかない。
レポートには「災害対策タスクフォース立ち上げ」として、〈ハード/ソフト面の両面から以下の3つの観点で検討する〉と記されている。「護岸タスクフォース」(予防)、「地下施設タスクフォース」(減災、早期復旧)、「危機対応(管理)体制タスクフォース」(予防、減災・緊急対応、早期復旧)とある。3番目が肝心なソフト面の災害対応だろうが、こう書かれているだけだ。
〈災害発生時の状況を振り返って検証し、減災・緊急対応から早期復旧における意思決定の一元化・迅速化を含めた危機対応体制の再構築〉
あまりに抽象的に過ぎてどこが問題だったのか、さっぱりわからない。
◆中国人を優先避難の怪
台風21号の被害では、関空と対岸の泉佐野市を結ぶ連絡橋に燃料タンカーが衝突した。ありえない事故の映像が衝撃的だったが、災害対応という点では、それよりもっと深刻な問題があった。ある航空会社の役員はこう憤った。
「いちばん最初の混乱は、関空側が発表した空港島滞留者3000人という数字でした。目視で関空の職員が数えたところ、空港島に残されている飛行機の乗客がそれだけだった、とあとから言っていました。
しかし、3000人という数字が独り歩きし、それが乗客だけの数なのか、働いている人数も含めた数字なのか、わからない。空港に勤務する従業員は1万人以上いる。滞留者の状況も把握せず、とにかくバスを出して移送させようとしていたのは明らか。だから従業員が乗客に混じって脱出したり、余計に混乱したのです」
関空では、9月4日午後1時頃から浸水が始まった。2本ある滑走路のうち被害の大きいのは地盤沈下の激しい古い1期島の滑走路で、ターミナルビルが水浸しになり、地下の配電盤が故障して停電した。
空港を運営する関西エアポートはこうした事態に戸惑いっ放しだ。空港島に取り残された人たちの移送を始めたのは、一夜明けた5日早朝からだ。ここでは滞留者を8000人と修正したが、その時点でも乗客と空港従業員の区別ができていない。
移送手段は110人乗りのフェリーと50人乗りのリムジンバスだ。とりわけリムジンバスのピストン輸送で、対岸の泉佐野まで利用客を運ぼうとした。だが、わずか4km足らずの連絡橋の移送に深夜11時までかかる始末だった。そんな混乱のなかで悲劇も起きた。
「中国領事館から空港に連絡があり、泉佐野まで迎えに行くから団体ツアー客をまとめて運んでほしいと要請があったのです。それで中国人ツアー客は専用バスで橋を渡り、中国領事館はたいそう感謝した。けど、それを知った台湾人旅行者が、なぜ台湾外交部は同じような対応ができなかったのか、と騒ぎだしたのです」(同前)
そしてSNSなどで責められた台北駐大阪経済文化弁事処(領事館に相当)の代表が14日、自殺してしまう。むろん空港側の過失だとはいわないが、移送に手間取り、パニック状態の中で起きた悲劇なのは間違いない。
空港のような公共性の極めて高い交通インフラの運営は難しい。とりわけ災害時には、対策能力が問われる。関空エアポートの元幹部社員は、こう手厳しく指摘した。
「台風21号では、まさに関空のお粗末さを露呈したといえます。一つは責任の所在の曖昧さ。空港運営のノウハウを仏のヴァンシに頼りながら、オリックスから来ている山谷社長が運営の責任を負うことになっている。2頭立ての体制で、どちらが陣頭指揮をとるのかさえはっきりしてない。ふだんの運営もそうですが、災害時の連絡や広報でとくにその拙さを露呈してしまったわけです」
◆「何、まごまごやってるんだ」
交通インフラである空港には、利便性や安全性が不可欠だが、被災した道路や鉄道をいかに迅速に復旧できるかが重要なポイントでもある。先の航空会社役員が言う。
「ところが、関空は当初、1週間は空港を閉鎖すると言っていたのです。たしかに飛行機を飛ばさなければ、事故は起きないし、混乱は避けられます。が、それでは空港がなくてもいいという話。
実は1期島の滑走路はすぐには使えませんでしたが、2期島の滑走路は1期島に比べると3.5メートルくらい地盤がかさ上げされているので、浸水もほとんどしてない。台風の翌日にでも飛行機を飛ばせる状態だったし、実際、LCC(格安航空会社)のピーチなどはそう主張していました。でも、ターミナルのトイレが壊れているとか、ガスがまだ来ていないとか、四の五の理由をつけて再開しようとしなかったのです」
空港を所管する国交省も早期の復旧を求めたが、民営化されている以上、強制はできない。台風当日の4日から5日にかけ空港再開の議論はあったが、コンセッション方式では、あくまで民間企業が空港運営を担うため、所管する大阪航空局でも従わざるを得ないのだという。
ところが6日朝になると、事態が動いた。先の航空会社役員が続ける。
「安倍(晋三)総理が、関空は明日から再開すると非常災害対策本部会議でぶち上げたのです。われわれも驚きましたが、あとから聞くと、国交省から第二滑走路は大丈夫だと情報があがっていて、それを受けた総理が会議で話したようなのです。台風から丸一日以上経っても、関西エアポートが全然動かないのでね」
内閣危機管理監の高橋清孝から台風被害の報告を受けた首相の安倍と官房長官の菅義偉は、首相補佐官の和泉洋人に指揮を任せた。和泉は国交省と連携をとり、対策チームをつくったとされる。
そうなると、当初空港の再開を渋っていた関空も従わざるをえない。
「(国交省)大阪航空局が関係者連絡会議を開き、状況を整理して官邸にレポートしていました。そこで官邸側から『何、まごまごやってるんだ』という指示が飛んできたと聞いています。それを総理の発言が後押しした格好で、総理が言っているのに何やっているんだというシグナルのようなものでしょう」(同前)
実は9月6日にも新千歳空港発の1便を関空に着陸させる計画だった。だが、同日に発生した北海道地震でそれを断念し、7日からの2期島滑走路の運航となったという。7日にはピーチの17便に加え、JALも2便が飛んだ。
むろん1期島の滑走路や鉄道の復旧には時間を要したが、台風被害から3日目の空港再開については、まずまず評価が高い。しかし、それは民営化された関空エアポートが主導した作業ではない。関係者たちにとっては、むしろ足を引っ張られたというのが実感だという。
「災害対策を通じてわかったのは、日本のオリックスと外資のヴァンシの覇権争い。それは好きにしてくれていいけど、挙げ句、経営陣とこれまで働いてきた空港の専門スタッフとの意思疎通がまったくできてない。空港運営現場のリアリティを感じないのです」(同前)
台風から3か月半経って災害レポートを発表した関空エアポート専務の西尾裕はこう言った。
「今度のレポートは最終形態の形をとっていますが、対策の詳細はこれから詰めていきます。最初に発表した滞留者の3000人は職員の目視で推計したものであり、8000人の内訳については調べていません」
本格的な空港コンセッションの第一号事案として、インバウンド効果の強烈なフォローのおかげでようやく利益を出せるようになった関空。もとはといえば、官房長官補佐官に就任する前、福田が大阪府知事だった橋下徹にコンセッションの導入を働きかけて実現したものだ。そこから福田は補佐官として全国の空港民営化、さらに水道へと手を広げてきた。
だが、民営化は魔法の杖ではない。赤字の公共事業に明るい未来が開けるわけでもない。
・橋下氏、東国原氏、竹中氏らがブレーンとして重用した謎の男(NEWSポストセブン 2019年1月23日)
通常国会の召集を前に、置き去りにされた議論がある。「水道と空港の民営化は本当に安全なのか」という問題だ。昨年9月に発生した関西空港のタンカー事故と、12月に成立し物議を醸した水道民営化法案は、民間企業に運営を任せる「コンセッション」という言葉と、ひとりの仕掛け人の存在で繋がっていた。それはどのように生み出されたのか。ノンフィクション作家・森功氏が知られざる経緯を辿る。(文中敬称略)
【写真】関西空港の復旧の遅れはコンセッションの弊害か
◆元大臣の告白
「コンセッションについては、検証が必要だとは思っています。たとえばインバウンドが右肩上がりで増えているような状況において、空港がうまくいく余地はある。しかし、需要が落ちる事業、市場が縮小していくものについては、果たして半永久的にコンセッションが可能かどうか。そこは慎重に検討しなければなりません。水道などはその一つかもしれません」
国土交通大臣を務めた前原誠司(国民民主党)がそう語る。10年前の民主党政権時代、従来の公共事業の民間化を取り入れようとしてきたのが、ほかならない前原である。その前原でさえ、今ではコンセッションに異議を唱えている。
前原が国交大臣として取り組んだ一つが、政府の管理する新関西国際空港の民営化だ。のちにそれが実を結び、仏の空港運営会社「ヴァンシ・エアポート」と日本のオリックスが40%ずつ株を出資してつくった「関西エアポート」が、関空および大阪国際空港(伊丹空港)の運営権を買い取った。そうして2016年4月、空港コンセッションの本格的な第一号として鳴り物入りでスタートしたのである。
その空港コンセッション第一号の迷走ぶりは、前号(週刊ポスト2019年1月18・25日号)で書いた通りだ。昨年9月の台風21号の上陸で、滑走路が水浸しになってパニックに陥る。急きょ、首相補佐官の和泉洋人や国交省が乗り出して空港の復旧にこぎ着けたものの、企業統治(ガバナンス)の欠如や災害時の対応の拙さをモロに露呈した。昨年の事態について前原に尋ねた。
「災害時にどこが責任を持つか。おそらく(コンセッション)契約の中身が、その想定に入っていなかったのだと思います。国も対応が決まっていなかったので、初めはオリックスさんとヴァンシさんでやってくださいよとなった。いや、それは国でやることでしょう、とお互い押し付け合いになる。それで混乱したのでしょう。戦争や大規模震災などの有事では、空港という重要インフラは国が一義的に責任を持たなきゃいけない。それを契約のときに決めておく必要があるのです」
さすがに関空を民営化した張本人だけに、あからさまに「コンセッションの失敗だ」とは言わない。
「衆院本会議場での隣がたまたま石井啓一国土交通大臣なので、国土交通大臣経験者同士として話す機会がありました。で、関空のほか、自然災害によるインフラ整備は国費でテコ入れすると言っていました。ああいう災害が起き、検証できて対応策がとれたのだから、むしろ私はよかったんじゃないかと思います」
しかし前号で書いた通り、その検証作業は4か月経た今でも、さほど進展した様子がない。そもそも放っておいてもインバウンドで利益が上がるなら、コンセッションによる民営化が必要だったのかどうか。そんな疑問すら湧く。
◆「竹中先生が連れてきた」
このコンセッションの旗振り役が、昨年11月まで官房長官補佐官だった福田隆之である。昨年暮れの臨時国会で、水道民営化の推進役としてその存在が取り沙汰されたが、一般にはあまり知られていない。
1979年千葉県生まれの39歳。福田は2002年3月に早大教育学部を卒業し、野村総合研究所に入社して公共事業の政策を研究するようになったという。いったいどんな人物なのか。
もともと政治や行政への関心が旺盛だったのだろう。福田は早大で政治サークル「鵬志会」に入り、大学4年時の2001年11月には、その延長線上でNPO法人「政策過程研究機構」を設立、代表に就任した。
「鵬志会は彼の原点で、その頃から自民党青年局の学生部に出入りし、早大の先輩議員の選挙を手伝っていました。卒論のテーマが『ニューパブリック・マネージメント』。文字通り、公共事業の民営化がテーマでした。そして大学卒業後、野村総研に就職してからもNPO『政策過程研究機構』の活動を続けていました。早大に通っていた東国原(英夫)さんが2006年に宮崎県知事選に出馬するにあたり、そのマニフェスト作成に関わりました。もともと有名人好きなのでしょうね」(知人の一人)
前知事の談合事件を批判して出馬した東国原は「そのまんまマニフェスト」なる公約で「宮崎県を変える」と民間活力による地域経済の活性化を謳い、当選した。
それで自信を得たのかもしれない。福田はそこから折々の政権中枢に近づき、自らの政策を実現させていく。
日本におけるコンセッションの源流をたどれば、民主党政権時代の国交大臣だった前原が、福田を有識者として政府の委員会に招聘したことに始まる。紹介者が小泉純一郎政権時代に規制緩和で鳴らした竹中平蔵だという。小泉は「官から民へ」、前原は「コンクリートから人へ」というスローガンを掲げたが、つまるところ公共事業を減らすという政策だ。
「国土交通大臣として私は、選挙公約として掲げてきた高速道路の無料化に取り組み、そこで親交のあった竹中平蔵先生にアドバイスを頂戴しました。そしてあるとき朝食会に竹中先生が福田さんを連れて来られ、紹介されました。で、国土交通省の中に成長戦略会議をつくって福田さんにメンバーに入ってもらったのです。その中でインバウンドをどう増やすか、という大きなテーマを掲げた」
2009年9月に誕生した民主党政権で、前原は鳩山由紀夫内閣の1年間、国交大臣を務めた。目下、成長戦略における安倍政権の看板政策である訪日外国人旅行者の拡大政策は、その実、民主党時代の発想でもあった。
福田はPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)やPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)政策の専門家として、野村総研から国交省の成長戦略会議に初めて出席した。それが2009年12月14日の第5回会議だ。と同時に、大阪府知事だった橋下徹も会議に招かれ、関空のLCC(格安航空)拠点化やインバウンド政策について、話し合っている。
以来、前原と竹中の後押しを得た福田は成長戦略会議だけでなく、内閣府のPFI推進委員会にも参加するようになる。公共施設の建設から維持管理まで民間に任せるPFIそのものは1999年から導入されていたが、なかなか定着しなかった。そこで福田は、PFI法の改正を働きかけていく。
そして2011年5月、法改正により政府や自治体が施設を所有したまま公共事業の運営を任せる新たなコンセッションの導入が可能になる。民主党では、鳩山から菅直人に政権が移り、前原は国交大臣から外務大臣に横滑りしたが、コンセッションには肩入れした。
◆震災で民営化が加速
折しもこの年の3月11日、東日本大震災が東北一円を襲った。宮城県では津波が仙台空港に到達し、滑走路の航空機が流されていく衝撃的な場面がニュースで流れた。菅内閣は空港再建のため、関空に続く仙台空港の民営化に乗り出した。
ちなみに、水道コンセッションは、空港より遅れて計画された感があるが、実は同時に進んでいたという。
「水道コンセッションもここから始まっています。東日本大震災が起きた直後の2011年5月、私は福田さんと仙台に行って村井(嘉浩)知事とお話をしました。このとき仙台空港の民営化だけじゃなく、水道も提案したのです」
前原がこう振り返った。
「沿岸部がすべて津波で壊滅的な被害を受けた。そこで村井知事に、広域の自治体協議会をつくり、一体的に上下水道を管理、運営できるように改組してはどうか、そこに民間の経営手法を取り入れたらどうですか、と提案しました。まだコンセッションとは呼んでいなかったけど、村井知事は仙台空港と宮城の水道の両方を検討し、先に空港に手を付けたわけです」
水道コンセッションには法改正が必要なため、後回しになったわけだ。全国の自治体の中では、宮城県が最も水道コンセッションに前のめりだとされるが、それは東日本大震災のときのこうした経緯があったからにほかならない。
周知のように民主党政権は2009年から2012年12月までの3年しかもたなかった。現実には、それを引き継いだ第二次安倍政権で、コンセッションが動き始めたといえる。そこでも、民主党政権のときと同じく、中心は竹中-福田のラインだ。
自民党が政権に返り咲く前夜の2012年3月、政府委員会に参加する有識者として顔を売った福田は、国内3大監査法人の一角である「新日本有限責任監査法人」にヘッドハンティングされる。パブリック・マーケッツ推進本部インフラストラクチャー・アドバイザリーグループの金融・PPP・PFI担当エグゼクティブディレクターという肩書で、取り組んだのが関空のコンセッションだ。大阪府知事だった橋下徹もいたく福田を評価し、福田は翌4月、関空と水道コンセッションを進めるべく、大阪府の特別参与にも就任する。
一方、竹中平蔵は第二次安倍政権が誕生すると、明くる2013年1月、日本経済再生本部の下に置かれた「産業競争力会議」のメンバーに抜擢された。官房長官の菅義偉が竹中を推薦したとされる。菅は第三次小泉改造内閣時代に総務大臣だった竹中の下で副大臣を務めて以来、竹中の政策を信奉し、今でも頻繁に会っている。産業競争力会議は2016年9月、「未来投資会議」に衣替えするが、アベノミクスの成長戦略を担うエンジンとして期待されてきた。
◆関空から官邸へ
福田はその竹中の右腕として仕えてきた。二人は空港と水道のコンセッションを実現すべく、二人三脚で取り組んできたといえる。
たとえば2013年4月3日の「産業競争力会議」テーマ別会合では、竹中が次のように提案している。
「規制改革の突破口としての特区を今までと違う形で大幅に拡充したい。もう一つは、官業の民間開放としてのコンセッションを今までとは違うスケールで進めるという点。この2つが実現すれば、日本の経済にかなり違った景色をつくれるのではないか」
念を押すまでもなく、竹中の挙げた2点のうち、特区の見直しは加計学園問題で注目された「国家戦略特区」であり、もう一つが福田と進めるコンセッションだ。政府の関係者が打ち明けてくれた。
「竹中先生がこうした委員会で提案する際のバックデータとして資料作りを担ってきたのが、福田さんでした。それだけでなく、会議にも出てきて竹中先生をサポートする。その構図は未来投資会議においても同じでした」
実際、産業競争力会議関連の議事録を見ると、竹中と福田がコンビで登場する場面がやたらと目立つ。とりわけ2014年2月の「第2回産業競争力会議フォローアップ分科会」(立地競争力等)以降、毎回のように二人がそろって出席している。一例を挙げると、2015年4月13日に開かれた「第15回産業競争力会議」の実行実現点検会合にも、福田が民間の有識者として参加し、こうぶち上げている。
「(公共施設の)運営権の場合は(中略)民間に設定されるが、資産そのものは行政側に残る。行政側に残る資産は、当然何か大規模な災害などが発生した場合には復旧をしたりしないといけない。復旧をするときに交付税や補助金でその復旧財源を国から補填してもらう必要があると考えていくと(中略)公営企業を維持しなければ、交付税や補助金をもらうことが現状はできない」
そうして竹中や福田は、関空や仙台空港のコンセッションに取り組んできた。わけても関空では、新日本有限責任監査法人が政府のアドバイザー企業に選ばれ、そこに籍を置く福田は関空コンセッション検討チームのリーダーになる。関空の関係者が明かした。
「ところがいざやってみると、きちんとした計画ができない。福田氏のつくった実施計画の素案を見て財務省が激怒したのです。ごく簡単にいえば、財務省は関空の借金返済にこだわっていたが、彼の素案では、仮定の計画ばかりで現実には返済のあてがないという内容。それでメンバーを替え、再び検討し直した。しかし彼は、解決策を探っていくギリギリの議論についてこれなかったのかもしれません。いつの間にか、検討会に参加しなくなり、懇意の村井知事の進める仙台空港に乗りかえていきました」
これでは会社にも居づらくなったのかもしれない。そうこうしているうち、福田は新日本有限責任監査法人を退社してしまう。気づくと、内閣官房長官補佐官に就任していたという。
「竹中先生はずっと福田氏を使ってきましたから、福田氏が竹中先生に相談し、菅官房長官に推薦したのではないでしょうか。それで、2015年12月の年の瀬になり、官房長官が補佐官就任を記者発表した。さすがに驚きました」(関空関係者)
2016年1月1日付で官房長官補佐官に就任した福田は、以前にも増して権勢を振るうようになる。同月に開かれた内閣府PPP/PFI推進室の「PPP/PFI推進タスクフォース全体会合」第1回では、議長の和泉に次ぐナンバー2の議長代理として参加。水道コンセッションのほか、北海道7空港の民営化を取り仕切っていく。(以下続く)
・水道民営化の裏で…菅長官の元補佐官にくすぶるタカリ疑惑(日刊ゲンダイDIGITAL 2018年12月8日)
※6日、衆院本会議で成立した改正水道法。野党は「審議不十分」と反発したが、与党は5日の衆院厚生労働委で審議なしで採決を強行。これから国民の“命の水”が国内外の民間業者にバンバン売られかねない。とりわけ、水ビジネスを世界展開する“水メジャー”にとって、未開拓の日本市場は「垂涎の的」。外資による水支配のレールを敷いたのは、菅官房長官の“懐刀”で補佐官だった福田隆之氏だ。
■“水メジャー”からアゴ足付き接待
福田氏は2016年1月、民間から菅の補佐官に抜擢された。民間資金の活用による公共施設の整備運営(PFI)のスペシャリストとして公共サービス改革を担当したが、先月、突然辞任。「臨時国会直前から福田氏がPFIを巡ってリベートを要求していたという“怪文書”が永田町に出回り、慌てた官邸がクビを切ったのではないか」(永田町関係者)とささやかれている。
福田氏に関する疑惑は水道法審議でも取り上げられた。きのうの衆院本会議では、立憲民主党の初鹿明博議員が、次のように反対の演説をした。
「官房長官の補佐官がフランス出張の際には『ヴェオリア社』の副社長と食事を共にし、水メジャー『スエズ社』から移動のための車を提供してもらうなど、利益相反が疑われる事態も明らかになっています。水メジャーがこのような便宜供与を行う理由は法改正が行われれば、一定の利益を得ることができると考えているからこそで、今、国と契約関係にないから利益相反に当たらないとはとても言えない」
「ヴェオリア」も「スエズ」もフランスの水メジャーだ。福田氏のおかげかどうかは不明だが、すでに日本の市場に食い込んでいる。ヴェオリアは、今年4月から静岡県浜松市で下水道の運営を開始。スエズは先月7日、前田建設と日本の上下水道で業務提携する覚書を結んだ。
加えて、“怪文書”には昨年6月に福田氏が欧州に出張した際の旅程が書かれているが、これまた福田氏と水メジャーの“癒着”をにおわすような中身なのだ。
「9日間もの長期日程で、パリ↓ボルドー↓バルセロナ↓カンヌ↓ロンドンと回っています。ロンドンとパリ以外の各地で水処理施設を視察したようですが、どれも有名な観光地ばかり。事実なら遊び半分と見られても仕方ない。パリで宿泊した夜に、ヴェオリアから接待を受けたともいわれています。福田氏は補佐官に就任してから3回、フランスに出張していますが、水道局を視察せずにヴェオリアと頻繁に会っています。官邸の水道民営化推進は水メジャーと組んだ“出来レース”ではないか」(野党関係者)
もし疑惑が本当なら、福田氏は利害関係者から「アゴ足」付きの接待を受けていたことになる。真偽を確かめるため福田氏の携帯を数回にわたって鳴らしたが、ついに電話に出ることはなかった。
ヴェオリアを巡っては、日本法人の社員が、水道などの民営化を手掛ける内閣府の「民間資金等活用事業推進室」に出向していることが分かっている。福田氏と外資との“癒着”疑惑も合わせて考えると、官邸と水メジャーはズブズブの“共犯関係”である可能性が高い。
こうして、売国政権に日本が潰されていく。
・水道民営化で特需か 仏ヴェオリア日本人女性社長の“正体”(日刊ゲンダイDIGITAL 2018年12月11日)
※10日閉幕の臨時国会で安倍政権が強行成立させた「水道民営化法」のバックで、菅官房長官の元補佐官が暗躍していた疑惑を日刊ゲンダイは報じた(12月8日号)が、この事業にはもうひとり、気になる人物がいる。元補佐官が接待を受けたフランスの水メジャー「ヴェオリア」の日本法人社長・野田由美子氏。公職に就いていた10年ほど前、民間資金の活用による公共施設の整備運営(PFI)を推進する内閣府の委員会の委員としてPFIの旗振り役をしていたのだ。自分で提案してその後、自分がプレーヤーになる――。あの竹中平蔵東洋大教授とソックリじゃないか。
野田社長は1982年に東大卒業後、外資系金融機関やコンサル会社を経て、2007年6月に横浜市副市長に就任(09年9月に退任)。当時、内閣府の「民間資金等活用事業推進委員会総合部会」の委員に名を連ねていた。
副市長時代には、メディアのインタビューにも「日本におけるPFI普及の第一人者」として登場。<「民」が必死で頑張った結果が、企業としての利益だけではなく、国民に安くて良質な公共サービスという形で還元される。PFIの考え方こそ、日本が必要としているものではないかと感じたんです〉と話していた。
その野田氏は昨年9月、ヴェオリアの日本法人である「ヴェオリア・ジャパン」の社長に就任。同社はすでに今春から静岡県浜松市で下水道施設の運営権を獲得している。「水道民営化法」が成立したことで、全国で上下水道の民営化が加速することが予想され、ヴェオリア社がウハウハなのは間違いない。
しかもヴェオリア社からは、女性社員が内閣府のPFI推進室に出向中であることが、法案審議中の先月、参院厚労委で明らかになってもいる。内閣府はこの女性を、公募で選び、昨年4月から2年間の予定で採用したとしながら、「一般的な海外動向調査に従事し、政策立案はしていない」と苦しい答弁だった。質問した社民党の福島みずほ議員は、「まるで受験生が採点する側に潜り込んで、いいように自分の答案を採点するようなものだ」と言っていたが、野田社長にしろ、女性社員にしろ、役所とのパイプを生かして商売につなげる典型といえる。
「『竹中平蔵効果』とでも言うのでしょうか。純粋な民間人ではできないことを、政府の中に紛れ込むことによって実現し、甘い汁を吸う。企業にとっては権力と民間をつなぐ、得難い人物になる。国家戦略特区などでも見られた構図です」(政治評論家・本澤二郎氏)
企業が儲けて、国民も安くて良質な公共サービスを享受……。海外では水道民営化が失敗して再公営化が続出しているというのに、そんなバラ色の話、本当にあるんだろうか。