・核融合発電は実現不可能
2001年12月 槌田 敦
Ⅰ.核融合はエネルギーとしてまるで役に立たない
【核融合にはリチウムなど希少資源が必要】
核融合反応は、化学反応と似ている。重水素(D)にトリチウム(T)を反応させて、中性子(n)とヘリウム(He)にし、熱(q〉を得る。
D + T = n + He + q
燃料の重水素は、海水から得るなどという人がいるが、そのような工場はどこにもない。普通は湖か川の水を使う。ことさら「海水」というのは、誇大広告で大量に存在することを印象づける手段であり、奇弁術のひとつである。
ところで、核融合に必要な資源は重水素だけではなく、トリチウムが必要である。これは一般に金属元素のリチウム(Li)を原子炉に入れて、中性子照射して作る。または重水炉(たとえぱ、カナダのCANDU 炉)という特殊な原発の副産物として生産される。特にリチウムは、希少資源のひとつであって、水爆の原料だからその資源はアメリカとロシアが抑えていている。この外にも、超電導磁石に使うニオブやこれを冷却するヘリウムなどが大量に必要になる。これを生産するのに大量の石油が消費される。
核融合炉に使用する鉄材は、定常トカマク炉の設計では2 万4 千トンと計算された。これは原発の20 倍以上ということになる。これだけでも核融合は無意味であろう。その外、チタン、銅、錫などの金属資源も大量に使う。
そしてこの資源を金属精錬するのに石油を大量に使用することになる。石油枯渇説が消えたのになぜまだ核融合かというと、核融合推進派は核融合は温暖化ガスを出さないからと言い逃れしている。しかし、核融合の材料を作り、また運転するために石油を大量に使う。核融合が炭酸ガスを少ししか出さないとはどういうことか!核融合推進派は、「ゆめ」の核融合にこだわり、「思考停止」状態に陥っている。
【トリチウム生産のために、原発10 基が必要】
核融合炉1 基に必要なトリチウムを生産するには、原発が10 基必要である。核融合は原発のようなプルトニウムや核分裂物質という放射能は出さないと宣伝しているが、実際はプルトニウムなどを原発の10 倍も発生することになる。
ここで大切なことは、トリチウムは半減期が12 年と短いことである。生産工程での目減りを含めると、10年で半分になってしまう。そのため、アメリカでは、核兵器用トリチウム不足という事態が生じている。そこで、商業用原発を転用してトリチウムを生産しようとしている。
【燃えない物を無理に燃す固有の危険性】
核融合推進派は、核融合には固有の安全性があるという。その意味は、原発は核分裂反応を制御棒の出し入れで制御して運転しているので、この運転操作を誤ると、原子炉暴走の危険がある。事実、チェルノブイリ原発事故はこの核暴走から核爆発に至った事故であった。核融合では、そのような制御をしている訳ではないから、暴走などあり得ない。これを、推進派は核融合固有の安全性といっている。
しかし、固有の危険は暴走だけではない。核融合の場合、核分裂と違って、反応を制御する訳ではないから、暴走事故などあるはずがない。核融合推進派は、このような当然のことを言って、素人を煙に巻こうとしている。
核融合は、原子核を衝突させ、結合させて反応させる。ところが、原子核はともに正の電荷をもっているので、反発しあって結合したがらない。そこで、1 億度という高温にして原子核を加速し、無理に結合させて反応させようというのである。これがなかなか達成できないから、核融合はもたもたすることになる。
この1 億度という温度は、真空槽の中の重水素とトリチウムの混合気体を加熱してイオン化(プラズマ状態)にし、これに強力な磁場を掛けることによって得られる。問題はこの無理から始まる。この磁場にはTNT火薬約60 トンのエネルギーが溜まっている。この磁場は超電導磁石によって得られるが、超電導は不安定状態だから、クエンチといって突然一部が崩れて安定な常伝導になることがある。そうするとこの場所で熱化が進み、液体ヘリウムが気化して爆発し、装置を壊す可能性がある。
また、プラズマにはTNT 火薬約1 トンに相当するエネルギーが溜まっている。このプラズマも不安定で、しばしば崩れることがある(ディスラプションという)。この時、瞬時にエネルギーが放出されて、真空槽の壁を壊せば、内蔵しているトリチウムを全量大気中に放出することになる。
このように核融合には、燃えない物を無理に燃すことから生ずる固有の危険性がある。これは、原発とはまったく違った危険性であり、核融合炉が暴走しないことだけで、核融合の安全性をいうのは、やはり奇弁術のひとつである。
このような運転上の固有の危険だけでなく、核融合にはもっと本質的な固有の危険がある。それは、核融合で発生する中性子の数が、発生エネルギーあたり原発の4.5 倍もあり、しかも、発生する中性子のエネルギーが、核融合では 14Mev(ミリオン・エレクトロン・ボルト)であって、核分裂の 6 倍もある。そして、原発ではこの中性子は冷却水などで消費され、またエネルギーは 1 億分の 1 程度に減速されてから原子炉の壁に衝突する。ところが、核融合ではこの14Mevの高エネルギーの中性子が全部いきなり真空槽の壁に衝突する。これによる装置の放射化と劣化は厳しいことになる。
したがって、核融合では真空槽の痛みが激しく、短期間に真空の維持ができなくなって、プラズマの温度が上がらなくなる。そして、無理に使えば真空槽の破壊となる。それに14Mev の中性子が真空槽の炉壁でどのような挙動をするのか、未だに分かっていない。この14Mev の大量の中性子は、核融合反応でなければ得られないから、ITER の真空槽が何回の核融合実験に耐えられるのか、まったく分かっていない。
その結果、真空槽は短期間の運転で放射性廃棄物になってしまう可能性がある。ITER 計画では、その量は運転終了時に、7 万 5 千トンと発表された。設計変更の半値 ITER では 3 万9 千トンというが、放射化した鉄材は真空槽だけでなく、周辺構㐀材や機器も廃棄物となり、またその他超電導材のニオブやコンクリートなどを含めればとてもその量では収まらないであろう。20 年間使用すると言っているが、その場合おそらく一年に数回程度しか核融合実験はできないであろう。
高エネルギーの中性子による影響だけでなく、物体に多数回衝突して低エネルギーになった中性子も一筋縄ではいかない。この中性子の漏れだしを約 2 メートルの厚さのコンクリート壁で防ぐという。しかし、壁を 2 メートルのコンクリートにすることはできても、広い天井のコンクリートは重くて、とても 2 メートルの厚さにすることはできない。そのため、中性子は宇宙に向けて漏れ放題で、上空を通った航空機の乗客は被爆することになる。そのうえ、この中性子は大気中の水蒸気の水素原子に衝突して地表へ逆戻りし、住民を被曝させる。これをスカイシャインという。
それだけではない。低エネルギーの中性子は、普通の気体と同じ挙動も示し、配管の中を伝わって流れ出る。ITER などの核融合炉は原発では考えられないくらい膨大な数の配管が、炉室との境のコンクリートを貫いているので、漏れ放題ということになる。
これらの対策をするには、膨大な予算が必要である。
Ⅲ.トリチウムの危険性
【困難なトリチウムの閉じ込め】
トリチウムは、冷えた金属容器に閉じ込めることができるが、熱した金属ではザルと同じで、自由に通過する。
核融合すればプラズマは発熱するのでこれを冷却するために熱交換器が必要となる。核融合燃料として使用したトリチウムは、大部分が未反応として残るので、そのトリチウムはこの熱交換器の隔壁から常時漏れ出すことになる。漏れ出しを防ぐには熱交換器の隔壁の厚さを増やす必要がある。しかし、それでは熱交換は不可能になる。したがって、トリチウムの冷却水への漏れだしを防ぐことはできない。
【トリチウム回収には莫大な費用が必要】
空気や冷却水に混ざったトリチウムを回収する技術がないという訳ではない。しかし、それには莫大な費用が必要となる。したがって、室内や冷却水に漏れたトリチウムはこれまで全量放出していた。
米核兵器工場の場合、何回もトリチウム漏れの事故を起こしている。たとえば、1984 年のサバンナリバー工場事故の場合、トリチウム 5 グラム(5 万キューリー)を室内に漏らしたが、全量を 60 メートルの高さの排気塔から砂漢に放出した。
動燃の再処理工場では、気体のトリチウムは排気塔から全量放出している。また廃液に含まれるトリチウムは、イオン交換樹脂で金属放射能を取り除いた後、全量海に捨てている。
原発でも同様で、2 次冷却水に含まれるトリチウムは全量海水に放出している。泊原発の場合、この濃度は0.3 ベクレル/ml で、自然界の300 倍である。特に、敦賀にあるふげん原発は重水炉なので、大量のトリチウムが日常的に放出されている。
Ⅳ.そもそも核融合発電は実現不可能
【プラズマ安定化に失敗、実用化は無理】
ITER は、トカマクという形式の核融合炉で、磁場を用いて真空槽の中の電離気体(プラズマ)の中に電流を発生させ、これによりプラズマを維持する。ところが、この方式ではプラズマが不安定で突然消滅してしまうことがある(プラズマ・ディスラプション)。この現象はたまたま起こるのではなく、原研のJT-60 では毎週1~2 回の割で発生しているという。
ITER のプラズマの中を流れる電流は2000 万アンペア程度が予定されている。ここで、このディスラプションが起こると瞬間的にこの電流も消滅する。これによって、磁場は消えるが、その時、自己を保存するように、別の場所に電流を誘導する。これにより真空槽や排気装置や計測装置の中に、複雑な渦状の大電流が発生する。
これらの渦電流は、相互に強大な力を及ぼすので、装置はねじ曲げられる。200 トン程度の小さな装置ならば1 センチも飛び上がることがある。ITER のような重くて大型の装置では飛ぴ上がることはないが、装置に大きな歪みが残る(塑性変形)・多数回のディスラプションでこの歪みが溜まれば、装置が突然破壊される原因となる。
それだけではなく、プラズマが消滅した時、プラズマの中にはTNT 火薬1 トン程度のエネルギーがあり、これが瞬間的に解放されて、真空槽の壁に熱衝撃を加え、これを減肉する。
このような力学的、熱的影響については、対策ができたとしても、そもそも何故ディスラプションが起こるのかが不明で、これが頻発することを防げない以上、仮に、核融合反応で発電することができたとしても、発電が毎週1~2 回の割で突然止まってしまうのでは、実用化はとても無理ということになる。
【真空槽の修理作業も無理】
すでに述べたように、核融合の中性子は、エネルギー強度と量の両方で原発の比ではなく、DT 反応で出る14Mev の強烈な中性子に耐えられる炉壁材料もない。また、すでに述べたように真空槽の壁はディスラプションによっても塑性変形や熱衝撃を受けて劣化する。
さらに、プラズマに存在する熱はダイバータと呼ばれる装置に集められるので、このダイバータの劣化は激しい。したがって、真空槽の壁やダイバータは消耗品となるため、頻繁に交換しなければならない。
一方、核融合による中性子は、真空槽の装置全体を放射化する。これも原発とは桁違いに大きい。したがって、この交換修理作業は、作業員を被曝させることになるので、人力ではとても無理で、すべてロボットを使う必要がある。
しかし、このロボットは電子信号によって運転されるが、高い放射線を受けて被曝し、指令を間違え、狂って動き回ることになる。これではとても交換修理作業はできず、実用化はもちろん、ITER の修理さえ無理であろう。
【大きすぎて十分な加熱も無理】
1996 年末、アメリカ科学雑誌サイエンスが、ITER のような巨大装置ではプラズマは撹乱され、エネルギーを失い、十分な加熱は無理という記事を書いて、核融合の研究者をあわてさせた。この内容をサイエンス誌に伝えたのは、テキサス大学核融合研究所のドーランとコチェンロイターである。彼らが計算したところによれば、ITER は巨大過ぎて、小さいトカマク装置では問題のなかったプラズマの乱れを制御できず、核融合に必要な加熱ができない、というのである。
したがって、核融合研究者が、ドーランたちの研究を無視して、ITER に巨額の費用を請求することは、不誠実極まりないことになる。核融合研究者たちが、もしも科学者として誠実であろうとするなら、ITER に限らずすべてのトカマク型装置の予算請求を一切中止して、総力をあげてドーランたちの数値計算の再計算をすることであろう。そしてドーランの研究結果が再確認されたのであれば、無意味となるトカマク装置の研究は中止すべきであろう。
原子力分野からも同様の見解が出ている。元電力中央研究所研究員で、現東京大学教授の山地憲治氏は、「大型装置による実証はできるだけシミュレーション(計算)で代用するなどの工夫が必要であろう」と述べている。
V.嘘ばかりついてきた核融合研究者
【1970 年代の核融合推進の理由】
当時の核融合推進の理由は次の 5 項目であった。①地上の太陽、②核融合は安価、③資源無尽蔵、④原発よりクリーン、⑤固有の安全性。
地上の太陽。これは、まったくのウソである。太陽の中心の温度は1400 万度であって、ほとんど核融合していない。その発生のエネルギーは、1g,1 秒あたりわずか2erg に過ぎない。蚊の鳴く程度と言えばよいであろう。これに対して、人間の発熱量は、20,000erg だから、太陽の1 万倍も発熱している。太陽の発熱量が大きいのは図体が大きいからである。核融合炉は、『地上の太陽』ではなくて、『地上の超新星』である。この超新星の爆発を装置の中で実現しようとしていることにそもそもの無理がある。
安価。核融合をするには巨大な装置が必要なことが分かって、そのウソはすぐにばれてしまい、言わなくなった。
資源無尽蔵、原発よりクリーン、固有の安全性については、すでに述べた。
【ITER ではなく、怪物・EATER】
このようなウソのうえに、核融合研究は、遅々として進まない。砂漢の逃げ水のように完成目標は遠のいていく。1950 年代には、10 年後に完成すると言っていた。それが、10 年研究すると10 年完成時期が伸びることになって、50 年研究した現在、完成時期は50 年後という。量初から言えば100 年後である。
そのうえ、ITER は怪物で、『big EATER(大食い)』という方が実態を正しく表現できる。この怪物は、膨大な資金と資源を喰らい、膨大な放射性廃棄物を垂れ流す。
【核融合は核分裂と本質的に異ならない】
東大の山地氏は、次のように言っている。
「核構造の中に閉じ込められたエネルギーの開放という点で核融合は核分裂と本質的に異なる点はなく、資源・環境の点からも決定的に有利とはいえない。ましてや、経済性は未知数であり、実用化を目指して今ただちにプロジェクト化する必要性は認められない。実用炉として想定されている DT 反応では、Li資源の制約、中性子による誘導放射能の問題がある。核融合の利用法として、電源としての経済性・環境特性に決定的に有利な点はない。「地上の太陽」の実現というロマンだけで核融合の開発が許された時代は終わっている」、と。
・ITERは「希望の星」ではない
https://cnic.jp/150
原子力資料情報室通信368号(2005.2.1)掲載
古川路明(名古屋大学名誉教授)
※ITER(国際熱核融合実験炉、イーター)を核融合によるエネルギー生産の「希望の星」と見る人がいます。日本では、青森県六ヶ所村とフランスのITERの誘致合戦が話題になることが多く、核融合のかかえる技術的問題の議論は後回しにされています。
核融合はエネルギー問題の解決に役立つのでしょうか。本当は、実現は不可能に近く、とても「核融合には未来がある」とは考えられません。ここでは、私が考えている核融合の問題点をQ&Aの形で書いてみます。
■核融合はどんなものですか。
□水素の原子核が反応して、大きなエネルギーが放出されることを核融合といいます。水素には、原子核の性質が異なる3つの同位体があります。普通の水素(1H)、重水素(2H、D)と三重水素(トリチウム、3H、T)です。
■太陽で核融合が起こっていますか。
□太陽の熱源は核融合です。太陽の中では、普通の水素が核融合を起こしています。水素が大量に集まり、起こりにくい反応が続いています。地上で太陽は再現できません。
■「核融合炉」とはどんなものですか。
□核融合炉は、核融合によって発生するエネルギーを用いて発電する設備です。ITERはそれを実現するための実験炉です。核融合炉内では、高温の水素原子核同士の核反応(熱核反応)が起こらねばなりません。
■核融合炉はどうすれば実現できますか。
□起こりやすい核反応は「D-T反応」です。重水素とトリチウムが反応してヘリウムと高速中性子が生じます。反応で発生するエネルギーの8割を中性子が持ち出します。核融合炉では、中性子を冷却材に吸収させ、吸収されたエネルギーを水に伝え、そこで発生する水蒸気でタービンを回して発電します。トリチウムの製造を考えると冷却材として、リチウムを含む物質を用いねばなりません。
リチウムはナトリウムと似た性質をもつ金属です。溶融リチウムを冷却材に用いれば、溶融ナトリウムを冷却材に用いる高速増殖炉と核融合炉は似てきます。
■燃料はどのように用意するのですか。
□重水素は水素に0.015%の割合で含まれていて、エネルギーさえあれば純粋な重水素が得られます。問題はトリチウムです。
トリチウムを得るには、リチウムを遅い中性子で照射する以外の道はありません。出力100万キロワットの核融合炉を1日運転するには、0.4キログラムのトリチウムが必要です。半減期が12.3年と短いためこのトリチウムの放射能の強さは非常に高いのです。低エネルギーベータ線を放出するトリチウムの放射能毒性の評価は難しいのですが、このトリチウムの100万分の一を水の形で口から摂取するとき、ヒトの健康に重大な影響をおよぼすおそれがあります。
■核融合炉と原子炉は関係があるのですか。
□ 核融合炉の運転を始めるには、10キログラムのトリチウムが必要でしょう。それは原子炉でリチウムを照射して製造します。
核融合炉の運転開始後は、核融合で発生する中性子でリチウムを照射して製造すればよいのですが、消費されたトリチウムと同じ量以上を得ることは難しいでしょう。そうなれば、「核融合炉の隣に原子炉を置かねばならない」ことになります。それでは、核融合炉を建設する意義は減るのではないでしょうか。
■核融合では放射能はできないのですか。
□D-T反応では放射性のトリチウムはなくなりますが、中性子によって放射能ができることは問題です。炉の構造材として使われるであろうステンレス鋼に中性子があたったとします。ステンレス鋼に含まれるニッケルから、ガンマ線を放出するコバルト57(半減期、271日)、コバルト58(71日)とコバルト60(5.3年)がつくられます。その量は大きく、出力100万キロワットの核融合炉が1ヵ月間運転した後には設備に近づくことができないほど強い放射能ができます。1時間以内に致死量に達するような場所があるはずです。放射能は時間とともに減りますが、コバルト60があるために50年以上も放射能は残ります。ニッケルは構造材の成分としては不適当だと考えています。他の成分である鉄からマンガン54(312日)ができます。ニッケルの場合より放射能は少ないのですが、被曝の危険があることに変わりはありません。また、超伝導磁石のような他の材料の中にも放射能ができます。
■放射性廃棄物が発生しますか。
□施設が閉鎖して長期間経過後も、ニッケル59(7.5万年)、マンガン53(360万年)などがいつまでも残ります。大量の低レベルないし中レベル放射性廃棄物が出ます。
核融合炉からは、原子炉のようにアルファ線を放出する放射能や長寿命の核分裂生成物は製造されませんが、それなりの残留放射能に対する対応が必要です。
■他に使える反応はありませんか。
□重水素原子核同士を反応させる反応(D-D反応)がありますが反応が起こりにくく、エネルギー発生の効率も悪いので、ここで取り上げなくてもよいと考えています。
■他に、技術的な問題はないのですか。
□核融合を安定な状態で持続すること、1000万度を超える高温に耐えるような炉の構造を考えること、トリチウムをいかに安全に取り扱えるかということなど、まさに問題は山積しています。
私は放射能の問題を取り上げただけですが、それだけでも重要な難点があるのです。
■これまでに問題点について訴えた人はいないのですか。
□その声は広くは伝わっていないようですが、以前からありました。例えば、槌田敦氏は、1970年代に、核融合炉の問題を広い視野に立って批判的に分析していました。また、押田勇雄氏は、1985年に書いた『人間生活とエネルギー』(岩波新書)の中で「まず成功しない研究」といっています。核融合を推進する立場にあると思われがちな物理学者にもこのような意見をもつ人がいるのです。
気楽な会合の席では、「核融合研究は失業救済になっている」という暴言を吐く人がいます。また、ある核融合研究者は、海外で「核融合研究はsocial welfare(社会福祉)のようなものだ」と言われたそうです。このような発言は悪口とみえますが、私は核融合研究の将来を心配している声と受け取っています。
ITER計画から早く手を引いて、現在進めている計画が妥当かどうかを真剣に検討すべきではないでしょうか。
・注目の「核融合発電」は、実現前から“燃料不足”の危機に直面している(WIRED 2022年6月23日)
※極めて高効率でクリーンな発電手法として注目される核融合。国際熱核融合実験炉(ITER)の完成が近付くなか、ある重大な“問題”が指摘されている。稼働が見込まれる2035年ごろには、燃料となる水素の放射性同位元素のトリチウムが不足している可能性があるというのだ。
フランス南部に建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)が、少しずつ完成に近づいている。予定通り2035年に本格稼働が始まれば、同種の実験炉としては世界最大の施設となり、「核融合の旗手」となることは間違いない。
「トカマク」と呼ばれるドーナツ型の核融合炉のなかで、ジュウテリウム(重水素)とトリチウム(三重水素)の2種類の水素を融合させると、太陽の表面よりも高温のプラズマが発生する。そこから放出されるのは、何万世帯もの電力をまかなえるクリーンなエネルギーだ。
つまり、SFの世界そのままの“無限の電力源”が現実のものになる──。少なくとも、そのように計画されている。問題は、ITERが稼働可能になるころには、運転に必要な燃料が十分に残っていないかもしれないということなのだ。そのことに気づいている人もいるはずだが、誰も口にしようとしない。
燃料になるトリチウムが不足する
重要な核融合実験炉の多くがそうであるように、ITERが実験炉として機能するにはジュウテリウムとトリチウムの安定供給が欠かせない。ジュウテリウムは海水から抽出可能だが、水素の放射性同位元素であるトリチウムは極めて希少な物質だ。
トリチウムの大気中濃度は、核実験が禁止される前の1960年代にピークに達した。最新の推計によると、地球上に存在するトリチウムの量は現時点で20kgを下回るという。
ITERの建設は当初の予定から何年も遅れ、いまや数十億ドル単位の予算超過が発生している。こうしたなか、ITERやほかの核融合実験炉にとって最適な燃料供給源となるはずのトリチウムは、少しずつ消失しているのだ。
現在、ITERのような核融合実験施設や、英国にある小規模のトカマク型核融合実験施設である欧州トーラス共同研究施設(JET)で使用されるトリチウムは、重水減速型原子炉と呼ばれるかなり特殊なタイプの核分裂原子炉でつくられている。ところが、これらの原子炉の多くに耐用期限が迫っており、稼働を続けている施設は世界で30に満たない。
カナダに20基、韓国に4基、ルーマニアに2基が現存し、それぞれ年間100gほどのトリチウムを生成している。インドで原子炉の建設が計画されているが、同国が核融合の研究者たちにトリチウムを提供する可能性は低いだろう。
供給量の「絶頂期」を逃すことに
長い目で見ると、これは将来性のある解決策とは言えない。核融合の本来の目的は、従来の原子力発電に代わるクリーンで安全な発電手段を提供することだ。
「“ダーティー”な核分裂炉を使って“クリーン”な核融合炉に燃料を供給するとは、なんとも不条理な話です」と、物理学者のエルネスト・マッズカートは言う。彼はすでに一線を退いているが、現役時代の大半をトカマク型核融合炉の研究に費やした経歴をもつ。それにもかかわらず、ITERや核融合全般に対する批判を公言している。
トリチウムのもうひとつの難点は、崩壊が速いことだ。トリチウムの半減期は12.3年である。つまり、偶然にもいまから約12.3年後に予定されているITERのジュウテリウム・トリチウム(D-T)核融合反応による運転開始の時期には、現在のトリチウムの半量が崩壊してヘリウム3に変わっていることになる。
この問題は、ITERが稼働を開始し、ほかのD-T核融合施設がいくつも計画されるようになれば、さらに深刻化するはずだ。
これらの2つの要因により、核分裂の望まれぬ副産物として慎重に廃棄されるべき存在であったトリチウムは、地球上で最も高価という推定もあるほどの物質に転じた。トリチウムの価格は1g当たり30,000ドル(約380万円)で、核融合炉の運転に必要な量は年間200kgに上る見込みだという。
さらに事態を悪化させているのは、核兵器を配備する国々もトリチウムを欲しがっていることだ。トリチウムに核爆弾の威力を高める効果があることがその理由だが、軍用に自力でトリチウムを製造する国も多い。世界のトリチウムの大部分を生産するカナダが、平和目的以外の売り渡しを拒否しているからだ。
プリンストン大学プラズマ物理研究所の研究員であるポール・ラザフォードは、この問題を予見し、「トリチウム・ウィンドウ」に関する論文を1999年に発表している。トリチウム・ウィンドウとは、トリチウムの供給がピークに達する絶頂期を意味する。そのあと供給は減少に転じ、やがて重水減速型原子炉は停止に至るとラザフォードは予測していた。
彼が示した絶頂期とはまさに現在なのだが、ITERの建設は予定より10年近くも遅れており、この好機を利用できずにいる。「もしITERが3年ほど前の計画通りにプラズマ燃焼実験を実現できていたら、万事うまくいっていたかもしれません」と、ITERで燃料サイクル部門のリーダーを務めるスコット・ウィルムズは語る。「ちょうどいまがトリチウム・ウインドウのピークに当たるのですから」
トリチウム供給の理想と現実
こうした問題が潜在することに数十年前から気づいていた科学者たちは、障害を巧みに回避する方法を開発した。核融合炉を使ってトリチウムを“増殖”し、燃料の使用と補充を同時にこなす方法である。増殖炉技術を駆使し、リチウム6の“ブランケット”によって核融合炉を包み込むことが目標だという。
核融合炉から漏れ出た中性子がリチウム6の分子に衝突することにより、トリチウムが生成される。抽出されたトリチウムは再び核融合に使用できる。
「計算上、理想的な増殖ブランケットが完成すれば、必要な燃料を自給できるほどのトリチウムを発電所に供給できるうえ、余剰分で新たな発電所を操業できることがわかっています」と、JETの核融合プロジェクトを主催する英国原子力公社(UKAEA)の広報担当者のスチュアート・ホワイトは説明する。
トリチウムの増殖実験はITERの活動の一環として実施される予定だったが、当初60億ドル(約7,630億円)を予定していた経費が250億ドル(約3兆1,770億円)を超えるまでに膨れ上がったことで、いつの間にか立ち消えになった。ウィルムズが現在ITERで担当しているのは、もっと小規模な実験の管理である。
リチウムのブランケットで核融合炉の周囲を完全に覆う代わりに、ITERはリチウムをセラミック被覆ぺブルベッド、液体リチウム、鉛リチウムといったさまざまな形態に加工し、それぞれスーツケース大のサンプルをトカマク型核融合炉の周りのポートに挿入する実験を予定しているという。
ところが、当のウィルムズも認めていることだが、この技術の実用化はかなり先のことであり、本格的なトリチウム増殖実験も次世代の核融合炉が登場するまで待たざるを得ないだろう。だが、それでは遅すぎるとの意見もある。
「2035年以降、別の新たな施設を建設しなければなりませんが、そこでトリチウムをどのように生成するかという重要な実験には、さらに20年から30年の歳月が必要になるでしょう。今世紀中に運転を開始できなければ、核融合炉で地球温暖化を食い止めることなどできるはずがありません」と、物理学者のマッズカートは訴える。
高まる懐疑論
トリチウムを生成する方法は、ほかにもある。核分裂炉に増殖材料を大量投入する方法、あるいは線型加速器を使って中性子をヘリウム3に照射する方法だ。
しかし、これらの技術を使って必要な量のトリチウムを確保しようとすると、コストがかかりすぎる。また、おそらくこうした技術は核兵器開発のために留保されることになるだろう。
ITERの建設と並行して、増殖技術の開発を進める意欲的な取り組みが望まれると、ITERのウィルムズは言う。そうすれば、ITERの核融合炉が完成するころには、その動力源となる燃料の供給を確保できるはずだ。「クルマを完成させてみたらガソリンがなかった、では困るのです」と、彼は言う。
トリチウム問題のせいで、ITERばかりかD-T核融合プロジェクト全般に対する懐疑論が高まっている。そもそもジュウテリウムとトリチウムの2つが選ばれたのは、いずれも比較的低い温度で核融合反応を起こす元素だからだ。どちらも非常に扱いやすく、核融合プロジェクトが始動した当時の状況に合う条件を備えていた。当時は、ほかの方法はすべて不可能であると考えられていたのだ。
ところが現在は、AI制御による磁気の力で核融合反応を閉じ込める方法のほか、材料科学の進歩を背景に別の可能性を探ろうとする企業も出てきた。カリフォルニア州に拠点を置く核融合エネルギー企業のTAE Technologiesが建設を計画している水素とホウ素を使用する核融合炉は、D-T核融合に代わるクリーンで実用的な施設になるはずだという。
TAE Technologiesは、消費量を上回る電力を核融合で生み出す「エネルギー純増」の達成を25年までに目指すという。ホウ素は海水から1メートルトン単位で抽出できるうえ、D-T核融合と違って装置を被ばくさせずに済む利点がある。TAE TechnologiesのCEOのミヒル・ビンデルバウアーは、商業的に採算の合うやり方で成長性の高い核融合発電を目指すのであれば、この方法に勝るものはないと語る。
しかし、核融合プロジェクトにかかわる人々の多くは、主要燃料の供給に潜在的な問題があるにもかかわらず、依然としてITERに期待をかけている。「核融合は極めて困難な取り組みです。D-T核融合以外の方法は100倍の難しさを伴うでしょう」と、ITERのウィルムズは言う。「100年後なら、ほかの選択肢について語れるようになっているかもしれません」
2001年12月 槌田 敦
Ⅰ.核融合はエネルギーとしてまるで役に立たない
【核融合にはリチウムなど希少資源が必要】
核融合反応は、化学反応と似ている。重水素(D)にトリチウム(T)を反応させて、中性子(n)とヘリウム(He)にし、熱(q〉を得る。
D + T = n + He + q
燃料の重水素は、海水から得るなどという人がいるが、そのような工場はどこにもない。普通は湖か川の水を使う。ことさら「海水」というのは、誇大広告で大量に存在することを印象づける手段であり、奇弁術のひとつである。
ところで、核融合に必要な資源は重水素だけではなく、トリチウムが必要である。これは一般に金属元素のリチウム(Li)を原子炉に入れて、中性子照射して作る。または重水炉(たとえぱ、カナダのCANDU 炉)という特殊な原発の副産物として生産される。特にリチウムは、希少資源のひとつであって、水爆の原料だからその資源はアメリカとロシアが抑えていている。この外にも、超電導磁石に使うニオブやこれを冷却するヘリウムなどが大量に必要になる。これを生産するのに大量の石油が消費される。
核融合炉に使用する鉄材は、定常トカマク炉の設計では2 万4 千トンと計算された。これは原発の20 倍以上ということになる。これだけでも核融合は無意味であろう。その外、チタン、銅、錫などの金属資源も大量に使う。
そしてこの資源を金属精錬するのに石油を大量に使用することになる。石油枯渇説が消えたのになぜまだ核融合かというと、核融合推進派は核融合は温暖化ガスを出さないからと言い逃れしている。しかし、核融合の材料を作り、また運転するために石油を大量に使う。核融合が炭酸ガスを少ししか出さないとはどういうことか!核融合推進派は、「ゆめ」の核融合にこだわり、「思考停止」状態に陥っている。
【トリチウム生産のために、原発10 基が必要】
核融合炉1 基に必要なトリチウムを生産するには、原発が10 基必要である。核融合は原発のようなプルトニウムや核分裂物質という放射能は出さないと宣伝しているが、実際はプルトニウムなどを原発の10 倍も発生することになる。
ここで大切なことは、トリチウムは半減期が12 年と短いことである。生産工程での目減りを含めると、10年で半分になってしまう。そのため、アメリカでは、核兵器用トリチウム不足という事態が生じている。そこで、商業用原発を転用してトリチウムを生産しようとしている。
【燃えない物を無理に燃す固有の危険性】
核融合推進派は、核融合には固有の安全性があるという。その意味は、原発は核分裂反応を制御棒の出し入れで制御して運転しているので、この運転操作を誤ると、原子炉暴走の危険がある。事実、チェルノブイリ原発事故はこの核暴走から核爆発に至った事故であった。核融合では、そのような制御をしている訳ではないから、暴走などあり得ない。これを、推進派は核融合固有の安全性といっている。
しかし、固有の危険は暴走だけではない。核融合の場合、核分裂と違って、反応を制御する訳ではないから、暴走事故などあるはずがない。核融合推進派は、このような当然のことを言って、素人を煙に巻こうとしている。
核融合は、原子核を衝突させ、結合させて反応させる。ところが、原子核はともに正の電荷をもっているので、反発しあって結合したがらない。そこで、1 億度という高温にして原子核を加速し、無理に結合させて反応させようというのである。これがなかなか達成できないから、核融合はもたもたすることになる。
この1 億度という温度は、真空槽の中の重水素とトリチウムの混合気体を加熱してイオン化(プラズマ状態)にし、これに強力な磁場を掛けることによって得られる。問題はこの無理から始まる。この磁場にはTNT火薬約60 トンのエネルギーが溜まっている。この磁場は超電導磁石によって得られるが、超電導は不安定状態だから、クエンチといって突然一部が崩れて安定な常伝導になることがある。そうするとこの場所で熱化が進み、液体ヘリウムが気化して爆発し、装置を壊す可能性がある。
また、プラズマにはTNT 火薬約1 トンに相当するエネルギーが溜まっている。このプラズマも不安定で、しばしば崩れることがある(ディスラプションという)。この時、瞬時にエネルギーが放出されて、真空槽の壁を壊せば、内蔵しているトリチウムを全量大気中に放出することになる。
このように核融合には、燃えない物を無理に燃すことから生ずる固有の危険性がある。これは、原発とはまったく違った危険性であり、核融合炉が暴走しないことだけで、核融合の安全性をいうのは、やはり奇弁術のひとつである。
このような運転上の固有の危険だけでなく、核融合にはもっと本質的な固有の危険がある。それは、核融合で発生する中性子の数が、発生エネルギーあたり原発の4.5 倍もあり、しかも、発生する中性子のエネルギーが、核融合では 14Mev(ミリオン・エレクトロン・ボルト)であって、核分裂の 6 倍もある。そして、原発ではこの中性子は冷却水などで消費され、またエネルギーは 1 億分の 1 程度に減速されてから原子炉の壁に衝突する。ところが、核融合ではこの14Mevの高エネルギーの中性子が全部いきなり真空槽の壁に衝突する。これによる装置の放射化と劣化は厳しいことになる。
したがって、核融合では真空槽の痛みが激しく、短期間に真空の維持ができなくなって、プラズマの温度が上がらなくなる。そして、無理に使えば真空槽の破壊となる。それに14Mev の中性子が真空槽の炉壁でどのような挙動をするのか、未だに分かっていない。この14Mev の大量の中性子は、核融合反応でなければ得られないから、ITER の真空槽が何回の核融合実験に耐えられるのか、まったく分かっていない。
その結果、真空槽は短期間の運転で放射性廃棄物になってしまう可能性がある。ITER 計画では、その量は運転終了時に、7 万 5 千トンと発表された。設計変更の半値 ITER では 3 万9 千トンというが、放射化した鉄材は真空槽だけでなく、周辺構㐀材や機器も廃棄物となり、またその他超電導材のニオブやコンクリートなどを含めればとてもその量では収まらないであろう。20 年間使用すると言っているが、その場合おそらく一年に数回程度しか核融合実験はできないであろう。
高エネルギーの中性子による影響だけでなく、物体に多数回衝突して低エネルギーになった中性子も一筋縄ではいかない。この中性子の漏れだしを約 2 メートルの厚さのコンクリート壁で防ぐという。しかし、壁を 2 メートルのコンクリートにすることはできても、広い天井のコンクリートは重くて、とても 2 メートルの厚さにすることはできない。そのため、中性子は宇宙に向けて漏れ放題で、上空を通った航空機の乗客は被爆することになる。そのうえ、この中性子は大気中の水蒸気の水素原子に衝突して地表へ逆戻りし、住民を被曝させる。これをスカイシャインという。
それだけではない。低エネルギーの中性子は、普通の気体と同じ挙動も示し、配管の中を伝わって流れ出る。ITER などの核融合炉は原発では考えられないくらい膨大な数の配管が、炉室との境のコンクリートを貫いているので、漏れ放題ということになる。
これらの対策をするには、膨大な予算が必要である。
Ⅲ.トリチウムの危険性
【困難なトリチウムの閉じ込め】
トリチウムは、冷えた金属容器に閉じ込めることができるが、熱した金属ではザルと同じで、自由に通過する。
核融合すればプラズマは発熱するのでこれを冷却するために熱交換器が必要となる。核融合燃料として使用したトリチウムは、大部分が未反応として残るので、そのトリチウムはこの熱交換器の隔壁から常時漏れ出すことになる。漏れ出しを防ぐには熱交換器の隔壁の厚さを増やす必要がある。しかし、それでは熱交換は不可能になる。したがって、トリチウムの冷却水への漏れだしを防ぐことはできない。
【トリチウム回収には莫大な費用が必要】
空気や冷却水に混ざったトリチウムを回収する技術がないという訳ではない。しかし、それには莫大な費用が必要となる。したがって、室内や冷却水に漏れたトリチウムはこれまで全量放出していた。
米核兵器工場の場合、何回もトリチウム漏れの事故を起こしている。たとえば、1984 年のサバンナリバー工場事故の場合、トリチウム 5 グラム(5 万キューリー)を室内に漏らしたが、全量を 60 メートルの高さの排気塔から砂漢に放出した。
動燃の再処理工場では、気体のトリチウムは排気塔から全量放出している。また廃液に含まれるトリチウムは、イオン交換樹脂で金属放射能を取り除いた後、全量海に捨てている。
原発でも同様で、2 次冷却水に含まれるトリチウムは全量海水に放出している。泊原発の場合、この濃度は0.3 ベクレル/ml で、自然界の300 倍である。特に、敦賀にあるふげん原発は重水炉なので、大量のトリチウムが日常的に放出されている。
Ⅳ.そもそも核融合発電は実現不可能
【プラズマ安定化に失敗、実用化は無理】
ITER は、トカマクという形式の核融合炉で、磁場を用いて真空槽の中の電離気体(プラズマ)の中に電流を発生させ、これによりプラズマを維持する。ところが、この方式ではプラズマが不安定で突然消滅してしまうことがある(プラズマ・ディスラプション)。この現象はたまたま起こるのではなく、原研のJT-60 では毎週1~2 回の割で発生しているという。
ITER のプラズマの中を流れる電流は2000 万アンペア程度が予定されている。ここで、このディスラプションが起こると瞬間的にこの電流も消滅する。これによって、磁場は消えるが、その時、自己を保存するように、別の場所に電流を誘導する。これにより真空槽や排気装置や計測装置の中に、複雑な渦状の大電流が発生する。
これらの渦電流は、相互に強大な力を及ぼすので、装置はねじ曲げられる。200 トン程度の小さな装置ならば1 センチも飛び上がることがある。ITER のような重くて大型の装置では飛ぴ上がることはないが、装置に大きな歪みが残る(塑性変形)・多数回のディスラプションでこの歪みが溜まれば、装置が突然破壊される原因となる。
それだけではなく、プラズマが消滅した時、プラズマの中にはTNT 火薬1 トン程度のエネルギーがあり、これが瞬間的に解放されて、真空槽の壁に熱衝撃を加え、これを減肉する。
このような力学的、熱的影響については、対策ができたとしても、そもそも何故ディスラプションが起こるのかが不明で、これが頻発することを防げない以上、仮に、核融合反応で発電することができたとしても、発電が毎週1~2 回の割で突然止まってしまうのでは、実用化はとても無理ということになる。
【真空槽の修理作業も無理】
すでに述べたように、核融合の中性子は、エネルギー強度と量の両方で原発の比ではなく、DT 反応で出る14Mev の強烈な中性子に耐えられる炉壁材料もない。また、すでに述べたように真空槽の壁はディスラプションによっても塑性変形や熱衝撃を受けて劣化する。
さらに、プラズマに存在する熱はダイバータと呼ばれる装置に集められるので、このダイバータの劣化は激しい。したがって、真空槽の壁やダイバータは消耗品となるため、頻繁に交換しなければならない。
一方、核融合による中性子は、真空槽の装置全体を放射化する。これも原発とは桁違いに大きい。したがって、この交換修理作業は、作業員を被曝させることになるので、人力ではとても無理で、すべてロボットを使う必要がある。
しかし、このロボットは電子信号によって運転されるが、高い放射線を受けて被曝し、指令を間違え、狂って動き回ることになる。これではとても交換修理作業はできず、実用化はもちろん、ITER の修理さえ無理であろう。
【大きすぎて十分な加熱も無理】
1996 年末、アメリカ科学雑誌サイエンスが、ITER のような巨大装置ではプラズマは撹乱され、エネルギーを失い、十分な加熱は無理という記事を書いて、核融合の研究者をあわてさせた。この内容をサイエンス誌に伝えたのは、テキサス大学核融合研究所のドーランとコチェンロイターである。彼らが計算したところによれば、ITER は巨大過ぎて、小さいトカマク装置では問題のなかったプラズマの乱れを制御できず、核融合に必要な加熱ができない、というのである。
したがって、核融合研究者が、ドーランたちの研究を無視して、ITER に巨額の費用を請求することは、不誠実極まりないことになる。核融合研究者たちが、もしも科学者として誠実であろうとするなら、ITER に限らずすべてのトカマク型装置の予算請求を一切中止して、総力をあげてドーランたちの数値計算の再計算をすることであろう。そしてドーランの研究結果が再確認されたのであれば、無意味となるトカマク装置の研究は中止すべきであろう。
原子力分野からも同様の見解が出ている。元電力中央研究所研究員で、現東京大学教授の山地憲治氏は、「大型装置による実証はできるだけシミュレーション(計算)で代用するなどの工夫が必要であろう」と述べている。
V.嘘ばかりついてきた核融合研究者
【1970 年代の核融合推進の理由】
当時の核融合推進の理由は次の 5 項目であった。①地上の太陽、②核融合は安価、③資源無尽蔵、④原発よりクリーン、⑤固有の安全性。
地上の太陽。これは、まったくのウソである。太陽の中心の温度は1400 万度であって、ほとんど核融合していない。その発生のエネルギーは、1g,1 秒あたりわずか2erg に過ぎない。蚊の鳴く程度と言えばよいであろう。これに対して、人間の発熱量は、20,000erg だから、太陽の1 万倍も発熱している。太陽の発熱量が大きいのは図体が大きいからである。核融合炉は、『地上の太陽』ではなくて、『地上の超新星』である。この超新星の爆発を装置の中で実現しようとしていることにそもそもの無理がある。
安価。核融合をするには巨大な装置が必要なことが分かって、そのウソはすぐにばれてしまい、言わなくなった。
資源無尽蔵、原発よりクリーン、固有の安全性については、すでに述べた。
【ITER ではなく、怪物・EATER】
このようなウソのうえに、核融合研究は、遅々として進まない。砂漢の逃げ水のように完成目標は遠のいていく。1950 年代には、10 年後に完成すると言っていた。それが、10 年研究すると10 年完成時期が伸びることになって、50 年研究した現在、完成時期は50 年後という。量初から言えば100 年後である。
そのうえ、ITER は怪物で、『big EATER(大食い)』という方が実態を正しく表現できる。この怪物は、膨大な資金と資源を喰らい、膨大な放射性廃棄物を垂れ流す。
【核融合は核分裂と本質的に異ならない】
東大の山地氏は、次のように言っている。
「核構造の中に閉じ込められたエネルギーの開放という点で核融合は核分裂と本質的に異なる点はなく、資源・環境の点からも決定的に有利とはいえない。ましてや、経済性は未知数であり、実用化を目指して今ただちにプロジェクト化する必要性は認められない。実用炉として想定されている DT 反応では、Li資源の制約、中性子による誘導放射能の問題がある。核融合の利用法として、電源としての経済性・環境特性に決定的に有利な点はない。「地上の太陽」の実現というロマンだけで核融合の開発が許された時代は終わっている」、と。
・ITERは「希望の星」ではない
https://cnic.jp/150
原子力資料情報室通信368号(2005.2.1)掲載
古川路明(名古屋大学名誉教授)
※ITER(国際熱核融合実験炉、イーター)を核融合によるエネルギー生産の「希望の星」と見る人がいます。日本では、青森県六ヶ所村とフランスのITERの誘致合戦が話題になることが多く、核融合のかかえる技術的問題の議論は後回しにされています。
核融合はエネルギー問題の解決に役立つのでしょうか。本当は、実現は不可能に近く、とても「核融合には未来がある」とは考えられません。ここでは、私が考えている核融合の問題点をQ&Aの形で書いてみます。
■核融合はどんなものですか。
□水素の原子核が反応して、大きなエネルギーが放出されることを核融合といいます。水素には、原子核の性質が異なる3つの同位体があります。普通の水素(1H)、重水素(2H、D)と三重水素(トリチウム、3H、T)です。
■太陽で核融合が起こっていますか。
□太陽の熱源は核融合です。太陽の中では、普通の水素が核融合を起こしています。水素が大量に集まり、起こりにくい反応が続いています。地上で太陽は再現できません。
■「核融合炉」とはどんなものですか。
□核融合炉は、核融合によって発生するエネルギーを用いて発電する設備です。ITERはそれを実現するための実験炉です。核融合炉内では、高温の水素原子核同士の核反応(熱核反応)が起こらねばなりません。
■核融合炉はどうすれば実現できますか。
□起こりやすい核反応は「D-T反応」です。重水素とトリチウムが反応してヘリウムと高速中性子が生じます。反応で発生するエネルギーの8割を中性子が持ち出します。核融合炉では、中性子を冷却材に吸収させ、吸収されたエネルギーを水に伝え、そこで発生する水蒸気でタービンを回して発電します。トリチウムの製造を考えると冷却材として、リチウムを含む物質を用いねばなりません。
リチウムはナトリウムと似た性質をもつ金属です。溶融リチウムを冷却材に用いれば、溶融ナトリウムを冷却材に用いる高速増殖炉と核融合炉は似てきます。
■燃料はどのように用意するのですか。
□重水素は水素に0.015%の割合で含まれていて、エネルギーさえあれば純粋な重水素が得られます。問題はトリチウムです。
トリチウムを得るには、リチウムを遅い中性子で照射する以外の道はありません。出力100万キロワットの核融合炉を1日運転するには、0.4キログラムのトリチウムが必要です。半減期が12.3年と短いためこのトリチウムの放射能の強さは非常に高いのです。低エネルギーベータ線を放出するトリチウムの放射能毒性の評価は難しいのですが、このトリチウムの100万分の一を水の形で口から摂取するとき、ヒトの健康に重大な影響をおよぼすおそれがあります。
■核融合炉と原子炉は関係があるのですか。
□ 核融合炉の運転を始めるには、10キログラムのトリチウムが必要でしょう。それは原子炉でリチウムを照射して製造します。
核融合炉の運転開始後は、核融合で発生する中性子でリチウムを照射して製造すればよいのですが、消費されたトリチウムと同じ量以上を得ることは難しいでしょう。そうなれば、「核融合炉の隣に原子炉を置かねばならない」ことになります。それでは、核融合炉を建設する意義は減るのではないでしょうか。
■核融合では放射能はできないのですか。
□D-T反応では放射性のトリチウムはなくなりますが、中性子によって放射能ができることは問題です。炉の構造材として使われるであろうステンレス鋼に中性子があたったとします。ステンレス鋼に含まれるニッケルから、ガンマ線を放出するコバルト57(半減期、271日)、コバルト58(71日)とコバルト60(5.3年)がつくられます。その量は大きく、出力100万キロワットの核融合炉が1ヵ月間運転した後には設備に近づくことができないほど強い放射能ができます。1時間以内に致死量に達するような場所があるはずです。放射能は時間とともに減りますが、コバルト60があるために50年以上も放射能は残ります。ニッケルは構造材の成分としては不適当だと考えています。他の成分である鉄からマンガン54(312日)ができます。ニッケルの場合より放射能は少ないのですが、被曝の危険があることに変わりはありません。また、超伝導磁石のような他の材料の中にも放射能ができます。
■放射性廃棄物が発生しますか。
□施設が閉鎖して長期間経過後も、ニッケル59(7.5万年)、マンガン53(360万年)などがいつまでも残ります。大量の低レベルないし中レベル放射性廃棄物が出ます。
核融合炉からは、原子炉のようにアルファ線を放出する放射能や長寿命の核分裂生成物は製造されませんが、それなりの残留放射能に対する対応が必要です。
■他に使える反応はありませんか。
□重水素原子核同士を反応させる反応(D-D反応)がありますが反応が起こりにくく、エネルギー発生の効率も悪いので、ここで取り上げなくてもよいと考えています。
■他に、技術的な問題はないのですか。
□核融合を安定な状態で持続すること、1000万度を超える高温に耐えるような炉の構造を考えること、トリチウムをいかに安全に取り扱えるかということなど、まさに問題は山積しています。
私は放射能の問題を取り上げただけですが、それだけでも重要な難点があるのです。
■これまでに問題点について訴えた人はいないのですか。
□その声は広くは伝わっていないようですが、以前からありました。例えば、槌田敦氏は、1970年代に、核融合炉の問題を広い視野に立って批判的に分析していました。また、押田勇雄氏は、1985年に書いた『人間生活とエネルギー』(岩波新書)の中で「まず成功しない研究」といっています。核融合を推進する立場にあると思われがちな物理学者にもこのような意見をもつ人がいるのです。
気楽な会合の席では、「核融合研究は失業救済になっている」という暴言を吐く人がいます。また、ある核融合研究者は、海外で「核融合研究はsocial welfare(社会福祉)のようなものだ」と言われたそうです。このような発言は悪口とみえますが、私は核融合研究の将来を心配している声と受け取っています。
ITER計画から早く手を引いて、現在進めている計画が妥当かどうかを真剣に検討すべきではないでしょうか。
・注目の「核融合発電」は、実現前から“燃料不足”の危機に直面している(WIRED 2022年6月23日)
※極めて高効率でクリーンな発電手法として注目される核融合。国際熱核融合実験炉(ITER)の完成が近付くなか、ある重大な“問題”が指摘されている。稼働が見込まれる2035年ごろには、燃料となる水素の放射性同位元素のトリチウムが不足している可能性があるというのだ。
フランス南部に建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)が、少しずつ完成に近づいている。予定通り2035年に本格稼働が始まれば、同種の実験炉としては世界最大の施設となり、「核融合の旗手」となることは間違いない。
「トカマク」と呼ばれるドーナツ型の核融合炉のなかで、ジュウテリウム(重水素)とトリチウム(三重水素)の2種類の水素を融合させると、太陽の表面よりも高温のプラズマが発生する。そこから放出されるのは、何万世帯もの電力をまかなえるクリーンなエネルギーだ。
つまり、SFの世界そのままの“無限の電力源”が現実のものになる──。少なくとも、そのように計画されている。問題は、ITERが稼働可能になるころには、運転に必要な燃料が十分に残っていないかもしれないということなのだ。そのことに気づいている人もいるはずだが、誰も口にしようとしない。
燃料になるトリチウムが不足する
重要な核融合実験炉の多くがそうであるように、ITERが実験炉として機能するにはジュウテリウムとトリチウムの安定供給が欠かせない。ジュウテリウムは海水から抽出可能だが、水素の放射性同位元素であるトリチウムは極めて希少な物質だ。
トリチウムの大気中濃度は、核実験が禁止される前の1960年代にピークに達した。最新の推計によると、地球上に存在するトリチウムの量は現時点で20kgを下回るという。
ITERの建設は当初の予定から何年も遅れ、いまや数十億ドル単位の予算超過が発生している。こうしたなか、ITERやほかの核融合実験炉にとって最適な燃料供給源となるはずのトリチウムは、少しずつ消失しているのだ。
現在、ITERのような核融合実験施設や、英国にある小規模のトカマク型核融合実験施設である欧州トーラス共同研究施設(JET)で使用されるトリチウムは、重水減速型原子炉と呼ばれるかなり特殊なタイプの核分裂原子炉でつくられている。ところが、これらの原子炉の多くに耐用期限が迫っており、稼働を続けている施設は世界で30に満たない。
カナダに20基、韓国に4基、ルーマニアに2基が現存し、それぞれ年間100gほどのトリチウムを生成している。インドで原子炉の建設が計画されているが、同国が核融合の研究者たちにトリチウムを提供する可能性は低いだろう。
供給量の「絶頂期」を逃すことに
長い目で見ると、これは将来性のある解決策とは言えない。核融合の本来の目的は、従来の原子力発電に代わるクリーンで安全な発電手段を提供することだ。
「“ダーティー”な核分裂炉を使って“クリーン”な核融合炉に燃料を供給するとは、なんとも不条理な話です」と、物理学者のエルネスト・マッズカートは言う。彼はすでに一線を退いているが、現役時代の大半をトカマク型核融合炉の研究に費やした経歴をもつ。それにもかかわらず、ITERや核融合全般に対する批判を公言している。
トリチウムのもうひとつの難点は、崩壊が速いことだ。トリチウムの半減期は12.3年である。つまり、偶然にもいまから約12.3年後に予定されているITERのジュウテリウム・トリチウム(D-T)核融合反応による運転開始の時期には、現在のトリチウムの半量が崩壊してヘリウム3に変わっていることになる。
この問題は、ITERが稼働を開始し、ほかのD-T核融合施設がいくつも計画されるようになれば、さらに深刻化するはずだ。
これらの2つの要因により、核分裂の望まれぬ副産物として慎重に廃棄されるべき存在であったトリチウムは、地球上で最も高価という推定もあるほどの物質に転じた。トリチウムの価格は1g当たり30,000ドル(約380万円)で、核融合炉の運転に必要な量は年間200kgに上る見込みだという。
さらに事態を悪化させているのは、核兵器を配備する国々もトリチウムを欲しがっていることだ。トリチウムに核爆弾の威力を高める効果があることがその理由だが、軍用に自力でトリチウムを製造する国も多い。世界のトリチウムの大部分を生産するカナダが、平和目的以外の売り渡しを拒否しているからだ。
プリンストン大学プラズマ物理研究所の研究員であるポール・ラザフォードは、この問題を予見し、「トリチウム・ウィンドウ」に関する論文を1999年に発表している。トリチウム・ウィンドウとは、トリチウムの供給がピークに達する絶頂期を意味する。そのあと供給は減少に転じ、やがて重水減速型原子炉は停止に至るとラザフォードは予測していた。
彼が示した絶頂期とはまさに現在なのだが、ITERの建設は予定より10年近くも遅れており、この好機を利用できずにいる。「もしITERが3年ほど前の計画通りにプラズマ燃焼実験を実現できていたら、万事うまくいっていたかもしれません」と、ITERで燃料サイクル部門のリーダーを務めるスコット・ウィルムズは語る。「ちょうどいまがトリチウム・ウインドウのピークに当たるのですから」
トリチウム供給の理想と現実
こうした問題が潜在することに数十年前から気づいていた科学者たちは、障害を巧みに回避する方法を開発した。核融合炉を使ってトリチウムを“増殖”し、燃料の使用と補充を同時にこなす方法である。増殖炉技術を駆使し、リチウム6の“ブランケット”によって核融合炉を包み込むことが目標だという。
核融合炉から漏れ出た中性子がリチウム6の分子に衝突することにより、トリチウムが生成される。抽出されたトリチウムは再び核融合に使用できる。
「計算上、理想的な増殖ブランケットが完成すれば、必要な燃料を自給できるほどのトリチウムを発電所に供給できるうえ、余剰分で新たな発電所を操業できることがわかっています」と、JETの核融合プロジェクトを主催する英国原子力公社(UKAEA)の広報担当者のスチュアート・ホワイトは説明する。
トリチウムの増殖実験はITERの活動の一環として実施される予定だったが、当初60億ドル(約7,630億円)を予定していた経費が250億ドル(約3兆1,770億円)を超えるまでに膨れ上がったことで、いつの間にか立ち消えになった。ウィルムズが現在ITERで担当しているのは、もっと小規模な実験の管理である。
リチウムのブランケットで核融合炉の周囲を完全に覆う代わりに、ITERはリチウムをセラミック被覆ぺブルベッド、液体リチウム、鉛リチウムといったさまざまな形態に加工し、それぞれスーツケース大のサンプルをトカマク型核融合炉の周りのポートに挿入する実験を予定しているという。
ところが、当のウィルムズも認めていることだが、この技術の実用化はかなり先のことであり、本格的なトリチウム増殖実験も次世代の核融合炉が登場するまで待たざるを得ないだろう。だが、それでは遅すぎるとの意見もある。
「2035年以降、別の新たな施設を建設しなければなりませんが、そこでトリチウムをどのように生成するかという重要な実験には、さらに20年から30年の歳月が必要になるでしょう。今世紀中に運転を開始できなければ、核融合炉で地球温暖化を食い止めることなどできるはずがありません」と、物理学者のマッズカートは訴える。
高まる懐疑論
トリチウムを生成する方法は、ほかにもある。核分裂炉に増殖材料を大量投入する方法、あるいは線型加速器を使って中性子をヘリウム3に照射する方法だ。
しかし、これらの技術を使って必要な量のトリチウムを確保しようとすると、コストがかかりすぎる。また、おそらくこうした技術は核兵器開発のために留保されることになるだろう。
ITERの建設と並行して、増殖技術の開発を進める意欲的な取り組みが望まれると、ITERのウィルムズは言う。そうすれば、ITERの核融合炉が完成するころには、その動力源となる燃料の供給を確保できるはずだ。「クルマを完成させてみたらガソリンがなかった、では困るのです」と、彼は言う。
トリチウム問題のせいで、ITERばかりかD-T核融合プロジェクト全般に対する懐疑論が高まっている。そもそもジュウテリウムとトリチウムの2つが選ばれたのは、いずれも比較的低い温度で核融合反応を起こす元素だからだ。どちらも非常に扱いやすく、核融合プロジェクトが始動した当時の状況に合う条件を備えていた。当時は、ほかの方法はすべて不可能であると考えられていたのだ。
ところが現在は、AI制御による磁気の力で核融合反応を閉じ込める方法のほか、材料科学の進歩を背景に別の可能性を探ろうとする企業も出てきた。カリフォルニア州に拠点を置く核融合エネルギー企業のTAE Technologiesが建設を計画している水素とホウ素を使用する核融合炉は、D-T核融合に代わるクリーンで実用的な施設になるはずだという。
TAE Technologiesは、消費量を上回る電力を核融合で生み出す「エネルギー純増」の達成を25年までに目指すという。ホウ素は海水から1メートルトン単位で抽出できるうえ、D-T核融合と違って装置を被ばくさせずに済む利点がある。TAE TechnologiesのCEOのミヒル・ビンデルバウアーは、商業的に採算の合うやり方で成長性の高い核融合発電を目指すのであれば、この方法に勝るものはないと語る。
しかし、核融合プロジェクトにかかわる人々の多くは、主要燃料の供給に潜在的な問題があるにもかかわらず、依然としてITERに期待をかけている。「核融合は極めて困難な取り組みです。D-T核融合以外の方法は100倍の難しさを伴うでしょう」と、ITERのウィルムズは言う。「100年後なら、ほかの選択肢について語れるようになっているかもしれません」