※ブログ主注意:「第二派」が指す意味は論者によって違います。

・「第2波は来ない。」科学的事実と社会データを論理的に組み合わせたらこの結論しかなかったと言う話

森田 洋之

2020/06/26

https://www.mnhrl.com/second-wave-covid19-2020-6-26/

※こんにちは医師&医療経済ジャーナリストの森田です。

今回は大仰なタイトルをつけてしまいました…
「第2波は来ない。」
…本当なのでしょうか?

だって、テレビでもネット情報でも「来たるべき第2波」が当然の事実のように語られていますよね、にわかには信じられないのも当然だと思います。

つい最近も「東京の抗体保有率0.1%」というショッキングなニュースが出まして…


・東京の陽性率0.1% 厚労省が8000人抗体検査 新型コロナ(毎日新聞 2020年6月16日)

※厚生労働省は16日、東京、大阪、宮城の3都府県で住民約8000人を対象に新型コロナウイルスの抗体検査を実施した結果、東京は0・10%、大阪は0・17%、宮城は0・03%が陽性だったと発表した。厚労省は「依然として大半の人が抗体を保有していない結果だ」としている。
 
検査は6月1~7日、感染者の多い東京で約2000人、大阪で約3000人、感染者が少ない宮城で約3000人を無作為抽出して調べた。米食品医薬品局(FDA)が緊急使用を許可した異なる2種類の方法を用い、いずれも陽性となった場合に陽性者として数えた。東京2人▽大阪5人▽宮城1人――だった。
 
抗体はウイルスに感染した時などに体の免疫細胞が作り出すたんぱく質で、血液中に含まれるかどうかで感染歴が分かる。ただ、抗体が体内で持続する期間やウイルスに対する免疫機能の程度は不明な点が多い。加藤勝信厚労相は記者会見で「抗体の持続期間や免疫防御機能との関係に関する他の研究の状況も踏まえ抗体検査の活用方策や、さらなる抗体保有率調査について検討したい」と述べた。


これを受けて、

日本で最も感染が広がった東京でさえ抗体保有率0.1%
  ↓
東京含め日本全体でまだまだコロナ感染が広まっていない状態。
  ↓
つまり感染が広まるのはこれから。それが第2波となる…

と言う論調で語られることが多かったと思います。

でも、今回は意外とそうでもないかも!と言うお話をしたいと思います。

■通常、感染症は地理的に近い所から広がってゆく

当たり前かもしれませんが、感染症というものは通常発生源から徐々に遠くへ広がってゆきます。

人から人へ感染してゆくという性質上、地理的に近いところから遠いところへ広がってゆくのは想像に難くないと思います。

火事の火の手が広がるのと似ていますね。

こんなイメージです。



中国で上がった火の手は、隣国の韓国、そして日本へと燃え広がり、地理的に遠い欧米などへの被害は限定的というイメージです。

火事で例えていますが、基本的には感染症もこのように広がってゆきます。

思い出してみると、半年ほど前はヨーロッパ諸国でも、中国発祥の新型コロナ→アジア人がまるで病原菌のように見られ差別されることが大きな問題になっていました。

当時、ヨーロッパ諸国においては、新型コロナ=アジア人という意識が強かったのですね。彼らにとってはまさに対岸の火事、上のイラストのような、「地理的拡大」が前提で自分たちはまだまだ安全地帯のイメージだったわけです。

■現代は空間を超えて拡大する可能性も大きい。

とはいえ、現在はグローバル社会です。

100年前まではほぼ上記の「地理的拡大」の感覚だけで良かったかもしれませんが、飛躍的な科学技術の進歩による自動車・飛行機などの発達は、地理的・空間的制限を飛び越えて感染が拡大することを可能にしました。

火事に例えるなら、延焼作用の大きな火の粉がどんどん空中を飛んでくるイメージでしょうか。



■各国は入国制限/ロックダウンで火の粉の流入を防いだ。

こうならないように世界各国が旅行者の国内流入を大きく制限しました。更に国内での移動まで制限した国もあります。これがロックダウンですね。



ただ、この入国制限やロックダウン、各国でその程度も時期もバラバラでした。

ちなみに日本の「緊急事態宣言」は、各国のロックダウンに比してかなり制限の弱いものでしたが…

ま、制限の強さの比較にもまして大事なのは、結果としてどれくらいの国内流入が制限され、実際にはどれくらいの火の粉(移動者)が中国から各国へ移動したのか、と言うところです。

では、実際はどうなのでしょうか。

■日本はアメリカの3倍の旅行者を受け入れていた

代表的な国としてアメリカと日本のデータを調べてみました。以下のグラフです。



この通り、新型コロナウイルスの発祥国である中国の方々の海外旅行先としては、日本はコロナ感染拡大下の1〜4月でアメリカの3倍の100万人を受け入れていたことになります。

絵にしてみるとこんな感じでしょうか。



そもそもコロナ以前から中国の方々の海外旅行先として日本は人気No.1なのです。なので、これも当然と言えますね。

(ちなみにに他の欧米諸国への中国人観光客の流入はアメリカよりももっと少ないと思われます。例年、欧米の中ではアメリカが人気ナンバーワンなので)

もちろん、新型コロナウイルスは発祥元の中国からのみ伝播するわけではありません。
しかし世界に感染が拡大する前の1月〜2月の中国からの旅行者数は、ウイルス拡大の指標として最も参考になるもののうちの一つであることに間違いはないでしょう。

…では、地理的にも中国に近い日本では、この「3倍の旅行者数」の通り感染が広まったのでしょうか?

■それなのに火元から遠い欧米で100倍の感染者・死亡者。

実際は真逆の結果です。

現在なんと、当のアジアより欧米各国の感染者数・死者数は2桁多い状況なのです。



現在、日本における新型コロナ肺炎の死亡数は死因ランキングで言うともうずっと下位の方。事故死より自殺より、インフルエンザ死よりもずっと下なのですが、



これが欧米のように100倍となると、一気にこうなります。



全然違いますね。
100倍という事実はこうして厳然として存在しています。
テレビなどを見ていると、ここを認識せずに欧米と同じような死亡率のメージで議論されていることが多いように思いますので、しっかりとこの事実を認識しましょう。まずこの事実を正しく認識しないことには、議論が始まりませんので。

ではなぜ、

・地理的にも近く
・旅行者も多かった

日本は欧米に比して1/100の被害で済んだのでしょうか?

考えられる要因は大きく3つに分けられると思います。

それは

①ウイルス側の要因
②取った対策の要因
③そもそもの体質の要因

です。

原因①ウイルス側の要因

ウイルス側の要因として考えられるのは、

「欧米に入ったウイルスは東アジアで流行したものから変異した強毒のウイルスである」

というものです。

こんな感じのイメージでしょうか。



確かに、ニュースでは

「欧米株のコロナウイルス」とか
「武漢株のコロナウイルス」とか

そんな単語もよく聞きますので、このイメージで捉えておられる方も多いのではないでしょうか。

確かに、欧米で変異した強毒のコロナウイルスが新しく日本に入って来たら…まさにこれから第2波が来てもおかしくないですね。



ただ、医学的にはこれはどうも、そうではなさそうです。
こんな研究結果が出ています。

Spike mutation pipeline reveals the emergence of a more transmissible form of SARS-CoV-2
www.biorxiv.org

この研究、簡単に言うとこんなところ。

『新型コロナウイルスの変異型には14のタイプがあるが、主な「武漢株」と「欧米株」を比較すると下のグラフのよう。「欧米株」が流行するとかなり感染力が強くその国で支配的になる。』

というところです。



確かにそのとおりなのですが、でもよく見るとすでにどの国でも「武漢株」も「欧米株」も流行しているんですよね。そして多くの国で感染は下火になっています。

日本を見てみてもそう。



「武漢株」も「欧米株」すでにどちらも流行しているんですね。

ということは、先程の

「欧米で変異した強毒のコロナウイルスが新しく日本に入って来たら大変…それが第2波に…」

と言うストーリーは前提から覆されることになります。

だって、すでに強毒型の欧米株も日本で流行しているのですから。

ということで、ウイルス側の要因は可能性が低そうです。
では、次の「取った対策の要因」を考えてみましょう。

原因②取った対策の要因

新型コロナへの対策や習慣として奏功したであろうと考えられるものは、以下のものがあります。

・高いマスク着用率
・優秀なクラスター対策
・国民全体での行動自粛、大規模イベントの休止、全国での休校などの対策
・ハグや握手の習慣がない
・大声での会話などが少ない
・医療従事者が頑張ってくれたおかげで、オーバーシュート・医療崩壊せずに持ちこたえられた

しかしこれらの事象は全て、

「日本には当てはまるけど、中国・韓国・台湾など死亡率が圧倒的に低い東アジアすべての国々に当てはまるのものではない」

もしくは

「欧米でも同様の対策・習慣はある」

百歩譲って

「効果はあったかもしれないが、死亡率100倍の差を説明するには無理がある」

ものばかりです。

一つ一つ簡単に解説します。

○高いマスク着用率

これ、日本では一般的にふわっと信じられている部分が多いかと思いますが…こんなデータがあります。



確かに日本を含めピンク色で表現されているアジア諸国のマスク着用率は高い方なのですが、意外にも日本はアジア各国の中では低い方です。

また、オーストラリアとシンガポールがアジア地区では極端に低いマスク着用率になっていますが、それでもこの2国は日本より死亡率が低く、もちろん欧米の死亡率と比べれば約1/100程度となっています。

しかも、なんとあの感染爆発したイタリアの方が日本より高いマスク着用率を維持しています。

もし「マスクの効果が100倍の死亡率の主要因」と考えるのであれば、イタリアのマスク着用率が日本を上回るようになった3月末の段階でイタリアの死亡率が急落していてもおかしくはないのですが…

実際はこんな感じでどんどん上がっています。



こうしてみると、「マスク着用率」は東アジアと欧米の100倍の死亡率の差を説明する根拠としてかなり物足りないと言わざるを得ないでしょう。

マスクや手洗いなどの「ふわっ」としたイメージのものを実際にしらべてみると、意外とイメージと違う結果なのですね。

その他もざっと見てゆきます。

○優秀なクラスター対策

そもそもこの対策は日本がとった特筆すべき対策で、東アジア全体に当てはまるわけではありません。

○国民全体での行動自粛、大規模イベントの休止、全国での休校などの対策

これも日本だけでなく世界各国で取られた対策です。
行動制限には各国様々なレベルがありましたが、実は日本の「自粛要請」は国際的に非常に弱い措置と考えられています。

参考:【図表で見る】 封鎖される世界 新型ウイルス対策に各地で行動制限
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-52217073

イギリス・イタリアでは外出制限を破って道を歩いてたら警官に捕まって罰金5万円払わされてたらしいですし((((;゚Д゚))))。

…と考えると、これも100倍の理由とは言えなさそうです。

○ハグや握手の習慣がない

ハグは分かりませんが、最も接触感染に影響する「握手」に関しては、中国でも韓国でもしっかりと礼儀として根付いています。

ですので、これも日本独自のものではあっても東アジアに共通するものではなさそうです。

参考:握手いつした?中韓と違って日本に広まらない理由
https://www.sankei.com/west/news/191016/wst1910160002-n1.html

○大声での会話などが少ない

これも日本の文化としてはそうかもしれませんが、韓国や中国には当てはまらないようです。韓国や中国では声を大にして議論したり、人前で大声で泣いたりすることは珍しいことではありません。

○医療従事者が頑張ってくれたおかげで、オーバーシュート・医療崩壊せずに持ちこたえられた

これも精神論的なふわっとした議論でよく出てくるお話です。

ただ、これよく考えたらおかしな話で、そもそも欧米の1/100の感染者・死者数で済んでいるからオーバーシュート・医療崩壊していないのです。

6月24日現在の日本の対コロナ病床使用率はたったの2.2%で、医療崩壊には程遠い数字です。ただ、これが仮に100倍になったら200%を超えてしまいますので、一発アウト。一気に医療崩壊です。



もちろん、現場で頑張っておられる医療従事者の方々のご苦労には感謝すべきだと思います。ですが、それと医療崩壊の因果関係とは別問題、原因と結果を逆に解釈するべきではありません。

ということで、

①ウイルス側の要因
②取った対策の要因

この2つは可能性としてかなり薄いと言っていいと思います。

となると、残りは一つです。

…では、第3の理由「③そもそもの体質の要因」を考えましょう。

③そもそもの体質の要因

この要因、主に以下の3つが考えられます。

○アジア各国はBCG(特に日本株・ロシア株)接種率が高く、また結核の既感染者も多い→自然免疫の賦活化

○既存のコロナウイルスがアジアで流行していたことによる交差免疫での排除

○何らかのアジア人特有の遺伝的要因

これら3つのどれも、日本人及びアジア人の遺伝的体質や免疫力の話になってきます。
ですので、火事で例えるなら、そもそもアジア各国はコンクリートなどの燃えにくい難燃性の建材だった、と言う感じで捉えることが出来ます。
そう考えると、これまでの話も全て辻褄が合います。

・東京の抗体保有率0.1%
→そもそも自然免疫で撃退しているのなら、抗体すら作らずにその前にウイルスを撃退している
・火の粉(中国からの旅行者)を3倍受け入れてるのに被害は1/100
→燃えにくいコンクリートなのだから当然

そもそも「燃えにくい(感染しにくい)」ことが低被害の要因なのですから、くすぶっていた火が再燃し広がることも、他所の大火の火の粉が回ってくることも考えにくい、ということになります。

イラストにするとこんな感じ。



ということで、上記3つ

・アジア各国はBCG(特に日本株・ロシア株)接種率が高く、また結核の既感染者も多い→自然免疫の賦活化
・既存のコロナウイルスがアジアで流行していたことによる交差免疫での排除
・何らかのアジア人特有の遺伝的要因

の解説に入りたいところですが、あまりにも長くなってきましたので、次回に譲りたいと思います。