・米中欧エリートが集う神秘なる学院 ~グローバルリーダー育成校・清華大学シュワルツマン学院~
 
https://www.jmca.jp/column/shin_china/china97.html

※習近平国家主席、胡錦濤前国家主席、朱鎔基元首相など中国の指導者を輩出する清華大学。2013年、この名門大学に極めて神秘なる学院が新たに誕生した。「シュワルツマン学院」(中国名「蘇世民書院」)だ。

「シュワルツマン学院」を訪問

シュワルツマンはアメリカ人の名前で、ニューヨークに本社を置く米国最大の投資ファンド会社『ブラックストーングループ』のCEOを務めるスティーブン・シュワルツマン氏のこと。蘇世民は氏の中国語名である。清華大学には20学院、54学部があるが、人の名前で学院や学部を命名したのは初めてである。

外国人8割、世界名門校の教授陣による英語授業、全寮制、食事無料、最高額奨学金支給、入学のための国際旅費全額支給など、清華大学に前例がない事柄が多く、神秘なる学院と言われる。

なぜ米国人の名前で学院を命名したか? シュワルツマン学院は一体どんな学院? 何のために設立し、どんな特徴を持つか? 筆者は今年7月下旬、多くの疑問を持ちながら清華大学シュワルツマン学院を訪れた。

広大な清華大学キャンパス。周囲を歩けば、1時間以上かかる。正門から北方の奥に向かい、約40分歩くと、緑に囲まれる灰色のレンガ造りの低層ビルが見えてくる。入口付近の壁には「SCHWARZMAN COLLEGE」と「蘇世民書院」と書いてある。ここはまさに神秘なるシュワルツマン学院だ。

今の中国がわかる未来のグローバルリーダーを育成

学院関係者の紹介によれば、2013年ブラックストーングループCEOを務めるスティーブン・シュワルツマン氏は1億ドルの私財を清華大学に寄付し、毎年200名の外国留学生を支援する奨学金プロジェクトを設立した。これはこれまで中国の大学が海外から受け入れた最大規模の寄付金でもある。

また、シュワルツマン氏及び清華大学の共同呼びかけで、米化学大手ダウ・ケミカル、英国石油大手BP、スイス信託大手クレジット・スイスなど外国企業から2億7500億ドルの寄付金を集めた。中国企業からの寄付金を合計すれば、2017年8月末現在、寄付金総額は4億5000億ドルにのぼる。

シュワルツマン氏の巨額寄付の目的は極めて明確だ。氏は次のよう自分の寄付行為を説明している。「中国は将来、世界最大の経済大国になるだろう。欧米はより全面的により詳しく中国の社会、政治及び経済環境を理解する必要がある。双方は相互尊重のWin-Win関係を構築することが極めて重要だ。21世紀において、中国は選択コースではなく、(必修)コアコースだ」。「中国で共に学び、中国を理解し、何かあれば電話1本で話ができる将来のリーダーを、50年間で1万人育てる」というのはシュワルツマン氏の構想だ。

シュワルツマン学院の参考モデルにしたのが、イギリスの大富豪で首相も務めたセシル・ローズによる「ローズ奨学金」だ。アメリカをはじめ世界各国の優秀な学生をオックスフォード大学で学ばせるもので、ビル・クリントン元大統領もその1人だ。ローズがアメリカを20世紀の超大国とみたように、シュワルツマン氏は「将来の超大国・中国」と睨み、中国とアメリカのパイプ作りを進める狙いがある。

シュワルツマン学院のホームページによれば、学院の設立趣旨を「異なる文明間の相互理解と協力を促進する未来のグローバルリーダーを育成する」としている。シュワルツマン氏本人の言葉を借りれば、米中連携で、「未来のグローバルリーダーになる最も可能性がある人物を見つける」。「未来のリーダーは今の中国がわからなければならない」。これはシュワルツマン学院設立の最も本質的な部分だと筆者が思う。

最初の名前は「清華大学シュワルツマン学者プロジェクト」だった。その後、著名な建築家、米エール大学建築学院院長ロバード・スターン教授がデザインした専用建物の完成によって、「シュワルツマン学院」(中国語名:蘇世民書院)が正式に誕生した。

清華大学はもともと中国指導者育成校だった

周知の通り、清華大学はもともとアメリカ政府の資金で設立したアメリカ留学予備校だった。学校名は「清華学堂」だ。

1900年、中国には外国人を標的とする「義和団の乱」が起きた。アメリカは日本、イギリス、フランスなど8ヵ国の連合軍に参加し、義和団の鎮圧にかかわり、当時の清王朝から4870万円という多額の戦争賠償金を受け取った。日本も同額の戦争賠償金を受け取り、当時の明治政府の歳入が1億円前後という数字を考えれば、4870万円は極めて大きな金額ということがわかる。

しかし、アメリカがほかの国と違うことは、自国の軍隊派遣費用、中国で殺されたアメリカ人ビジネスマン、キリスト伝道師への賠償を差引いたあとの残額である1670万円をすべて中国に返還したことである。

ただし、直接返金したのではなく、返還金を使って中国にアメリカ留学予備校・清華学堂を設立した。この学校はのちの清華大学となる。

この戦争賠償金の返還をアメリカ政府に提言したのは、当時のイリノイ大学のジェームス学長だった。「中国自身が支払った賠償金を還元するという形で、中国の若者たちを教育することができれば、精神面とビジネス面において将来的にはアメリカにとって大きな収穫になるだろう」とジェームス学長は強調した。言い換えれば、知識と精神を持って将来の中国の指導者を育成する方式をとるべきだ、というのはジェームス学長の戦略構想である。

その提言を受けて、セオドア・ルーズベルト大統領は、1907年12月3日、議会での演説の中で、「われわれは自らの実力をもって中国の教育を支援し、この繁栄の国をして徐々に近代的な文化に融合させるべきである。支援の方法は賠償金の一部を返還し、中国政府をして中国人学生をアメリカに留学させる」と述べた。翌年5月、米議会は決議案を採択し、賠償余剰金を中国に返還し、アメリカ留学予備校の設立を実現させた。

100年後、朱鎔基首相、胡錦濤国家主席、習近平国家主席など清華大学出身の中国指導者が相次いで誕生し、いずれも親米的な姿勢を取ってきた中国のリーダーだ。アメリカの対中戦略は「百年の計」と言われても決して過言ではない。

ところが、この度、中国のリーダー育成ではなく、未来のグローバルリーダーを育成する学院が中国の清華大学に誕生した。アメリカによる百年後の世界を見据えた戦略的な行動と見ていい。常に50年先、100年先のことを考えながら戦略的に行動するのはアメリカ人の凄さである。

世界の最優秀な人材が集う

2016年9月10日、「シュワルツマン学院」は正式に発足し、米国、英国、フランス、ドイツ、中国など31ヵ国110名の学生が北京で一堂に集まり、盛大な入学式が行われた。習近平国家主席とオバマ大統領はそれぞれ祝賀メッセージを送り、劉延東副首相が入学式に出席し挨拶した。当事者のシュワルツマン氏本人と清華大学学長のほか、エール大学学長、英ケンブリッジ大学学長、オックスフォード大学前総長らも入学式に出席した。

シュワルツマン学院は一年間の修士課程を設ける大学院である。募集対象は世界各国の優秀な若者たちだ。応募条件としては次の3つ。1つは大学卒の学歴、2つ目は年齢が18-28歳、3つ目は上達な英語能力。定員は200名だが、米国45%、中国20%、残る35%はほかの国が占める。



表1 シュワルツマン学院一期生の出身国と出身校

2016~17年期の応募者は3000人を超え、厳格な書類審査、面接を経た結果、110名が合格した。面接会場はニューヨーク、ロンドン、北京、バンコクなど4ヵ所に設けられ、アメリカの元政府高官や大手企業CEOが自ら面接を担当した。

一期生の出身校を調べてみると、110人のうち、ハーバード大学6人を筆頭に、プリンストン大5名、清華大5名、エール大4名、MIT、コーネル大、ウェストポイント、北京大学、南開大学などそれぞれ3名、スタンフォード大学とオックスフォード大学がそれぞれ2名、ケンブリッジ大学1名が続く。

これまで中国の最優秀な学生は欧米の名門大学に留学してきた。しかし、今は世界で最も有名な大学の優秀な人材が中国の清華大学に集結する。これは画期的な意義がある。シュワルツマン氏本人は2016年9月初め頃、「ウォール・ストレート・ジャーナル」紙のインタビューに応じ、シュワルツマン学院設立の意義を興奮気味で次のように強調した。
 
「西側の最も優秀で最も賢い人材が中国に来るのは、ほかでもなく中国を知るためだ。これは200年来、初めての出来事だ」と。

同年11月、シュワルツマン氏は「中国新聞週刊」誌のインタビューの中で、次のように述べている。「通常、最も優秀、最も聡明な人たちは、ハーバード大学や、エール大学、プリンストン大学、スタンフォード大学、オックスフォード大学またはケンブリッジ大学など西側の名門校を選ぶ。しかし、この度は初めて、これほどトップクラスの大学の学生が中国に来る。これは大きな変化で、象徴的な出来事である。つまり世界各国の人たちは中国に興味あることだ」。

シュワルツマン氏の構想によれば、毎年200名の優秀な人材を育成し、50年で1万人になる。50年後、今の中国を理解するグローバルリーダーが必ず「シュワルツマン学院」から出てくるだろう。

豪華な顧問委員会メンバーと教授陣
 
未来のグローバルリーダーを育成するために、シュワルツマン学院は欧米諸国の政府首脳経験者または重要閣僚経験者、著名大学の学長及び大手企業の経営者を顧問に迎えた。



表2 清華大学シュワルツマン学院(蘇世民書院)顧問委員会メンバー

表2に示す通り、合計19名の顧問委員会メンバーのうち、ニコ・サルコジ元フランス大統領をはじめ、トニーブレア元イギリス首相、ブライアン・マルルーニ元カナダ首相、ケビン・ラッド元オーストラリア首相など政府首脳経験者4名、キシンジャー、パウエル、ライスなど米国務長官経験者3名、ルービン、ポールソンなど米財務長官経験者2名が学院の顧問に就任している。

学院の教授陣も凄い。ハーバード大学、エール大学、スタンフォード大学、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、清華大学、北京大学など世界名門大学の教授たちが学生を教えている。授業は全て英語で行われる。中国語の授業もある。清華大学やハーバード大学、エール大学の教授が教えることが多いが、アメリカのサマーズ元財務長官、ポールソン元財務長官、クリスティーヌ・ラガルドIMF専務理事ら大物ゲストの講義も頻繁にあるという。

コアコース(必修)と選択コース
 
シュワルツマン学院はコアコース(必修)と選択コースを設けている。卒業論文もあり、1年で学位を取得できる。

コアコースには、リーダーシップ論、中国文化・歴史及び価値観、中国と世界経済、中国と国際関係、比較公共治理などの科目が含まれる。
一方、選択コースは経済管理、国際関係、公共政策の3つから選ぶ。アメリカの金融機関やコンサルティング会社から既に内定を得ている学生も多く、経済管理や国際関係の科目の人気が高いという。

授業のほか、学生たちは中国企業や政府部門及び農村にも行って、短期間の研修を通じて中国社会・文化への理解を深める。一部の学生は中国ネット通販最大手のアリババで企業研修も経験した。

シュワルツマン学院は全寮制で、キャンパスには教室のほか、図書館、食堂、スポーツジムなどの施設も完備される。朝から晩まで数十カ国110人の学生が一緒にいる。こんなに濃厚に他の人と付き合いコミュニケーションができることはとても新鮮であり、国際的な人脈作りにも繋がる。各国に友だちができるのは、学生にとって、貴重かつ大きな財産になるのは間違いない。

米中は緊密連携 日本はカヤの外
 
米中は表向きでは様々な問題で対立しているが、水面下では緊密に連携し絆を深めている。シュワルツマン学院は正に米中緊密連携の裏付けであり、日米より遥かに密度が高い米中関係の象徴ともいえる。

シュワルツマン学院は構想段階から米中共同作業で行われ、参考モデルはイギリスのローズ奨学金で、学生は米中欧の優秀な人材が中心となる。米国の現役軍人も数人いる。米中軍事面の交流を重視するアメリカ政府の姿勢が伺える。

一方、日本はカヤの外に置かれている。寄付企業が欧米中心で日本企業の名前が見つからない。面接会場4カ所にも東京の名前がない。一期生110人のうち、日本人の生徒は僅か2人。1人は慶應大学卒、もう1人は米エール大学卒である。2017年度第2期の新入生126名のうち、日本人はゼロ。これだけ魅力的な学院だが、日本の若者たちは無関心だ。内向きになる日本の姿が如実に映される。

米中相互留学の学生数は年々増えている。中国からアメリカに留学する人は2015年度に約33万人で日本人の17倍。アメリカへの留学生全体の31.5%を占め、7年連続で国別トップ。一方、アメリカから中国に留学する人は2016年度23,838人で、国別で韓国に次ぐ2位。中国への日本人留学生の約2倍、日本に留学するアメリカ人の9倍に相当する。

科学の共同研究分野でも米国は中国を最も重視している。文部科学省の資料によれば、2013~15年、自然科学8分野のうち、米国が選ぶ共同研究の相手国は化学、材料科学、計算機・数学、工学、環境・地球科学、基礎生命科学など6分野で中国が1位、物理学が2位、臨床医学が3位。日本はすべての分野で5位以下となる。米中は連携の絆を深める一方、内向きな日本は置き去りにされつつある実態が浮き彫りになっている。


※スティーブン・アレン・シュワルツマン(英: Stephen Allen Schwarzman、1947年2月14日 - )は、アメリカ合衆国の実業家、投資家。世界的な投資ファンドであるブラックストーン・グループの共同創業者で同社の会長、最高経営責任者を務める。ドナルド・トランプの古くからの友人で顧問でもあり、トランプ政権では経済界を代表する大統領戦略政策フォーラムの議長を務めた。

個人情報

生誕 Stephen Allen Schwarzman
1947年2月14日(73歳)
ペンシルベニア州フィラデルフィア
国籍 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
政党 共和党
配偶者 エレン・フィリップス(1971 - 1990)
クリスティン・ハースト(1995 - 現在)
子供 2人(実子)
1人(継子)
出身校 イェール大学(学士)
ハーバード大学(MBA)
職業 ブラックストーン 共同創業者
純資産 126億ドル(2018年)

経歴

ペンシルバニア州でユダヤ人の家庭に生まれる。

母校のイェール大学では秘密結社スカル・アンド・ボーンズの一員でジョージ・W・ブッシュの学友だった。1969年にハーバード・ビジネス・スクールに入学した。

リーマン・ブラザーズに勤務した後、1985年にブラックストーン・グループを設立し、世界最大のプライベート・エクイティ・ファンドに育て上げた。

資産と慈善事業

純資産は2018年で推定134億米ドルで世界で117番目の大富豪であり、またフォーブスの世界で最も影響力のある人物の42位にランクインしている。エール大学の他、マサチューセッツ工科大学やオックスフォード大学にも巨額の献金を行っている。

2016年には自ら経済管理学院顧問委員会に名を連ねている中国清華大学にシュワルツマン・スカラーズを設立。私財の1億ドルに加え3億ドル近い寄付金を世界中から集め、次世代のリーダーを養成するためのローズ・スカラーシップをモデルとした国際関係修士プログラムを創設した。


・「清華大学顧問」という名の国際的「習近平ブレーン」の顔ぶれ--樋泉克夫
中国を舞台に国境を跨ぎ業種の違いを超えて企業家が結びつき、これに政治指導者が応ずる

https://www.huffingtonpost.jp/foresight/xi-jinping-university-member_a_23289716/

※第19回中国共産党全国代表大会を"成功裏"に終えた習近平中国国家主席は、ドナルド・トランプ米大統領の訪中を1週間ほど後に控えた10月30日、中国の最高学府の1つで、自らが学んだ清華大学の経済管理学院顧問委員会メンバーと、北京の人民大会堂で面談している。

この顧問委員会なる組織の役割を考える手懸かりとして、当日の全体集合写真を見ておきたい。

総勢で40人ほど。前後2列に並んでいるが、もちろん前列中央は習近平主席である。以下、主な参加者の立ち位置を写真に向かって見ておくと、習主席の右隣は「ゴールドマン・サックス」で会長兼最高経営責任者を務めたヘンリー・ポールソン元財務長官(ブッシュ子政権)。

1人置いて立つのが、有力ヘッジファンドの「ブラックストーングループ」で会長兼最高経営責任者を務めるステファン・ハースト・シュワルツマン。その右隣が、共産党で外交問題を統括する楊潔篪国務委員、次が「フェイスブック」創業者で最高経営責任者のマーク・ザッカーバーグ。2人置いてシンガポールの李顕龍(リー・ションロン)首相夫人・何晶(ホー・チン)女史である。

習近平主席の左側を見ると、直ぐ隣に立つのが世界的なリスク投資家で「ブレイヤー・ファンド」を率いるジェームス・ブレイヤー。3人置いて「アップル」最高経営責任者のティム・クック。クックから左に3人目が王毅外相で、前列の左端を、香港の「利豊集団」で名誉主席を務める馮国経(ヴィクター・フォン)が占めた。

後列は、習近平主席の真後ろから右へ3人目が台湾の「鴻海集団」総帥の郭台銘(テリー・ゴウ)。左側で同じ位置に立つのが香港の「電訊盈科(PCCW)集団」主席の李沢楷(リチャード・リー)である。

中国からは、「阿里巴巴集団」主席の馬雲(ジャック・マー)、騰訊集団主席の馬化騰(ポニー・マー)、「百度集団」董事長の李彦宏(ロビン・リー)という3人が加わっているが、共に後列の両端近くに位置している。

以上の立ち位置を別の角度で捉えるなら、習近平主席はヘンリー・ポールソン、ジェームス・ブレイヤー、郭台銘、李沢楷の4人に取り囲まれていることになる。いわば、この4人を習近平主席に最も近い中核メンバー、逆に言うなら、習近平政権から最も期待されているメンバーと見なすこともできようか。

アドバイザーにして御用達

習近平主席は彼らを前にして、第19回共産党全国代表大会で示された向こう5年間の政策を述べ、さらに自らの主権と安全を一貫して守り、利益を発展させるという中国の立場を明らかにした。加えて、国策の基本である対外開放を堅持し、「互利共贏(ウイン・ウイン)の開放戦略」を忠実に履行することを説き、対米関係に関しては両国間の対立と矛盾を解消・改善するよう努め、両国の合作を推進することで「互利共贏」を実現したい、トランプ大統領の訪中に期待する――と語っている。

習近平主席の発言は"中国式総花的内容"と言えなくもないが、時期的に、国境を超えた異色の組み合わせである清華大学経済管理学院顧問委員会との面談を挟んで、直前に共産党全国代表大会が、直後に米中首脳会談が行われたことを考えるなら、やはり最高学府とは言え大学の経済管理学院顧問委員会との面談が、儀礼的挨拶で終わるものではないだろう。より積極的な意味があったと見るべきではないか。

この顔ぶれから想像するに、清華大学経済管理学院顧問委員会が、単に同大学における経済学・経営学教育に学術的な助言を与えるだけの組織だとは思えない。彼らの企業家としての日々の振る舞いを総合的に捉えるなら、ウォール街と中国、香港、台湾、シンガポールをネットワークする金融とITビジネス(ソフトとハード、eコマースなど)に関わる風雲児――より直截に表現するなら、世界的な現代の"錬金術師"の組み合わせと形容できるのではないか。もちろんウォール街の先にトランプ政権が、中国人・華人企業家の先に習近平政権が繋がっていることを想定しておいてもあながち間違いはないだろう。

習近平主席は第19回共産党全国代表大会で、建国100周年を期しての「社会主義強国」建設を掲げたが、今後の中国経済の成長戦略を考えた時、これまでのように安価な労働力を大量にフル稼働した「世界の工場」を求めることは、構造的に明らかに無理だ。人口減少、生活レベルの向上によって、潤沢な労働力と低賃金が可能にした大量生産方式の製造業は、これからの中国には望めない。

「社会主義強国」を建設するためには、やはり経済・産業構造のイノベーションは必至だろう。たとえばインターネットと製造業を融合させた未来型ビジネスモデルの創出であり、「分散型台帳」と呼ぶ新しい情報記録の仕組みであるブロックチェーン関連プロジェクトである。

このように考えるなら、清華大学経済管理学院顧問委員会メンバーは、2期目に入った習近平政権の経済・産業政策のアドバイザーであり、同時に"習近平政権御用達"の企業家と見なすこともできそうだ。あるいは中国の経済圏構想「一帯一路」を、IT関連ビジネスによって民間側から補完しようとする試みとも受け取れる。

名を連ねる「大物華人」たち

アメリカ側メンバーの現状、さらにはトランプ政権との繋がりに関しては、一般知識以上を持ち合わせていないので敢えて言及せず、以下に華人・中国人メンバーの動向を記しておきたい。

まず習近平主席に近い位置に立つ郭台銘は、毀誉褒貶が止まないものの、いまや台湾最有力企業家の域を遥かに飛び出した。シャープを買収し、中国を中心にインド、ブラジル、チェコなどの工場に125万余の従業員を擁する世界有数のOEM(相手先ブランド製造)集団を率いる、超野心的企業家で知られる。

今年4月27、28日にホワイトハウスを訪問し、トランプ大統領との会談は24時間のうちに2回行われたが、この会談の黒子役は大統領娘婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問と伝えられる。ちなみにクシュナーは3月に発足した「OAI=The White House Office of American Innovation(アメリカン・イノベーション局)」を統括するが、このOAIにはビル・ゲイツほかマイクロソフト経営首脳陣が名を連ねている。

郭台銘はトランプ大統領との会談で、ラストベルトに接するウィスコンシン州に100億ドルを投資し、1万3000人の雇用を約束した。「空飛ぶ鷹計画(Flying Eagle Plan)」と命名されたこの超大型投資を、「ほら吹き郭の大風呂敷」と酷評する向きもある。ちなみに長年民主党の牙城だった同州は、今回の大統領選挙でトランプ支持に転じた。同州を地盤としているのはポール・ライアン下院議長(共和党)である。

李沢楷は、香港というより華人企業家を代表する香港最大の企業グループ「長江実業」会長の李嘉誠の次男で、父親の許を離れて早くからハイテク産業の将来性に着目し、香港のハイテク産業基地化を目指した。父親の李嘉誠と兄の李沢鉅(ヴィクター・リー)副会長兼社長は、共に中国市場の将来に見切りをつけて資本を引き揚げたと伝えられるが、李一族自体が習近平政権と"手を切った"わけではない。

たとえば2015年9月3日に北京で行われた「抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利70周年」を祝賀する軍事パレードには、「北京閲兵香港特区代表団」のメンバーとして、兄弟で招待されている。この時の肩書は、兄の李沢鉅は政治協商会議常任委員、弟の李沢楷は香港特区代表であった。

今回の、清華大学経済管理学院顧問委員としての振る舞いから判断しても、李嘉誠一族が習近平政権と中国市場の将来を見限った、との見方は単純に過ぎると言っておこう。習近平政権と李一族の"相互利用関係"は依然として継続していると考える方が、彼らの商法からするなら常識というものだろう。

何晶は親中姿勢を見せるシンガポールの首相夫人であると同時に、同国政府系投資集団「テマセク」を率いる。テマセクが周辺ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国のみならず、中国市場に積極投資を展開していることは、既に知られたところだ。

馬雲、馬化騰、李彦宏は中国におけるeコマース市場を巡って激しい商戦を展開する一方、海外での展開を目指す。タイでは謝国民(タニン・チャラワノン)率いる「CP(正大)集団」と提携する「阿里巴巴集団」に「騰訊集団」が戦いを挑み始めた。「阿里巴巴集団」が"習近平銘柄"と見なされ、馬雲がトランプ大統領との個人的関係を誇示していることは周知のことである。

中心人物は「馮国経」か

残る馮国経は、弟の馮国綸(ウィリアム・フォン)と共に、父親が起こした利豊集団を、香港を代表する総合企業に発展させた。マサチューセッツ工科大学で理学修士号を取得後、1970年にはハーバード大学で博士号を取って同大学で4年程教壇に立った後、香港に戻り家業を継いでいる。プリンストン大学で工学を学んだ馮国綸と共にいち早く情報ビジネスに着目し、アメリカ人ビジネスマン向けに香港のビジネス情報を提供する「香港資訊処理公司」を創業している。その延長線上に「利豊研究中心」を持ち、中国市場関連の経済情報を発信している。

衣料・アクセサリー・おもちゃ(トイザラス)・家具・手工芸品・日用雑貨・コンビニ(OK便利店)・倉庫・物流・ローンなどを軸に、香港・中国のみならずタイ、マレーシア、ブルネイ、シンガポールでビジネスを展開する手腕もさることながら、やはり馮国経を特徴づけるのは、先を見る商才に加え、類まれと評価される英語力だろう。

最初に彼に着目したイギリス植民地当局は1990年、日本で喩えるなら全盛期のJETRO(日本貿易振興機構)に当たる香港貿易発展局の局長に指名される。1992年になると当時のクリストファー・パッテン総督によって総督商務委員に指名され、太平洋経済合作香港委員に任命されて、弟と共にアジア太平洋地域における香港企業の展開をリードすることになる。

さらに返還後の1999年には、返還翌年に開港した香港国際空港の民営化推進役として、香港特区政府から香港機場管理局長に任命されている。また、2006年にアジア出身者初の副会頭として「国際商業会議所(International Chamber of Commerce)」の運営に参画したことを機に、いわば国際的な国境を超えた企業家グループにおける地歩を築いたのである。

この種の集合写真では往々にして、黒子は端に位置していることが多いように思えるが、その経歴・経営手腕・対外関係などから考えると、清華大学経済管理学院顧問委員会の中心人物は、前列左端に立った馮国経ということもありそうだ。

中国を舞台に国境を跨ぎ業種の違いを超えて企業家が結びつき、これに政治指導者が応ずる――様々な"思惑"が複雑に絡み合う現状が、経済統計では単純に測ることのできない中国市場の面妖な姿を物語ってくれる。同時にそれは、日本的な短兵急な見方に対する警鐘でもあるように思う。ことは単純ではないのだ。


・Huaweiの頭脳ハイシリコンはクァルコムの愛弟子?(Newsweek 2018年12月8日)

遠藤誉 | 中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

※なぜ華為の頭脳ハイシリコンの半導体が最先端を行っているかというと、世界トップの米国半導体大手クァルコムの直接の教えがあったからだ。クァルコムが如何に中国に根ざしていたかを見ないと真相は見えて来ない。

◆クァルコムは中国改革開放と歩みを共にした
 
アルゼンチンでトランプ大統領と習近平国家主席が首脳会談を行なった翌日の2018年12月2日、中国政府の通信社である新華網はロサンゼルス発の情報として「クァルコムは中国の改革開放と歩みを共にしてきた」というタイトルの論評を発表した(新華社電であることは文末)。サイト内にある「高通」はクァルコム(Qualcomm)の中国語呼称である。1985年にアメリカのカリフォルニア州で創設したクァルコムは、キッシンジャー・アソシエイツを通して中国に進出していたが、1989年6月4日に起きた天安門事件でアメリカを中心とした西側諸国が中国に対する経済封鎖を始めると、暫時、中国におけるビジネス展開を中止していた。

しかし1992年の日本の天皇陛下訪中により西側諸国の経済封鎖が解除されると、再び中国におけるビジネスを展開し始めている。

2000年に当時の朱鎔基首相がWTO加盟のために清華大学の経済管理学院にアメリカ大財閥を中心とした顧問委員会を設置すると、ほどなくクァルコムのCEOは顧問委員会のメンバーに入った。

◆北京郵電大学にクァルコムとの共同研究所設立
 
1998年になると、クァルコムは北京郵電大学に共同研究所を設立し、人々をアッと驚かせた。

何を隠そう、この北京郵電大学こそが華為(Huawei、ホァーウェイ)の頭脳であるハイシリコン(HiSilicon)社の総裁を輩出した大学なのである。

ハイシリコンの何庭波総裁は女性で、まだ40代の若さだ。自分を研究者とも呼ばせない、生粋のエンジニアである。ビジネスに煩わされたくないので、華為の研究部門から独立し研究開発に専念した。彼女の志と風貌に関しては、まもなく出版される『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』で詳述した。

クァルコムの北京郵電大学への力の入れようは尋常ではなく、北京郵電大学内に「クァルコム杯(高通杯)」というものまで設立したりなどして、人材養成のために巨額の研究投資(時には1億ドル)を行なっている。

何庭波が北京郵電大学を卒業したのは1996年だが、クァルコム―北京郵電大学共同研究所が正式に設立されたのが1998年であって、クァルコムは非正式の形で早くから北京郵電大学に根を下ろしていたので、何庭波は直接クァルコムから半導体に関する指導を受けていたという可能性が高い。

そうでなかったら、なぜ、ここまでハイシリコンのレベルが高いのか、なかなか合点がいかないことが多いのが一般的な感触だろう。

◆ハイシリコンを絶賛する日本の半導体専門家たち
 
筆者だけがハイシリコンのレベルの高さを書くと、「お前は中国の回し者か」「親中だ」といった類の心ないバッシングが来るのは目に見えている。

そこで日本の高いレベルの半導体専門家が書いている論評をご紹介したい。

たとえば、2018年2月8日、田中直樹氏が、「中国とどう向き合うか。真剣に考えるべき」技術者塾「半導体チップ分析から見通す未来展望シリーズ」で講演をなさったテカナリエの清水洋治氏講演の重要性を日経BP社のウェブサイトで指摘している。

タイトルは「わずか6年で世界トップに、中国半導体メーカーの実力」である。その2ページ目に「'''トップレベルの半導体メーカーを持つHuawei'''」という小見出しがある。そこに以下のようなことが書いてある。

――Huawei社は傘下にHiSilicon Technology社という半導体メーカーを持っています。同社が2012年に突然「K3V2」というチップを発表したのですが、この発表の中で驚くべきことがありました。当時、150Mbps、LTE Cat.4に対応しているメーカーは世界中に1社もなく、Qualcomm社でさえCat.3、100Mbpsまでの対応だった中で、HiSilicon社はいきなり150Mbps対応のチップを発表したのです。

プロトタイプができただけだろうと思っていたら、すぐに日本で、このCat.4を搭載したWi-Fiルーターが当時のイー・モバイルから発売されたのです。中国が世界で最も速い通信用チップを一番先につくってしまったということで、とてつもない衝撃を受けました。それ以降、HiSilicon社は世界のひのき舞台のトップグループに躍り出て、現在もトップ中のトップをひた走っています。

Qualcomm社が「Snapdragon」の新製品を出せば、HiSilicon社は「Kirin」の新製品を出す。スマホ用プロセッサーにおける世界トップレベルの激しいスペック競争の中に、中国メーカーが入ってきたのです。Qualcommなどの名だたるメーカーを席巻する勢いで、中国の半導体メーカーが台頭、躍進する。こうした状況が、2013年以降、続いています。

HiSilicon社は外販をしていません。Huawei社のためのHuawei社によるHuawei社のためのチップなのです。これほど高性能のチップを、中国の他のスマホメーカーに供給し始めたら、Qualcomm社もMediaTek社もあっという間に市場を失ってしまう可能性があります。

2015年、Qualcomm社が「Snapdragon 805」を出したときに、HiSilicon社は「Kirin 925」を出してきました。ほぼ同じ性能を、同じプロセス、同じ通信速度で実現している点で、本当の意味で「中国が世界のトップに躍り出た」といえるものでした。2015年以降、中国の半導体メーカーを抜きに、世界の半導体動向を判断することはできなくなりました。(引用は以上)

◆中国に追い越されないために日本は真相を直視する勇気を!
 
ここで注目していただきたいのは、清水氏が

 「HiSilicon社は外販をしていません。Huawei社のためのHuawei社によるHuawei社のためのチップなのです。これほど高性能のチップを、中国の他のスマホメーカーに供給し始めたら、Qualcomm社もMediaTek社もあっという間に市場を失ってしまう可能性があります。」

と仰っている点だ。

何も筆者だけが言っているのではない。筆者が書くと、「中国の回し者が」という類の心ないバッシングを受けるが、日本の最高権威の半導体専門家が書いておられることなら、日本人も信用してくれるだろう。

いま日本が直視しなければならないのは、中国の真相であって、耳目に心地よい中国への罵倒だけではないはずだ。

日本国民の利益を本気で守る気があったら、中国の現実と習近平の野望を見抜かなければならない。そうしてこそ日本を守ることができる。そうしなければ、日本はもっと中国に追い越される。

それでいいのか?

筆者が1992年の天皇訪中という日本の政権の選択がいかに間違っていたかを言い続けるのも、その真相を見てほしいからだ。その証拠に、日本は2010年からGDPにおいて中国に負け、今では中国の3分の1にまで下落したという体たらくだ。

日本はこのままでいいと思うのか?

同じ過ちを二度と繰り返したくないとは思わないのか?

このまま真相から目を背ければ、日本は中国に惨敗する。

筆者には日本を守りたいという切なる思いしかない。だからこそ、安倍首相が習近平に「一帯一路」への「協力を強化する」と誓ったことに賛同できないのである。天皇訪中の二の舞を招くことは明らかだからだ。

日本国民の利益を守るために、どうか真意を理解していただき、真相を直視していただきたいと切望する。