・ピッツバークからフリントへ。悩ましい公共水道を民間企業に任せてしまった悲惨な結末(HARBOR BUSINESS online 2019年3月6日)
岸本聡子
※2018年末成立した改正水道法がコンセッション方式を導入し、今後自治体は政府が懸命に推進するコンセッションをやるか、やらないか検討しなければならない時代となった。
2015年を前後して、米国ピッツバークで水道水の鉛汚染が起きたときに水道を運営監督していたのは水道ビジネスで世界トップを誇る企業だった。自身を「グルーバルな水問題と環境ソリューションを提供者」と自認する同社であるが、まったく違う顔が見えてくる。米国各地だけでなく世界各地で、環境汚染、健康被害、賄賂、料金をめぐって訴訟を含めた論争が絶えないのだ。
筆者がピッツバークで起きたことを知った時、これは日本に伝えなくはいけないと思った。水道運営で問題が起きたとき、企業はどのような行動をとるのか。鉛汚染のような健康に直接甚大な影響がある水質問題、水道管の破裂や下水施設からの汚水の流出、災害や地震となれば問題は緊急かつ複合的となる。ピッツバークとフリントは問題が起きたときの行政と企業の責任のすみ分けの困難さ、企業に責任を負わせる困難さを人命を含む非常に高い代償をもって学んだ。企業の管理のもと人員をぎりぎりに再編成された水道事業体は緊急時にどこまでできるだろうか。
コンセッション誘致を優先する自治体は災害時の責任を自治体に残すと予測される。企業に責任を持たせても責任追及は困難、責任が重すぎれば企業は参入しない、自治体が責任を持てば自らの指揮下にない体制を指揮しなくてはならない。なんというジレンマ。水道と民営がなじまない核心的な理由の一つがここにある。数十年に渡る長期契約で水道システムに問題が何も起こらないことはまずない。人命や健康被害に関わる問題なのだからこそ教訓を真剣に見なくてはならない。
米独立メディア「インターセプト」から、翻訳許可を得て、Sharon LernerとLeana HoseaによるFrom Pittsburgh to Flint, the Dire Consequences of Giving Private Companies Responsibilities for Ailing Public Services (2018年5月20日出版)の記事全文を翻訳し、ここに紹介したい。
ピッツバークからフリントへ。悩ましい公共水道を民間企業に任せてしまった悲惨な結末
不幸なピッツバークとフリントの水道水の鉛汚染は相似している。住民は長期にわたる健康被害をもたらす恐れのある汚染された水道水を知らずに飲んでいたのだ。水道水の腐食を管理するための化学薬品の誤りが鉛汚染を引き起こしたことも共通している。そして両市で行政は住民への警告を怠ったとして批判されている。
また両市の水道水鉛汚染はもうひとつの重要な共通点がある。ヴェオリアという名の会社だ。世界トップの民間水道サービス供給社であるヴェオリアは、鉛濃度が上昇したときに両市で水道サービスの契約を持っていた。そして両市でヴェオリアはこの鉛汚染をめぐる法的な争訟を巻き起こした。
2015年、ヴェオリアは水質を向上させる小さな契約をミシガン州デトロイト北西の小都市フリントで持っていた。2016年、ミシガン州司法長官ビル・シュッテはヴェオリアを告訴した。ヴェオリアとの契約前、初期の鉛含有量の上昇の原因は市が水源をヒューロン湖からフリント川に変更したことに起因しているとわかっているが、係争中の件はヴェオリアが「鉛汚染の問題を継続させ、悪化させた職業的な怠慢と不正で公共利益を侵害した」と訴えている。
一方、ペンシルバニア州南西部の30万人都市ピッツバークでは2012年から15年までヴェオリアが水道供サービスを供給する契約を持っていた。ピッツバーク公共上下水道事業機関(PWSA)は2016年10月に「ヴェオリアは自身の特別な立場と信頼を悪用してPWSAの水道事業の管理を誤りPWSAを欺いた」として訴訟を起こした。1250万ドル(約14億円)の損害賠償を求めた。これはPWSAがヴェオリアに支払った金額と同額で、市は基本的にこのお金を取り戻そうとしたのだ。
しかし2018年の1月ヴェオリアは、自身が水道事業を監督していたときに起きた水道水の鉛汚染の責任の多くを逃れたことが明らかになった。1年以上の及ぶ非公開の調停の結果、ヴェオリアとPWSAは「行なわれた申し立ても要求もお互いに行使しないし認めない」と共同声明を発表した。
共同声明は鉛含有量の増加の原因は「鉛のサービスライン(訳注:水道管と建物をつなぐ管)とそれをつなぐ建物内のポンプの老朽化、サンプルの取り方の問題などに渡り、PWSAかヴェオリアどちらかが取った行動が原因であると言い難い」ということだった。ヴェオリアは報復的にPWSAを名誉棄損で訴えていたが、合意はこれを取り下げることも含まれていた。
ヴェオリアの広報担当クリスティン・ブラークは「この件が解決して喜ばしい。」と『インターセプト』(訳注:この記事を発表したWEB媒体)にメールで伝えた。「ヴェオリアはこの重要なプロジェクトを沈滞させたことも水質安全管理のためのコストを削減したことも全くない。」ブラークはミシガンでの法廷では「フリントでの私たちの仕事は大変限られていた。鉛問題はその中に含まれない」と主張した。
フランスのヴェオリアエンバイロンメントの子会社であるヴェオリアUSは、水道にまつわる問題の解決を提案して両市に参入した。が、両市でヴェオリアと緊密に働いていた人たちやシステムの監視をしていた人たちは、ヴェオリアが鉛汚染問題を取り上げず状況を悪化させたと言っている。
「またもやです。ヴェオリアは水道システムで問題が起きると自己の責任を縮小させるのです」
2016年よりピッツバークとフリントでの鉛汚染を防げなかった企業の責任を指摘してきた米NGO、Corporate Accountabilityのアリッサ・ウィンマンは言う。ウィンマンによると公共水道の管理維持の問題を抱える多くの市町村は、企業が約束する改善の約束に取り込まれやすい。「ヴェオリアは連邦政府からの補助金なしで水道システムの維持管理しなくてはならない市町村を食い物にしているのです」
今、トランプ政権は連邦政府の水道への補助金を減らす一方で、水道システムにより民間企業が参入しやすくしようとしている。大統領が2018年2月に発表した予算とともに提出された53ページのインフラ計画は、老朽化した水道管、水路、他の重要な水道インフラ整備に対応するために民間セクター参入を促進し 1000億ドルの投資を呼び込むことを盛り込んだ。このインフラ計画を総合的に実施する法制が2018年内にできる見込みは薄いものの、共和党の議員たちは同年5月18日にこの計画の実行のために必要な最初のいくつかの法案を提出した。2019年9月までの行政の優先目標は、予算ブリーフによると環境保護局(EPA)の水道インフラプログラムの160億ドルを資本として利用し、連邦政府支出を減らすことだ。
どういうことかというと、EPAには1000億ドルの水道関連予算があるが連邦政府からの収入に頼らない案件に優先的にEPAの資金を配分するというものだ。公衆衛生や保健の向上、水質の向上、水道料金を支払い可能な価格に下げることなどが、かつてのクライテリアであったが、それらはもうリストには載っていない。
EPA行政官スコット・プルイットは「鉛汚染」と闘うと宣告し子どもが鉛にさらされる健康被害に取り組む国家レベルの会合を主催したが、鉛問題を専門とするEPAのスタッフを参加させなかった。最新の予算案は26%のEPA予算を削減しており、鉛汚染を防ぎ、水質を守ってきたEPAの今までの努力の継続が危うくなっている。
削減の対象となったプログラムは安全で持続可能な水資源、地表水と飲料水保全、上水事業を監督する州政府への助成、水質調査研究費などである。予算はEPAの鉛リスク削減プログラム予算と塗料中の鉛から子どもを守る州政府への補助金も削除した。EPAはインフラ行政計画と提案されたEPAの予算カットに対して正式なコメントを避けた。
トランプは民間セクターへの資金の注入は「アメリカ人に世界トップレベルのインフラ整備と環境を可能にする」と予測している。しかしベテランの水道専門家はフリントとピッツバークでの最近の出来事は、悩ましい公共水道システムを営利目的の企業に任せたらどうなるかを実証していると指摘する。
コスト削減の代償
コスト削減は水道運営の資金不足にあえぐ自治体に向けたヴェオリアのトップセールスポイントだ。ピッツバーク市も例外はない。2012年にヴェオリアと契約することを決めた同市は7億2000万ドルの債務を抱えていた。
契約はヴェオリアの「ピアパフォーマンスソリューション(peer performance solution)」モデルで、支払いの一部については会社が削減できたコストの金額に基づいて計算される。とはいえ固定の支払額はあり、ピッツバークのPWSAは初年に180万ドルを支払った。契約はヴェオリアによるコスト削減の約束を含み、それは年間100万ドルから400万ドルと試算された。契約によるとヴェオリアは削減できた金額の50%(初年)、それ以降は40%を、PWSAから報酬として受け取るとされていた。
事実、2年以内にヴェオリアはPWSAに250万ドルの新しい収入源を見つけ、年間300万ドルの運営コストの削減に成功した。加えて、債務のリファイナンスの速度を速めることで200万ドルの節約を実現したと官民連携(PPP)国家評議会は2014年に発表した。
しかしこれらの削減を実現するためにPWSAは数々の組織的な変更を余儀なくされた。水道水の鉛汚染がおきる数年前の話である。
PWSAの安全管理マネージャであったトンヤ・パイネはヴェオリアの運営になって以降PWSAは重要なポジションにある従業員を解雇するか他の部署に移動させたと説明する。「ヴェオリアが来て即座に財務部長と施術部門部長が解雇された」とパイネは言う。
「自分たちも危ないと思った」
Wiredの記事によると2015年末までに水質の安全管理のマネージャーたちと水質検査試験所のスタッフの半分を含む23人のPWSAのスタッフが解雇された。
水質責任者であったスタンレー・スタテスは36年間水道局で務めたが2013年に退職した。「私はまあ追いやられたようなものだ」スタテスは言う。
「彼らは私を他の部署に押しやった。それで私は退職したよ」
「ヴェオリアはすべてを完全に掌握していた。これが私たちのやり方だって言ったよ。ヴェオリアは来て早々執行部を追い出し自分たちが取って代わった」
微生物学者としてPWSAで30年務めたジャイ・クチャは2014年1月に仕事場を去った。
「ヴェオリアにとって私の意見は取るに足らないものだった。私の考えでは水の処理はその水源によってスタッフの経験が極めて重要となる。しかしヴェオリアはすべての場所で同じように使えるやり方を採用した。私たちはこのやり方で水を処理するし、他の都市でも同じように行うと。もし彼らが私たちの意見をもう少し聞き、水は場所、場所によって違うものだという意見を受け入れていれば、私はもう少し我慢できた」
PWSAはヴェオリアの契約下で腐食コントロールの化学薬品を低価格のものに変えた。2014年4月、PWSAは鉛や他の重金属を水道水から取り除くための薬品をソーダ灰から安価な腐食剤ソーダに変えた。この変更は法で定められているにも関わらずペンシルベニア州環境保全局の許可を取っていなかっただけでなく、PWSAの理事会にも報告されていなかった。
1月まで引き伸ばされた調停の焦点はPWSAとヴェオリアのどちらがこの化学薬品の変更の責任を持っていたかであった。地元テレビが入手したeメールの情報によるとPWSAのスタッフが最初に変更を提案した。インターセプトに送られたヴェオリア広報担当ブラークからのeメールは、この点を強調した。「鉛濃度の上昇は、私たちの知らないうちにPWSAのスタッフが腐食を防ぐ薬品の変更を行った後に起き、私たちは数か月の間そのことを知らされなかった」「PWSAはその理事会を通して資材とインフラに関わるすべての投資の決定の責任を有していた」と書面で返答した。
鉛濃度は薬品変更の前から少しづつ上昇していた。水道管と建物をつなぐ部分の管が鉛製でそれらの変更が必要だったのだ。しかし濃度が劇的に上昇したのはヴァオリアがシステムの運転管理をしてる期間だ。2010年、水質テストのサンプルの鉛濃度は10ppbであった。本来、数値は0であるべきだが、国が定める安全基準の限度は15ppbである。2013年までに濃度は14.8 ppbとなった。そして2016年6月のテストでは22ppbに上昇し国の安全基準を大きく超えてしまった。
鉛汚染による健康被害はIQの低下や学習困難を含む発達障害と言われており、何人の子どもたちが影響を受けたのかはわからない。検査を受けたピッツバークの子どもで血液中の鉛濃度が上昇した人数は2013年から2015年に増加した。
アレゲニー郡監査人のチェルシー・ワグナーは、ピッツバークの鉛汚染は様々な要因が絡んでいるが、腐食コントールの薬品の変更が「問題を起こしたか加速させた」と言う。
ピッツバーク市長のウイリアム・ペドゥトーは、本来ならばスタッフとサービスの維持に使われるはずのピッツバークのお金がヴェオリアの懐に入ったと、ヴェオリアとの契約の問題を指摘する。「2012年に結ばれた契約は、さらなるコスト削減をすればヴァオリアへの支払いは増えるので、企業にコスト削減の動機付けを与えた」とペドゥトーは2017年3月の公聴会で言った。
「どこでコスト削減するか、スタッフを解雇するのと必要な投資を行わないことだ」
フリントは2015年の時点で国のどこよりも水道料金が高くなったが、同様にピッツバークでも水質が悪化したにもかかわらず、水道料金は急騰した。ヴェオリアとの契約から1年後の2013年、以後4年の20%の料金値上げを市議会は承認した。2015年、請求書の間違えを訴える5万件の苦情にPWSAは忙殺された。その多くはヴェオリアの運営下で付け替えられた新しい水道メーターに起因していた。一部の利用者は数千ドルも間違った請求をされていた。
フリントでも水道水の鉛汚染
皮肉なことにヴェオリアがピッツバークでのコスト削減を大いに宣伝し、2015年1月にフリントの水道の仕事を獲得しようとしていた。同年2月にヴェオリアはフリントの水質に関する一か月の4万ドルの契約を得た。もっと広範囲の仕事を請け負えば、ピッツバークで行ったような大幅なコスト削減が可能だと提案した。
「ヴェオリアはピッツバークで新たな収入源を見つけ効率化をはかり年間550万ドルの削減を実現した」とフリントの入札に書いた。ピッツバークでのヴェオリアのプレゼンテーションで同社は「支出を制限する財政管理、説明責任の強化、オペレーションの効率化が可能な部分を特定によって、水道事業の収支に直接的な貢献をした」と説明した。
しかしヴェオリアがフリントで仕事を獲得しようとしていたまさにその時、フリントで健康被害の危機は進行中だったのだ。2014年4月に市が水源をヒューロン湖からフリント川に変更し、腐食コントロールを怠った結果、水道水の鉛濃度が急上昇した。デトロイト北西の小さな町の住民は、2014年の夏以来、異臭と変色した水でシャワーをあびた後に発疹したり、水を飲んで嘔吐したなどと訴え助けを求めていた。同年10月ジェネラルモーター社は、鉄部品を腐食してしまうフリントの水の使用を中止した。
ところが、ヴァオリアがフリントでの仕事を始めたとき、その時十分に表面化していた鉛問題に取り組まなかった。その代りに、自身を「世界トップレベルの環境ソリューションを提供者」と宣伝し、フリント市議会公共事業委員会への中間報告でフリントの水は安全だと発表した。高まりつつあったフリントの水質の懸念を黙殺し、鉛問題には触れもしなかった。
フリントの住民は茶色く濁った水を公聴会に持参したにも関わらず、同社はフリントでは水の変色はよくあるとと公共事業委員会を安心させた。「変色が水が安全ではないということではない」と報告した。ヴェオリアはもしそれが問題だとすれば、非常に敏感な一部の人々の問題で「どんな水にも過敏に反応してしまう人は存在する」と報告した。
2015年3月、ヴェオリアはフリント市に水質報告書を提出し「求められた水道水の基準を満たしている」と結論した。それでも同社は水の変色を防ぐために塩化鉄(III)の量を増やすことを提案した。ミシガン州司法長官ビル・シュッテが起こした訴訟によると、塩化鉄(III)は腐食問題を付け加えただけだった。「被告の指示で塩化鉄(III)を増やした結果、水道水は大幅に危険なまでに酸性になった」と訴え、「直接的な結実としてフリントの水危機は継続し悪化した」と主張した。
「なんたる混乱」とミシガン州司法長官特別アシスタントでこの裁判の代理人でもあるノア・ホールは嘆く。
「『技術者が何かを間違えた』という話ではない」「ヴェオリアは崩壊しかけた建物に入って『私たちにとっては大丈夫』と言ったようなものだ」
事実、鉛危機は数えきれない数の鉛中毒、12を超えるレジオネラ疾患による死亡、生殖能力の低下と極めて深刻な被害を町全体にもたらした。
ヴェオリアの広報担当ブラークが『インターセプト』に送ったeメールは「フリント市の指示のもと、ヴァオリアの分析は水の消毒に伴う副生成物のレベル、変色、味と異臭問題に焦点を当てた」と鉛問題が同社のフリントの仕事の中に含まれなかったことを強調した。
ブラークはフリント水諮問委員会からの公式な報告書はフリントの現在の危機にヴァオリアの責任はないとしたとも付け加えた。しかし諮問委員会のメンバーであるエリック・ロスステインは報告書の結果について電話でインタビューに答えて、諮問委員会はヴェオリアの責任について直接検討していないとし「私たちの報告書はヴェオリアを非難してもいないし、責任を免除してもいない。ヴェオリアと私たちの議論は非常に限定的で周辺的なことだけだった」「私たちはヴェオリアを全く精査していない」と語った。
世界各地で論争を起こすヴェオリア
フランスの複合企業CGEから身を落としたヴァオリアは1853年からパリの水道供給を行い19世紀には下水道サービスも担った。ヴェオリアは世界50か国以上で操業し、収益の多くを水道とそのほかの公的ユーティリティーサービスから得ている。安全な十分な飲料水の確保が世界中で難しくなる中、企業は収益を増やしている。
アメリカでは12%の人々が支払い可能なレベルの飲料水の確保が困難であり、今後気候変動問題と老朽化するインフラのせいでこの数字は5年後に3倍になると試算されている。
ヴェオリアは自身をこのような水のグローバルな危機の解決者として宣伝し成長しているが、民間水道に取って代わったことで水道システムが安定化したという証拠は乏しい。そして民間水道事業がコストを下げるという事実も同様に乏しい。公共事業体は水道から利益をあげることはできないが、企業はできる。そして企業は水道料金を上げる傾向が強い。時には大幅に。
アメリカにおいて民間水道は公共水道よりも平均で59%高い料金であると米NGO「Food and Water Watch」は2016年の報告書で発表した。カリフォルニアのリアント市では2012年よりヴェオリアと投資ファンド会社とチームを組み水道のリース契約を担っているが、水道価格は68%上昇した。ニューヨークでは、民間水道事業体のサービスは公共水道の2倍である。
世界の水の危機の解決者と自認するヴェオリアエンバイロンメントは300億ドル以上の収益を上げ、過去5年間で株価は二倍以上になっている。ヴェオリアがバハマに設立したオフショア法人※はパラダイス文書のデータベースに掲載されている。少なくともその収益の一部はここに送られているだろう。(※訳注:租税環境が優遇されている租税回避地・タックスヘイブンに設立された法人でその収益源がすべて国外で作られる法人形態。海外収益は非課税でそのお金を使って再投資し、投資で発生した利益分についても非課税)
近年、10を超えるアメリカの自治体が上下水道のサービスの契約をヴェオリアと結んでいる。ニューヨーク市、イリノイ州のウッドレッジ、オハイオ州のダイトン、ヒューストンなどである。これらは小さなコンサルタント契約から企業が水道に関するほぼすべての意思決定と運営をするものまで幅がある。
いくつかは決してうまくいっていない。ケンタッキー州のホワイツバーグではヴェオリアが未払いの水道請求書をめぐって市を訴えている。カリフォルニア州のバーリンゲームでは環境団体が汚水の流出でヴェオリアを訴えている。テキサス州のアンゲレトン市は下水処理施設に十分でないスタッフしか配置していなかったとしてヴェオリアを訴えている。インディアナポリスでは市民がヴェオリアが過剰な料金請求をしたとして訴えている。ヴェオリアが下水サービスの契約を持つマサチューセッツのプリマスでは州司法長官マウラ・ハーレイが2016年に下水処理施設の運営を怠り本管から1000万ガロンの汚水を流出させたとして訴えている。
ヴェオリアの広報官担当ブラークはハーレイの申し立てについて、ヴェオリアが責任を持っていなかった「本管が破裂を起こした」ことを法廷で立証するつもりであり「私たちは事故の前にこのデザインの欠陥について市に何度も懸念を表明していた」とeメールで反論した。ヴェオリアに関わる他の係争中のケースについて広報担当はコメントをしなかったが「私たちはすべてのクライアントに傑出したサービスを提供しており、輝かしい業績を誇っている」と付け加えた。
この企業の業績は、カナダ、フランス、ガボンでも論争を引き起こし精査を受けている。
2015年、ルーマニアの反汚職局はヴェオリアの現地法人「Apa Nova Bucuresti」の調査を開始した。経営陣が水道料金を大幅に値上げするために複数年に渡って数百万ユーロの賄賂工作を行っていた疑いがもたれている。ヴェオリアの子会社は料金値上げの承認を得るために偽りの契約書を使って1200万ユーロの賄賂を行政官とその周辺に融通した疑いがもたれている。調査はフランスとアメリカの証券取引委員会にまで及んでいる。
水問題に詳しく国連のアドバイザーも務めたカナダのモード・バーロウはこのような争議は水道民営化に付きまとうと言う。
「営利を目的にしない水道事業と同じ事業費で株主に十分な配当金をださなくてはいけないわけですから、当然の帰結として企業はスタッフの数を減らし、手抜きの仕事をします」
トランプの計画が現実になれば、公共水道システムからますます企業が利益を上げることになる。企業が提供する水道サービスで何か問題が起これば、自治体や市民は契約を終了させる以外に大した手段を持っていないとバーロウは言う。
「いかなる問題が起きたときも企業にその責任を負わせるのはとても困難です。政府も悪い決定を度々しますが、少なくとも私たちは政府ならば、投票行動でその責任を問うことができます」
明らかに何人かのピッツバークの役人はヴェオリアとの論争の終わり方に心を痛めている。
「この調停で、ヴェオリアは進行中の鉛汚染危機から窮地を抜け出した一方で、PWSAの水道利用者は自分たちを守るためにも問題を解決するためにも逃げ場はないのだから」と、アレゲニー郡監査人のチェルシー・ワグナーは声明文で表明した。
事実、法的な混乱が片付いたとは言えピッツバークの鉛危機は解決していない。最新の水質調査の結果は2018年1月に発表されたが、鉛濃度は21ppbでいまだに国の安全基準である15ppbを大きく上回っている。
2012年から2015年の間にPWSAの監督でヴェオリアは1100万ドル以上を儲けたわけであるが、この会社が進行中の鉛汚染を解決するためにこの利益を使うことはない。1月の調停ではヴェオリアが要求していた490万ドル以上のサービス対価の要求を取り下げることと、水道料金の支払いができない世帯のための基金にヴェオリアが50万ドルを寄付することが含まれていた。しかしこの寄付金はPWSAが2017年末にペンシルベニア州環境局に課された240万ドルの罰金を考えると、それほどありがたいとは言えない。罰金は腐食コントロールの化学薬品を許可なしに変更したことや鉛の濃度が国の基準を超えたなどの違反行為によるが、その両方ともヴァオリアの管理下で起きたものだ。
この苦い闘いに続いて、フリントとピッツバーク両市で起きたもう一つ共通のことがある。両市とも水道水の管理を公的な機関に戻したのである。再度の民営化の可能性がないわけではないが、2017年ブルーリボン委員会(訳注:調査、研究または分析を行うために任命された学識経験者のグループで、ある程度の独立性を有する)はピッツバークの鉛汚染の解決をPWSAからパブリック・トラスト(訳注:公共的な自然独占の分野で法令によって設立された政府から独立した事業体)に移行する勧告をした。フリント市は以後30年間グレートレイク公共水道事業機関の管理下に入ることになった。
ヴェオリアにも大きな変化があった。ピッツバークで論争の末に契約が終結して以降、同社がアメリカでピアパフォーマンス契約を獲得できずにいると、業界紙の『グローバルウォーターインテリジェンス』は報じた。このコスト削減成果をクライアントと分け合うモデルの見直しをしているとも同紙は報じた。その代りにヴェオリアの関心は暴風雨・洪水後のニューオリンズで2017年夏に契約を獲得したことに見られるように、暴風雨関連契約や精製所、化学プラント、製造産業向けの総合的な水道ユーティリティーサービスに移っているようだ。
フリントでのヴァオリアに対する訴訟は継続中であり、最近ではフリントの住民は州が無料で配布していたボトル水のサービスを終了することを知らされた。司法長官特別アシスタントのノア・ホールは、ミシガン州が少なくとも被害の一部をヴェオリアに支払わせることができると希望を持っている。「私たちはヴェオリアの利益をコミュニティーを再建し、社会サービスと保健医療を提供するためのトラストファンドに充てたい。」とホールは言う。しかしピッツバークでの合意を見れば、彼とフリント住民が失望する可能性は高い。
<文:Sharon Lerner、Leana Hosea via The Intercept 翻訳・序文文責/岸本聡子>
きしもとさとこ●2003年よりオランダ、アムステルダムを拠点とする「トランスナショナル研究所」(TNI)に所属。経済的公正プログラム、オルタナティブ公共政策プロジェクトの研究員。編著『再公営化という選択―世界の民営化の失敗から学ぶ』(2018年1月)は全文インターネット公開。共著『安易な民営化のつけはどこにー先進国に広がる再公営化の動き』(イマジン出版)。
・水道民営化という『私物化』。「政商」として暗躍する竹中平蔵<森功氏>(HARBOR BUSINESS online 2019年2月25日)
※入管法改正、水道法改正案。これらの改革を主導し、また同時にこれらの改革の「果実」を得られるのが未来投資会議や規制改革推進会議などの諮問会議であり、その背後にいる竹中平蔵氏である。お仲間企業に利益をもたらす政策を自ら決める竹中氏の問題に、多くの大手メディアは沈黙したままだ。
そんな中、2月22日発売の『月刊日本』3月号では、第四特集として「政商竹中平蔵の大罪」と題した特集を組んでいる。今回は同特集から、水道民営化に焦点を当てた森功氏の論考について転載、紹介したい。
※コンセッション推進の旗を振る竹中平蔵氏
── 自治体が水道事業の運営を民間企業に委託する「コンセッション方式」の導入を可能にする改正水道法が、2018年12月に成立しました。これを主導したのが、人材派遣会社パソナ会長の竹中平蔵氏です。
森功氏(以下、森):竹中氏は、早い時期からコンセッションの旗を振ってきました。2103年4月3日の「産業競争力会議」(現未来投資会議)のテーマ別会合で、竹中氏は「官業の民間開放としてのコンセッションを今までとは違うスケールで進める」と語っていました。以来、水道や空港のコンセッションが加速していったのです。
竹中氏は、2014年5月19日の第5回経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議では、少なくとも、空港6件、下水道6件、有料道路1件、水道6件のコンセッション導入という数値目標を提案しています。
── これまで、竹中氏は労働分野の規制改革や外国人労働者の受け入れ規制の緩和などで、自ら会長を務めるパソナに利益誘導していると批判されてきました。公共サービスの民営化でも、竹中氏は関係企業に利益誘導しているように見えます。
森:2018年4月に、浜松市は全国で初めて下水道のコンセッションを採用しましたが、運営するのは「浜松ウォーターシンフォニー」という会社です。ここには、世界の水を支配するフランス水メジャー、ヴェオリア社とともに、竹中氏が社外取締役を務めるオリックスも出資しています。小泉政権時代に竹中氏とともに規制改革を主導したのが、オリックスの宮内義彦氏です。コンセッションによって参入し、利益を得るのは外資系企業や竹中氏のお仲間企業ばかりです。
コンセッション拡大に当たり、竹中氏の懐刀として動いたキーパースンがいます。2018年11月まで菅義偉官房長官の補佐官を務めていた福田隆之氏です。
福田氏は、まさに竹中氏と二人三脚になって、コンセッションを進めました。福田氏は、竹中氏の提案内容を裏付ける資料の作成を任されていました。産業競争力会議関連の議事録を見ると、竹中氏と福田氏が頻繁にコンビで登場しています。特に2014年2月の「第2回産業競争力会議フォローアップ分科会」(立地競争力等)以降、毎回のように二人はそろって出席しています。
2016年1月28日には、第1回のPPP/PFI推進タスクフォース全体会合が開催されましたが、その議長代理を務めることになったのが、福田氏です。彼は同月1日付で官房長官補佐官に就任し、その存在感を印象づけました。竹中氏の推薦があったと推測されます。竹中氏は、福田氏とともに水道コンセッションを本格化するための制度改革を進めました。
水道コンセッションとフランス水メジャーの影
── 水道法改正案審議入り直前の2018年11月に、福田氏は官房長官補佐官を辞任しています。
森:福田氏とフランス水メジャーの癒着を示唆する怪文書が流れたからだと言われています。
その怪文書には、2017年6月に福田氏が行った欧州水道視察の日程概要が書かれています。そこには、ボルドーやカンヌが訪問地として出てきます。内閣府側は、「問題になるような接待は確認できていない」と述べていますが、「視察と称して観光地に遊びに行ったようなものだ」との声も聞かれます。
内閣府としては、水道法改正案の審議を控えて、火種になりかねないということで、福田氏を避難させたということでしょう。
福田氏はヴェオリア社とべったりの関係とも言われていましたが、現在は同社と並ぶフランス水メジャーのスエズ社との関係が深まっているようです。福田氏の視察先の中心はスエズの施設だったようですし、スエズのアジアアドバイザーを務めているのが、福田氏が師と仰ぐコンサルタントの舟橋信夫氏です。舟橋氏は、野村證券からゴールドマンサックスや豪マッコーリーグループなどを渡り歩いてきた国際金融マンです。
菅義偉官房長官のもとで、竹中氏、福田氏、舟橋氏のラインでさまざまなコンセッション事業を進めてきたということです。新自由主義的な政策を進めたい菅官房長官は、竹中氏を最も頼りにしているようです。
── ヴェオリアの関係者が、内閣府の「民間資金等活用事業推進室」に出向していた事実も明らかになりました。
森:内閣府は、「調査業務に従事しており、政策立案はしていない」として利害関係者には当たらないと説明していますが、下水道事業を受注しているヴェオリアからの出向を受け入れること自体が不適切だと思います。
水道料金の高騰を招く民営化
── 水道民営化は各国で試みられましたが、水道料金の高騰やサービスの低下をもたらすなど、ことごとく失敗し、再公営化されています。民営化された後、再公営化された事例は、2000年から14年の期間だけで、35カ国で180件ありました。ところが、水道法改正に当たって政府が調査した失敗事例はわずか3件でした。
森:民営化推進派は、「役人はコスト意識が低い。民間にやらせないとインセンティブが働かない」などと主張していますが、民営化は魔法の杖ではありません。条件が整わなければ民営化してもうまくいくとは限りません。しかも、水道事業は黒字化が難しいのです。
水道を民営化すれば、競争原理が働いて料金が下がると喧伝されていますが、世界の水メジャーは、ヴェオリアなど3社による寡占状態です。寡占状態では競争は起こりません。水道民営化が進めば、日本でも水道料金の高騰を招く可能性があります。
また、日本の地方自治体は、水道事業における非常に高い技術とノウハウを蓄積してきました。しかし、一度民営化してしまえば、そうしたノウハウが失われてしまいます。
関西国際空港民営化で参入したオリックス
── 小泉政権以来、公共サービスの民営化が推進されるようになりました。
森:小泉政権以前にも、公共サービスの提供において官民連携を重視するPPP(Public Private Partnership)の考え方が取り入れられ、その一つとして民間の資金やノウハウを活用して公共施設の建設や維持管理、運営をするPFI(Private Finance Initiative)が重視されるようになってはいました。1999年にはPFI法が施行されています。
ただ、このPFIを活用して公共サービスの民営化が本格化するのは、小泉政権以降です。竹中氏は、小泉政権で経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、内閣府特命担当大臣などを務め、規制改革と民営化を推進しました。一方、福田氏は2002年3月に早稲田大学教育学部を卒業し、野村総合研究所に入社、公共事業の政策を研究するようになりました。福田氏の卒論は公共事業の民営化がテーマでした。福田氏は野村総研入社後まもなく、竹中氏と出会ったのだと思います。
福田氏は、大学時代にNPO法人「政策過程研究機構」を設立、代表に就任していました。また、大学時代から自民党青年局の学生部に出入りし、早大の先輩議員の選挙を手伝っています。もともと政治や行政への関心が旺盛だったのでしょう。
実は、福田氏は2009年に誕生した民主党政権でもコンセッションを推進していました。国土交通大臣に就任した前原誠司氏は、「コンクリートから人へ」というスローガンを掲げ、公共事業の削減を進めようとしていました。
竹中氏と関係の深いパソナグループの南部靖之代表から支援を受けていた前原氏は、新自由主義的な考え方を持っていました。竹中氏の働きかけで、国土交通省の中に成長戦略会議が設置され、2009年12月に開かれた第5回会議から福田氏も参加するようになったのです。以来、福田氏は成長戦略会議だけでなく、内閣府のPFI推進委員会にも参加するようになります。つまり、福田氏は10年近く前から、公共サービスの民営化を主導してきたということです。
福田氏は、2012年からは新日本有限責任監査法人のインフラPPP支援室長としてコンセッション関連アドバイザリー業務を統括する立場になりました。
前原氏が打ち出した空港民営化の方針に沿って、その後2015年末には、オリックスとフランスのヴァンシ・エアポートが40%ずつ出資して「関西エアポート」が設立され、翌年新関空国際空港の運営権がそこに移管されました。新日本有限責任監査法人は、この関空コンセッションのアドバイザー企業となっています。
── 空港運営の責任の所在が曖昧になった結果、様々な弊害も生まれています。
森:例えば2018年9月には、関西地方を襲った台風21号の影響で、約7800人の旅客らが関空内で孤立する事態に陥りましたが、関空エアポート内の主導権争いで、混乱に拍車がかかったと言われています。
政策決定を主導する諮問会議
── 水道法だけではなく、入管法改正、漁業法改正など、諮問会議の方針に沿った制度改革が加速しています。
森:かつては、例えば労働法制の改革であれば、労働側を含めた多様な立場の専門家が政府の委員会や私的諮問会議に出席し、その意見を聞いて議論が進められていました。ところが現在、国の形を変える大きな制度改革について、政権が都合のいい専門家の議員を選び、その諮問会議が方針を決め、それが閣議決定され、法案化されるという流れです。
── 任期満了となる経済財政諮問会議民間議員2人に代わり、竹中氏に近い、慶応大大学院の竹森俊平教授と東大大学院の柳川範之教授が新たに起用されることになりました。
森:第二次安倍政権で、竹中氏は経済財政諮問会議民間議員には就けなかったものの、産業競争力会議(現未来投資会議)の民間議員となって、規制改革を主導しました。経済財政諮問会議にも自分に近い人物を送り込むことで、さらに規制改革を加速させる狙いなのでしょう。
諮問会議で方針が決まってしまえば、野党に力がないために、国会では十分な議論を経ることなく法案が通過してしまいます。こうした状況を変えなければなりません。政府が出す法案の問題点を十分に指摘しないマスメディアの責任も重いと思います。
(聞き手・構成 坪内隆彦)
もりいさお●1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。出版社勤務を経て、2003年フリーランスのノンフィクション作家に転身
岸本聡子
※2018年末成立した改正水道法がコンセッション方式を導入し、今後自治体は政府が懸命に推進するコンセッションをやるか、やらないか検討しなければならない時代となった。
2015年を前後して、米国ピッツバークで水道水の鉛汚染が起きたときに水道を運営監督していたのは水道ビジネスで世界トップを誇る企業だった。自身を「グルーバルな水問題と環境ソリューションを提供者」と自認する同社であるが、まったく違う顔が見えてくる。米国各地だけでなく世界各地で、環境汚染、健康被害、賄賂、料金をめぐって訴訟を含めた論争が絶えないのだ。
筆者がピッツバークで起きたことを知った時、これは日本に伝えなくはいけないと思った。水道運営で問題が起きたとき、企業はどのような行動をとるのか。鉛汚染のような健康に直接甚大な影響がある水質問題、水道管の破裂や下水施設からの汚水の流出、災害や地震となれば問題は緊急かつ複合的となる。ピッツバークとフリントは問題が起きたときの行政と企業の責任のすみ分けの困難さ、企業に責任を負わせる困難さを人命を含む非常に高い代償をもって学んだ。企業の管理のもと人員をぎりぎりに再編成された水道事業体は緊急時にどこまでできるだろうか。
コンセッション誘致を優先する自治体は災害時の責任を自治体に残すと予測される。企業に責任を持たせても責任追及は困難、責任が重すぎれば企業は参入しない、自治体が責任を持てば自らの指揮下にない体制を指揮しなくてはならない。なんというジレンマ。水道と民営がなじまない核心的な理由の一つがここにある。数十年に渡る長期契約で水道システムに問題が何も起こらないことはまずない。人命や健康被害に関わる問題なのだからこそ教訓を真剣に見なくてはならない。
米独立メディア「インターセプト」から、翻訳許可を得て、Sharon LernerとLeana HoseaによるFrom Pittsburgh to Flint, the Dire Consequences of Giving Private Companies Responsibilities for Ailing Public Services (2018年5月20日出版)の記事全文を翻訳し、ここに紹介したい。
ピッツバークからフリントへ。悩ましい公共水道を民間企業に任せてしまった悲惨な結末
不幸なピッツバークとフリントの水道水の鉛汚染は相似している。住民は長期にわたる健康被害をもたらす恐れのある汚染された水道水を知らずに飲んでいたのだ。水道水の腐食を管理するための化学薬品の誤りが鉛汚染を引き起こしたことも共通している。そして両市で行政は住民への警告を怠ったとして批判されている。
また両市の水道水鉛汚染はもうひとつの重要な共通点がある。ヴェオリアという名の会社だ。世界トップの民間水道サービス供給社であるヴェオリアは、鉛濃度が上昇したときに両市で水道サービスの契約を持っていた。そして両市でヴェオリアはこの鉛汚染をめぐる法的な争訟を巻き起こした。
2015年、ヴェオリアは水質を向上させる小さな契約をミシガン州デトロイト北西の小都市フリントで持っていた。2016年、ミシガン州司法長官ビル・シュッテはヴェオリアを告訴した。ヴェオリアとの契約前、初期の鉛含有量の上昇の原因は市が水源をヒューロン湖からフリント川に変更したことに起因しているとわかっているが、係争中の件はヴェオリアが「鉛汚染の問題を継続させ、悪化させた職業的な怠慢と不正で公共利益を侵害した」と訴えている。
一方、ペンシルバニア州南西部の30万人都市ピッツバークでは2012年から15年までヴェオリアが水道供サービスを供給する契約を持っていた。ピッツバーク公共上下水道事業機関(PWSA)は2016年10月に「ヴェオリアは自身の特別な立場と信頼を悪用してPWSAの水道事業の管理を誤りPWSAを欺いた」として訴訟を起こした。1250万ドル(約14億円)の損害賠償を求めた。これはPWSAがヴェオリアに支払った金額と同額で、市は基本的にこのお金を取り戻そうとしたのだ。
しかし2018年の1月ヴェオリアは、自身が水道事業を監督していたときに起きた水道水の鉛汚染の責任の多くを逃れたことが明らかになった。1年以上の及ぶ非公開の調停の結果、ヴェオリアとPWSAは「行なわれた申し立ても要求もお互いに行使しないし認めない」と共同声明を発表した。
共同声明は鉛含有量の増加の原因は「鉛のサービスライン(訳注:水道管と建物をつなぐ管)とそれをつなぐ建物内のポンプの老朽化、サンプルの取り方の問題などに渡り、PWSAかヴェオリアどちらかが取った行動が原因であると言い難い」ということだった。ヴェオリアは報復的にPWSAを名誉棄損で訴えていたが、合意はこれを取り下げることも含まれていた。
ヴェオリアの広報担当クリスティン・ブラークは「この件が解決して喜ばしい。」と『インターセプト』(訳注:この記事を発表したWEB媒体)にメールで伝えた。「ヴェオリアはこの重要なプロジェクトを沈滞させたことも水質安全管理のためのコストを削減したことも全くない。」ブラークはミシガンでの法廷では「フリントでの私たちの仕事は大変限られていた。鉛問題はその中に含まれない」と主張した。
フランスのヴェオリアエンバイロンメントの子会社であるヴェオリアUSは、水道にまつわる問題の解決を提案して両市に参入した。が、両市でヴェオリアと緊密に働いていた人たちやシステムの監視をしていた人たちは、ヴェオリアが鉛汚染問題を取り上げず状況を悪化させたと言っている。
「またもやです。ヴェオリアは水道システムで問題が起きると自己の責任を縮小させるのです」
2016年よりピッツバークとフリントでの鉛汚染を防げなかった企業の責任を指摘してきた米NGO、Corporate Accountabilityのアリッサ・ウィンマンは言う。ウィンマンによると公共水道の管理維持の問題を抱える多くの市町村は、企業が約束する改善の約束に取り込まれやすい。「ヴェオリアは連邦政府からの補助金なしで水道システムの維持管理しなくてはならない市町村を食い物にしているのです」
今、トランプ政権は連邦政府の水道への補助金を減らす一方で、水道システムにより民間企業が参入しやすくしようとしている。大統領が2018年2月に発表した予算とともに提出された53ページのインフラ計画は、老朽化した水道管、水路、他の重要な水道インフラ整備に対応するために民間セクター参入を促進し 1000億ドルの投資を呼び込むことを盛り込んだ。このインフラ計画を総合的に実施する法制が2018年内にできる見込みは薄いものの、共和党の議員たちは同年5月18日にこの計画の実行のために必要な最初のいくつかの法案を提出した。2019年9月までの行政の優先目標は、予算ブリーフによると環境保護局(EPA)の水道インフラプログラムの160億ドルを資本として利用し、連邦政府支出を減らすことだ。
どういうことかというと、EPAには1000億ドルの水道関連予算があるが連邦政府からの収入に頼らない案件に優先的にEPAの資金を配分するというものだ。公衆衛生や保健の向上、水質の向上、水道料金を支払い可能な価格に下げることなどが、かつてのクライテリアであったが、それらはもうリストには載っていない。
EPA行政官スコット・プルイットは「鉛汚染」と闘うと宣告し子どもが鉛にさらされる健康被害に取り組む国家レベルの会合を主催したが、鉛問題を専門とするEPAのスタッフを参加させなかった。最新の予算案は26%のEPA予算を削減しており、鉛汚染を防ぎ、水質を守ってきたEPAの今までの努力の継続が危うくなっている。
削減の対象となったプログラムは安全で持続可能な水資源、地表水と飲料水保全、上水事業を監督する州政府への助成、水質調査研究費などである。予算はEPAの鉛リスク削減プログラム予算と塗料中の鉛から子どもを守る州政府への補助金も削除した。EPAはインフラ行政計画と提案されたEPAの予算カットに対して正式なコメントを避けた。
トランプは民間セクターへの資金の注入は「アメリカ人に世界トップレベルのインフラ整備と環境を可能にする」と予測している。しかしベテランの水道専門家はフリントとピッツバークでの最近の出来事は、悩ましい公共水道システムを営利目的の企業に任せたらどうなるかを実証していると指摘する。
コスト削減の代償
コスト削減は水道運営の資金不足にあえぐ自治体に向けたヴェオリアのトップセールスポイントだ。ピッツバーク市も例外はない。2012年にヴェオリアと契約することを決めた同市は7億2000万ドルの債務を抱えていた。
契約はヴェオリアの「ピアパフォーマンスソリューション(peer performance solution)」モデルで、支払いの一部については会社が削減できたコストの金額に基づいて計算される。とはいえ固定の支払額はあり、ピッツバークのPWSAは初年に180万ドルを支払った。契約はヴェオリアによるコスト削減の約束を含み、それは年間100万ドルから400万ドルと試算された。契約によるとヴェオリアは削減できた金額の50%(初年)、それ以降は40%を、PWSAから報酬として受け取るとされていた。
事実、2年以内にヴェオリアはPWSAに250万ドルの新しい収入源を見つけ、年間300万ドルの運営コストの削減に成功した。加えて、債務のリファイナンスの速度を速めることで200万ドルの節約を実現したと官民連携(PPP)国家評議会は2014年に発表した。
しかしこれらの削減を実現するためにPWSAは数々の組織的な変更を余儀なくされた。水道水の鉛汚染がおきる数年前の話である。
PWSAの安全管理マネージャであったトンヤ・パイネはヴェオリアの運営になって以降PWSAは重要なポジションにある従業員を解雇するか他の部署に移動させたと説明する。「ヴェオリアが来て即座に財務部長と施術部門部長が解雇された」とパイネは言う。
「自分たちも危ないと思った」
Wiredの記事によると2015年末までに水質の安全管理のマネージャーたちと水質検査試験所のスタッフの半分を含む23人のPWSAのスタッフが解雇された。
水質責任者であったスタンレー・スタテスは36年間水道局で務めたが2013年に退職した。「私はまあ追いやられたようなものだ」スタテスは言う。
「彼らは私を他の部署に押しやった。それで私は退職したよ」
「ヴェオリアはすべてを完全に掌握していた。これが私たちのやり方だって言ったよ。ヴェオリアは来て早々執行部を追い出し自分たちが取って代わった」
微生物学者としてPWSAで30年務めたジャイ・クチャは2014年1月に仕事場を去った。
「ヴェオリアにとって私の意見は取るに足らないものだった。私の考えでは水の処理はその水源によってスタッフの経験が極めて重要となる。しかしヴェオリアはすべての場所で同じように使えるやり方を採用した。私たちはこのやり方で水を処理するし、他の都市でも同じように行うと。もし彼らが私たちの意見をもう少し聞き、水は場所、場所によって違うものだという意見を受け入れていれば、私はもう少し我慢できた」
PWSAはヴェオリアの契約下で腐食コントロールの化学薬品を低価格のものに変えた。2014年4月、PWSAは鉛や他の重金属を水道水から取り除くための薬品をソーダ灰から安価な腐食剤ソーダに変えた。この変更は法で定められているにも関わらずペンシルベニア州環境保全局の許可を取っていなかっただけでなく、PWSAの理事会にも報告されていなかった。
1月まで引き伸ばされた調停の焦点はPWSAとヴェオリアのどちらがこの化学薬品の変更の責任を持っていたかであった。地元テレビが入手したeメールの情報によるとPWSAのスタッフが最初に変更を提案した。インターセプトに送られたヴェオリア広報担当ブラークからのeメールは、この点を強調した。「鉛濃度の上昇は、私たちの知らないうちにPWSAのスタッフが腐食を防ぐ薬品の変更を行った後に起き、私たちは数か月の間そのことを知らされなかった」「PWSAはその理事会を通して資材とインフラに関わるすべての投資の決定の責任を有していた」と書面で返答した。
鉛濃度は薬品変更の前から少しづつ上昇していた。水道管と建物をつなぐ部分の管が鉛製でそれらの変更が必要だったのだ。しかし濃度が劇的に上昇したのはヴァオリアがシステムの運転管理をしてる期間だ。2010年、水質テストのサンプルの鉛濃度は10ppbであった。本来、数値は0であるべきだが、国が定める安全基準の限度は15ppbである。2013年までに濃度は14.8 ppbとなった。そして2016年6月のテストでは22ppbに上昇し国の安全基準を大きく超えてしまった。
鉛汚染による健康被害はIQの低下や学習困難を含む発達障害と言われており、何人の子どもたちが影響を受けたのかはわからない。検査を受けたピッツバークの子どもで血液中の鉛濃度が上昇した人数は2013年から2015年に増加した。
アレゲニー郡監査人のチェルシー・ワグナーは、ピッツバークの鉛汚染は様々な要因が絡んでいるが、腐食コントールの薬品の変更が「問題を起こしたか加速させた」と言う。
ピッツバーク市長のウイリアム・ペドゥトーは、本来ならばスタッフとサービスの維持に使われるはずのピッツバークのお金がヴェオリアの懐に入ったと、ヴェオリアとの契約の問題を指摘する。「2012年に結ばれた契約は、さらなるコスト削減をすればヴァオリアへの支払いは増えるので、企業にコスト削減の動機付けを与えた」とペドゥトーは2017年3月の公聴会で言った。
「どこでコスト削減するか、スタッフを解雇するのと必要な投資を行わないことだ」
フリントは2015年の時点で国のどこよりも水道料金が高くなったが、同様にピッツバークでも水質が悪化したにもかかわらず、水道料金は急騰した。ヴェオリアとの契約から1年後の2013年、以後4年の20%の料金値上げを市議会は承認した。2015年、請求書の間違えを訴える5万件の苦情にPWSAは忙殺された。その多くはヴェオリアの運営下で付け替えられた新しい水道メーターに起因していた。一部の利用者は数千ドルも間違った請求をされていた。
フリントでも水道水の鉛汚染
皮肉なことにヴェオリアがピッツバークでのコスト削減を大いに宣伝し、2015年1月にフリントの水道の仕事を獲得しようとしていた。同年2月にヴェオリアはフリントの水質に関する一か月の4万ドルの契約を得た。もっと広範囲の仕事を請け負えば、ピッツバークで行ったような大幅なコスト削減が可能だと提案した。
「ヴェオリアはピッツバークで新たな収入源を見つけ効率化をはかり年間550万ドルの削減を実現した」とフリントの入札に書いた。ピッツバークでのヴェオリアのプレゼンテーションで同社は「支出を制限する財政管理、説明責任の強化、オペレーションの効率化が可能な部分を特定によって、水道事業の収支に直接的な貢献をした」と説明した。
しかしヴェオリアがフリントで仕事を獲得しようとしていたまさにその時、フリントで健康被害の危機は進行中だったのだ。2014年4月に市が水源をヒューロン湖からフリント川に変更し、腐食コントロールを怠った結果、水道水の鉛濃度が急上昇した。デトロイト北西の小さな町の住民は、2014年の夏以来、異臭と変色した水でシャワーをあびた後に発疹したり、水を飲んで嘔吐したなどと訴え助けを求めていた。同年10月ジェネラルモーター社は、鉄部品を腐食してしまうフリントの水の使用を中止した。
ところが、ヴァオリアがフリントでの仕事を始めたとき、その時十分に表面化していた鉛問題に取り組まなかった。その代りに、自身を「世界トップレベルの環境ソリューションを提供者」と宣伝し、フリント市議会公共事業委員会への中間報告でフリントの水は安全だと発表した。高まりつつあったフリントの水質の懸念を黙殺し、鉛問題には触れもしなかった。
フリントの住民は茶色く濁った水を公聴会に持参したにも関わらず、同社はフリントでは水の変色はよくあるとと公共事業委員会を安心させた。「変色が水が安全ではないということではない」と報告した。ヴェオリアはもしそれが問題だとすれば、非常に敏感な一部の人々の問題で「どんな水にも過敏に反応してしまう人は存在する」と報告した。
2015年3月、ヴェオリアはフリント市に水質報告書を提出し「求められた水道水の基準を満たしている」と結論した。それでも同社は水の変色を防ぐために塩化鉄(III)の量を増やすことを提案した。ミシガン州司法長官ビル・シュッテが起こした訴訟によると、塩化鉄(III)は腐食問題を付け加えただけだった。「被告の指示で塩化鉄(III)を増やした結果、水道水は大幅に危険なまでに酸性になった」と訴え、「直接的な結実としてフリントの水危機は継続し悪化した」と主張した。
「なんたる混乱」とミシガン州司法長官特別アシスタントでこの裁判の代理人でもあるノア・ホールは嘆く。
「『技術者が何かを間違えた』という話ではない」「ヴェオリアは崩壊しかけた建物に入って『私たちにとっては大丈夫』と言ったようなものだ」
事実、鉛危機は数えきれない数の鉛中毒、12を超えるレジオネラ疾患による死亡、生殖能力の低下と極めて深刻な被害を町全体にもたらした。
ヴェオリアの広報担当ブラークが『インターセプト』に送ったeメールは「フリント市の指示のもと、ヴァオリアの分析は水の消毒に伴う副生成物のレベル、変色、味と異臭問題に焦点を当てた」と鉛問題が同社のフリントの仕事の中に含まれなかったことを強調した。
ブラークはフリント水諮問委員会からの公式な報告書はフリントの現在の危機にヴァオリアの責任はないとしたとも付け加えた。しかし諮問委員会のメンバーであるエリック・ロスステインは報告書の結果について電話でインタビューに答えて、諮問委員会はヴェオリアの責任について直接検討していないとし「私たちの報告書はヴェオリアを非難してもいないし、責任を免除してもいない。ヴェオリアと私たちの議論は非常に限定的で周辺的なことだけだった」「私たちはヴェオリアを全く精査していない」と語った。
世界各地で論争を起こすヴェオリア
フランスの複合企業CGEから身を落としたヴァオリアは1853年からパリの水道供給を行い19世紀には下水道サービスも担った。ヴェオリアは世界50か国以上で操業し、収益の多くを水道とそのほかの公的ユーティリティーサービスから得ている。安全な十分な飲料水の確保が世界中で難しくなる中、企業は収益を増やしている。
アメリカでは12%の人々が支払い可能なレベルの飲料水の確保が困難であり、今後気候変動問題と老朽化するインフラのせいでこの数字は5年後に3倍になると試算されている。
ヴェオリアは自身をこのような水のグローバルな危機の解決者として宣伝し成長しているが、民間水道に取って代わったことで水道システムが安定化したという証拠は乏しい。そして民間水道事業がコストを下げるという事実も同様に乏しい。公共事業体は水道から利益をあげることはできないが、企業はできる。そして企業は水道料金を上げる傾向が強い。時には大幅に。
アメリカにおいて民間水道は公共水道よりも平均で59%高い料金であると米NGO「Food and Water Watch」は2016年の報告書で発表した。カリフォルニアのリアント市では2012年よりヴェオリアと投資ファンド会社とチームを組み水道のリース契約を担っているが、水道価格は68%上昇した。ニューヨークでは、民間水道事業体のサービスは公共水道の2倍である。
世界の水の危機の解決者と自認するヴェオリアエンバイロンメントは300億ドル以上の収益を上げ、過去5年間で株価は二倍以上になっている。ヴェオリアがバハマに設立したオフショア法人※はパラダイス文書のデータベースに掲載されている。少なくともその収益の一部はここに送られているだろう。(※訳注:租税環境が優遇されている租税回避地・タックスヘイブンに設立された法人でその収益源がすべて国外で作られる法人形態。海外収益は非課税でそのお金を使って再投資し、投資で発生した利益分についても非課税)
近年、10を超えるアメリカの自治体が上下水道のサービスの契約をヴェオリアと結んでいる。ニューヨーク市、イリノイ州のウッドレッジ、オハイオ州のダイトン、ヒューストンなどである。これらは小さなコンサルタント契約から企業が水道に関するほぼすべての意思決定と運営をするものまで幅がある。
いくつかは決してうまくいっていない。ケンタッキー州のホワイツバーグではヴェオリアが未払いの水道請求書をめぐって市を訴えている。カリフォルニア州のバーリンゲームでは環境団体が汚水の流出でヴェオリアを訴えている。テキサス州のアンゲレトン市は下水処理施設に十分でないスタッフしか配置していなかったとしてヴェオリアを訴えている。インディアナポリスでは市民がヴェオリアが過剰な料金請求をしたとして訴えている。ヴェオリアが下水サービスの契約を持つマサチューセッツのプリマスでは州司法長官マウラ・ハーレイが2016年に下水処理施設の運営を怠り本管から1000万ガロンの汚水を流出させたとして訴えている。
ヴェオリアの広報官担当ブラークはハーレイの申し立てについて、ヴェオリアが責任を持っていなかった「本管が破裂を起こした」ことを法廷で立証するつもりであり「私たちは事故の前にこのデザインの欠陥について市に何度も懸念を表明していた」とeメールで反論した。ヴェオリアに関わる他の係争中のケースについて広報担当はコメントをしなかったが「私たちはすべてのクライアントに傑出したサービスを提供しており、輝かしい業績を誇っている」と付け加えた。
この企業の業績は、カナダ、フランス、ガボンでも論争を引き起こし精査を受けている。
2015年、ルーマニアの反汚職局はヴェオリアの現地法人「Apa Nova Bucuresti」の調査を開始した。経営陣が水道料金を大幅に値上げするために複数年に渡って数百万ユーロの賄賂工作を行っていた疑いがもたれている。ヴェオリアの子会社は料金値上げの承認を得るために偽りの契約書を使って1200万ユーロの賄賂を行政官とその周辺に融通した疑いがもたれている。調査はフランスとアメリカの証券取引委員会にまで及んでいる。
水問題に詳しく国連のアドバイザーも務めたカナダのモード・バーロウはこのような争議は水道民営化に付きまとうと言う。
「営利を目的にしない水道事業と同じ事業費で株主に十分な配当金をださなくてはいけないわけですから、当然の帰結として企業はスタッフの数を減らし、手抜きの仕事をします」
トランプの計画が現実になれば、公共水道システムからますます企業が利益を上げることになる。企業が提供する水道サービスで何か問題が起これば、自治体や市民は契約を終了させる以外に大した手段を持っていないとバーロウは言う。
「いかなる問題が起きたときも企業にその責任を負わせるのはとても困難です。政府も悪い決定を度々しますが、少なくとも私たちは政府ならば、投票行動でその責任を問うことができます」
明らかに何人かのピッツバークの役人はヴェオリアとの論争の終わり方に心を痛めている。
「この調停で、ヴェオリアは進行中の鉛汚染危機から窮地を抜け出した一方で、PWSAの水道利用者は自分たちを守るためにも問題を解決するためにも逃げ場はないのだから」と、アレゲニー郡監査人のチェルシー・ワグナーは声明文で表明した。
事実、法的な混乱が片付いたとは言えピッツバークの鉛危機は解決していない。最新の水質調査の結果は2018年1月に発表されたが、鉛濃度は21ppbでいまだに国の安全基準である15ppbを大きく上回っている。
2012年から2015年の間にPWSAの監督でヴェオリアは1100万ドル以上を儲けたわけであるが、この会社が進行中の鉛汚染を解決するためにこの利益を使うことはない。1月の調停ではヴェオリアが要求していた490万ドル以上のサービス対価の要求を取り下げることと、水道料金の支払いができない世帯のための基金にヴェオリアが50万ドルを寄付することが含まれていた。しかしこの寄付金はPWSAが2017年末にペンシルベニア州環境局に課された240万ドルの罰金を考えると、それほどありがたいとは言えない。罰金は腐食コントロールの化学薬品を許可なしに変更したことや鉛の濃度が国の基準を超えたなどの違反行為によるが、その両方ともヴァオリアの管理下で起きたものだ。
この苦い闘いに続いて、フリントとピッツバーク両市で起きたもう一つ共通のことがある。両市とも水道水の管理を公的な機関に戻したのである。再度の民営化の可能性がないわけではないが、2017年ブルーリボン委員会(訳注:調査、研究または分析を行うために任命された学識経験者のグループで、ある程度の独立性を有する)はピッツバークの鉛汚染の解決をPWSAからパブリック・トラスト(訳注:公共的な自然独占の分野で法令によって設立された政府から独立した事業体)に移行する勧告をした。フリント市は以後30年間グレートレイク公共水道事業機関の管理下に入ることになった。
ヴェオリアにも大きな変化があった。ピッツバークで論争の末に契約が終結して以降、同社がアメリカでピアパフォーマンス契約を獲得できずにいると、業界紙の『グローバルウォーターインテリジェンス』は報じた。このコスト削減成果をクライアントと分け合うモデルの見直しをしているとも同紙は報じた。その代りにヴェオリアの関心は暴風雨・洪水後のニューオリンズで2017年夏に契約を獲得したことに見られるように、暴風雨関連契約や精製所、化学プラント、製造産業向けの総合的な水道ユーティリティーサービスに移っているようだ。
フリントでのヴァオリアに対する訴訟は継続中であり、最近ではフリントの住民は州が無料で配布していたボトル水のサービスを終了することを知らされた。司法長官特別アシスタントのノア・ホールは、ミシガン州が少なくとも被害の一部をヴェオリアに支払わせることができると希望を持っている。「私たちはヴェオリアの利益をコミュニティーを再建し、社会サービスと保健医療を提供するためのトラストファンドに充てたい。」とホールは言う。しかしピッツバークでの合意を見れば、彼とフリント住民が失望する可能性は高い。
<文:Sharon Lerner、Leana Hosea via The Intercept 翻訳・序文文責/岸本聡子>
きしもとさとこ●2003年よりオランダ、アムステルダムを拠点とする「トランスナショナル研究所」(TNI)に所属。経済的公正プログラム、オルタナティブ公共政策プロジェクトの研究員。編著『再公営化という選択―世界の民営化の失敗から学ぶ』(2018年1月)は全文インターネット公開。共著『安易な民営化のつけはどこにー先進国に広がる再公営化の動き』(イマジン出版)。
・水道民営化という『私物化』。「政商」として暗躍する竹中平蔵<森功氏>(HARBOR BUSINESS online 2019年2月25日)
※入管法改正、水道法改正案。これらの改革を主導し、また同時にこれらの改革の「果実」を得られるのが未来投資会議や規制改革推進会議などの諮問会議であり、その背後にいる竹中平蔵氏である。お仲間企業に利益をもたらす政策を自ら決める竹中氏の問題に、多くの大手メディアは沈黙したままだ。
そんな中、2月22日発売の『月刊日本』3月号では、第四特集として「政商竹中平蔵の大罪」と題した特集を組んでいる。今回は同特集から、水道民営化に焦点を当てた森功氏の論考について転載、紹介したい。
※コンセッション推進の旗を振る竹中平蔵氏
── 自治体が水道事業の運営を民間企業に委託する「コンセッション方式」の導入を可能にする改正水道法が、2018年12月に成立しました。これを主導したのが、人材派遣会社パソナ会長の竹中平蔵氏です。
森功氏(以下、森):竹中氏は、早い時期からコンセッションの旗を振ってきました。2103年4月3日の「産業競争力会議」(現未来投資会議)のテーマ別会合で、竹中氏は「官業の民間開放としてのコンセッションを今までとは違うスケールで進める」と語っていました。以来、水道や空港のコンセッションが加速していったのです。
竹中氏は、2014年5月19日の第5回経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議では、少なくとも、空港6件、下水道6件、有料道路1件、水道6件のコンセッション導入という数値目標を提案しています。
── これまで、竹中氏は労働分野の規制改革や外国人労働者の受け入れ規制の緩和などで、自ら会長を務めるパソナに利益誘導していると批判されてきました。公共サービスの民営化でも、竹中氏は関係企業に利益誘導しているように見えます。
森:2018年4月に、浜松市は全国で初めて下水道のコンセッションを採用しましたが、運営するのは「浜松ウォーターシンフォニー」という会社です。ここには、世界の水を支配するフランス水メジャー、ヴェオリア社とともに、竹中氏が社外取締役を務めるオリックスも出資しています。小泉政権時代に竹中氏とともに規制改革を主導したのが、オリックスの宮内義彦氏です。コンセッションによって参入し、利益を得るのは外資系企業や竹中氏のお仲間企業ばかりです。
コンセッション拡大に当たり、竹中氏の懐刀として動いたキーパースンがいます。2018年11月まで菅義偉官房長官の補佐官を務めていた福田隆之氏です。
福田氏は、まさに竹中氏と二人三脚になって、コンセッションを進めました。福田氏は、竹中氏の提案内容を裏付ける資料の作成を任されていました。産業競争力会議関連の議事録を見ると、竹中氏と福田氏が頻繁にコンビで登場しています。特に2014年2月の「第2回産業競争力会議フォローアップ分科会」(立地競争力等)以降、毎回のように二人はそろって出席しています。
2016年1月28日には、第1回のPPP/PFI推進タスクフォース全体会合が開催されましたが、その議長代理を務めることになったのが、福田氏です。彼は同月1日付で官房長官補佐官に就任し、その存在感を印象づけました。竹中氏の推薦があったと推測されます。竹中氏は、福田氏とともに水道コンセッションを本格化するための制度改革を進めました。
水道コンセッションとフランス水メジャーの影
── 水道法改正案審議入り直前の2018年11月に、福田氏は官房長官補佐官を辞任しています。
森:福田氏とフランス水メジャーの癒着を示唆する怪文書が流れたからだと言われています。
その怪文書には、2017年6月に福田氏が行った欧州水道視察の日程概要が書かれています。そこには、ボルドーやカンヌが訪問地として出てきます。内閣府側は、「問題になるような接待は確認できていない」と述べていますが、「視察と称して観光地に遊びに行ったようなものだ」との声も聞かれます。
内閣府としては、水道法改正案の審議を控えて、火種になりかねないということで、福田氏を避難させたということでしょう。
福田氏はヴェオリア社とべったりの関係とも言われていましたが、現在は同社と並ぶフランス水メジャーのスエズ社との関係が深まっているようです。福田氏の視察先の中心はスエズの施設だったようですし、スエズのアジアアドバイザーを務めているのが、福田氏が師と仰ぐコンサルタントの舟橋信夫氏です。舟橋氏は、野村證券からゴールドマンサックスや豪マッコーリーグループなどを渡り歩いてきた国際金融マンです。
菅義偉官房長官のもとで、竹中氏、福田氏、舟橋氏のラインでさまざまなコンセッション事業を進めてきたということです。新自由主義的な政策を進めたい菅官房長官は、竹中氏を最も頼りにしているようです。
── ヴェオリアの関係者が、内閣府の「民間資金等活用事業推進室」に出向していた事実も明らかになりました。
森:内閣府は、「調査業務に従事しており、政策立案はしていない」として利害関係者には当たらないと説明していますが、下水道事業を受注しているヴェオリアからの出向を受け入れること自体が不適切だと思います。
水道料金の高騰を招く民営化
── 水道民営化は各国で試みられましたが、水道料金の高騰やサービスの低下をもたらすなど、ことごとく失敗し、再公営化されています。民営化された後、再公営化された事例は、2000年から14年の期間だけで、35カ国で180件ありました。ところが、水道法改正に当たって政府が調査した失敗事例はわずか3件でした。
森:民営化推進派は、「役人はコスト意識が低い。民間にやらせないとインセンティブが働かない」などと主張していますが、民営化は魔法の杖ではありません。条件が整わなければ民営化してもうまくいくとは限りません。しかも、水道事業は黒字化が難しいのです。
水道を民営化すれば、競争原理が働いて料金が下がると喧伝されていますが、世界の水メジャーは、ヴェオリアなど3社による寡占状態です。寡占状態では競争は起こりません。水道民営化が進めば、日本でも水道料金の高騰を招く可能性があります。
また、日本の地方自治体は、水道事業における非常に高い技術とノウハウを蓄積してきました。しかし、一度民営化してしまえば、そうしたノウハウが失われてしまいます。
関西国際空港民営化で参入したオリックス
── 小泉政権以来、公共サービスの民営化が推進されるようになりました。
森:小泉政権以前にも、公共サービスの提供において官民連携を重視するPPP(Public Private Partnership)の考え方が取り入れられ、その一つとして民間の資金やノウハウを活用して公共施設の建設や維持管理、運営をするPFI(Private Finance Initiative)が重視されるようになってはいました。1999年にはPFI法が施行されています。
ただ、このPFIを活用して公共サービスの民営化が本格化するのは、小泉政権以降です。竹中氏は、小泉政権で経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、内閣府特命担当大臣などを務め、規制改革と民営化を推進しました。一方、福田氏は2002年3月に早稲田大学教育学部を卒業し、野村総合研究所に入社、公共事業の政策を研究するようになりました。福田氏の卒論は公共事業の民営化がテーマでした。福田氏は野村総研入社後まもなく、竹中氏と出会ったのだと思います。
福田氏は、大学時代にNPO法人「政策過程研究機構」を設立、代表に就任していました。また、大学時代から自民党青年局の学生部に出入りし、早大の先輩議員の選挙を手伝っています。もともと政治や行政への関心が旺盛だったのでしょう。
実は、福田氏は2009年に誕生した民主党政権でもコンセッションを推進していました。国土交通大臣に就任した前原誠司氏は、「コンクリートから人へ」というスローガンを掲げ、公共事業の削減を進めようとしていました。
竹中氏と関係の深いパソナグループの南部靖之代表から支援を受けていた前原氏は、新自由主義的な考え方を持っていました。竹中氏の働きかけで、国土交通省の中に成長戦略会議が設置され、2009年12月に開かれた第5回会議から福田氏も参加するようになったのです。以来、福田氏は成長戦略会議だけでなく、内閣府のPFI推進委員会にも参加するようになります。つまり、福田氏は10年近く前から、公共サービスの民営化を主導してきたということです。
福田氏は、2012年からは新日本有限責任監査法人のインフラPPP支援室長としてコンセッション関連アドバイザリー業務を統括する立場になりました。
前原氏が打ち出した空港民営化の方針に沿って、その後2015年末には、オリックスとフランスのヴァンシ・エアポートが40%ずつ出資して「関西エアポート」が設立され、翌年新関空国際空港の運営権がそこに移管されました。新日本有限責任監査法人は、この関空コンセッションのアドバイザー企業となっています。
── 空港運営の責任の所在が曖昧になった結果、様々な弊害も生まれています。
森:例えば2018年9月には、関西地方を襲った台風21号の影響で、約7800人の旅客らが関空内で孤立する事態に陥りましたが、関空エアポート内の主導権争いで、混乱に拍車がかかったと言われています。
政策決定を主導する諮問会議
── 水道法だけではなく、入管法改正、漁業法改正など、諮問会議の方針に沿った制度改革が加速しています。
森:かつては、例えば労働法制の改革であれば、労働側を含めた多様な立場の専門家が政府の委員会や私的諮問会議に出席し、その意見を聞いて議論が進められていました。ところが現在、国の形を変える大きな制度改革について、政権が都合のいい専門家の議員を選び、その諮問会議が方針を決め、それが閣議決定され、法案化されるという流れです。
── 任期満了となる経済財政諮問会議民間議員2人に代わり、竹中氏に近い、慶応大大学院の竹森俊平教授と東大大学院の柳川範之教授が新たに起用されることになりました。
森:第二次安倍政権で、竹中氏は経済財政諮問会議民間議員には就けなかったものの、産業競争力会議(現未来投資会議)の民間議員となって、規制改革を主導しました。経済財政諮問会議にも自分に近い人物を送り込むことで、さらに規制改革を加速させる狙いなのでしょう。
諮問会議で方針が決まってしまえば、野党に力がないために、国会では十分な議論を経ることなく法案が通過してしまいます。こうした状況を変えなければなりません。政府が出す法案の問題点を十分に指摘しないマスメディアの責任も重いと思います。
(聞き手・構成 坪内隆彦)
もりいさお●1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。出版社勤務を経て、2003年フリーランスのノンフィクション作家に転身