・「謎の異臭」は三浦半島を北上していた! ついに菅総理の自宅に到達(Yahoo!ニュース 2020年10月12日)
※「突然、窓の外から強烈な化学物質の臭いがしたんです。しかも、それが何度も起きています。この異常事態に対する、県やマスコミの扱いが小さすぎます。記者さん、どうか原因を解明してください」

そう本誌記者に訴えかけるのは、神奈川県横須賀市に住む60代の男性だ。
2020年の5月下旬以降、神奈川県の三浦半島で「ゴムが焼けたような臭いがする」「シンナー臭い」という住民の通報が、何度も寄せられている。10月4日付の『神奈川新聞』は6月以降、5回の “異臭騒ぎ” があったと報じているが、原因はいまだに特定されていない。
いったい、当地で何が起きているのか。本誌は現地での聞き取りを中心に、徹底調査をおこなった。三浦半島の南端、三浦市で取材を始めると、ここでは6月4日に “異臭” が発生していたことがわかった。
「すごい臭いなので、換気をするために家の窓を全部開けました。吸い込んで、毒だったら大変ですからね」(三浦市南下浦町・70代男性)
「誰かが外でシンナーをまいているのかと思いましたよ。外に出てみると、パトカーや消防車も来て、騒然としていました。以前、クジラの死骸が浜に上がったことがありましたが、その臭いとも違っていましたね」(三浦市南下浦町・40代女性)
さらに、東京湾沿いを北上し、三浦半島の中部に位置する横須賀市で取材を重ねると、同様の騒動は8月と9月にも相次いで発生していることが判明した。
「汚水のような、腐った卵のような臭いがしました。ガス漏れじゃないかと疑い、機器を確認したほど。同じ異臭は、この夏に何度もありましたよ」(横須賀市浦賀・60代男性)
「私は、6月・8月・10月に異臭に気がつきました。どれも『ゴムが焦げるような臭い』という点は共通しています。5分ほどで消えるのも、同じでした。通報されていないものも含めれば、異臭がする回数は報道よりずっと多いですよ」(横須賀市追浜・50代男性)
5~20分程度で臭いが消えたというケースが大半だったものの、「部屋を換気しないと2時間以上臭いがとれない」「気分が悪くなり、吐きそうになった」など、その被害は深刻なものだった。
10月には、横浜市の中心部でも異臭騒ぎが起きている。
「いままで嗅いだことのない刺激臭でした。『6月に三浦市で始まった騒ぎが、ついに横浜まで来たのか』と、このあたりの住民は、みんな戦々恐々です」(横浜市中区・30代男性)
この「謎の悪臭」は、たしかに北上している。6月に住民が異臭を訴えたのは、三浦半島の南端付近でのみ。その後、横須賀市を経て、横浜市に到達したのだ。横浜市といえば、菅義偉総理(71)の自宅がある街だ。横浜駅すぐ近くにある、総理の自宅タワーマンションの隣の商業施設に勤める男性に、話を聞いた。
「この場所にいて、臭いを感じたことはありません。ただ、異臭に関する通報が殺到した中区は、すぐそこです」
事実、本誌の取材で異臭が確認された場所のなかで、最北端にあたる「横浜市立みなと赤十字病院(横浜市中区)」は、菅総理の自宅からわずか5kmしか離れていない。赤十字病院の設備管理を担当する会社に勤務する、50代の男性社員はこう語る。
「ゴムを焼いたような臭いが空調を通じ、病院内に充満してしまいました。原因は、不明のままです」
そして10月12日、横浜駅で「ガスのような臭いがする」という通報が殺到。ついに菅総理の自宅が悪臭に包まれたのだ。
異臭の原因について、住民の間ではいくつもの臆測が飛び交っている。「下水道のトラブル?」「米軍がジェット燃料を不法投棄したのでは?」といったものから、「大地震の前兆かもしれないから、防災グッズを買った」という人まで、さまざまだ。
“地震の前兆” 説を唱えているのは、災害史を専門とする立命館大学環太平洋文明研究センター特任教授の高橋学氏(66)だ。
「三浦半島は、千葉の房総半島同様、活断層がむき出しになっている地域です。そこで岩石に圧力がかかると、火山灰の地層がないぶん、岩石が割れる前の臭いが、地上まで出やすい。それが、“焦げくさい臭い” なのです。『関東大震災が起きる直前にも、三浦半島でへんな臭いがした』という記録が残っています。
しかも今回、異臭騒ぎの間隔が次第に短くなってきている。いずれ首都圏で海溝型大地震が発生すると考え、警戒すべきです」
一方、この見解について、「三浦半島の異臭は大地震の発生とは、おそらく関係ない」と否定的な立場を取るのは、東京大学地震研究所だ。
「地震は地下数km~数十kmの深部で発生しますが、その深さで発生したガスが、岩石の隙間を伝わって地表まで到達するためには、膨大な量のガスの発生が必要です。その際には、群発地震や地殻変動のような異常が広範囲に観測され、また異臭もより広範囲に広がるはずです」
しかし、そうした事象は報告されていない。したがって現段階では、「異臭を発生させる、直接的な原因を調べるのが先決」と釘を刺す。
では、ほかに考えられる原因はないのか。神奈川県環境科学センターに取材すると、現段階では異臭の原因は「まったく不明」と断わりながらも、考え得る可能性のひとつを挙げてくれた。
「船舶がおこなう『ガスフリー』という作業があります。船に積んでいる石油などのタンクから、溜まったガスを抜くことです。東京湾を航行する船舶は日に300隻ほどもあり、その作業が異臭につながる可能性もあります」
こうしたさまざまな見解に基づき、実際に原因究明の試みも進められている。それを担っているのは、今回の異臭騒ぎに関して神奈川県の窓口になっている、「環境農政局環境部大気水質課」だ。
「報告があった異臭には、ゴムの臭い・ガスの臭い・ニンニク臭・硫黄の臭いと4種類あり、発生源はひとつだけではないと考えています。原因特定には、臭いの元となる物質を採取する必要がありますが、まだできていません。
現在は消防署に依頼し、異臭が発生した際、24時間対応で採取に急行してもらえるよう態勢を整えています」
本誌が今回、住民の証言から明らかにした「 “異臭” の北上」が、原因究明の一助となれば幸いだ。
(週刊FLASH 2020年10月27日号)
・“異臭騒ぎ”の原因の有力説は? 地殻変動説、石油タンク漏れ説、青潮説…専門家の見解(AERA dot. 2020年10月19日)
※6月から三浦半島で相次いで通報のあった異臭騒ぎ。横浜市内でも「ガスのような臭いがする」「ゴムが焼けた臭いがした」との119番通報が相次ぎ、原因は何か、発生源はどこなのかと関心が高まっています。そこで、現時点で考えられる原因などについて、化学の知見から、徳島大学名誉教授・和田眞さん(専門は有機化学)に説明してもらいました。
* * *
■7~14倍の「ガソリン」などに含まれる化合物
異臭がした大気には、一体どんな化学物質が含まれていたのでしょうか。相次ぐ異臭騒ぎを受けて、神奈川県環境科学センターや横浜市環境科学研究所が、横須賀市消防庁舎にて採取された異臭大気を分析しました。ガスクロマトグラフ質量分析計(混合物を分離し、それぞれの分子量を測定する機器)を用いて分析したところ、ガソリンなどの蒸発ガスに含まれる「イソペンタン」、「ペンタン」、「ブタン」が、異臭が感じられなくなった空気と比較して7~14倍の濃度で、またエチレンとアセチレンも2倍以上で検出されたとのことです。
神奈川県の記者発表資料(16日発表)によれば、「異臭が感じられた空気:異臭が感じられなくなった空気中のイソペンタン、ペンタン、ブタンの濃度」は次のとおりでした。単位はppbv(体積1m3中に1mm3の気体が存在する状態を1ppbv、10憶分の1を指す)。イソペンタン(3.2:0.45)、ペンタン(4.2:0.39)、ブタン(7.8:0.55)。
これらの化合物はすべて炭素と水素からできている炭化水素と呼ばれる有機化合物で、いわゆる燃料です。空気中の濃度が高かったブタン、ペンタン、イソペンタンは、炭素の数が4個と5個の炭化水素、ブタン、ペンタンは炭素が直線につながったもの、イソペンタンは、ペンタンの構造異性体(分子量が同じでも構造が異なるもの)で枝分かれしたものです。
ガソリンは、原油を沸点の違いによって分離することで得られ、常温において無色透明の液体で、揮発性が高く臭気を放ちます。成分は炭素数4~10の炭化水素の混合物で、ペンタンやイソペンタンはいわばガソリンそのものと言ってもいいでしょう。これらは、沸点が常温から体温の範囲にあることから、遅効性の発泡剤として、たとえばシェービングフォームや発泡式冷却スプレーなどに利用されています。また、フロンガス(オゾン層破壊物質)に代わって、発泡スチロール(高分子化合物のポリスチレンを発泡させたもの、スーパーの総菜トレイ、トロ箱など)を製造するときの発泡剤として利用されたり、接着剤や印刷用のインキなどに使用されたりしています。
また、ブタンは、卓上ガス缶やライターなどに、エチレンはポリエチレンの原料などに、アセチレンは、金属を溶接するバーナーの燃料などに、それぞれ使われています。
■ 地震の前兆?三浦半島の活断層の地点とは一致せず
炭化水素の化学、そして身の回りのどこで使用されているかの話はさておき、今回の異臭騒ぎの原因と発生源を考えなければなりません。しかし、現時点において、異臭の原因物質が上記の炭化水素であると断定されたわけではありません。なぜならば、今回分析に使われたガスクロマトグラフ質量分析計では検知できない、同定(化合物を特定すること)できない他の物質の可能性もあるからです。
とはいえ、ここまでのデータを基に原因と発生源を考えてみましょう。
(1) 石油化学工場、石油タンク、タンカー説
これらの炭化水素類は、石油化学工場で原油から製造・使用されているので、発生源として、横浜・川崎の湾岸コンビナートにある石油化学工場、また、石油タンク、タンカーが考えられます。安全管理が厳重とはいえ、漏れがあるかもしれません。ちなみにタンカー内のガス類は空気中に放出するそうですが、届け出が必要とのことです。
なお、今回の異臭大気の分析で2倍以上検出されたというエチレンは、ガソリン、正確には粗製ガソリン(ナフサ)を分解(クラッキング)することにより製造されています。この工場が湾岸コンビナートにあるかもしれません。
(2) ガスハイドレート説(地殻変動説)
ガスハイドレートとは、水分子が作る12面体、16面体、20面体のかごの中に、炭化水素ガスがゲストとして取り込まれたシャーベット状の固体物質で、海底深くに存在します。メタンハイドレートが代表的なもので、よく知られています。
ブタン、ペンタンなどがハイドレートを形成しているかどうかは確かではありませんが、海底からこれらの炭化水素が表出しているとすれば地殻に何らかの異常が発生したことが考えられます。そうなれば地震との関係が心配になります。インターネット上では「大地震の前触れ?」などの声がありますが、三浦半島の活断層は異臭の通報があった地点とは一致せず、地震の前兆とは考えにくいようです。
ガスハイドレート説であるならば、メタンガスが検出されなければなりませんが、今回の分析では検出されていません。ただし、メタンの沸点が低いため、検出不能だったかもしれません。
一方、ガスハイドレートとは関係なく、地殻変動によって何らかのガスが発生することは考えられます。関東大震災(1923年)の際に三浦半島で異臭が発生したとの記述、阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災(2011年)でも異臭があったとの報告が気になるところです。
以上の他に、青潮説もありますが、炭化水素が青潮で発生するのかは疑問です。
■ 実は身の回りにある化学物質
神奈川県は、上述の炭化水素は毒性が低く、濃度も低いことなどから、ただちに健康に影響を及ぼすレベルではないとしています。これらの物質はどこにあるのかと関心を呼び、ニュースサイトのコメント欄などでは、「原因がわからないというのは怖い」「臭いの元が人工のものか、地中からのものか」「人工的な異臭なら、早く調査して解決してほしい」などと書き込まれています。いずれにせよ原因物質と発生源の特定がまずは急務ですので、さらなる分析結果を待ちましょう。
・「ガスっぽいにおい」消防も出動 神奈川でまたも異臭騒ぎ(FNNプライムオンライン 2020年10月26日)
※神奈川県でまた異臭騒ぎが発生、住民に不安が広がっている。
横須賀市で10月26日午前11時ごろから「ガスのにおいがする」という内容の通報が合わせて27件あり、消防が出動した。
周辺で取材を進めると異臭を嗅いだという人が相次いだ。
横須賀市民「12時ちょっと前頃ガス臭いなっていう感じはしました。本当にプロパンガスみたいな感じでした。家のガスが漏れてるのかなと思ったんですけど、確かめてみたら漏れてなかったのでなんかちょっと不安ですよね」
横須賀市民B「9時前ぐらい、焦げ臭い感じで、結構いろんなところしていた」
横須賀市民C「6時ぐらいですか、朝。生ゴミみたいな、生臭い感じでした。
前はガソリンの臭いとか、焦げた臭いとかしたときはあったんですけど、日によって何か異臭の感じが違うなというのがありました。不安ですね。怖いですね」
横須賀消防局の庁舎内でも消防職員がガスのにおいを感じ周辺の空気を採取。
また直線で、およそ700メートル離れた横須賀市環境管理課の事務室でもガスのにおいがしたことから職員が空気を採取した。
さらに横浜市の金沢区でも異臭に関する情報が相次ぐなど広い範囲にわたって異臭が発生していたことが分かった。
横浜市金沢区の住民「ガスレンジのガスをひねって火がつかなかったときの都市ガスのにおいとまったく同じような臭いでした。(どのくらいにおいは続いた?)3分ほどは家の中でも漂ってました。」
6月以降、神奈川県内の沿岸部を中心に続いている異臭騒ぎ。
今なお発生原因が特定されていないことを受け、国も動き出している。
10月23日には神奈川県の黒岩知事が小泉環境相と面会した。
神奈川県黒岩知事「住民の皆さん非常に不安に思っているので、成分はある程度見えてきましたけど、なぜそうなっているのかはわからない」
知事は環境省から大気採取のための機器40台を借り受けたことへの感謝を伝えるとともに、県と国が連携して究明を急ぐ方針で一致した。
原因不明のまま不安が募る異臭騒ぎ。
神奈川県は横須賀市で採取された空気の分析を行い、結果は1週間以内にも分かる見通し。
・東京の臨海部で「異臭がする」通報続々、消防車20台出動…正午前に消える(読売新聞 2021年6月6日)
※東京都江東区の臨海部で6日午前、警察や消防に「異臭がする」との通報が相次いだ。東京消防庁などが原因を調べている。
東京消防庁と警視庁によると、通報は午前9時半頃から、江東区の東雲、有明、豊洲、辰巳などの住民から寄せられた。消防車約20台が出動し、12地点でガス検知器による測定が行われたが異常は確認されず、正午前に異臭は消えたという。
江東区豊洲の東雲運河で6日午前に油の流出があり、東京消防庁は異臭との関連を調べている。
※「突然、窓の外から強烈な化学物質の臭いがしたんです。しかも、それが何度も起きています。この異常事態に対する、県やマスコミの扱いが小さすぎます。記者さん、どうか原因を解明してください」

そう本誌記者に訴えかけるのは、神奈川県横須賀市に住む60代の男性だ。
2020年の5月下旬以降、神奈川県の三浦半島で「ゴムが焼けたような臭いがする」「シンナー臭い」という住民の通報が、何度も寄せられている。10月4日付の『神奈川新聞』は6月以降、5回の “異臭騒ぎ” があったと報じているが、原因はいまだに特定されていない。
いったい、当地で何が起きているのか。本誌は現地での聞き取りを中心に、徹底調査をおこなった。三浦半島の南端、三浦市で取材を始めると、ここでは6月4日に “異臭” が発生していたことがわかった。
「すごい臭いなので、換気をするために家の窓を全部開けました。吸い込んで、毒だったら大変ですからね」(三浦市南下浦町・70代男性)
「誰かが外でシンナーをまいているのかと思いましたよ。外に出てみると、パトカーや消防車も来て、騒然としていました。以前、クジラの死骸が浜に上がったことがありましたが、その臭いとも違っていましたね」(三浦市南下浦町・40代女性)
さらに、東京湾沿いを北上し、三浦半島の中部に位置する横須賀市で取材を重ねると、同様の騒動は8月と9月にも相次いで発生していることが判明した。
「汚水のような、腐った卵のような臭いがしました。ガス漏れじゃないかと疑い、機器を確認したほど。同じ異臭は、この夏に何度もありましたよ」(横須賀市浦賀・60代男性)
「私は、6月・8月・10月に異臭に気がつきました。どれも『ゴムが焦げるような臭い』という点は共通しています。5分ほどで消えるのも、同じでした。通報されていないものも含めれば、異臭がする回数は報道よりずっと多いですよ」(横須賀市追浜・50代男性)
5~20分程度で臭いが消えたというケースが大半だったものの、「部屋を換気しないと2時間以上臭いがとれない」「気分が悪くなり、吐きそうになった」など、その被害は深刻なものだった。
10月には、横浜市の中心部でも異臭騒ぎが起きている。
「いままで嗅いだことのない刺激臭でした。『6月に三浦市で始まった騒ぎが、ついに横浜まで来たのか』と、このあたりの住民は、みんな戦々恐々です」(横浜市中区・30代男性)
この「謎の悪臭」は、たしかに北上している。6月に住民が異臭を訴えたのは、三浦半島の南端付近でのみ。その後、横須賀市を経て、横浜市に到達したのだ。横浜市といえば、菅義偉総理(71)の自宅がある街だ。横浜駅すぐ近くにある、総理の自宅タワーマンションの隣の商業施設に勤める男性に、話を聞いた。
「この場所にいて、臭いを感じたことはありません。ただ、異臭に関する通報が殺到した中区は、すぐそこです」
事実、本誌の取材で異臭が確認された場所のなかで、最北端にあたる「横浜市立みなと赤十字病院(横浜市中区)」は、菅総理の自宅からわずか5kmしか離れていない。赤十字病院の設備管理を担当する会社に勤務する、50代の男性社員はこう語る。
「ゴムを焼いたような臭いが空調を通じ、病院内に充満してしまいました。原因は、不明のままです」
そして10月12日、横浜駅で「ガスのような臭いがする」という通報が殺到。ついに菅総理の自宅が悪臭に包まれたのだ。
異臭の原因について、住民の間ではいくつもの臆測が飛び交っている。「下水道のトラブル?」「米軍がジェット燃料を不法投棄したのでは?」といったものから、「大地震の前兆かもしれないから、防災グッズを買った」という人まで、さまざまだ。
“地震の前兆” 説を唱えているのは、災害史を専門とする立命館大学環太平洋文明研究センター特任教授の高橋学氏(66)だ。
「三浦半島は、千葉の房総半島同様、活断層がむき出しになっている地域です。そこで岩石に圧力がかかると、火山灰の地層がないぶん、岩石が割れる前の臭いが、地上まで出やすい。それが、“焦げくさい臭い” なのです。『関東大震災が起きる直前にも、三浦半島でへんな臭いがした』という記録が残っています。
しかも今回、異臭騒ぎの間隔が次第に短くなってきている。いずれ首都圏で海溝型大地震が発生すると考え、警戒すべきです」
一方、この見解について、「三浦半島の異臭は大地震の発生とは、おそらく関係ない」と否定的な立場を取るのは、東京大学地震研究所だ。
「地震は地下数km~数十kmの深部で発生しますが、その深さで発生したガスが、岩石の隙間を伝わって地表まで到達するためには、膨大な量のガスの発生が必要です。その際には、群発地震や地殻変動のような異常が広範囲に観測され、また異臭もより広範囲に広がるはずです」
しかし、そうした事象は報告されていない。したがって現段階では、「異臭を発生させる、直接的な原因を調べるのが先決」と釘を刺す。
では、ほかに考えられる原因はないのか。神奈川県環境科学センターに取材すると、現段階では異臭の原因は「まったく不明」と断わりながらも、考え得る可能性のひとつを挙げてくれた。
「船舶がおこなう『ガスフリー』という作業があります。船に積んでいる石油などのタンクから、溜まったガスを抜くことです。東京湾を航行する船舶は日に300隻ほどもあり、その作業が異臭につながる可能性もあります」
こうしたさまざまな見解に基づき、実際に原因究明の試みも進められている。それを担っているのは、今回の異臭騒ぎに関して神奈川県の窓口になっている、「環境農政局環境部大気水質課」だ。
「報告があった異臭には、ゴムの臭い・ガスの臭い・ニンニク臭・硫黄の臭いと4種類あり、発生源はひとつだけではないと考えています。原因特定には、臭いの元となる物質を採取する必要がありますが、まだできていません。
現在は消防署に依頼し、異臭が発生した際、24時間対応で採取に急行してもらえるよう態勢を整えています」
本誌が今回、住民の証言から明らかにした「 “異臭” の北上」が、原因究明の一助となれば幸いだ。
(週刊FLASH 2020年10月27日号)
・“異臭騒ぎ”の原因の有力説は? 地殻変動説、石油タンク漏れ説、青潮説…専門家の見解(AERA dot. 2020年10月19日)
※6月から三浦半島で相次いで通報のあった異臭騒ぎ。横浜市内でも「ガスのような臭いがする」「ゴムが焼けた臭いがした」との119番通報が相次ぎ、原因は何か、発生源はどこなのかと関心が高まっています。そこで、現時点で考えられる原因などについて、化学の知見から、徳島大学名誉教授・和田眞さん(専門は有機化学)に説明してもらいました。
* * *
■7~14倍の「ガソリン」などに含まれる化合物
異臭がした大気には、一体どんな化学物質が含まれていたのでしょうか。相次ぐ異臭騒ぎを受けて、神奈川県環境科学センターや横浜市環境科学研究所が、横須賀市消防庁舎にて採取された異臭大気を分析しました。ガスクロマトグラフ質量分析計(混合物を分離し、それぞれの分子量を測定する機器)を用いて分析したところ、ガソリンなどの蒸発ガスに含まれる「イソペンタン」、「ペンタン」、「ブタン」が、異臭が感じられなくなった空気と比較して7~14倍の濃度で、またエチレンとアセチレンも2倍以上で検出されたとのことです。
神奈川県の記者発表資料(16日発表)によれば、「異臭が感じられた空気:異臭が感じられなくなった空気中のイソペンタン、ペンタン、ブタンの濃度」は次のとおりでした。単位はppbv(体積1m3中に1mm3の気体が存在する状態を1ppbv、10憶分の1を指す)。イソペンタン(3.2:0.45)、ペンタン(4.2:0.39)、ブタン(7.8:0.55)。
これらの化合物はすべて炭素と水素からできている炭化水素と呼ばれる有機化合物で、いわゆる燃料です。空気中の濃度が高かったブタン、ペンタン、イソペンタンは、炭素の数が4個と5個の炭化水素、ブタン、ペンタンは炭素が直線につながったもの、イソペンタンは、ペンタンの構造異性体(分子量が同じでも構造が異なるもの)で枝分かれしたものです。
ガソリンは、原油を沸点の違いによって分離することで得られ、常温において無色透明の液体で、揮発性が高く臭気を放ちます。成分は炭素数4~10の炭化水素の混合物で、ペンタンやイソペンタンはいわばガソリンそのものと言ってもいいでしょう。これらは、沸点が常温から体温の範囲にあることから、遅効性の発泡剤として、たとえばシェービングフォームや発泡式冷却スプレーなどに利用されています。また、フロンガス(オゾン層破壊物質)に代わって、発泡スチロール(高分子化合物のポリスチレンを発泡させたもの、スーパーの総菜トレイ、トロ箱など)を製造するときの発泡剤として利用されたり、接着剤や印刷用のインキなどに使用されたりしています。
また、ブタンは、卓上ガス缶やライターなどに、エチレンはポリエチレンの原料などに、アセチレンは、金属を溶接するバーナーの燃料などに、それぞれ使われています。
■ 地震の前兆?三浦半島の活断層の地点とは一致せず
炭化水素の化学、そして身の回りのどこで使用されているかの話はさておき、今回の異臭騒ぎの原因と発生源を考えなければなりません。しかし、現時点において、異臭の原因物質が上記の炭化水素であると断定されたわけではありません。なぜならば、今回分析に使われたガスクロマトグラフ質量分析計では検知できない、同定(化合物を特定すること)できない他の物質の可能性もあるからです。
とはいえ、ここまでのデータを基に原因と発生源を考えてみましょう。
(1) 石油化学工場、石油タンク、タンカー説
これらの炭化水素類は、石油化学工場で原油から製造・使用されているので、発生源として、横浜・川崎の湾岸コンビナートにある石油化学工場、また、石油タンク、タンカーが考えられます。安全管理が厳重とはいえ、漏れがあるかもしれません。ちなみにタンカー内のガス類は空気中に放出するそうですが、届け出が必要とのことです。
なお、今回の異臭大気の分析で2倍以上検出されたというエチレンは、ガソリン、正確には粗製ガソリン(ナフサ)を分解(クラッキング)することにより製造されています。この工場が湾岸コンビナートにあるかもしれません。
(2) ガスハイドレート説(地殻変動説)
ガスハイドレートとは、水分子が作る12面体、16面体、20面体のかごの中に、炭化水素ガスがゲストとして取り込まれたシャーベット状の固体物質で、海底深くに存在します。メタンハイドレートが代表的なもので、よく知られています。
ブタン、ペンタンなどがハイドレートを形成しているかどうかは確かではありませんが、海底からこれらの炭化水素が表出しているとすれば地殻に何らかの異常が発生したことが考えられます。そうなれば地震との関係が心配になります。インターネット上では「大地震の前触れ?」などの声がありますが、三浦半島の活断層は異臭の通報があった地点とは一致せず、地震の前兆とは考えにくいようです。
ガスハイドレート説であるならば、メタンガスが検出されなければなりませんが、今回の分析では検出されていません。ただし、メタンの沸点が低いため、検出不能だったかもしれません。
一方、ガスハイドレートとは関係なく、地殻変動によって何らかのガスが発生することは考えられます。関東大震災(1923年)の際に三浦半島で異臭が発生したとの記述、阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災(2011年)でも異臭があったとの報告が気になるところです。
以上の他に、青潮説もありますが、炭化水素が青潮で発生するのかは疑問です。
■ 実は身の回りにある化学物質
神奈川県は、上述の炭化水素は毒性が低く、濃度も低いことなどから、ただちに健康に影響を及ぼすレベルではないとしています。これらの物質はどこにあるのかと関心を呼び、ニュースサイトのコメント欄などでは、「原因がわからないというのは怖い」「臭いの元が人工のものか、地中からのものか」「人工的な異臭なら、早く調査して解決してほしい」などと書き込まれています。いずれにせよ原因物質と発生源の特定がまずは急務ですので、さらなる分析結果を待ちましょう。
・「ガスっぽいにおい」消防も出動 神奈川でまたも異臭騒ぎ(FNNプライムオンライン 2020年10月26日)
※神奈川県でまた異臭騒ぎが発生、住民に不安が広がっている。
横須賀市で10月26日午前11時ごろから「ガスのにおいがする」という内容の通報が合わせて27件あり、消防が出動した。
周辺で取材を進めると異臭を嗅いだという人が相次いだ。
横須賀市民「12時ちょっと前頃ガス臭いなっていう感じはしました。本当にプロパンガスみたいな感じでした。家のガスが漏れてるのかなと思ったんですけど、確かめてみたら漏れてなかったのでなんかちょっと不安ですよね」
横須賀市民B「9時前ぐらい、焦げ臭い感じで、結構いろんなところしていた」
横須賀市民C「6時ぐらいですか、朝。生ゴミみたいな、生臭い感じでした。
前はガソリンの臭いとか、焦げた臭いとかしたときはあったんですけど、日によって何か異臭の感じが違うなというのがありました。不安ですね。怖いですね」
横須賀消防局の庁舎内でも消防職員がガスのにおいを感じ周辺の空気を採取。
また直線で、およそ700メートル離れた横須賀市環境管理課の事務室でもガスのにおいがしたことから職員が空気を採取した。
さらに横浜市の金沢区でも異臭に関する情報が相次ぐなど広い範囲にわたって異臭が発生していたことが分かった。
横浜市金沢区の住民「ガスレンジのガスをひねって火がつかなかったときの都市ガスのにおいとまったく同じような臭いでした。(どのくらいにおいは続いた?)3分ほどは家の中でも漂ってました。」
6月以降、神奈川県内の沿岸部を中心に続いている異臭騒ぎ。
今なお発生原因が特定されていないことを受け、国も動き出している。
10月23日には神奈川県の黒岩知事が小泉環境相と面会した。
神奈川県黒岩知事「住民の皆さん非常に不安に思っているので、成分はある程度見えてきましたけど、なぜそうなっているのかはわからない」
知事は環境省から大気採取のための機器40台を借り受けたことへの感謝を伝えるとともに、県と国が連携して究明を急ぐ方針で一致した。
原因不明のまま不安が募る異臭騒ぎ。
神奈川県は横須賀市で採取された空気の分析を行い、結果は1週間以内にも分かる見通し。
・東京の臨海部で「異臭がする」通報続々、消防車20台出動…正午前に消える(読売新聞 2021年6月6日)
※東京都江東区の臨海部で6日午前、警察や消防に「異臭がする」との通報が相次いだ。東京消防庁などが原因を調べている。
東京消防庁と警視庁によると、通報は午前9時半頃から、江東区の東雲、有明、豊洲、辰巳などの住民から寄せられた。消防車約20台が出動し、12地点でガス検知器による測定が行われたが異常は確認されず、正午前に異臭は消えたという。
江東区豊洲の東雲運河で6日午前に油の流出があり、東京消防庁は異臭との関連を調べている。