・幸福の科学との訣別 私の父は大川隆法だった(文藝春秋BOOKS 2020年3月13日)

宏洋



※この記事は『幸福の科学との訣別』(文藝春秋)「まえがき」を転載しています。

※監視カメラつきの勉強部屋、秘書の体罰、中学受験に失敗して後継者失格に。教祖の長男として生まれながら外界に生きる道を選んだ青年がすべてを告白した。

私の人生で最初の記憶は、東京・練馬区の武蔵関に住んでいた2歳か3歳の頃。近くの武蔵関公園に大きな池があって、その周りを父の秘書と散歩していた光景です。防災行政無線で夕方5時にチャイムが鳴るのを合図に、家へ帰っていました。

どの秘書の方だったかは、記憶にありません。トータルで20~30人替わっていますから、よく覚えていないのです。しかし最も古い記憶の中で、隣りにいるのが父でも母でもなく、秘書の女性なのは間違いありません。

世の中広しといえど、宗教の教祖の家に生まれた人や、家の中に“神様”がいる環境で育った人は、ほとんどいないと思います。

私は1989(平成元)年2月24日 、宗教法人「幸福の科学」の創始者兼総裁・大川隆法の長男として生まれました。妹と弟が2人ずついます。咲也加、真輝、裕太、愛理沙という順です。母のきょう子さんは父と離婚して、教団から追放されました。

父・隆法は教祖であると同時に、人類救済の大いなる使命をもつ地球至高神「エル・カンターレ」でもあって、信者さんにとっては信仰の対象です。

小学校に入る前から、幸福の科学の教義を教えられました。父や母から直接レクチャーを受けることはほとんどなく、教団の職員が家庭教師についていました。

そして、「世の中の一般的な考えは、基本的に間違っている。齟齬があった場合は、我々が正しい。世の中の人が言うことを信じてはいけない」と、常々言い聞かされました。たとえば進化論について、「あれは悪魔の教えだ」「ダーウィンは転生輪廻を否定したせいで、無間地獄に落ちている。自分ひとりしかいない空間に、何万年も閉じ込められているんだ」といった具合です。

自分の置かれた家庭環境が、よその家とはだいぶ違うらしいと気づいたのは、小学校に入ってからでした。学校の外で友だちと会うことは禁止され、誰かの家へ遊びに行く機会もなかったので、なかなか比較ができなかったのです。「宏洋様は生まれつき特別な使命を帯びている人間であって、卒業したら彼らに会うことは二度とないのだから、親しくなってはいけません」と教えられていました。

子どもの頃から抱いていたさまざまな違和感は、次第に膨らんでいき、成長するにつれて消せなくなりました。結果として私は、2018年に自分から教団を離れました。見聞きした内情をYouTubeやTwitterで発信したところ、教団から損害賠償請求の訴訟を起こされている身です。

教祖であり神様である人の家に生まれるということが、どんなに奇妙か。この本では、私が実際に経験した日常を綴っていきたいと思います。

もうひとつ私が伝えたいのは、幸福の科学を熱心に信仰されている信者さんに、「そんなことにお金や時間を費やしても、いいことは何もありませんよ」というメッセージです。

信者の方々は、教団にお布施をします。お金持ちならポンと何百万円も出せるかもしれませんが、普通の方にとってはなけなしのお金であるはずです。そういう貴重な5000円や1万円が、希望されているような神聖な使われ方をしていないことを知ってほしい。

皆さんが身を削るような思いでお布施をしたお金は、隆法が「世界に一つしかないんだ」と自慢するウン百万円やウン千万円の腕時計のほか、女性幹部の高い給料やアクセサリーに化けています。

隆法の腕時計は、基本的に特注です。しかも、基本的に1回しか着けません。特に東京ドームなどでの大きなイベントの際に着けるものは、1回しか使いません。宝石がキンキラキンにちりばめられているお袈裟もウン百万円しますが、やはり基本的に1回しか使いません。

普段着るスーツも全て特注です。大手デパートの外商がやって来て、注文します。隆法にはファッションセンスがないので、女性秘書の方が選びますが、似合っているかどうかは疑問です。そうやってあつらえたスーツも、やはりほぼ1回しか着ません。

大川隆法は至高神「エル・カンターレ」なので、神が身に着けた服や時計は、すべてと宝物いう扱いです。つまり私物ではなく教団の所有物であって、将来は博物館のような場所に陳列されるそうです。

それでもいいからお布施をしたいと思うなら、信者さんの自由です。けれども、現実は知っておいてほしいと思います。

幸福の科学は、幸福実現党という政党を立ち上げて、国会や地方議会の選挙に候補者を立てています。幸福の科学の信者数は、公称1100万人です。子どもの人数を引いても1000万人近い有権者がいるはずですから、今頃は幸福実現党から総理大臣が出ていてもおかしくありません。しかし現実には、一人の国会議員さえ当選させることができません。

隆法は「自分の理想の政治を実現したい」と、30年ほど前の講演会から口にしていました。具体的に言えば、総理大臣になりたいのです。

夢を持つのはいいことです。けれども、選挙のたびに得票数を突き付けられれば、「ああ、これが現実か」と悟って諦めるのが普通でしょう。なのに隆法は、そうはしません。そして、「総裁先生、政治はもう止めましょう」と諫める人は、隆法によってたちまち左遷されてしまうのが、幸福の科学という教団です。

幸福の科学には「足ることを知れ」という教義があります。「欲が過ぎると失敗するよ。分不相応な欲望を持ちすぎると、足を掬われますよ」という、真っ当な教えです。

私は、その教えを大川隆法自身に当てはめるべきだと思っています。欲が過ぎている部分があるからです。贅沢をしたいとか、総理大臣になりたいとか、神として全人類から崇め奉られたいとか、自己顕示欲が出すぎです。

私が教祖と教団に対して言いたいのは、世の中に迷惑をかけないように、身の丈に合わせて、粛々と活動されたらいいということです。

本書は、基本的に私が見聞きし、経験したことで成り立っています。私が生まれ育った環境のこと、家族のことについて詳述しています。

両親、妹弟たち、また教団内の人々、出来事については、幸福実現党という国政を目指す政党の母体である、幸福の科学という教団のこれまでのあり方、未来を語る上で、必要であると考えた部分に限って記述することを心掛けました。